色んな作品を同時進行で少しずつ進めてったら、結果として何故かコレが出来たので更新しました。
なぜ他のより先に今作だったかは自分でもよく分かりません。主人公と相性いいのかな…?
「ここが神都ですかぁ~。ブルオミシェイスと違って大きくて豪勢ですねぇー、b~yイヴァリース」
「??? どこのことよ、その名前の神都って。なんかエレガントな響きなんだけど」
「いえ、こちら側の話ッス」
私は生まれて初めてリアルで見たファンタジー世界の大都市の景観に感心しつつ、ルナさんからのツッコミ指摘を小粋なゲームジョークで誤魔化しつつ。
FFⅫ版イヴァリース世界で、万民平等の思想を説きながらも権力者と敵対するのを避けるため宗教組織を辞めて個人の修練推奨オンリーに方針転換してたラビの村以下の信仰の都を思いだし、頭の中で比較しながら比べものになるかなぁ~とも思ってしまう。そんな心境。
それぐっらいにデカくて豪勢ですからなぁ~、この天使信仰の国の首都さんは。街の周囲は城壁で囲われていて、大きな堀には満々と水が湛えられ、ルナさんから聞くところだと大通りには噴水まであるのだそうな。
堀とか水なんて日本で生きてると珍しくもなさそうですけど、この異世界では雨が少ないそうで、希少な水の価値が桁違いなのだそうな。
「す、凄いですね! 僕も神都は初めて見るんです! こんなに綺麗で大きな都市だったなんて・・・!!」
「ふふん♪ アク、あそこに見える聖城が私の家なのよ!」
「ええ!? あんなに大きなお城が家だなんて! やっぱり聖女様は凄いです!!」
「オーッホッホッホ♪ そうでしょうそうでしょう、もっと褒めなさい! 賞賛しなさい! 私は凄いんだから、あなたは本当に素直でいい子ねアク~♡♡」
と、私の横では聖女様が、幼くて純粋なお子様少女を悪質に洗脳してらっしゃるのを聞き流しながら。
外面は綺麗でエレガントでも、中身はこんななのがこの国の支配者であり実態なんだろうなーとか肩をすくめる私たち魔王コンビな自分と暗黒聖女なフィラーンさんの二人組。
ってゆーか、お城を『家』て。
彼女の身分的に間違った表現ではないのでしょうけど、な~んか庶民的な言い方する時ありますよね。この自称エレガントな聖女様は。存外に貧乏人出身で、能力の高さだけで出世した成り上がりエリートだったりするのかな?
『私は偉くなって出世して金持ちになったら、毎日キャビア食べてやる!』とか言ってた子供時代を過ごしてた気がしますよね。フォアグラでもいいですけど、ステーキでも。
「フフフ・・・そうよ! 私こそが最高の聖女――いずれ、この国を統べる者よっ!!」
「それは素晴らしい夢ですね。ではまず、政治と統治のお勉強からはじめましょうか? 国家運営は領地経営より遙かに難しくて覚えること超多いですので、苦手不得意関係なく勉強しまくらないと無理ですので頑張ってください。
聖光国の政治すべてを統べる者になる聖女ルナさん」
「・・・・・・と、当然よ! そういう勉強もいずれは学んで姉様たちを超えるつもりなんだから!
