試作品集   作:ひきがやもとまち

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年明けまでに今年最後の一本を!…と気合入れて書いてたところ、寝オチしました。
今さっき目覚めたので投稿しました。
今作しか時間内に完成できそうなのなかったんです! そして出来ませんでした…。タイムアタックは難しい…。


この乙女ゲー世界は、女子でも引きます 4章

 姉君くんが快く協力してくれたことで得られたアドバイスによって、ゲーム原作の主人公オリヴィア女史がクラス一の実力者から庇護を受けられるようになり(当然ながらアンジェリカ女史。お約束だな)

 なにやらオモシロ――もとい兄君くん的には望んでいなかった、巻き込まれ主人公ルートへと進み始めた気配をビンビン感じ始めてきた数日後のこと。

 

 私たちバルトファルド兄妹+オリヴィア女史を含めた一年生達は、授業の一環としての『ダンジョン探索』へと赴き、一緒にパーティーを組んでダンまちする運びとなっていた。

 

 

「えぇ~い! ダニエルとレイモンドめぇ・・・・・・探索授業をサボりやがってッ! そのせいで、このパーティかよ! 目立ちまくりじゃねぇか!!」

「平民出身の特待生にくわえて、実績ある冒険者で成り上がりの成金ポッと出男爵と妹という組み合わせだからね。

 これで年齢と性別が逆なら、我々の方こそ嫌味な金持ちパーティーになりかねん」

「いや、言うなよ!? 兄がせっかく敢えて口にしなかった設定だけで考えた場合の俺たちのポジションと状況を、敢えて口に出して自覚させてんじゃねぇよ愚妹ィッ!」

 

 立て板に水のツッコミを入れてくれる兄君くんも、現在の自分たちが置かれている状況と立場を正しく理解してもらえているようで何よりだった。まさに、貴族ばかりな学園内における嫌われ者ポジション全員集合という訳だ。

 

 もっとも、レイモンドくんたちが病欠とか家族の不幸とか、よくある理由を色々使って授業をサボった理由はヘイトに巻き込まれたくなかった、というだけでもないようではあるのが今回の授業の参加メンバーでもあるのだが――。

 

 

「マリエ、初めての探索授業だが怖くはないか?」

「は、はい殿下。私は殿下と一緒にいさせて頂けるだけで・・・♪」

「ふふ、マリエさん。殿下がお困りのときには私を頼っていただいても大丈夫ですからね?」

「ハッ! マリエにとってはモンスターより殿下を心配した方がいいんじゃないか? 王宮育ちは手が早くっていけねぇや」

「今は学生で対等な立場だからな。学園にまで外の関係を持ち込む男に引っかかってしまうと、苦労するぞマリエ?」

 

『『『ははははははははッ☆☆』』』

 

 

 ・・・・・・見事なまでに、原作イベント攻略キャラクター全員集合クエスト状態だからなぁー。まったく、引き立て役で舞台装置のモブ女キャラとしては居心地が悪い悪い。

 

 人数的に一年生全員を同時にダンジョン内へぶち込んでは、探索どころか渋滞しないための交通整理授業になってしまうため、ある程度バラけて行わざるを得ないのが大人数参加での屋内授業というのは現実でも乙女ゲー世界でも変わることなき学校運営の限界。

 

「しかも、俺たち以外の同じ組に割り振られてた男連中って、例の攻略対象たちだし・・・・・・これだとフラグ立っちまいそうなメンバーじゃねぇか!」

「あそこだけ空気と空間が違うからなぁ・・・・・・。

 ダンジョン内なのにキラキラして見えるって、美形の王子様キャラというのは光の精霊の加護を得やすい設定の意味が違うような気がするのだが・・・」

「ご、ごめんなさい・・・皆さんが、どうしても参加して欲しいって・・・・・・。

 ところで、“ふらぐ”って何ですか? リオンさん」

 

 バックとして背景に、トーンでも張ってある幻覚に私までゲンナリさせられるほど、「貴族~☆」って感じの雰囲気を発散させまくった姿で一カ所に集まって集合している攻略対象の王子様パーティーの面々たち。

