試作品集   作:ひきがやもとまち

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今年も終わりですね。良いお年を&今年一年お世話になりました!
・・・と言う訳で「俺ガイル」二次創作です。(どういう理屈だ?)

私にとって二次創作の原点とも言うべき名作を模倣して色々と書きまくっている時間逆行TS八幡作品を諦めきれずに再挑戦!(時期が最悪!)今年最後は執着心で決めるぜ!

内容としては、八幡がもし『ひねくれ美少女として生を受けていたら』のIF話です。


やはり俺は女子小学生に生まれていても青春ラブコメをまちがえていたと思う。

 青春とは嘘であり、悪である。

 青春を謳歌せし者たちは常に自己と周囲を欺き、自らを取り巻く環境のすべてを肯定的に捉える。彼らは青春の二文字の前ならば、どんな一般的な解釈も、社会通念もねじ曲げて見せる。彼らにかかれば嘘も秘密も罪科も失敗さえも、青春のスパイスでしかないのだ。

 仮に失敗することが青春の証であるのなら、友達作りに失敗した人間もまた青春のど真ん中でなければおかしいではないか。しかし彼らはそれを認めないだろう。すべては彼らのご都合主義でしかない。

 結論を言おう。青春を楽しむ愚か者ども、砕け散れ。

 

 

 

 そういう趣旨の作文を国語の宿題として提出したのが今日の午前中、ヅラ校長によるありがたくない朝礼が終わった直後でのこと。評価が下されたのが午後におこなわれた最初の授業がはじまる前。

 給食を食い終わってから昼休みが終わるまでボーッとしているしかない暇な時間に、言いに来てくれても良さそうなものなのにといつも思う。

 

 そして今。授業がはじまる前に言われたとおり放課後になってから訪れた職員室で、俺は先ほどから無駄な駄話に付き合わされ続けていた・・・。

 

「なぁ、比企谷。先生はな? 怒っているわけじゃないんだ。ただ、正直に話して欲しいと思っているだけなんだよ」

「はぁ」

「どうして、こんな内容の作文を書いて出してきたんだ? お父さんたちとケンカでもしたのか? 何かイヤなことでもあったのか? 何でも言ってみなさい。先生っていうのは生徒たちの悩みを解決するのがお仕事だからな! 何でも聞いてやるぞ!」

「・・・はぁ」

 

 2年5組担当の平沢動先生が暑苦しい笑顔と筋肉をキラキラさせながら、俺に大声で熱弁を振るってきている。面倒くさいパターンだった。

 仮にこの場でこの質問に正直に答えた場合のことをシュミレートしてみよう。

 

 

『先生が先日の授業中に出した宿題【みんなにとって青春とは何だ!?】をテーマにした作文を、俺なりに素直な気持ちで正直に書いて提出したんです。近頃の小学生は青春のことをだいたいこんな感じで捉えているんじゃないでしょうかね?』

 

『よし、わかった。歯を食いしばれ比企谷』

 

 

 ――と、こうなるのは目に見えている。だから正直に答える答えるわけにはいかないのだといい加減気づけよ脳筋教師。まだ桜が咲いてる時期だってのに、半袖短パン履いて出勤してんじゃねぇよ。仕事着自由だからって自由奔放すぎるだろ、この学校の職員採用規定。

 

 いやまぁ、この先生は脳味噌筋肉の脳筋だけに本能で危険を察知して避ける能力に長けてるから、実際に殴られることはないんだけれども。せいぜいが裏庭の草むしりとか荷物運びとかを『お手伝い』として無理矢理付き合わされるだけなんだけれども。

 だからこそ却って本当のこと言えない先生ナンバー1な我が小学校担任の平沢先生。

 学生時代に数学『2』で、計算苦手な癖にリスクリターンの計算だけは早い小物気質とかホントウザい。死ねば?

