試作品集   作:ひきがやもとまち

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同じ原作のを2話続けて、というのに抵抗があったのと、連載作の最新話を出してからにしたかったのですが、今季アニメが大量に始まったばかりで執筆が遅れております。

お茶を濁す形になって申し訳ないですが、とりあえず既に完成してた「魔王様、リトライ!」のケンカ馬鹿エルフ版だけでも投稿しておくことにしました。


他称魔王様、自称凡人さん。リスタート第21章

 ――話はわずかに、時と場所を移動する。

 

 ケンカ馬鹿エルフのナベ次郎と仲間たちが向かっている先にそびえ立つ、聖光国の首都『神都』

 その都にエルフたち一行が到着する数日ほど前のこと、他国なら王城にあたる聖城の会議室に重要人物たちが一同に集められ、重要な議題についての話し合いが持たれていた。

 

 その日に語られていた議題とは、『三聖女の末っ子ルナ・エレガントが自分の領地であるラビの村の運営に自ら乗り出す決意を固めたことを宣言した』

 

 ・・・・・・という趣旨の内容を、教会から派遣されて村の管理を任されてた管理者が、神都まで持ち帰ってきた事の経緯と是非について、聖女様の裁断を仰ぐ。そういう議題の会議である。

 

 実際には、借金のカタってことにした極道エルフ幼女に土地ブン捕られて、自分は脅され命惜しさに神都まで逃げ帰ってきただけなのが実情ではあったんだけれども。

 だからこそ誤魔化すため熱弁振るって、情熱的に気合いがこもった報告書と、ルナの決意表明を捏造しなくちゃいけなくなるのが、どこの世界でも中間管理職の処世術というもの。

 

 結果として、今日のような議題が開催されるに至っちまう羽目になっていた。

 真実として知らされた情報が、大前提として間違ってる状態での対策会議だったけど、真実を知らされてない者にとっては虚偽こそが真実だからどーしようもなし。

 

 

 

「いやはや、あのルナ様が教会の管理下にあった自治領で、自ら手腕を振るうと仰られるとは」

 

 円卓に座っていた一人の男が、太った体を揺らしながら脂ぎった顔で粘着質そうに、そういった。

 聖女の近くに席を与えられた貴族長の地位にある彼の名は『ドナ・ドナ』といって、西部の鉱山地帯を領土とする貴族たちのリーダー格になっている。

 

 金と若い女に目がなく、領土内で採掘された魔石の値を徐々につり上げて国内経済を牛耳ろうと目論んでいる、典型的な『成金エロオヤジ』だった。一応は身分だけなら血統主義の大貴族でもあるんだけれども。

 

「ルナ様にも聖女としての自覚が出てこられたようで――」

「・・・めでたきこと」

 

 そのドナのお株を奪うように、正面の席に座っていた初老の男が短い声で相手の言葉を途中で遮り、残りを自らの言葉で補填して勝手に締めくくりとしてしまう。

 戦士長『マーシャル・アーツ』というのが彼の名だ。

 

 齢60を超えて白髪を後ろで一纏めにした眼光鋭い人物で、会議室でも鎧を着たまま参加している姿と合わさり、貴族というより歴戦の勇士と言ったイメージしやすい。

 国境近くの北部地方を領地に持つ『武断派』とされる貴族たちの信頼を一身に集める、ドナ・ドナとは対極に立つ、もう一人の貴族派閥リーダーが彼であった。

 

 

 ――聖光国はもともと聖女を頂に据えた宗教国家で、その下に聖堂教会と聖堂騎士団が政治と軍事の専門機関として対等の立場で両翼を固め合い、それぞれの専門分野から協力し合うことで外敵の脅威から国と民を守り抜く。そういうシステムで今までやってきた。

 

 だが近年では、新たに台頭してきた貴族勢力の政治介入が著しくなっており、金や名誉をチラつかせて聖女の輩出にも影響力を持つ騎士団の抱き込みを推し進めるまでに至っており、アーツなどにとっては忌々しい限りな状況に今日では陥ってしまっている。

