試作品集   作:ひきがやもとまち

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時間差で投稿してまーす。だから間隔が短いのです。


デス(死)からはじまる異世界狂騒曲 2話

 

「・・・どうやら戦闘中みたいですね・・・」

 

 ワイバーンを追っていった先で見つけたのはワイバーンを討伐にきたのか、はたまた全く別の目的で移動中にワイバーンに奇襲されただけなのか、どちらなのかどちらでもないのか全てが謎の軍隊が空飛ぶワイバーンを地上から攻撃している風景だった。

 

 何となく、アニメ版『ゼロの使い魔』で空飛ぶ帆船を相手に騎馬隊で迎撃に向かったアンリエッタ王女を思いだしたりしてたのだが、この軍隊は恋愛脳の色ボケお色気王女(胸のサイズは微妙)ほど軍事的に無能でも無策でもないようで、しっかりと円陣を組みながら外側に重装備の大盾隊を配置して内側には軽装の長槍隊で二重の列を作らせている。

 空飛ぶ竜を相手に槍兵だけなら竹槍でB29落とせると信じ込んでいた、旧日本帝国の国民達と同水準の時代錯誤でしかないが、彼らは槍兵たちの内側に弩兵隊を膝立ちの状態で待機させている。

 弩は弓と違って長射程で威力が均等に高く、真っ直ぐ飛んでいってくれる代わりに装填速度が異常に遅すぎるという欠点がある。命令があり次第、即座に射撃できるようにしておかないと役立たない兵科なので、それを守るために敵を近づけさせない長槍隊は必須だ。

 なによりも、長い槍は恐怖を薄れさせてくれる。

 

 空飛び火を噴くドラゴンなんてチートきわまる存在に、通常の対人戦術が役立つとは思えない以上、こういう精神論の方が存外役立つような気がユーリにはする。

 実際、人の軍隊は素人目にもワイバーン相手の戦を優位に進めているように見えていた。

 指揮官が声を出して兵を鼓舞し、兵達はよくその指示に従っている。放たれる弓のほとんどは高度差故か竜の鱗が堅すぎるのか意味を成していないように見えるが、数少ない魔法使いの護衛らしき弓兵が放った一本だけはキチンと刺さっている。詠唱が終わって魔法が完成したら、より勝利に近づくのはほぼ確実だろう。

 

 

 ーーだが、このまま順当通りに勝ってもらったのでは困るのだ。

 

「勝ち戦に味方したって恩なんか感じるはずもなし。ましてや、勝敗が決してから参戦を表明してきた味方を歓迎する馬鹿なんているわけがない。

 助けに入るなら相手が窮地にあるときが一番なんですが・・・意図的に邪魔するのもなんですからねぇ。今が一番マシな味方しどきでしょうかねぇ」

 

 勝った方に味方するなどと抜かすアニメの悪役は数あれど、実際の戦争でそれをやったら捨て駒として真っ先に使い捨てられるのがオチなのである。

 不利なときに味方してくれるからこそ嬉しいのだ。ピンチの時に助けてくれるからこそ恩を感じるのである。

 戦い終わるまで見ているだけだった日和見主義者など、いつ裏切るか分かったものではない獅子身中の虫でしかない。味方でいる内にさっさと使い潰して後顧の憂いを絶っておくのが戦争における常識というモノである。

 

 だからユーリは、軍隊を助けて恩を売る気満々だった。それでこそ不法入国者で身元不詳のチートな魔術師少女が受け入れてもらえる土壌が耕せるというモノだろう、と。

 

 ーーこの手の発想は、原作主人公でプログラマーのサトゥーさんにはない。

 理由としてはシンプルに竜の谷で得た様々な物品により心にも懐にも余裕があったこと。システムを理解していたから滞在先の町や国を特定する必要性が薄かったこと。人がよすぎる性格の良い人だったこと。

 そして何より、現時点では異世界のことを『夢』だと解釈していたのが大きいと思われるので、必ずしもユーリの判断がサトゥーさんより優れているわけでは決してない。

 

 

 余談だが、転生の神様はユーリに対して本来この異世界にくるはずだったサトゥーさんのことを「その方が面白くなりそうだから」という理由により一切伝えていない。

 ユーリと違って神様の方の判断は確かに正しかったようで、彼女の願いはほどなく実現させられることになる。

 ユーリの在り方と致命的なまでに相性の悪い女性が二人も軍隊の中に所属しているからだ。

 

 

「兵達よ、恐れるな! 訓練を思い出せ」

「セーリュー魂を見せてやれ! ーーっ!? 君は!?」

「通りすがりの魔術師。援軍にきた。子供に助けられるのは恥だと言うなら帰るけど、どうする?」

 