 つか、死んでくださいお願いします。この通りです。いや、ホント。マジでマジで本気でウザすぎるから。

 

 

 表面上は返事しないで黙り込んだままな俺の内心には気づくことなく、気にすることなく先生は「はぁー・・・」と大きな大きな溜息を吐いてから、俺の顔をチラリ。

 

「比企谷。お前は、部活動やってなかったよな?」

「はい」

「クラブ活動とかはやってたっけか?」

 

 俺の所属クラブを知らないこと前提で聞いてくる、俺のクラスの担任教師。

 

「平等を重んじるのが俺のモットーなので、特に親しい人間がいないクラブに、名前だけ入れとくようなことはしない事にしてるんですよ俺は」

「つまり、入ってないということだな?」

「端的に言えば、そうですね」

 

 俺が遠回しな非難を込めて答えると、平沢先生はやる気に満ち溢れた(要するに気持ちだけしかない)笑顔をペカーっと輝かせる。

 

「よーし! それじゃあこうしよう。この作文はお前の本心を書いた物じゃなかったということにしておくから、明日までに書き直してくるんだ。いいね?」

 

 さも『名案だ!』とでも言い足そうな顔で言うな。お前がそのままだと上に提出できないだけだろうが。

 

「・・・そうだ。せっかく来てくれたんだしタダで返すのも悪いから、裏庭の草むしりを頼んじゃっていいかな? 終わったらジュースおごるからさ」

 

 こんもりと盛り上がった大胸筋を見せつけながら平沢先生は立ち上がり、俺の肩を叩きながら言ってくる。

 説明も前ふりもない急な提案に、俺は『アンタ今思い出しただろ、その厄介事・・・』と言う背景を見せられた気がして眼が腐りそうになる。

 

「よし、行っていいぞ。手早く済まして来たら、ご褒美の追加があるかもな?」

 

 ニカッとした笑顔で微笑みを向けられ、俺は慌てて逃げ出した。

 これ以上ここにいて余計な物を追加されたくない。『ジュース一本で草むしり』なんてブラック労働だけで十分すぎる労働法違反なのだから。

 

 

 

 

 うちの学校は上空から見下ろしてみると、少し歪な形をしている。

 漢字の口、カタカナのロによく似た配置で周囲を取り囲むよう真ん中の空欄に教職員棟を付け足してあげれば、我が愛すべき母校の俯瞰図が完成する。

 真ん中から四方を見張って支配しているようにも見えるし、逆に四方を囲まれて監視されてる風に見えなくもない。

 

 結局は、善とか悪とか、正しいとか間違ってないとか特殊とかと同じで、見る人の基準――主観によって定義が変わってしまう程度のものなんだろう。

 ほら、特殊って英語でいえばスペシャルじゃん? なんか優れてるっぽく聞こえるだろ。

 言葉なんて自分の意思を相手に伝えるためのコミュニケーションツールでしかないんだから、いいんだよそれで。誤魔化したいって意思が、ちゃんと相手に伝わって誤魔化せてるなら無問題。日本語の妙だよな。

 ・・・まぁ、specal!には『例外』って意味もあるから多分そっちの方が俺の今を表すには相応なんだと思うけど、俺理数系苦手な文系だからな。英語ヨクワカラナーイ。HAHAHA!

 

「・・・・・・むなしい・・・」

 

 一人つぶやき、俺は先ほどから雑草狩りに勤しまされてる現実から目を背けるためおこなっていた愚にもつかん思考を一端停止させる。

 

 初夏というにはまだ早く。都道府県の位置的理由から海風が心地よく隙間風として入ってきやすいここいら一帯。

 

 ――それをあろうことか校舎の壁で取り囲んで封鎖してしまった孤独な孤島の、なんと蒸し暑くて気持ちが悪い最低最悪の労働環境なことだろうか。職場のブラック環境ここに極まれりだ。消費者庁に相談すれば解決してもらえるかな? え、無理? ですよね~・・・。

 

