試作品集   作:ひきがやもとまち

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「ネギま!」と「庶民サンプル」のコラボ作品です。
と言っても庶民サンプルから出るのは九条さんだけです。他は要らん。

九条さんは本当に良い・・・最高です・・・早く彼女を主役にして描いた第二作を連載したいものです。

注:ドタバタギャグコメディとして書いてますので、ドタバタ以外は求めてない方限定でお読みください。


魔法先生のクラスに九条さん現る!

 桜の花びら舞い散る入学シーズンーーからはちょっとだけ後だけど、まだ五月には至ってない四月のある朝。

 麻帆良学園に通っている若くて心も体も美しい年頃の乙女たちは、今日も優雅な登校風景をーー

 

 

 ドドドドドドドドドドド!!!!

 

「いそげ!」

「ちこく!ちこく!」

「やばいやばい! 今日は早く出なきゃいけなかったのに!」

「あ、アスナ今日は昨日以上に恋愛運めっちゃくちゃええみたいやよ? 好きな人の名前を10回言って「ワン」と鳴いた後に逆立ち開脚すると100%成就確実やて」

「うそ!? ホントに!? 100%なら私やるわ!

 高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生!ワンッ!!

 そして逆立ちの後でV字開脚!・・・って、恥ずかしいじゃないバカ! 年頃の乙女になんてことやらせるのよ!?」

「・・・いや、今のはさすがにやるとは思わへんかったし・・・うち、マジドン引きやったで・・・」

「なんで私が悪いことした流れになってるのよ!?」

 

 

 

 ・・・・・・麻帆良学園女子校エリア中等部に所属する若くて心も体も美しい、そして何より逞しくて元気な年頃の乙女たちは年相応の溌剌さを発揮して元気いっぱいに爆走する登校風景を満喫しておりました。

 

 ーーそこ! 「詐欺師ー」とか言わない!詭弁かでもないから!日本語の妙だから!伝統芸能だから!

 どんなに見苦しい光景だろうと綺麗に飾れる美しい言葉日本語。母国の文化に誇りを持とう!

 

「あははは・・・アスナさんは本当に元気な人なんですね。・・・いろんな意味で」

「ちょっ!? なんで子供にまで哀れみの視線向けられてるの私!? これおかしくない!? おかしいわよね!? 世の中絶対間違ってるわ!」

 

 ーーと、本来であれば乙女しか入ることが出来ないはずの麻帆良学園都市最奥エリアに位置している女子校エリアに、見慣れない異物が混入しております。

 あれは何だ? 狐か狸かUFOか?

 

 答えは10才くらいの男の子でした。

 

 スーツの上からコートを羽織り、背中には登山用と見まがうばかりに巨大なリュックサック。寝袋も入れてるみたいですし、いっそのことバックパックって呼び方変えた方がいんじゃね?と思わなくもない、小さな体には不釣り合いすぎるほど巨大なそれには更に不釣り合いな代物まで括り付けられています。

 

 樫の木の杖。

 ドラクエなどでよく見かける魔法使いが持ってるアレです。

 

 ただし形状はやや異なり、アレよりは多少複雑骨折してます。先っぽの杖頭の部分は正統的な鉤鼻仕様。ただし棒状の本体との繋ぎ目部分がジグザグとしたS字方に曲がりくねってます。

 持ち手を兼ねた細長い棒の本体は包帯らしき白い布でグルグル巻きにされ、上下ともにさきっちょだけが露出させているデザイン。

 古風な印象で如何にもな魔法使いの持ってる杖っぽい感じは出てますが、やはり持ってるのがスーツに着られてる感の強いお子様では似合いません。どこかしら“見習い”感、もしくは“なんちゃって魔法先生”な感が出てて、すごくパチモン臭いです。

 

 彼はネギ・スプリングフィールド君、10才。

 このたび麻帆良学園中等部二年A組の担任と英語教師を兼任することになった天才児で、赴任早々クラスの女の子たちから奉られた愛称は「ネギ先生」。

 実際には教育実習生待遇であり、向こう三ヶ月間の間無事に勤め上げるまでは正式な担任教師には昇格させてはもらえません。当然、お給料も安くて物価が高い日本では一人暮らしするのに大分不足してしまうだろうと予測できますね。

 

