試作品集   作:ひきがやもとまち

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「となりの吸血鬼さん」を私流にアレンジして書いてみた作品が見つかりましたので投稿しておきますね。バス移動時間中は暇なのです。


となりに住んでる吸血鬼部隊の孫娘

 

『ごく普通の街中にある不可思議な洋館。そこには一人の少女が住んでいて、赤い月が昇る夜にだけ姿を見せるという・・・。

 血のように赤い瞳、水銀を溶かしたような銀色の髪。この世ならざる美しさと妖しさを併せ持った、その妖艶なる少女の正体は道に迷った娘を浚い館に封じ込める伝説の怪物【吸血鬼】なのかもしれない・・・・・・』

 

 

 

「――って、記事をネットで見つけたから来たのに道に迷っちゃったよ~(涙)」

 

 滂沱のように涙を垂れ流しながら夜の森をさまよい歩く黒髪黒目に黄色色の肌という典型的な日本人少女のオカルトマニア佐伯和子は、街中なのに県外扱いで使えなくなってしまった携帯を胸に抱えたまま同じ地点をグルグル、グルグル回り続けていた。

 

「オカルト研究会で来月の出し物に使おうと思って吸血鬼捕まえに来たのに、捜索隊が遭難しちゃったよ~(涙の滝)」

 

 嘆き悲しむ姿が、どこぞで全滅した捜索隊を彷彿とさせなくもない女子校の制服を着た女の子、佐伯。この近所に住んでる知り合いから「それっぽい洋館ならここにあるかも」と教えて貰った情報を頼りに夜の森まで着たところ遭難中。

 その時に――――

 

 

「こんな時間に、こんな場所で何をされているのです?」

「うひゃあっ!?」

 

 

 先ほどまで誰もいなかったはずの背後から突然声をかけられて、驚きながら振り返った先にいたのは銀髪赤目で小学生ぐらいの背丈を持つ女の子。肌が白いし、着ている衣服も現代日本の流行とは懸け離れたクラシックな物。

 

 ―――どっからどうみても吸血鬼そのものな見た目を持つ少女に、吸血鬼捕獲目的で訪れた見世物小屋経営者志望の女子高生としては恐怖する以外に選択肢がない。

 

「あわ、あわわ、あわわわわわ・・・・・・きゅ、きゅきゅきゅ吸血鬼・・・・・・?」

「え?」

 

 己が正体を言い当てられたことに驚いたのか、相手の吸血鬼は眼を開いて佐伯を凝視し、なにかを思い出すような仕草で満月が輝く夜空を見上げてからポンと手を打つ。

 

 

「ああ、なるほど・・・確かに完全なる勘違いとまでは言えない素性でしたね、私って。

 ――ですが、この見た目のことを言っておられるなら勘違いですよ? 私は日独クォーターでアルビノなので肌が弱く、環境破壊が著しい日本の紫外線が辛すぎるから夜に出歩いているだけです」

 

 普通に外国人だった!?

 しかも、現代日本が抱える社会問題の被害者っぽい!?

 

「こ、こんばんは。変な勘違いしちゃってたみたいでごめんね? 私、肝試しに来たんだけど来た道が分からなくなっちゃって、迷ってる内に同じ景色がずっと続いて吸血鬼に化かされているんだとばかり・・・」

「当然の結果なのではないでしょうか? 夜中に森の中で正規の道を外れてしまったら誰だろうと道に迷うでしょうから」

 

 正論だ! これ以上ないほど徹底的に容赦ない完全無欠の大正論だ!!

 

「まぁ、とりあえずは入り口までお送りしますよ。私は慣れてますから道に迷う心配もありませんし、安全に帰れますよ?」

「ほ、本当に? ありがとう~! 助かっちゃったよーっ!

 ・・・あ。でも、あなたはどうしてこんな時間のこんな場所にいたりしたの? 小さな女の子が入ってきていい場所じゃないし、時間帯でもないんだよ?」

「日課というか、定期的に行うよう言い付けられてる祖父の遺言を遵守しているだけです。本当なら今時はやらない類いのことなんでしょうけどね。お爺ちゃんっ子なんですよ、私」

「へぇ~、そうなんだー。それでそれで? 一体どんなことをするよう言いつけられてるの?」

 

 興味本位で尋ねてしまった佐伯。

 特に気にした様子もないままサラリと返してくる銀髪赤目の日独クォーター。

 

「夜間に現在地を把握しづらい地形において行う、敵地浸透訓練です」

 

 何者なの!? あなたのお爺さんは一体どこの何者なの!? 吸血鬼よりも怖いことした人たちの一員じゃないよね!?