でも今はまだ姉様たちに国のトップは預けておいてあげる! 主演女優が登場するのは大一番の時と決まってるんだから、オ、オホホホホ~・・・・・・」
というノリと流れで、「明日できる努力は今日しない道」を選ばれる未来の国を統べる者になる聖女王のルナさん。前途多難そうで何よりですな。
まっ、それはそれとして。
「ではお二人とも、打ち合わせ通り私たちはここで。あとで神都に入ってから合流するとしましょう。ルナさん、アクさんのことは宜しく頼みましたよ?」
「え? あぁ、そう言えばアンタたちは別件があるからって、私たちとは別々に入るんだったわね。でもいいの? 私と一緒なら下僕ってことで顔パスで入れるのに・・・」
「気持ちだけ受け取っておきましょう。では、また」
そう言って、社交辞令だけ言い残して列を外れて、サッサと脇道に入って城壁の横側へと回り込む私と暗黒聖女のフィラーンさん。
列から大分離れて、相手の姿が見えなくなったことを見計らい、
「ひょい、っと」
軽く城壁の上まで目指して、チート転移者or転生者のステータス使って大ジャンプ。ちょっとだけ高さ足りなかったので、壁に足をつけて駆け上がる閃乱カグラ走りで不足分を補って城壁上に到着。
そして着いた直後にアイ・キャン・フライ。地面にシュタッと着地。フィラーンさんも続いて到着。
「よし、密入国完了です。あれだけ外からの出入りチェックが厳しいのですから、入ってしまいさえすれば後はどーとでもなるでしょう」
「そうねマスター。関所破りとか国境突破とか相手国への不法侵入なんていうのは、冒険者にとって日常茶飯事だもの。美女の魅力知的にも問題0の行為だわ」
アッサリと、門番さんたちの仕事を無にして聖なる都の中への不法侵入に成功する私たち見た目だけ美少女の魔王コンビたち。
ですが元々、この国にいきなり飛ばされてきてる時点で密入国してる立場の私たちにとっては今更ですので気にしませんとも。フィラーンさんの元ネタの人たちは身分詐称とか王城内への潜入とか幹部人質にとって誘拐とか犯罪行為のオンパレードやってた冒険者パーティーだったので尚更というもの。
「しょせん魔王にとって、人間国家の法律など守るだけ無意味というもの・・・・・・さっさとアクさんたちと合流して目的を達成しに行くと参りましょう。では、行きますよフィラーンさん。付いてきなさい! 我が覇道の始まりの地へ!!」
「は~い♪ ノリノリで楽しんでるマスターに野暮なツッコミ入れない私は良い女の子♡ 魅力値MAXは許されざる大罪以上の罪・・・ああ☆」
まぁ、そんなノリでいつもの如くいつもの様に、聖光国の中心にある首都『神都』へとやってきた私たちケンカ馬鹿エルフご一行。
こんな姦しいだけの私たち、肉体的には女の子パーティーが神都までやってきた理由と目的はただ一つ・・・・・・
「では、アクさんの足が治って走れるようになった記念パーティーに使えそうな店へと急ぐとしますかね」
――神都にある高級料理店『アルテミス』にとって、聖女姉妹の末妹であるルナ・エレガントは、最上級のお得意様であり上客の最たる存在である。
聖光国は天使を崇める宗教国家であり、宗教国家の教会に仕える聖職者という存在は、贅沢を好まず質素な生活を送り、高額商品を買わないから客となっても実入りが少なく、時には無理やり寄付することを強制されたりもする。
首都にある高級店から見れば、盗賊と大して変わらない部分が結構ある碌でもない連中だったが、最高権力者の聖職者トップから『お墨付き』をもらえることは商売する上で十分すぎるメリットもある。
だが、聖女姉妹の長女であるエンジェル・ホワイトは国防の事情から滅多に聖城を出てくることはなく、仮に客として来たとしてもお忍び前提で、宣伝に使うのはもっての外。
次女のキラー・クイーンは大勢のガラ悪い手下を連れて移動してるので、ヒイキにされると普通のお客様が遠ざかりそう。
そういった事情から三女のルナ・エレガントは、高級料理店アルテミスにとって理想的な条件を満たしてくれている有り難い存在たり得ていた。
三聖女の中で最弱の存在だから割かし自由が利いて、物質的欲望豊かだから高級品や高級料理をけっこう欲しがり、自己顕示欲が超強いから『あのルナ様ごヒイキの店』とか喧伝するのだって勿論OK。その上あんまりお供の人が多くない。
良い品を提供すれば相応以上のメリットが確約されてるような、意外に有り難い部分を持った存在が高級料理店【アルテミス】にとっての聖女ルナ・エレガントという存在だったのである。
――そのため、『魔王に取り憑かれた少女』として手配書が出回っている差別種族の亜人エルフに「似た顔の少女」が来店してきた時にも『聖女ルナ様のご友人の一人』という“身分だけ”見て、他は見なかったことにして全部スルーして最高の接客することだけに終始する商業エゴイズムに徹してくれる訳であった。
要は、他人事のゴタゴタに巻き込まれずに儲かるなら、それで良かった。
否、それが一番良かったのが高級料理店アルテミスの方針だったのである。健全な商道徳を持ってる店でよかったね。
「では、僭越ながら私から一言―――アクさんの足が治ったことを祝して、カンパーイ!