 なので彼の住んでる住所は今現在、学生寮の一室。麻帆良学園学園長の孫娘と、親友の少女二人でルームメイトしてる一室が住所録にも記載されてるネギ先生の所在地です。

 

「全くもー! 昨日に続いて今日もバイトに遅刻しちゃったし! ホントのホントにあんたなんか泊めるんじゃなかったわ!」

「はい・・・今さっきのアスナさんの恥態を見せつけられてから周囲の視線が痛くなりましたし、ボクも出来るなら早めに出ていけるよう努力しますね・・・」

「ちょ!? あれーーっ!?」

「アスナ・・・うちも部屋替えの希望出してええかな? さっきのは流石にその・・・なかったわ~・・・」

「ちょーーーっ!?

 え?あれ?なんで!?なんでよこのか!?私なにかしたかしら!? ぜんっぜん記憶にないんだけど!」

 

 大声で騒ぎ立てる鈴付きツインテールの少女は神楽坂明日菜ちゃん。保健体育特化の成績と身体能力、及びそれ以外すべての分野で超低空飛行な成績を取り続けている今で言うところの脳筋少女。

 

 ネギ先生と共に彼女と併走している黒髪ロングで京都弁を使っている少女の名は、近衛木乃香。通学ラッシュで足の踏み場も見つからない麻帆良学園中央駅前をローラーブレード履いて余所見しながら走ってる交通ルールをガン無視する今時の若者です。

 

 二人はネギ先生が担当することになったクラスに所属している女生徒たちで、ネギ先生が居候させてもらっている寮の部屋、その名義上の持ち主たち二人が彼女たちでした。

 

「ほら! 二人とも、学園入り口が見えてきたんだから気合い入れて走りなさいよね!

 朝寝坊しようと宿題をやってないことに朝になってから気づこうと、そんなこととは関係なく私は遅刻だけはしない!絶対によ!」

「「・・・・・・」」

 

 沈黙で返す二人、意気込んで鼻息荒くなる一人。

 二者一様のまま三人は目的地である麻帆良学園中等部の学園棟に到着する。

 

 ーーその時ネギ先生が「あっ」とつぶやいて突然立ち止まり、二人の少女は「?」と疑問符を頭上に浮かべながら背後で足を止めている年下のお子様先生を凝視しました。

 

「なによネギ。部屋に忘れ物でもしてきたの?

 言っとくけど取りに帰るなら一人で行ってよね。アンタが遅刻するのに私達まで巻き込まれるなんて真っ平ごめんーー」

「アスナー、そう言えば昨日遊んでたゲームは持ってきてん? ほら、あの朝倉さんから貸りとるって言う乙女ゲー。

 なんか高畑先生によう似てる男性キャラが攻略可能だからー言うて、高値で転売しようとしとるところを無理言って三日間だけ貸してもらったーって自慢しとった奴。

 今日がちょうど借りてから三日目やったよね? ちゃんと持ってきとるん?

 朝のホームルームで返し忘れたら今日一日ノーパンで過ごすっちゅう契約で借りとったって聞いたんやけど・・・・・・」

「ぎゃーーーっ!? 私の恋する乙女心をパンツと一緒に置き忘れてたーー!!」

「・・・アスナ、旨いこと言ってるつもりかもしれんけど、あんま旨くないで・・・?」

 

 アホが一人大騒ぎしている中でもお利口なネギ先生は至極まじめにお仕事の話を思い出します。これが正しい社会人としての生き方と言うもの、どっかのアホなノーパン女子中学生はよく学びましょう。

 

「誰がノーパン女子中学生よ! まだ履いてるもん! 今はまだ!!」

「風前の灯火やけどな・・・ちなみにホームルーム開始まで後十分・・・」

「うわぁぁぁぁぁっん! 誰か私の初恋とパンツを守ってーーーっ!!」

 

 泣き叫びながら麻帆良学園の校門前で初恋という名の愛を叫んだノーパン女子中学生(確定)は置いといて、教育実習生ネギ先生は昨日の帰りに学園長から聞かされた話を思い出します。

 

「確か今日、二年A組に転校生の方がいらっしゃるんですよね。その方をクラスまでお連れするために一度、ホームルームを始める前に学園長室まで来るよう言われてたんです」

「じじい(学園長)の所に? うちのクラスにっちゅう事はとうぜん女の子やよね?

