試作品集   作:ひきがやもとまち

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オリ作です。本当なら投稿するつもりのない作品だったのですが、最近の自分は基になる作品にケチをつける形でしか物語を書けなくなっていることを自覚し、夏休みを利用して読んだり観たり三昧な日々を送るためにも先に出来てるのだけでも投稿しておこうと決めた次第です。

『面白い作品を書くには面白い作品を読むこと』サイコーのおじさんは本当にいいこと言う人でしたなぁ~・・・。(しんみり)


チート転生は、ひねくれ者とともに 序章

『ごっめんね~☆ 君のこと手違いからのミスで死なせちゃったぁ♪

 チート持たせて別世界に転生させてあげるからゆ・る・し・て・ネ★ ちゅっ♪』

「は?」

 

 

 ・・・・・・・・・と言うようなやり取りをした直後、車に引かれて死んでいたはずの俺は森の中で小さな女の子になって突っ立っていた。景色には全くぜんぜん見覚えはございません。都会育ちの現代日本人なんでね?

 

 しかも今さっき会って別れたばかりの自称転生を司る女神サマから与えられたチートだからなのか、記憶の中に学んだ覚えのない知識やら能力の使い方やらが追加されてるのが分かる。転生ってスゲェな、チートもだけど。

 

「・・・まぁ、死んで天国か地獄かいくよりかは、生きて異世界旅したほうがなんぼかマシか」

 

 そう思うことにした。

 

 こうして、俺の異世界『幼女』転生物語は幕を開ける・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー行く宛もなく、目的地もなく、そもそも今いる場所がどこでなんて名前なのかさえ分からないので、適当に歩き回るのと適当じゃなく歩き回るのとが同義な行動になってしまっている現状。

 適当な方角目指してブラついてたら、進行方向上の道端で戦闘が行われていた。

 

 騎士団か警備隊が、大きめのモンスター相手に苦戦しているようだった。

 一般的な選択肢として、この場合に選べる道は二つだけだ。

 

1、チートがバレないように加減して加勢する。

2、保身を優先して見捨てようとして、理由ができたからオーバーキル気味にぶっ殺しまくって助ける。

 

 ・・・この二つしかない以上、俺が選ぶべき行動は決まっている。『臨機応変に適当に』である。

 助けに入ってヤバそうだったら逃げ出す。チートがバレてヤバそうになっても逃げ出す。チート使わずに勝てるなら使わずに勝つ。気に入った女の子がいてピンチになってたらチートがバレてでも助ける、元男の子ですから。・・・これだろう。

 逃げ出す選択肢が多くないかと言う奴がいるかもしれないが、そもそも今の俺は密入国者。立派な犯罪者であり、治安機関から逃げるべき理由には事欠かない。

 

 それでも彼らを見捨てる選択肢がでないのは、俺が元日本人であってヴァーダイト人じゃないからだ。

 ヒロイン的ポジションのニーナが死んでるのを見つけた時に『ニーナが死んでいる』の一言ですませてアイテムだけ追い剥いでいくアレフになれる異常性なんか持ち合わせられねぇよ俺には・・・・・・。

 

 

「ーー退くな! 皆の者、ここで退けば後はないと思え! 全力で耐え凌ぎ、味方の撤退を援護するんだ!」

『お、応!!』

 

 ・・・と、そうこうしている間に助けようかと思ってた人たちがピンチになってたみたいだわ。

 いや、元からなのか? 撤退中だったから殿が残って必死に堪え忍んでいたと考えれば多少辻褄はあう・・・のかなぁ? 正直戦国とか中世の戦争ってゲームか映画でしか見たこと無いからよくわかんね。大河はなんの役にも立ちそうにないし。

 

「ま、いいや。とりあえず行こう。ーーとおっ」

 

 ぴょんっ、と。小さな体で大ジャンプして部隊の最後方の指揮官がいる辺りに着地する。チートな身体能力万歳。

 

 

「今少しだ! 今少し耐え凌げば味方は安全圏まで逃げ込める・・・っ!? 君は!?」

「通りすがりの魔術師。援軍にきた。子供に助けられるのは恥だと言うなら帰るけど、どうする?」

 

 ひどく短い自己紹介だけした直後に相手に選択を強いるやり方はフェアじゃないと、俺は思う。

 しかし、それがどうしたというのだろう?

