試作品集   作:ひきがやもとまち

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今更ながら、連載作は多いのに、連載作の原作が少なすぎて、条件が限定されてる時には進めにくいこと多しな作者の作品群…。

とりあえず原作だけでも大体書ける作品の最新話だけでも書いてあったので、ストックからですがどーぞデス。


他称魔王様、自称凡人さん。リスタート第20章

 エルフキャラの身体になった異世界転移者ナベ次郎と、異世界普通の女の子アクさんと、異世界ヒップ聖女ルナさんの、新たな仲間である異世界聖女っぽい見た目だけしたダーク美人のフィラーンさんを加えた私たち、ナベ次郎パーティーの一行は再び神都を目指して馬車を進めながら、東へ東へと旅を続けておりました。

 

 天竺と違って有りがたいお経はもらえそうにないですが、そのぶん妖怪も邪魔しに来ないので楽な旅です。

 最高の西遊記だと、紅孩児とか神様たちにまで襲われてたのと比べりゃ気楽なもんですよ。アニメ版の話ですけれども。

 

 そんな風に極端な比較対象を例に挙げ、自分の方が上に決まってる出来レースして悦に入る自己満足で暇潰しながら、都会に近づいてきて人通りも多くなってきて町や村も見かけるようになってきた外の景色を眺めていたときのことです。

 

 

「――あれ? なんか、あの村だけ妙に寂れてません?」

 

 突然に森の中に立てられている村の姿みたいなを見つけて、私は思わず声を上げたのでした。

 と言うのも、大きな柵で全体を覆ってる村みたいな場所ではあるのですけど、人気が全く見当たらなくて、廃村のような異様な雰囲気を放っていたからです。

 規模だけは大きすぎる分だけ、人口との格差とボロっちさが際立ってます。都会に近いのに、完全に過疎ってるタイプの村ですな。

 

 まぁ、つまりコレは要するに。

 

「呪われてますな。魔王か、魔王の手下のダンジョンボスかなんかによって完全に」

「違うわよ!? 人の領地を勝手に呪わないでよバカー!!」

 

 と、キタキタ踊り発祥の村的な解釈をしたところハズレてたみたいです。

 ちぇっ、残念。いや良いのか?

 呪われてなかったんだからボス退治も依頼されない訳だし、良かったんだと思っときましょ。

 

「でも、ルナさん。呪われてないなら、あの村は何なんです? 随分と他の村々と違って活気がなさそうに見えるんですけど・・・」

「・・・・・・・・・私の村よ」

「はい?」

「だからっ! 私の領地なのよ!! あの村は!!」

 

 ルナさんの言葉を聞かされて、私は一瞬キョトンとなり。

 思わず新たな仲間の癒魔王フィラーンさんと顔を合わせてしまって、相手も同じこと思ってたのか同じような顔を見合わせる羽目になり―――納得し合って異口同音に正しい結論を口にしたのです。

 

 

『『・・・やっぱり呪われたせいで寂れたのか・・・・・・(ね・・・・・・)』』

 

 

「だから何でよ!? 私の領地だって言ってんでしょーが!?」

「あは・・・アハハハ・・・・・・」

 

 アクさんの誤魔化し笑いが空しく響き、肯定もしなけりゃ否定も帰ってこない馬車の中でルナさんだけがギャーギャー騒ぐ。

 これが聖女ルナ・エレガントさんという、人間としてや戦闘力はともかく領主としては不良債権の女の子を宛がわれる不運に見舞われた呪われた村、【ラビの村】と私たちが関わり合う最初になれそめだったのです。

 

「まっ、別にいいです細かいことは。面白そうだから、ちょっと暇潰しに寄っていきましょう。

 もしかしたらルナさんを脅迫するネタでも見つかるかもしれませんしね~♪」

「来るなーっ! そんな不純な動機で聖女の治める領地に土足で踏み入るんじゃないわよ!

