試作品集   作:ひきがやもとまち

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電池残量を気にしなくていいPmera DM200を買ってから初めての土曜日とあって思う存分かけております。有難いことです。

ですので早速アニメ化される前から大好きだった『やがて君になる』の二次作の序章を書いてみました、百合好き作者のひきがやもとまちです。

性格的にアンチ作になってしまいましたが、原作大好きですので誤解なさらないで頂けるとありがたいです。

*原作と原作者様に配慮して一定の改造を加えてます。正しく「やがて君になる」の二次創作と言うより半端なパクリ作と思っていただけたら助かります。


ひねくれ転生少女の百合物語

 桜舞い散る並木道――とまではいかないけれど。近所の公園よりかはずっと多くのソメイヨシノが植えられている校舎へ続く坂道を上りながら、私は耳につけてたイヤホンを外す。

 聞いていたのはラヴソング。最近はやった人気の歌。同級生の間じゃ有名だった・・・らしい。興味ないから、よく知らないけど。

 

 これから始まる女子高生として過ごす三年間。

 一度死んで女の子に生まれ変わってからの十六年間の、元男で元男子高校生のTS転生者である私は、自分なりに女の子になろうと努力してきたつもりだ。それなりの成果も出せてる自信と自負だって存在している。

 

 だけど、それでも。いくら学んで勉強してもわからないものはわからない。生まれ変わったぐらいで分からなかったものが分かるようになるなら苦労はしない。

 

 ・・・辞書で引ける言葉は理屈でしかなくて。夏目漱石の「月がとっても綺麗ですね」には共感できなくて。ラヴソングに出てくる歌詞は一億五千万人の為に歌に過ぎなくて。

 

 どれも私専用には成ってくれない。私に学ばせてくれる私用の恋愛マニュアルに成ってはくれない。

 そういうもんだと思いながら、私は後者に続く坂道を上る。そう言うもんだと思えば楽になるから思っているだけだと自覚しながら坂道を上って歩み行く。

 

 結局私は死んでからもあまり変わっていない。人の心が分からないバカは、死んだぐらいじゃ治らないし治れない。

 そう言うもんだと思いながら私は、今日も無意味に何もせず、第二の人生を無駄遣いしながら生きている・・・・・・。

 

 

 

 

「詩遠ー! いい加減、体験入部する部活決まったー? もうすぐ期限切れちゃいそうだよ-?」

「非公式帰宅部です」

「・・・いや、それ部活じゃないから。体験する必要無しに実践できるから。つか、なにゆえ非公式? 公式帰宅部なんてうちの学校には存在しないよ・・・?」

 

 聞かれたから返事を返した友人二人に、揃って呆れた顔をされてしまいました。正直に答えたのに理不尽なことです。

 

「では、腹案の自宅活動部で」

「いや、同じだから。名札変えただけで中身同じじゃ意味ないから。・・・はぁ~・・・、なーんだって詩遠はそんなにひねくれた反応したがるかなー」

「・・・見た目がカワイらしい分、余計に癪に障る。――ギャップ悪印象?」

 

 新たなる造語を世に生み出した作家志望の文芸少女『双葉』さんと、ざっくばらんで面倒見のいい姉御肌で乙女な『深夏』さんにからかわれて肩をすくめるだけして返す私。

 どうやら中学入学から続くやりとりは、高校入学くらいで変えられる訳でもないものみたいで。

 

 まぁ、入学から一ヶ月も経ってない今の段階で決めつけるのは早計すぎますけどね。人は変わっていくモノらしいですし。変われ変われと人に対して言うだけで、自分は生涯変わろうとしなかった新人類の男性二人がそんなこと言ってらっしゃいましたよ確か。前世でね?