 そもそも助けに入ってやっているのは俺で、助けが必要なのはコイツ等のほうだ。上下関係で考えるなら俺のほうが圧倒的に上な立場だというのに、どうしてわざわざ対等にまで格下げされてやらなきゃならんのか意味わからん。

 

 相手の指揮官(ぽい奴)も優先順位を間違えるほどバカではなかったらしく、僅かにためらいを見せた後に「・・・助かる! 礼は後ほどにでも!」と言い切ってみせることで部下たちの困惑を押さえつけて納得させた。

 

 上が判断して決定を下したことに、従う側の部下たちは異論を唱えられない。だからこそ逆に有効な場合がある。今みたいな時だ。『上が決めたことだから』と考えるのをやめる言い訳に使える。

 

「何して欲しい?」

「支援魔法は使えるか!?」

「ん。防御系、回避率アップ系、行動阻害系、あらかた使えるけど器用貧乏。大半の魔法はランク1までしか使えないと思っといて」

 

 一応のチート漏洩防止策。

 この世界の魔法はランク分けがされていて、オバロで言うところの位階魔法みたいな扱いになっている。全般的に修めようとすると器用貧乏になりやすいところも同じ。生まれつき得意な分野だけは一点突破してレベル以上のものが使えるようになるところが少しだけ違ってる。

 

「上出来だ! これから私が言う支援魔法を指定した場所と範囲内にかけてやってくれ。子供にそれ以上のことを頼んでしまったのでは大人として情けなさすぎるからな。

 それだけで一人も死なせることなく耐え凌がせてみせるさ! 指揮官としてなぁ!」

「ん、了解。遠慮なく注文どうぞ」

 

 言われたことだけやりゃあいいとは、随分と簡単なファーストイベントだな。・・・ああ、チュートリアル戦闘って奴なのか。それじゃあ、しゃあないしゃあない。

 

「では、行くぞ。復唱! 《ウォール・オブ・プロテクション》!」

「《ウォール・オブ・プロテクション》」

「次! 第二分隊の隊長を・・・あの赤い羽根飾りがついた兜の男だ! 彼を中心に《ウィンド・シールド》を!」

「《ウィンド・シールド》」

「次だ! 今度のは・・・・・・」

 

 レイド戦なんざネトゲをやったことないし、ログホラ見て好きだっただけの俺には有効な指揮なのか否かさっぱり分からないけど、少なくとも指揮官が自分の口から自己責任で命令していることなら従っといて問題なかろう。

 

 俺は黙々と言われたとおりの呪文を掛け続けて、ボンヤリしていたところ。

 ーー突然モンスターの行動が激変した。今まで一度もしてこなかった背中を見せてからの大回転で尻尾を振り回してきたんだ。

 

「む!? ーーいかん! 皆、衝撃に備えろ! 吹き飛ばし攻撃だ!

 クッ、油断した! まさかこの地形で使ってこようとは・・・・・・!!!」

 

 指揮官が言ってる意味が分からなかったので適当に近くに立ってた大木の幹に掴まって黙って様子見していたところ、まもなく判明した。

 

 どうやら尻尾を振り回して起こした突風により、敵キャラクターを射程距離外まで吹き飛ばす能力だったらしい。広々とした広野の戦場で一対多の戦闘を行っている巨大モンスターが使うにしては確かに意味のない攻撃手段だった。

 

 なにしろ、吹き飛ばしそのものにはダメージ判定がなく、壁や地面に打ち付けられたら地形によって異なるダメージを負わされる類の攻撃であるらしく、何人か飛ばされてった騎士だか甲冑兵士たちも立ち上がるまでと、立ち上がってからの行動に個人差が大きい。本人の能力もあるんだろうけど、同じ部隊から飛ばされてった二人が両極端な反応してるし、間違いないと思うんだけどなぁー。