「あげく、引っこ抜いた雑草を処分するための焼却炉は反対側の教職員棟裏側にあるんだもんな。もうこれ嫌がらせ目的のパワハラ認定して然るべきだと思うんですけど、これでも助けてくれないの? 日本の労働基準法・・・」

 

 出来もしないことと分かっていても言わずにはいられなくなるブラック職場。それが今の俺が毎日通ってきては働かされてる県立小学校の実態だったが、あいにくと今の俺の公的身分は女子小学生。社会人には含まれないアルバイト待遇なので労働法は適用してもらえない。早く大人になりたーい(妖怪人間風に)

 

 

 そんな風に思考がネガティブになっていたからだろう。ついつい、聞き耳を立てて他人の醜聞に敏感になってしまってたのかもしれない。

 遠くでかすかに聞こえてきた誰かによる誰かへの罵声に、俺は言葉の意味を理解するより早く気づいていた。

 聞こえてくる先は進行方向上。焦る必要も急ぐ必要さえもない場所。

 それでも俺は足を速めたくなる。

 

 一刻も早く、この重たいだけで後は燃やされる運命しか待ってない雑草という名の吹き溜めが詰まったゴミの集合体を捨て去りたくて仕方がなかったからである。

 

 そして、見つける。

 今まで何度も見たことのある一人の少女を。

 今まで何度も見てきたのに、今始めてみる表情をしている一人の女の子を。

 

 

「雪ノ下さんさー、最近ちょっと葉山君になれなれし過ぎない? もう少し空気とかノリとか読んで欲しいんですけどー」

「そうそう、ちょーっと家がお金持ちでお父さんとお母さんが上流階級だからって見下してきちゃってさー。

 頭いいくせして、お父さんたちが立派なだけで子供のアンタが凄いわけじゃないってことぐらいわかんないわけ? マジ情けない。少しぐらい世の中のこと学んできたら?」

「・・・・・・」

 

 一人の少女を取り囲んで、複数の少女たちが威圧的な言葉を投げかけ続けている。

 教職員棟の裏手というのは、ちょっとした死角だ。校門があるのと同じ正面方向にはマンションとかもあるから見栄えも気にするし、周囲からどこまで見られているかを気にするけど、裏側には校舎以上に高い建物が存在しないし、面積でも正面よりかは後ろの方が遙かに狭く作られてて見られる心配がほとんどない。

 

 普段、他人からどう見られるかを気にしながら生きてる連中にとってここは、他の人の目を気にしなくていい気楽な場所。取り繕ってる自分を脱ぎ捨ててゲスな本性を曝け出してもバレないですむ理想郷。

 

 そこで今、明らかな女子グループによる一人の女子生徒に対してのイジメが発生していた。

 

 その他大勢の方は一人一人を区別できるほど知らないし会ったこともないけれど、真ん中に立って黙ったままキツい眼で周囲の少女たちを睨み付けてる黒髪美人についてだけ、俺は知っていた。俺以外でも学校にいる連中ならほとんどの奴らが名前と顔は知っているだろう。

 

 2年2組、雪ノ下雪乃。

 県立であるうちの小学校には通常カリキュラムの他に特別進学クラスが追加でもうけられていて、希望する奴は放課後に受けられる仕組みになっている。

 彼女はそこの一員であると同時に、同じクラスのなんとか言う男子と双璧として異彩を放っている別格の存在が彼女、雪ノ下雪乃という少女だった。

 

 その男子と並んでテストの成績は常に一位か二位。小学生離れした美貌と、艶やかで癖のない黒くて長いロングヘアーの持ち主で、あとは「オッパイさえ大きく成長すれば完璧!」と、うちのクラスのバカな男子生徒が言ってたような言ってなかったような、そんな奴。

 

 ――ちなみにだが、俺の容姿はその男子生徒曰く「色々と完璧なのに、なんでそんなに残念なの?」との事。

 うるせぇ、マジ余計なお世話だ。おかげで雪ノ下を見る目に嫉妬のフィルターが入って正確に読み取れなくなっちまってるだろうがよ。

 

