試作品集   作:ひきがやもとまち

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懐かしのドラクエ5をプレイしてたら、なぜか書きたくなってしまったセイバー・オルタなステイナイト。…本当になんで書きたくなったんでしょうなコレ…全然関係ないですのになぁ…。


もしも士郎が喚んだセイバーがオルタ化してたらStay night第1章

 衛宮士郎が運命と出会った夜の衛宮邸、その中庭に響く剣戟。

 月は雲に隠れ、庭はもとの闇に戻っている

 その中で火花を散らす鋼と鋼。

 

 ――戦いが、始まっていた

 

「チィ――!」

「――――」

 

 甲冑姿の少女が土蔵から飛び出してくるのを待ち侘びていた槍の男は、無言のうちに襲いかかり、少女は槍の一撃を払いのけて反撃を繰り出す。

 

 信じたくはなかったが、信じざるをえない。確かにこれは士郎が『何も出来ない役立たず』呼ばわりされても仕方ない次元での戦いだ。正義の味方を目指して鍛練を重ねているだけの凡人が立ち入ることの出来るほど易い戦いでは全くないと素人でしかない士郎でも断言できてしまうほど圧倒的なナニカとナニカのぶつかり合い。

 

「ぐぅっ―――!!」

「―――――」

 

 やがて少女の放った渾身の一撃という呼び水によって誘い込まされた槍の男が一撃をもらい、かろうじて凌ぎ切りはしたものの弾き飛ばされてしまい、互いに間合いが大きく離れてしまったのも事実であった。

 

 それからしばらくの間、静寂の中で硬直時間が流れ両者は静かに睨み合う。

 先に沈黙を破ったのは、またしても少女の側。

 

「どうしたランサー。止まっていては全サーヴァント中、最速の名が泣くぞ。そちらから来ないのなら、私から行ってやってもいいのだが?」

「は、わざわざ死にに来るか。それは構わんが、その前に一つだけ訊かせろ。

 貴様の宝具―――それは剣か? どうにも俺が予測している其れは、もっと別の色をした聖剣のはずで、そんな禍々しい呪われた色はしてなかったはずなんだがな・・・」

 

 ぎろりと、相手の心を射貫く視線を相手に向ける槍の男。

 それに対して少女の方は、むしろ軽い調子で肩をすくめるだけ。

 

「――質問の後半は別として、前半の答えは私から答えを聞く必要はあるまい? 私が剣使いの英霊、セイバーのサーヴァントとして招かれたことをお前は既に知っているはずだ。

 一部の例外はいるようだが、基本的にセイバーの持つ武器は剣と相場が決まっていると聖杯からは知識を供与されているのだが?」

「ふ、おかしなことを言う。俺がなぜ、貴様のクラスを知っていると思ったんだ?」

 

 軽い口調で交わされる、殺気に満ちあふれた一触即発の中でのやり取り。

 そんな中、剣を持った黒い少女の方がやや困った風に相手からの質問に応じる。

 

 

「いや、召喚されて出てきたときに、お前自身の口から『七人目のサーヴァント』と聞かされているだけなのだが・・・・・・」

 

 

 

 

「あ」

 

 

 

 

 ・・・場に、沈黙が落ちた。重い、重い、重すぎる沈黙の帳が・・・・・・。

 士郎には全く理解できない理由による物ではあったが、槍の男は明らかに顔色を悪くして、少女の方は明らかに目つきが白っぽくなっていく。

 

「貴様・・・もしかしなくても、失言が致命的な失敗を招いてしまった系の逸話を持つ英霊だったりしないか? それこそ死に方に直結するぐらいの致命的すぎる失言問題が関係しているレベルで・・・・・・」

「さ、さぁな。それよりもう一つ訊くが、お互い初見だしよ。ここらで分けって気はないか?

 ほら、あそこで惚けているオマエのマスターは使い物にならなそうだし、俺のマスターは姿をさらさねぇ大腑抜けときてるし、ここはお互い万全の状態になるまで勝負を持ち越した方が好ましいとお前も思わねぇか? お互い悪い話じゃねぇだろう? な? な?」

「・・・一応、己の正体を知られた以上はどちらかが消えるまで戦い合うのがサーヴァントのセオリーなのだがな・・・・・・」

「いやいやいや! 追ってくるのなら俺は構わないと思ってるぞセイバー! ただし! その時は決死の覚悟で抱いて来てもらうがな! 