 

 貴族そのものは昔から存在している者たちだったのだが、これまでは利権の衝突やら家同士の伝統的な確執などが原因となって一つの勢力に纏まることは滅多になく、中小の派閥に別れて権力闘争と離合集散を繰り返すのが一種のパターンと認識されていた。

 

 せいぜいが貴族への課税を新制度として導入を検討する、という事態にでもならない限りは、同じ貴族同士で一致団結して国家と教会に対抗してきた事例はほとんど無いのが聖光国貴族たちへの一般認識だったのである。

 

 それがドナの登場によって貴族たちが大同団結してしまい状況が一変させられ、その富力と国内経済の影響力拡大によって今日の状況へと至ってしまっていた。

 聖光国が長い停滞から抜け出せなくなっていた原因の一つが、ここにあった。

 実質的な経済と武力のトップ同士が対立し合って、国の頂点に立つ聖女を支えている状態なのである。一つの方針に基づく改革案や政策だのが実行できるはずもない。

 

 

 ――しかも皮肉なことに貴族派による騎士団への抱き込みには、アーツも一役買ってしまっていたりする。

 

 彼は、貧しい北方で助け合いによって国防を成している自分たちの成果を高く評価している人物で、そのせいで中央の騎士たちにも同じは無理でも近いことを要求している人物でもあったりしたのが、その理由だった。

 

 それが出来ずに生活のため金で節を曲げれば「軟弱な守銭奴」と見下して侮蔑するだけで、騎士たちが経済的な理由で節を曲げなくて済む制度の充実とか、経済面での保証をおこなおうとは全く考えない人物なのである。

 

 極論してしまえばアーツがやっているのは、『自分たちの手を綺麗なまま維持してるだけ』であって、問題解決には何の役にも立っていない己のことを棚に上げ、ただ自分と異なる立場の他人を心の中で見下して自己満足に浸っている。・・・・・・それだけだった。

 

 中央の腐敗に嫌気がさして血の気の多い武人肌の北方貴族たちから見れば、アーツを既に真の主君と内心で仰いでいる者も少なくなかったが・・・・・・客観的に見てアーツの王としての器は、自分の担当地域一帯だけを治める小国の王が限界だったのである。

 

 

「・・・・・・ですが、心配ですわ。

 亜人の少女に取り憑いているという異世界からきた魔王の魂に、あの子まで誑かされ、洗脳されているのではないかと・・・」

 

 

 吐息を漏らすように、円卓の上座に座った聖女姉妹最後の一人が、憂鬱そうな声と口調で言葉を紡ぎ出すのが、沈黙が降りた会議室に響き渡る。

 

 ピンク色の髪と、ピンク色の瞳と、唇までもが淡いピンク色で統一された、どっかの世界で平和の歌姫とかやってそうな色と雰囲気をまとった神々しいまでに美しい少女。

 それが、エンジェル・ホワイトという聖女姉妹の長女だった。

 

 平和の歌姫とは決定的に異なる部分として、大きな二つの膨らみだけは、偽物アイドル平和の歌姫に近いサイズを誇る、髪も瞳もバストサイズまでもが――エロゲの巨乳ほんわか聖女タイプで統一されてるピンク色のエロ聖女様が彼女である。

 

 いや、エロいかどうかまでは分からんのだけど、基本的にピンク色の巨乳聖女様はエロいのがエロ界のセオリーなのも事実な訳で――(卑猥な文章は削除されました)

 

 

 

 現在の聖光国にはホワイトを含め、三人の聖女がいるにはいる。

 ただ、その内訳が・・・・・・

 

 三女、ルナ・エレガント――魔法の才はあるが、政治にはまったく興味なし。

 次女、キラー・クイーン――戦闘に関しては理想的だが、政治にも金も興味なし。

 

 ・・・・・・国内政治トップ3人の内、2人までもが政治に興味なくて武力に偏りまくった能力と思考の持ち主たちに権力集中してるって、どんだけなんだこの国は・・・。

 