 

「へ、へーそうなんだ・・・そ、そそそう言えばあなたは知ってるかな!? この森って実は吸血鬼が出るかもって噂のある怖い森なんだよ!? 怖いよね-!?」

 

 空元気で全力を出し、話題を逸らそうとする佐伯。

 空気を読んだ日独少女も話を合わせてくれたのか、普通に先ほどの話題は脇に退かしてくれた。

 

「ふむ、確かにそれは恐ろしいですね。吸血鬼と言えばファンタジーの定番ボスキャラですから」

 

 お、食いついてくれた! 吸血鬼ネタはこの子にもセーフだ!

 

「なによりも祖父から聞かされた昔の愚痴を思い出させられて困りものなんですよ。あの人も吸血鬼伝説には色々と迷惑をかけられた人でしたから」

 

 へぇ、怖いお爺さんかと思ったら怪談話に迷惑かけられるなんて可愛いところもあるじゃなーい♪ ちょっとだけ親近感がわいたから話題もちょっとだけ戻してあげよーっと。

 

「あなたのお爺さんって、どんなお仕事してる人だったの?」

「ナチス武装親衛隊総統特務班所属、通称『吸血鬼部隊』の連隊長で階級は少佐だったそうですよ?」

「アウトーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!」

 

 佐伯絶叫! やっぱダメだった! そのお爺さん、やっぱり吸血鬼よりヤバい人だった!

 怪物以上に今という時代を生きてちゃいけない人だ! この時代からいなくならなくちゃいけない過去の亡霊だ! 居るべき墓場へ帰れーーーーーーーっ!!!!!

 

「・・・??? なにやら混乱しておられるようですが・・・もし気分が優れないようでしたら、うちで休憩されていきますか? お茶ぐらいなら出せますけど・・・」

「い、いや流石にそれは・・・お爺さん居たら怖すぎるし、殺されちゃいそうだし・・・」

「話聞かれてましたか? 『祖父の遺言』って言ったはずでしょう? 五年以上も前に亡くなってますから、祖父を怖がってるなら杞憂という物です」

 

 呆れた口調と表情で言った後、肩をすくめる所作をプラスで付け加え、

 

「ついでに言えば、亡霊とか呪いとか非科学的でオカルティックなのも論外です。科学万能が叫ばれている現代で、そんな迷信じみたものを信じ込むからヒトラーみたいな妄想独裁者が生まれもする。いやはや、困ったものですよね本当に」

 

 やれやれと言い足そうな表情で言い切る少女の前で、佐伯は思う。

 

 ――なんでナチス軍人の孫娘から現実諭されてる私って、いったい・・・・・・。

 

「・・・うん、それじゃあちょっとお邪魔させて貰おうかな・・・。なんか疲れた・・・」

「そうですか。では、どうぞこちらに」

 

 

 

 そして案内された少女の自宅を目にした第一声が、コレ。

 

 

「わー☆ まるで本当に吸血鬼が住んでる屋敷みたーい!

 中世ヨーロッパの雰囲気出てるー♪」

 

 佐伯の言うとおり、そこは中世の古びた洋館そのものであり、二十世紀の軍隊ナチスの軍人が住んでいた頃よりずっと前から存在していたと言われた方が説得力がありそうな造りをしていた。

 

「・・・実はこの屋敷は曰く付きな建物でしてね・・・・・・」

 

 顔を伏せながら少女が言って、佐伯は息を飲む。

 ――やっぱりお爺さんがナチスに入ったのも、この屋敷が原因・・・・・・

 

 

「実は、この屋敷の元の持ち主は日本の華族でしてね。戦後に没落して手放さざるを得なくなったところを、骨董商で財を成した父が買い取り改修したものなんですよ。

 つまり、戦前と戦後日本の支配者層が移り行く中で持ち主を変えてきた曰く付きの建物という訳で」

「そっち!? 日本史的な意味での曰く付きな洋館なの!? 思いっきり洋風建築してるのに!?」

「ああ、ちなみに調度品の大半は父が同業者から購入した名品のレプリカでしてね。なんでも『応接間などの人に見える場所以外で真贋にこだわり金をかけるのは無駄だ』とのことでして。

 やはり外国から来た余所者の商人が異郷の地で成功を収めるには、それぐらいの現実感覚は必須と言うことなのかもしれませんねー」

 

 幻想的な見た目をしているオカルティックな軍隊のお孫さんが、夢と幻想を次々と打ち砕いて下さってくる!?