 ・・・・・・あのスケベじじいと一緒の部屋に、二人きりで待たせといて大丈夫なん? なんかあったらシャレにならんで?」

「このかさんたら、またそんなこと言ってもー。

 ダメですよ? 人を中傷するような冗談を言ったりしたら。昔から人のことを悪く言う人が人に良く思われた試しなんて一度もないんです。

 人に親切にして優しく接してあげることこそ人間関係を構築する上で一番重要なんだとお姉ちゃんが言ってましたし、それでなくてもーー」

「・・・・・・・・・」

「ーーえっと・・・このかさん? どうしたんですか冷めた視線でボクを見つめて? ボクなにか悪い相でも顔に出てたりするんでしょうか?

 え、あれ、ちょっと? おーい、このかさーん? どうしてボクと目線を会わせてくれようとしないんですか? どうしてボクの頭を優しい顔して撫でようとするんですか? どうして空に向かって涙を浮かべながら拝むようなポーズをしてるんですか? 

 どうしてどうしてどうしてーーちょっとこれ本当に怖いんでやめてくれませんか、このかさーん!?」

「・・・・・・」

「誰か! 私のパンツを守ってくださーい!」

 

 混乱する少年、どこか遠くを見つめて悟りを開いてる少女、世界の中心から外れたところでパンツを叫ぶアホ。

 

 麻帆良学園は今日も良い感じに、混沌としたまま始まります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと・・・如何ですか、この麻帆良学園は? 外観、実績、格式、どれをとっても周りに恥じない歴史ある名門女子校で・・・」

「・・・先生は最近転任してきたばかりとお伺いしましたが、もうそこまで説明できるほど麻帆良学園の歴史に精通されておられるのですか?」

「え」

「失礼ながら外国から来られた方とお見受けいたしますが、日本の歴史と学校教育に関する知識の蓄積なくして伝統と格式は語れません。ご自分が教職を勤められる学校法人ばかりに知識が偏られるのは、後々の先生の御為にも成らないのではないかと愚考いたします」

「え、え~とですね。そのあのえーと・・・」

「若輩者の後進風情が何をおこがましいことをとお思いかと存じますが、わたくしもそれなりの家系に生まれ、一応なりとも淑女教育を受けた身として先生のお力に成れる部分もあるかと存じますれば、どうか転校してきたばかりの部外者が減らず口を叩いているだけだと解釈の末、ご自分の中で力として吸収していただければと願うものです」

「・・・・・・・・・」

 

 廊下を歩きながら先生らしさをアピールしようと麻帆良学園うんちくを語ろうとしたネギ先生撃沈。後ろから付いてきてる巨乳美人教師のしずな先生も、苦笑する以外に反応しようがありません。

 

 そんな二人とは対照的に転校生の女の子は、毅然としたまま前を向いてシッカリとした足取りのまま1ミリも歩幅を変えずに進み続けます。

 

 日本人形のように整った顔立ちの綺麗な女の子でした。

 今時珍しいおかっぱ頭で、藍色の眼と感情の起伏を感じさせない無表情な面立ちが特徴的です。

 棒でも飲み込んだように頭の上から爪先までピシッとしてて、なんだか軍人さんか女王様、もしくは名家に仕える厳格なメイド長を彷彿とさせる綺麗だけど非常に怖い感じの美少女でネギ先生も先ほどから困惑気味です。

 無言でいるのが苦にならないタイプなのか、黙り込んだまま三人で歩き続けても全然気にする気配はありません。

 ネギ先生を虫かミジンコか、とにかく人間ではない人間以下のナニカとでも認識しているかのように「居ても居なくてもどうでもいいオーラ」を発散させ続けてます。

 

(き、気不味い・・・・・・)

 

 新任早々の教育実習生のクラスに押しつけるには難易度高すぎな転校生です。

 いくらネギ先生の正体がイギリスにある魔法学校からやってきた魔法使いだからと言って、経験不足のお子様教師であると言う事実に変わりはありません。

 彼には転校生を誰か別のベテラン教師に泣きつくことで押しつけるという選択肢もないことはなかったのですが、学園棟着直後に言われた学園長の一言を思い出して実行に移せませんでした。

 

「ネギ君、この修行はおそらく大変じゃぞ? ダメだったら故郷に帰らねばならん。

 二度とチャンスはないが、その覚悟はあるのじゃな?」

 

