試作品集   作:ひきがやもとまち

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ようやくエンジンがかかって来たらしく、やっとこさ自分らしい作品に仕上がりました。烈風カリンが主役のゼロ魔の二話目です。サブタイトルどうしようかと悩んだのですが、今はまだ連載が確定していないので暫定的に「第2章」と銘打ってみました。本来のサブタイは「烈風(かぜ)はゼロの使い魔となる」です。

それから今日中は無理ですが、明日か明後日までに微エロ作品二つを合わせたアホエロな物語「お尻メインの二次創作2作品」を投稿するつもりでいますので、お尻好きの方は見てやってください。
原作は「Aika」と「落ちてきた龍王と滅びゆく魔女の国」です。
ただし、前者はともかく後者は「ビキニ・ウィリアーズ」に変更するかもしれません。まだ悩んでいますので。


烈風(かぜ)は使い魔 第2章

 トリステイン魔法学園の生徒たちは皆一様に唖然となっていた。

 二年時に進級するための通過儀礼として行われていた『使い魔』召喚の儀。その最中に『ゼロ』のルイズがまたしてもやらかして、よりにもよって人間の少年?を使い魔として召喚してしまったのだ!

 

 

 

 ーーただ、喚び出された少年?が語り出した内容は、その驚きを駆逐してあり余るほどの物であり、本当にとんでもない代物だった。

 

 

 

「ーーじゃあ、なに? あんたはこことは違う世界のハルケギニアから来たメイジで、あんたのいたハルケギニアは死者の王国を作るためとか言ってるバカ女が自分を生け贄に使うことで無理矢理成立させた魔法が暴走して世界中に溢れ出し、あんたはその魔法で死人にされてしまった世界中の人たちを救いたいから仲間とともに国を飛び出して戦い続けて、最期には七万の死人の大軍をたった二人で突貫して戦死した存在だ、と。

 要約するとそう言うことになるのかしら? 騎士カリン・ド・マイヤール?」

 

 相手から聞いた話の内容を可能な限り短くまとめて解説してのけたルイズにそこかしこから、まばらな拍手が飛び交う。

 正直なところ少年?騎士の話は荒唐無稽すぎて途中から付いていくのを放棄した生徒が大半だったので、こういう風に自分たちでも分かり易くまとめてくれる奴がいるのは素直にありがたい。

 

「然り。やや詩的表現が過剰なきらいはあるが、キミの表現力と理解力はなかなかのものだ。尊敬に値する。知識だけは詰め込んでいるようでなによりだよ、大貴族ルイズ・フランソワーズ」

 

 芝居がかった仕草で肩をすくめ、先ほどと同じに毒と皮肉がたっぷり込もった口調で己が主を賞賛する。

 ルイズの頬がひきつり、他の生徒たちも若干引き気味となる。

 

 なにしろ自分たちは世間一般の正しい伝統と常識を愛好する、由緒正しい正常なる貴族なのだ。常人なのである。読書好きでナイチチの青髪無表情娘と同じ読解力など求められても困るのだ。そう言う夢物語を語るのは他を当たってくれと言いたくもなる。

 

 事実として、話を要約し分かり易くまとめて見せた召喚主のルイズ自身が、

 

「信じられないわ」

 

 と、一言の元で相手の発言内容をハッキリと否定し、

 

「まぁ、信じろと言う方が無理だろうからね」

 

 相手の少年?貴族自身も軽い調子で賛同してみせて、

 

「ボクだって自分が体験したことでもない限り、こんなバカげたホラ話は信じなかったろうさ。

 キミと同じように一言でバッサリ切り捨ててたんじゃないかな? 『そんなバカ話は有り得ない』と」

 

 ーー直後、前言を翻すような趣旨の内容をほのめかし、それでいて冗談めかした口調と表情で言うものだから信じるか否か判断に困る。

 