 

 

「ーー!? シェラ!?」

「ダメだ! ミリエラ! 行くんじゃない!」

 

 俺の隣で指揮官さんからの指示を受けてたもう一人の魔術師さんが、吹き飛ばされてった兵士の一人が起きあがろうとして失敗するのを見て悲鳴を上げながら駆け寄ろうとするのを指揮官が止める。

 

「ですがシェラが! 私の幼馴染みが怪我して・・・動けなくなってて!!」

「吹き飛ばし攻撃は見た目が派手な割に威力自体はふつうの突撃よりも小さいんだぞ!? 教習で習わなかったのか! 部隊行動中に勝手なことをするんじゃない!」

「けど!」

「一人増えたとはいえ、君は我が隊でも数少ない希少な魔術師なんだ! 君からの支援魔法がなくなったときに前線で戦う彼らはどうなる!?」

「・・・・・・っ!!!」

 

 前に立ってた兵士たちの一部が顔だけ振り向かせて目を向けてくる。

 皆、一様に「行かないでくれ、見捨てないでくれ、俺たちはまだ死にたくない・・・」と言いたがってるのがイヤでも解る目つきだった。気持ちは分かるけどな。

 誰も他人の友人のために見捨てられて死にたくはないだろ普通なら。正常で結構なことじゃん?

 

「・・・・・・いいえ! 今ここには私の他にもう一人の優秀な魔術師が加わってくれています! 私が一時的に戦列から離脱して戻ってくるまでの代役なら、問題なくこなせる実力者です!」

 

 え、俺? 俺なの? 俺を命令違反の理由に使われちゃうの? ・・・マジっすかー・・・。

 

「ですので・・・ミリエラ・スタンフォード! 命令違反をさせていただきます! 処分は後ほどご存分に!」

「ミリエラ! おい、待つんだミリエラ! ・・・ああ、クソ! これだから能力だけ高くて現実をみない甘ちゃんはぁぁっ!!!」

 

 背中を見せて戦線を離脱していく独断専行な美少女部下を見送らざるをえなくて、頭をガシガシとかきまくり嘆きまくる指揮官さん。

 いや、本当にその通りですよね。俺もそう思うし、全力で見捨てたい。

 

 でも見て、前方を。敵が二度も続けて吹き飛ばし攻撃しようとしてる姿を。背中見せてるから見えてさえいないお姉さんに当てさせちゃって本当に大丈夫なの?

 

「ーー!? いかん! 全員、もう一度伏せんだ! 

 二度も同じ攻撃を放ってしまった後には攻撃不能時間がかなり長く取れる! その隙をついて少しでも攻撃を多く当てられたら、あるいは勝利の目も出てくるかもしれん! 

 総員、最後の死力を尽くせ!」

『・・・・・・応っ!!』

 

 返事の前にあいた間が魔術師のお姉さんに対する感情を現しててそうで、少しキツいな。原因として。

 ・・・ちくそぅ・・・吹き飛ばされてった幼馴染みのほうも美人だけど好みじゃなかったから見捨てるのにためらい無かったのに、ミリエラさんの方はモロ好みな顔とか声してたから見捨て辛いじゃねぇかよ~。

 

「来るぞーーーー・・・・・・伏せろ!!」

 

 ブォン!!!

