試作品集   作:ひきがやもとまち

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昨日デスマを書いたおかげか吹っ切ることが出来ましたので、色々とヤバい『ひねくれチート』を正式にシリーズ化するため長編バージョンで2話目から書き直しました。長いスパンで考えれるので書きやすかったです。

基本的には普通の展開スピードで進めていく方針に変更されております。いきなりな展開はありません。あと、正義の味方系キャラはとことん『嫌な奴』として描かれますのでそのおつもりで。


チート転生は、ひねくれ者とともに 2話目(正式スタート版)

 異世界生活最初にこなしたクエスト『護衛任務』も無事終わり、街までついた私たちは一息ついておりました。

 隊員の皆様方も「あ~、良かった。生きて帰れた~・・・」と心の底から安堵しておられるようで戦争否定国日本の元住人として誇らしい限りですね♪

 

 隊長さんの方も意気揚々と都市の門番さんに帰還した旨を伝えに行き、今でこそ分厚い門の外で地べたに腰を下ろしている兵士さんと私たちもほどなくして暖かく柔らかいベッドの上でくつろげるようになるとの事。ありがたい話ですね~(o^^o)

 

 ーー余談ですが、モンスターが町の外を徘徊しているこの異世界で分厚い壁に守られてない町とか村はかなり例外的な存在らしいです。

 何かしら襲われにくい理由があるか、もしくは金がないから作れない、襲われたら殺されないよう逃げ出して僅かでも生き延びられたらそれでいいみたいに覚悟して過ごさなければならない事情持ちの人たちだけが、そう言った特殊環境下でも地球の日本みたいな防犯レベルで生きてるらしいです。ただ生きるだけでも難しい。基本です。

 

 

 そんなことをツラツラと回想してたら隊長さんが、辛気くさい顔して戻ってこられました。どう見たって吉報は携えてなさそうだな~と、分かってはいるけど期待はしたい、過酷な現実と向き合わされてる外見年齢10才幼女・冒険者な私です。

 

 

「・・・・・・すまない、魔術師殿。またしても厄介事みたいだ・・・・・・」

「・・・・・・またですか・・・・・・」

「すまない・・・・・・本当に申し訳なく思っている・・・思ってはいるのだが、しかし・・・」

 

 チラリと周囲を見渡す彼がなにを見るよう促してるのかなど知るまでもありませんし、知りたくもないんですが、それでも私は見ます。

 だって相手が礼儀正しいんだもん。日本人なら礼には礼で返さないと自分の方が罪悪感とかで気にしすぎちゃんだもん。仕方ないじゃん。

 

「・・・・・・(ちらり)」

『・・・・・・(ジ~~~~~~~~っ)』

「・・・・・・(うわ~・・・めっちゃ見られてますよ、私~・・・)」

 

 負傷してヘトヘトになった隊員たちの皆様から暖かいというか、生暑っ苦しい縋るような眼で見つめられてる外見年齢10才幼女・冒険者な私です。・・・セクハラ罪は適用可能ですか? え? お前この国の人間じゃないし不法入国してきた犯罪者だろ犯罪者に人権なんて最小限度でいいんだ? 嫌なら罪犯すなよ?

 

 ・・・ご尤もです。反論の余地すら存在しておりません・・・。

 

 

「一応、引き受けること前提で聞くんですけど・・・どのような厄介事なので?」

「今度の遠征任務で我々が出征したのと時を同じくして隣の町でも似たような討伐遠征を行ったらしい。ーーまぁ、総督同士が官僚出身で向こうの方が学生時代に成績下だったから意識しまくっていたのが原因だとか門番たちが騒いでいたのだが、お上の裏事情までは分からんし噂話として流しておこうーーそちらの遠征にはどうやら貴殿にような助っ人は現れなかったようなのでな。普通に失敗してゴブリンキングを怒らせて大侵攻を招いてしまったそうだ」

「うわ・・・」

「一応、逃げ戻ってきた部隊を再編成して町の防備を固めて徹底抗戦する構えを見せたのは立派だと思うし、外壁の防御力をうまく利用して守りきったことも評価できる。防衛部隊はやるべき事を全てやったんだ。それは認める。