 唯一、政治もできる政治的トップの聖女ホワイトとしては、政治面での相談相手には全く役に立たない立つ気もない妹たち二人に意見を求めるだけ無駄で、ドナは自分たちが得することしか考えてないし、アーツはアーツで『自分流が通じる専門』の局地専用武人さん。

 

 こうなると政治面の問題は全部自分一人で考えるしかないのが、聖女姉妹の長女エンジェル・ホワイトだった。

 彼女自身にも問題はいくつもある人物だったけど、それでも彼女は周囲の状況については泣いていいとマジで思う。

 

「ご安心ください、聖女ホワイト様。

 そのルナ様にまとわりつく小娘が気掛かりなら、私の方で処断しましょうぞ」

 

 まだ言い足りなかったらしく、発言を邪魔したアーツを憎々しげに睨みつけていたドナも、彼女にだけは敬意というか配慮というか、もしくは『未来の妻への好感度アップ狙った選択肢選び』と言うべきなのか。

 とにもかくにも、鎧姿のむさ苦しいオッサン武人アーツを睨みつけたまま見つめ続けるよりは視線移したいし、発言にも配慮した意見言いたい相手だったため即座に方針を転換。

 

 ホワイトの苦悩を取り除いてやるための提案をしながら、右手を机の下に伸ばしてモゾモゾ動かし始める。

 それでいて粘着質な視線は、相手の顔より少し下の方にある巨大な丸みを帯びた二つの塊に集中したままの発言だった点から、脳内では下卑たエロい妄想に耽りながら言ってた提案だったことは男性諸君なら誰が見ても間違いあるまい。

 

 会議中で、しかも本人がいる前で、衆人環視の中でも自家発電して恥じる事なき大貴族。それがドナ・ドナという、ある意味では漢であった。・・・・・・ただのヘンタイ助平オヤジと言った方が正しいかもしれないけれども。

 あるいは、陵辱鬼畜エロゲーの主人公な子悪党タイプな男でも可。

 

 ・・・・・・一体コイツのどこら辺に、貴族っぽさがあるのかは理解しがたいけど、貴族のあしらい方だけは天性の才能を持ってるヤツではあるらしく、その統率力はなかなか侮れない。・・・らしい。

 

 少なくとも、アーツやホワイトたち比較的まともな聖光国の重鎮たちからは、内心で嫌われつつも排除するのは難しいと思われる程度には国内に一大勢力を築いた派閥のトップではあるのが彼ではあったのだ。

 

 

「・・・・・・仮にもルナ様が信用された娘。我々が口出しすべき事ではないと思うが?」

「フンっ、既に街中には人相書きまで出回っているというではないか!

 しかも噂では、辺境のビリッツォから報告があった一つの村の半分までもを焼き払った異世界より現れた新たな魔王と同一人物ではないかとも言われておる。

 これほどの被害をもたらした無礼者は即刻処刑して、聖光国と智天使さまの権威を民草共へと知らしめるべきなのだ!!」

「その件での報告は、私も耳にした―――」

 

 そこまで聞いて、アーツは瞼をゆっくり開きながら相手の顔を睨みつけ、

 

「・・・・・・だが、私の手元まで届いた情報では、村を焼かれたのは課せられた重税故の貧しさから暴挙に走った自分たちに非があったと深く反省しており、その人物も村の周囲一帯を崩壊させた代価として、実り豊かな大地を耕すマジックアイテムと、貴重な水を分け与える代理人とを残し、自らは付き人として志願した少女一人だけを連れて去っていったと聞く。

 この情報が正しければビリッツォの被害報告は確かに、控えめに過ぎると言うべきだが、さりとて魔王の魂に取り憑かれている亜人の娘自身が、なにかの被害を聖光国にもたらしたようにも聞こえん。むしろ救ってすらいる。

 貴様は噂だけを証拠として、貧しい村人たちを救ってくれた恩人と、魔王の魂に取り憑かれた哀れな亜人の娘とを同一人と決めつけて処断すべきと、そう言うのか?」

 

