試作品集   作:ひきがやもとまち

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だいぶ前にお伝えしたことのある『甲竜伝説ヴィルガスト』二次創作です。現代日本の少年がマンガ版2巻目に出てくる脇役の町娘『エミリー』に転生憑依して、死ぬはずの運命にショボク抗うお話です。

*旧題は「村娘伝説ヴィルガスト」でした。時間経過とともに色々あって改題してます。

・・・さて、休みも明けたし仕事から帰ってきたらバケモノの続きでも書きますかね。
(お伝えし忘れてましたがバケモノ49話を清書しなおすかもしれません。ようやくアイデア湧いたので)


街娘伝説ヴィルガスト 始まりの章

 その日の夜。俺は母親に手を握られながら息を引き取った。享年、十六歳。

 よそ見運転による交通事故で意識不明の重傷を負わされてから二日後のことだった・・・・・・。

 

 

 

 そして今。俺は新しい母親の胸に抱かれながら優しく微笑みかけられている。

 木と石で建てられた質素な作りの狭い家の中、現代日本だと絶対見られないファンタジックな街人衣装をまとった若い女の人と、メガネの道具屋さん風オジサンの二人が俺を見つめて笑い合っていた。

 

 

「あなた、見て。エミリーが目を覚ましたみたいよ・・・」

「本当だな。この子はきっと、君に似て美人になるぞ。村の男誰もが放っておかないような・・・」

 

 

 二人の話を聞いた俺は理解した。どうやら、異世界に転生したらしいと。・・・ついでに言えば女の身体で生まれ変わったらしいと。

 

 ――まぁいいや。いや、良くはないけど仕方ないで済ませるしかない問題だし、生き死にに関わるような事でも無いから一先ずはおK。

 ファンタジーっぽい異世界への転生なんだし、何かしらの特典とかチートとかもらえてるだろ、たぶん。世界を救う勇者のサポート役とか導き手とか主役にならずに生きていくのに十分な能力は持っている・・・はずだ! たぶん!

 

 ファンタジー世界で赤ん坊から始まる転生者という時点で地雷臭しかしない第二の人生から目を逸らし、大きな声で「おぎゃあ! おぎゃあ!」と泣きわめいておく。

 生まれたときに泣かないと尻叩かれて泣かされるので転生者の皆様は気をつけましょう。恥ずいぞ? 「おぎゃあ」なんて声で本当に泣くもんなのかどうかまでは知らんけども。

 

 

 まぁ、それは置いといて。置いときたくないけど、どうしようもないから置いといて。

 一先ずは大事なことについて考えよう。

 

 ・・・俺っていったい、どこの世界の誰になったん? 『エミリー』なんてモブっぽい名前の仲間キャラが出てくるファンタジー作品ってあったっけ?

 

 まぁ、いいや。適当に生きていこう。無茶しなければ死にはしないはずだ。「一度死んで生まれ変わったら、また死んだ」なんてコントみたいな人生は生きなくて済むはずなんだ。

 

 

 

 ―――そんな風に考えていた時期が、俺にも生まれてからしばらくの間はありました。

 

 

 

 

 

 

「《ファイヤーボール》、小さな火球を生み出して対象へと放つ火属性の魔法。空間に火が生まれる原理は、大気に満ちるマナを精霊の力を借りることにより・・・・・・ブツブツ」

 

 小難しい文章で紡がれた古書を、もう何度読み返したかわからないのに今日もまた読み返している私。

 まだ十歳にもなっていないから店番を一人でするよう言われないのが、せめてもの救い。

 店の奥にある小部屋で初級魔法《ファイヤーボール》を使えるようになるため必死に同じ本読んで学習している私、エミリー。ゼウスの街に住む道具屋の娘エミリーよ。ヴィルガストっていう異世界に生まれ変わってきちゃったの♪ うふ☆

 

 

「・・・・・・はぁ~・・・・・・」

 

 ――アホらしいボケをかまして現実逃避してみたけれど、全然ダメ。最悪すぎる未来を想像してしまって意欲を維持するのが難しすぎる・・・。

 

 

 あー・・・、どうも皆さん。はじめまして&こんにちは。転生者にして街娘のエミリーです。 ヴィルガストにあるゼウスの街で、道具屋の娘として憑依転生した者です。以後よろしく。

 

 ・・・殺されずに生き延びれたらの話ですけどね・・・・・・。

 

