試作品集   作:ひきがやもとまち

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病気になってから勤勉になる作者の更新何作目なのか。
とにかく『魔王様リトライ』のケンカ馬鹿エルフ主人公版を更新です。

こんな身体で今まで止まってた分を補わんでもよかろうに、と自分でも思うんですけど変な癖でも持ってるらしく止まれない…。
ただ、書ける作品に偏りはあると自覚。病気テンションで書ける作品は微妙なの多めみたいデッス。


他称魔王様、自称凡人さん。リスタート第23章

 神都へと密かに潜入してバカ騒ぎを繰り広げ、聖光国の社交界と家庭の支配者たちを支配するマダム・バタフライと運命の出会いみたいなもんを経験する流れになってた喧嘩バカの魔王エルフであったのだが・・・・・・しかし。

 

 実のところ『指名手配中のエルフ少女』を見つけても、手は出さずに通すよう門番たちには指示が下されており、ただでさえ多くなってた罪状を更に増やさなくても問題なく神都へと入ることが可能だったのが実情だったりした次第。

 

 一方で、その指示が誰からくだされ、何を目的として出された命令だったかは判然としない。

 隠蔽されていたからではなく、複数の勢力から別々の理由と目的で「魔王エルフの神都への入国を見逃すよう」現場への指示が出回っていたからだ。

 

 たとえば、聖女姉妹の長女エンジェル・ホワイト。

 彼女は、妹が魔王に取り憑かれた亜人の少女と行動を共にしている現状を、人質に取られているようなものと捉えており、下手に魔王と事を構えて妹が傷つけられるのを防ごうという意図から、『相手から手を出されない限り攻撃は不要』の指示を出していた。

 

 あるいは、悪魔信望者集団サタニスト。

 彼らは神都に対して一大作戦を実行する寸前にあり、当局の注意を自分たちから逸らすため、神都内に潜入した亜人エルフへの警戒に神殿騎士団が配備されるのは望むところだった。

 そこで門番や衛兵など、給料の低い下層階級出身者たちに紛れ込ませている密偵やシンパなどを使って密かに指示を出させていた。『亜人のエルフを神都へ無許可で侵入させよ』と。

 

 そんな中の一人に、社交界の女王とも称される『マダム・バタフライ』の名があった。

 正直なところ彼女は、自らの祖国である聖光国に愛想がつき始めており、といって他国に寝返っても聖光国にいるよりマシになるとも思っておらず、だからこそ国の維持と存続に協力して“やっている”のである。

 

 その一環として、神都内に確保している『目』の一つから報告を受けて、自ら魔王が訪れたという高級レストランへと足を運ぶ道を選んだのだ。

 自分の目で、噂の魔王に取り憑かれたエルフ少女を見定めてやるという算段だった。

 話が通じる相手なのか、そうでないのか。本人の意思は残っているのか? それとも単なる傀儡に成り果てているだけの心弱き存在なのか・・・・・・と。

 

 

 そんなマダムに対して笑顔を浮かべ、穏やかな調子で『幼い人間の子供の回復を祝う会食』に招き入れ、思わぬ御馳走で度肝を抜かされるところからスタートさせられてしまった彼女は正直、相手に掴みかねる部分を感じずにはいられなくなっていた。

 

(・・・なんとも不思議な相手ね。

 邪悪な存在に取り憑かれているにしては朗らかに見えるし、傀儡にされて苦しんでいるとも思えない・・・・・・。もう少し観察する必要があるわ)

 

 とかの理由によって、社交界で鍛えられた人物観察眼を持ってしても見抜けぬ相手の底を見定めようと注意深く見つめ続けていたのが、その理由だった。

 

 ・・・・・・別に取り憑かれてないし、取り憑かれてるウンヌンの話を知ってすらいないのだから当然っちゃあ当然の結果だったんだけれども。

 そんなこと、騎士たちが必死の思いで伝えてきた『魔王に取り憑かれた亜人の脅威』と、ラビの村の元管理監が身振り手振りまで交えてはぐらかそうとする『ルナの行動の黒幕』についての情報を確信してしまってるマダムにゃ分からん。

