試作品集   作:ひきがやもとまち

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TS転生憑依ジェリドが主役の「機動戦士Zガンダム」二次創作です。
本来の彼は設定上もう少し詳しく書かなきゃいけないんですが、即席なのでアニメ版準拠です。流して下さい。
子供時代のシーンは作者の妄想です。自覚のないマザコンのカミーユに合判する形で自覚のあるマザコン設定を持ったTSジェリドを主人公にしてみた感じです。

・・・真面目に書いた文章出すの、超恥ずかしぃー・・・。


機動戦士ガブスレイ

 俺が自分の傲慢さが遠因で交通事故死したのは、十六歳の時だった。

 

 なんのことはない、高校入学時に始めた空手で少しだけいい結果を出せたから図に乗ってヘマをした。それだけの話だ。詳しく語るほどのものじゃない。

 

 だが、そうだな。もしも俺の人生について詳しく語ろうとするならば、それは『前世』の事ではなくて『今生』の話であるべきなんだろう。

 

 

 自分が死んだと自覚したとき不思議な現象が起きて、俺は虹の中にいた。

 訳が分からないまま流れに身を委ねていると景色が変わり、周囲には人で満ちた街中が視界に現れた。

 俺の身体はどうやら子供の物になっているらしく、視線はそれまでよりも大分下がり歩幅も短い。

 やや関節が柔らかすぎるのが気になったが、それでも俺が許容できる範囲にすぎなかった。

 

 

 

 だから、許容範囲を超えて問題視せざるを得なくなったのは身体の事についてではなくて、この直後に聞こえてきたラジオ放送の内容について。

 

 電柱らしき柱の上に設置されたラジオから聞こえてくる幾つかの単語に、問題なしとして聞き逃すわけにはいかないモノが複数含まれていたからだ。

 

 

 ーー『一年戦争』。

 ーー『ジオン公国』。

 ーー『ニュータイプ』。

 ーー『アムロ・レイ』。

 

 ーー『一年の長きに渡った戦争の終結』。

 

 

 ここまで聞いて判らずとも、日本人なら誰もが当たりぐらいは付けられる内容だっただろう。

 

 即ちーーこの世界はSFロボットアニメの金字塔『機動戦士ガンダム』の世界であること。

 今このときが、ガンダム作品の記念すべき一作目『ファーストガンダム』最終回を迎えた直後の時代であること。

 そして自分が、機動戦士ガンダムの世界である『宇宙世紀0079』の地球都市に立っていること。

 

 これらの事が瞬時に判明する程度には原作知識保持者である俺は、正直頭を抱え込みたくなった。

 

 ーーこれらの知識はガンダム世界で生きていくために最低限必要な物ではあるが、死後に望んだ世界へ転生させて貰える神様転生と言う奴のお約束『転生特典』と呼べるほどの物じゃあない。せいぜいが本来持ってる原作知識と呼べるかどうか判然としない代物でしかない。

 

 本当にこの程度の知識が第二の人生で役に立つのだろうか? 心の底から疑わしい限りだな。

 

 

 

「・・・ジェリ・・・ジェリ・・・ル・・・」

 

 

 ーーこれからどうするかで思い悩んでいた俺は、聞いたことはないが聞き覚えのある声に呼ばれて反射的に振り返って駆け出してしまう。

 

 なるほど。これが本来この身体の持ち主であったキャラクターの人格と、記憶というわけかい。

 自分が聞いたこともない声であろうとも、身体に馴染んでさえいれば勝手に反応してしまう。

 注意しないと思わぬところでヘマを仕出かしてしまいそうだ。気をつけるとしよう。

 

 ーーそうこうしている内に俺の魂と記憶が宿った肉体は人垣をすり抜ける様にして、一人の若く美しい女性の元へと小走りに近づいて行く。

 

 途中でまた俺の身体が勝手に「母さん!」と叫んで驚かされた。

 おそらくこの女性が今生における、俺の母親と言う設定なんだろう。美人ではあるが原作での見覚えはない。

 まぁ、俺がガンダムを観ていたのは子供の頃がメインで、空手を始めてからは空っきしだったからな。忘れているだけかもしれない。そのうち思い出すかもしれないし、放っておくか。

 

 

 ーー俺がそんな風に気楽に構えていられたのも、そこまでだった。

 俺が『母さん』と呼んだ女性が優しげな声で、俺の名を呼んだのだ。

 

 

 『ジェリル・メサ』と。

 

 

 ジェリル・メサ。ジェリル、メサ。ジェリ“ル”・メサ・・・だと!?