 どうにもこの少年?は、生意気な口のききかたをする相手を見ると、ついついからかいたくなる悪癖の持ち主であるらしい。

 貴族の中にも希に見かける、露悪趣味を持った嫌味な野郎だ。

 

 ーーが、その割に彼の纏う空気は陽性で、嫌味な印象をまるで受けない。イヤな奴だなと感じる程度である。

 

「ただまぁ、あいにくと事実みたいなんでね。ボクとしても信じざるを得ない。困ったものだよ、本当に。

 一緒に戦って共に討ち死にした親友が最期に言ってた言葉「生きていると退屈しなくていい」は、まさしく至言だったみたいだ」

「どうしてそう思うのよ? あんたがいた世界とこの世界が違うものだなんて、どうしてあんたにそんなことが判断できるの? ただ単にあんたの頭がおかしいだけかもしれないじゃないの」

「この見た目」

 

 唐突にカリンは、自分の真っ平らな胸を人差し指で指し示し、主に向かって問いかけた。

 

「この姿は、キミの目にはどう映っている?」

「どうって・・・」

 

 突拍子もない質問に面食らいながらルイズは、助けを求めるように儀式の立会人を勤めている男性教師コルベール先生の方へ視線を向けるが、困ったような表情で首を横に振られてしまった。

 どうやら使い魔召喚の儀は、まだ成功したと判定してはもらえていないらしい。

 それはそうだ。まだ成功したのは『サモン・サーヴァント』までであって『コンクラクト・サーヴァント』がきちんと成功できるかは試してすらいないのだから。

 その二つの過程を経て、使い魔との契約を完了することにより、はじめて使い魔召喚の儀は成功したと認めてもらえる。半分だけしか終えていない状態で教師が軽々に踏み込むのはさすがにマズい。

 

 緊急事態がおきたと言うならまだしも(たとえば召喚した使い魔に生徒が襲われた場合とか)喚び出された使い魔は現在のところ友好的な態度を示しており、態度と口の悪さに目をつむれば比較的おとなしい気象の持ち主に見えないこともない。

 なにより、人間である。

 使い魔として人間が召喚された話など聞いたことがなく、したがって学院の規定にもそのような異常事態を異常と判断すべきか否かは記載されていない。

 明確な危険行為が行われてもいないのに、それに介入するしないを判断するのは良識ある大人であればあるほど迷ってしまうものなのだ。

 

 結局のところ、召喚に成功した直後に儀式を完了させず、使い魔の話に聞き入ってしまった自分自身の好奇心が悪い。

 そう割り切ってーーと言うか、そうとでも割り切らなければやっていけないーールイズはため息一つと共に相手の姿形を、頭の上から足の先まで軽く眺めやって観察してみる。

 常人であれば眉をひそめる無礼な行為だが、構いやしない。無礼はお互い様である。

 

 遠慮容赦なくじっくりねっとり眺め回した後、ルイズの下した評価は、

 

「ダサい」

 

 であった。

 

 

 実際、ルイズの下した評価は正鵠を射ていた。それもど真ん中の心中を一発目で射抜いた天才的な魔騨の射手と賞すべきだろう。

 

 年の頃は十四、五ぐらいで、安物のような厚手の上衣に、けばけばしいフリルのついた白いシャツを着ている。

 時代遅れの膝が出た乗馬ズボンに、色あせた黒いブーツを履き、腰に下がった杖だけが一丁前にピカピカと光り輝いていて、その拵えが上等とは言い難い使い込まれて傷ついた古傷が潜ってきた修羅場の数を伺わせるよう計算づくで揃えられていた。

 

 どれもこれも一昔どころか大昔に流行った衣装ばかりで、今を生きるハルケギニア人の感覚で見たならば道化師としか思えない。ダサいとしか表現しようがないのである。

 

