試作品集   作:ひきがやもとまち

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結局続けてしまいました・・・。一応今話からは完全オリジナル展開です。
新キャラも一応出てます。


チート転生は、ひねくれ者とともに 1章

 街までの道中、指揮官さんからこの国のことを聞かされて一応の知識を得た俺は護衛以来を黙々と果たし、街に到着したところだった。

 

「ふぅー、着きましたね。意外と長くて疲れましたよ」

「スマン、負傷兵輸送用も兼ねた物資運搬用の荷馬車は先に味方を乗せて逃がしてしまってたんだ。最悪討ち死にで全滅を覚悟しなければいけない殿部隊として平和な帰り道を想定しておく余裕などあるわけなくてな・・・・・・」

「まぁ、そうですよねー。・・・あれじゃあ流石に、ね?」

「・・・・・・すまん・・・・・・」

 

 俺が目を向けた先にいるのは殿部隊に所属していた隊員のみなさん。

 ある者は同僚に肩を貸して歩かせてやりながら、自身は開いてる右手でもってた杖を倒れないよう松葉杖代わりにジイサン歩きして、またある者はヘタリ込みそうになるのを隣にいる同僚から「しっかりしろ! 後少しで俺たちの生まれ育った故郷の街に着くんだ!」と長旅で遠征から逃げ帰ってきたばかりの敗残兵状態。

 

「腹、減った・・・・・・誰か、俺に、食い物・・・を・・・・・・」

 

 ーーって、こいつは何でここまでズタボロ状態になってるんだ? しかも何故に空腹? いくら討伐だからって街道だろ?戦ってたところ・・・。時間的に無理があるような気が・・・。

 

「すまない・・・。今回の討伐遠征は急に決まったせいで、昨日の晩に有り金はたいて自棄酒飲んでた彼は豆スープを一皿だけしか飲んでいなくて・・・離婚させられたばかりらしいんだよ・・・」

「本当によく死人を出しませんでしたねぇー・・・」

「・・・すまない・・・本当にすまない・・・。それ故の部隊長身分でありながら通行許可証の偽造を可能にしてみせるという無茶を通す謝礼なんだと割り切ってくれたらありがたい・・・」

 

 ああ、なるほどね。疑問に思ってた『地位と役職的に許可証の偽造なんて可能なん?』の謎がようやく溶けたわ。よかった~。

 

 ーーーが、しかし。

 

 

「その許可証の偽造って、私が街入らないでも出来ますかね? 出来れば外で待ってて、もらったらその足で次の街へ向かいたいんですけども」

「ん? 発行は役所で行ってもらうからさすがに本人不在というのは無理があると思うが・・・。どうしたね? 何か街に入りたくない理由でも?」

 

 やや訝しげと言うか怪しい人物を見つけたときのような目をする隊長さん。

 とはいえ別段態度が豹変したとかではないので、おそらくは役職的な習性かなにかなんだろう。街の治安維持も担っていると聞かされたから、不振人物にはこういう目を向けなきゃいけないって言うのはよく分かるし。

 

 とは言え、今回の疑う理由は彼本人を追いつめることにしかならないと思うんだけどな~。

 

「いやその・・・・・・シェラさんが、ね?」

「あーーー・・・・・・」

 

 指揮官さんが『その発想はなかったわぁー』てな感じの表情になってしばらく黙り込む。少し空を見上げてから、比較的元気のいい隊員に話しかけてシェラさんたちが帰ってきたか門番たちに聞いてくるように命じ、聞かれた隊員さんは直ぐさま行って戻ってきた。

 

「我々よりも数刻ほど前には帰還していたとのことです。その時にはスタンフォード隊員も一緒だったと、聞かされました」

「・・・アイツ一人だったら途中で疲れて合流してくると思っていたから忘れていたが・・・そうだった。ミリエラ嬢はあのバカのお守り役だったな。敗軍の将として考えなきゃいけないことが多くて失念してたぞ・・・」

「中隊長殿、どう致しましょうか? 正直に申し上げて私は彼の少女魔術師殿に突っかからないでいられるシェラ隊員などという生き物を想像できません。進化系に反しておりますからね。

 また、彼の少女と警備隊員が戦ったからと言う理由で街側が彼女を敵と認定して捕縛を命じられたりしたときにはすっ飛んで逃げます。一度は助かった命ですので、超惜しいので」

