連載作も含めて色々な作本を同時進行で少しずつ書き進めて言ってたら、最初に完成したのが今作だったので。
選んで書いたわけでは全くないですので、チョイスに不満がある方はどうかお許しを…
このフワッとした乙女ゲーム世界に生まれ変わってモブキャラとして生きていくことを決めていた俺にとって、主人公『オリヴィア』や他の攻略対象王子なんかの存在はバッドENDフラグみたいなものだった。
下手にお近づきになって本編シナリオに巻き込まれることにでもなったら目も当てられない。本当は深く関わり合いになりたくない相手の代名詞と言っていい存在だ。
そう思っていた・・・・・・はずだったのだが。
「そんな相手に、“そこの彼女、お茶していかない?(キラッ☆)”などと池袋辺りに屯ってそうなナンパ男風の声かけを出来るようになるとは、兄君くんも人が丸くなったものだねぇ、まったく。
ただ妹として敢えて忠告するが、兄君くん。『家族に限ってツンデレ属性はウザイだけ』というのは真理だからな?」
「言ってねぇよ!? そして俺はツンデレでもねぇし!!
いや言ったけども! 言葉だけなら言ったけども! 『キラッほし』なんてのまで付けてねぇし! って言うか、なんだよその()は!?
リアル会話で「カッコ、カッコ閉じる」なんて言ったヤツ初めて見たぞ!!」
《なるほど。マスターのような方を「男のツンデレ」と呼ぶのですか。先日マスターが私に求めていたのはコレだったと》
「だから言ってねぇーっ!!
ルクシオンもわざわざ通信端末使って言いに来なくていいわっ! ウゼェ!!」
つい虐められてるとこに出くわして部屋に招き入れて茶をごちそうしてやっただけで、妹と宇宙船ガードロボットから色々言われて、部屋の隅で小声でギャーギャー言い返す羽目になっちまった!!
クソッ! やっぱ関わるんじゃなかった! 変な仏心なんか出したのは大失敗だった!! 師匠直伝のお茶とお菓子を振る舞ってやったクソ女子共がムカつきすぎた直後だったせいで魔が差しちまった俺のバカバカバカッ!!
こうなったら、今からでも遅くはない・・・これ以上バカ妹とバカロボットに馬鹿にされるのを防ぐため丁重にお引き取り願―――
「・・・はぁ~ッ♡ 美味しいッ♪ こんなに美味しいお菓子初めてです! この紅茶も本当にいただいていいんですか!?」
「――あ、ああ・・・どうせ無駄になるところだったしな、うん。ハハ、ハ・・・・・・」
・・・・・・無理だな、うん。流石に俺も、コレを追い出すのは無理だわ。
たとえ遅れて登場してきた妹と、姿隠してる宇宙船ロボットから、無表情にニヤニヤ笑われてる気配を背後から感じさせられてても、作り笑い浮かべながらでも許すことしか出来ねぇー・・・。
なんだよ、この子。もの凄い良い子じゃないかよ。
誰だよ、こんな良い子の主人公を「あざとい」とか言ったバカ野郎は!!
しかも挙げ句の果てに――
「・・・・・・はぁ・・・」
と、一瞬前まで幸せそうな顔して紅茶を飲んでた女の子が、カップ離した途端に憂鬱そうな顔して溜息吐くのを見せられてしまうと、どうしても―――先に招いて出て行ったクソ女共のブス顔とワガママっぷりが想起されちまって比較せずにはいられない心地にさせられちまう・・・。
「いい暇潰し」だの「グズ」だの罵倒しまくって、「もっと良いお茶よこせ」と要求だけして礼も言わずに帰って行きやがった連中と比べたら、この子の場合は悩みを聞いてやるぐらいのアフターケアは許されていいんじゃないかと俺でさえ思えるほどに。
「ねぇ君。いつも・・・その、あんな感じなの?」
「・・・・・・私、なにをやっても上手くいかなくて・・・。平民の私が、この学校に来ても良かったんでしょうか・・・?」
「い、いいに決まってるじゃない!」
つい聞いてしまった質問に、予想外すぎる返事をもらって思わずキョドってしまい、一応は妹になってるヤツと顔はないけど多分ルクシオンからも、面白そうな顔して見物されてんだろうなとは思いつつ、何とか答えを返しておく俺。
いやだって、オリヴィアは主人公だし!