 ーーただ、問題なのは総督でなぁ~・・・」

「・・・まさかとは思いますけど、その事をこちらの町に伝えていなかったからゴブリンたちの襲撃に対応する準備が出来てないとか?」

「それこそ『まさか』だね。そんな打算が出来る人ならこちらの苦労も少しは減る。

 あの人はただ、守るべき都市の人たちにこれ以上の犠牲を強いらないために、都市から一歩も出ることがないよう厳命を下しただけさ。それこそ最下級の伝令兵に至るまで一人残らず全員に、ね」

「・・・・・・・・・」

「そう言う人なんだ。一人も切り捨てないために全てを拾おうとして、結局はより多くの被害を生じさせる。

 それでいて誠実で私利私欲では動かない、常に民の側にたって行政相手に立ち向かい続けているから市民からの評判はすこぶるいい。左遷させようとすれば市民たちが自決覚悟で反対する。ーーそんなだからさっきみたいな悪評を流されるんだけどね?

 絵に描いたような『弱き民たちを横暴な支配者から守る正義の殺戮者』様なんだよ。自覚も悪意もないところが一番性質が悪いタイプだ。ハッキリ言って前線にたつ公務員としては汚職官吏の方がまだマシだと感じられる人なんだよ」

 

 ・・・もはや哀れすぎて声もない・・・。なんだってそんな人が責任ある人の上に立つ役職に・・・・・・。

 

 ーーー頭を抱えていたら、兵士さんたちのささやき声が聞こえてきましたーーー

 

 

「あの人って確か、強かったよな? 若い頃は」

「いや? 今でも若くて強いぞ? 何でも昔、少年時代に凶悪な魔物を討伐した見返りとして王様から産まれ故郷である隣町の統治権と爵位を要求したとかで。

 以前の世襲貴族様は市民に重税を課してたから、解放者として町の人間には人気があるって吟遊詩人が歌ってたのを聞いたことあるわ」

「あー、だからあの人だけ呼び方が領主じゃなくて総督なのか~。世襲制貴族の前領主を追い出して後釜に座ったから」

「前の領主が酷すぎただけで、税制も普通に戻しただけなんだけどな? それでも民たちから見りゃ間違いなく圧制から解放してくれた英雄なんだから、新たな支配者として歓迎するのも分かるよな。気分的にはだけども」

「その結果として迷惑かけられてんのは俺たちなんだけどなー。俺たちの命に関しては、あの人なんて言ってんの?」

「・・・そもそも平民出身で帝王学も統治のノウハウも知らない、顔と剣の腕と人望だけが取り柄のあの人に政治的なことはなんも分からんよ。全部側近に任命された昔からの仲間たちを信頼して任せっきりさ。・・・いや、勉強はしているらしいんだけど・・・」

「・・・ぜんぜん足りていない、と?」

「ーーー知識層出身じゃないからなー・・・。統治なんて専門技能はちょっと・・・」

「ダメじゃん」

 

 

 こ、この異世界はーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!(*`Д´*)

 

 

「ーーーで、どうなのかな? 引き受けてもらえると解釈して構わないのかな? 私はウズウズしながら君の答えを待っているぞ?」

 

 人、それを現実逃避という。

 

「・・・断るかどうかは別として、私の返答がナインだった時のためにも準備ぐらいはして置かれた方がよろしいのでは? 了承されること前提で話を進められたのでは、その総督さんと同類になってしまいますよ?」

「心配ない。・・・どのみち君に断られた時点で私たちはもう終わりなんだから、素直に諦めるだけなら大した時間はかからんよ」

「・・・・・・・・・」

 

 私は自分を見つめてくる複数の視線を感じて、再び周囲を見渡してみるとーーー

 

 

『・・・・・・・・・・・・ジ~~~~~~~~~~~~ッ』

「声まで出しますか・・・・・・」

 

 どうする? アイフル?

