無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~   作:虎上 神依

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Chapter1 最強双剣士、旅に出る
Chapter1-1 超無能と呼ばれし者


 大陸の中でも人知れず隔離された場所に位置する樹海。

 一般の人が3年使っても数えられない程の幾多大木が連ねるその場所には一人の男が住んでいる。

 

「まさかこの近辺にシャークワームが出るとはな、面白え奴も居たもんだ」

 

 藍色のマントで身を包むその男――俺は肩に全長4メートルは下らない蛇型の魔獣を担ぎ、悠々と自宅を目指して歩いていた。

 とは言え4メートルもあるのだから体の一部分は地面を引きずってしまっているが……、別に問題はないだろう。

 

 

 シャークワーム 討伐推奨レベル146

 

 

 サメのような強靭な顎と太く長い身体を持つその蛇はあらゆる生き物に巻き付いて骨を砕いていは丸呑みするというとても恐ろしい蛇だ。

 しかもこの蛇は自分よりも弱い相手だと確信した場合例え、熊だろうと狼だろうとあらゆる手を使ってでも丸呑みする雑食性を持つ。

 そんな凶悪極まりない蛇を俺は平然とした顔で担いでいた。

 

 そもそも世界に3つある大陸の内の一つであるヒートアーストの半分を埋め尽くすこの樹海――通称、魔獣界『魔獣の巣』は超高レベルの魔獣の巣窟である。

 無論、本来であれば人間が近づく様な場所では無い。

 

 だがその恐るべき樹海に俺は住んでいる、俺と師匠の二人でな。しかし――師匠はちょっと旅行してくると言って5年ほど音信不通だが。

 だから今ここに住んでいるのは実質俺だけである。

 

 俺の名はゼルファ・ガイアール、とある貧乏な貴族生まれの三男だ。

 ちょっと緑がかっているとは言えありきたりな黒髪で藍色の双眸、歳は――21歳だ。

 身長は一般人よりもまあまあ高めで、体つきは一般人よりもちょっとばかしヒョロっとしている弱そうな見た目だ。

 

 そもそも一般人の定義というものが正確ではないから何とも言えないが、本で読んだ情報によるとそういうことになるらしい。

 その重要な情報源でもある本と生活の拠点である家も全て元々は師匠のものだ。

 だから実際外の世界がどうなのかは全く分からない。

 

 俺がこの樹海に迷い込み師匠に救われ、師事するようになったのは約15年前、それからと言うもの俺は人間の街に出たことはない。

 出ようとすれば出られるのだが……、樹海で暮らす方が楽しいと思ったからだ。

 

 師匠はともかく不思議な人だった、俺に武術の基礎を全て教えるや否や軽い荷物だけまとめて旅行に出かけるのだから……。

 普通であれば捨てられたと考えるのだが、師匠に限ってそれはないと結論づけられる。

 まあ、ちょっと出かけるわと言って世界一周してくる男なのだから仕方ないと言えば仕方ないだろう。

 

 で――師匠が旅行に出てから5年間、俺はぼっちでこの樹海に住んでいるというわけだ。

 ……正確に言うとぼっちではないのだが。

 

「ご主人様、お帰りなさいマセ」

 

「すまない、ちょいと遅くなったチビミ、美味そうな魔獣が中々いなくてな」

 

 立派な木造である師匠の家の前でチビミが俺の事を出迎えてくれた。

 チビミ――名前と喋り方からすれば唯の人間に思えるがこの子は紛れもなく魔獣である。しかもミスリルスコーピオンという毒蟲として超危険極まりない魔獣だ。

 身体はほぼ全てミスリルで出来ている全長1メートルのサソリ、尻尾の先についている針の先には致死毒が申し分なく蓄えられていて刺されたら毒に耐性がない限り死に至る。

 

「いえいエ……、その肩に担いでいるのが今日ノ?」

 

「おう、そうだ。シャークワームは美味いって本に書いてあったから捕まえてきた」

 

「そうですか、では私が腕によりをかけて調理して差し上げまショウ!!」

 

 サソリとは思えないクリっとした目を輝かせながら両腕の鋏を振り上げるチビミ。

 傍から見たら俺が威嚇されているようにしか思えないだろうがこの仕草は間違いなくチビミが喜んでいる時のポーズだ。

 

「んじゃ俺は二階で待ってるわ」

 

「はい、おまかせ下さイ!」

 

 言って俺はチビミにシャークワームを渡すと二階へと上がっていった。

 

 

 

 

 この世界はステータスという摩訶不思議な概念が存在する。

 何故そんなものが存在するのかは俺も分からない、だが世間の常識じゃ神が世界を創りし時に作られたと言われている。

 

 そして――魔獣、いわゆる魔性を持つ獣、モンスターもこの世界が生まれし時に創り出された神の傀儡ぐくつである。

 その後、魔獣が世界に蔓延した所で魔獣と相成す者として人間と言う生物がこの世界に生まれたと言われている。

 