プロージット!!」
「おめでとうアク♪ かんぱい――って、何よその“プロージ”なんとかって? 何かイヤらしい呪文かなにかなの?」
「いえ、私がきたアッチの世界の言葉です。第六天魔界言語ですので、お気になさらず」
「気にするわよ!? それ気にしないでいられる人間はコッチの世界にはいないと思うんだけどー!?」
ギャーギャーと、相変わらず場を弁えずに騒ぎまくる元気な子供のルナさんを微笑ましい視線で、かわいそうなモノを見る目で見守りながら、私たちは聖女指名で紹介してもらった高級料理店の一席に座って神都に来た目的の一つである、パーティーを開いておりました。
フィラーンさんの回復魔法によって完治した、アクさんの足の全快パーティーを皆で祝うためです。
宿屋も奮発して、けっこうな有名店らしい高級宿屋を確保して旅の疲れをとれるようにもしておきました!
路銀とか、定期的な収入の無い懐具合とか考えるなら節約すべきところだとも思わなくは無かったのですが・・・・・・まぁ、どうせルナさんから奪った聖女様の元所持金ですし。そこまで気にしなくてもいーかなーって。他人の金で食う飯は美味いぜィ♡
「ま、魔王様・・・ッ。僕なんかが、こんな凄いお店に連れて行ってもらって、本当によろしかったんでしょうか・・・!?」
「ハッハッハ。何も心配することはありませんよ、アクさん。
聖女自身が討伐しようとした魔王と一緒に来てるぐらいなのですから、何の罪もなく攻撃に巻き込まれただけの子供が来ちゃいけないはずないでしょう?
ねぇ~? 子供を殺しかけた聖女さま~♪」
「う、ぐ・・・ッ!? ふ、古い話を今さら持ち出してきて蒸し返すんじゃないわよ! この魔王! 魔王魔王魔王ォォ~~っ!! ムキーッ!!!」
「お、落ち着いてください聖女様! 魔王様も煽らないで! 他のお客様たちに迷惑ですから!ね?ねっ! フィラーン様からもお止めできる言葉を魔王様に一言だけでもっ!」
「え? いいんじゃない別に。私が被害に巻き込まれないなら、他人同士の諍いトラブル・オールOKご飯の種。それが冒険者のお仕事ってものだしねぇ~」
「そういうのいいですから! たまにでいいので本気で止めてくれません!? お願いします本当に!!」
そして、いつも通りのノリで顔を真っ赤にしながら私たちの加減したバカ騒ぎを抑制してくれる幼女なアクさん(ルナさんは本気かもしれませんが)
いやはや、真面目で気遣いな女の子は大変そうで可愛いですよね♪ 問題児が多いと、クラス委員長は旅行先でも大変なものなのでっす。
周囲では見るからに高そうな服を着た貴族っぽい人たちが、優雅に穏やかにワインや鹿肉のローストなんかを嗜んだりしながら談笑してる姿が目に映りします。
さすがはアルテミスなんていう、この異世界基準ではハイレベルすぎる小洒落た名前の高級料理店。
未来世界でクリスタルに覆われた東京で、セーラー服を羽織ったスクール水着戦士がドレス姿で女王様になってるIF時間軸でも通用しそうな名前だけのことはある。
「まっ、冗談はこれくらいにするとして。
今日は、アクさんの怪我が治ったのをお祝いする場なのは、間違いなく事実です。ですのでマナーとか気にせず、食べたい料理があったら食べたいだけ食べちゃって問題なしですよ。
むしろ、パーティーの主役が遠慮しすぎてコチコチのままでは、他の祝ってる人たちが楽しみにくいというものです。ですから遠慮なく、ね?」
「ま、魔王様・・・(///)ありがとうございます・・・で、では遠慮なく・・・。