 

「・・・!? き、きゃあああああああああああああっっ!?」

 

 ああ・・・背中からでも聞こえてておかしくない指揮官からの指示を、やっぱり聞いてなかったのかお姉さん。幼馴染みのことで頭一杯だったんだろうなー。・・・正直言って、スッゲェ見捨てたい。

 

 でもダメだな。可愛いから。男として捨ておけん!ーーとかの兵藤イッセーみたいなこと言い出す気はないけども。現実問題として救おうと思えば簡単に救える奴を見殺しにしてしまったらトラウマになって残るだろ、普通なら。

 

 「人間死んだら終わりだ」なんだと舐め腐ったこと抜かしてる現代日本人の腐った性根を甘く見てんじゃねーよ。口先だけの死生観なんざ要らん。

 「死ぬときに後悔しないなんて無理。どうせ最後は慌てふためくだけ」ーーそんな糞を口から垂れ流してたゴミがいたな、そう言えば。あのバカ今頃何やってんだろ? 死んでてくれたら少しは世の中マシになりそうなのに。

 

 

「ーーあのクズと比べれば遙かに生きる価値がある人か・・・・・・救わない理由はなくなったな」

 

 俺は普通に中級難度の魔法を使って空へとテレポート。お姉さんの飛んでく先へ先回りしてナイスキャッチ。

 そしてそのまま低速降下。生きる価値がある人を救えて良かった、良かった。

 

 ーーー死ぬときにどうなるかなんて誰にも分からない。だからこそ「そうなれるように努力する」のが目標であり努力の有り様。

 その基本を履き違えて、ガキ向けのマンガに出てくる三下悪役みたいなことほざいてサボってるだけのゴミより、必死に生きてる人の方が生きる価値があるのは考えるまでもないだろ?

 

 

 

「・・・ん・・・・・・あ、れ・・・? ここは・・・・・・」

 

 どうやら吹き飛ばされたときの衝撃で気絶してらっしゃったみたいで。そう言う効果はなさそうな説明だったから、単にこの人が驚いて気を失ったか打たれ弱いだけなんだろうなー。まぁ魔術師みたいだからしょうがないっちゃしょうがにんだけども。

 チートじゃない魔術師は基本的に打たれ弱い。これRPGの常識。

 

「地上に着きますよー」

「え? は、え?」

 

 適当に返事して慌てる彼女は普通に無視して、地上に着地。これで一件落着になるなら良し。

 ならない場合には・・・・・・それもまた良しとしておくべきか。上から見下ろした連中の顔色を見る限り、これで済む展開は望み薄だろうがね。

 

 

「な、なんだかよく分かりませんけど助けていただいたみたいで有り難うございました! 私はーーーきゃっ!?」

 

 抱えてやっていたお姉さんが自己紹介し始めたところ悪いとは思ったが、手を離して地面に落とさせてもらった。ーー招かれざる客が来たことをチートで気づいたからである。

 

 ズバシュッ! ーースカッ。

 

 お姉さんを手放して後ろへ下がった俺の眼前を、剣閃が通り過ぎていく。

 チートで未然に察知できてた遅すぎる攻撃は既知のものも同様だ。ナイフ振り回して粋がってるだけの不良モドキと大して変わらん。

 チート得る前だったらともかく、殺そうと思えばいつでも殺せるザコの攻撃に恐れおののくバカなどおりゃあせん。

 

「貴様! 私の友達から・・・ミリエラから離れろ!」

 

 ・・・なんとまぁ。誰が来るかと思っていたら、お姉さんが助けようと近づこうとしてた、好みじゃない見た目をしている吹き飛ばされてた兵士さんとはね。

 

 ーーハッ。これは“都合がいい”。

 コイツなら遠慮なく言ってしまっても罪悪感を覚えなくて済みそうだーー

 

 

「怪しい魔法使いめが! 何の目的があるかは知らんが、仲間を離せ! これは命令だ!」

「ちょ、ちょっとシェラ!? あなた、いきなり小さな子供に剣を向けるだなんて無体な真似は・・・っ!」

「ミリエラは黙ってて! コイツは危険よ! 普通じゃないわ! ・・・あなたは気絶していたみたいだから見てないんでしょうけど、コイツはね。中級魔法の《テレポート》を使ってアンタの側に瞬間移動してみせたのよ! 見た目通りの年齢だなんてあり得ないわ! 絶対に化けの皮を剥いでやーーーーきゃあっ!?」

「わきゃっ!?」

 