 ・・・どうするも何も、人として選択肢ってあるんかいな・・・・・・。

 

「・・・あー、もう! わかりましたよ! 引き受けますよ! 引き受ければいいんでしょう!?」

「・・・ありがとう。本当に、心の底からありがとう・・・。この御恩は一生かかっても忘れない。死ぬまで返すし、死んでも返せる方法があるなら言ってくれ。本当に家族以外なら何でも差し出す覚悟は出来てるから・・・・・・」

「い、いや、流石にそこまでしてもらいましても・・・・・・」

 

 なんか調子狂うなぁ、この人は・・・。いやまぁ、受けた恩の量と同等の感謝という点では正しい対応のような気もするんですが、周りとのギャップが酷すぎてなんか凄くやりづらい・・・・・・。

 

 

「この程度の労で代わりになるとは微塵も思ってはいないのだが、せめて上に掛け合って『子供の魔術師が助っ人に参加してくれる場合には』比較的安全な位置に陣取って、ゴブリンどもを町に容れないよう努力してくれればそれでいいと言質は取ってきてある。

 我々が疲弊しきった敗残の身であることは向こうも承知しているからね。それでもかき集めなければならないのが交易中継都市である、この町の正直な実状なんだよ。職人街を主産業にしている工業都市の隣町と違ってね」

 

 もう、本当にそのバカ総督は解任しちゃってください。心の底からマジなお願いですから・・・。

 

「分かりました。ーーただし今から見せる魔法については可能な限りでいいので他言無用に願いますよ?

 こっちとしても本音を言えば弱っちい魔法でチマチマ戦って自分の強さを隠したいんですからね・・・ブツブツ」

『おお・・・ついに嬢ちゃんも口に出してブツブツと言い出すようになった・・・これはキてるぜぇ・・・!!』

 

 うるせぇぇぇぇぇよ!!! 余計なお世話だコンチクショオオオオオオオッ!!!!

 

 

「空間座標把握、各目標の乱数回避軌道算出、チャンバーへの魔力充填正常。発射準備よし・・・だーれーにしーよーうーかーな! お空の上の邪神様の言ーうーとーおーり!

 決定! 全員死刑!! 《デスビーム×いっぱい》!!

 シャー! シャシャシャシャシャー!!!」

 

 

 フリーザ様よろしく、指先から紫色した細いビームを出しまくり撃ちまくり、逃げなきゃ当たって死ぬ、逃げても追いかけてって死ぬ、後ろから背中を貫かれて死ぬ、腕を奪われた後に頭を撃ち抜かれて死ぬ。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、みんな死ぬ!!!

 

 敵より多数で都市に押し寄せてきてるんですから、誘導ビームぐらいで卑怯だなんだと喚く権利は認めてあげませんからね?

 

 

「抹殺! 必殺! 滅殺! 瞬さぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッつ!!!!

 ーーーはぁぁ~、スッキリしましたぁ・・・・・・(さわやかな笑顔で)」

 

 

 叫びながら止めを刺して格好良く決める! ヒーロー物の定番ですよね! 勝利ポーズ決めて勝利セリフも言う! これぞまさにバトル物の最強主人公の勝ち方というものですよ!!

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 ・・・なのに何故こんな眼で見られなければならないのか・・・。世の中の見た目が悪い必殺技を持つチートキャラ達はかわいそうです。

 裏切り者の顔してるからと孔明に嫌われてた魏延さんに同情するなら、心で人見るフリして結局は見た目の風潮やめろーーーーーーーーーっ!!!!!

 

 

 

 

 

 ・・・・・・この時、私が使ったデスビームは敵部隊のボスキャラである『ゴブリンキング』さんをも貫き殺していたらしく(7レベルと15レベルの違いなんてチートキャラには区別つきません)敵さん全員がさっさと撤退していってくれました。

 

 その結果、勲功第一位は私と言うことになったのですが行政にも体面というものがありますので、表向きは『都市警備隊と都市住人全員の団結と協力によって』守り抜いたと言うことにするとのことでした。

 

 余所者で通りすがりの私には心底どうでもいいお話ですけどね。代わりに助っ人料金としては破格すぎる額の報奨金をもらえましたし、身分証明を兼ねた許可証も領主様じきじきに執筆してくれるとのことですし大儲けだったぐらいですよ♪

 

 

 

 

 尚、今回の件では都市警備隊の方々の中からも何人かが表彰を受けたそうでして。

 私は名簿を見てないですけど、その中には指揮官さん率いる部隊よりも先に帰還していたからミリエラさんと一緒に遊撃任務に就いてたシェラさんも入っていたんだそうです。

 

 

 剣士として参戦した彼女に与えられた称号は『敗走する味方を援護して人助けに貢献した《救命者》』だったとの事です――――

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・っ!!!」

 

 バシンッ!!!