 この魔王!魔王! 悪の魔王は滅んじゃえバカバカ~~ッッ!!」

 

 ポカスカポカスカ、腕力低いから効かない打撃攻撃連発されながら、私は笑い声を上げながらルナさんの治める領地である、《ラビの村》とやらいう場所へと入っていくのでありましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 実際に村の中へ足を踏み入れてみると、荒廃具合は予想を上回るものでした。

 家屋はボロっちく、農村っぽいのに野菜が少なく、萎れて見えるものも多い様子。

 

「随分と寂れてるみたいですが・・・・・・宜しかったので? こんな状況を放置して私なんかを倒しに来ちゃってたりしても。

 村興しでもして活性化しないと、過疎った末に統合されて地図上から消える日も遠くなさそう――って、ハッ!?

 ま、まさかルナさん・・・・・・聖女が魔王を倒すの当然だなんだは口実で、本当の目的は犯罪者たちから金を奪って領地経営に当てる略奪経済の統治を・・・っ!?」

「ち~が~う~!!って言ってんでしょうが! 何度言ったら分かるのよアンタは!?

 た、単に私は領地の経営なんて興味なかったし、それに教会から出向してきた人間が管理してるから、私が出る幕なんてないしッ」

「あれ? “人も地域も格差があって当然で努力によって変わる”が、ルナさんが信じてる智天使さんの教えじゃなかったでしたっけかね? この寂れてる現状がルナさんの努力した結果でしたので~?」

「ぐ、ぐぅ・・・・・・」

「それに、教会から管理者が出向されてきといて、この過疎った結果しか出せてないんじゃあ、問題ないって方が問題だと思うんですけどにゃ~?」

「ぐ、ぐぅぅううぅ・・・・・・ぐぬぬぅぅぅぅッッ」

「お、落ち着いて下さい聖女様ッ! 魔王様もッ! ちょっとその、程々に!」

 

 ノッブ並のイジメッ子口調でルナさんを弄って遊んで、アクさんからフォローされるのを聞きながら「ハッハッハ愉快愉快」と笑って「ぐぬぬ」呻きを響かせる。

 それはまぁ、それとして。

 こういう場合の一般例で考えるとするならば。

 

 

 

 ――ルナさんには、魔法の才能はあっても領地経営の才能がなく、政争に慣れた教会上層部の人たちに神輿として利用され、良いように担がれて美味しい権益や旨みのある土地からは遠ざけられている、都合のいい操り人形になってるからこうなっている。

 そう考えるのが一般的な状況と相手の組み合わせ。――ではあるんですけどなぁ~・・・。

 

 私は人差し指と中指をピッと立てて、二本共を揃えた状態で眉間に当てる瞬間移動ポーズを取った後、

 

(――どう思われますか? フィラーンさん。

 ルナさんは教会にとって、都合のいい操り人形という一般的パターンが当てはまりやすい人だとは思うのですが・・・)

 

 ネトゲRPGのキャラを一人だけリアル異世界に呼び出したからなんでしょうかね?

 パーティーモードのボイスチャットみたいな感じで、周囲には聞こえないよう、仲間登録してる人にだけ声が届くシステムの、《通信》というらしい形で思ったことを声に出さずに相手に伝える交信手段で新たな仲間の美女魔王さんに呼びかけたのでした。

 私がこの世界に来てから得た情報も、大体コレで彼女に伝えて練習しましたので失敗しません。

 

《同感ね。貴族とか教会上層部の性悪ジイさんやバアサンに言いくるめられて、上手く利用されて面倒な土地を宛がわれただけの、天才だけど世間知らずな最強少女とかの設定が一番似合う立場だと思うわね。

 ――もっとも、立場だけで考えたならの話だけど》

《やっぱ、そうなりますよねぇー・・・・・・やっぱり》

 

 彼女もやはり同じ感想を抱いてたらしく、私たちは同じ解釈に基づき、ルナさんが貧乏村を任せられてる理由に一般的パターンが当てはまらない可能性が高い理由について、声には出さずにパーティーボイスチャットで結論づけたのでした。

 

 

《――この性格の聖女様だからなぁ~。

 “バカにすんな無礼者!”とかブチ切れて、暴れ出す姿しか想像できない……》

 

 

 という結論をです。

 いや、ルナさんの場合だと美辞麗句でいくら煽ててあげても、与えられた領地がボロだったりすると、

 

 

『この私に、こんな寂れた土地を収めろだなんて、アンタ何様のつもり!? 私が誰だか分かっていないようねっ。

 私は三聖女の一人ルナ・エレガントよ! 聖女をバカにするバカは死んじゃえバカッ!!』

 

 

 とかの展開になって、「領主としての努力がないから領地が豊かにならないだけ」とか説明されても、

 

 

『うるさい! アンタがいるじゃない! 私は経営なんて興味ないからやんなくて良いの。

 それよりもっと良い領地を私に寄越しなさい! もっと贅沢な暮らしをさせなさい!