 アーツは敵意を隠そうともせずに反論と、その意見の根拠とを述べる。

 自分がもたらした情報が、ガセネタである可能性があると指摘されたドナは屈辱で顔を真っ赤に染めるが、向かい合う彼は平然とムッツリと黙り込むのみ。

 

 

 ――アーツは正直、国はともかく中央政府に対しては辟易しており、芸術やらによる経済効果は認めつつも軍事力による国防こそが重要であると考えている、典型的な軍事力万能主義者タイプな人物でもあった。

 

 自身も貴族でありながら「貴族など唾棄すべき存在」としか思わなくなり始めており、「国家の象徴たる聖女様のもとで内外の敵から国と民衆を守る軍隊さえいれば貴族など必要ないのではないか――?」と考えるまでに至っていた、ぶっちゃけサタニスト並の危険思想に取り憑かれつつある危険人物だったりする人なのである。

 

 異世界チキュウにあったダイニッポン大帝国とかにもいましたよね、こういう人って。

 『二・二六事件』とか『五・一五事件』とか起こしそうです。

 

 

「アーツ! 貴様は貴族のくせに、同じ貴族からの報告を疑うというのか!?」

 

 対するドナ・ドナの方はと言えば、性格は別として多くの勢力に別れていた貴族たちをまとめ上げ、聖光国西部を押さえ込んだ飽くなき強権と権力欲だけは高く評価されている。貴族派の輝かしい隆盛を一代で築き上げたことまでは否定できない事実である大人物だ。

 

 もっとも、その割には性格や思考法はガキっぽい部分が多すぎてもおり、どんな無法もワガママだろうと自分だったら通せるのだと心の底から信じていて、世間の常識などまったく通用してくれない人物でもあったのだが。

 

 ・・・・・・こんなのが一体どうやって、そんな偉業を成せたのか全く理由と経緯が想像できない。

 せいぜい『敵がザコ過ぎるバカばかりだったから勝てた』ぐらいしか物理的に不可能だと思われるのだが・・・・・・。

 

 とは言え、その手のツッコミは誰も言わない言われないのが、この手のバカ貴族にとってのお約束という名の王道というもの。

 

「報告は身分ではなく、信用に値する人間の言葉であるかを重視すべきだ。少なくとも私にとってビリッツォの言より、自らが信頼する部下の報告に信を置く」

「無礼な! 私はわざわざ現地まで使者を赴かせて、ビリッツォの報告が事実であることを確認しているのだぞ!? それを適当な調査しかしない、貴様の部下より信頼できぬと言うのか!」

「ほう、これは奇遇。私が報告を受けた使者も、現地まで赴かせて調べさせた上で語らせている。

 そも事の真偽を確かめるため現地へ調査に向かわせるのは当然のこと、別段なにかの証拠となるほど大したことでもあるまいよ」

「ぐぬぬ・・・・・・っ!! あ、アーツッ、貴様というヤツは・・・ッ」

 

 平然と反論されて睨み返され、2人の大貴族の意見と視線がぶつかり合う。

 双方の意見が対立し合って、片方はウソを言っていると互いが互いに同じことを思うような状況になってしまってたのには理由と事情が存在していた。

 互いに、ウソ偽りなく本当の事実を語っているだけだったから衝突しあっていた、という事情がである。

 

 ドナ・ドナは、より正確で都合の良い証拠を集めて、都合が悪ければ隠蔽させるため。

 アーツは、そんなドナたち貴族の調査をまったく信用していなかったため。

 

 双方共に理由と目的は違えども、現地まで調査に向かわせて得た情報を語っているのは事実だったという点が、それである。

 にも関わらず、なぜ互いが受けた報告が双方共に矛盾し合ったものになっているのか?