 

 相も変わらず、自分が今までやってきた行為が巡り巡って今の自分に降りかかり、将来の自分に禍根となって降りかかる原因になりそうな事態に、気付かないまま巻き込まれていやすいケンカ馬鹿エルフだった訳だけれども。

 ・・・・・・自業自得だから同情する気になりづらいのは、誰も恨むべきだったのか――それは誰にも分からないし、特に誰も分かりたくないだろう。

 

 

「ところで、貴女から――魔王様から見て、この国はどのように思われたかしら?」

「実に素晴らしかったですね。とても綺麗で、町並みも美しい」

 

 とりあえず当たり障りのない所から話題を振って様子を見ようと、マダムから出された天気ネタ並によくある無難な話を質問の形で告げられて、ナベ次郎もワイングラスを傾けながら無難な社交辞令で礼儀正しくご返答。

 会食として実に模範的な、形ばかりの儀礼を守り合ったスタート。

 

 ・・・・・・だが、何分にもケンカ馬鹿のネタエルフと、聖光国の社交マナーを心得たマダムとでは知識面でも常識でもファウルラインがかな~り異なってもいたため、ここで終わらず続きがあり。

 

「巷には様々な品物が溢れ、往来には多くの人々が行き来している。

 まさに背徳の都と呼ばれ、神とやらの嫉妬を買って滅ぼされたバビロンの如き繁栄と言って良いほどのもの。

 この町に来るまで貧しい町や村を多く見ましたが・・・・・・フフフ。愚民共がさぞや羨み、小賢しくも攻め来る野心を刺激されずにはおれぬでしょうな・・・・・・くっくっく」

「そ、それはなかなか・・・・・・素直に喜んで良いのか判断に困るお言葉ね」

 

 予想以上に辛辣で、どう解釈して良いのか迷う返答にマダムは冷や汗を一筋垂らし、曖昧な表現で言葉を濁す。

 なにしろ彼女の中で、相手のエルフ――と思しきフードで顔の半分を隠した少女は『異世界の魔王に取り憑かれた亜人』なのだ。

 遙か昔に、天に背いて天使に敗れて封印された邪悪の頂点にある存在。

 それと同格かもしれぬ、異なる世界の悪霊・・・・・・そんな立場から言われた言葉として考えれば、微妙に意味合いが変わってしまうしかない。

 

 天使の加護篤き国の神都を『背徳の都』と呼びながら、一方で神都の繁栄を羨んで攻め寄せるかもしれない民衆のことは『愚民』と見下した呼び方を用いる。・・・一体どっちの立場で言っている言葉なのかサッパリ分からない。

 

 まぁ・・・・・・実際には、第六天魔王がらみで宣教師ネタを気持ちよく語っただけなんだけれども。

 異世界人のマダムは、第六天魔王知らねぇし。宣教師からの評価も聞いたことねぇし。

 知識差が原因で厄介なことになってきてる、いつも通りの展開にマダムは悩み、天使をバカにされたルナは怒り、馬鹿エルフは気持ち良さげに語って酒を飲む。相変わらず混沌です。

 

「・・・・・・他国から来られた方の中には、驚かれる人も多いのよ。あまりの格差に、まるで天国と地獄のようだ、なんて言う人もいるくらいなの」

 

 とはいえ話をズラす必要性を感じたらしく、マダムは返答を避けて微妙に関連した話題を改めて出す。

 それを言われた側のナベ次郎はと言うと、

 

「――ふぅん・・・。天国と地獄、ねぇ・・・・・・」

 