 ひどく短い自己紹介だけした直後に相手に選択を強いるやり方はフェアじゃない。

 

 だが、それがどうだと言うのか? そもそも恩着せがましくしゃしゃり出てきて、実際に恩を着せようとしているときに遠慮するのは馬鹿なだけでなく偽善者という者だ。

 

 悪を選んだなら悪に徹しろ。中途半端で救われるのは自分自身の罪悪感だけだ。自己満足に自分以外を救う力などある訳ないのだから。

 

「・・・でも、そちらの作戦も戦術構想も知らないから自発的に行動して混乱を招きたくはない。そちらの指揮下にはいるから指示を出してくれると助かる。命令には従うし、抗命したら罰してくれて構わないと約束するけど・・・どうする?」

「!!! 助かる! 使える支援魔法を教えておいてくれ!」

 

 ・・・とは言え、相手には相手の立場や身分、沽券なんかも大事ではあるだろう。

 全滅必至の窮地を救ってくれるならいざ知らず、一応は互角に戦っている最中に部外者に割って入られて喜ぶ指揮官は現実の戦場には実在していない。

 ある程度は妥協して「味方にした方が得になる」と思わせるのが、この状況ではベターな選択肢というものだろう。

 最悪の場合でも「敵に回すと厄介だ」ぐらいに思ってもらえたら交渉の余地はあるのだから。

 

 

 ・・・そして始まる、現地の一般人100名の軍隊にチートなマジシャン一人が加わった、100人と10000000人に匹敵する無敵の軍勢がふつうのワイバーンと相対し、一見すると普通に優位な戦いを進めていくことになってしまった。

 

 むしろ、哀れだったのはワイバーンの方だろう。

 魔術師が一人増えるだけで人間の集団の戦力が倍加していくのは『ロードス島戦記』の昔から続くファンタジー世界の伝統である。たった一人参戦しただけで戦力差は開かなくとも攻撃手段の選択肢が増えすぎるのは単独の強敵には辛すぎる。

 

「タービュランス!」

「エア・ハンマー!」

「ライトニング・ボルト!」

「神武闘征・フツノミタマ」

 

 ・・・可哀想なくらいに滅多打ちである。しかも最後の一つはユーリが使った『ダンまち』の魔法で、敵を重力の檻に閉じこめるため一定領域を押し潰すとかいう凶悪きわまる超重圧魔法だし。

 長すぎる詠唱を省略したからこそ、低重力を発生させて敵を地に縫い突けるだけで済ませられたが、下手しなくても敵を地に叩き落とすエア・クッション(気槌)の親戚ぐらいでは説明できない超極力魔法扱いされてたところである。

 次のための布石とは言え、ユーリも結構アブナい橋を平然と渡る性格をしている様だった。

 

「君! 今の魔法は・・・っ」

「後にしてください。終わったら全部説明しますので」

 

 それだけ言って質問をぶった切り、布石に説得力を持たせるための魔法を頭の中で探し始めていたユーリだったが、ここで敵が思わぬ行動に出て予想を大幅に狂わせられてしまうのだった。

 

「っ!?」

 

 敵であるワイバーンが、空の王者の又従兄弟として生まれた誇りを捨て、地べたを走って味方部隊の一角に体当たりを敢行してきたのである!

 これにはさすがのユーリも一瞬だけとは言え反応が遅れた。遅れざるを得ない。どこの世界に空から地上を攻撃するはずのワイバーンが、地竜みたいに走って体当たりなんてしてきやがる! どう考えてもおかしいだろ! ・・・彼女はそう確信していたのだが実状は少しだけ違っていて、むしろこの場合敵の方が追いつめられまくって窮鼠と化していただけだっりする。

 

 攻撃し続けて勝っている側には往々にして廃滅寸前にある敵の心理が読めなくなり、このまま座して死を待つよりかは前方に活路を見いだして突撃しよう!とする戦術的行動を、追いつめられて正常な判断能力を失ったようにしか見えなくなるものなのだ。

 

 ユーリは幼女戦記の『衝撃と畏怖作戦』でこれを知っていたはずであったが、知識として知っているのと実体験として従軍したターニャ・デグレチャフ少佐とでは経験値としての格が違う。

 チートを与えられただけの素人が用意に判別できるほど戦場を包み込む霧は浅くないと言うことなのだろう。

 

 

 が、しかし。それを言うなら列強に囲まれながらも最強を誇った帝国軍と、たかだかドラゴンの又従兄弟でしかない羽のついたトカゲ風情にも隔絶しすぎた格差が存在していた。ハッキリ言って弱すぎるのだ、突撃力が。