 だからルイズの評価は至極まっとうで納得できる物であり、言われた相手が納得するのも至極当然の常識であるがーー実際に言われた相手が「だろうね」と軽くうなずき首肯で返されると、酷評した自覚のある発言者としては反応に困る。

 

 うろたえ気味に相手の眼を見つめ、切れ長で透き通る宝石のようにきらきらと輝いている鳶色の瞳を前に、思わず胸をトキメかせてしまった。

 

(や、やだ。あんまりにも無礼な態度に気を取られて今まで気付かなかったけど・・・こいつ、ものすごい美男子じゃないの・・・。同い年だったらワルド様でも敵わないなんて反則もいいところだわ・・・卑怯よこんなの)

 

 ぶつぶつと、心中にて幼い頃に婚約の約束を交わしている親が決めた許嫁の男性貴族に言い訳を述べ連ねながらルイズは赤くなっていく顔色を隠すのに必死である。

 

 なので相手のいう言葉は半分ほどしか頭に届いていないのだが、半分だけでも驚天動地の内容だったからさしたる問題も生じなかった。まぁ、ある意味で別の問題が生じ始めてはいるのだが、それはまた後日の物語として語らせてもらうとしよう。

 

「実のところボクの身体は今、死んだときより激しく縮んでしまっている。ならば合ってないはずの服のサイズがぴったりな理由付けとしては、召喚主であるキミの身体と肉体年齢を合わせたからだと推測するのが至極合理的だと思えるのだが如何や?」

「・・・死んだときのあなたは、今よりずっと年上だったってこと・・・?」

「ずっとと言うほどでもないが、少なくとも今のこの姿をしていた時より三年は過ぎていたからね。時の流れとは残酷なもので、王都にて姫殿下お仕えしていた当時のボクは宝石とも評された美貌の殿下より『詩集から抜け出てきたみたいに綺麗』だと過分すぎる誉め言葉を賜るほどの美少年で、道を歩けば女性に当たって押し倒される日々を送っていたものだ。・・・言うまでもないとは思うが、尾ひれの付きまくったホラ話だぞ?」

 

 聞いている内に気付かず鬼の形相となっていたゼロのルイズこと、国内最大貴族の一つヴァリエール公爵家の御令嬢はハッとなって我に返るとすぐさま居住まいを正して聞く姿勢を取り直す。

 

 やや変な生き物を見つめる色が使い魔の少年の瞳に宿ってしまった気がするが、気のせいだ。うん、そうに違いない。気のせいと言うことにしておこう。

 

 やがて彼も割り切りがついたのか「・・・まぁ、いい。今更な気もするし」とつぶやき、先の表情を見なかったことにして話を進める。

 

「ボクは相方の親友に、ちょっとした嘘をついててね。それを隠し通してだまし続けるためには身体の成長は邪魔だったんだが・・・。どう言うわけか求めていた頃には来てくれなかった成長期が、遅蒔きに到来してしまったらしくてね。日毎変化していく体型を隠すのには苦労したよ。

 おかげで服をしょっちゅう買い換えざる得なくなって、継ぎ接ぎしたり綿を詰めたり、有る部分を無いように見せかける工夫さえもが必要になってしまった。

 まったく・・・本当にこんなバカな話はやめてもらいたかったな。ふつうに生きて、ふつうに恋をして死にたかったよ。まぁ、はじまりに抱いた夢とは違うものだけどね」

 

 実感のこもった口調と声音で紡がれる死者の記憶に、年若いルイズたちは声も出ない。

 まだ子供の域を出ない年齢の彼ら彼女らにとって未来とは、夢と希望に満ちあふれたものだ。たとえ才能に絶望していたとしてもそれは同じ。「もしかしたら」「あるいは」「いつかどこかで」「誰かがきっと」と。

 微かに、だが確かに心のどこかで願い信じて生きているからこそ今を楽しむ余裕があるのだ。刹那的な生き方をして遊興に耽っている者も、さしたる違いや変化はない。

 

