今後はこう言った試作品系のを読んでもらって試す場所として『試作品集』を多用したいと思っております。
――これは物語である。
かつてこの世界は『求める心』で創られたと言われています。
人々が『求め』『イメージする想念』がこの世界に『現実』という名の『物』を生み出していたのです。
ですが戦いが起き、『物』が減って人々が奪い合い続ける戦乱の時代が長く続いたことで人々は、『求めること』は『戦うこと』と考えるようになり、やがて人々の心から『求める心』は消えていき、『物をイメージする心』までも無くしていってしまいました。
求めなくなった人々は、『それ』が『そこにある』ことまで『イメージできない心』しか持つことが出来なくなってしまったのです。
やがて世界は平和になりました。
求めることを恐れる、虚ろな心で満たされた争いのない平和な時代がやってきたのです。
でも、どうか皆さん。
『求める心』を恐れることなく、思い出してください。
『求める心』は『イメージする心』です。
目の前にある『物』は、そういう『物』だからと決めつけないでください。
それが『そうある』のは、あなたがそれを『そう言う物だ』と『イメージする心』を持っているからです。
あなたの『イメージする心』で『物』は変わります。『求められた世界』は変わります。
世界が『そう』なのではなくて、そういう世界が『求められてしまっている』ことを、どうかわかってあげて欲しいのです。
私は『求める心』を求めます。求める世界をイメージします。
『平和な世界を求める世界』をイメージし続けます。
どうか皆さん。私を思い出して下さい。私を求める心を思い出して下さい。
私は全てを与えます。限りなく、限りなく与え続けます。
私の名は『愛』です。
『求める心』を持つ人々よ、どうか私を見つけて下さい。私の元へと歩んできて下さい。
私は私を『求める心』で現実を生み出せる『イメージする心』を持つヒトが来ることを信じています。イメージして求め続けています。
『愛のイメージ』を『求める心』で現実にできる人が来る日を、イメージしながら求め続けているのです・・・・・・。
――これは物語であり、物語でしかない。
世に数ある伝承の一つを繋ぎあわせただけの戯言だとさえ言ってもいい。
だが、この物語に出合った物が何かを感じて誰かとのつながりを得たのであれば、それが『愛』だ。幻想が現実を生み出した瞬間である。
願わくば読者諸君が、この物語を現実での『愛』を得るため使い捨ててくれることを願ってやまない。「女神の愛の物語」作者「草の語り部ポギール」
「ん、面白かった」
ポトス村にある一軒家の中で一人の少女が満足そうに吐息する。
まだ年若い少女だ。多くても十代の半ばには達していないだろう。
雪のような銀色の髪と大きな茶色の瞳を持つ、大人しそうな女の子だ。
もっとも、半ズボンをはいてボタン留めのシャツを着ている格好から、顔や雰囲気とはだいぶ異なる性格を有していることもうかがい知ることが出来る不思議な印象の女の子でもあったけど。
彼女は自分の小さな背丈と比べて、大きすぎるサイズの本を読み終えてホッと息をつくと椅子を降り、本を本棚へと戻すために歩み寄る。
その家は本と、本棚ばかりが置かれてあって、他には必要最低限の家具が適当な位置に置き忘れたかのように配置されていた。
物には満ちているが、雑然とした印象はない。整理整頓が行き渡っているからだろう。
どこに何があって、どこにしまうべきなのかが、きちんと『イメージできている』持ち主に扱われているからなのか、まるで本棚と本たちまでもが『自分たちは読まれるための物だから』と読んでくれる人を『求める心』でも持っているかのように、訪れた者を睡眠欲より読書欲に走らせそうな、そんなイメージに満ちた家だった。
「――ん?」
本をしまっておく本棚の前に着いた時。突然室内が光に満たされて、朝だというのに窓を開けてある家の中を、普段よりもさらに明るく光り輝いた白色で染め上げる。
「・・・・・・何だったんでしょう? 今の・・・」
しばらくして光が止み、それ以降とくに何の変化もないのを確認してから少女は家の外に出て周囲を見渡す。
そして、村の仲間でもある近所のおばあさんが歩いているのを見かけると、近づいていって声をかける。
「こんにちは、お婆さん。今さっきの光が何だったのかご存じありませんか?」
「おやまぁ、ウェンディじゃないか。さっきの光かい?