 

 ・・・だからおそらく、それが原因なのだろう。

 あの雪ノ下雪乃が。

 氷の女王のように君臨して相手の都合など無視して言うべきことをシッカリと伝えるところに畏怖の念を持たれている小学生離れした超優等生が。

 

 俺の目には今、泣きたくなるのを堪えて必死に我慢している幼くて小さな少女にしか見えなくなってしまっているのは・・・・・・。

 

 

「だいたい何? さっき私たちが声かけてあげた時の対応は? 一体何様になったつもりなのよ。人を馬鹿にするにも程があるでしょ」

「そーそー、あたしたちは葉山君がアンタのこと『口が悪いところがあるけど、悪い子じゃないんだ』ってゆーから、仕方なしにお情けで誘ってあげたって言うのになに勘違いしちゃってるんだか。マジ腹立つわ、アンタ」

「・・・・・・・・・」

 

 言われっぱなしで黙ったまま睨み付けるだけの沈黙。

 言わなくても分かるってのは傲慢だと俺は思っているし、相手の気持ちを勝手に『こう思っているに違いない』と決めつけるのだって逆方向への傲慢さだと感じているが、それでも今だけは声に出さない雪ノ下の思いを正確に読み取れたと俺は断言できる。

 

 目を見りゃ分かる。

 

 "そんなことは言われなくても分かってる。だから言ってやったんだ、バカども"

 

 そう言いたいのだろう。――細かい言い回しの違いは勘弁。俺、女だけど女言葉苦手なんだよ何故か。

 

 葉山というのは、特進クラスで双璧やってる男子のことだろう。染めたわけでもないのに明るめの色した髪色が特徴的で、周りへの接し方が荒っぽければ絶対不良呼ばわりされてたことは疑いないイケメン男子の名前だきっと。

 これまた理由は不明だが、男よりも女の方が好きな俺は男子の名前をハッキリ覚えている自信がないので曖昧になっちまってるが、多分あってるだろ。たぶんだけどな。

 

 そいつと雪ノ下は家が近いからとか、親同士が仲いいからとかの理由で仲よさそうに話してるところを何度か出くわして見かけたことがある。

 そのときに抱いた印象は、概ねさっきから女子どもが囀ってる内容と大差ない。

 ボッチらしく、リア充爆発しろ!と願いまくっただけだったことを、俺はつい昨日のことのように思い出せる。

 

 ・・・より正確には昨日じゃなくて、一昨日のことのようにと表現すべき直近の過去に思ったことだったけど四捨五入すれば昨日の内に含まれるから大丈夫だきっと。

 

 

 とにかく昨日までの俺にとって雪ノ下雪乃はそういう奴という認識だった。なにが起きようと、美少女だけどボッチな俺と生涯にわたって関わり合いになることは絶対にない相手。そう思っていた。

 

 ・・・だけど、今はもうそう思えなくなってる自分がいる。

 あの様子から見てイジメが始まったのは昨日今日のことじゃないのは解りきってるのに。

 変わったのは俺で、雪ノ下がなにか変わったわけでもなく、知らなかったことを知っただけのはずなのに。

 

 それなのに俺は、雪ノ下を昨日まで思っていたイメージとしての雪ノ下と被せてみることが出来なくなってしまっている。自分の中で知らず知らずのうちに創ってしまっていたイメージ上の雪ノ下と同一視することはもう出来そうにない。

 

「さて、と・・・」

 

 それはそれとして、お仕事だ。平沢先生から押しつけられた草刈りを終えるため、職員棟をグルリと回って正反対のところにある焼却炉まで持って行くのを再開せにゃならん。他人のイジメ事情にかかずらわってる余裕は一秒たりともありはしないのだ。

 