平民出身で見下されてる設定の主人公が上流階級に守ってもらえる原作シナリオ変わっちまってたら、原因たぶん俺たち兄妹の可能性高くなっちゃうし!!
だから来ていいんだよ! オリヴィアは学園に来て良かったんだ! ・・・多分!!
原作には存在しないサブキャラクターで、原作クリアするため手に入れるはずだった課金のルクシオンを先に入手しちまってた俺たちが魔法学園に来たせいで、オリヴィアが『学園に来てはいけない存在だった設定』に変わってしまった・・・なんてことは絶対にない! 多分だけど絶対に!!
「本当は魔法とかも、もっと勉強したいんです。
・・・けど、学園のルールとか、暗黙の了解とかに疎くて・・・・・・ううっ」
そんな俺の内心を読み取った上でのアザトサなのか、あるいは今までの苦労を一気に思い出して堪えきれなくなったのか、徐々に表情が暗くなってきて遂には涙ぐみはじめるオリヴィア。
ま、まぁ可能性は無限にあるとかないとか色々な話に出てきる昨今なわけだし、多少の情報提供ぐらいはしてあげても良きにしも非ずってヤツで。
「あ、ああえ~とその、泣かないで! そういう事なら、一人だけ頼れそうなのに心当たりあるから! 少しは力になれるかもしれないよ?」
「え!? 本当ですかッ!!」
「う・・・っ。い、いやでも確実とまでは保証しきれないヤツだから、あんま期待しないでくれると助かるんだけど・・・」
「それでも充分です! 嬉しいです! ありがとうございますリオンさんッ!!」
「お、おう・・・・・・」
超食い気味に感謝されてしまい、退くに退けなくなっちまった気がしなくもないけど・・・・・・ま、まぁこれぐらいはアイツらと比べたら多分おそらくきっと許されるべき許容範囲。そのはずだ・・・。
「こういう事柄に詳しい人間・・・・・・ああ、なるほど。たしかに彼女なら適任だな。さっそく私が呼びに行くとするから、兄君くんたちは中庭の噴水前にでも待っててくれたまえ。
女子寮に男子や、見ず知らずの一年が入るのは勇気がいるものだからな」
「悪いが頼む、レイン。・・・・・・ってゆーか本来なら、お前が一番頼りになれそうな立場にいるはずなんだけどな。同じ一年女子同士のはずじゃなかったのか?」
「残念だが兄君くん。女子の誰もが、クラスメイト女子に溶け込めるルールに詳しく、クラスメイトたちの一員になれてるからハブられてない、という事を示す訳ではないのだよ」
ほろ苦く笑っているように、あるいは全てを諦めて笑うしかないと悟ったみたいに、この世界における俺の妹として生まれ変わった女の子は肩をすくめる。
その姿を見て俺は、オリヴィア――さんと同じように、コイツはコイツで俺の知らないところで色々あったのかもしれない、女たちの世界には男のオレたちでは入り込めないし理解もできない生きづらさがあるのかも知れないな・・・・・・と“思わなかった”
「世の中には、同好の氏同士が同じ趣味を共有し合って、その人たちだけでコミュニティを形成してしまい、なんか近寄りがたくて距離おいて関わり合いになりたくないから、同じ教室にいても気にしない。――そういう女子たちも一部にいるにはいる。それが女子」
「間違いなくお前が感染原因だろ、その女子グループは絶対に」
ほら、やっぱりオチが付くだけだったじゃん。男には分からない女だけの独自ルールじゃなく、女にも分からない特殊な趣味の人たち用ローカルルールだっただけじゃん。