「まさか漫画版で登場したときには死んでたキャラクターへの転生憑依なんてものまであったとは・・・異世界転生モノの間口広げすぎだと私は思う・・・・・・」

 

 ぐでーっと。机に突っ伏しながら愚痴る私。いや、割とまじめな話としてね? 死ぬこと前提のキャラに憑依転生させられる方の身にもなってほしいんですよ、本当に。当事者としては切実すぎるほどに。

 

 

 ――私が生まれ変わった世界の名は『ヴィルガスト』。

 知る人ぞ知る、プレイしたことない人でも意外と知ってるスーパーファミコンのRPG。

 お色気装備で名高い旧作にして名作(迷作?)の舞台となってる異世界だ。

 

 漫画、ラノベ、ゲームと色んなジャンルで展開されて、別のストーリーが描かれている少しだけ変わった冒険物語。

 

 その中で『ゼウスの街に住む 道具屋の娘エミリー』が登場するのは漫画版の2巻目。

 結婚を目前にしてモンスターに殺されて、自分の果たせなかった幸せを素直になれないレミとボストフに託すために化けて出・・・こほん。霊となって「結婚の指輪」を二人のために届けに来た悲しい娘さん。

 

 ・・・問題は、物語が始まった時点で死んでた上に救われる要素も特にない非救済対象の女の子だと言うこと。レミたちを幸せにしたけど、自分自身は無念で化けて出た幽霊という訳でもない、至って普通の優しいゴーストさんだった訳で、利他趣味のない私には本気で相性悪そうなキャラクターに生まれ変わってしまったという訳でして。

 

 

「・・・つまり、女神に愛された平和な世界ヴィルガストも、人によっては死なないために強くなるしかない弱肉強食の過酷な異世界だったという訳で・・・」

 

 ため息と共に現実と理想のギャップを吐き出そうとしたけど失敗して、普通に溜息だけ吐き出した見た目はカワイイ美少女を演じただけで終わりましたとさ。ちゃんちゃん。

 

「疲れる・・・。凡人の街娘に生まれ変わってモンスターに殺されないよう努力するのは、本気で疲れる・・・。選ばれし者の誰かに生まれ変わりたかったよぉー・・・・・・」

 

 この世界がどこで、自分が誰になったのかを理解した瞬間から死なないため、殺されないための努力を続けてきたのに成果がでない・・・だせない・・・レベルがステータスがいつまで経っても上がらないぃぃ~・・・・・・。

 

 道具屋の娘で魔法の書が安く手に入る立場にあったから魔道師を目指してみたんだけれど、ドラクエとかと違ってヴィルガストはレベルアップが新しい魔法の習得を意味しない。ひたすら学んで練習して、上達していく以外に魔法使いは強くなれない。

 しかも才能重視で、選ばれた者優遇措置がスゴすぎるのがヴィルガストにおける魔法という分野。

 

「要するに、殺される定めから逃れたい凡人には厳しすぎる世界がヴィルガストなんですよねぇー・・・。

 あー、死にたくなーい、死にたくなーい。こーろさーれたーくなーいよー、っと♪」

 

 疲労とストレスでトンデモソングを歌い出す私。

 十歳にもならない幼児が歌ってたら熱計られる歌だと、普段だったら気づけたはずなのに母が店番している時間に歌っちゃった私はよっぽど疲れていたんだろうなー。

 

 ――その晩に私が受けたお仕置きは、死んでも死んだ後でも、二度目の転生をした後だろうとも説明したくありません。恥ずかしくて死にます。恥ずか死にたくなってしまいますからね。

 敵の注意を引くためパンツを脱いで投げ込もうとしたファンナに、果たせなかった女としての羞恥心を託しに出てくる霊のエミリーなんて嫌すぎる・・・。

 

 

「早く《ファイヤーボール》を使えるようになりたい、魔法使い見習いのエミリーちゃんはがんばーるよー♪」

 

 

 

 

 

 

「エミリー・・・実は俺、ずっと前からキミのことが気になっていて・・・今度の祭りはオレと一緒に踊ってくれないか・・・?」

「・・・気持ちはとっても嬉しいわ、ハンス。でも私には受け入れることが出来ない理由があるのは、あなたも知っているでしょう・・・? だから本当に――ごめんなさい」

 

 勇気を振り絞って想いを告げた街の若者が、今日も玉砕して散る。

 だが、しょぼくれたその姿を笑う者はこの街にいない。

 

 なぜなら彼女は特別なのだから。

 

 