 ワイングラスを小さく揺らし、器の中に入った赤色の液体を見つめながら小さく呟く。

 ・・・血の色をした液体を、内心の分からぬ奇妙な光が浮かび上がった綺麗な瞳で見つめて、うっすらと怪しく微笑む美少女の姿には、不吉さを感じずにはいられないナニカがあった・・・。

 

 その姿を見せつけられた同じテーブルに座っていた三人の女性と少女たちは、背筋に冷たいものが走るのを感じさせられ、信仰対象を侮辱された怒りをぶつけようと口を開きかけたルナでさえ思わず言葉を飲み込んでしまうナニカが、今の相手には感じてしまうモノがある・・・

 

 ――まぁ、尤も。

 そんなマスターの隣で、自分の魅力値MAXな食事姿をギャラリーの貴族たちに見せつけて自慢するのに熱心で、自分以外の女が美しくても興味なき暗黒聖女は見てなかったから何の影響受けてないとこ見ると、単なる思い込みによる錯覚でしかなかったんだろうね。多分だけれども。

 

「・・・私が思うに、この国の問題点は支配者層に亡国の危機感がまったくないのが原因ではと思われますね。

 自分たちが天使を信じず、義務を怠り、金儲けだけに邁進するようになったとしても、『天使様によって創られた偉大なる聖光国が滅びることなど絶対あり得ない』・・・・・・そんな盲信を抱いているからこそ、平然とバカをやる。

 バカをやっても天使の国は永遠に決まっていると信じ切って安心しているから・・・・・・」

「ちょ、ちょっと魔王! それは・・・その発言は――っ」

「――そうよ。その通りだわッ! まさに貴女の語った、それこそが今の国が抱える問題点なのね!」

「え!? ちょちょ、ちょっとマダム何言って・・・!?」

 

 現在の社会の根幹に関わる要素をも含んだエルフの言葉に、さすがのルナも聖女としてヤバさを感じ取ったのか、慌てて発言を制しようとした矢先に、マダムが大声で食い気味に賛成されてしまったので機先を制され、あたふたすることしか出来ない立場に追いやられてしまっていく。

 

 そんな国のトップの次女が晒している醜態は目に入らず、マダムは自分が頭の中で考えながらも明確な形に出来なかった疑問点を、分かりやすく単純な言葉で言い表してくれた『魔王の言葉』に深く感銘を受けて、素直な賞賛と敬意を送るのみ。

 

 それはナベ次郎が語った聖光国への評価が、マダムにとって共感できるものだったからこそのものでもあった。

 

 ・・・・・・マダムは、過去の出来事によって先祖が呪われ、その呪いの遺伝によって現在のような体型にならざるを得ない血の宿命を背負わされて生を受けた女性であった。

 呪いによって肥えた身体は、当然のように周囲の貴族達からは物笑いの種にされ続け、悔しい思いを長い間感じさせられ続け、マダムにとって唯一の弱味にもなっている要素でもある。

 

 それ故にマダムは人一倍『美』に執着したし、それを得るための手間暇資金を惜しむことはしなかった。その為に努力や善政が必要であるなら何だって耐えてきた。

 だからこそ、マダムは『美の永続』など無いのだという事実を良く心得ている。若さも美貌も永遠ではないのだ。歳と共に衰え始める美を維持するためには、たゆまぬ努力と美への執着を維持し続ける心によってしかない。

 

 ・・・・・・そして、それが聖光国の貴族の多くは持ち合わせていない。

 自分たちが貴族として生まれた聖光国に、いつか滅びの日が訪れるなど露とも想像してすらいないのだ。

 考えている者がいたとしても遠い未来に起こりうる危機ぐらいしか考えておらず、自分や息子や孫が死ぬまでは続いてくだろうと、何の根拠もないまま信じ込んで怠惰な日々を送り続けるだけになってしまって久しい状況。

 