俺の妹になったヤツが、クラスでハブられてないけど特殊な人たちの一員扱いされてるのは正しい対応のような気がする。・・・それがスゴく嫌だわ、兄として巻き込まれそうでメッチャ嫌・・・。
しかも染めてんのかよ、自分の趣味に。
腐趣味かどうかまでは知らんけど、異世界の住人たちを現代日本のオタク文化に脳をやられてイケナイ人になりつつある奴の同類にされかけてきてるらしい現実に暗澹たる想いを心の一隅に押しやりながら。
俺たちは呼び出し場所でもある、待ち合わせ場所の噴水前まで移動をし始める。
久しぶりの再会となる相手であり、俺たちが学園に入学する1年前から今日まで過ごせてる奴でもあるんだし、まず間違いなくオリヴィアにとって役立つ情報を知っているはず。
そう確信しながら俺たちは噴水前で、その人物が到着するのを待つことになる。
「――で? そんなことを聞くために私を呼んだって訳? この愚弟と愚昧が。
ハッ。ずいぶんと、いい身分になったものねぇ」
横柄な態度と横柄な口調で、公園のベンチに足組みながらふんぞり返って座り込んで上から目線っつーか、チンピラみたいな目付きで見下してきてる、ポニーテールの髪型をした先輩の女子生徒。
“コレ”が、この世界に生まれ変わった俺たち転生者兄妹の実姉、『ジェナ』
今回の一件でレインに呼んできてもらった、『こういう問題では頼れる相手』である。
「まったく、なんだって私が学校に来てまで、出来損ないな愚弟と愚昧の尻拭いをしてやんなきゃならないんだか。
いー迷惑よ。高級菓子の一つか二つぐらい謝礼にもらわなきゃ、割が合わないぐらいだわ」
「なに言ってんだ。姉貴の方こそ、たまには役に立て。普段さんざん俺に金せびってんだろ。今回の件で少しはチャラにしてやるから、ほら早く」
「・・・・・・チッ。面倒くさい上にケチ臭いヤツね・・・。
少しは姉に対する日頃の感謝を込めて、家族内の貸し借りチャラぐらいしなさいよね、全く出来の悪い・・・」
ヒデー言われような上に、自分勝手極まりない屁理屈を並べてブツブツ言いだす、オリヴィアとは似ても似つかない、この乙女ゲー世界の女子らしい女子な愚姉ではあるが。
後妻であり一応は俺の母親ってことに法律上ではなっちまってるゾラの家にいた時には猫かぶって、しおらしげな態度で演技してたけど、それが却ってストレス溜まって親の目が届かない寮生活するようになったらこーなりました。
みたいなタイプの典型なヤツだけど、そのぶん猫かぶりと社交辞令で気にくわない奴らと上手くやってくことには定評があるし実績もある。こういう問題には確かにレイン以上に打って付けなのは姉貴だろう。弟として誠に持って遺憾ながらではあるけれども。
そんな険悪な態度で、普段通りに久しぶりの再会を喜び合う俺たち兄妹の肖像に、「まぁまぁ」と見るに見かねて仲裁ポジションに入ってくれるのは、いつも通り妹のレイン。
「久し振りに会ったのだし、そう喧嘩腰にならなくてもいいじゃないか兄君くん。姉君くんも。
――ところで折角会えたことだし、姉君くん。そろそろ私から貸りている借金の利息だけでも返してくれると有難いのだけどね? しょうじき担保の品を質に出そうか否か迷い始めているのだが」
「ちょっ!? あ、アンタまさか姉の私物を売りに出す気じゃないでしょうね!? あ、アレは私にとって大切なもので、アンタがどーしてもって言うから仕方なく担保として貸してやってるだけで・・・・・・ッ!?
