無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~   作:虎上 神依

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Chapter2-9 初心者絡み

「どうもありがとうございました」

 

 礼を言うと俺は後列の冒険者から注目を集めつつも、カウンターから去る。

 何というか、思った以上の収穫だったな。次元龍アイザックもたまにはいい仕事するじゃないか。

「ヌワハハッ! これが我の力だぁ!」とか言って自慢げに馬鹿笑いしているアイザックのドヤ顔が頭に浮かんできたが直ぐに魔力を行使して強制的に記憶消去する。

 

 ふと隣りにいるウルナを見ると何故か表情が強張っていた……、と言うより怒ってないか?

 

「どうかしたか?」

 

「どうかしたか? ――じゃないですよ! 何であんな魔石を平然と取り出すの!?」

 

「売りたかったからに決まってるだろ?」

 

「はぁ……、ともかくあんな巨大な魔石を見たら誰だって目を疑いますから気をつけて下さい。ゼルさんの超異常さは他の冒険者に悪影響を及ぼしかねませんから」

 

「巨大な魔石って……こんな感じの?」

 

 俺は空間魔法の収納から直径80センチ程でかつ球体に限りなく近い綺麗な魔石を取り出した。

 この魔石は今までの中でも手に入れた幾多の魔石の中でもベスト100に入るほど大きく、綺麗な魔石である。

 

「……だからぁ」

 

「だから?」

 

「だから出すなって言ってるでしょッ!!」

 

 案の定、ウルナにキレられたが……。

 

 

 

 

 

「ゼルさんといるとどれが常識でどれが常識じゃないのか感覚が狂ってきます……」

 

 怒り疲れたのか彼女は両手杖を立てながらと長い溜息をついていた。

 彼女曰く俺のする行動一々が他の人から見てみれば超異常の様だ。

 確かにレベル999に関しては異常である自覚はハッキリと持っているが、まさか魔石や素材がここまで流通していないとは思わなかった。

 次元龍の背びれである『時の結晶石』に関しても誰かしら取ってきている物だと思っていたのだが……、確かに相当なレア品でああるがまさか未確認素材だとはな。

 だって遊びの感覚で樹海滅ぼしに来てはボコボコにされる様な世界で一番キチ◯イな奴だから、世界中のどこでもそんな阿呆らしい事やっているものだと思っていたのだがどうやら違った様だ。

 

 即ち、あの樹海が相当おかしかったということだな。

 よって全てあの樹海のせいだ、俺は何一つ悪くないぞ。

 

「その内、慣れるさ」

 

「それは絶対に慣れてはいけない類の物だと思います……」

 

「俺も善処するとしよう」

 

「唯でさえ世界最強レベルで強いんですから……、気をつけて下さいね」

 

 世界最強レベルねぇ、確かに復讐心だけで成り上がってきたがこれで世界最強と言うのもどうもしっくり来ないな。

 いや――ただ単に俺が更なる力を欲しているだけか? 我ながら戦闘狂のような事を考えるようになってしまったのだな。

 

「さて、気をつけるとかどうとかは置いておくとして軽く依頼でも見てみるか?」

 

「そうですね、折角冒険者になれたんですからっ! 依頼を受けてみるのも――」

 

「おい、何でこんな所に無職がいるんだよ」

 

 突如野太い声が俺に浴びせられ、振り返ってみる。

 そこにはヘラヘラとした三十代半ばと思われる男が俺を馬鹿にするような目つきでこちらに近づいてきていた。

 やれやれ……、早速カモが出てきたか。

 

「ど、どうして――あっ」

 

 どうして無職と分かったのか、彼女は気になったのだろう。

 簡単な話だ、先程表示させてやったカーソルをレベル以外消さずに表示させておいたのだ。これなら今俺の目の前に立っているようなクソ野郎がよく釣れると思ってな。

 

 俺は呆れて、軽くため息をつくとその男たちのリーダーらしき人物を注意深く観察してみる。

 俺とは対称的にちょっとばかし筋肉質の体、腰には鉄の剣が鞘に収まった状態で付けられている。

 だが筋肉質の割には魔力が然程感じられない、全体的に評価するとすればレベル60前後。つまり大賢者のウルナたんでも余裕で勝てるような相手だ。

 どうせウルナや無職である俺が新米かつ弱そうだから話しかけてきたのだろう。

 

「ほぉー、君中々可愛いじゃんよ」

 

 なにも言わず静かに見ていると男は隣りにいるウルナにも絡んでくる。

 その言葉を聞いた瞬間彼女の周りの空気の流れが変わった。

 

「……私達に何か?」

 

 ウルナは冷酷な目でその男を睨む。と言っても見た目が可愛いから余り牽制には使えないんだよな……。

 ――って、おいおいマジかよ。この子邪気はなっちゃってんじゃん、凄え、たかが人を威嚇するだけで?

 因みに邪気とは邪魔法の一種で自らの威圧感を非常に高める魔法だ。戦闘向きではないがこの魔法は放つことで基本自分より格下の魔獣などを退ける事のできる優れものである。

 

「いやぁ、綺麗だなーって思ってさ。なあ、こんなクソ無職と一緒にいないで俺と食事でもしない?」

 

「お断りさせて頂きます。それに私の仲間をクソ無職などと侮辱しないでもらえますか?」

 

 未だに邪気を放ちつつウルナはきっぱりと言い返した。

 へえ、一応俺のこと庇ってくれるんだ、その気持ちちょっと嬉しいかも。

 だが……、これは俺が仕掛けたありきたりな罠だ。別にウルナが協力する必要ないんだぜ?