「どうせ死ぬのだから」そう言って犯罪に走る者たちの中で、自分が次の瞬間には本当に殺されている可能性を本気で考慮している者など数える程しかいないのだから。

 

 だが、彼?は違う。本当に死の危険性を承知の上で戦場へ向かい敵に殺され天に召されず、今この場へと馳せ参じた生と死の経験者だ。

 人の死について語るその言葉には、言葉では表現しきれない実感が込められていた。

 

 

 がーー。

 

 

「まぁ、ようするに、だ。ボクを召喚したキミに流れる血そのものが、今のボクの身体を形成しているみたいでね。端的に表現するなら、媒介だ。

 キミの血から生まれた疑似生命体だからこそ、今のキミと比較的近い肉体年齢及び精神年齢を有していた思春期の頃のボクの身体で召喚されたんじゃないかと予測している。これについて未来の実娘たるキミの意見も聞いてみたいんだが、どう思うかな?」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 その場にいる生徒教員すべて(無表情娘含む)の思考が一時停止して、

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・はっ!?』

 

 

 直後には、盛大に大爆発を起こしていた。

 

 

 ちょっと待て、今こいつなんて言いやがりましたか?

 

 ルイズが驚愕半分激怒半分、それを含めて荒れ狂う暴風雨のような感情が九割九分以上を占めた感情を激発させまいと必死に制御しながら、極力抑えた声と表情で確認のために必要な質問を投げかけようとする。

 

「ねぇ、ミスタ・マイヤール。あなた今ーー」

「顔、引き攣るのを我慢しすぎて、さっきのよりヒドい状態になってるぞ。そんなに辛いんだったら、別に無理することないと思うけど?」

 

 よし、決めた。こいつ今からぶっ殺す。

 

 人を殺す覚悟を決めた今のルイズに怖いものなど何もない。強いてあげるとするならば、殺したいほど憎む相手より先に自分が死ぬことだけである。

 

 こうなったら行けるところまで逝ってやる。だって、女は度胸なのだから。

 なぜか公爵家の御令嬢がやくざの娘じみた思想に取り付かれてしまっているが、それはさておくとして

 

「へぇ・・・あんたが私の『お父様』だったんだぁー。ふーん、私今までそんな事ぜーんぜん教えられてこなかったんですけども。つまり安くてダサい衣装に身を包んでいる貧乏貴族の小倅みたいな格好のあんたは、お偉い大貴族ヴァリエール公爵閣下その人だとでも言いたいわけー?」

「いいや? むしろ誰だい、その貴族。トリスタニアにそんな性を持つ貴族がいたんだ。ボクの方こそ今はじめて知ったよ。教えてくれてありがとうミス・ヴァリエール」

 

 落ち着け私。今はまだ殺さない、今はまだその時じゃない。いつ何時でも差し違える覚悟はできたのだから、それは何も今このときじゃなくたっていい。いつでも殺せる相手なら、今だけ話を聞いてやるのも悪くはない。よく言うだろう、冥土の土産という奴だ。そうだ、そうに違いない。私は正しく、こいつは間違い。自分と相手は違うのだから殺し合うのはいつでも出来る・・・。

 

「顔、さっきよりも更に酷くなってるぞ? 友達に見せたら下手くそな詩の題材にと喜ばれそうなレベルの酷さだ。・・・ふむ、折角の記念として絵に残してもらってもいいかな?