 聖女が良い領地で良い暮らしをするのは当然のことでしょう? オ~ッホッホ☆』

 

 

 とかの反応しか返ってこないのが、彼女にとっての日常スタイルな気がして仕方がない私たち魔王二人組・・・・・・。

 教会や貴族が利用しようと、どう理屈をつけて言いくるめようとしても、理屈が通じないときには一切全く通じなくなりそうな人ですからなぁ、ルナさんって。

 

 感情的になってるときの子供と爺さんと女の子には、その手の方法論が通じるとは思えない。

 そんなルナさんが、こんな土地を宛がわれて、あんま嬉しそうじゃないけど領主を辞めずに続けながらも、領地運営をやりたがってるようにも見えない。

 

 ・・・・・・理由がよく分からない状況と組み合わせなんですよねぇ~、この人と村とのコンビって・・・。

 いまいち釈然としないまま、村の中を進んでいく私たちパーティー。

 

《で、どうすんのマスター?

 こういう場合と場所での定番展開的には、“見捨てられた村を使って金儲けして領地経営! 誰でも平等の新国家建設して自分は異世界で王様に~”

 ・・・・・・とかやるのが一般的だと思うけど?》

《いやまぁ、正直そういうのもやりたいとは思ってますし、憧れてもいたのは事実です。事実なんですけれどもぉ~・・・》

 

 メタな発言してきたフィラーンさんの質問に、いまいちハッキリとは答えづらくなる私自身。

 正直言って、私だって現代日本のオタク人。

 そういう展開に憧れがないとは口が裂けても言えませんし言いませんし、好きか嫌いかで言えば大好きと言っていいほどで、異世界転生とかする時あったら絶対やってやる!とか妄想してた時期もあるにはある。

 ・・・こっちに来る数時間ほど前ぐらいにも一度ほど・・・。

 

 ――だが、しかし。しかしである。

 世の中には現実というものがあり、夢を叶えるには現実が壁となって立ちはだかるのも常ではあるわけで。

 要するに、端的に言って。

 

 

 ―――ただの高校生に、領地経営なんて出来る自信もスキルもないわボケェェェッ!!!

 

 

 ・・・っていう、当たり前の現実がね? だから無理! 絶対に無理だから!!

 現代知識でチートして王国建国とか燃える展開だけど!超面白いけど無理! 少なくとも私じゃ無理です! 無理無理ですッ!!

 テンサイも鉄砲生産もビール製造も、チートラノベで読んだ知識しかないですもの!! オリジナル知らないですからな!?

 ラノベよ!ラノベ! ラノベだけ!! これで王国建国できるんだったら苦労せんわい!

 

 だいたいソレ系主人公たちって言うのは、自称凡人ってだけで知識多すぎる場合がありすぎてるだけですよ!

 それらの知識得られる理由付け設定が、既に普通の人じゃないタイプが多すぎるんですよ! 実際の話として本当に!

 

 リムル様とか見てみなさいよ!

 『大手と呼ばれるゼネコンに入社できる大学を出て』『37歳でそれなりに出世して』『彼女がいない以外は不自由ない生活を送る』

 ・・・・・・そんな転生前の現代日本人時代だった人なんですぜ!?

 

 エリートじゃん! 間違いなく超エリートじゃん!

 どんだけ良い大学卒業してたんですかリムル様は! やっぱリムル様は流石でスゲェ!