 類い希なる向上心と向学心で、幼い頃より学問を学び子供ながらに魔法を使えるようになった天才少女。封印が解かれて復活し掛かっていると噂される邪神の作りしモンスターたちが村々を襲う中、このゼウスの街近郊にも奴らは出没しだしていたが、被害が出そうになると彼女は率先して討伐に名乗り出てくれる。

 

 そして、平素においては身を粉にして働き、妻を流行病で失ったばかりの父親を手伝っているのだから、普通の男では釣り合いがとれぬと思われても仕方がない。

 

 ある時、強突く張りで有名な街の金貸しが彼女に問うたことがあるそうだ。

 

 「何故。そうまでして人のために尽くせるのか?」と。

 

 

 彼女は少しだけ困ったように微笑みながら、こう答えたと伝え聞く。

 

 

「私はただ、幸せに長生きするため頑張っているだけです」

 

 ・・・邪神復活の噂と世の中に広がる混乱から人間不信に陥っていた金貸しは彼女の言葉で謙虚さを取り戻し、涙ながらに拝みながら阿漕な商売で稼いだ金を世のため人のために使うことを誓約したという。

 

 

 世の為、人の為、平和の為。そしてなにより、街の民を守るため危険を顧みず勇敢に戦い正義を守らんとする彼女のことをゼウスの街の住人たちは「女神ウンディーネ様が遣わしてくれた聖女さま」と呼んで感謝した。

 

 

 彼女はヴィルガスト世界全体を救うため、異世界から召喚された勇者ではないかもしれないけれど。邪神を倒して苦しむ人たち全てを救える力を持った選ばれし者ではないかもしれないけれど。

 ゼウスの街に住む者たちにとって、彼女は自分たちを救ってくれる勇者であり、聖女であり、救世主だった。誰もが彼女に感謝と愛情を感じていた。

 

 女神に愛された愛娘エミリー。彼女こそ、ゼウスの街が誇りとする勇者であると―――。

 

 ・・・だからこそ、誰かが独り占めするなど許されない! 命拾いしたなハンス!

 俺たちは同じ街に住む同士として、お前を殺さずに済んで良かったと安心しているぜ!!

 

 

 

 

 

 

 

 は~い、みなさん! お久しぶりです&こんにちはー☆

 転生者にして凡人街娘少女のエミリーちゃん、14歳バージョンでございま~っす♪

 成長と一緒に内面も身体に引っ張られるというお約束現象から、最近だと原作化が急速に進んでいて戸惑ってまーす! キラリンコ☆

 

 え? とてもそうは見えないって? それは仕方がありません。

 内面なんて外からは見えないものですし、表に出る部分だけ原作による縛りが適用されて裏側は中から出てこれないというなら結果的には同じこと。私が私のままエミリーを完璧に演じれるようになっただけと解釈しておいてください。

 

 ほら、外見もだいぶ原作に近づいてきたんですよ?

 豊かで長い栗色の髪をウェーブさせて、父親そっくりの恰幅のいい体格にな・・・・・・ってるはずもなく。着ぶくれしやすい街のオバサン衣装が似合いすぎるだけで、中身は意外とグラマラスな少女へと成長したという訳です。

 

 

 子供の頃から勉強し続けたのが功を奏し、モンスター出没に先んじて《ファイヤーボール》習得に成功した幼い幼女の私でしたが、初期の時点でMPはたったの3。ゴミみたいな強さです。

 最下級の攻撃魔法を一回使っただけでスッカラカンになる凡人ぶりには脱帽する他ありません。

 

 ならばせめてと、出没し始めたばかりの雑魚モンスターの内スライムが単独で行動しているところを探し出して不意打ちで襲いかかって先制攻撃を得てから《ファイヤーボール》を唱える。

 二匹で移動してたら速攻で逃げ出す。二匹目を呼ばれても全速力で逃げ出す。一発撃って仕留められなかった時にも絶対逃げ出す。

 

 そうして逃げ帰ってきても凱旋してきても夕方までには家に帰って一晩寝て全回復して、翌日またスライム狩りをしては少しずつ少しずつ経験値を溜めていった私。

 街が近くにあってタダで泊まれる宿屋があるなら、レベル1冒険者が有効利用しない手はありませんからね。すぐに勝って半ドンの時は店番して暇を潰せて一石二鳥。

 不可能としか思えない試練に挑戦するなんて無謀は、選ばれた特権階級の勇者たちだけやっていれば十分すぎるのです。凡人がやることじゃありません。

 