 なんだったらボクが固化魔法で永久保存し、人類の歴史的遺物として博物館に飾ってあげても構わないけど?」

「・・・・・・離して先生! こいつ殺せない! 私の命を全て使ってこいつだけでも殺してやりたいのにーーーっ!!!」

「お、落ち着きたまえミス・ヴァリエール! 世の中には死んでも構わないクズと、死んではいけない正常な人間がいるものなのだ! 後者である君が前者代表みたいな少年を殺すために特攻してどうする!?」

 

 トリステイン魔法学院が誇る良識人コルベール先生が、怒れるベルセルクルと化した愛する生徒の暴走を止めるため慌てて飛び出し羽交い締めにする。

 こういう時のために控えていたのは確かだが、さすがに使い魔じゃなくて主の方が従者に襲いかかる事態など想定していない。それゆえ反応するのが遅れてしまったが、事態の重要性はこの場にいる誰より理解している自覚があった。

 

 なんと言っても彼女の実家は公爵家である。大貴族なのだ。国内でも有数の格式を持つ名門貴族のご令嬢が得体の知れない正体不明の少年?貴族相手に挑んで共倒れなど冗談ではない。

 下手したら内乱勃発さえあり得る緊急事態にコルベール先生は、伝家の宝刀『王家のご威光』を笠に着るため抜き放ち、言葉の刃で大貴族のご令嬢へと切りかかる!

 

「それからここ、学内だから! 王家が運営してる王立教育機関の中庭だから! いわゆる殿中! 殿中に!殿中にござるーーっ!! 堪えてくだされヴァリエール殿ーーっ!」

「お情けを! どうか貴族のお情けをコルベール先生! 貴族には時として家を捨ててでも守らなくてはならない誇りというものがあるのです!」

「ヴァリエール公爵家がお取り潰しにあっても構わないと仰られるのですか!?」

「たとえ家が残せずとも、トリスタニア貴族の誇りを後世に生きる人々に残せるのであれば惜しむ命などありませぬ!」

「ああ~・・・。ボクにも、それと同じバカげた思想に取り付かれてた事があったな。

 ・・・あれは本当に認めたくない、若さ故の過ちだった・・・」

「マリエーーーーーーーーール!!!!」

「ちょっと君、少しだけでいいから黙っていてくれないかな!? 今この国、本当の本気で存亡の危機に直面しかかっているから!」

 

 必死の表情で訴えかけるコルベール先生と、彼に後ろから羽交い締めにされて身動きひとつとれない状態であろうともカリンに向ける殺意には微塵も減じる気配の見えない見所のある後輩に(戦争狂として)感心しつつ、カリンは一人だけ冷静に状況説明を進めてしまう。

 

 存外マイペースな奴なのである。

 

 具体的に説明すると、仲間たちの奢りで自分のために開いてくれた歓迎会の最中。

 皆が酒を飲んで大騒ぎしていると言うのに一人だけ成長期の旺盛な食欲をウール貝で満たし、適当な相づちを打っては調子に乗らせて自分は皿を重ね続ける程度には。

 

「別にキミの親がボクであることも、ボクがキミの親であることも大した意味のある事じゃない。気にしなくて良いさ。あるいはキミの両親とボクとの間に血の繋がりは一切ないのかもしれないし」

「「・・・は?」」

 

 意味不明な発言内容を耳にして現ハルケギニア人である二人が目と口をポカンと開けて、旧?ハルケギニア人である一人の少年?は軽く肩をすくめてから説明を再開する。

 

「そもそもにおいてボクがいたハルケギニアは、こことは違う歴史を歩んだ別世界だ。双方の間に因果関係が成立しているかどうかなんて滅びた今となっては証明しようがない。有るかもしれないし、無いのかも知れない。

 ここにもボクがいるのかもしれないし、いたとしても血だけ残して死んでるかもしれない。見た目も性格も性別すら異なる別人として生きてる可能性だってあり得るだろう。

 大貴族ヴァリエール公爵家の跡取りとして男に生まれたボクの子供がキミかもしれないし、単なる貧乏貴族の家に生まれて騎士に憧れ性別を偽り王都まで上洛してから八面六臂の大活劇の末にヴァリエール公爵閣下に見初められて結婚しキミを身ごもったラッキーガールのボクが実在している可能性すら・・・ないな。これはない。幾らなんでも流石にこれは有り得ない。