 会話の途中で目線をお姉さんに逸らしてくれた好みじゃないけど美人のお姉さんに、好みな方の美人さんの背中を押して突き飛ばしながら返してやってった。

 

「な、何をするんだ!」

「手放せと言われたから手放してあげました。返せと言うから返してあげました。なにか問題が?」

「大ありだ!」

 

 肩を怒らせて立ち上がり、剣を構え直してこちらへと切っ先を再び向けてくる美人じゃない方のお姉さん(面倒くさいからもうシェラさんでいいか)は、目に怒りを宿して俺のことを睨みつけてくる。

 

「答えろ! 貴様は何者だ!? ただの旅人ではあるまい!」

「あなたが無様にヘマして負傷して助けに来ていた幼馴染みさんが死にそうになってるところを助けてあげた、命の恩人さんですよ。それが何か?」

「ーーー貴様っ!!!」

「それから、ただの子供は魔法使う以前に一人旅をしません。その時点で一目瞭然な事実をわざわざ口に出して詰問に使うとか、バカなんですかあなたは?

 それとも聡明そうな幼馴染みから利口そうに見られたくて、インテリの猿真似でもしてみたのですか? 慣れないことはするもんじゃないと思いますけどねー」

「貴様! 貴様貴様貴様貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

 もともと短気で怒りっぽい性格らしく、あっさりと挑発に乗ってくる単純バカのシェラお姉さん。

 試しに、わざとらしく「フッ」って嘲笑ってみたら・・・おお、おお。これほど簡単に釣れてくれる人も珍しいことで。ある意味では希少価値だな。いらない類のレアだけど。

 

「シェラ! お願いだからやめて! そっちのあなたも!」

「ミリエラは黙ってて! コイツは私の誇りを・・・イーズウッド家の名誉に泥を塗りつけたわ! 子供だからって許していい行為じゃ絶対にない!」

 

 ミリエラさん・・・だったかな? 幼馴染みの言葉にさえ耳を貸さなくなったシェラさんが激高してるけど・・・よりにもよって『誇り』ときましたか・・・。ハッ! バカバカしい・・・。

 

「勘違いしないでください、お姉さん。私が侮辱したのはあなたの蛮行に対してのみだ。聞いたこともない家の名前に傷を付ける意図はありませんでしたし、そもそも知らない物には泥を塗れません。一体どこの家系なんですかね? そのイースウッドっていうのは」

「・・・っ!!! その態度と物言いが私の家名に傷を付けるものだと言っているのだ!」

「なぜです? 味方を窮地に立たせる兵士の無能ぶりは侮辱されて然るべきでしょうに。

 ましてや自分のせいで窮地に陥ることになった味方を助けてくれた恩人に対して、指をくわえて死ぬのを見ていることしかできなかった幼馴染みがピンチからの脱出後に乗り込んできて、子供に剣を突きつけながら友人思いの正義感ゴッコとは・・・しかもその上で『誇り』だの『名誉』だのを口実に使い出す狡猾さ。

 イースウッド家というのがどういう家かは存じませんが、詐欺師の家系でもない限り泥を塗っているのは今のあなた自身なんじゃないですか~?」

「き、きぃぃぃぃぃさぁぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!」

 

 外人みたいに大袈裟なジェスチャーをして見せて挑発行為を繰り返す俺に、シェラお姉さんはついに激発。切りかかってくる。

 ミリエラお姉さんが「ダメ! やめて! シェラーーっ!」と叫んでいるが止まる気配はない。そう言う性格なのだろうし、そう言う性格だからこそ生傷が絶えなくて幼馴染みが回復特化の僧侶系にならざるを得なかったんだろうなーと気楽に考えながら、使う魔法を選んでいたところーーーーー

 

 

 ーーーー横合いから一陣の突風に乱入されてしまった。

 

 

 

 

「落ち着かんか! この馬鹿ガキが!!!」

 

 

 

 バギィッ!!!