 

「おーい、杉崎―。杉崎詩遠! ちょっといいか?」

 

 教室入り口の方から名を呼ばれて振り仰げば、担任の先生。名前は知らん。覚えてないし、聞いても忘れるから別にいいやで気にしなくなった人でした。担任教師の名前なんて覚えて無くても「先生」という職業名だけ呼んでいれば学校生活三年間は送れるものです。

 

「はい、なんですか? 先生」

「お前たしか、まだ部活決めていなかったよな? だったら、生徒会とかに興味ってないか?」

「生徒会・・・」

 

 前世、今生。どちらでも聞いて慣れ親しんだ単語。

 

「それって確か・・・」

 

 生徒たちの代表。学校運営側に色々と要求したり、生徒間で起こる揉め事を調停したりする機関。その意味するところは―――

 

「体のいい雑用係のことですよね? なにか面倒くさくて押しつけたい厄介事でもありましたか?」

「・・・お前は本当に言葉選ばずハッキリ言うね・・・いやまぁ、たいていの場合言い方キツいだけで間違ってはいないんだけどさ・・・」

 

 苦い表情で先生。だって仕方ないじゃないですか、事実なんですから。

 

「一応言っとくが、うちの学校の生徒会は職員室で決めた予定表を型通りやるだけのお役所組織じゃないぞ? 立派に活動してるし結構な数の要求もしてきてて、目の上のたんこぶだとか言う先生もいるくらいなんだからな」

「・・・それを自慢げに語る先生も人のことは言えないと思いますけどね・・・」

 

 はぁ、とため息を吐いてから立ち上がり、いつでも帰れる準備だけはしておきます。

 ――帰るときに余計な手間がかからないなら多少面倒でも付き合って上げられない事も無いでしょうから・・・・・・。

 

 

 

「やれやれ、わざわざ校舎裏手にある旧校舎の一角を生徒会用に残しておく百合ゲー設定にしとかなくても良いでしょうに・・・。

 生徒会選挙を手伝うためだけに丘を登るような環境が、手伝う人手が集まりにくい要因だと私は推測しますけどねー」

 

 トボトボと小さな丘を登りながら校舎裏にある小さな建物を目指して歩いて行く私。

 目的は先生から依頼された『生徒会選挙のお手伝い』。・・・定番ですね。さすがはジョシコーセー。変なところに生徒会室があるのもお約束って感じです。

 

「つか、よく考えなくても生徒会室じゃないですよね、これ。だって部屋自体がひとつの建物なんですから。『別の名前に変えませんか?』と意見書出したら通らないでしょうか?」

 

 誰にともなく、どうでもいい独り言をつぶやきながら丘を登る私。ぶっちゃけ暇です。歩いて景色見てるだけで楽しいとか言う人の気が知れない性格なので。

 

「しかも、自然豊かで目障りで鬱陶しいし道迷いそうですし・・・なにか目印になりそうなものは・・・おや?」

 

 キョロキョロとしていたところに話し声が聞こえてきて、私の歩みを少しだけ止める。

 そして一歩だけ後退。校舎の角から出ようと前に出してた足を戻した程度の譲歩ですけど、譲歩は譲歩です。文句があるなら誰かに言いなさい。私に聞いてやる気はない。

 

 

『――涼水さん。実は俺、前からお前のことを・・・』

『・・・・・・』

『その・・・お願いします! 俺と付き合ってください!!』

 

 

 ――どうやら青い春ど真ん中ストレートなタイミングで出歯亀になっちゃったみたいで。

 どうしますかねー? いやまぁ、どうすることも出来ませんし何かする気もないんですけれども。

 せいぜいが音を立てずに事が終わるのを待っていてやる事ぐらいなもの。

 逃げ出そうして音を立てずに森の中歩ける忍者歩行など習得していませんし、いつ終わるかも分からん恋愛イベント聞きながら耳を塞げるほど危機意識ない典型的日本人には慣れないひねくれ者の身ですのでね。

 

 

『・・・・・・ごめんね。私、キミとは付き合えないの・・・』

『・・・そっか。そうだよな・・・俺なんかと涼水じゃ全然釣り合いとれないし、断るのが当然だよな・・・』

『そんな言い方しないで。自分を卑下しちゃダメよ。キミは十分素敵な男性なんだから、もっと自分に自信を持って――』

 

 

 ・・・暇だなー。早く終わらないものでしょうかね、この強制イベント。

 ギャルゲーではこれを見るために三年間過ごすのが当たり前ですけど、自分が操作してない赤の他人が告白されてるの聞かされても全然楽しめないもんなんだと今ようやく分かりましたわ。色々言われるギャルゲー主人公にも意味があったんだと理解した、第二の人生十六の昼日中。

 

 

『――ありがとう。じゃあ、俺行くわ。聞いてくれただけでも嬉しかったよ・・・』

『うん。それじゃあね――』

 

 

 お。ようやく終わりましたか。もう、腕時計見てもいいんでしょうかね?