 天使の教えや存在を信じてもいない癖に、天使が創った国という存在は絶対視して特別扱いしている。

 自分たちが、維持するための努力や協力を惜しんでも、一部が衰えるだけで国全体は頑健で強靱なままで居続けられるに決まっていると信じ込んで油断して、自分たち程度がナニカやっても大したことではないと高をくくって私利私欲にのみ精を出す。

 

 そんな輩で溢れているのが、現在の聖光国の実情だった。

 まさに、油断して弛んだ贅肉まみれの国になってしまっているのが現在の状況なのである。

 危機感を持ってダイエットと健康維持のために運動するべき時期が来ているのだが、ほとんどの者は認識せぬまま今まで通りの贅沢な食生活を続けてしまっている・・・・・・。

 

 そんな聖光国の『太った姿』を、馬鹿エルフの言葉は正確にマダムにイメージさせてくれたのである。

 彼女にとっては開眼に等しい目覚めであったと言えるのかもしれなかったが―――

 

 

 

 ・・・・・・そもそも何でコイツ、そんな頭良さそうなこと考えついたんだ?

 どー見たって頭脳派とは思いようのない脳筋エルフにしては鋭さを持った政治的意見を述べられた、その理由と原因とは――――

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ひっく♪」

 

 

 ―――酔っ払って、気持ちよくなってただけだったりする次第・・・。

 見るとテーブル上には殻になった酒瓶が5、6・・・8本?

 

 どう見たって飲み過ぎな量の酒を、皆で話してる最中にも延々と飲みながら話し続けてた奴が一人だけいたせいで、完全に出来上がっちまって気持ちよく語りたがってるだけの酔っ払いエルフが誕生しちまっていやがった。

 

 身体は数百年を生きるエルフでも、中身は飲酒可能年齢に法改正されたばかりの年齢にさえ達していない現代日本のオタク人に、この量の酒を初めてで飲んで平気でいられる訳がなく。

 

 目つきがトロ~ンとなって、頬が仄かに赤く染まって、ゆっくりユラユラと揺れるような動き方で身体を揺らすようになってしまってたケンカ馬鹿の中身バカ学生エルフは、既に素面を失いつつあるようだった。

 

 いつブッ倒れてもおかしくない状態を、チート転生者ボディの力だけで保ってしまいながら、周囲の人には見分けも付かず、ただアクちゃんだけが「ま、魔王様・・・お酒臭いです・・・」と真相に気付いてくれてた状況で。

 

 

 

 ドォォォ―――ッン!!と。

 大きな振動と爆発音のようなものが届いてから僅かに遅れて、食堂の扉が大きく開かれると、室外から飛び込んできた男が大声で危機の到来を叫んだのだ。

 

 

「た、大変だぁ――!!

 サタニストの襲撃だぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

 耳をつんざくような悲鳴と共に告げられた、楽しい晩餐の夜の終わりと、終末の序曲。

 聖女の結界魔法によって防備は完全な聖城がある神都へのサタニスト襲撃という脅威に、マダムでさえ不安げな表情を隠しきることは出来なくなっていた程だったが―――ある意味でそれは、まだマシな反応だったのかもしれない。

 

 

「――やれやれ。せっかく気持ちよく浸っていたのに、邪魔しないで欲しいものだねぇ・・・・・・」

 

 

 自分たちが座っている大テーブルの一席から、騒然となっていた室内にあっては完全に異質で異端と化した、暗い闇を背負って愉悦に歪む笑顔を隠そうともしない一人の美しい少女が、凶悪な笑みを浮かべながら立ち上がる姿を目にしてしまったのは、マダムだけだったのだから・・・・・・

 

 

「・・・これは祭りが始まりそうですねェ・・・・・・血祭りがッ!!!」

 

 

 その一言が、これから始まる惨劇の夜を、これから始めることを宣言する魔王からの宣戦布告であることを、マダムは直感として知っていた。

 少女の中に普段は眠っている魔王が、夜の支配者とも称される存在が、血と闇の臭いに引きつけられ、少女の心の奥底から浮かび上がって身体を支配してしまったのだという事実を彼女は心の底から理解して、そう確信させられていた。