 

 

(・・・一昔前には『三高』って言葉があった時代がありましてねぇー・・・女性が結婚相手に求める条件として、「三つのものが高くなくてはならない」という伝統的価値観です。

 曰く、「身長」「学歴」「収入」の三条件が高い男性を、理想の結婚相手としてスーパーエリートだと珍重され――)

(じゃあマスターが男だった場合は「フーテン」になりそうよね。

 「チビ」で「ヒモ」で「魔族軍なし魔王として失業中」――女性としては最悪の結婚相手ってことになる条件持ちだし)

(・・・・・・はい。そうっスね・・・・・・)

 

 心の中でツッコまれて項垂れるしかねぇぐらいには、うだつの上がらない現状の私・・・高いのはせいぜいバストサイズと腕力ステータスぐらいっス・・・あとレベル。

 だから領地経営とか無理っす。王国再建とかも不可能っス。

 家庭を営める甲斐性すらない状態の元男に、そういうの求めないで下さい! 胸が痛い! あと心も!

 男としてのプライドハートは、傷つきやすいガラスで出来てる子守歌~~!!

 

 ――と、言うわけで!!

 

「お、おぉ~っと! 第一村人発見です! アッチの方を見に行きましょうアッチの方を!

 ルナさんの領地として、現地の現場責任者さんにガイド&案内説明してもらえると助かるな~・・・・・・って、アレ? え? ―――うさ耳・・・・・・?」

 

 私の村を救って下さい系のお願いがくる前に先手を打とうと、敢えて話を逸らす対象を探して見つかったものに飛びつくことに成功した私でしたが・・・・・・なんか妙なものが相手の頭から生えてるのを見つけて思わずキョトン。

 

 それが私たちギャグ魔王一行と、亜人種『バニー族』の住む『ラビの村』とが関わり合う馴れ初めになろうとは想像すらしていませんでした・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな風にして、ケンカ好きで薄情な馬鹿エルフと仲間たちが来る少し前のこと。

 聖光国にあるラビの村の畑では、村人たちによって人参の収穫が行われている真っ最中・・・・・・ではあった。一応はだが。

 

「キョン、そっちの人参は?」

「ダメ・・・細いから売値が落ちちゃう。モモちゃんの方は?」

 

 畑から引っこ抜いた萎れた人参を見つめて、二人の村娘たちが揃って溜息を吐いて、“ウサミミ”を真ん中辺りでヘナッと曲げて鯖折り状態にしてしまっている。

 頭にウサミミを生やした姿の《バニー》というのが彼女たちの種族であり、亜人の一種である。

 

 この村は基本的に亜人を嫌う聖光国の中で、「智天使が愛でた種族だから」という理由で神都近くに亜人バニー族だけが住む土地として村を築くことを許された、ほとんど唯一と言っていい特例事項の場所だ。

 法的には特権的地位にあったものの、地質学的には荒れて収穫量の多くない土地柄であり、人参を作る農家が他にはほとんどいないバニーたちの独占市場となっているとはいえ、収入と支出は毎回ほぼ同額ぐらいが定着しており、近年のように雨が少なかったときには支出の方へと天秤は傾かざるを得ない。

 

 そうなってくると、種族特性として、人参の栽培や育成を補助するスキルを生まれ持ったバニーたちでも、お手上げに近い状況になってしまって溜息の一つや二つぐらい出ようというものだろう。

 

「こっちも良くない。水の魔石、また買いに行かないと・・・」

「最近、値上がりしてるよね・・・・・・土の魔石も」

 

 2人のバニー族の少女たちは、成長の悪い人参を手に取りながら揃って顔色を曇らせる。

 今までバニーにしか育てられない人参は、聖光国でも高く売れてきた。

 だが近年の降雨量減少で、水を生み出す水の魔石や、栄養素の乏しくなった大地を肥やす土の魔石などが栽培には必須となってきており、消耗品の魔石を補充し続ければ当然のように支出は上昇し続ける。

 

 収入がいくら良くても、そのための必要経費が高すぎるのでは意味がないのは、現在の異世界チキュウや異世界国家ニッポンと何ら変わることなき全異世界の共通事項。

 結果として彼女たちの暮らしは年々苦しくなる一方で、東にある獣人たちの国へと移り住むため村を出て行く者も多くなってきていた。

 

