試作品集   作:ひきがやもとまち

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「転スラ」が始まった時に思いついて原作に配慮して書こうとしなかった作品を『自分らしい作風』を思い出すために書いてみた次第です。

普段だったらアンチ作者としての配慮から「原作を基にした別物設定」で出すのですが、いい加減面倒くさくなってきてしまったので普通に「転スラ」原作二次作となります。
リムルさんではなく、別の天邪鬼な若者が異世界転生してエルフ少女になっちゃうお話です。よければお楽しみください。
尚、原作は未読組です。アニメだけしか見てません。それが書かなかった理由の一つですんでね。


天邪鬼が転生したら幼女エルフになってた件

 俺は今日まで、何の変哲もない普通の人生を生きてきた。

 中学を普通の成績で卒業し、一応は進学校だけど東大目指す奴らはまずいかない地元の高校に入学して、学校内では上位に入れる全国水準では平均以下の夢も希望もないごく普通に平々凡々な学校生活を送っていた俺。

 

 そんな普通の俺だが、その日はたまたま巡り合わせが悪かった。

 商店街にエロゲ買いに訪れて帰る途中、包丁持って走ってきた通り魔に刺されたんだ。脇腹刺されて、血がドバドバ出て「ああ、こりゃ死んだな」って素人でもわかる超重傷。

 

 ああ、これで俺死ぬんだなーって思ったら、なんか我慢するのが面倒臭くなっちゃって。

 

 

「・・・俺だけ死んで堪るかクソボケぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!!」

「ぐほへぇっ!?」

 

 たまたま格好付けで持ってたバタフライナイフ抜いて刺してやって、一度抜いて刺して、また抜いて刺す。叫び声がうるせー、とか思いながら相手の悲鳴を痛みで薄れゆく意識の中で聞き流して。ひたすら刺す。ひたすら刺す。・・・相手が死んだかどうかは知らん。確認する前に俺死んでたからな。確認したくても出来ません。

 

 

 まぁ、そんな感じに刺されて死ぬはずだったところを逆に相手を刺し殺してやりたくなるほど『天邪鬼だった』ことが死ぬ寸前になってわかった俺、斉藤祐二、高校二年生。彼女いない歴=年齢は。

 

 

 ・・・たぶん、こんな性格してたせいで、こんな場所でこんな状態になってんだろうな~。

 

 

 

「通り魔に刺されて死んで生き返ったら洞窟の中にいてエルフになってたって、どんな異世界転生物ラノベだよ・・・。聞いたことねぇよ、そんな設定・・・」

 

 はぁ、と溜息を吐きながらピンと長く伸びた耳をイジる俺。彼女にしたい脳内彼女は断然エルフ美少女な厨二の高校二年生、彼女いない歴17年あらため、エルフのかわいい女の子生後1分かそこらデッス。

 かわいいのはエルフだからデフォルトだ。異論は認めん。認めさせたくないですし。

 

 ・・・しかし、どうしようコレ・・・? あんなに普通で平凡だった俺の見た目が、今では耳長長命種族の代名詞エルフ美少女に! ――誰得なんだよ、本当に・・・。

 ステータス欄とか色々見れるらしいんだけど、よく分からないし、とりあえず洞窟って場所から早く出たいし。暗いし狭いし意外とヌルヌルしてて気持ち悪いし、閉所恐怖症じゃなくても洞窟の中暮らしはなんかヤダよー。

 

 

 と、言うわけで見知らぬ異世界っぽい場所にあるらしい洞窟の中を歩き出してみた俺。子供の時から「割り切り早いね」と周囲の大人たちから呆れられてきた経験が意外なところで役立ってくれてます。

 

『・・・聞こえるか? 小さき者よ・・・』

「あん?」

 

 なんか道わかんない洞窟の中をわかんないなりに適当な道決め方で進んでいってたら、なんか上から声が降ってきたな。誰だ?

 

『おい、聞こえているだろう? 返事をするがよい』

 

 うん、なんかよく分かんない声だけど・・・偉そうだな。上から目線だし。

 

『オイ!』

「うっさいなぁ。なんだよ、デッカい者よ。俺になんか用か?」

 

 上から降ってくる声を見上げながら、俺は相手に合わせて態度だけでもデカい面してやった。ふふん、どうだ。これで対等だぞ。人と話すときには目線を合わせるよう教わらなかったとは取るに足らない後進国の蛮人めが! 知ったばかりな俺の天邪鬼っぷりを思い知りやがれ!!