 

 驚愕の表情を浮かべる幼い我が子の俺を、母親である彼女がどう解釈したのか今はもう分からない。

 

 それでも彼女が俺を自分の“娘”として殊の外可愛がり、復興支援で大変な地球の市民生活でありながらも学費を捻出し、俺を地球連邦軍士官学校に入学させてくれたことには、どれほど感謝してもし過ぎるという事は決してないのだろう。

 

 

 だから俺が原作における敵組織『ティターンズ』への入隊を推薦されたとき、素直に受けた理由は母親への恩返し以外に理由はない。

 

 原作において俺の身体の本来の持ち主『ジェリド・メサ』は、いずれティターンズを自分の物にしたいと願っていたようだったが、平凡な日本の少年が転生した姿にすぎない俺には、過ぎた野心の持ち合わせなどあるはずもない。

 

 ただただ恩返し。それだけが目的で入った地球連邦政府直轄の軍事組織、エリート治安維持部隊ティターンズ。

 

 恩返しすべき母さんが亡くなってから、俺のティターンズに留まり続ける理由なんてとっか遠くに放り捨ててしまっており、どこのポケットを探っても見つかるはずがないのであった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 時は過ぎ、宇宙世紀0087。

 ティターンズの拠点『グリーン・ノア』の軍港にて。

 

「ん・・・お出ましか。意外と早かったな」

 

 港ブロックの壁面越しに中型宇宙ロケット『テンプテーション』を見いだした俺は、久方ぶりに再会できる友人の到来を心の底から楽しみにしていた。

 

「テンプテーション・・・確か現在の艦長はブライト・ノア少佐だったな?」

「はい、中尉。

 ティターンズのメンバーに抜擢されながらサインを拒否し、おまけにティターンズの方針に異を唱えて二階級降格された、今ではシャトル便の艦長をやらされている愚かで哀れな男ですよ」

 

 左遷された上官を口汚く罵ってみせる若手曹長の言に、俺は内心あきれ果ててしまいそうになる。

 

 いったい、これのどこが規律の取れた秩序ある組織の軍人と言う気なのだろうか?

 呆れてものも言えなくなった俺をどう解釈したものか、部下は自身の失敗に気づくことなく小首を傾げて不思議そうにこちらを見つめ続けていた。

 

「いや・・・」

 

 なんでもないと言って部下を無理矢理納得させると俺は、搭乗口から姿を現した友人に再会の握手を求めて右手を差しだし、もう一人の連れにも挨拶しておく。

 

 

 

 ーーこの後の展開は記しておく価値すら存在しないだろう。

 

 せいぜいが、どっかのヒステリーで喧嘩っ早いガキに殴り飛ばされて壁に激突し、そのガキも数に物を言わせた警備兵に取り押さえられて組み伏せられながら羽交い締めにされているだけの、平凡なZガンダムストーリーだ。この辺りの件は俺が語ってやったところで誰一人として聞いてみたいとは思わないだろう。

 

 

 ・・・だが、そうだな。

 もし仮に原作との相違点を探し求めているのであれば、俺が組み伏せられて身動きがとれずにいる原作主人公カミーユ・ビダンの前へと近づき、軽く足先で顎を持ち上げてやった所からでいいだろう。

 

 

 上から目線で見下す俺に、カミーユは反抗的な目つきと態度で猛然と噛みつくように、囚われの負け犬姿で吠えてみせる。

 

「言って良いことと悪いことがある! 俺は・・・!」

「カミーユ君なんだろう? それで?

 いったい俺は君に対して、何を言ってしまったんだ?」

「男に向かって『なんだ』はないだろ!」

「そうか、そういうことか。それは悪いことを言ってしまったな。失言だったよ。謝る」

「な・・・!?」

 

 カミーユが口をぱくぱく閉じたり開いたりと、百面相していて見ている分には面白いのだが、それはそれとして言っておかなければならない事があるので、無駄と知りつつも大人としては言っておく義務があるのだろう。やれやれだぜ。

 

「だがな、カミーユ君。なぜ君は怒りを感じたときに言葉で今の思いを伝えようとはせずに、拳を使ってぶつけてきたんだ?