 

 

「はぐぅっ!?」

 

 

 ガントレットに包まれた拳を顔面に叩き込まれ、今日二度目の吹き飛ばされフライトを満喫させられるシェラお姉さん。こっちに飛んできたので、当然ながら俺は避ける。受け止めるなんてアホらしいことはする気も起きない。

 ・・・エロハプニングを期待できるデカさの胸なんだけどなー。なんか揉みたいと思えないし、脱がしたいとも思えない。

 脱がされて赤面させて「イヤ~ン♪」とか言ってるのを見て楽しいと思えるのは、その子このことが好きだからなんだと今知った十六歳のチート転生。正直この女で妄想できるのは『監獄戦艦』とか『対魔忍シリーズ』の展開のみですわ。

 

「た、隊長・・・? いったい、なにを・・・?」

 

 驚いたことに部下を殴り飛ばしたのは、先ほど彼女を制止していた小隊長っぽい中年男性だった。・・・いやまぁ、人事秩序上では当然の対応なんだけど実際に異世界転生先でこれやってる人って珍しかったんでね? 相手は一応美少女なんで。

 

 でも、どうやらこの隊長さんは常識的思考法の持ち主だったらしい。

 言い聞かせると言うより、はっきりと罵倒して叱責して反省と謝罪を部下に命じてくれた。

 

「『なにを』だと? それはこちらの台詞だ! 大戯けが!

 貴様、友軍の窮地を救ってくれた援軍に剣を向けるとはどういう意図があってのことだ!? 没落した名家のご令嬢は人を見下すことは知っていても、礼儀の心得はないとでも言うつもりなのか!?」

「ーーっ!!! 私は不審な魔法使いの正体を暴こうとしていただけであります! この少女の姿をした魔術師が使った魔術は脅威としか呼びようがないレベルでした! 都市市民の安全と命を守るべく結成された都市警備隊の一員として拘束する許可をいただきたく存じま(バギッ!)ーーあぶっ!?」

「バカなのか貴様は!? 味方をしてくれる強力な魔術師がいれば有り難く、敵に回ればこの上なく厄介な強敵。そんなことは子供でも知っている常識でしかない!

 貴様は「身元が怪しいから」という、ただそれだけの理由で高レベルの魔術師を敵に回すつもりだったのかバカ野郎が!」

「・・・・・・っ!! では、隊長はこの者が都市の住人に危害を加える存在だったとしても歓迎すべきだとでも言うおつもりなのですか!?」

「それを避けるためにも感謝をするんだろうが! この英雄気取りで正義感バカのド素人野郎! この後のことはこの後のこと、今起きていたことは今のこと。全部別々なんだよ! 個別に対処法を変えなきゃいけない事案なんだよ! ガキじゃないんだからそれぐらい判れ! このお荷物!」

「・・・・・・っ!!!!」

 

 唇を噛み、深く俯きながら瞳の色を暗くするお姉さん。

 隊長は俺の方に手の平をかざして、謝罪を促す。

 

「ほら、早く謝れ。騎士の家系らしく礼に則り、慎ましやかに謝意と誠意を込めながら・・・シェラ隊員!?」

 

 だっ! と、後ろを振り返ることなく走り去っていく好みじゃないけど美人なお姉さんシェラさん。

 

「ま、待ってよシェラ! 隊長! 旅の方! この場は失礼いたします! お礼と謝罪は後程に!」

 

 その後を、好みな方の美人さんミリエラさんが追っていく。

 

 

 んで。

 ーー残されるのは、野郎二人と戦いで疲弊した都市警備隊とやらの野郎どもがいっぱいと。

 

 

「確かに、この惨状で中級魔法の使い手と連戦してたら全滅しますよね。常識的に考えて」

「・・・隊を率いる責任者として恥ずかしい限りではあるがね・・・」

「ついでに聞いときますが、彼女のレベルはいくつなんです? ああ、利用する気があるわけじゃないんで細かいところはどうでもいいんです。

 ただ、中級魔法の使い手と戦って生き残れる確率がどれくらいあるかお聞かせ願えればいいな、と思いまして」

「・・・・・おそらくは・・・」

「おそらくは?」

「・・・・・・・・・旅の魔術師殿次第ではないかと・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 チートを使わないで自動翻訳。解析完了