 

 そうやって地道に地味に卑怯極まるやり口でレベルアップを重ねた私は今現在、LV13。

 ・・・高いんだか低いんだか、よく分からない数値となっております。

 

 とりあえずは、殺されないで早死にすることなく長生きできるのが私の目的な訳ですので、私殺害犯(とおぼしき)のスケルトンナイト三匹に勝てるか逃げ切れるだけの強さを得られたら満足なんですけど―――

 

 

「・・・いないんですよね、そんな名前のモンスター。ゲーム版にはですけれど・・・・・・」

 

 

 溜息を吐つくほど悲しくて厳しい現実が、ここにありました。

 そうなんです。前世での子供の頃、ビキニアーマー女戦士が大好きでスーファミソフトの『甲龍伝説ヴィルガスト』を中古屋で買ってプレイした色ガキだったことが災いして半端に原作知識と漫画版の知識とが同居している転生者の私は、自分が生き残る為の必須条件であり障害でもあり宿敵でもあるモンスター『スケルトンナイト』が漫画版のみに登場するステータス不明で戦っても勝てない系のボスモンスターであることを知ってしまっている、人には言えない事情がある訳でして。

 

「なにしろ一匹だけでHP3000ですからねぇ・・・カザスの砦に出現する一般兵士たちよりランクの違う士官クラスのモンスター『魔獣戦士』がLV39でHP2942であったことを考慮するなら、最低でも目標数値はLV45相当・・・気が遠くなりそうです・・・・・・。

 やっぱり生きていくのは大変で、とても難しい・・・・・・」

 

 

 思わず、先ほどよりも大きな溜息を吐かざるを得ません。

 たとえその姿を町の人に目撃されてしまったことが『女神が遣わした聖女』の噂が発生する源泉になったという事実を知っていたとしても私は耐えきれずに溜息を吐かざるを得―――いや、普通に黙り込んでましたね絶対に。

 

「ああ・・・私の未来を救うため打ち破らなくてはならない敵はどれほどの力を持っているのでしょう・・・? ――あと、いつ頃くる敵なのでしょう? それすら全くわからないのですけれど(ぼそり)」

 

 後半の方は小声でつぶやく癖を付けた、現地住民が知るはずのない原作知識の部分です。知るはずのないことを知っていたせいで社会的生命が脅かされたのでは生き残っても死ぬのと同義語になってしまいます。

 戦いを終わらせる為の戦いの中で、勝った後のことを考えないのは平成ガンダムの登場キャラだけで十分すぎると私は思う。

 

「そもそも私って、いつ頃殺される人なのでしょうか・・・? 『結婚を目前に殺された』としか明記されていなかった上に、婚約相手の男性もプロポーズを受けた年齢も何年前に死んで享年幾つかも判然としない、1話限りの悲劇キャラクターなせいで目安さえわかりません・・・」

 

 またしても溜息です。はぁ・・・。

 

 自分以外に誰もいないのを確認してからおこなわれる、一人で店番しているときにつぶやく独り言。一定の年齢に達したからこそ可能になった道具屋の娘スキルによる物理結界能力。

 モンスターがPOPせず、イベントに絡まない限りは戦闘不能エリアの街中にある店の中こそ絶対安全圏。圏内エリア。私はここを死守する気満々ですよ?

(そして『もう少し早く気づいていれば』と後悔することになる、近い未来の私です)

 

 

 なんと言っても私の帰ってくるべき家と言うか、実家ですからね。わざわざよその街へ移住して新しい生活環境のもと人間関係も信頼関係も1から築き直すより道具屋を営む父から店を譲り受け、店のブランドで築き上げた商人ネットワークによるコネと販路を有効活用した方が人生豊かで平和に暮らせるものです。身の為に合わない贅沢を望むより、すぐ近くにあって安全に手に入る小金を狙う。

 

 転生憑依者エミリーは、そう言う女の子なんですよ・・・くくくく(露悪的に笑ってみました。好きなんですよ、『るろうに剣心』。特に『斉藤一』さんのことが大好きです。絶対真似できない生き方しているのが理由です。人は届かぬ夢を見る~)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・え? お前が死なないで霊にならずにレミとボストフの仲を取り持たなかったら、あのカップリングはどうなるのか、ですか?

 

 

 ――――知らね。

 リア充カップル爆発しなさい。可愛いミニスカ美少女と結ばれるスケベ男は滅べばいい。

 

 

 以上です。


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