血の繋がった実の姉の大事な宝物を、借金の形に売りに出すなんて人のやることじゃないわよ! この悪魔! 人でなしー! 人でなしシスターッ!!!」
「フフッ・・・なにを今更。タダで何かしてくれる女など、たとえ家族でもいるはずがないことぐらい分かっている年齢だろう? そんな存在は物語世界のヒロインしかありえないと知るがいい愚姉よッ!!」
「そんなの生後3ヶ月で知りたくなくても思い知ってるわよバカ―――――ッ!!??」
・・・・・・そしていつも通り、仲裁“ポジション”には入るけど仲裁はしてくれない、ジェナの妹でゾラの義理の娘でもある俺の妹のレインさん・・・。つくづく耳が痛い正論を言ってくる愚妹めぇ・・・。
っつーか、姉貴は姉貴で弟からだけじゃなく妹からも金借りて借金してたのかよ。そして妹の方も貸してたのかよ、利息ありで担保取った上で。家族相手にも容赦しないヤツだな相変わらず。
「まぁ、そういう訳で早く情報を出してくれたまえ姉君くんよ。そうしてくれれば支払いの納期は3ヶ月は猶予しようじゃないか」
「ぐ・・・さ、3ヶ月・・・・・・チィッ! 仕方ないわね、それで手を打ってあげるわよ。
あんた、オリヴィアって言ったっけ? クラスで一番偉い女子に挨拶はしたの?」
「え? あ、はい。その・・・いいえ。取り巻きの方がいっぱいで、近づけなくて・・・」
レインからの仲裁、またの名を脅迫とも言うを受けて我が愚姉もようやく素直に情報を提供してくれる気になったらしく、オリヴィアさんに向かって態度は横柄なままながらも詳しい手順と具体的な方法論を分かりやすくレクチャーしてくれた。
「そういう場合、取り巻きで重要なポジションの子に仲裁を頼むのよ。
ちゃんと相手の好みに合うような土産物を持っていって、挨拶する順番を早めてもらったり、個人的に挨拶できる場所に招待してもらったりとかの中継ぎ役をね」
なんか昭和ドラマの体育会系部活動みたいなルールがまかり通っていたらしい、この乙女ゲー世界の魔法学校だった。
そして、そういうのにオリヴィアさんが上手く適応できてなかった理由も、なんとなく分かった。
良く言えば遠慮深くて、横入りしないタイプの日本人的なオリヴィアさんは、相手が譲ってくれるのを待ってたら永遠に止まったままになる外国の信号みたいなノリの場所と相性が悪い。
逆に、うちのチンピラ姉貴なんかにとっては相性良すぎてビックリするほどの空間だろう。生まれ故郷じゃんってぐらいにイメージと合いまくってるし・・・・・・。
つーか、そのルールって普通に考えて。
「完全に賄賂じゃん。しかも仲介したヤツの懐に入って、一番の奴には一銭も入ってねぇタイプの」
「まさに、だね。もしくは中小チンピラグループの生き残り戦術でも可」
「それで上手く回ってんだからいーでしょうが!? 一番の取り巻きやるのも大変なのよ!
お金がかかるのよ一番じゃないから! 一番にすがらなきゃ生き残れない中間の辛さを知りなさいよ、この愚兄妹ッ!!!」
なんか、ものすっげー世知辛い学園女子たちの日常パートを、この短時間で存分に見せつけられた気がする慟哭の叫びだった。
俺が知らないだけで、意外に姉貴も色々と苦労してんのかもしれなかったんだなぁ~。これからは今よりか優しくしてやった方がいいかもしれないなと思わなくもなかった。
具体的には俺の方の借金取り立ては、レインに払い終わるまで待ってやるとしよう。追い詰めすぎて夜逃げされたりすると一銭も還ってこなくて困るだけだから。
「ふむ。それでその貢ぎ物――もとい、土産物ということで持って行く品物には、なにかしらの暗黙のルールやら、守るべき気遣いルールとかはあったりするのかね? 姉君くんよ」
「・・・・・・なんっかいちいち気に障る言い方するのよね、この愚妹は昔っから・・・・・・ハァ。まぁいいわ、今更だし。
土産物は特に規定はないみたいだけど、一応のルールとして人気店のお菓子とかにするのが定番ね。
物品だと完全に賄賂ってことになっちゃって学校側にバレた時にヤバいし、お菓子を同性同士の友達にプレゼントしただけなら誰からも文句言われる心配はあり得ないから」
もはや完全に、ではなく普通に賄賂だった。賄賂以外の何物でもなかった。
賄賂を選ぶ基準や、渡し方まで贈収賄の賄賂そのものとか、流石はクソみたいな乙女ゲー世界の舞台になってる魔法学校である。設定がなんか半端に現代風スリルショックサスペンス。