 重々しい口調で告げられた警告に、魔法学校で校長先生から言われた言葉を思い出し

 

「仮免期間の間はどんな無理難題でもこなして見せます! ボクはお父さんのように『立派な魔法使い』になりたいんです!」

 

 力一杯二つ返事で答えてしまったのが運の尽き。

 彼は冷酷毒舌理不尽きわまるドSな美少女お嬢様転校生を伴って二年A組、即ち自分の担当するクラスに到着しました。・・・盛大な胃の痛みを味わいながら。

 

「えーと、今日は皆さんに新しいお友達を紹介します。

 やんごとない事情によって地図にも載ってない女子中学校から転校されて来られた方です。では自己紹介をお願いします」

「はい。

 皆さん初めまして、今日から共に机を並べて学業を学ばせていただきます『九条みゆき』と申します。

 田舎育ちの新参者ゆえ至らぬ事が多々あると思われますが、何卒ご指導ご鞭撻のほどを宜しくお願い申しあげます」

 

 折り目正しく頭を下げた美人の大和撫子を目の当たりにした二年A組女子生徒一同は、

 

『お、お、お、お・・・・・・』

 

 同じ一言をハモり続け、

 

『お嬢様だ! 本物のお嬢様が来たわ! 正統派よ!!

 どっかの金髪ショタコンなんちゃってお嬢様とは格が違う!!』

 

「ちょっと御待ちなさい皆さん!

 いったい何処の誰がショタコンなんちゃってお嬢様だと仰るつもりなのですか!?

 返答次第ではわたくし、法廷闘争も辞さない覚悟がございますわよ!?」

 

 (ほぼ)全員の反応に一人だけ気炎を上げて反論しつつも、概ねクラスの子たちは転校生を歓迎しているらしい。胸をなで下ろして、ホッと一安心のネギ先生。

 

 どこの国でも同じだが、転校生が学校で苛められやすいと言うのは定番ですからね。問題起こして停学沙汰とか、悪くすれば苛めを苦に自殺とか最近多いですし。

 

 仮免許の間に問題起こせば、免許没収の上で連れ戻される。魔法使って解決しようとして、もしバレでもしたらオコジョ化です。

 記憶を消す魔法もありますが、来日以降使う度に消し去ってるのは記憶ではなく女の子たちのパンツです。

 自責の念から自腹を切って弁償してますが、そのせいで懐具合はスッカラカン。お昼休みにジュース一本買えません。いい加減ひもじくなってきましたので、出来るならば何事もなく平和理に事が進んで大過なく研修期間終了日まで過ぎ去って欲しいとネギ先生は願ってやみません。

 

(オコジョもやだけど貧乏もなぁ~。誕生日にはお姉ちゃんたちにもプレゼント贈ってあげたいし。

 あ、そう言えば日本に到着した直後に買って送った熊の置物は喜んでくれたかな? ウェールズの山奥でも珍しい野生の熊の狩猟シーンは絶景だったっけ・・・)

 

 世界に誇る日本の伝統工芸製造技術に度肝を抜かれた来日初日を思い出し、頬をゆるめたネギ先生はその直後、ズーンと落ち込んだように暗い陰を顔に落とします。

 

(・・・でも、どうして日本の物価はこんなに高いんだろう・・・。ハンバーガーひとつに320円なんて法外すぎるよ・・・。

 イギリスでフィッシュ&チップスは庶民の味なのに・・・)

 

 日本とイギリスの貨幣価値の違いから国の壁を痛感しているネギ先生。

 そんな感じで、慣れてない上に通貨単位も大きく異なる異国の地で生きて行くには何よりもまず安定した収入と、雨風を凌げて役所に登録できる住所の確保が必要不可欠です。

 オコジョになれば動物ですから必要ありませんが、人間は文明の中で生きる社会的な生き物です。洞窟や山肌で生きてはいけません。人として生きていくためにも、まずは手に入れた仕事を手放さないこと! これは絶対条件なのです!

 

(そうだよ! ボクは将来、大きくなったら父さんみたいなマギステル・マギになるって約束したんだ!

 その夢を叶えるためにも、まずは日本の麻帆良学園で教職員に正規雇用を!)