 もはや見た感じの装備からして我々、他の貴族出身クラスメイトを含むモブキャラたちとは異なっていて、なんというか・・・・・・凄まじく派手だ。

 

 そのままダンスパーティーに移行しても違和感ないくらいに填まりまくってる程なのだが、ダンジョンという場所柄にはビックリするほど合っていない。場違いにも程があるキラキラ空間を形成してしまっている。

 

 ・・・って言うか、真面目に探索する気あるんだろうか? ダンジョンだぞ? ダンジョン。

 ダンジョンに出会いを求めるのはゲーマーとして間違っているとは思わないが、ダンジョンにフラグを求めて立てにくるイケメン男子が現実になった世界では、ムカつくだけだから間違っていると断言したい。

 

「ご、ごめんなさいすいません・・・・・・なんだかクラスの皆さんが殿下たちにも、どうしても参加してほしいって・・・」

「くッ、女子は王子たちの誰かが目当てで、男どもは王子目当ての女子を狙っての共謀か――それに」

 

 呻くように兄君くんが、正しいものの見方でクラスメイトたちの人選理由を看破して、「チラッ」と後ろを振り向くと。

 そこには王子たちを誘ったクラスメイトの男子女子たちが、表面的な社交辞令の笑みを浮かべながら「にこり」「ニッコリ」と笑い返してきてくれたのだけれども。

 

 

『――アイツら俺らの先に行かせちまおうぜ~』

『危ないところは私たちの代わりに任せればいいわ~』

『実績のある冒険者と、特待生だしねぇ~。それぐらい出来て当然でしょ』

 

『『『ひゃっはっはっはァッ★★★』』』

 

 

 ・・・・・・テロップで心の声を地の文で表示してるシーンだった場合は、こういう風に描写されてたこと請け合いなの丸わかり過ぎな状況だからなぁー。

 ゲームに慣れたゲーム脳の自覚ある脳内では、ボイス有りで再生可能なクオリティを誇っているレベルだよ。

 音声エンジン半端ないね、この授業クエストは本当に。

 

「アイツらにとって、俺らは都合のいい護衛――いや、肉壁といった認識しか持ってねぇだろうからな・・・・・・生け贄役に巻き込まれるのから逃げたダニエルとレイモンドの気持ちも分からなくもないのが、イヤすぎる程に・・・」

「ひ、ヒィィっ!? み、皆さん笑顔なのになんとなく怖い気がしますぅッ!!」

 

 兄君くんにも当然のようにクラスメイトたちからの悪意、あるいは作為とか侮蔑とかのドス黒い感情と本音は見聞きすることが出来てるらしく、実際に聞いたわけでもないのに兄妹共々以心伝心。

 軟弱そうで私好みの主人公ではない、お人好しなオリヴィア女史まで怯えたようにいうのだから間違いはない。

 

 もしも間違えてる部分があるとしたら、恐らくそれは―――

 

「いや、多分だが我々を抹殺したがってるんじゃないかな? 彼らのような場合的には。

 生まれの爵位では自分たちの方が遙か上なのに、実力実績では格下より圧倒的に弱くて勝てないという状況は、嫉妬と僻みとコンプレックス待ったなしの立場だろうからな。

 学園内では身分関係なく学生同士対等に、と来れば尚更に。モンスターに襲われて殺されただけなら、罪に問われるのは学園側と、黒髪ポニーテール眼鏡の巨乳先生だけだし」

「お前、なぁ・・・・・・。ハッキリ言うなよ、そういうことは・・・余計にやる気出なくなるだけなんだから・・・。

 あと、先生をそういう目で見るのは辞めてやりなさい。俺が意識しちまって困る羽目になるじゃねぇか」

 

 私の評価に、敢えて視線を逸らしていたらしい兄君くんが、探索授業を担当する若き女性ティーチャーの姿へとチラッチラッと目が行くようになってしまって、オリヴィアくんが「う~・・・」と不機嫌そうに頬を膨らませるのを見物――もとい、穏やかな心地にさせられながら和まされ。

 