 

 

 ―――実際には酔っ払いが、お気に入り悪役キャラだった最強殺し屋元相棒ラスボスをロールして、気持ちよく酔い痴れたがってるだけなのが実情だったんだけどね。

 知らん人には、それは分からん。偉い大人の人にはアニメキャラの真似は分からんのです。それが現実(偏見で断言)

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして開始されたサタニスト達による大作戦『神都襲撃計画』

 長い時間と手間暇をかけて実行に移された計画は、作戦内容そのものは非常にシンプルなものだ。

 

 神都は大きく4つの地区に別れており、聖なる結界に守られた聖城を除いた3つの地区全てに同時攻撃をかけてきたのである。

 進入路には、神都の真下まで掘り進めた地下道を使って侵入し、ゲリラかモグラのように穴から飛び出し次々と近くにいる人間達を問答無用で襲いまくり始め、年単位で用意万端整えた襲撃作戦をようやく実行に移せた悦びと殺戮に酔い痴れまくっていたのである。

 

 しかもどういう訳だか、人間の貧民達によって構成されてるはずのサタニストの襲撃であるにも関わらず、いくつかの場所では魔物たちの姿が散見されており、下級とは言え悪魔の姿もチラヒラ見受けられる。

 挙げ句そいつらは、同じ人間でもサタニスト達にの方には攻撃してこないのだ。少なくとも今の時点では、一人も攻撃対象になっていない。

 

 ただでさえ各地区を同時に奇襲されて不意を突かれ、機先を制されたことで出遅れてしまっている神都防衛の騎士団側は不利な状況に陥らされざるを得なくなっていた。

 

 

「なるほどね、同時攻撃ですか。戦術的には正しい判断ですが・・・・・・」

 

 そんな戦況を、高台に建てられた高級レストラン『アルテミス』のテラスに登って観察していたケンカ馬鹿エルフだが、中身はゲーマーでもあるRPG好きのオタクが訳知り顔で論評するように呟いていた。

 

 夜風に当たって、少しだけ酔いが覚めて冷静さが戻ってきたお陰で出来るようになった芸当であった。

 むしろ今の時点でグロッキーになって動けなくなってないだけでも大したチート転生ボディだったけれども、明日の二日酔いは多分確定することにもなるだろう。

 奇跡には代償が必要であり、人は痛み無くして何も学ぶことは出来ないもの・・・・・・。

 

 まぁ、それで二日酔いで苦しんで「もう二度と酒飲まねぇオェェ!」とか誓った場合でも、やっぱり飲んじまって痛みから全くなにも学べてないこと多いのが、普通の人間ってものでもあるんだろうけれども。

 

「しかし・・・この場合はどうなんでしょう?

 不意を突いた今でこそ有利とは言え、相手方が体勢を立て直して本格的に反攻作戦に打って出られたら、数だけ多い棒との集団なんてたちまち壊滅させられるしかないでしょうに・・・・・・あんま良い作戦とは思えんのですけどなぁ~」

 

 そして、コテンと首をかしげて相手の作戦と現状との組み合わせが分からず疑問を零す。

 実際、4つの区画の内3つを同時攻撃すると言えば聞こえは良いが、3つの場所を同時に攻めかかる為には、自分たちの兵力も3分割しなければならず、それだけ1カ所に集中できる兵力は少なくなる事を意味してもいる。

 

 戦記物RPGでも民衆たちの解放軍が、敵の主力を城から誘き出して潜入するイベントはよく見かけるけれど、そういうとき決まって軍師から

 

「各地で騒ぎを起こし、敵を引きつけている間に目的を達成して下さい。

 敵の主力が戻ってきてしまえば、我々に勝ち目はありません」

 