 

 

 《殺さないであげてください。あなたの一存次第で死んでしまいますから・・・》

 

 

 ・・・・・・ダメじゃん・・・・・・。

 

 

「本来、他国からの旅人が我が国の町に入る際に発行される登録証には、同じ領内で都市間を移動するときに役人が本人には知らせることなく身元を確かめる身分証明証も兼ねているため色々と面倒な手続きが必要なのですが・・・」

「偽造してあげるから彼女を許し、街に着くまで自分たちの護衛もお願いしたい、と?」

「・・・・・・大人として恥ずかしい限りではあるのですがね・・・・・・」

 

 

 ーーーこうして異世界転生初日に手に入れた異世界住人としての身分は役人からの賄賂で手に入ってしまいましたとさ。・・・いいのかね? 本当にこれで・・・。

 

 

 

 

登場キャラ設定:

 主人公

 ユーリ(名字はなし/この世界での平民や旅人には珍しいことではない)

 異様に長い黒髪をポニーテールにしている幼女姿のチート転生者。貧乳ロリ。

 魔術師系のスキルと呪文すべてに通じた最強魔術師。

 ただし、魔術師が使える物以外は何一つ使えないし覚えることもできない。

 ステータスはカンストしているが、あくまで魔術師としての限界に達しているだけ。

 殴り合いでは最強戦士と互角にやり合えるが、技術面では一生歯が立たない。

 ひねくれ者で皮肉屋。斜に構えていて、いつも生意気そうな笑顔を絶やさない。

 相手をおちょくるのが趣味の性悪な性格。根はいい人なんて事もない。

 自分本位なのを良しとしているが、自分なりのルールは守ってる。

 他人に迷惑をかけるのを好む性格なので、理解を求めるのは筋違いだと割り切っている。

 長すぎる杖を刀みたいに肩に立てかけて歩くのがお気に入り。

 武器は初心者向け装備である《樫の杖》《布のシャツ》《布のミニスカート》。

 

 

 ヒロインの一人:

 ミリエラ・スタンフォード

 この地方を治めている領主の家系に連なる名家の娘。

 身分差別の激しい異世界では珍しく、差別を好まない善良な両親に育てられた。

 両親への愛情が強すぎるあまりワガママが言えない性格。

 逆に両親の方は娘が自分の幸せを追ってくれることを願っている。

 旧家臣の家柄で親友でもあるシェラを支えるため、僧侶系魔術を修めている。

 光の神を信仰しているが教会には属していない。そのために神官ではない。

 他の宗派と異なり、光の神だけは宗教に属してなくても信仰心次第で魔法が行使できる。

 水色髪のショートボブ。胸がデカい。垂れ目ぎみ。

 自分とよく似た、ゆるふわ系の姉がいる。

 まじめな性格だがエロ願望の持ち主という、典型的なサブヒロインタイプ。

 

 

 最初の敵キャラ:

 シェラ・イスフォード(現在は家名を剥奪されている。本人はフルネームで名乗る)

 没落した名家の娘。お家再興を悲願としている。

 元はミリエラの家に仕えていた騎士の家系で、呆けた祖父の耄碌が原因で没落した。

 意志の強そうな赤い瞳と赤髪がキツメの印象を与える美人剣士。

 努力や頑張った気持ちは誰もが認めてあげるべきだと信じている。

 善人ではあるが、自らの主張する正義論に地位と能力と才能が伴っていない。

 自分が努力して得た以上に他人が楽して結果を得たように見えると理不尽に感じる。

 ーーそれが結果として彼女を破滅させることになるとは予想もしていない・・・。

 典型的な熱血メインヒロインタイプであり、全てを守ろうとして逆に全てを危険にさらしてしまう正義の味方タイプでもある。

 

 今作では『善人の嫉妬心は悪党の野心よりも始末が悪い』という言葉の例証となる運命。


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