 なんだこの寒気を催すほどに理想的な、子供が寝物語に読んでもらう定番の英雄譚は。どこの世界の言語か分からないし、自分でも聞いたことのない言葉なんだが思わず『リア充爆発しろ!』と大声で月夜に向けて叫んでしまいたくなる程の気持ち悪さだ。

 我が事だから断言できるが、はっきり言って超キモい」

「・・・・・・・・・どこの国で、どんな意味合いで使われてる言葉なのよ・・・・・・」

「だからボクも知らんと言うに」

 

 噛み合わない線と線。・・・まぁ、この場合どちらともが意味合いを知らない以上噛み合わせようがないのであるが。

 

「要するに、だ。大昔に死んだボクの魂は本来ならとっくの昔に消滅しているはずで、曲がりなりにも人の形を取って顕現できたのはボクの血を引くーー正確には、こちらのハルケギニアに存在しているであろう男のボクか女のボクの血を引いているキミがサモン・サーヴァントを使って召喚の儀に『失敗』したからなんだよ。

 あれでキミの中にあるナニカが暴走したのか、あるいはどこかで何かよく分からないナニカに目を付けられてしまったせいなのかもしれないが・・・。

 とにかくキミの身体に流れる血がボクを呼び込む触媒として機能して、ボクの身体を構成している要素の8割を占める最重要成分と化してる現状が、キミとボクの間に流れる強い血の繋がりを意味していると言えるだろう」

「「・・・・・・・・・」」

「血って言うのは必然的に長く続けば続くだけ薄くなるし、脆くもなる。強いか弱いかは関係ない。途中で強い血を入れれば強い血を引く強い子孫が生まれるだろうが、そのぶん先祖から受け継いだ弱くなってる血は更に弱くなるのが道理だろう?

 だからボクの身体を最盛期でなくとも完全な形で再現し切るには、混じりっ気のない正確にボクの身体の情報が記憶された『血が持つ記憶』が必要不可欠になるんだよ」

「『血が持つ記憶』?」

 

 聞いたことのない単語にルイズは小首を傾げて疑問符を頭上に浮かべ、知識欲旺盛なコルベール先生が何かを思い付いたかのように瞳の端に超新星を発生させる。

 

 対照的な反応を返すふたりを等分に眺めやりながらカリンは、しゃべり疲れてきたのか少し気怠げな調子で最後の解説を行うため億劫そうな態度で口を開く。

 

「そうだよ。その人に流れている血には、その人自身を構成している身体の情報が保存されている。怪我をしても治しさえすれば元通りの形に戻るのはこの為だ。

 親の血を引く子供は必然的に親の持っていた身体の情報を引き継いでるから、親の身体を再現する形で身体を形成する。・・・と言って両親の間に生まれるのが子供だから、親から受け継いだ二つの血の情報を使って二つの身体の形を一つの身体で再現しようと苦心するわけだから、やがては矛盾を生じさせて変質していくのさ。

 それが己の血を後世に残す行為だと古代の文献には書いてあったんだ」

「・・・あんたって考古学者かなにかだったの・・・?」

「いいや、単なる騎士崩れで人殺ししかできないクズだよ。

 ただ、これでも一応は世界を救おうと志したこともある英雄志望だったんでね。可能な限り世界を救う手段について調べれるだけ調べ尽くしてはみたんだ。お陰で昔よりかは少しだけマシになれた。まっ、失った物の方が遙かに大きかったわけだが」

「・・・・・・・・・」

「今のボクは、キミの血に残留しているボクを形成していた情報だけで再現されている。お陰でキミの影響の方が大きくて、せっかく成長した部分が色々と元に戻ってしまってる状態だ。イロイロとね?