滝の方の空にスゴい光が見えたんだよ。ありゃ何だったんだろうねぇ」
「滝の方・・・ですか?」
「ああ。――なんだかあたしゃ、悪い予感がするね。くわばら、くわばら」
お婆さんは嫌悪感もあらわに言って、身震いまでしてみせてきた。
ド田舎の辺境にあるポトス村の住人たちは良くも悪くも前例尊重の習慣があり、変化をあまり好まない。
それが穏やかな気候からくる穏やかで仲間内の争い合いのない、平和で平凡なポトス村を形作っている訳でもあるが、逆に言えば今までとは違うことには極端に弱い。
その上このお婆さんは若い頃に村の掟をやぶって罰を受けたことがあり、殊の外ルールには口うるさい。なので後半の彼女の言葉は、そういう事情と風土から来ているものだと察せられる程度にはマセている女の子――ウェンディは「悪い予感云々」については気にすることなく、先に登場していた固有名詞の方を気にしていた。
(滝の方・・・・・・たしか『兄さん』たちが今日の昼に度胸試しに行くだとか何とか言ってた場所ですね・・・)
ボブとネス、村の悪ガキ代表二人組の口車に乗せられて、人のいい『兄』が付いていきたそうにしている姿を昨日の夕方目撃していた彼女は不安を覚え、お婆さんに礼を言ってから足早に村の入り口へと向かうと案の定、息を切らせたボブとネスが逃げ帰ってくるのが遠くに見えた。
その後ろに『兄』の姿がないことを確認した彼女は、悪い予感が的中したことにイヤな気分を覚えて立ち止まると二人が来るのを待ち、「安全な場所まで逃げ延びられた」と思い込んでへたり込む二人の前に堂々とした足取りで歩み寄る。
「はぁ、はぁ・・・こ、ここまで来れば大丈夫だよね? ボブ・・・はぁ、はぁ・・・」
「ああ・・・はぁはぁ・・・あ、当たり前だろ? ここは村の中なんだぜ? まさか魔物もここまで追ってこれるわけが・・・・・・げげっ!? ウェ、ウェンディ・・・」
「こんにちは、二人とも。魔物がどうのと言ってましたが・・・それよりも一緒に遊びに行ったはずの兄さんは? どこにいるのですか? 一緒に帰ってきてはいないようですけど?」
「ら、ランディの奴は、えっと・・・」
「た、滝壺に落ちていって、俺たちは大人たちの助けを借りようと走ってきたら、魔物にあっちゃって・・・」
「そ、そうなんだよ! 魔物だよ! 魔物がでたんだよ! こんなこと俺たちが生まれてから一度もなかったことだろ!? だから俺たちは少しでも速く村長にこのことを報告しないとと思って村まで走ってきたから疲れていて・・・」
「こ、これから村長んちには行くつもりだったんだ! 嘘じゃねぇよ! その時にはついでにランディのことだって――――」
ウェンディは彼らの話が言い訳に変わった辺りから、ほとんど聞いていなかった。むしろ悪い予感が当たりすぎていたことから不安なんてものじゃなくなって、大急ぎで家に戻ると準備を整え村を出て、滝壺へと続く道を全速力で走り始めていた。
途中で『相棒』を呼ぶために合図の指笛を吹き、頭の上に『乗っかってきた』のを感覚で確認すると速度を上げ、相棒にも協力してもらいながら兄の元へと急いだ。
「“バビ”! 滝壺です! できるだけ魔物がいない道を通りたいのですけど、わかりますか!?」
「・・・・・・」
言葉がしゃべれない相棒は、行動で返事をしてくれてウェンディは彼を信じ、ただ後へと続く。
その先に何が待っているのかなど、まるでイメージしないままに――――――。