 だが無力極まりない人間はあっという間に魔獣に殺されて、全滅しかけたのだ。

 そこで神が平衡を保つために生み出したシステム、天恵、長きに渡って成長する力、その根本が――職業だ。

 そしてその職業と同時にステータスに成長の度合いとして追加された項目、それがレベルである。

 

 レベルは成長の度合いとして絶対的である。

 それが高ければ高いほど人は強くなる。だが、その一方でその分過酷な経験を積まなければならない。

 その経験を値化したものが経験値だ、経験値を貯めることによって人は強くなれる。

 

 巷でよく言われているのはレベルを上昇させるための経験値は、魔獣を倒すか、特訓をするかの二択で得られるという事だ。例外として精神的な変化やら成長やら身体的な成長などがあるが考慮にいれるほどではない。

 だから普通に考えて一番手っ取り早く経験値を得る方法は魔獣を倒すことだ。寧ろそれ以外にないだろう。

 

 だが、魔獣から得られる経験値には限界がある。例えばスライム、この魔獣から経験値を得られるのは、実質レベル5までが限界だ。何故ならスライムがレベル5の魔獣だからだ。

 一撃で倒せるからと言ってレベル6の者が幾らスライムを倒そうともそれ以上強くなることはない。

 

『経験値を得るならば、それ相応の過酷な経験を積まなければならない』

 

 その神の言葉でもある経験値の定義を人々は『経験値を得るならば、同レベルまたはそれ以上の魔獣を倒さならければならない』と解釈した、今では一般常識となりつつあるが。

 

 弱い敵を倒し続けていても、レベルは上がらない。強い者の力を借りて自分と同等の敵を倒していても、経験値は手に入らない。

 確かにそうだよな、経験値とは経験を値化した指標でしか無いのだから。

 

 そして職業、魔獣に対抗するため神が人間に与えた力だ。

 5歳以上になった子供は儀式を通じて神に職業を与えられる。

 そしてそれと同時にユニークスキルという職業に応じた個別のスキル、天恵が貰えるのである。

 無論、職業の種類は多種多様で戦士、武闘家、僧侶、弓師、商人、魔術師など色々と存在する。

 

 だが同時にこの職業は力を与えると共に人の差別化も生み出してしまった。

 職業には残念ながら当たり外れが存在する、例えば上位に位置する権力、力を持つもの――王族、貴族、勇者、賢者、闘匠、聖騎士などがある。

 だが一方で下位に位置するものとして――村人、商人、芸人などがあげられる、しかも運が悪いと盗賊、山賊などの職業が与えられ、街にすら入れなくなってしまう。

 

 無論、職業によって人の扱いも変わってくる。

 例えば勇者や賢者なら皆からもてはやされるが、盗賊をもてはやす人などそうそういない、寧ろ捕まえようとするだろう。

 

 大体この世界はおかしい。

 神は職業を俺らに与える、即ちそれは俺達の未来を制限、束縛するものである。

 生まれたその瞬間からその人の未来は決まる……、この腐った職業の名の下に――

 

 

 

 まっ、職業があるだけマシだよね。と俺はつくづく思う。

 職業があるというのは即ち神から力を与えられたという証拠なのだから。

 ユニークスキルに関しても同じである、それも神に与えられし力――運が良い人だと2つとか3つとか貰えて皆からもてはやされては一躍人気者となる。

 

 だが考えて欲しい。

 2つ、3つ貰える人がいるのなら、その逆もいるという事を――

 そう数百万に一人、ユニークスキルを一つも貰うことのできない無能という存在がいるという事を――

 同様に職業においても数百万に一人、職を貰うことの出来なかった無職という存在がいるという事を――

 

 なりたくてなったわけじゃないのにその職業によって人生が変わる。

 一体何の権利があって神は俺達の職業を決めるのか……。神ならなんでもしていいとでも思っているのか……?

 だが神は与える側であるのだ、与える側は与える側で難解な神の事情があるのかもしれない、仕方ないことかもしれない。

 だけど――俺はそれ以前の問題だった。

 

 俺は人一倍恨んでいる、この世界の腐ったシステムを、俺に一つも天恵、力をくれなかった神の存在を――

 そして更に憎いのは無職無能という最悪の状態である俺を蔑んできた――皆だ。

 

 

 二階でベッドに転がりながら俺はゆっくりとステータスウィンドウを起動させ静かに眺めた。

 

 名前:ゼルファ

 職業:無職

 

(省略)

 

 ユニークスキル:なし

 

「いつ見てもふざけてるよな、これ……」

 

 ゼルファ、その男はかつて数百万×数百万に一人という圧倒的な低確率で生まれた、無職無能という類稀な無能さにより『超無能』と呼ばれた最底辺の存在だった。


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