 特に大きな影響を受けてるのは性格面だな。この身体の頃とまったく同じ・・・と言うほどヒドくはないが、それでも感情の抑制や相手をバカにするような言動を誰彼かまわずしてしまいたいという欲求が抑えきれない。

 これは多分、バッカスたちとの思い出に関する記憶が関係しているんだろう。古代の遺跡で見つけた魔導機械とやらが判別してくれた結果によるとボクに流れる血には仲間たちを集めて絆を結ぶ傾向が強いそうだから、ボクと同じ血を持つキミにも近いうちにそういう仲間との出会いがある事を意味しているのかもしれないな」

「・・・・・・・・・」

「あるいはボクとの出会いが引き金となって、既知の相手と信じられないくらい親しくなるのかもしれないし、今いる友人と別れて別の親友ができることを暗示しているのかもしれない。

 ここら辺は予言者や占い師の領分だから戦争屋でしかないボクには判然としないけど、これだけは断言しておいて上げるよ」

 

 一息ついて、やや辛そうな表情を浮かべたカリンは自らの娘として生まれるはずだった少女の目を見つめ、はっきりと不幸な未来を予言する。

 

「この先、近い将来このハルケギニアにも大きな大乱が起こるだろう。そして、その中心には間違いなくボクを使い魔として召喚してしまったキミがいる。絶対だ。断言してやる。

 でなければーー平和な世に生きるキミが、世の中に戦争しかもたらせないボクを使い魔として引き当てる最悪の偶然なんて起き得るはずがないのだから・・・」

 

 長い話を語り終え、ふうと大きくため息をついたカリンが背後の壁にもたれ掛かる姿を、誰もが固唾をのんで見守っていた。

 

 戦争? 戦争だって? 本当にそんなものが起きるのか?

 ーーいいや、ありえないねそんな事。だって今の僕たちは平和に暮らせているじゃないか。だからこれからも戦争なんて起きないし、僕たち子供が巻き込まれるなんて有り得ない。

 

 

 ヒソヒソと小声で言い合い、時には否定しあったり罵りあったりしている級友たちの声を聞き流し、ルイズは目の前で壁にもたれ掛かり一休みしている自分の使い魔に、どう話しかければいいか悩んでいた。

 

 当然だろう。いきなり現れた自分の使い魔から「ボクはキミの“父”親です」なんて言われて納得できるはずがない。

 ただ、休憩中の彼はひどく疲弊しており、疲れ切って今にも消えてしまいそうな儚さをも纏っている。

 

 美少年どうこうを抜きにしても気にかけて上げるのは人としての礼儀・・・・・・って、なんだか本当に消えかかってないかしらこいつ? 身体がだんだん薄くなって、幽霊みたいにスゥゥー・・・っと。

 

 ーーって、えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?

 

 

 

「ちょ、ちょっと大丈夫なの!? あんた、身体が消えかかってるんだけど!?」

「ん・・・ああ、実を言うとボクの身体の八割方はキミの血で構成されてるんだけど、残りの二割は魔力で編まれた物なんだ。

 魔法を使いすぎると魔力切れをおこして気絶したりするだろう? あれがボクの場合だと、完全にこの世界から消滅して無に帰してしまうのさ。

 早い話が・・・・・・今すぐにでも『コンクラント・サーヴァント』をし終えないと、もうすぐ消滅すると思うぞ、このボクの身体。むしろ、既に半分以上が消えかかっているみたいだし」

「は、はぁ!? ちょっと、それ本気なの!? 冗談だったら承知しないわよ!?」

「本当さ、嘘じゃない。実は最初に呼び出されたときキミが使用した『サモン・サーヴァント』分しか魔力が補充されてない状態で顕現してたんだ。その結果、話しをするだけで精一杯。2割どころか1割の十分の一すら補充されてないんだから当然だけど・・・やれやれ。ずいぶんと貧弱な身体だなぁー。

 これで最盛期のボクが喚ばれてたら魔法一発であの世へ直帰か。使い魔として生きた最短記録が更新できてたかもしれないな」

「ノンビリと世界最速のダメ記録更新狙わなくていいから! とにかく『コンクラント・サーヴァント』を使えば消えずにすむのね!?