 敵主力を遊兵化してもいないまま、バカ正直に突進してくるだけでは芸がなさすぎると言うものだ。幾らだって対処法は存在している。助ける対象ができて、楽になったぐらいである。

 

「さて、それでは味方が吹き飛ばされないよう足払いをかけるため《スリップ》でもーー」

 

 『いせスマ』でお馴染みの便利な魔法を使おうと右手を前に出した瞬間、予想外のアクシデント本番が発生してしまった。

 

「止めろ! ゼナ・・・いや、ダメだ! 逃げろゼナ! 敵が早すぎて間に合わなーー」

「ゼナ、止めてくれ! このままだと味方が!」

「ーーうんっ!」

「え? ーーバカ!」

 

 敵の突撃速度から間に合わないと判断した隊長が下した命令を途中で変更したにも関わらず、魔法兵の隣で護衛やってた弓兵が隊長の声に被せるように叫んでしまったせいで命令系統が寸断され正しい指示が届くことなく、現場の判断で下された決定が逆に彼女たち自身の身を危なくしてしまう。

 

 ここに至ってユーリは判断ミスを犯した。問答無用で岩の壁を作り出す魔法でワイバーンの突撃を止めるべきだった所なのに、この世界では桁違いに強力な防御呪文であったため詠唱時間も含めると今から唱えても間に合わなくなってから選択すべき魔法に気づいてしまった。

 今から使える魔法は一文詠唱の超短い単語だけ唱えれば使える魔法のみ。威力や効果はともかく、確実に味方を巻き込んでしまうから救出のため目立つ魔法を使わざるを得なくなる。空を飛ぶ魔法はファンタジーの定番なのに最近のだと禁呪レベルの超高等魔法なのである。

 

 今からだと味方を反動で吹き飛ばさずに敵の突撃を防ぐ魔法なんて直ぐには思いつかないのに!

 

(ちくしょうめ!)

「《ファランクス》!!」

 

 罵倒は時間を浪費するだけなので心の中だけで吐き捨てて、口に出して唱えたのは『魔法科高校の劣等生』に出てくる十師族が一人、十文字克人が使っていた多重障壁魔法。

 原典では本来、敵を押し潰す攻撃にこそ真価を発揮する魔法であり、敵の攻撃を防ぐ防御方法は応用の部類に入っている魔法でもあり、射程距離が短いことと実体があるものにしか作用できないなどの欠点も有している魔法のはずなのだが。

 

 転生の神様の悪意によるものか、この世界でユーリが使えるファランクスには同じ事件で登場している別のキャラクターが使う魔法効果が付与されてしまっていたのだ。

 

 

「『エア・クッショーーきゃあっ!?」

「ゼナーーーうわっ!?」

『ガァァァァァ!!!! どべし!?』

 

 詠唱の途中で間に合わず、敵の突撃を受けて五体バラバラになるかと思われたゼナと呼ばれた少女を吹き飛ばしながら攻防一体『鋼鉄の虎』は走り抜ける。そして敵にぶつかったら押し潰してなお進み続ける。効果が切れるまではあのまんまだ、誰にも止められない。

 

 大亜連合軍特殊部隊の隊員、呂剛虎が使っていた魔法《パイフウジア》。

 ハイパワーライフルでも止められない突撃力と防御力を誇る突撃虎にファランクスの『押し潰し効果』も追加されて効果が切れるまでは進み続けるなんて魔法を防御魔法なんて呼ぶのは防御の概念に失礼すぎる。あと、出来れば使いたくもない。絶対に。

 

 ・・・ちなみにだが、魔法の分類としては重力発生型にカテゴライズされる魔法なので進路上にいる者は根こそぎ超重力で押し潰されてしまう一方、進路から外れていた者達は重力の結界を壁のようにまとった突撃虎に弾き飛ばされて吹っ飛ばされてしまうという致命的欠陥付きでもある。

 

 思えば、この魔法を咄嗟に使ってしまったのは転生の神様による介入の線が濃厚な気がしてきた。

 理由? その方が「面白そうだ」と感じたら躊躇いなくやる連中だからだよ!