 

 ・・・・・・なにやら微妙に目的が変わってきましたが些細なことです。

 子供らしい夢を見ていたネギ先生が、夢を実現するのに何が必要なのかと言う一番大事な部分に気がついただけのこと。子供が大人になるために最初のステップアップをしたに過ぎません。

 大人になるにつれて誰もが通る通過儀礼です。

 ですので、気にする必要は皆無なのです!(断言による決めつけ)

 

 

 

 ーーその時です。

 イタズラな春風(ちょっと季節過ぎてますが)が吹いて、ネギ先生の鼻も頭へ一枚の花弁を運んできました。

 

 ネギ先生は鼻炎なのかもしれません。花がムズムズすると問答無用で盛大なクシャミをしてしまい、我慢することも勢いを押さえることすら不可能なのです。

 

 もちろん、今この時もいつもと同じように「ハ、ハ、ハ・・・」と波動クシャミを溜めに溜めーー、

 

「ハクションッ!!」

 

『キャアッ!?』

 

 ぶっ放しました。遠慮も容赦も情けもなく、魔力の籠もった風が盛大な旋風となって二年A組の教室内を暴れ狂い何名かの生徒のスカートをめくり上げ、何名かの生徒の服を吹き飛ばし、先生のすぐ側に立っていた若干一名だけ服をバラバラになるまで細切れにし、完全に修復不可能な惨状にまで追い込んでから、風はようやく収まりました。

 

「な・・・何・・・今の風・・・って、いつものと言えばいつものなんだけど・・・」

「いつまでも続く春一番やよねー」

「ちょっ・・・あ、アスナさん・・・? 今日のそれは流石にその・・・。

 上だけそのままで下だけスッポンポンというのは、いささか以上に破廉恥すぎるのではないかしら・・・? なんと申しましょうか、目のやり場に非常に困るのですけれど・・・」

「だったら見ないでよ! 私のこんな恥ずかしい格好をーーっ!!!」

 

 

 阿鼻叫喚。この一言にて尽きる惨状です。

 

 

 そして、事の元凶であるネギ先生はと言うと。

 

「ふぇぁ・・・またやっちゃっ・・・た・・・!?」

 

 くしゃみした直後に伴うフラつきから回復して前方を確認し、異常なかったから右左と見ようとしたところ、左側で異常を発見しました。

 一大事です。緊急事態です非常時です。今すぐ救助隊を派遣して救援しなくてはなりません。

 でなくては恐らく、間に合わない・・・!

 

 

「・・・・・・どうかされたのですか、先生? なにか恐れおののいていらっしゃるようですが・・・。

 まるで恐るべき魔王と出会ったオコジョにでもなったかの様にーー」

「ぴえっ!?」

 

 がたがたがたが・・・・・・。

 絶対零度の視線を前に、ただただ震えて怯えるしかないネギ先生です。

 

 目の前には全裸になっても揺るぎなく姿勢を正して立ち続けている、転校生の九条みゆきさんが蒼い瞳にブリザードを宿した視線で先生を永久凍土の地獄へ招き入れようとしていました。

 

 恐るべき冬の魔王にお子様ネギ先生は抵抗する術を持ちません。

 こう言う時にこそ使える魔法はなかったでしょうか!? グルグルお目目を回しながらネギ先生は必死に考えます。

 でも、こう言うときに頭を働かせても禄な答えは出てきません。安易な逃げの選択肢を最前手と思って選び実行した後、心の底から後悔してのた打ち回るのがオチなのです。

 年若く経験不足なネギ先生は、その常識を知りません。

 ですから当然の様に間違った方程式をたてて、間違った答えに辿り付き、間違った考えを過ちでもって実行に移してしまいます。

 それを破滅へ至る道だと気づくことなく、地獄に堕ちた自分を救う蜘蛛の糸だと信じて縋り付きながら・・・・・・

 

 

「きっ・・・き・・・記憶を失え~~~~~~~っ!!」

 

 かつて居候先の名義人となっている神楽坂明日奈に使い、服を着ていた彼女をノーパンでパイパン晒させる最悪の結果をもたらした最凶にして最悪の魔法《記憶を失え》。

 

 あのときの彼女は一部の隙なく冬用の制服を纏い、露出しているのは膝上丈のミニスカートと学校指定の紺色ハイソックスの間に広がる広大な絶対量域だけでしたが、今の九条さんは左に非ず。

 既にして素っ裸で何も身につけてない彼女には効果を及ぼせるはずも御座いません。

 普通だったら、服がないなら記憶の方に効果が及ぶのではと考えられるところなのですが、ネギ先生の魔法の才能は非常に特殊で『女の子たちを脱がすことだけ』に特化し過ぎているのです。

 

 なのでこの時も効果は、周囲に点在している服を着た少女たち全員に及び、麻帆良学園女子中等部二年A組所属の生徒全員、素っ裸で吹き飛ばされて組んず解れつ状態に!