 

 ・・・・・・それは調査に向かった先の、『被害を受けた現地人たち』に問題があったからだった。問題がありすぎる奴らだったのが全ての原因だったからである。

 

 具体的にはこんな感じである↓

 

 

 

『いっらしゃいませ♡ 神都からの調査員様~~~ッ♡♡♡

 遠いところから、よくぞお越し下さいました♪ ささ、どうぞこちらへ。

 お疲れでしょう? お飲み物はなにになさいましょう? いえいえ、調査員様から代金をいただこうなんて滅相もない!

 わたくしどもから役人の皆様方に対する、日頃からの感謝を込めたサービスでございますので、どうかご遠慮なく♡』

 

 

『初めまして調査員様~♡ ワタシィ~、この村の新人村娘のオトヒメでっす♡♡

 今日は来てくれたお礼に同じ新人村娘のタイやラメちゃんと一緒に泡ダンスを披露しちゃいますから目一杯たのしんでって下さいませね、王様サァ~ン♡♡

 じゃなかった、調査員さま~ン♡♡』

 

 

 

 ・・・・・・一体どこの異世界にあるロッポンギ町とかカブキチョウ村なのかと職務質問して問いたくなるようなノリとテンションで、国のお偉いさんに余計なこと報告されたくなかった村人たちが、調査員として派遣されてくる者たち全員を、食わせて飲ませて抱かせて買収しまくって、知りたい調査内容だけ聞き出させて、その部分だけ正直に全部話してサッサとお帰り願ってしまった結果、聖光国の中枢たる聖城の会議室で今こんな議論する羽目になっちまっていたと。

 

 そういう裏事情が関係してたのだった。

 

 村人たちとしても別に嘘を言っているわけではなく、ドナから派遣された調査員には『被害を受けた当時の状況』を事細かに話して熱弁を振るい。

 役人には媚びて機嫌を取る、今まで通りの自分たちらしい日常行動を継続し。

 

 アーツから派遣された調査員に対しては、『それまでの領主貴族のヒドさと無能ぶり』について悪口言いまくり、そんな状況から救って下さったダイロクテン魔王様の慈悲深さと寛大さを熱く語って、そんな方の付き人様に惨い仕打ちをしてしまった自分たちの過去を涙ながらに懺悔する。

 ダイロクテン魔王様を崇拝して更なる恩恵を与えてもらいたい、今では日常行動になってしまった、有りの儘の自分たちを見せただけ。

 

 それだけである。それ以上のことは何もやっていない。

 相手から聞かれてもいない部分まで、自分からベラベラ語らないのは謙虚さの美徳であって、嘘とは言わない。

 

 ―――さすがは、幼い少女を虐めて生贄役まで押しつけて自分たちだけ守ろうとした、元アクちゃんの村の村人たちですね。思考法もやってる内容も完全に子悪党です。

 あるいは只の悪徳商人か、高級いかがわしいボッタクリ店の雇われ店長さん。

 

 こうなると買収されたドナから派遣された調査員は、ドナが求める情報についてだけ正しい証拠と一緒に持ち帰ってきて報告し。

 

 アーツから派遣された調査員は、貧しさから移住してきた若くて美しくて夜の酒場で働いてた娘さんに、『家が貧乏で借金があって弟と妹と病気の父親を養うために仕方なく・・・』とかの家庭事情という切迫した情報と、困った時に頼るための連絡先まで渡しちゃった戦果と一緒に帰って来るという、完全にその手のお店の手口に引っかかっちゃった一員と化しちまう訳で。

 

 ドナとアーツが同じ調査方法を取りながらも、まったく逆の報告を受け取る羽目になっちまってたのは、そういう裏事情があっての結果だった。

 

 

「またビリッツォの領内では最近になって、些か怪しい動きが見えるという報告が各所からもたらされるようになっている。

 あくまで現段階では噂の域を出ぬようではあるが、もし仮に彼奴が反乱など企てていた場合には、ドナよ。

 派閥の一員による軽挙妄動を制御できなかった貴様の責任も軽くはあるまい」

「そ、そんなデマは根も葉もない噂でしかない! なんの証拠もなく噂だけを理由に罪の如何を問うなど、貴様それでも武人かアーツ! 恥を知れッ」

「・・・・・・貴様に言われるとは、名誉の極みである言い分だな・・・」

「キ―――ッ!!!!」

 

