まずは「俺ガイル」×「SAO」コラボ作です。たぶん(書いたこと自体、覚えてない私)
誰もが些細な嘘をつく。
大事なものを失いたくないからと、自分に対して嘘をつく。
大事だから失いたくない。自分が嫌いな嘘をついてでも守りたい。
だからこそきっと、大事なところで間違える。
嘘をついてはいけない場面で、みんなを守るために嘘をつく。
そうして失ってから嘆くのだろう。失うことがわかっているなら手にしない方がマシだったと。手放して死ぬほど悔やむくらいなら諦めたほうが良かったと。
そのやり方はたぶん、間違いじゃない。自分に対してついた些細な嘘なんて、褒めることも責めることもできない。
たとえ守るために嘘をつく行為が間違いであったとしても、嘘をついてまで守りたいと思った気持ちは嘘じゃなかったと信じていたいから。
考えても答えは出ない。計算しつくしても答えは出せない。
それでも俺は考える。計算で人の心理を読みとることしか出来ない俺は考え続けることしかできないから。消去法で答えを一つずつ潰しつづけて、最後に残ったただ一つの応えに行き着ける。そう信じ続けて考え続けて・・・・・・。
ーーだが。俺は一番根っこの部分で選択肢を選び間違えていた。考慮に入れて当然の可能性を頭の中から完全に消し去ってしまっていた。
間違えたらゲームオーバーの選択肢を間違えていた俺は、『それ』が起きるまで間違えて悩んでいた事そのものが間違いの上で成り立っていたのだと気づけなかった。
誰しもが平等に明日が来るとは限らないことを。考え続けることのできる未来が奪われてしまう可能性を。自分の知らない第三者の悪意に巻き込まれる可能性を。自分たちだけで成り立つ社会も世界もありはしないのだという当たり前の常識を。
俺は、俺たちは誰しもが失念したままで、『その時』を『その場所で』迎えることになる。
SAO。
脳の視覚野や聴覚野にダイレクトにデータを送り込むことで、文字通りにゲーム世界へ飛び込むことを可能としたフルダイブシステム。
その画期的システムが搭載された世界初のヴァーチャルMMORPG《ソードアート・オンライン》通称《SAO》。
二ヶ月前から始まっていたテスト期間が終了し、今日から本格的な正式サービスが開始されたゲーマーたち期待の超人気タイトルだったが、今この場に集められた人々の顔に喜びの色はない。あるのはただ、恐れと恐怖と困惑だけ。
負の感情に満ちた表情のプレイヤーたちがSAOの舞台、空に浮かぶ石と鉄の城《アインクラッド》第1層にある《はじまりの街》中央に位置する広場で空を見上げながら「終わりの宣告」に注目している。耳を傾けざるを得なくなっている。
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』
『また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない』
『諸君にとって《ソードアート・オンライン》は、すでにただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ。今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない』
ーーナーヴギアの開発者にしてプログラマーでもある茅場昭彦を自称する赤フードが、聞いている側の意志や都合になど興味はないとでも言いたげな尊大きわまる傲慢な口調でもって言いたいことだけ言ってくる演説が続いている。
だが、それこそ俺にとっては奴の話なんか興味がなかった。心底からどうでもいいと言い切れる。
俺が気に病み、心の中を一杯にしてまで思っていたことはただ一つ。
奴が空中に映し出してた映像の中の一枚に、見覚えのある女の子が母親の胸の中で泣き崩れているシーンを見つけた瞬間に他のことは全てが些事としか思えなくなってしまっていた。
俺と同じで頭の上から触覚みたいなアホ毛を伸ばしてる、少しだけアホっぽい外見をした中学生ぐらいの美少女。
俺に似てない見た目とコミュ力の高さを持った自慢の妹、比企谷小町。
修学旅行から帰ってきてからの俺を、一番身近で心配してくれていた大事な大事な俺の妹。
その子がお袋の腕に抱かれて泣き叫んでる。
落ち込んで空元気を出してた俺を柄にもなく励まそうとしてくれたのか、「ベータテストに落ちて死ぬほど悔しかったから正式版は絶対買って、開始と同時にログインするんだ~♪」と浮かれながら自慢していたSAOのサービス開始直後のプレイ権を、
「ごっめーん! 友達から頼まれてどーしても断れない用事ができちゃったんだ! 悪いんだけどさー、お兄ちゃん小町の代わりにプレイ始めといて。初日だけやって明日から小町がキャラ作り直すから、チュートリアルだけでも受けといてほしいんだぁー。
ね? お願いお兄ちゃん。小町のお願い聞いてちょ~だい☆ あ、今の小町的にポイント高い~♪」