――ハワワワ~♪ “すぱげってい”がァァ~♡ “すてーき”っていうお肉が柔ら過ぎて素敵すぎちゃって・・・はむはむ・・・☆」
最初は次々と運ばれてくる豪華な料理の数々に気圧されてか、少し緊張気味に肩肘を張っていたアクさんでしたが、徐々に美食の誘惑に抗えなくなってきたのか、顔を蕩かせ、瞳を緩ませながら両手を使ってナイフとフォークで不格好ながらも心底美味しそうに食事をいただき始めます。
それを見ながらワイン片手に楽しげに見物させてもらって肴にする私。
ロリ巨乳エルフで、見た目子供なナベ次郎の中の人である日本人学生の私ですけど、今はゲームキャラの肉体なので問題ありませ~ん。エルフに人間年齢関係なーい。
永遠に近い寿命を誇る設定のハイエルフにとって、160歳でも人間年齢だと16歳ディードリット。エルフ年齢設定は便利。
それはそれとして、アクさんが喜んでくれて何よりですよね。私も見ていて嬉しい限りです。いやー、私もやっぱり歳なんでしょうかね。
彼女いない歴=年齢で、学生終わり近くが見えてくる頃まで生きてくると、何となく『女の子に喜んでもらうためプレゼントに金を使う』って行為が、妙に楽しく感じられるようになってくるんですよねぇ・・・。
好きとか嫌いとか惚れたとか関係なく、『女の子へのプレゼントにお金を使う』って行為自体がなんか好き。なんとなく楽しくて嬉しい。・・・・・・我ながら末期だなぁーと思わなくもないことだけは何なんですけれども・・・。
ま、まぁそれもそれとして置いておくのに追加するとして。
「楽しんでもらえて私も嬉しいです。では、ちょっと私はキジを撃ちに」
「?? なによ? その『キジ撃ち』って」
「失礼、噛みました。『お花を摘みに』が正解です」
「ああ、なるほど。トイr――こほん。え、エレガントじゃない単語なんて、私は食事の場で言ったりしないんだから」
そんな遣り取りを経て、微妙に顔を赤くしてる二人の少女を残して私一人だけ部屋を出て(フィラーンさんだけ至って冷静。男共と一緒に野宿する冒険者美女はやっぱ違う色々と)
適当にトイレ行くフリして、近くの通路に寄りかかりアイテムボックスを確認中。
確認完了まで少しフリーズ。山登りで女のトイレは「お花摘み」男のトイレは「キジを撃ちに」という豆知識を思い出しつつ―――お、あったあったありました。
「良かった。残っててくれましたし、アイテムボックスの中は時間の経過も関係ないみたいですし。
やっぱり子供の祝い事って言ったら、コレですよねぇ~」
とか子供の頃の自分を思い出し――そう言えば現実にはなかったなと、夢のないリアルワールドの子供イベントに軽い失望感を感じさせられながら、取り出したるはデッカい『ケーキ』
子供の記念日に食べるって言ったら、昔はショートケーキと相場が決まってたそうですからね。私はチョコレートケーキの方が好きですけど、個人の趣味趣向はこの際置いておくとして。
折角なのでサプライズです。私が直接出すより、演出あった方が喜んでくれそうなので近くの店員さんに声かけて、お願いしてましょう。交渉開始です。
「HEI! そこのお兄さん、ちょっとそこの部屋までミーの持ち物と一緒にドライブしてくれませ~ん? ホッタイモ・イジル~ナ」
注:正体がバレないよう、怪しい外国人のナンパ少女を演じてみただけです。
不法侵入した関所破りゆえの配慮です。今更ですけど、そのツッコミも今更です。
そうして用を終えてきた風を装いながら、席に戻ってきたところ。
――ふむ? なんか貴婦人の一人っぽいドレス姿の女性がルナさんに話しかけてて、少し困らせられてるっぽく見えなくもない?