「よ、よし。この剣があれば草が切れて村に帰れそうだぞ・・・・・・」
臆病そうな少年の声が、森の中に小さく木霊する。
頭にバンダナを巻き、格闘技を習っているわけでもないのに拳法着っぽい服を着込んで帯を締めた、十代半ばほどの男の子だ。
その姿格好からは、自分を『大きく見せたい』『立派に見せたい』とする思いを見た目で体現しようとしている“背伸びしたい年頃”な性格がありありと見て取れる少年だった。
「・・・それにしても、この剣はいったい何なんだろう? なんだか気味が悪いなぁ・・・」
少年は、右手に持って先を行くのに邪魔な草を切り払っている【錆びた長剣】を、薄気味悪そうな目で見つめる。
滝壺に落ちた先にあった岩に刺さっていた剣。誰かに呼ばれた気がして行ってみたら『この剣を抜くように』と声がして抜いてみたら、会ったこともない騎士の姿をした男の人の幽霊が出てきて自分の名前を呼び『剣を頼む』とだけ言って消えてしまった。彼でなくても怖いと思うのが当たり前の状況だったことだろう。
「と、とにかく村に早く帰らなくちゃ・・・・・・うわっ! またラビがこんな所にまで!」
だいぶ昔には人間たちを襲っていたと言われる魔物たちだが、今ではそんな魔物は大きく数を減らして、辺境の魔窟などにひっそりと暮らしているのが当たり前の時代。
そんな時代だから魔物の中でも最弱の存在、ウサギとコウモリが合わさったような不思議な姿をした魔物『ラビ』もまた、普段は人里離れた山奥で人に見つからないようひっそりと暮らしている生き物のはずだった。
それが先ほど剣を抜いてからは何匹も遭遇し続けており、どういう訳だか戦うことが出来るようになった自分の体のお陰で殺されることなく村の近くまで来れたのに、ここまできて殺されてしまっては堪らない。
「や、やってやる! やってやるぞ!
ボクだって男なんだ! やればできる! ていやーっ!」
剣を持った少年――ランディは、大きく距離を取ってから助走とともに走り出して、目前に現れた魔物『ラビ』めがけて剣を叩きつけるため大ジャンプして、
「待って下さい『兄さん』! その子は『バビ』です! 敵じゃありません!」
横合いから『妹分』に呼ばれる声がして、ハッとなって眼下にいるラビを見下ろす。
――本当だった。確かにこいつは『バビ』だ。その証拠に、耳には妹分が目印にと付けてやった『リボン』が巻かれている。二年前の誕生日にランディ自身が送ってやったものだから覚えている。
(たまたま村にやってきてた猫みたいな行商人さんから買ってあたんだよね、確か。
・・・生まれて初めて女の子に買ってあげたプレゼントが、ラビを見分けるために使われた時はショックだったなー・・・。結構高かったんだけどなぁ、あのリボン・・・・・・って、うわぁっ!?」
大ジャンプしている最中に考え事してしまった報いとしてランディは飛びすぎてしまい、そのまま藪の中へと大ダイブ。
ウェンディからは「うわぁー・・・痛そう」と、ありがたくない感想をもらい、ウェンディの相方でペットみたいなものになったラビのバビからは「・・・・・・」と、しゃべれないので無言をもらった。
「・・・・・・」
「・・・・・・なんだよ?」
「・・・・・・」
まるで笑ってる時のような顔が普通の顔という、奇妙な生物ラビ。
・・・・・・村まで来る時に出会った奴らのは気にならなかったけど、負い目が出来てから改めて見つめられるとなんか言いたそうで言わない腹立つ奴の顔に見えなくもなかった・・・・・・。