 

「ぷっ、ガハハハハッ!! なに言ってんだお嬢ちゃん、無職なんてクソ以外何者でもねぇだろ? 弱者だぞ弱者、世間の粗大ゴミィッ!!」

 

「ふっ、ふざけないで下さいッ!! ゼルさんは――」

 

「止せウルナ、ここからは俺の問題だ、下がってろ」

 

 俺は冷静さを保ちつつも、ウルナの制し、前に出た。

 男はその様子を見て「ああん?」と苛ついた様な表情を見せる。

 

「なんだぁよ、クソ無職。さっさとどっか行けよぉ! 見てんだけで虫唾が走んだよぉ!」

 

「クソ無職とは心外だな、それにまだ用事を済ませていないのにも関わらず立ち去ることは出来ないね、例え――貴方のような御方が居てもな」

 

「はぁ!? 無職如きがこのザーラ様に口答えしてんじゃねぇよぉ!」

 

 男は野太い声を一層あら上げてこちらの事を睨みつけてきた。目の釣り上がり様からして相当怒っているようだ。

 そんなに無職が嫌いか、救えない奴だな。

 

「なぜ俺が貴方のような赤の他人に敬意を示さなければならないんでしょうかねぇ。全くもって理解不能です」

 

「ハッ、神に見放された正真正銘のクズ野郎が何言ってんだよぉ? なんなら教えたろか、職業持ちの力をなぁ!」

 

 だが、その時だった横から一人の女性が間へと入ってくる。

 

「ちょっとアンタ達、ギルド内で喧嘩とか冒険者の名がすたるよ」

 

「ちぃっ、カゲヨか。テメェには関係ねぇだろ!?」

 

「関係ありありだよ。こんな朝っぱらからナンパして喧嘩とかホント笑える。もう少し先輩らしく振る舞えっての」

 

 そのカゲヨと呼ばれた女性は何処と無く本の中に出てきた『侍』の姿に似ている人だった。だが、話の中に出てくる侍は基本男である、そこの所を踏まえると彼女は女侍と言ったほうがしっくりとくるだろうか。

 茶髪のポニテールに茶色い澄んだ目、ちょっと露出のある防具に身を包み腰には古風な剣、いわゆる刀を付けている。

 スタイルはウルナには若干劣るもののかなり良く何より彼女からは他の人とは格の違うオーラが感じ取れた。

 ほぉ――このオーラ、レベル150以上と来たか中々面白いやつもいるじゃねぇか。

 

「アンタ達も少しは言葉を選びな、冒険者は弱肉強食の世界なんだからね。」

 

「……、はい」

 

 取り敢えず従っておくとしよう。このカゲヨとやらに逆らった所で何の得もないからな。

 

「ちっ、無職風情がわかってるようなこと言いやがって。所詮、無職なんて神に見放された雑魚。神公認のドン底のクソ野郎なんだよぉ!! 生意気な口聞きやがって、お前らクソ無職は奴隷が一番お似合いなんだよぉ!! 」

 

 男はギルド内で大声を上げながらそう喚き散らす。

 ダメだ、冷静になろうとしても出来ないや。自分で仕掛けた罠のくせに我ながら情けないな。

 俺は振り切った怒りのボルテージを開放しながらカゲヨの制止を無視して前に出た。

 我慢を止めた途端にとてつもない怒りと憎悪が込み上げてくる。

 

 

 

 無職だからって何なんだよ。

 無職だからって何がいけない。

 

 

 

 そんなの……、馬鹿らしいにも程がある。

 職業如きで人を差別して何が楽しいというのだ。

 だから――俺のような負の感情に染まり力だけを求める欠陥品が出来てしまうのだ。

 だから――種族間で起こるプライドだけを掛けたような不毛な争いが止まないんだ。

 

 

 だから――俺はこの世界をぶっ潰す。秩序を一から作り直してやるよ。

 

 

「お、お前! それは言い過ぎだ!」

 

「へっ、知るか! あのクソ野郎が無職に生まれたのが悪いんだよ! チッ、お前が間に入ってくるから面白くなくなっちまった。おい、お前らさっさと――」

 

「おい、そこのクズ人間」

 

 俺は自分でも驚くほどの殺気を放ちながら男を呼び止める。

 誰よりも平和を求めているはずなのに……。

 何故こうも人を憎んでしまうのか、何故差別する者を憎んでしまうのか、何故無職と蔑まれただけで激しく殺意を覚えるのか俺には分からない。

 だから――

 

「ああ!? 貴様ァッ!!」

 

「カゲヨさんって言ったか? なぁ、ギルドには舞台があるんだよな。」

 

「あ、ああ。そうだが」

 

「やるんだったらその舞台とかでやろうぜ」

 

「は……?」

 

「なんだ? もしかして怖いとか言わないよな?」

 

 こうなった俺を止められる手段は一つも思いつかなかった。


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