《ユグドラシル》。二一二六年に日本のメーカーが満を持して発売した「異様なほど自由度が高い」DMMOーRPG。
選べる職業の数だけでも二〇〇〇を越え、他のゲームでは敵として登場するモンスターもユグドラシルでは「異形種」としてプレイヤーが遊べるようになっている。
尚、オタク気質を持つ日本人スタッフが開発の中核になっていた故なのか、ごく希に場違いな「萌え要素」が散見されており、本来は外見が醜悪で人の形をしていない異業種の中に、愛らしい姿を持つ特殊な種族への転生が可能な種族が実在していたーーとする都市伝説が配信サービス終了後も途切れることなく囁かれ続けている・・・・・・。
「・・・はぁ。まいった・・・後悔先に立たずとは言いますが、本当にこれはどうすれば・・・ああああ・・・・・・」
適当につけた勇者の名前を唱えながら、頭を抱えてうずくまる小さな小さな体を見下ろしつつ、ギルド《アインズ・ウール・ゴウン》のギルドマスター モモンガは思った。
百パーセント、自業自得だと思いますよ? 《少佐》さん。
ーーーと。
口に出してはこう言った。
「いや、まあ。なっちゃったものは仕方がありませんし、これからどうするか考えた方がマシですって少佐さん。これから二人で一緒にがんばっていきましょう。ね?」
「モモンガさん・・・・・・」
やや胡乱気な瞳で見上げてこられたモモンガの中の人、鈴木悟は内心少しだけ慌てたが、体が人ではなくなっていたお陰で鈍化が始まっており取り乱すまでにはいたらなかった。
相手としても非生産的な愚痴をこぼしているのは自覚していたし、みんなの纏め役だったモモンガさんに長い間ギルド運営を丸投げしていたことへの後ろめたさだってある。
・・・そこいらが落とし所として妥当でしょうね・・・
そう思い、決意して、ズボンの足についてもいない埃をはたき落としてから立ち上がって前を向く。
「そう・・・ですね。留まって動かずにいれば滅びしか待っていないのかも知れませんし、前にしか道がないなら進むしかありません。邪魔する扉があるなら蹴り破るだけです」
「そう! それでこそ少佐さんですよ! いやー、懐かしいなー。よく攻撃役のあり方でタケミカヅチさんと口論になってたのを覚えてますか? あのころの俺は結構疲れててーーー」
楽しそうな口調で饒舌に話し始める、骸骨の姿をした大魔法使い。それは客観的に見たものからは滑稽に写ったかもしれないが、少なくとも彼の目前からモモンガの巨体を見上げる幼い幼女の中の人、中堅企業の『サラリーマン』緒方守の目には美しく映っていた。
良き人間関係とは得難いものだ。それをここまで素直に語れて自慢できるのは、モモンガさんの中の人が素晴らしい人格者だからに他ならない。
ーーそう実感できたから・・・・・・。
「ーーでも、やっぱりそのアバターの容姿で現実化しちゃうと・・・・・・う、くく、く・・・失礼。気を落ち着けました」
「精神強制安定が必要なほど笑うの我慢してるんでしたら、普通に笑ってくれていいですよ?」
善人過ぎて変なところで大ボケかます所があるのは問題だと思うのだけれども。
《ユグドラシル》で緒方守が使っているプレイヤーアバターは人の形をした異業種だ。一見すると矛盾しているとしか思えないし、守自身も矛盾しているとしか思っていない。
言うまでもなく、これには事情が存在する。
そもそも、この幼女の姿をした種族に自分から選んでなったわけではないのだ。不幸な偶然が重なり続けた結果、強制的に変えられてしまって元に戻ることができなくなっただけである。
ーーー妙に複雑骨折したシナリオを消化していった末に辿り着けるフィールド《神々の裁定》でプレイヤーたちを待ちかまえている傲慢な悪神《存在X》との問答イベント。
ここでは善悪両極端な回答を選ぶことにより、それぞれの属性に適した超希少アイテムを入手することが可能であるためネットの攻略サイトでも正しい選択肢以外はあまり載せていない。ハズレ選択肢を載せているサイトもあるにはあるが、『徹底的に間違えまくった、唯一無二の完全否定回答』に初見で行き着いたキチガイプレイヤーは彼以外にいなかったため、本当に偶然こうなってしまっただけだったのだ。
それはあまりにもヒドい偶然だった。
当時は普通に人ではない異形の種族をアバターに使って別のイベントをこなしていた彼は、偶然にも《神々の裁定》へと至るシナリオを消化してしまっていた事に気づくことなく先へと進み、《存在X》との問答イベントまでたどり着き「アイテム目当てできたわけではないから」と絶対に損しかしないと誰から見ても一目瞭然な選択肢を選び続けてしまったのだ。
これがモモンガだったら結果は異なっていただろう。狙ってた訳じゃなくても要らなくても、珍しいアイテムだったら欲しがるのがゲーマーなのだから彼としては至極当然の結果として善悪どちらかの希少アイテムをもらえる選択肢を選んでいたはずだ。他のプレイヤーだってそうだろう。
だが、彼は違った。
あるいは彼の心は、人間の時点で異業種寄りに出来ていたのかもしれない。
「要らない物は、要らないのだ。必要ないのである」