 

「ま。とりあえずは、どぞ中へ。今お茶を入れてきますから」

「・・・はーい・・・・・・」

 

 

 出だしから出鼻を挫きまくる少女に誘われ入館した佐伯であったが、意外にも屋敷の内装そのものからはオドロオドロシイ印象をまるで受けず、むしろ落ち着いて考え事をしながら中世ヨーロッパ貴族の生活を想像するのにピッタリな威厳と優美さを醸し出していた。

 

「自分から招いておいて大したおもてなしも出来ませんが、紅茶でもどうぞ」

「わー♪ アッサムティーだ! ありがとー♡」

 

 供してくれた紅茶を容れる器にも(レプリカとは言え)伝統的な西洋磁器であるマイセンのカップを用いてくれている。

 おまけに茶葉はアッサム。貴族が好みそうな派手だけど品のある真紅色が堪らない。

 

 しかも。

 

「うわ、何これ!? スゴくおいしー!!」

 

 佐伯、大喜び。それほどまでに少女が煎れてくれた紅茶は美味しくて、舌触りも湯加減も絶妙。見た目だって真贋を知らずに飲めば高級感溢れる贅沢感に満ちたもの・・・ほんの一時、庶民に生まれた不遇を忘れて貴族社会の一員になれた気分に浸る日本人女子高生佐伯。

 

 ・・・たった一杯の紅茶でここまで過剰に貴族感を味わえる先進国の民も、世界的に見て希だと思う今日この頃だ。

 

「祖父が生前に愛好していた茶葉でしてね。孫の私にも色々と手ほどきをしてくれたものです」

「へー。お爺さんって、紅茶にこだわる人だったんだぁ~」

 

 イメージと違うが、誰だって最初は純粋無垢な子供として生まれてくる。大人になるにしたがって世渡りを覚えて歪んでいったとしても、子供の頃の美しい思いでは永遠・・・。

 

“きっと彼も、子供の頃に故郷で飲んだ紅茶の味は死ぬまで覚えていたんだろうな~・・・”

 

 そんな風に他人の過去を美化して美談風に解釈してしまう日本人の悪癖を遺憾なく発揮している佐伯に向かって少女は頭を振りながら、

 

「いえ、味とか香りとかはどうでも良かったみたいですよ? “大事なのは色だ”とよく言ってましたから」

「そうなの? 確かに綺麗で鮮烈な色だと思うけど、そこまで単色にこだわる程じゃあ・・・」

「私も正しく理解できていないのですが・・・“血みたいな紅色が堪らない”とのことでした」

「ぶっ!?」

 

 佐伯、盛大に吹き出す。

 

「もともと祖父の実家は没落した保守的貴族のユンカーだったそうですので、子供の頃から成り上がりの平民階級にたいして憎しみを抱いていたからかもしれませんねー。・・・どうかされましたか? なんだか顔色が悪いみたいですけど・・・お背中でもさすります?」

「・・・その反応で悪意0なことは分かったんだけど、出来れば戦争を知らない現代日本の高校生世代の気持ちにも少しだけ配慮して会話して欲しいかな・・・」

 

 戦争を忘れた国で育った子供と、心を戦場に置き忘れたままの祖父に育てられた子供の壁は、同じ国で生まれ育ってもブ厚くて険し過ぎるようだった。

 

「は~あ~・・・この屋敷って、お爺さんのことさえなければ最高なんだけどなぁー」

 

 佐伯としては、溜息を吐かざるを得ない。

 何しろ彼女はオカルト好きであっても、遊び半分で肝試しに来て吸血鬼と出会い恐怖する程度の“にわか”だ。本命は別にある。『ファンタジー』だ。

 