「・・・おまえ、正直なのは美徳だけど少しは状況も考えてからしゃべれよ。わかるだろ、それいま言ったらヤバい言葉だってことぐらい・・・」

「はい、承知しております。ですから今申し上げた次第です。適正に問題ありと判断していただけたなら逃げることなく警備隊員を辞められるな、と」

「・・・・・・ある意味スゴい勇気の持ち主だったんだな、おまえって・・・。今ちょっとだけだけど後光が差して見えるぞ。おまえの背中から紫色の後光がな」

「それは悪魔か魔王の発する光じゃないかと思いますけどね・・・」

 

 崇めちゃいかん光だろそれ、確実に。

 

 ・・・でもなんだか隊員たちが俺を見る瞳に怯えが混ざっているのは何故なんだろうか? 私はみんなを守ってあげようとして襲ってくる魔物と戦ってあげてただけなのに・・・。な~んてお約束めいた思考はしない。常識的に考えて怯えるに決まっているのだから当然の反応だ。

 

 

 実は護衛対象である殿部隊は、街へと戻ってくる帰路の途中で何度かモンスターに襲われかけている。当たり前なんだけどな?

 敗残兵の列を見つけた野犬が襲いかかってくるのは戦国日本では常識でしかなかった。野犬よりも強いモンスターがいる異世界なら尚更だ。

 

 しかし、そこは関ヶ原から逃げ出すときの7000を500以下にまで数を減らして薩摩に逃げ帰り付いた妖怪首おいてけ無しの島津軍と違って、ここにはチート持ちの転生者がいる。

 

 威嚇のために襲ってくる奴らのリーダーっぽいデカい奴めがけて派手に肉体が爆散して飛び散る系の爆裂魔法を放り込んでやると面白いほどシッポを巻いて逃げる逃げる。

 

「犬は大きな音を聞くと逃げると言うけどホントなんだな~。

 じゃあ今度はこっちの魔法でコーロソ♪」

 

 こんな言葉を嬉々として楽しみながら実行していく子供に怯えない奴がいたら、逆に俺が怖いと思う。もしくは気持ち悪いと思う。近寄りたくないし、お近づきになりたくないこと山の如しだ。

 

 だから隊員さんたちに怯えられるのは別にいいのだ、気にしない。怯えさせるために使った魔法なんだから怯えてくれない方がむしろ問題(敵を怯えさせたかっただけだけどな。味方は怯えなくてもいいけど、敵を騙すには味方も騙せる演技力は必要だ)

 

 

「う~む・・・しかしなぁ・・・街に入るには許可証がないと怪しまれるし、万一取り調べなんかされたりしたら彼女の場合、爆発寸前の火球魔法を屋内にしまい込むようなもんだし、かといって町中に隠れ潜んでてもらうのは見つかったときにシェラ隊員を喜ばせる事態を招くだけだしな~」

「つまり、彼女と取り巻きのジイ様方以外の全員が涙に塗れて悲しむ事態を招くことになると?」

「然り。まさしくそれだ、平隊員。見事な見識を持つ君に今回の件を一任するとしよう。がんばってくれたまーーーーーー」

「イヤですよ!絶対に! 一難去って超一難が降りかかってきたからって、俺にヤバそうな案件押しつけようとするの止めてください!

 ヘタりそうな足腰に褐入れてくれてるのは分かりますけど、度が過ぎて腰が抜けそうになってますからね!俺は!」

「はっはっはっは」

 

 適当な笑い声でごまかす指揮官。戦闘中以外は取っつきやすくて気さくな感じの人だったらしい。人間の二面性を見た思いだぜ。

 

 その二重人格ならぬ二面性の激しい指揮官さんが俺の方に忌みありげな視線を送ってきたので、俺としても肩をすくめて応えるしかない。

 

 要するに、やることはさっきと何ら変わらんと言うことだな。

 

 

「つまり、町中で書類作って許可取って、許可証を発行してもらえるまでは大人しくしておいて、もらえたら速攻で街を去る。途中でシェラさんと鉢合わせしたら適当に逃げる。戦闘になりそうになっても逃げる。町中で追いつめられて魔法戦闘しなきゃいけなくなったときには街そのものからテレポートして逃げ出して別の街で自力で取れと」