・・・その結果、もらえるはずだったアイテムを何一つもらえないままペナルティだけを与えられ、現在のこの種族《バケモノ》へと強制転生されてしまったと言うわけである。
「しかし、この種族・・・どこの国のどんな神話が元ネタに使われているんでしょうね・・・? あれから少し調べてみたんですが全然ヒットしないのですが・・・」
「さぁ・・・? 日本版の《ユグドラシル》だけに実装されてる種族とかスキルとか職業とかは色々ありますけど、大半がネタ系ですからねぇ・・・多分それもソッチ系だとは思っているんですけど、俺にはちょっと・・・」
「しかも『ネットは自己責任』の名の下で「自分で選んだ選択肢の果ての転生なんだから元の身体に戻るのはあきらめてください」とまで言い切られちゃいましたからねぇ・・・もう散々ですよ本当に・・・」
首を傾げて疑問符を浮かべ合い、ため息をついて見せる、骸骨の大魔法使いと幼女姿の魔導戦士。
つい今し方ここに転移してくる直前までは、圧倒的強さを持つ階層守護者たちを跪かせていた思考の四二人の内二人とは到底思えない和やかすぎる微笑ましい姿。
「ーーま、モモンガさんの言うとおり今さら気にしたところで、どうにもならない問題ですしね。今は目前のやるべきことを片づけていきましょうか」
「同感です。ーーでは、まず最初に何からやりましょうか?」
心なしかウキウキしているように見えるモモンガ。よっぽど一人きりでプレイしてたのが寂しかったんだろうなーと、申し訳なさでいっぱいになりながら少佐は、今できる最小限のリスクで最低限度の成功は確実に手に入れられる選択肢を我らがギルドマスターに提案した。
「まずはアイテムとかから召喚可能な雑魚モンスターを呼び出しまくって、四方八方を偵察に行かせましょう。強敵がいたとしても1チームに10体も入れれば、一匹ぐらいは生還できるはずです。死んだら死んだで帰ってこない方角は危険と言うことがわかりますから、得られる物は大きいかと」
「なるほど。一日の使用回数が限定されてる召喚モンスターは次に召還できるまでタイムラグがある以外はデメリットがありませんからね。
ナザリック内に配置してある警備モンスターたちと違って、みんなとも関わってないならそういう使い方をしていいのかも・・・」
「どのみち時間がくれば消えてしまうのが召喚モンスターの定めなら、最大限有効利用するのが正しい報い方というものでしょう。
大事だからとタンスの奥にしまい込んでいたヘソクリなんて、ただの死に金。社会的には紛失してしまい見つからなくなった無駄金です。なんら社会に還元するものではない。
そんな風に気持ちばかりを優先して勘違いの愛護精神を発揮するぐらいなら、少ない犠牲でより多くの人たちを守るのに役立つ使い方をしてあげるべきなんです。
気持ちだけで救われるのは、自分自身の気持ちのみ・・・・・・想いを自己満足で終わらせないためにも、私はモモンガさんとナザリックのため全力で行動させていただきますよ」
オリジナル主人公設定
キャラ名:少佐
種族名:バケモノ
属性:中立~微善
職業:ウォーモンガー(戦争狂)
ウォードック(戦場の狂犬)
ウォーロード(覇王)
備考
とにかく戦闘に特化したビルドに極振りされている。
これは本人自身が頭脳派のため、戦闘では自分自身が動けた方が結果的には適切な行動が出来るという判断から来ている。
剣と魔法を両立させた器用貧乏な魔法戦士タイプではあるものの、専門職アバターが多数参加する大会で上位にランクインする腕前があることから別物扱いされ『魔導戦士』と徒名されていた。
見た目は金髪碧眼、色白の肌にアウラやマーレよりも僅かに低い身長を持つ美幼女。
パンドラズ・アクターと色違いのナチス軍服を身に纏っている。
種族としての能力値は魔法使い寄りのバランス型だが、多種族からの転生が絶対条件として設定されている最初からは選べない種族のため、転生前のステータスの方が影響力は大きい。
人の形をしていても異形種であるため『人型種族でないと絶対に使えない』事になっている武器やスキル魔法などを引き継ぐことは出来ないが、それ以外はおおむね元の種族が持っていたまま継承されている。
二十一世紀序盤に放送されていたアニメの大ファンが《ユグドラシル》制作スタッフの中にいて「自分は彼女を再現するためだけに志願した!」と強行に主張した結果、隠し要素として追加される運びとなった種族。
あまりにもマニアックすぎる条件設定が災いして、守以外に転生した者がいない。幻の種族扱いされているが、一応、条件さえ満たせば誰にでもなることは出来たりする。
プレイヤーの緒方守は、ライトなオタク気質をもつ青年で戦記モノやファンタジーなど満遍なくオタク趣味を嗜むサラリーマンだった。
人との関係は気持ちを尊重するタイプだが、公の立場と私的な感情とを一緒くたにして周囲に迷惑をかける行為を極端に嫌うなど、社会人としては潔癖すぎる一面を持つ。
ーーー出来るならウェブ版を元にして、帝国でアダマンタイト級冒険者《白銀》となり活躍させてみたいと妄想している作者でした。(書籍寄りの王国編だと場所柄的に、漆黒を食っちゃいそうなキャラなのでね・・・)