 

『ほほぅ・・・? 我をデッカい者呼ばわりするか。いい度胸ではないか。久方ぶりの客人だと思って下手に出てやったが・・・どうやら死にたいらしいな!』

「いや、普通にデッカい者だろアンタ。気にくわないなら、他にどう呼んで欲しかったんだ?」

『・・・いやまぁ、それはその通りではあるのだが・・・』

 

 相手の声が、図体と比べて一気に萎んで小さくなる。・・・それにしてもデケぇなぁ。身体が。さすがはドラゴン。

 

『ふむ。我の姿を見ても怯えることなく、普通に話してくるとは見所のある奴。歓迎してやるから、我の話し相手になっていくがよい』

「そりゃどーも」

 

 ドラゴンからの誘いにありがたく応じて、その場に胡座かいて座り込む俺。

 そう、俺に話しかけてきたのはドラゴン。洞窟の中だからか鱗の色とか色々わかんないんだけど、とりあえずはドラゴンだ。それだけは間違いない。

 

 翼があって、爪があって、首長くて尻尾もあって、胴体だけがデブっちい。まさにドラゴンらしいドラゴンの見た目をしてやがる。兵藤イッセーが使ってるドライグアーマーとかとは全然違っててヒーローっぽさが全くない奴な。

 

『しかし、実に珍しい・・・。エルフは本来、傲慢で尊大な種族とはいえ、このヴェルドラを前にしても態度をいっさい改めようとしないどころか、逆に上から目線で語りかけてくる変な傲慢さと尊大さを持つエルフとはな』

「ヴェルドラ?」

『如何にも。我が名は暴風竜ヴェルドラ、この世に四体のみ存在する竜種が一体である。魔王でさえも我を前にすれば平静さを保つのが難しくなる特異な存在だ。そのはずなのだが・・・もしや貴様ユニークか?」

「ユニーク?」

 

 外見に反して懇切丁寧に説明してくれる良いドラゴン、ヴェルドラさんによると『ユニーク』って言うのは、その種族の中で突然変異的に生まれるときがある異常な能力を持つ個体のことらしい。

 まぁ、俺の場合は能力っつーか、性格なわけだからユニークはユニークでもブラックユーモア的な扱いになる気がするらしいんだけれども。

 

『ふむ・・・もしかして貴様、転生者ではないのか?』

「転生者? ・・・ああ、それなら理解できる単語だわ。うん、多分あってるわそれ。俺ここ来る前に死んでたはずだし」

 

 あと、人殺してたかも知れないけど、そのことは黙っとこう。いいドラゴンだったら悪人として討伐されたりしないかチト怖い。冷静になって考えてみると異世界転生して最初に出会った相手が世界に四体しかいない最強種族の内一体とか詰んでたし。

 強くてニューゲームしたわけでもないのに、いきなりラヴォス戦は流石の俺もやりたかねーぞ。いやマジで。

 

『なるほどな。だとしたらお前、物凄く希な生まれ方をしたな』

「はぁ。そうなもんなんスか?」

『異世界からやってくる者はたまにいるが、転生者は我の知る限り初めてだ。魂だけで世界を渡ると、普通は耐えられないからな』

 

 ふーん。

 まぁ、耐えられなくて途中で消えてたなら今の俺はここにいないわけだし、今しゃべれてるって事は耐えられたって事なんだろ普通に考えて。出来たことのIFなんざに興味ないわい。

 

「つーか、『転生者は』って言うからには転生じゃない方法で異世界からこっちに渡ってきた人らもいんの?」

『うむ。《異世界人》と呼ばれている』

「・・・まんまじゃん、ソレ・・・も少しぐらい捻れよ、ネーミングセンス・・・」

『わ、我のつけた名前ではないわい!!』

 

 焦るドラゴン。

 そして話を続けることで切り替えようとするヴェルドラさん。

 

『コホン。――そう言う者たちは世界を渡る際に、特殊な能力を獲得するらしい』

「ふ~ん?」

 

 転生特典みたいなもんかな? あるいは生まれ変わりじゃなくて渡ってきただけだから『渡来特典』、もしくは『転移特典』とかで表現した方が正解なのか?

 

「で、アンタここで一体なにやってんスか? 見た感じ何もない洞窟の中で、超暇そうに見えるんですけども」

『よくぞ聞いてくれた!』

 

 食い気味での応対。逆に俺が聞いたことを悔い掛かったぐらいだよ・・・。

 

『ふっ・・・あれは聞くも涙、語るも涙の出来事であった・・・。

 ――三百年ほど前のことだが、ちょっとウッカリ町を灰にしちゃってな』

「ウッカリのスケール、デカいっすね」

 

 ハイになったから灰にしちゃった規模が町一つ分とか、ヴェルドラさんマジパネェっす。

 俺は絶対真似しないと決めた、17歳の生まれ変わった日の昼(予測時間)

 

『そんな我を討伐に来た者がいた。ちょびっと相手を嘗めてたのは間違いない。それでも途中から本気を出したのだがな・・・負けてしまったな! ハッハッハ!!」

 

 負けたのに偉そうだな、コイツ。

 いや、分かるけどね? そういう意地っ張りな部分俺もあるし。つか多分、それについては俺の方がパイオニアだと思える今がある俺だし。

 

「そんなに強い相手だったん?」

『ああ、強かったよ。加護を受けた人間の勇者と呼ばれる存在だ』

「神の加護を受けた人間の勇者・・・なんか、存在自体が鬱陶しく感じてきそうな奴原ですね。なんか想像しただけでムカついてきたんで、手近にある物壊してきていいっスか?」

『我との話が終わった後なら、好きにするがよい。――勇者はユニークスキル《絶対切断》で我を圧倒し、そして《無限牢獄》で我を封印したのだ。

 その勇者は自分のことを召喚者だと言っておってな。三十人以上もの魔法使いで、何日もかけて儀式を行い、異世界から呼び出す特別な存在だ。強力な兵器としても期待されておる』

「兵器?」

『召喚主のな。召喚者は召喚主に逆らえないように、魔法で魂に呪いを刻まれる」

「ふーん」

 

 なんか・・・なんて言えばいいのか・・・・・・。

 ――すっげぇムカつく話だなそれ。召喚主とか呼ばれてる奴ら全員皆殺しにしてもOK?