 だったらやるわよ! やってみせるわよ! でも感謝はしなさいよね!

 貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから!」

「ああ。言い忘れてたんだが、魔力を定期的に補充しないと直ぐに消えるぞボクの肉体。

 補充する方法は一つじゃないと思うけど、魔力を他人に譲渡する方法で一番ポピュラーなのはキスだからな。ここでキスしてボクを助けてしまうと、今後もキミはボクにキスし続ける羽目になるけど構わないのかい?」

「なんでそんな大事なことを早めに言っておかないの!? 今更覚悟決めておいて引き返せなくなっちゃってるんだけど私!?」

「いや、申し訳ない。どうやら親友のひねくれぶりが感染していて、肉体年齢が奴と出会った頃までさかのぼっているからなのか、奴だけでなく他の二人まで強く影響しまくってるみたいなんだ。

 ちなみに全員、素直じゃないひねくれっぷりには定評があるんだぜ? ボクも含めてトリスタニア王宮のひねくれ四騎士と陰口をたたかれてたものさ、いや懐かしい」

「アホーーーーーーーーッ!!!!

 あんたバカなの!? 死にたいの!? あるいは消滅するのが望みで私に引き当てられたのかしら!?

 ああもう! なんだってこんなアホなんかを、私が使い魔にする羽目に・・・!!!」

「ふむ、それについては申し訳なく思うが・・・いいのか? そろそろ消えるぞボクの身体。数字に換算すると残り十五秒ぐらいで」

「じゅうご・・・!? って、ちくしょう! こうなったら人助けしたら犬に噛まれたと思って割り切ってやるしかないわね!

 我が名はルイズ・ル・ブラン以下中略! この者に祝福を与え、我の使い魔としやがりませ!」

「・・・適当な呪文は術式を破綻させ、将来的に支障を来しかねないのだが・・・?」

「うっさいバカ先祖! 今のアンタが既にして支障だらけなんだからいいのよ!

 ほら、顔上げて唇を前に出す! ・・・んーーー!! ・・・ぷはっ! お、終わりました・・・」

「・・・これ以上ないほどロマンチックな人命救助をありがとう。お陰で消えずにはすんだよ。既に死んでる身だから助かったわけでは全然無いけどね」

「どこまでひねくれてんのよアンタは!?」

「あー・・・、諸君。ミス・ヴァリエールも無事に使い魔召喚の議を終えたようだし、そろそろ教室へ戻ろうか。次の授業をはじめるぞー」

『はーい、先生。今行きます。今すぐにここから離れたいので』

「ちょっ!? みんな私たちの仲をなんだと思って・・!!」

「・・・・・・友達『ゼロ』のルイズ・・・」

「殺す! こいつだけは絶対ブッコロス!

「顔が怖いぞ、ゼロイズ。ああ・・・そうか。これは失礼したね。まさかそっちだったとは思わなかったものでから。本当だよ?

 さすがのボクも怒り顔のほうが標準で、努力して意識しないと笑えないほど人間やめてる戦争狂にまで落ちてはいないものだから。キミのような生き物もむべなるかな」

「うがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 この日、トリステイン魔法学園に新たな時代を呼び込む一陣の『烈風(かぜ)』が吹き、ピンク色したモンスター『ベルゼロクル』が誕生したことを今はまだ誰も知らない。

 

 烈風が吹き荒れる時代は戦乱か動乱か、はたまた人の世に終わりを告げる終末戦争か!?

 すべては彼女の気分次第。暴れ狂う自然の暴威を前にして人間がいかに惰弱な存在かをハルケギニアの人々が思い知るのは、今少し先の出来事である。

 

 まぁなんにせよ。今のところトリスタニアもトリステイン魔法学院もハルケギニアも平和に過ごせているようです。

 

つづく


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