「まぁいいじゃないか。本人たちが我々の後から来たいというなら叶えてあげよう。

 ――出し抜いて手柄を独り占めする手間が省けて、正直ありがたいぐらいなのだし。

 美味しいところは玄人である私たちが全部手に入れまくって、残りカスだけ素人連中に押しつけるため全力を尽くそう。なに、相手から求めてきた配置なのだし遠慮は必要ないだろう」

「・・・たまにだけど、お前と俺に同じ血が流れてることを強く感じさせられた時って、お前との兄妹の縁を切りたくなる時でもあるんだよな。どう思うよ? 切っていいと思うか? 愚昧の山田さんよ」

「はっはっは、兄君くんはほんとーにジョークが好きな人だなぁ、本当にハッハッハッハ~。そして、その名字はいただけないと言っているだろう?ハッハッハ」

 

 と笑いながら、徐々に徐々に距離だけは取っておきながら安全を確保しつつ。

 さて、そろそろ担任の先生からの説明と注意事項のお伝えがあるかなと思っていた所で、

 

 

「いい加減にしろ! お前と殿下では身分が違うッ!!」

 

 

 と、聞き覚えのある声とセリフが鼓膜をたたき。

 私たちだけでなく、そのダンジョン入り口の大広間に集まっていた生徒たち全員の視線が一カ所に向けて集中させられることになる。

 

「アンジェリカ、よせ!」

「殿下・・・っ! この者のワガママをお許しになるのですかっ!?」

 

 例によって例のごとく、原作ヒロインならぬ原作攻略対象のメイン王子であるユリウスと、悪役令嬢キャラのアンジェリカ君。

 そして、『マリエ』というキャラ名らしい見覚えのない半端なオリキャラっぽい女子生徒の三人がまたしても三角関係の修羅場を演じ始めていた。

 

「わ、私・・・・・・殿下と一緒がいいと思っただけで・・・迷惑なら断っていただいても・・・」

「マリエ、もともと俺もお前と一緒の班になるつもりでいた。迷惑なんて思っていないさ」

「クッ・・・! また、そのような態度で殿下をたぶらかして・・・ッ」

 

 そして相変わらず、女同士の諍いに割って入りたがる王子キャラ君と、「相手と違って謙虚な女アピール」しながら、相手の腕を取って自分の小さな胸元に押し当てている、スタイルの伴わないハニートラップキャラの合法ロリなマリエくん。

 

 ふむ・・・もしかして一応アレでも自信はあるタイプだったりするんだろうか・・・?

 いや、最近だとロリのお色気誘惑キャラというのも需要は高いようだし、ソッチ系の推しで行く方針という可能性も・・・・・・

 

 そんな下世話な妄想をするため同級生を使いながら、他人事故の無責任思考でテキトーにオカズになりそうな属性を脳内マリエくんと王子キャラ君とに当てはめようか考え始めていたところで、兄君くんとオリヴィエくんによる『半端オリキャラ女子』に関する遣り取りが耳に入ってくるのが聞こえてきた。

 

「なぁ、オリヴィアさん。あの“マリエ”って子の事なんか知ってる?」

「え? あ、はい・・・一応は。貧乏な子爵家の娘だという話を聞いています。

 ・・・それと、最近は私よりイジメが激しくなってて、ちょっと気になっていて・・・」

「ふぅーん・・・・・・?」

 

 ――との事だった。

 まぁ、学生の間は身分関係ないという建前のある学校に入学して、王子様と同級生になった女子たちとしては『玉の輿』を狙って取り入りたがる者が多いのは当然のことだし、それに成功した同胞は『裏切り者』としか思われないのも、同窓生の女子としては至極当然の反感だからな。それほど不思議な話でもあるまい。

 

 とは言え、あの「マリエ」というオリキャラ女子の場合は、それだけとも言い切れないのが現状でもあるようだが・・・・・・

 

『――婚約者の前で擦りよるなんて、ヤバくない?』

『あの子、他の男子とも仲良くしてたよね?』

『うわ~、サイアクー。信じらんな~い』

 

 周囲に意識を散らしてみただけで、そこかしこから聞こえてくる聞こえよがしな陰口の数々オンパレード。

 オリヴィアくんの話では、最近では王子たちの見ていない所だと、これがイジメにまで発展しているそうではあるが、そんな状況下にいたってなお平然と人前で擦りよって見せている辺り、本人自身の性格もかなり悪いか、もしくは嫌われる行動を取りたがるタイプということなのだろう。