 

 

「・・・ゼナ? ゼナーーーーーっ!?」

「ああ、もう! 予定が狂わされまくって面倒くさいなぁ本当に全くもう!」

 

 大声でボヤきながらも、今度は選択を選び間違えることなく高等魔法を使って救助にいくあたり、ユーリはやはり元日本人である。ヴァーダイド人ではない。

 自分が巻き込んでしまった結果、危険な目に遭ってる女の子を保身で無視しておいて、明日食う飯がうまいと思えるはずがないミスター2的思考の持ち主なのだから。

 

「《ブラックバード》!」

 

 唱えると同時に瞬時に飛び立ち、目にも留まらぬ早さで目標まで飛んでいく超加速飛行魔法ブラックバード。

 原典はHELLSINGで敵に乗っ取られた新造空母イーグルまでアーカードを乗せて飛んでいって、無事に撃墜されて到着させた芸術的な偵察機『SRー71』。通称《ブラックバード》である。

 

 この他にも効果が類似した魔法として《ブイ・ワン》や《ブイ・ツウ》があるが、どれにも共通している特徴として『目的地に早く着けるが、到着は自分で何とかしろ』という行くだけ行って見捨てられてしまう片道切符なところである。・・・割と本気で緊急時以外には使いたくないこと山の如しな魔法だな。

 

「《エア・ブレーキ》!」

 

 結局、落ちてくより先にゼナさんとやらへ追いつけたのは良いのだが、ブレーキ自体は自分でかけるしかないので自分で別の魔法を唱えて止める。速度が出過ぎるので事前にスピードを落としてから止めようとすると通り過ぎてしまうため、Gで身体が引き千切れそうになるぐらいの痛みを我慢してでも急停止しないといけないところがミソである。・・・本当に使えねー魔法だな、コレ・・・。

 

「はぁ、はぁ・・・・・・レ、《レジスト・フォール》・・・」

 

 疲れていたので今度は普通に落下速度を落とす魔法。掛ける対象は自分と相手の二人ずつだ。

 適当に受け止めて、『天空の城ラピュタ』のシータみたいにお姫様抱っこで地面まで降りていく。飛行石はないけど落下速度低下魔法は使っているので効果は同じだ。軽いので問題なく持っていてあげられる。

 

 やがて原作よりもかなり早い段階で救助に成功したため、位置的にも軍隊本体から大して離れていない場所へと降り立ったユーリたち二人。

 

「う・・・うん? ・・・ここは」

 

 ゼナさんもやがて意識を取り戻し、自分を抱えてくれている黒髪ポニーテールの美幼女の存在に目を丸くしながら、

 

「あ、あなたは確か、さっき私たちに味方してくれた・・・っ!!」

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・げほっ、ごほっ、おえっぷ・・・」

「・・・・・・とりあえず、お背中さすってあげましょうか・・・?」

 

 心配して幼くて小さなユーリの背中をさすってあげる。絵に描いたような良い人もいたものである。

 

 ーーそして、こう言うときに空気読まないでデシャバってくる出歯亀女という生き物が存在しているのも物語上では定番だろう。

 

 

 

 少し離れた木の陰から二人を覗き見ている陰があった。

 

「アイツ、絶対に怪しいわ。どこかの国の間者かもしれないし、ちょっと弓で威嚇して尋問してくるわ」

「どうしたリリオ。おまえ好みな年下で黒髪の子だぞ? ・・・女だけどな」

「今は、一身上の都合でキライなのよ」

「ああ、振られたばかりなのか。今度、豊胸に効く食べ物でも奢ってあげるわ」

「胸で振られたわけじゃないもん。ーーでも、アイツの胸はなんかムカつくわね。将来性を感じさせるから」

「・・・女の嫉妬は醜いだけだぞ・・・?」

「いいじゃないの別に。職務の範疇を越える気ないし、不審者に正体を明かすよう要求する際に武器向けるのも威嚇射撃で交渉の主導権握るのも定石でしょう?

 この仕事は初対面の相手に舐められるようになったら終わりなのよ」

「やれやれ・・・。だが、最後の一言だけは完全に同感だな。少し手荒ではあるけど、危険人物を街に近づけるわけにはいかないものね。やるしかないか」

「そうこなくっちゃね。それじゃ、行くわよ。ーーていっ!(ビシュッ!)」

 

 

つづく

 

 

ユーリの考えている自分設定:

 魔術師らしく、古代遺跡を調査中に転移させられてきた。この大陸自体をまず知らないから、当然のようにこの国についても全く分からない。言葉が通じている理由も不明。遺跡にあった転移装置によるものかもしれないし、なんらかの魔法が作用しているのかもしれない。

 魔法の系統は同じ物と違う物があるらしいが、引きこもって魔法研究ばかりしてたから世間一般をよく知らないので微妙。知識はあるが実体験が少なすぎるのが難点。

 ーーーこんな感じのを予定しております。

 

 リリオさんを言い負かすのには『ひねくれチート』と同じような理屈を使う予定。


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