ーー今朝、小町が出かける前に交わした最後の会話の中でアイツが浮かべていた笑顔が、今は妙に寒々しい・・・。
「・・・ふざけんな、ふざけてんじゃねぇぞ、この野郎・・・・・・!!!」
言いようのない怒りに駆られ、俺は茅場昭彦が『以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する』その言葉を以て終わった冗長なだけで価値のない、俺にとってはどうでもいい事この上ない演説もどきの終了とともに出入り可能となった中央広場から飛び出して、何も考えないままガムシャラに走り続け、敵が出てきたら八つ当たりに切り殺しまくっていった。
俺の心に渦巻いてたのは、神様気取りで上から目線に語りかけてきてた茅場昭彦のこと“なんかじゃない”。今の俺にあんな奴について考えてられる心の余裕なんか、これっぽっちも持ち合わせない。
俺が怒っていたのは俺自身だ。他の誰より許せないと憎んでいたのは、俺自身に対してのみだ。
なぜ、こうなる前に小町に対して本音を晒さなかったのかと。なぜ、正直に辛くてキツいと弱音を吐くことができなかったのか。兄として妹と過ごした十数年間の積み重ねが邪魔をして相手に素直な気持ちを吐露できなかった自分が腹立たしい。嘘っぱちの強がりで、結果的に小町を泣かせてしまった自分がバカにしか見えなくて仕方がない。
なぜ、もっと早くに気づかなかったのか? 俺たちの日常なんて、学園生活なんて、在り来たりな青春ラブコメなんて、赤の他人にとっては埃ほどの価値すらないんだってことに。
自分自身の目的のためには、巻き込んで壊して奪い尽くして削除してしまっても気にならないほど些細な出来事に過ぎないのだという事実に。
俺たちは主人公じゃない。世界という物語の中での俺たちは端役に過ぎない。俺たちは俺たちの精神世界の中でしか主人公ではいられない取るに足らないガキでしかない。
なぜ、もっと早く気づけなかったんだろう。世界は俺の人生になんて興味を持っていないことに。
雪ノ下の人生も、由比ヶ浜の人生も、葉山を含めたクラスのトップカーストグループ全員分の人生でさえアインクラッドに集められてる一万人の中では一割にすら達していない切り捨てられる端数でしかない。
自分のことをどんな奴だと思っていたとしても、他人から見た俺比企谷八幡は『その程度の人間だ』と断じてしまえば本当に「その程度の人間」として認識される。
正解でも誤解でも、決めたそいつにとってはただ一つの正答だ。誤解は解けない、やり直せない、言い訳なんて意味はないし、問い直すことにも意味は認めてもらえない。
それが社会だ。大人の都合で運営される、俺たち子供から見て間違った理屈で動いていく大人たちにとっての正しい理論だ。
そんな間違いだらけの代物の中で生き残ることを、俺たちは拒否権も与えられないまま強制的に押しつけられて従わざるを得ない状況に置かれてしまっている。
俺が間違えた結果として《ここ》に来たなら、諦めも付くだろう。困難を乗り越えて頂を目指し、ゲームをクリアするヒーローに憧れる気持ちが生まれる余地だってあったかもしれない。
だが、現実に俺がここにいるのは偶然に過ぎない。
俺の間違いが、他の誰かの計画に巻き込まれ、たまたま投げたダーツが飛んでいった先に俺がいた。ただそれだけの偶然でしかない。運命も宿命も介入する余地なんてどこにも見いだせない。ただ巻き込まれただけの被害者たちの中にいた、比企谷八幡という名を持つ一人の少年。
ただそれだけで説明文は終わってしまう取るに足らない脇役のちっぽけな命。吹けば飛んでいって消えてしまい、誰にも覚えていてもらえなくなるゴミみたいな命の一粒。
「ーーふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
俺は剣を振るい、怒りの感情の赴くままに切って切って切りまくる!
取るに足らないムシケラのような、ちっぽけな命? 大多数の中では埋没してしまう、一万人分の一つに過ぎない切り捨てていい端数?
ふざけるな、ふざけるなよ糞野郎。その取るに足らない、ちっぽけな命が失われてしまったら小町は永遠に笑えなくなってしまう! 一生を泣いて過ごして笑顔を作り続けなくちゃならなくなってしまう!
俺が死ぬことで小町が泣くなら、俺は死なない! 生き続ける! 生きて生きていき足掻き続けて、絶対に小町の元へ帰還してみせる! 絶対にだ!
「待ってろよ小町。お兄ちゃんは絶対、生きてお前の元まで帰り着いてみせるからな・・・!」
決意の叫びが広野に轟き、誰の耳にも届かないまま、やがては風の音にかき消されていく。
今日ーー二〇二二年十一月六日、日曜日。
俺の『まちがってもいい』青春は終わりを告げて幕を下ろし、まちがった選択は誰かの死へと直結しているデスゲームが開始され幕を開ける。