 

 おそらくは、今回のこれも計算。

 悪役令嬢で婚約者であるアンジェリカくんに当てつけているように見せかけているが、実際に見せつけたいのは他の自分を嫌っている女子生徒たちの方で、陰口を言わせて聞かせたがっているのは最高権力者の御子息たちである攻略対象の王子たち。・・・・・・そんな所か。

 なかなかに、あざとい年下後輩キャラが板についているようで。

 

「止めろッ!!」

『――っ!!』

「マリエのことを悪く言うのは俺が許さん!」

 彼女がなにか違反行為を犯した訳でもないというのに、恥を知れ!!」

『・・・・・・・・・』

 

 そしてまぁ、こういう場面での王子系キャラらしく周囲の有象無象を一喝する王子キャラくん。

 さらに続けて新たに参戦したがりに来るのも、いつも通りな面々。

 

「アンジェリカさん。あまり殿下を困らせないでいただきたい」

「学園にまで外の関係を持ち込むなよ。イライラするぜ」

「わ、私はただ、殿下のためを思って・・・・・・」

 

 王子様の愉快な友達パーティーである大貴族子息の攻略対象たちまで、マリエくんの側に回られてしまっては、如何な大貴族令嬢と言えども悪役令嬢に太刀打ちできるはずもなし。

 所詮、ヴィランという悪役の名を割り当てられている時点で、正義に破れること前提な出来レースの当て馬にしかなれない運命を彼女も与えられてしまっている一人ではある。と言うことなのだろう、きっと。

 

「――行こう、マリエ」

「は、はい・・・・・・フフフ」

 

「女が強い世界だけど、アイツラだけは特別か・・・」

 

 その光景を見ていた兄君くんが、オリヴィアくんに聞こえないよう小声で呟いているのが耳に入り、私も万感の思いを込めて頷きつつ。

 

「しかしユリウスはともかく、あのロン毛。陰口を叩いていた周囲の女子たちには、なにも言わなかったのだな。人気落ちるのがイヤだったのか?」

「・・・ありえそうだな。アイツラの場合」

「あと、できれば学園内の痴話喧嘩をダンジョンにまで持ち込まないで欲しいのだがね。

 実在しない男女との恋愛経験=年齢の身としては、そういうのに興味薄くても流石に寂しくなるってんだよセニョール」

「・・・ありえそうだから、ビックリするぐらい寂しくなるリアルトークを乙女ゲー世界でするんじゃねぇ。俺まで色々思い出して死にたくなっちまいかねん。

 ってゆーか、お前のソレ系話は怖いっつーより悲しいから止めろっつってんだろーが!!」

 

「はいはい、そこの皆さんも騒ぐのはそれぐらいにして探索授業を始めてください。

 これまで学んだ魔法や戦い方を実践するため、学校外のダンジョンで行う授業中ですので多少は目を瞑りますけど、油断するほどなのはダメですよ?

 地下三階まで進んで鉱石を採取してくるのが目的ですけど、モンスターも出るんですから気をつけてくださいね?」

 

『『『は~~~い』』』

 

 

 と、先生からの号令にダラケきったテキトー返事を返して出発する、ファンタジー世界生まれ育ち現地人のクラスメイトな貴族出身者の同級生たち。

 何というか、あのイロイロ地雷臭に塗れていた乙女ゲー世界のガチモブキャラ達らしい反応だった。

 ゲームが現実になった世界の住人達とは言っても、元が“あの”乙女ゲー世界では住人達もそんなものという事なのだろう。多分だが。

 

 

 

 

 

 そして授業のダンジョン探索を開始。

 言うまでもなく簡単に、鉱石が採取できる地下3階までアッサリ到着。

 すでに実績ある冒険者兄妹の私たち2人にとっては、高校入学して初めてのダンジョン授業は中学生向けの難易度である。

 

「うんしょ、うんしょ――えいッ! やった!