 とか注意事項を言われてから始まるのが定番のような気がする作戦。

 事実として、一人一人が正規軍の一般兵士より弱っちい連中の寄せ集めであるサタニストは、圧倒的な数の差こそが最大の武器であり、数が減った状態で騎士団と正面決戦などしてしまえば一瞬で蹴散らされかねない程度の能力しか持っていない者の方が多数派でもある。

 

 数を揃えまくらなければ優位性を活かすのが難しい作戦。

 だが一方で、生きて帰れる者の方が少なそうでもある作戦に大兵力を投入しまくる、勝った後に組織が維持できるのか疑問な、犠牲ありきの特攻作戦でもある。

 

「自棄起こして、自爆の美学にでも目覚めたんでしょうかね・・・? それとも自分たちの玉砕で時代を変えさせるための星屑作戦とかなのかな?

 ―――あるいは、本当に生け贄にされる前提の作戦という可能性も・・・・・・」

 

 そこまで考えて、ナベ次郎は思考を止めて頭を振った。

 どーにも自分っぽくない頭脳労働したせいで頭痛を感じたからである。

 やはりケンカ好きたる者、深く考えるよりも殴った方が手っ取り早く、ケンカを見たら仲間入りしたくなるのが日本人の伝統というものである。

 

 相変わらずコイツは、日本の伝統に土下座した方が良いかもしれない奴だった。

 ちょうど頭痛も感じ始めて、酔いが段々とグロッキーに近づいてきた気配を出し始めてきてるみたいでもあったし、たまには痛い目見るのも悪くはなし。

 

「フィラーンさんは、とりあえず残ってアクさんたちや他の人の護衛でもしてあげてもらえます? さすがに全兵力つれて戦いにいったせいで、帰ってきたら血の海だったじゃ目覚めが悪すぎそうですし、私は気楽にケンカを愉しみたいですし」

「りょうか~い☆ 魅力値MAXパワーで、みんなを守ってあげとくわね。大丈夫よ、たとえ死んでも腕が取れても足がもげても、回復魔法使えば元に戻せるから。守れなくても守ったのと同じになるからダイジョ~ブ」

「いやあの・・・・・・できれば腕や足が取れる前に守ってくれるようお願いしますわ本当に・・・」

 

 HP1になっても、ベホマさえかければ完治して即座に戦線復帰できるゲーム脳に当てられてるらしき暗黒聖女さんの妄言に一応はツッコんでおいてあげながら前へと向き直り。

 

「ちょ、ちょっと魔王! 勝手に決めないでよ! 私も行くんだからね!!」

「え? いいんじゃありません。行きたきゃ勝手に行って戦ってしまって別にかまわない立場だと思いますし。まぁ私は置いていって、一人で戦うつもりですが」

「鬼かアンタは!? この悪魔! 邪悪な悪魔たちを統べてる邪悪すぎ魔王―――ッ!!」

 

 顔を真っ赤にして、普段通りからかわれた怒りを露わにする天使聖女ルナからの発言も軽くいなし。

 

「ま、魔王様・・・・・・あの、魔王様は大丈夫なんですよね・・・?」

「フッ・・・大丈夫ですよ。問題ありません」

 

 そしてアクちゃんからの嘘偽りなき本心から心配して言ってくれた言葉に対して、大丈夫じゃないことを保証する大丈夫の言葉をブラックジョークで告げて、相手知らないから分からなくて。

 

「マダムもどうか、食堂に戻って食事の続きを楽しんで下さい。せっかく高い金払って頼んだ料理が冷めてしまったら勿体ないですからね。

 私の方は遅くなりそうなら、テキトーな屋台でなんか買って食べますから、お気になさらず」

「・・・あなたは、こんな状況でまで・・・・・・いいえ。こんな状況だからこそ、と言うべきなのかしらね?