 では、また互いに再戦の日を楽しみに―――さらばだっ!!」

 

 そう言い残して槍使いの男は、トンと軽く跳躍したと思ったら脱兎の如き速さで戦場を離脱していってしまい、重そうな甲冑を身にまとった少女の足では到底追いつけそうにない速度で走って即座にその背中は目で追えない距離まで遠ざかってしまった。

 

 ・・・まぁ、兎と言うより負け犬といった方が適切な表現だったような気もする撤退の流れではあったものの、マスターから『敵を殺せ』とも『殺すな』とも指示を出してもらえていないセイバー・オルタとしては満足すべき結果だったから、これと言って文句はない。

 

 敵の真名にしたところで、あそこまで致命的なレベルの失言をする逸話持ち槍使いの英霊なんて候補は限られすぎてるから、状況証拠だけでも正体に行き着くぐらい難しいことではないだろう。

 

 そう割り切りをつけてセイバー・オルタもまた剣を下ろし、元来た道を戻って土蔵の中から出てきてから硬直し続けている己がマスター、衛宮士郎の許へと向かう。

 

「大丈夫だったかマスター? 見たところ、怪我をしているようだが?」

「あ、ああ。大丈夫だ。なんかよくわからないけど血は止まってるし傷も塞がってるから問題ない・・・って、そうじゃなくて!」

 

 衛宮士郎、激高。まぁ、そうなるだろうね普通に考えて。

 深夜にいきなり時代がかった格好して槍を持った男に襲われ殺されかかり、その窮地を光の魔法陣から飛び出してきた同じく時代がかった格好の女の子に救われたのだから詰問ぐらいするのが当然の反応だ。正体が判らないまま気を許していい相手では絶対にない。

 

 ・・・正しくは、『正体を知っても尚気を許していい相手では絶対にない存在』だと思うのが普通の人の考え方なのだけど、魔術師は色々と超常慣れしてるし、異常者も多いから耐性有るんだろうきっと。士郎だって一応は魔術使いなんだし、そこら辺の異常性はキチンと持ち合わせているんだと、やや矛盾する考えだと自覚しながらも思いたく思う第三者視点で語っている誰かさん。

 

「おまえ一体、何者なんだ? さっきセイバーのサーヴァントがどうとか言ってたような気がするけど・・・」

「読んで字のごとく、セイバーのサーヴァントだ。貴様が私を呼び出したのだから、確認の必要はあるまい。・・・もっとも、本来のセオリー通りならの話になるのが難点だが・・・」

 

 ふぅ、と悩ましげに溜息を吐いて錆びた色の金髪を片手でかき上げる目の前の少女。

 

 ――思わずドキリとさせられた。

 

 あらためて見ると自分より何歳か年下の少女は、とんでもない美人だった。

 月光に照らされた薄く濁った金の髪は、色の割に砂金をこぼしたようにきめ細かく。

 まだあどけなさを残した顔立ちに反比例して酷薄さと厳しさ厳粛さが感じられ、それでいて気品があり、蝋のように白すぎる肌は意外なほど柔らかそうでもある。

 

 アンバランスながらもシンメトリー。

 白と黒の相反する二つの要素が絶妙な加減で混じり合って作り上げられた芸術品。

 美術の成績が良い方ではない士郎の表現力では、その程度の言葉でしか著せないのが残念でならないくらいに美しすぎる少女は、もう一度だけ物憂げに深く溜息を吐いて士郎を見つめ返す。

 

「とりあえず私のことはセイバー・オルタと呼んでおけ。何も知らず、わからない間は其れが一番安全だろうからな」

「そ、そうか。ヘンな名前だな・・・あ、俺は士郎。衛宮士郎っていって、この家の人間だ」

「・・・衛宮・・・?」

 

 士郎の名字を聞いて、セイバー・オルタは微妙な角度で眉を動かしたが声に出してはそれだけしか言わなかった。

 混乱している相手に聞くことでもないと考えたからである。

 

「いや、違う。今のはナシだ、訊きたいのはそういう事ではなくて、つまりだな―――」

「承知している。貴様は正規のマスターではないし、聖杯戦争のことについても何も知らされていないから、何を言われても訳がわからんと言いたいのだろう?」

「そ、そうだよ。・・・そういう事です、はい・・・」

 

 厳しい目つきで自分の両目を見上げられ、なんとなく丁寧な口調で言い直してしまう衛宮士郎くん18歳。

 なんなのだろうか、この感覚は・・・。まるで校則違反が常習化している小学生男子が、ルールに厳しい先生に説教されてるときのような、そんな気持ちにさせられてしまう・・・。

 いや、自分は校則ちゃんと守って生きてきた真面目な学生なのですけれども。生徒会長の親友からも頼られて信頼されてる優良学生の末席ぐらいは主張してもいいはずの社会的信頼は得られていると思っているのですけれども、しかし!