 フワフワ髪で天然っぽくて胸がデカい『キョン』と、無表情で黒髪ショートカットの秘書風な『モモ』は、生まれ育った村への愛着が強い地元の青年団とかに属しそうな娘さんたちとして、苦しくとも村に残り真面目に農作業を続けているのだが・・・・・・今のままではジリ貧なのも理解はしており、どーにかしたいがどーにもならない状況に溜息しか出ない日々を送っていたのである。

 

「で、でもルナ様が新しい領主になってくれてるんだから大丈夫だよね? きっと、何とかしてくれる・・・・・・よね?」

「・・・・・・うん。きっと大丈夫――だと思うけど・・・」

 

 キョンから縋るように言われて硬い表情で答えた後、相手の希望を完全粉砕するのは可愛そうだし、何とかしてくれたら嬉しいと思っているのは自分も同じだったので曖昧に言葉を補填して未来に可能性だけは残しておく比較的現実主義者のモモ。

 

 聖光国を治めている聖女姉妹の次女ルナ・エレガントは、その地位の高さにかかわらず進んで亜人であるバニー族の村の領主になりにきてくれた変わり者な人である。

 それまでは智天使さまに愛でられてたとは言え、差別種族の亜人であることから侮蔑的な目で見てくる者が多かったラビの村だが、聖女の村ということになってからは、あからさまに蔑視を向けてこれる勇者はほとんどいなくなって今日に至っている。

 

 人格的には信用できて、頼りになる人だとモモも思ってはいる。

 ・・・・・・ただ能力面の不足から、領主としてはホントに大丈夫か不安なだけで・・・・・・。

 

 何というかルナには、致命的なまでに“やる気”がなかった。

 正確には、「自分たちと仲良く“する気”」はあるんだけど、領地運営とか経営とか「領主として必要な努力」にはまったく“やる気”を見せずに、やろうともしない方針の持ち主なのである。

 

 何しろ、あの性格である。

 魔法とかの、『努力すれば成功できる才能に恵まれた分野だったら』労力を惜しまない人なんだけど、才能のない分野には全く手をつけたがらず、頑張って努力したのに上手くいかず笑われる危険性が高い分野なんかは絶対やりたがらないタイプの少女だろうし、初っぱなから上手くいかずに陰口たたかれまくる分野も今となっては嫌うタイプだろう。

 

 そういう理由から、いまいち『領主ルナ・エレガント』としては信じ切れない相手が、聖女姉妹の次女であるルナであり、実際に領主となってからも村の運営は主に教会から派遣されてきた代行に任せっきりで、自分の村に居続けるということもほとんどない。

 

 そんな故郷の村に見切りをつけて、新天地を目指して旅立っていったバニーたちは数知れず、最盛期には2000人を数えた人口も今では300人あまりにまで激減している。

 

 

 そんな決定的な村の破綻を感じながら、絶望的な思いを抱きながら農作業をしている最中にやって来たのが――破綻の方から、ぶぶ漬け出して帰れと言いたくなるギャグ魔王一行だったというのが現在の状況だった。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。水がなくて、買うと高すぎるから作物が作れず困っていると。――お約束ですね」

「あの・・・・・・なにが“お約束”なんです――ピョン?」

「いえ、こっちの話ですのでお気になさらず」

 

 パタパタ手を振って、初対面の相手の質問追求も回避。こっちの話は、話を逸らせる魔法の言葉。

 紆余曲折経て、なんか色々やりあってから私たち魔王パーティーの一行は、バックスバニーもとい、バニー族の娘さん二人から村の窮状と理由を聞かせてもらっておりました。

 

(しかし・・・・・・それにしても・・・)

 

 話を聞きながら私は、村の現状について教えてくれてる無表情ショートカットの美人さんと、フワフワヘアーの巨乳っぽい娘さんとを同性の特権行使して、しげしげと見つめ続けながらつくづく思わざるを得ない感慨を抱かずにはいられませんでした・・・・・・。

 

 

 ・・・・・・ほんっとにウサ耳生えてるだけで、ウサ尻尾も肉球ハンドとレッグも付いてない、服まで普通な、普通の人間とまったく変わらん設定の亜人なんですね・・・彼女たちって。