 リオンさん、レインさん! やりました! うまく掘り出せましたよー♪」

「おめでとう~、この質なら100ディアは確実だねぇ」

「うむ。初心者にしてはなかなか筋が良い。

 あと、買い取り金を上げたいときには、上目遣いで相手の手を握って頬に当てながらオ・ネ・ガ・イとかすると、中年の男性店主の店とかでなら200ディアぐらいは値上げしてくれる――」

「おい止めろ愚昧。オリヴィアさんが本気でやろうか迷いだしてそうな目になっちまってきてるからマジで止めろマジで! 本当に!!」

 

 

 そういう些細なアクシデントはありながらも、無事に何事もなくダンジョンの奥深くへと潜ってくることができた私たちのパーティー。

 何故だかダンジョンの中では色々なイベントが起きるものである、不思議だな。ここは入る度に構造が変わる不思議なダンジョンではないはずなのだが。

 

「そう言えば、まだ後続の皆さん来ないですね・・・・・・どうしたんでしょう? 少しだけ心配です」

「まっ、当然だろうな。俺たちは所詮、肉壁でしかないだろうし。手柄だけ横取りする気で、後からゆっくり来るつもりなんじゃねーの?」

「まったくまったく。もっとも、来た道の途中にあっためぼしい物は残らず頂いてきたし、脇道に逸れた先には怪しげなトラップや動く気配があったので入らない方がよいと思うが・・・・・・まぁそこら辺は自己責任だからな。せいぜい得するため頑張ってもらおう」

「お前のジョブは盗賊かなにかか? 抜け目なさ過ぎるにも程があるだろ。俺でさえ全然気づかな――おっと」

 

 私の戯れ言にいちいち付き合ってくれる律儀さを発揮してくれていた兄君くんだったが、途中で声質が変わって表情も態度もシリアスな緊急事態モードに変化。

 当然それは私も変わらない。

 オリヴィアくんを最後衛において、前衛の兄君くんと中間の私という配置で構えを取る。

 

 戦闘準備が完了するかしないかのタイミングで、鼓膜に響くイヤな音が耳を叩いてきて、入室しようとしたばかりの部屋の各所からワラワラと、見覚えのありすぎる者どもの群れがPOPして登場。

 

 所謂アレだ。

 ――モンスターが現れた!! というヤツだ!

 

「も、モンスター!? しかも、こんなに沢山・・・っ! すぐに他の皆さんの助けを・・・!」

「無駄だよ。もともと俺らを盾にして、使い潰すつもりだろうし。それどころかコイツの言うとおりなら、俺らとアイツらが相打ちで倒れて消耗させてくれたら万々歳ってところか」

「だね。むしろ下手に助けを求めてしまえば、ギリギリの位置まできて助けに入らず、全滅するのを待って敵だけ殲滅。私たちが逃げる退路だけ塞がれる、という事態になりかねん」

「そ、そんな・・・!? そんな事って!?」

 

 こういう事態に慣れがないオリヴィアくんが悲痛な叫び声を上げてくれるが、冒険者として暮らし始めてそれなりに経つ私たち兄妹にとっては然程不思議な話でもない。

 もとより冒険者などという職業は、自己責任が基本なわけだしな。

 

「この国の貴族達も元は冒険者として名を上げて、その功績から貴族の地位を与えられたという設定になっているそうではあるが・・・・・・。

 まっ、そういうタイプは代を重ねて、先祖の威光を笠に着て威張り散らすだけな不肖の子孫になるのが典型だからな。致し方あるまいよ」

「まったくな。先祖ならともかく、ボンボンに成り下がった子孫の方はクタバレって感じだよな。――レイン、最初は手を出すなよ。アレを試したい」

「ん? ・・・ああ、アレか。了解したよ。では危なくなったら手を貸すに留めよう」

 

 応えて、一歩後ろに退く。

 この前、ルクシオン君に命じて造ってもらっていた剣の切れ味を試すであることを察したからだ。

 登場してきたモンスターたち自体が、私たちにとっては見慣れた序盤ダンジョンで立ちはだかってきてた敵キャラの種類で、それなり以上の数と戦って倒してきた実績がある相手だったからこそ手の内も熟知しており、大丈夫だと分かっていたからこそ委ねて問題ないと判断した訳であるが、オリヴィアくんにとっては初の実戦。初めての兄君くんとの共同ダンジョン探索作業だ。