 空手の拳は人を殴るための技ではない、己の弱さと戦うためにあるのだとは教わらなかったか?」

「そ、それは・・・でも!だからって!」

「言って良いことと悪いことがある。確かに君の言うとおりだと俺も思う。

 だがな。言って良いことと悪いことの前に、していい事としてはいけない事があるんだよ、それが社会のルールってもんだ。

 それが守れない奴に、良い悪いをどうこう言う資格はない」

「そんなの・・・大人の理屈じゃないか!」

「そうだな、大人の屁理屈だな。

 悔しいと思うなら早く大人になりたまえよ。少年のカミーユ・ビダン君」

「!!!!!!!」

「連れて行け! ただし一民間人としてだ!

 ティターンズの果たすべき役割は反乱分子の鎮圧であり、地球市民の生活安全庇護だという原則を忘れるなよ!」

「「はっ!」」

 

 悔しげな表情から一変して憎々しげに俺を睨みつけながら連行されていった原作『機動戦士Zガンダム』の主人公カミーユ・ビダンを見送ってから、俺は改めて他の重要人物たちとも言葉を交わす。

 

「到着直後に不快な物を見せしてしまって、すまなかったなエマ中尉。こちらの監督不行き届きだ。謝る」

「い、いえ、そんな。頭を上げてくださいジェリル中尉。

 それに、先の一件で悪いのがあの子の方だという事実は、この場にいる全員が共有する思いです。罪に問われる様なことではありませんし、罪の意識を感じる必要もありません。

 貴女は立派に連邦軍人としての職責を全うしただけなのですから・・・」

 

 ふむ、原作通りに規律第一の人だなエマ中尉は。

 普通に考えて、民間人の少年一人に複数人で袋叩きしようとした俺以外のティターンズ隊員たちは、罰せられて当然だと思うのだが。

 

「まったく・・・お前さんは相変わらず変わらんねぇ・・・。

 そこまで愚直に連邦軍人らしくせんでも良かろうに・・・お陰で到着早々、また取り繕う手間がかかっちまいそうだ。

 つくづく心配のしがいと、後始末してやる甲斐の有りすぎる友人だよ、お前さんは」

 

 歳の割に老け顔の友人、カクリコン・カクーラー中尉が後頭部をぼりぼり掻きながらボヤくように言ってくる・・・申し出はありがたいし良い友人だとも思うのだが、こいつ本当に24歳なんだろうな?

 正直、三十過ぎててもおかしくないと、個人的には思っていたりするのだが・・・。

 

「聞こえてるぞジェリル。聞いて欲しくない心の声は外に漏らすな。我慢できないなら、せめてもう少し小声で言え。後始末する甲斐が減ってしまうじゃないか」

「げぇっ!?」

 

 短い俺の悲鳴に、鈴を転がす様なエマ中尉の笑い声が重なる。

 先ほどの出来事が後にグリプス戦役と呼ばれることになる大乱の矮小すぎるプロローグであったことなど知る由もなく、彼女たちは笑い、俺は若干苦い思いを噛みしめていた。

 

 

 

 それは歴史を知りながら現在進行形で歴史を歩む、歴史を変える力を持たない無力な転生者だからこそ抱いてしまう負の感情。

 

 

 原作の流れで行くならば、このメンバーが和やかに笑い合えるのはこの場限りで終わる。選んで歩んだ道が違いすぎる俺たちは、必然的に性格趣味思考が大きく異なってくる。

 一緒にいられる時間は、余り多くはないだろうーー。

 

 

 

 この時の俺は本気でそう思っていたし、信じてもいた。

 だがしかし。それが原作知識を持って生まれ変わった転生者による傲慢だったと思い知るまで、そう長い時間を必要とはしなかった。

 

 

 後にアーガマ隊と並んでエゥーゴの中軸をなす『ロンギヌス』隊創設時におけるメンバーが出会った日。

 後世の歴史書にはそう記される遠い未来の記録など知る由もない俺は、ただただ近く訪れるであろう悲惨な未来を憂えて思い悩み、一人の友人と、もう一人の新たな友人に心配をかけさせたのだった・・・。

 

 

 

 

 

 俺は、刻の涙を見てしまうのか・・・?


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