「だな。そうするしか他ありそうにもない。手続きは何があっても進めさせておくから、ギリギリまでは町中に留まれるよう頑張ってくれ。

 仮に街から逃げ出した場合でも、上には適当な人相を報告しておくから君が指名手配される事だけはないと請け負わせていただくよ。

 犯罪履歴さえなければ許可証を発行してもらえる可能性は常にある。さっきも言ったが、もう一度言う。頑張ってくれ」

「・・・・・・ここまで力を込めた後ろ向きな『頑張って』発言も初めて聞いた気がしますな、オイ・・・・・・」

 

 セイラさんレベルは無理だとしても(男だから)メイ・リンとかシャルロッテ・ヘーブナーぐらいの「がんばってください」ボイスは聞きたかったと思う異世界転生生活半日目終了の段~。

 

 

 

 

 

 

 

 んで、その頃。

 街の一角にある『都市警備隊本部施設』にて。

 

 

「どうしてですか!? 何故ダメなのですか!? 街に危険が迫っているのですよ!? 適用されてしかるべき事案でしょう!?」

 

 ダンッ! と、音を立てて机に手を叩きつけることで不満さをアピールする平隊員のシェラ。それを諫めているのは警備隊を束ねている総隊長の地位にある痩せこけた老人。言うまでもなく調整役で、隊内での役割分担としては軍で言うところの軍政を担当している人である。

 

 都市警備隊は、危急の際には軍隊として王国正規軍に組み込まれると言う隊規が存在する部隊だが、正直なところ実体としては自警団に下級騎士階級の子息とかが幹部候補として入ってくるだけの窓際部署である。

 シェラに付き添う形で入隊したミリエラの方が異端なだけで、本来ならお貴族様が所属するような場所ではない。

 まれに王都のエリート様が実地研修として現場を学ばせるための場所に選ばれたりもするのだが、研修と見習い期間をあわせても半年未満という超短い時間しか一緒にいない上に、王都にかえって正式に簡易を授かった直後から警備隊総隊長よりも偉くなる人を相手に本気でなにかを教えようなんて勇者には未だかつてあったことがない。

 

 その為ではないだろうが、辺境部で行政の末端に連なっている木っ端役人たちの間では昔から勇者という単語は『バカ』を意味する隠語として使われていた。

 そして、それこそが今現在シェラ平隊員が総隊長室まで持ち込んできた案件であり、彼女のことを「他に言い方が思いつかないほどのバカだ」と総隊長が心中で決めつけた理由でもあった。

 

 帰ってきた彼女が大急ぎで書き始め、かつて街の英雄だった祖父のコネを利用して無理矢理に総隊長までねじ込んできた意見具申。

 その内容は『都市内部の治安維持を担う警備隊と違い、攻勢防御として問題の大本を自分たちの方から叩きにいく攻撃的な部隊《自由騎士団》の創設』だった。

 

 総隊長としては過激としか思えない提案だったが、一応シェラの言うことにも一理なくはないのだ。

 

「なにも戦争をするための軍隊を創設しようと言っているのではありません。最近巷で多発しているモンスター被害に対処するには、平時における治安維持部隊の警備隊だけでは用を成さなくなってきている、と言う現実があることを総隊長殿にもご理解いただきたいのです」

「しかしねぇ、君。この《自由騎士団》という名前は流石にマズくはないか? これだと王国政府に反意ありと疑われかねんぞ?」

「??? どうしてでしょう? 自由騎士と言えば、彼の大英雄イスファーン卿!

 弱きを助け、強きを挫き、戦火に苦しむ民草たち一人一人の心に『我もまた一人の自由騎士たらん!』と圧制に対して立ち上がる勇気を与え、横暴な君主デボネアを打倒して、この国に正義を取り戻した逸話は子供でも知っている英雄譚ではありませんか!」

 

 だーかーらー、マズいんだってばよ。このスットコドッコイ。総隊長は心の中でそう思った。口に出してはこう言った。

 

「で、この《自由騎士団》っていうのは具体的にどんな活動をする組織なの?」

「正義の志を持った者たちが国の垣根を越えて団結し、民衆を苦しめる強大な悪を打倒するために戦う組織です」

 

 テロリストだ! 完全無欠に誰がどう見てもテロリストだ! 総隊長は心の中でそう思った。口に出してはこう言った。

 

「敵と戦うだけで守らないの? 騎士の名前が泣かないかね、それって・・・」

「何をおっしゃっているのですか総隊長殿! 騎士にとって守るべきは無力な民であり、苦しむ人々を救う志であり、決して折れない正義を愛する熱い心であるべきなのは自明の理でしょう!?」

 