 

 

 

「いったぁ~い・・・。もう、今度のはいったい何だったのよー」

「きゃっ! 誰か今、私のお尻触ったでしょ!?」

「うう~ん・・・重いー・・・お尻とオッパイに潰される~・・・・・・」

「う、動けない・・・動けないけどオシッコ行きたいかも・・・」

 

『ぎゃーーーーっ!!?』

 

 

 阿鼻叫喚地獄、パワーアップして再臨!

 

 もう詳しい描写が出来ないレベルで危険アブねーです!

 

 

「あわ、あわわわわ・・・・・・ど、どどどどどどうしよう・・・・・・!!」

「暫しお待ちを、先生。今すぐ家の者に連絡して助けを寄越させますから」

「あ、ありがとう御座いますみゆきさん! あなたはボクの恩人です!

 本当になんてお礼を言ったらいいのか・・・・・・!」

「もしもし? ジイヤさんですか? わたしです。至急、替えの制服を持って麻帆良学園二年A組の教室まで来てください。

 それから、私の分以外にもクラスの方々全員分をお急ぎで発注すること。大至急です。下着も含め、御家族にはそれとなく事情を説明して正確な数値と使っているメーカーについても聞き出しておくのですよ」

 

「ーー名目? いくら九条の名を出しても年頃のご息女を持つ親御さんから使っているメーカーの銘柄を聞き出すのは気が引ける? ・・・・・・正論ですね。

 では、こうしましょう。

 全てはクラス担任のネギ先生が責任を持って決断した英断であると」

「ちょっ!?」

「教師とは生徒たちを教え導き、将来を守り、時には身を擲ってでも教え子のため生徒のため彼ら彼女らを支える保護者の方々のために献身し、身を捧げなければならない尊いご職業。その様に尊い仕事に就かれた先生の覚悟を無碍にするは、九条の恥と知りなさい。

 ですよね? ネギ・スプリングフィールド“先生”」

「今それを強調して言うんですか!? 鬼ですかあなたは!?」

「了解は取れました。生徒のために喜んで自分は腹をメされる覚悟とのこと。今の言葉はきちんと録音して複数枚コピーして、アーカイブの一番深いところにも保存しておくのですよ」

「嫌がらせですか!? 嫌がらせでしょ!? 嫌がらせなんですよねソレ!

 みゆきさん幾らなんでもボクのこと、目の敵にしすぎじゃないでしょうか!?

 ボクがいったい何やったって言うんですか・・・・・・」

「(ぼそり)・・・きゃー、助けてー、男の先生に無理矢理服を脱がされて犯されるー」

「すみませんでした!ごめんなさい!もうしません!

 あなたのパートナーにでも何でなりますから勘弁してください!」

「・・・もしもし、教育委員会の方ですか?

 先程であったばかりで、互いのこともよく知らない男の子から「あなたのパートナーにさせてください!」と熱烈なプロポーズを受けているのですが、どういう反応を返せば宜しいのでしょうか?」

「社会に出て活躍する魔法使いのパートナー的意味合いでの発言だったんですけど!?

 僕たち魔法使いの世界に伝わる古いお伽噺で、世界を救う一人も偉大な魔法使いと、それを助けた一人の勇敢な戦士の話があってですね・・・・・・」

「・・・・・・もしもし、精神科の先生ですか?

 目の前に私を無理矢理裸に剥いた後、土下座しながら偉そうな態度と口調で滔々と『かつて世界を救った魔法使いと戦士の話』を語り始めた男性教諭が居られるのですがどうしたら・・・」

「ちがーーーっう! 話を聞いてお願いですから!

 誰か! 僕の社会的な信用を助けてくださーーーっい!」

 

 

 世界の果てで保身を叫んだ魔法使い(笑) 完


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