 

 表彰式を終えて自宅に帰ったシェラは授与された勲章を引き契ると、床に向かって投げ捨てたーーーーー。

 

 

 

 

*登場させる予定ないから書かなかった裏設定:

総督

 隣町の統治者で『ロード』と読む。伝説に登場する英雄の『聖騎士王』がそう呼ばれていたことから採用された。主君の地位を騎士として武勲をたてて手に入れた者を現す敬称。

 ・・・ただし、歴史の長い封建制国家のため貴族の大半はもともと騎士であり、未だに実戦の可能性がある辺境部などでは手柄を立てた傭兵や兵士たちが武勲を称され武官貴族として領主に任命されるのが常であるため、取り立てて彼が特別だったわけではない。国民に人気がありすぎたため政治的にアピールする必要があっただけの名称である。

 唯一、戦の折に従軍するか否かを任意で決められる特権が与えられてはいるのだが、正直お上よりも人気のある英雄なんかが参陣してこられても火種にしかならないので態のいい名誉職と言ってしまえばそれまでの存在。後継者には引き継がれない一代限りの称号でもある。

 

 総督本人は見目麗しく爽やかな好青年。雄弁家であり、静かに闘志を燃やすタイプの情熱家でもあるなど若い世代から熱狂的に支持されやすい特質を持つ。――ようするに精神上の麻薬発生装置みたいな存在。

 行政府の中枢メンバーも昔から彼に好意的な友人たちで占められており、全員が彼の理想と志に共鳴した信奉者という、悪意も自覚もない一党独裁体制の街。市民からの人気は異常に高い。

 

 側近であり副官でもある貴族の家を出奔した旅の仲間の一人が補佐として控えており、不慣れな統治者でもあるかつてのリーダーを手助けしている。

 彼女は理論家だが、『現実的な考え方=非道な手段』という極端な物の見方をしており、現実を自分たちが正すべき対象としてしか見ておらず偏見に塗れているなど、独善的な人間が行政の中核を担っている問題の多い街。

 

 今回の事件においても総督を信奉するあまり信者化している一部下級指揮官たちが独断で報告をしなかったのが原因で起こっており、組織よりも個人への忠義が優先されるのが常な面倒くさい街。そのくせ犯人たちは「すべての責任を取る」と自決してしまうのがお決まりのパターンだから性質が悪い。

 

 市民からの圧倒的な人気と、総督自身の政治的野心の無さ。彼ら個人個人の武勇とで現在の地位を保てている事に全く自覚のない問題児集団。

 その隣にあるユーリが来た町は毎回堪ったものではありません。

 

ちなみにシェラさんも総督のファンの一人です。




シェラさん自身は自覚していませんが、苦労や功績を他人と分かち合うことは出来ても、独占されると耐えらずに妬んでしまうタイプです。

 本質的に英雄の器ではなく『英雄に憧れている』少女騎士で止まっていた方が良かった人で、本気で目指して努力してしまい才能という現実の壁に立ちふさがられて苛立つ気持ちを抑えきれずに他人にぶつけてしまいがちな人でもあります。

 自分が憧れても成れない英雄に『成れるのに成ろうとしない人』には激しい嫉妬と敵意を義務感や正義感に包んでぶつけてくるなど、熱血漢に見えて内面は結構ドロドロしてもいます。

今度は急がず慌てず丁寧に、彼女の裏と表を描いていければと思っております。
今後の展開として予定してるのは、対等な立場で彼女との絡みと言うか絡まれては一蹴するのを何度かやりたいですね。許可証とか諸々の問題が無くなって自由になりましたから。対等に主張を言い合えるのは素晴らしい。

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