 

「とは言え、名前も知らんのでは互いに不便で仕方がないからな。だからひとまず私は貴様のことをマスターと呼ばせてもらおう。

 貴様にも事情があるのは察するが、それでも契約を交わした以上、私が貴様を裏切ることだけは決してないと約束してやる。だからそう警戒しなくていい」

「う。・・・い、いや、それは違うぞ。俺、マスターなんて名前じゃないし」

「では、シロウだ。互いを名前で呼び合うことは信頼関係を築く上での第一歩になる。

 良き信頼関係とは何者にも代えがたい。私はそう思っているし、私のマスターになった以上はシロウにも同じ物を求めるようになるだろう。だからシロウも遠慮なく自分の訊きたいことは伝えてこい。可能な限り答えてやるから」

「う・・・ぐっ! そ、そうですか・・・・・・」

 

 初対面の美少女からファーストネームで呼ばれた途端に顔から火が出そうになる、18歳になっても心は思春期なままの少年衛宮士郎くん。

 初対面なら名字で呼び合うのが常識だが、あいにくと相手はブリテンの王。名字と名前は並べ方が逆になっているヨーロッパ人に現代日本人の士郎の常識は非常識でしかないのであった。

 

「いや、ちょっと待て! なんだってそっちの方を―――痛っ!?」

 

 言ってる途中で突然、左手の甲が熱くなったので見下ろすと、入れ墨のような紋様が浮かび上がって刻まれていた。

 

「な―――」

「それは礼呪と呼ばれるもので、私たちサーヴァントを律する三つの命令権なのだが・・・これも今の貴様に言っても分かるわけないか」

「・・・はい。おっしゃるとおり何言ってんのか、さっぱり分かっておりません・・・」

 

 またしても項垂れる士郎くん。物わかりの悪い教え子と教師みたいな立ち位置になってしまっているが、実際似たようなモンなので士郎としても感情的に噛み付きづらい。

 

 相手の少女も、どうすれば士郎に判るよう伝わるのか考えてはくれているようで「う~ん・・・」と胸の前で腕を組んで夜空を見上げながら唸り声を上げ続けている。

 

「・・・まぁ、いいか。とりあえず外へ行くぞ。屋敷の外へな」

「へ? 外って・・・何をしに?」

 

 士郎が尋ね、オルタは肩をすくめる。

 

「さっきから屋敷の外で覗き見し続けている無頼漢が二人ほどいる。数秒で倒しうる程度の重圧しかない相手だが・・・妙に殺気が薄い。戦う気があるのか無いのかよく判らんのだ。

 敵ならば先ほどと同じで丁重にお引き取り願うだけだし、場合によっては交渉する余地ぐらいはある相手かもしれん。その場合は貴様への説明役でも引き受けてもらうとしよう。

 ・・・どうにも私は、この手の役割が性に合わん・・・。力尽くで押しつけるならまだしも、1から10まで語って訊かせて教えてやるなど生前に教師をやった経験の無い私にどうしろと言うのだまったく・・・。

 面倒ごとを押しつけられるなら、いつでも斬り殺せるサーヴァントの一人や二人ぐらい味方に引き入れるのは快く承諾する女だからな私は」

 

つづく

 

オマケ『聖杯番外問答』

 

セイオル「こう言うとき、補佐官が居てくれたら説明が大分楽になったのだがな・・・」

 

士郎「へぇ、そんなに判りやすく解説してくれる奴だったんだ」

 

セイオル「・・・いや、判りやすいというか、判るまでは徹底的に教え続けて許してくれんというか、判らないままでは居させてもらえないと言うべきなのか・・・まぁ、そんな奴だ」

 

士郎「え・・・・・・」

 

セイオル「アイツにかかればシロウも一日で聖杯戦争のルールを全て習得できるのは間違いないと保証できる。・・・その代わりとして、丸一日勉強だけのために全てを費やされる覚悟が必要になる男だったがな・・・」

 

士郎「・・・遠慮しておきます・・・」




注:
私の中のセイバー・オルタさんはFGOに出てきた色んなオルタさんがごちゃ混ぜになっていますので、厳しい代わりに割といい人扱いされております。

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