 

「さて、と。――そこに隠れてずっと覗き見してる人。いい加減でてきたら? 彼もう行っちゃったみたいだけど?」

 

 ・・・どうにも性格悪いけど優秀なヒロインと出会う系の、百合ゲー展開だったみたいで。

 

「どーも。盗み聞きしちゃってて失礼しました」

「・・・見ない顔だね。新入生?」

「見ての通りです」

 

 そう言って胸元に結ばれている、リボンタイを指さす私。

 この学校の女性服は、上履きとリボンタイの色で学年が判別できる仕組みが取られてます。

「そっか。・・・で? 人の告白シーンと玉砕シーンを盗み見ちゃった上に、盗み聞きまでしてしまったことへの感想は?」

「・・・・・・・・・すいませんでした。わざとじゃないですし、偶然居合わせただけですけど結果的に彼と貴女には失礼なことをしてしまったと反省しております」

 

 素直じゃない仕草でですけど、思い自体は素直に伝えて謝罪しました。だって事実ですからね。私の都合なんて相手方には関係ないことですから情状酌量の余地があるとは自分自身で思えません。謝罪は動機にではなく、結果に対して行うべきものです。

 

「反省しているみたいね。なら、よろしい」

 

 スタスタと。歩いて近づいてきながら涼水さん? とか言う名前か名字らしい二年生の先輩女子生徒が(先ほどリボンタイ見てわかりました)頭を下げてる私に近づいてきて。

 

「――じゃあ、今見たことは内緒ってことでお願いね? 私だって後輩に今みたいなシーンを見られたのは恥ずかしかったんだから」

 

 そう言ってウィンクをひとつ。

 毒気を抜かれた体で肩をすくめる私にニコリ。

 

「それで? キミはどうして、こんな所にいたのかな? ここって目立たない上に分かり難いし、生徒会室以外は何もないはずなんだけど?」

「・・・その生徒会室に向かっていた途中でした。担任の先生から生徒会選挙の手伝いを頼まれましたので」

「そっか」

 

 またしてもニコリ。

 私に背を向け、先に立って歩き出す先輩女子生徒。

 

 ある程度予想は付いていましたが、それでも一応しばらく説明を待ってた私の方へと振り返って先輩が。

 

「あそこは分かり難いからね。案内して上げるから、付いてらっしゃい」

 

 はぁ、と。予想通りの答えを聞かされ後から付いてく私です。

 

 しばらく付いていくと見えてきた、小さな木造建築の建物。木製の看板には風雨で薄れた太字の習字で『生徒会室』の四文字。

 

「今日手伝いに来てくれる一年生の手伝いってキミのことだよね? 私は生徒会役員の涼水優美。よろしくね? 杉崎詩遠さん♪」

「・・・・・・どーも。よろしくお願いします涼水先輩」

 

 華やかな笑顔と、可憐な仕草で手を差し伸べてきた先輩に、仏頂面で返す私。

 少し意外そうに表情を動かして私の顔を見つめてくる先輩。

 

「あんまり驚かないんだね。ちょっとだけ意外かも」

「そう仰られましてもねぇ・・・」

 

 軽く肩をすくめながら周囲を眺め回し、改めて正面に立つ先輩に戻しながら。

 

「こんな目立たない上に分かり難い、生徒会室以外は何もない場所で案内が出来る先輩女子というのは候補が限られまくる存在ですからねぇ・・・」

「あー・・・。なるほど、確かにそれは盲点だったなぁ」

 

 苦笑しながらも、反感を抱いたようには見えない表情の先輩。なんと言うか本心が見えずらい方ですねぇ-。

 

 




ご報告:
念願だった電池気にせず書きまくれる状況がようやく手に入りましたので、今まで書こうと思っても電池を気にして書けなかった作品を色々書いてみるつもりでいます。

基本的には他のユーザー様が書いた作品を読んで憧れて書きたくなった作品ばかりですが、楽しんで読んでいただけるよう頑張って書きたいと思っております。

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