流石にコレは、平民出身設定のオリヴィアさんも引くかなーと思って横を見ると、
「に、人気店のお菓子ッ!?」
ガガーン!!と。
まるで古い少女漫画のヒロインみたいに、目が真っ白になって、顔の上から縦線が降りてきてるような、そんな雰囲気を醸し出しまくって絶望しきった表情で、その名を叫んだのだった。
「た、高いですよね・・・? お値段・・・」
手をワナワナ震わせながら、怯えるように姉貴へと確認を取る彼女。
オリヴィアさん・・・・・・そこまで金なかったんだ。俺も昔はそうだったけど、最近急に金持ちになっちまってた後だったから分からなかったわ。ゴメン・・・・・・。
「コイツらに払わせればいいわよ。少なくとも私は貸す気ないからね?」
「はぁっ!? なんで俺が払うことになってんだよ! いや、別に払いたくないわけじゃねぇけど、なんでお前が勝手に決めてんだよ! このバカ姉貴が!!」
「決まってんでしょうが! 私に払ってくれる当てが他にないからよ! そして私自身には払う金がない!! それが理由よ! なんか文句あるの!? あるなら言ってみなさい愚弟、聞いてあげるから。いくら聞いたところで払う袖はないけどね!!」
「こ、このバカ姉・・・・・・開き直りやがって・・・・・・ッ」
ついには色々と吹っ切れたらしい愚姉のジェナが、堂々と自分の自分の貧乏っぷりを宣言してゲームセット。ないものまでは流石に、どーしようも出来ねぇ・・・。
・・・しかも・・・
「ひゃ、百ディア・・・二百ディア・・・・・・三百ディ・・・あああァァァッ!!?
百ディア足りないぃぃぃ・・・・・・ッ」
・・・・・・なんか原作本来の主人公であるオリヴィアさんが、皿が足りない日本の幽霊みたいになりかけちまってるんで、もう色々と気にしてられる余裕のある状況じゃねぇ・・・。
「大丈夫・・・俺たちが代金もつよ・・・・・・」
「私も出すから分割ということで安心していいぞオリヴィアくん。無論、利息なしで担保もなしな、いつもニコニコ友情ローンでOKだ。この展開の後に身を投げられたら私たちのせいになりそうで嫌だし」
「あ、ありがとうございます・・・・・・か、必ずお返しいたします・・・」
手で口を覆って、涙ながらに『お菓子代』を立て替えてもらったお礼を言う、原作乙女ゲームの主人公。
なんかもう別ジャンルのゲームとしか見えなくなってきた俺がいる・・・。
難易度高すぎて課金でクリアしちまってたから気付かなかったけど・・・・・・ひょっとして、このゲームって課金しないで進めてた場合には、『貧乏主人公による極貧ストーリー』だったりしたんだろうか・・・?
だとしたら果たして今の状況は良かったのか悪かったのか、俺たちが課金アイテムのルクシオンを先に取っちまったことはオリヴィアさんを本来の貧乏主人公ルートに進ませちまうフラグになっちまってたりとかしたのかもしれな―――やめとこう。
考え出すと色々と怖いことに気付きそうだから、この腐った乙女ゲー世界はモブにも、課金なしで進めた場合の主人公にも厳しい世界なんだと言うことで納得しておこう。それがお互いのためというものだ。
「に、2ヶ月後にはお父さんからの仕送りが届きますので・・・・・・それさえ届けば、ローン分の支払いぐらいなら・・・・・・っ」
「いや、だからいいって!? 利息とかなしで、ある時払いの催促なしでいいから! 気にしなくていいから気にしないで! 主人公が変なフラグ立てないでお願い!
レイン! お前が余計な単語言っちまったせいでややこしくなってんじゃねぇか! どーすんだよコレ!? 収拾つける気あんのかテメェは毎回毎本当に!!」
「ハッハッハ。つくづく“面白きこともなき世を面白く”B~y高杉晋作とは、よく言ったものだね兄君くん」
「確信犯じゃねぇか! やっぱ妹は妹だからダメだったぁぁぁぁぁッ!!」
つくづく妹のせいで振り回されて始まってしまった、ゲーム本来の主人公との思わぬ出会いイベント!
くそぅっ! こうなった以上は早く切らねぇと! 主人公のオリヴィアさんとの縁を早く切って、原作ルートに俺も彼女も早く戻して、それぞれの道を歩まねぇと大変なことになる! そんな気がして仕方がない!!
生まれ変わった乙女ゲー世界ででも妹に振り回されて、乙女ゲーストーリーに関わり合ってく人生は嫌すぎるからな本当に――――ッ!!!
つづく