「随分と楽しそうねぇ、ルナちゃん」
「ふぇッ!? ま、マダム! な、なななんでここに!?」
「うふふ、お友達とお楽しみのところに声をかけてしまってゴメンナサイね。お邪魔だったかしら?」
「い、いや、それはその、え~~とぉ・・・・・・邪魔、っていう程ではないんだけど、えぇ~~とぉ・・・・・・」
前からの知り合いなのか、その人自身は親しげな態度で話しかけてるみたいですけど、逆にルナさんの方は目が泳いでいて少し苦手そう。
その貴婦人の見た目はと言うと――その者、蒼いドレスを身にまとい、金色のオーラで光りながら降り立つべし。
失われし大地との絆を、指に一本ずつ嵌めたデッカくて豪華な指輪で買い取って、腐った絆として深め治すべし。――要するに、超金持ちっぽい人ですわな。全身が光って見えるレベルですよ。
百式だって、スレンダーなぶん金持ちって印象は薄かったんですけどなぁ~。アカツキの方はゴテゴテしてて金かかってる印象あったんですが・・・。
あと、サイズがデラックスです。マツコ・デラックスサイズな体型の持ち主ですな。
いやはや、ゴージャスな上にビッグとは色んな意味で重量級なお方です。この異世界ネーム基準で考えたら、『サン・ゴージャス』さんとかだったりするのでしょうか? エレガント家の聖女様と親戚だったりするのかもしれません。
まぁ、何はともあれ本人自身の設定でも聞いてみましょう。
フィラーンさんの召還時に使用可能になったパーティーチャットが、仲間全員に使えるかどうか実験したかったところでもありますし。
《――ルナよ。魔王の手下その1にして、イヤらしい恥天使を崇め奉るイヤらしい尻を持つ聖女ルナ・エレガントよ、応えるのだ。我こそは偉大なる第六天より来たりし大魔王なり》
「違うわよ!? 私はイヤらしくないし、魔王ごときの手下に成り下がった覚えもない!
それに私のお尻はイヤらしくなんてないんだからね!? 私のお尻がエレガントなお尻であることを目の前で証明してあげるから出てらっしゃい! このエロ魔王ッ!!!」
ガタタッ!!と音を立てて立ち上がり吠え猛る聖女ルナ・エレガントさん。
顔を真っ赤にさせて、自分にかけられたレッテルという冤罪が無実であるという真実を――何もないし誰もいない空中に向かって一人雄叫びを上げる変な女の子になってまで。
「る、ルナちゃん・・・・・・いったい誰に向かって、何を叫んでいるの・・・?
それに、そんなイヤらしい言葉を何回も・・・何があったかは知らないけれど、ちょっと貴婦人として、はしたないと思うわよ・・・」
「ハッ!? ち、違ッ! そうじゃなくて違うのよマダム! 私の話を聞いてちょうだい!
私は魔王と! どこからともなく私に呼びかけてくる邪悪な声が魔王と名乗ってきて、私は心の中でイヤらしい魔王の声と話してただけでッ! それで!!」
「・・・・・・ルナちゃん・・・」
「だから違~~~~ッう!?」
隠れ潜んで見物している先で、ギャーギャー自爆して誤魔化すため必死になって言い訳しはじめるルナさん。
初対面なら直接聞くしかないのですけど、知ってそうな知人がいるなら情報収集してからが基本。だから情報収集相手に使わせてもらいながら、同時に遊ばせてもらってまっス。
《ふふふ・・・他者に聞かれては不都合な会話をするため、私が編み出した超自然的な現象を起こせる力・・・・・・そう、これこそ超能力『ハンド・パワー』なのだよ。
たかが無知無能にして、無力なる天使ごときに与えられた力しか持たぬ聖女には分からぬのも無理はないがな。察するがいい、ククク・・・》
《な!? なッ!? アンタ、邪悪な魔王の癖して私の前で智天使様をバカにするなんて! 絶対に許さないんだから! 姿を現しなさい! ここで決着をつけてあげるんだから! 善の天使様に愛された聖女と悪の魔王による最終決戦が今ここで始まるのよ!!》