 総隊長は全身を空にしてしまうほど大きく大きく息を吸って吐き、ため息に色々な感情をぶち込むことでなんか色々と割り切らざるを得ない状況に嫌気がさしてきながら、それでも職務の都合上いっておくべきことは言ってやらなくてはならないだろうと腹をくくり、目の前の正義バカな若造にたいして懇々と説教を聞かせてやった。

 

 ・・・どうせ聞き入れやしないんだろうなーと、本心では確信しながら・・・・・・。

 

 

「あのねぇー・・・騎士に限らず国に所属する治安維持部隊や衛士みたいな警察組織が守るべき義務を負っているのは国家の領土と平穏と、国民の財産と安全であって、《正義》なんていう正体不明で解釈の幅が広すぎるいかがわしい概念は、騎士が守るべき対象に含まれてないんだよ? 国に属している以上は全体よりも自国の利益を優先しなくちゃダメだってばさ」

「そんな・・・・・・それでは魔物の大軍が隣国に押し寄せてきたときには、どう対処なさると言われるのですか!? 見捨てて滅ぼされるに任せ、我が国にまで奴らの餌になるのを座して待てと言われるおつもりなのですか!?」

 

 知らんわ、んなもん。政治のことは政治家に聞け。一介の都市警備隊総隊長ごとき下っ端に聞くような内容じゃねぇ。総隊長は心の中でそう思った。口に出してはこう言った。

 

「そもそもワシら統治者側は、正義って言葉あまり使った覚えがないんじゃけども・・・」

 

 数十年生きてきた彼の記憶を掘り返してみても、祖父が現役で武官だった頃に隣国からの侵略を受けて、狼狽える群衆の前にでて剣を抜きながら叫んでいた言葉。

 

「諸君! 愛する家族を悪辣なる侵略者どもの手から守りきるため、いざ戦わん正義のために! これは戦争ではない! 愛する者たちを守る正義の戦い・・・聖戦である!」

 

 ・・・と、叫んでいたのが「正義」と言う言葉を支配者側に属する者が言ってるのを聞いた、覚えてる限りでは最後だったような気がする。

 

 ちなみに、その時の戦争は異常気象により隣国で発生していた日照りが原因で勃発したものであり、押し寄せてきた侵略軍は飢えを満たしたい群衆団のごとき輩だったので、活きあがり守りに徹した街の住人たちの敵ではなかった。

 街から出て戦ったこともあったけど、それは飢えた民衆が押し寄せてきて領地内の食料が食い散らかされるのを瀬戸際で防ぐためであって、正義とかは特になかったと記憶している。

 

 なにしろ隣国と国境を接している街である。日照りの影響は致命的ではないにせよ、軽いものでは決してなかったのだ。飢えた民衆を抱えてよろばい歩き共倒れするのだけはゴメンだったから殺したのである。

 

 結果的にだが、戦争が一方的に負け戦で終わったために人口が激減し、食料負担が大幅に減り、その一年だけは耐え凌ぐことが出来た隣国は翌年には国家体制を維持するのが不可能な数しか残っておらず、自分たちの国の属国となることで生き延びた人たちはなんとか生き続けることが出来た過去を持っていたりする。

 

 異常気象が一年だけで終わり、翌年は逆に豊作だったからこそ可能だった奇跡ではあったが、総隊長は教会の言うとおり「神の思し召し」などとは欠片も思っていない。単に「運が良かっただけ」である。そういう考え方の持ち主だった。

 

 

「別に君個人が正義を貫くのはよい。誰も咎めん、好きにすればいい。

 じゃが、国家の看板背負いながら国の方針に従わず、上が決めたルールも守れないと言うなら警備隊員を辞めてもらえんかね?

 治安維持任務のため逮捕権を有し、取り調べなども許されている警察組織の一員であることを示す腕章をつけられたままそれをやられるのは困るんだよねぇ~」

 

 総隊長の言葉は最後まで言い終える必要性はなかった。

 話してる途中でブチ切れたらしいシェラが腕章を机の上に投げ捨てて、足音高く部屋を出て行ってしまっていたからだ。

 礼儀というか、形式として最後まで言葉を言い終えた総隊長はポリポリと頭部を指先でかき、いたって普通の口調で独りごちる。

 