 

 当然ながら兄君くんのステータスなど彼女が知るよしもないし、見た目は普通の剣に偽装しているルクシオンくん製ソードの性能に至っては想像の埒外でもある。

 

 私の行動を見て、「ええッ!? レインさんなんで・・・っ、リオンさん危なーい!!」と。

 王道ヒロイン発言と展開をガチで演じてしまっても特に不思議はなかった訳でもあるのだが。それで結果が変わるという訳でもなく。

 

 

「つあぁぁぁぁッ!! これでラスト―――ッ!!!」

 

 スブシュゥゥ!! ズボンッ!!

 普通に兄君くんが圧勝して終わりである。

 

 

 

 

 

 

 

「つ、強いんですね。リオンさんって」

「まっ、実家にいたときは鍛えてたし。もっとエゲツないのと戦ったこともあるからねぇ」

 

 剣を鞘に収めながら、刃毀れもせずに血糊もつかない高性能っぷりに満足もしていた俺は、オリヴィアさんから驚きながらの褒め言葉を言われて、満更ではない気分にはなりながらも微妙な心地にもさせられてしまって半端な気分を抱いてもいた。

 

 ・・・なにしろ、この場面では本来オリヴィアさんが選んだ攻略対象の好感度アップがはかれるイベントだったはずだ。

 だが現実には、彼女と王子達との接点は未だあんまり得られたようには思えず、今回の一件でも俺に対する好感度が上がってしまった感さえある始末。

 

 正直、これ以上オリヴィアさんと仲良くなるのはマズいと、俺は感じ始めざるをえなかった。

 彼女は王子達の誰かと結ばれる運命にあり、そうなるのがゲームのシナリオとしても正しい。

 たとえこの世界が、あのフワッとした乙女ゲーが現実になった世界だろうと、ゲーム世界はゲーム世界。俺みたいなモブキャラと主人公じゃ釣り合わないにも程があるし、俺自身も攻略対象のイケメンなんて柄でもない。

 

 そろそろ何とかしないといけない―――そんなことを考えてしまっていたからだろう。

 

「――っ!! 兄君くん! 上ッ!!」

「はっ!? やべッ!!」

「きゃあああッ!?」

 

 周囲を警戒していて振り返ったレインの叫びに、反応するのが一瞬遅れた!!

 

 キィィィィィッ!!!

 

 天井にへばりついてやがった猿タイプのモンスターが、オリヴィアさんに真上からの奇襲をかけてきやがった!!

 今からだと、剣を抜いても間に合わない! 刃渡りが長すぎる! クソッ!

 こんな事やって好感度上がってくれるなよ本当に!

 

 キィィィィアブシュウ!!!

 

「くぅっ!?」

「リオンさん!? 腕を・・・っ!?」

 

 大口開けてオリヴィアさんに噛みつく寸前だったソイツの眼前に、自分の右手を突き出してやって、目先の欲望に弱いモンスターの攻撃を俺に誘導!

 痛ぇっ!? ガブリと噛まれて牙が肉に食い込むのを実感したが、痛がってられる余裕はない!

 右手が使えなけりゃ、左手で短剣を抜いてブッ刺すしかない!

 

「こんのぉぉぉぉぉッ!!!」

 

 キィィィアアアアアッ!?

 ズバシュゥゥゥゥッ!!!

 

 

 案の定、噛みつきが最大の武器だったらしいソイツは、噛みついてる間は自分も獲物から離れられなくなってしまい、俺が引き抜いた短剣の一撃を回避する術はソイツにも存在しなかった。

 

「はぁ・・・・・・ったく、脅かしやがって・・・」

 

 灰と結晶体の破片になって消滅していく猿ヤロウ・・・・・・だが・・・・・・

 

 キィィィィィィィィィィッ!!!!!