 特に中世騎士道系の物語が大好きで、オカルトに手を出すようになったのもファンタジー関連知識を集めていく内に変な方面にまで手を伸ばしてしまう日本人の悪い癖による結果に過ぎない。

 あくまで本命はファンタジー。聖剣エクスカリバーとか、デュランダルとか大好きです。

 

「そうだ! この屋敷にもそういう曰く付きの伝説的感じのする武具とかない!? 神の祝福を受けた聖剣とか! 岩に突き刺さってたのを抜いた聖槍とか! そういうの!」

「流石にそう言うのはちょっと・・・間違いなく銃刀法違反に引っかかっちゃいそうですから日本では・・・」

 

 元ナチスSS隊員の孫娘で日本生まれ日本育ちの少女は、純粋な日本人女子の佐伯よりも豊富な順法精神の持ち主である。

 

「模造刀ならありますけど・・・父が少し前に日本の鍛冶屋で買ってきた、日本製ですからねー。出来はいいとは言え、そう言うのは求めていないのでしょう?」

「・・・確かに、日本製なのはちょっと・・・・・・」

 

 昨今の刀剣ブームで脚光を浴びだした日本鍛冶師の模造刀技術。世界的に見ても極めて高い水準にある彼らの作る武具類のレプリカは純洋風な造りの屋敷の中に点在してます。

 世界中の至る所で散見される小さな日本。現代日本人はもっと自分たちの磨き上げてきた匠の技を誇るべきだと私は思う。私って誰やねん。

 

「・・・強いて“其れっぽさ”を感じられる品があるとすれば、コレぐらいですかね」

「わー♪ ナイフだー! ちょっと古い感じがスゴくいいねー!」

 

 少女が引き出しを開けて持ってきてくれた箱の中に納められていたのは、一振りのナイフ。

 柄の真ん中に小さく十字が描かれている以外に装飾らしい装飾はなく、シンプルなデザイン。

 だからと言って実用性一点張りという訳ではまったく無く、どちらかと言えば儀式とかで用いられていた祭具めいた厳かで神々しさすら感じさせてくれる、作り手たちの思いと技術が詰まった特別な逸品。

 

「スゴいスゴい! これってどんな逸話があるナイフなの!? 教えてー! お願いだから教えてよー!」

 

 素人目で見ても、其れが只の市販品ではないことぐらい一目瞭然なほど『格の違い』を感じさせてくれるナイフを食い入るように見つめながら、子供のようにはしゃいで訊く佐伯。

 

 悪魔や魔物と戦う武器としては使い物にならないのは分かるが、逆に王家の一員である事を示す先祖伝来のアイテム的雰囲気に包まれたナイフに興味津々な彼女に気をよくしたのか元ナチスSS隊員の孫娘は微笑みを浮かべながら優しい口調で説明してくれました。

 

 

「祖父は当時、最年少でSS隊員に選抜された秀才だったとかで、親衛隊に配属された際『マイン・ヒューラーから直々にナイフを拝領する栄誉を賜ったのだ』と生前に良く自慢話をされておられましてね。そのナイフはその時に頂いた物なのだそうです。

 『このナイフでユダヤ人どもの皮を何十人分這いでやったのだ』と、子供の頃に寝物語でよく聞かされておりました・・・・・・って、おや? もうよろしいのですか? まだ見ていても大丈夫ですよ?」

「・・・・・・いらない。呪われそうで恐いから・・・・・・」

 

 佐伯、蒼白な顔色になりながら『人の夢と書いて儚いと読む』現実を思い知る。

 今日は夜だけ波瀾万丈な一日だった―――。

 

 

 

オマケ『他のネタ候補たち』

 

佐伯「昨日やってた夏休みの怪談特集見た? この世に未練を残して死んだ人たちの怨念とか怖すぎるよね~」

孫娘「ふむ・・・確認のためお聞きしますが、それは私が世界一髑髏の旗が似合う死神の軍団に所属していた祖父を持つ者と知ったうえで訊いていると解釈して良いのですよね? 正直、今さら死者が怖いだと言う資格ないぐらいに殺しまくったお金で養育されてきたんですけど・・・」

佐伯「変なところで潔い罪悪感の持ち主だなこの子!?」


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