 自分の発言を揚げ足取られる形で、言い負かされるのに利用された大貴族であるドナ・ドナは、『面白くない時に踊る地団駄ダンシング』を小さく披露。

 こんなのでもトップに立てる貴族たちしかいないのが、聖光国の貴族社会なわけだからなぁー・・・そりゃ多くいても纏め上げれるヤツは纏めれるんじゃないだろうか。

 

 しかもぶっちゃけ噂の域どころか、既に巷では『東の果てに楽園が建設されつつある』とか『争いも憎しみもない求める者には全てが与えられる幸せの国』とか。

 

 色んなゲーム内限定での話がゴッチャになったような噂がまことしやかに語られ出してて、聖堂騎士団だけでなく聖堂教会や金のない中小貴族からさえ、離反者と裏切り者が出始めてる現状にあったりするのが聖光国の真実だったんだけれども。

 

 ――そんなこと上の人たちに報告するのは恐ろしすぎるので、資料改竄したり言い方変えて誤魔化した報告あげてるから、報告書だけで判断して『自分が信頼できる部下からの報告“だけ”しか信じないスタンス』で会議室にこもったまま議論している上層部の方々からは、まったく状況が見えなくなってるまま事態は進行しまくっていた。

 

 まさに事件は会議室で起きるものではなく、現場で起きるものであり。

 『会議室で起きるのは事件じゃない、権力闘争だ!』・・・・・・とでも叫んでいい状況だったんだけれども。

 

 そんな事実は露知らず、アーツもドナも『蚊帳の外に置かれている自分たち』には全く気付くことができない状態に陥らされている中で事態は進み、会議は踊る。

 

 ・・・・・・・コレどう足掻いても纏まりようがない状況になってねーか?

 と、客観的に見たら言われそうな出口のない、そもそも前提状況が間違いまくっている不毛な会議が堂々巡りに陥り始めていた―――そう思われた時。

 

 

「あの子が珍しく自発的に言い出したことです・・・・・・。

 今しばらくは、様子を見ようと思います」

 

 

 ピンクの聖女様から、桃色吐息と一緒に流れ出た鶴の一言によって事態は決し、ドナもアーツも聖女様の仲裁を受け入れる形で矛を退いて頷き合って、

 

「聖女様が、そう仰られるのであれば・・・・・・」

「・・・・・・御意」

 

 と、ドナは露骨に不満そうながらも、アーツは内心はどうあれ表面だけは静かな態度で目を閉じながら、それぞれの態度と表現で今回の会議結果を受け入れ合う。

 

 ――とは言え。

 

 

「・・・ですが、ルナ様と同行している亜人の娘はともかく、辺境に現れたという異世界から来た魔王を名乗る者との関連性は確認しておいた方がよいかもしれませぬ。

 もし動くと決した時のため、用意だけはしておくことも当然の備えであります。

 ひとまずビリッツォを神都まで招喚し、事の事情を本人自身の口から聞いてみては如何でありましょう?

 さすれば先程の私が得た情報とドナが聞いたという話、どちらが真実かもハッキリして対応を決めやすくもなりましょう」

「フン! まだ言うか! ・・・・・・だが、その意見には賛成だ。このまま有耶無耶にされたのではワシの面子が立たんからな」

 

 その部分だけは別件として譲ることなく、武断派の貴族代表マーシャル・アーツも、貴族派のリーダー格であるドナ・ドナも、互いに自分の言い分こそが真実であるという前提で、現地の最高責任者である、今では忘れられてる者がほとんどだろう辺境貴族のビリッツォを神都まで呼び出して事の真偽を質すための査問会みたいなのが開かれる約束を交わし合っちまったと言うわけで。

 

 しかも、挙げ句の果てに事のオマケとして。

 

「無論のこと、どちらが語っていることが真実だったか、真相がハッキリした際には相応の対応は期待してよろしいのでしょうな?