 

「ご、ごめんなさい・・・・・・私を庇って・・・っ!? り、リオンさん! アレを!?」

「なにッ!? チィッ! まだこんなにいやがったのか・・・っ」

 

 猿モンスターの叫びが呼び寄せたのか、先程倒しまくったアリ型のモンスターの群れが、また数を増して援軍に来やがった!

 右手が無事なら、さっきと同じ対応すりゃいいだけなんだが、今の状態でオリヴィアさんも守りながらだと流石にキツい! どうする・・・!?

 

 そう思って、冷や汗が垂れるのを自覚させられる―――その時だった。

 

 

「待たせたなッ! あとは俺たちに任せろッ!!」

 

 

 ・・・・・・如何にもな正義の王子様っぽいタイミングで、如何にも正義の王子様キャラっぽい連中が、如何にもな正義の王子様戦隊みたいなポーズまで決めながら助けに来てくれやがったのは、今更なこの状況に陥ってからのことだった。

 

 ケッ! ケッ! 美味しいとこだけ持って行きやがってヌケヌケと言いやがって。

 俺は、敵の出方探るため先に突入させられた当て馬ですか、カナリアですか、そうですか。ケーッ! ケーッッ! ケェェェェッだ!!!

 

「マリエ、怖くないか? 俺の側から離れるんじゃないぞ」

「はい、殿下・・・♪ 大丈夫ですっ」

 

 しかもダンジョン最深部で、他人のピンチ救いに来てまでラブロマンスしやがり始めるし!

 なんか、どこからともなく格好良い音楽聞こえてきそうな幻聴が鳴ってる気さえするし!

 なにコイツら、音楽の神様にでも愛されてる訳? それとも王子様特権で楽団引き連れたままダンジョン探索しにきやがってたの? ケー!ケー! 金持ちのボンボン、けーっ!!

 

 

「はっ! マリエより殿下の方が心配だぜ。王宮育ちは貧弱だからなぁ」

「おい、殿下に対して無礼だぞ」

「今は学生、対等な立場ですよ」

「フフ、この手の男に嫁ぐと苦労するぞ。マリエ」

 

 

 挙げ句、なんかお供の犬、猿、キジみたいな仲間パーティー達まで、なんか言ってきやがってるし!

 って言うか、多いんだよテメェらのパーティーはさ! こっちは妹入れても3人で先に到着してんだぞ! それを大人数でズラズラ連れ立ってきといて今更到着して偉そうとか、ほんとコイツら何様だよ!

 多いから遅ぇんだよ! 少しは減らしてシェイクアップしやがれってんだ!

 連れションしに来る所じゃねーんだよ、ダンジョンって場所はさぁ!!

 

 キィィィィッ!!!

 

「ああっ!? は、早く殿下に援護をっ!」

 

 そして、王子達の後ろから悪役令嬢パーティーまで到着してたのかよ!? コイツらはゴキブリホイホイかなにかか!

 

 そして!! 王子どもの登場によって、俺が半ば一人だけで倒し終えていたモンスターどもとの戦闘は!!

 

「落ち着いてください、アンジェリカさん。殿下は決して弱くないで――」

 

 

 

「《アイス・アロー・レイン》」

 

 

 シュパン!!

 ズバババババババババババッ!!!!!

 バシュン!バシュン!バシュンバシュン!バババシュン!!!

 

 

『『『あ――――』』』

 

 

 ・・・・・・基本的に魔術師系で、支援向きになるよう役割分担してダンジョン探索し続けてきた妹ってことになってるヤツの範囲攻撃魔法一発だけで全滅できちまって、王子達の出番必要なかったわ。

 

「いや、申し訳ないが王子殿。兄君くんがピンチそうな状況だったので、戦闘中に突っ立ったまま仲間内でのダベリに時間を取られても困るため片付けさせていただいた次第。

 無礼とは思ったのですが、同じ学生身分ってことで許してくださいませ♪ テヘペロ☆」

 

『『『・・・・・・・・・』』』

 

 まぁ、色々と台無しな終わり方になっちまったが・・・・・・とりあえずレイン。

 ――よくやった~♪ お前は本当に良くできた妹だぁ~~♡ グッジョーブ☆

 

 

 

 つくづくクズですね、マスター。byルクシオン

 

 

 

つづく


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