 

『お前のいた元の世界ではどうだったか知らんが、この世界では弱肉強食こそが絶対なる真理。

 それ故に召喚主に呼び出された勇者を兵器として使うのも、その勇者に敗れた我が封印されるのも不条理ではない。自然の理によるものと言うことも出来るのだ』

「はんっ! 『絶対』に、『真理』・・・ね・・・」

 

 昨日までだったら普通に聞き流せてたかも知れない言葉たちだな。

 そして、今の自分が筋金入りな天邪鬼だと知った俺にはムカつく単語トップ1、2みたいな単語だな。反吐が出る。

 

「で? その超兵器勇者に封印されてからヴェルドラさんは、ずっとここで?」

『そう言うことだ。・・・もう、暇で、暇でイヤになってたところにお前が来たのだよ・・・』

「なるほど・・・」

 

 それは確かにイヤだな。すごくよく分かるイヤさ加減だな。

 俺は学校に行ってる間でさえも暇してたからな。友達いないし、話し相手いないしハブられてたし。たまに話しかけてきた連中とは相性悪くて直ぐ破綻して『来る者拒まず去る者追わず』の精神をモットーにしながら生きてもきたし。暇が嫌いなことには一家言ある俺である。

 

「ま、いいや。とりあえずその・・・永久監獄? 無限牢獄? 監獄戦艦?だかなんだかって言うのをブチ壊したいんだけど、ブチ壊しちゃって大丈夫?」

『は? ――い、いや脱出法法があるなら有り難いが・・・まず無理だと思うぞ? 伊達に《無限牢獄》などという名前が付けられているわけではない。この牢獄の結界は絶対誰にも破れぬとされている術だからこそ、我を封印するのに使われたのであるからして・・・』

 

 いや、知らねぇし。絶対に脱出不可能と言われた牢獄だから逃げ出せないならアルカトラズ脱獄犯捕まえてきて戻してみろだし。

 

 それに。

 

「絶対に破れないとか聞かされると、絶対に破ってやりたくなるだろ。特に理由はなくても本能的に。

 破ってやって、『絶対破れない』とか慢心しきって偉そうにしてた奴のしたり面を驚愕に歪ませながら『ザマーミロ!このクソ野郎!』とか声に出して笑ってやりたくなるだろ? 普通なら」

『お前・・・・・・どんだけ捻くれた天邪鬼な精神してるのだ? 普通そこまで捻くれるの魔王でもあんまいないと思うぞ』

 

 うるさい。超うるさい。よそはよそ、うちはうち、俺は俺なんだよ。

 俺の普通だと『絶対』って聞かされたら『絶対なんてこの世にあるか馬鹿野郎!』とか言って舌出してやりたくなるのが普通なんだよ。

 

 

 ―――確認しました。対理耐性獲得。成功しました。

 

 ・・・あん? 今誰か何か言ったか?

 

「・・・ま、いいや。とにかく壊そう。絶対を壊そう。絶対に出れないとされてる者から外に出せりゃどうでもいいんだし。後は知らん」

 

 ―――確認しました。ユニークスキル《天上天下唯我独尊》を獲得。成功しました。

 ―――続いて、エクストラスキル《拒否る者》を獲得。

 ―――さらに続けて《拒否る者》を、ユニークスキル《我道を征く者》に進化させます。

 

 ―――全部成功しました。

 

 ―――最後に、全てを統合して一つのオンリーワンスキル《絶対拒否》を獲得。成功しました。

 ―――あなたは今このときより、既存世界全ての《敵》と認定されます。

 

 

「・・・さっきから頭の中でゴチャゴチャとうるさいなー・・・。いいからとっととこの透明な壁、ブチ壊れちまえよクソ野郎―――――――っ!!!!!!!!」

 

 

 ドガッシャァァァァァァァァァァァァァァッッン!!!!!!!!

 

 ―――《無限牢獄》の絶対性が《絶対拒否》の圧力に耐えきれなくなって破綻しました。

 ―――《無限牢獄》は絶対性を損失して、ただの結界となり消滅させられます。

 

 

 

 

「『・・・・・・あれ?』」

 

 

 ・・・壊れたな。無限牢獄だか絶対監獄だか監獄戦艦だかが・・・・・・。

 

 ・・・・・・うっそ~ん・・・・・・。

 やると言ってみたけど、出来るとは思ってなかったから、この先どうすればいいのかわからなーい。いやはや―――マジどうしようか、これ・・・?

 

つづく?


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