「辞職か・・・まぁ、自分から辞めていったのだから老人たちも納得してくれよう。同じ年寄りではあっても、かつては頑張っていた安楽椅子の老人たちのほうが英雄扱いされてワシは『タヌキ』っておかしくない? これぐらいの楽を手に入れるぐらい見逃して欲しいんだけどねー」

 

 

 

 

 

 

「・・・あ、シェラ。どうだった? 総隊長様はちゃんとシェラのお話を・・・」

「魔術師だ!」

「え?」

「あの子供の魔術師は間違いなくナニカを知っている! 魔術師なんて得体の知れない職業に就きたがる者がまともであるはずがないのだから!」

「ええっ!? でも、私だって一応は魔法使えるし・・・回復魔法しか使えない僧侶系だけど・・・」

「子供であっても訓練を積んだ私たち以上の力を発揮する闇の力の使い手たち・・・奴らの危険性を証明さえできれば総隊長も本当の驚異というものが解るはずなんだ・・・!!」

 

 

「おい、シェラの嬢ちゃん。その話、もうちっとばかし詳しく話してみてくれや。少し気になる」

「あ、ボリスさん。こんにちは、今日は非番じゃなかったんですか?」

「なに、虫の知らせって奴でな。なにかある気がしてきてみたんだが・・・ビンゴだ。そいつに間違いない」

「間違いないって・・・まさか! アイツが例の事件の犯人だって言うのか!?」

「まさか。ガキが出来る犯行じゃねぇさ。だが、ナニカを知っている・・・それは確実だ。魔術師なんて禄でもない阿漕な商売に手を染めてるのが何よりの証拠さ。クズはどんだけ正してやってもクズなままなんだよ。

 本当の修羅場ってもんを体験したことがない、粋がってるだけの若造なんざすぐにゲロって俺たちの知りたがってることを教えてくれるに違いない。

 警備隊員として三十年以上つとめてきた“俺の勘がそう告げている”・・・・・・」

 

 

 

 

 

その頃

 

「おいおい、魔術師風の格好している嬢ちゃん。この俺の前を素通りとは連れねぇなぁ。この渡世、余所者には余所者の守るべき仁義と礼節ってもんがあるんだぜぶぇっい!?」

「あ、ごめんなさい。振り返った時に杖が当たっちゃったみたいで・・・・・・私、魔術師クラスなので気配察知とか間合いを見極めるとかはちょっと。

 指揮官さん、これって犯罪になりますかね?」

「う~ん・・・。都市内治安維持部門が手を焼いていた街一番のヤクザ者が相手だからなぁ・・・。治療という名目で治療院にブチ込んどいて家捜しでもすれば採算取れて治安も良くなりそうだし、とりあえずはノーカンで」

『賛成! 俺たち隊員一同もヤクザ者の敵討ちなんかで怪我したくないから大賛成です!』

「・・・だからお前ら、素直なのはいいから場所と状況を・・・はぁ。もういいや」

 

 

つづく

 

登場人物

 ボリス・バーナード

 都市警備隊の古参隊員。主に都市内部で起きる事件を担当する都市内治安維持課に所属している。所謂『丸ボウ』の男。

 若い頃に妻と娘を魔術師が起こした殺人事件で殺されて以来、魔術師嫌いの急先鋒となってしまっている。

 当時この国では《自由騎士》に憧れた若者たちにより政府要人が《天誅》と称して暗殺される事件が多発していた。

 その中で検挙率がバカ高かった若き敏腕刑事がボリスで逆恨みされており、家族を殺したのも彼らによる警告でもあったのだが、怒りに駆られた彼がその場で犯人を殺してしまったために真相は永遠に闇の中へと自分の手で葬ってしまっている。

 

 尚、その時の犯人は革命の正義に酔いしれており、象徴的な意味合いを好んだために自分と異なる正義を貫くボリスの妻子を殺す際に背徳的な魔術儀式を模しただけで魔術は一切使えない素人以下の見習い戦士だった。

 

 ・・・・・・ちなみにだが、この世界では治安維持に携わる人間が殺人犯をその場で殺すのは必ずしも犯罪ではない。

 意図的なら話は別だが、大抵の凶悪犯は捕まえても死刑に処されるからである。

 

 

シェラの長所と短所

 長所:努力で勝つのが大好き、才能で勝つのは大嫌い。日々鍛錬、一生懸命。

 短所:剣での勝負を正々堂々と捉えているため、魔術が大嫌いで偏見に満ちている。

    啓蒙教育で聞かされた悪の魔法使いの存在を本気で信じてしまっている。


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