 誇り高き北方の地を守る者たちから信頼篤い、武人のマーシャル・アーツ殿」

「・・・・・・いいだろう。私は自らの誤りを認めて正すこともできぬような、平和ボケした一部の貴族の名を貶める輩とは違うからな。

 無論、それは貴様も私と同じであろう? 誇り高き真の貴族ドナ・ドナよ」

「と、当然だとも」

 

 こんな約束まで、売り言葉に買い言葉で交わし合っちまって、この日の会議は終了となっていたりするのでありましたとさ・・・・・・。

 

 これにより、長い間忘れ去られてる中で、現在のピンチ状況を誤魔化し続けながら神都にウソ報告を送り続けていた始まりの貴族ビリッツォの、嘘と心労と変なカッパロボットに振り回され続ける苦悩に満ちた日々は、ようやく終わりが訪れることが出来た訳であるが・・・・・・

 

 それが誰にとっての幸福な終わりで、不幸の始まりであったのか?

 今の時点で知る者は、誰も居ない。

 

 

 ただ一つ確かなことは、コイツラだけは間違いなく幸福な連中だったという真実だけである。

 

 

 

 

『魔王様♪ 魔王様♪ 我らが敬愛する偉大なる指導者ダイロクテン魔王様ッ♪

 あなたが足を運んで下さった私たちの村は、聖光国一の幸せ村プ~♪♪』

 

 

 

「ぶえっくしょん! えぇーい、ちくしょうめい! ずず~~――フッ。

 また弱い奴らが私の噂をしているようですねぇ・・・・・・ハクション!」

「キャッ!? 魔王様、汚いですよ! ほら鼻水をかんで下さい」

「ああ、ありがとうございますアクさん。良い子ですね、将来いいお嫁さんになれますよ」

 

 

「ちょ、ちょっと魔王。わたしは?

 アクでも良いお嫁さんになれるんだったら、アクのお姉さんである私は、もっと良いお嫁さんになれるって事に――」

「ぐぅ~~ZZZ」

「コラー!? 人の話し中に寝るなー! って言うか寝たフリしてんじゃないわよーッ!!

 だいたい何よ!? “ぜっとぜっとぜっと”って一体なに!? なんのこと!?

 まさか呪文! 呪文なのね! またイヤらしい呪文を唱えて、私の可憐なお尻を触るための魔法を唱えてたんでしょ!?

 キャー!いやー! この痴漢! 私のエレガントお尻大好きエロ魔王―――ッ!!!」

 

 

「せ、聖女様おちついて下さい! 色々言ってる事がおかしくなってきてますからね!?

 フィラーン様からも何か言って、お止めしてあげて下さい!」

「あ~、私はお嫁さんとか別にいいわ。なれなくても問題なし。お嫁さん魅力値はMAXがいいけど、ジョブチェンジしたいとは思えない職業だものね。結婚は女の墓場。

 プリーストに墓場行きは、ノーサンキュー。除霊だけする方で、わたしゃ充分。ご奉仕とか客商売が苦手だからなるのが、冒険者とか魔王って職業なんよ」

「そ、そういうお話はしておりませーんっ!?」

 

 

 ・・・・・・コイツラだけは、ここがどこで、どうなってる状況なのか分からんままでも、信じてる現実が夢か現か分からなくなる時が来たとしても。

 多分なんかしらの理由と理屈づけで、幸福だってことにして、自分たちは幸せだからそれでいーやで生きていけそうな連中であった・・・・・・。

 

 こういう状況の中、神経と心臓にブッ太すぎる体毛が生えまくってそうなケンカ馬鹿お笑いエルフたち一行は、遂に神都へと到着した。

 

 ――到着“してしまった”と言うべきなのかは、今はまだ分からないと信じたい――。

 “今は”、“まだ”・・・・・・。

 

 

 まぁ、取りあえず。

 真面目なヤツほど割を食って苦労するのが、ケンカ馬鹿エルフ魔王が転移しちまった、この異世界での宿命デッス♪

 

 

 

つづく


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