《クックック、愚かな・・・。智天使など、大天使界を支配する天使四天王の中で最弱の存在に過ぎぬというのに、それさえ知らずに崇め奉っているのだからな。つくづく人間とは愚かな生き物よ、フォッフォッフォ》
《なぁ!? ち、智天使様が最弱ですって!? そ、それに大天使界なんて聞いたこともない場所をなんでアンタが・・・! あ、アンタ一体なにを知ってるって言うの!?》
《フォッフォッフォ、それを貴様が知るにはまだ早い。いずれ知るときが来ることもあるやもしれぬが・・・・・・さし当たっては、そうだな。
―――そこの今話してるご婦人さんは誰か教えてください。話はそれからです》
サラッと流して、無駄で無意味なフィクション話を記憶の隅から永久追放してしまってから忘却し、とりあえず楽しんだのでマダムさんの説明カモ~ン。
《くっ・・・! 取引ってことね・・・? いいわ、教えてあげる。
マダムは、貴族の奥様方の中心人物で、貴族の間でとても顔が広くて影響力も大きい、敵に回せば怖い人なのよ》
《なるほど。所謂『社交界の女王』ってヤツですか。・・・尤もこの国における「女王」が、どれぐらいの地位身分なのか微妙ですけどね。
色々な家の裏事情を知ってるから逆らいがたい、夜の夫婦生活の支配者って感じなんでしょうか?》
《そうね。北方諸国に女王が支配してる国ができたって話を姉様が言ってたことあるけど、私はあんまりよく分かんなかったから、多分そんな感じだと思うわ。多分だけど》
曖昧極まりないテキトー証言を、実力だけ評価されて他人同士で姉妹になってる宗教国家の政治トップ聖女様から頂戴することができました。
始まりからずっと、血統主義の制度敷いてる国だったことない宗教国家ですものなー・・・。
しかも考えてみると、「社交界の女王」って表現も意味が分かりにくい言葉ですし。
どこの国の何時代に治めてた女王かで、大分イメージと意味してる内容が違ってこざるを得ない。
『社交界のクレオパトラ女王』だったら、絨毯にくるまれて皇帝に国ごと身売りしないとやってけないローカル権力者になりますし、『社交界のヴィクトリア女王』なら超家族想いの人ってことになり、『社交界のエリザベス女王』だと・・・・・・止めときましょう。間違いなく切りがねぇ・・・。
とりあえず今聞いた話を整合して考えて、選ぶべき選択肢としては。
「これは、マダム。お初にお目にかかります、ルナさんとの話に花を咲かせているところに横入りしてしまって申し訳ない」
「あら、あなたが噂に聞くルナちゃんのご友人の方ね。私の方こそ、お友達同士の語り合いを邪魔する形になってしまってたみたいで御免あそばせオホホホ」
「いえいえ、お気になさらず。マダムのような方なら、いつでも歓迎ですよハッハッハ」
普通に挨拶して、礼儀正しく社交辞令のやり取りでしょうな。人同士の付き合いにおけるマナーとして。
なにしろ、この人が社交界の重鎮で、貴族の間に幅広い人脈持ってて影響力が超強い方だったとしても・・・・・・特になんもカンケーしてませんのでね? 私自身が、それらの業界全てにほんのちょっぴりさえも。
敵に回せば本当に怖い人になりえる立場の人なのかもしれませんけど、敵に回す理由が私の方には本気でなんもねぇ。
あるいは、現代知識とチートで理想国家建設系の転生者とかになってたなら敵に回す危険性あったのかもしれませんけど、密入国エルフが社交界を敵に回してなにしろっちゅーんじゃというレベルですし。
ぶっちゃけ、この国の治安当局とか法治機関の方がよっぽど私にとっては敵な人たちでしょう。
たとえば、『邪悪な魔王を聖女が不意打ちして殺すのは当たり前の権利』とか言い切れるエレガント権力者さんなんかの人たちが特に。
「おっと、失礼。名乗りがまだでしたね。
私はナ――ナーベ・ジ・ロウと申します。お初にお目にかかる」
「あら、コチラこそ挨拶が遅れてしまったわね。私は、エビフライ・バタフライというの」
「ほお! 素敵なお名前をお持ちなのですね。憧れてしまいます」