 貴女の言い分を借りるなら、努力を怠らない者の大言壮語と、努力しない者が語る強者の理論は、同じ内容でも全く別物なのだから」

「まさに仰るとおり。

 ―――愚者共が、愚かしくも攻め来るなら滅するのォみ・・・・・・是非もなァし」

 

 ブワッ――と、再び黒い気配を背後から放ち始めてマダム達を恐怖させた後、

 

「じゃ、そういうことで行ってきます。ジュワッチ」

 

 と言って、ピョンっとテラスから地面までの距離を飛び降りていくケンカ馬鹿の魔王エルフ。

 スタチッと地面に着地して、周囲を見る。

 

 

 そこに広がっていたのは、最近ではテレビなどで見かける機会が多くなっていた光景。

 平和な街で突如としてテロが発生し、襲い掛かってきた反政府ゲリラと治安機関との武力衝突で戦場と化す町中。

 通りを逃げ惑う人々。血だらけになって救急車で運ばれていく姿。

 

 それらの姿を普段から他人事としてみているのが現代日本に住んでた頃の自分たち。

 たとえ綺麗事や理想論で他人をどれだけ説教するようになっても、遠い外国で起きているテロでどれだけの人が死んでいるだの言われても、ピンとこないまま理屈だけの人道論を唱え続けて賛成し続けるのが平和な社会に生きる人間達の精神性というものでもあるのだろう。

 

 ―――だが、しかし。

 ここで生きている者たちにとっては、他人事では済まされない。

 今ここにいる者たちには、他人事で済ませてはもらえない。

 

 何故なら、テレビの向こう側で逃げ惑う人々は無力な被害者であり、哀れな避難民の姿なのだから。

 決して一方的に殺す側の殺すところを、ネットはともかくテレビで放送することなどあり得ないのだから。

 

 

 ―――ナベ次郎が、これから行うのは『テロの加害者側』になる役割だった。

 被害者ではない、逃げ惑う被害者にはなれない。

 

 テレビの中でどれだけ多くの人が苦しみ、痛みの中で逃げることしか出来ない哀れな姿をさらして、その姿に強い同情や労りを感じることがあろうとも。

 

 彼ら彼女らを守る側に立って、襲ってくる側を倒す者になった所謂『チートな主人公』と呼ばれる存在は、決して『被害者』ではなく『弱者』でもない。

 一方的に弱い敵を倒して倒して倒しまくって被害者達を守り抜く『加害者』であり『絶対強者』それが『弱者の側に立って強者から単独で守り抜ける優しい主人公』という存在。

 

 自分は今から――――『主人公(加害者)』になる。

 ナベ次郎は、その事実を知っている―――。

 

 

 

 

「さぁ、行くぜボーイ。

 ションベンは済ませたか? 神様にお祈りは? 命乞いする準備はOK?

 さてさて、どっからデストロイしに行ってやりましょうかねェ~?」

 

 

 邪悪な笑顔で愉悦っぽく悪い顔して言いながら―――ナベ次郎には一つだけ、気になることがあるにはあった。

 それはレストランの中に、扉が開いて外から駆け込んできた人から言われたときから気になっていた言葉。

 特に重要性は無いかもしれないけれど、一応は知っておいた方が良いかもしれない、意味深すぎる響きを持った“その名前”について自分はほとんど何も知らないという事実。

 

 それ即ち。

 

 

「それにしても・・・・・・“サタニスト”って、なんでしたっけかね?

 黒いサンタクロースの異世界バージョンみたいなものなのかな~~っと」

 

 

 ・・・・・・自分が関わり深い因縁ある連中を、因縁あったこと知らないで過ごしてきた女神像蹴り殺しエルフ魔王は、未だに悪魔信奉者集団サタニストのことをほとんど知らないままだから知らない。知らないものは分からな~い。でも敵になるなら蹴る殴~る。

 

 RPGでは結構よくある展開です。

 だから気にしない。・・・・・・こうして黒歴史ばっかり増えていきそうなケンカ魔王の明日はどっちなんだろう? ホントの本当に・・・。

 

 

つづく


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