「黙ってないで何かしゃべりなさ――――やばっ!? 誰か来てる音かも!?」

「嘘!? こんな時間にこっちに来る先生なんているはず・・・っ」

「いいから早く来て! 見つかったら連帯責任にされちゃうから!」

 

 かしましい女どもがいなくなった、燃えるゴミのせいで匂いがキツく人気のない焼却炉の前にはポツンと一人だけ雪ノ下雪乃が状況が理解できないまま取り残されてしまっていた。

 

 それには構わず、俺は焼却炉の蓋を開けるのを邪魔する位置に立つ彼女に、

 

「邪魔なんだけど、退いてもらっていいか?」

 

 とだけ声をかけて、邪魔な障害物をどかしてからゴミを捨てる。はお、これで先生からの依頼完了。めでたしめでたし。

 

 用事が済んだ俺は、平沢先生に完了報告をするため足早にその場を離れようとする。

 感謝の言葉を言われたくないんじゃない。・・・ただ、ものスゲー眼付きで睨み付けてきてる雪ノ下に目を合わせられるのが怖すぎただけだ。

 さっきから「余計なことしてくれやがって」的なニュアンスがひしひしと伝わってきてるよ。目が言葉を必要としないほど物言わせちゃってるよ。脅迫のレベルだよ。視線だけで人殺せるなら百人かそこらぐらい軽く殺し尽くしちゃってそうな超ハイレベルプレイヤーだよ。

 

「あなた――」

「悪ぃ、今忙しいんで後でな」

 

 俺は二度目が無いこと前提の暗喩『また後でな』を使用して敵の動きを封じてから、全速力でその場を逃げ出す。

 初対面だし、少しだけ言葉を変形させてあるからバレないだろう。・・・バレないよね? バレないでくれるとマジ嬉しいんだけど・・・・・・。

 

 

「やっぱ無理かぁ~・・・」

 

 草刈りが終わって報告して、次の話に持ち込ませないよう報酬のジュースを断る権利まで捨て、わざわざ教師と二人で茶をしばく拷問に耐えてまで普段よりも遅い時間帯に下校したというのに、校門の前には門扉に寄りかかるようにして少女の姿が一つだけ。

 

 言うまでも無い。雪ノ下雪乃だ。

 だって夕焼けの中に一際栄える綺麗な黒髪は、他の同世代女子じゃ真似できねぇもん。

 

「・・・しゃーない。何も声かけられないこと祈って通り過ぎれるよう頑張りますか」

 

 何をどう頑張るのか自分でも意味不明なつぶやきを発して、校門に向かい踏み出した俺。まだ、雪ノ下は話しかけてきていない。

 

 徐々に距離が縮んできて、通り過ぎ去るまで残り三歩。まだだ。残り二歩。まだまだ。残り一歩。・・・そろそろ不意打ちで話しかけてこようとしてんじゃねぇの?

 最後のゼロh――――

 

 

「・・・・・・さっきのは何のつもりかしら? 2年5組、比企谷八幡さん。私は一言も助けてなんて頼んだ覚えはないのだけれど」

 

 いろいろバレてらっしゃる――――っ!?

 どうすべー、これ! どうすべーっ!?

 

「余計なことはしないでくれる? 私、あなた如きに助けられるほど落ちぶれた覚えはないから」

「・・・何の話だよ? 余計なことも何も、俺はおまえに何かしてやった覚えなんてない」

「それで白化くれているつもりでいるの? 先ほどあなたがした行いは、誰がどう見ても余計なお節介というものよ。だから言ってるのよ。余計な差し出口はごめんだわって」

「・・・・・・だから?」

「あら、ハッキリ言わなければわからない程度の幼稚な頭しか持ってない人だったのね。ごめんなさい、気がつかなくて。言い直してあげるわ。

 “同情はいらない”――そう言っているのよ」

 

 

 絶対零度の声と表情で言い切って見せた雪ノ下の言葉。

 それに対して俺がいえることなんて・・・・・・一つしかないじゃないか。

 

 

 