私は素直に本心から思わされた感想を、相手のマダム――バタフライ夫人に捧げながら断言しました。
いや本当に良い名前だと思ってんですよ? お世辞とか嘘ではなく本当に。
なにしろ―――世の中には、【ドクトル・バタフライ】とか名乗って『蝶・天才』とか言いながら、白一色の全身タイツ姿で股間アピールしてくる爺がいる業界もあったぐらいですし。
アレと比べたら『マツコ・デラックス風の見た目をしたエビフライ・バタフライ夫人』なんて凄くマトモ。マトモな国の女王様レベルで常識人です。だからダイジョーブ。
「まっ、立ち話もなんです。良ければ一席、ご一緒しませんか? 今日はこの少女の怪我が治ったことを祝うパーティーをしている最中でして。
たまたま珍しい材料が手に入ったという話を店員から聞き及び、特別に注文してきたばかりでしたので共にお食事でもどうかと―――おっと、噂をすればなんとやら。
ヘイッ! ギャリソン、こちらのご婦人にも例の物を」
パチン♪と指を鳴らしてから店員を呼んで、待ちぼうけ食らわせてたことは無かったことにしてしまい、話を合わせてくれる優れた接客マナーの店員さんにコッソリとチップを渡してあげながら。
今夜の目玉商品として私がアイテムボックスから取り出した品がテーブルの上に置かれて鎮座され、席に座している生まれながらの女性陣たち4人の口に入れられた・・・・・・その瞬間。
「あ、甘い! 甘いです! 美味しいです! 可愛いです魔王様ッ♪♪」
「いやぁぁぁ! 美味しいぃぃ! ほっぺが落ちそう♡ コレどんな魔法を使って作ったエレガントケーキなのぉぉッ!?」
「この味は・・・・・・今はじめて自意識に目覚めたと言っていいと思えるほどの味ね、マスター。
自己の存在を穴が開くほど見つめたくなってきて、私自身に穴が開きそうなほど心地良い自己な味よ・・・っ。
四六時中も語録字中も存在していたくなるほどの自己の美味しさが伝わってきそうになる味だわぁ~♡♡」
「こ、これは・・・! この味は・・・!?
幻想的で甘美な芸術品とも言えるところの、絶対矛盾的自己同一性というべき、もう一度食してみたくなる味わいに、エントロピーの増大という流れに抗うことは膨張し続ける宇宙を否定し続ける意思が表明されているかの如く・・・・・・ソレ即ち、美味ィィィィィィィッ!!!!」
「うひゃああ!? ま、マダムがなんか吠えたーっ!?」
・・・・・・食べた人たち全員が、こんな感じになってしまうケーキを供してあげた訳でありましたとさ。
なにしろ、この『ケーキ』アイテムは―――
アイテム名『マジックケーキ』
スーパーファミコンソフト「マザー2」に登場していたイベントアイテムを採用した【ゴッターニ・サーガ】用に改造した物。
ゲーム中では原作における下位互換のアイテム『マジックタルト』と同じ効果として設定されMP回復用に使われていた。
原作では、食べた主人公の意識が遠い異国にいた最後の仲間の元まで飛んでいって、最後の仲間の旅立つまでの流れを追体験できた挙げ句、意識が戻ったときには遠い外国から初対面の仲間がテレポーテーションしてきたばかりでも、何も聞かず普通に受け入れられてしまえることを可能にしていた。
・・・・・・原典を初プレイしたときにも思ったことですが・・・・・・なんか危ない薬品でも入ってるんじゃねぇかとしか思いようがない効果のケーキしか持ってきてない私は、半端物のチート転移者エルフでっす。
所詮STRだけが取り柄の脳筋モンクエルフ如きに、過剰な期待はなさらんよーに。
つづく
【今話のオマケ説明】
本来のストーリーと順番が少し前後する流れとなったのは、今作設定だとラビの村発展のイベントに進め方が分からず、整合性の取り方が思いついておらず、マダム無しだとストーリーが途中で大きく変わる恐れがあったため、とりあえず美食で繋がり持っただけ展開にしてみた今作版マダムとの馴れ初め話。