「はぁ? なんだって俺が最上位カーストにいるリア充のお前に同情してやんなきゃいけないわけ? むしろお前が俺に同情してくれよ。

 生まれてこの方、最下位カーストが定位置になっちゃってる俺に対してリア充はもっと優しく接する義務があるでしょ、どう考えてもさぁ」

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 意外そうに目を見開いて俺の顔を見つめてくる雪ノ下。

 夕日を背にしたその顔は美麗で、出来ることならずっと見続けていたいけど無理だ。そろそろ帰らないとプリキュアが始まってしまう。

 絶対に手に入ることのないリアル美少女と、望んで努力すれば入手可能な二次元美少女の好感度だったら、後者を取るだろ普通に考えて。

 

 あー、はやくゲーム機が高性能化してリアルいらなくならないかな―。アイドル育成ゲームとかでキャッキャッ、ウフフとか出来るようになって欲しい。

 

「じゃあ、そう言うことなんで」

 

 とは、言わないで普通に無言のまま立ち去ってこうとする俺。せっかく相手を黙らせることが出来たのに、自分から話し再会するきっかけ与えてるとしか思えない別れの挨拶を発するとか正気の沙汰じゃないからな。

 

 なのに――――

 

 

「・・・・・・・・・・・・待って」

 

 なんでだか、雪ノ下に呼び止められて大きくため息。どう思われたところで知ったことか、俺は嫌われることで放課後のプリキュアが確保したいんだ。

 

「なんだよ」

「・・・・・・時間」

「ああ?」

「・・・・・・もう日が暮れてるのよね、この時間帯って」

「・・・?? ああまぁ、そりゃ確かにそうだけど・・・」

 

 だからなんだよ、としか返しようがない雪ノ下の言葉。

 確かに女子小学生が一人で徒歩下校するには遅すぎる時間帯だけど、この時間まで学校に残っちまってたのは本人の問題だろ? 自己責任だ。

 

「今からうちに電話して車で迎えに来てもらうから、あなたも乗っていきなさい。家まで送ってあげるから、今回のことはこれでお相子にすること。いいわね?」

「・・・・・・」

 

 ――まさかの助けた雪ノ下に連れられて、玉手箱が待つ竜宮城じゃなくて、妹の小町が待ってる俺の自宅まで送ってくれる展開になりましたとさ。めでたしめでたし。

 

 

「・・・ああ、わかった。じゃあそう言うことで」

「ええ。そう言うことにしておいてちょうだい」

 

 

 俺は相手の提案を受け入れて受諾。どうせ今この時だけの馴れそめで、一期一会だ。エリート様と俺との間にこの程度で接点なんか生まれない。ボッチに生まれたやつはボッチとして生きる以外に道はない。・・・はずだ、たぶんだけどな。

 

 それこそ俺が守り貫く信念であり、明日から少しずつ少しずつ揺らいでいくことになる、そう遠くない未来の俺にとっての過去に信じ貫いていた信念になるもの。

 

 

 今日まで知らなかった雪ノ下を、明日からの俺は知っていて。

 明日が今日になった時の俺が何を知っているかを、今の俺は知ることが出来ない。

 

 人は今を生きるもので、今という時間は止まることなく続いていく。

 俺が変わらなくても俺と関わる相手は変わっていく。

 変わりゆく相手と付き合い続けていくためには、俺もまた合わせるように変わっていかなければならなくなる。閉じてない世界に変化が訪れないことはあり得ない。

 

 こうして小学生の俺が送る青春ラブコメは間違え始めて、小学生らしくない小学生ラブコメを送り始める。

 

 後になって思う。

 俺はこの時、選択肢を選び間違えたのだと。

 

 女として男と結ばれるルートから、女として女と結ばれるラブコメへと進んでしまう選択肢を、間違って選んでしまったのだと。

 

 

 こうして俺と雪ノ下は、リアル青春ラブコメの選択肢を間違え始める。


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