 

 昔のギャルゲーに出てたウサミミ種族の亜人ヒロインみたいに、ウサ尻尾が見えるようパンツ部分だけガバッと開いた種族専用衣装とか期待してたんですけど・・・・・・ガッカリです。

 

 どーせウサミミ美少女種族なら、《フォーウッド》とか《月のウサギ族》とかが個人的には好みだったんですが・・・・・・まぁ《兎人族》とかよりはマシか。

 手で触られたらニンジンに変えられても困りそうですし。

 

 それに一応はエロ衣装じゃないだけで、美少女種族なのは変わりない事実。

 古人曰く、『美女・美少女が困ってるの見て助けぬのは勇者なき成り』という感じの諺もあるとかないとか言いますし、やはり美少女が困ってたら助けるべきでしょう。美少女ですから。

 身体は女、中身だけ男になろうとも、男だったら異性は見た目で格差待遇するのは仕方なし。綺麗事どんなに言っても、それが男の真実ナンバリング無し。

 

(とは言え、簡単に“助ける”って言っても難しいんですよね、こういうのって・・・・・・。

 いっそ知識チートで領地経営して理想国家設立系だったなら楽だったんでしょうけれども・・・)

 

 具体的な助け方を考える段まで思考を進めると、私にもさすがに難しさが分かってはきてしまうもの。

 なんと言っても私たちは、彼女たちとずっと一緒には居続けられない旅人の身の上。今助けたことが後に彼女たちを苦しめることになったとしても、即座に戻ってこれる立場ではありません。

 

 ただ、可哀想だからで今この時だけ考えて救ってあげるのは、ただの自己満足で本当の意味での救済とはとても呼べない。中途半端な優しさで、中途半端な救済しかあげられない立場だったら最初から何もしない方が彼女たちのために成るのではないでしょうか・・・? ですが・・・・・・。

 

 

「あ~、マスター。

 言い忘れてたけど、『救うなんて偉そうなことは言えない。俺に出来ることなんて小さなことだけ。だけど全部を救えないから何もしないなんてのは違うだろう~』とかの理屈言ってから結局は救う展開とかの前振りは言わなくても大丈夫だからね?

 ほんとは助けたいんだけど、世間一般の『正義の味方による救済なんて無いブーム』に乗っかって自分でも『正義のヒーローなんてものは分かりやすい悪者やっつけるだけで貧困や飢餓から人を救ってくれない、人間の人間による不幸は正義の味方じゃどうしようもないんだ~』とか、色々と語っちゃってた過去あるから今さら恥ずかしくて素直に救うことできなくなって。

 よ~し、『矛盾と承知で葛藤してから正義の救済する展開で誤魔化そう!!』・・・・・・とかな感じの男の子のプライド的事情に、私は理解ある女だから大丈夫よマスター♪

 そういう、正義の味方を名乗らないで助けるのがカッコいいって思っちゃう、男の子のプライドと見栄っぱりな心理に理解を示せてこそイイ女。

 それが出来る私、超イイ女の魅力値MAX!!」

「・・・・・・お気遣い、ありがとうございますフィラーンさん。詳しく解説せずに実行してくれたらホントに超イイ女だったと思うんですけどね本当に・・・・・・」

 

 いや本当に。――黙って流してくれてた場合には、いい人だったと思うんですけどね彼女って本当に!!

 全部暴露されちまった後に、実際その救済やる私の身にもなれぃ! 針のムシロどころの気分じゃねーんですけれども!

 ええぇいクソ! やはり所詮は魔王でしたか! この暗黒神教団の女教皇っぽい人め!

 暗黒神ファラリスはなんかビミョーに好きだから苦手だぞコノヤロー! ロードス島戦記ぃぃぃッ!!

 

「――コホン。・・・・・・まぁ、とりあえず水の魔石が不足してるってことでしたし、とりあえずそれを置いてくとしましょう。

 急場凌ぎぐらいには成るはずですし、本格的なのはその後と言うことで」

 

 とお茶を濁して、環境だけ改善して統治は他の人に任せる方針でテキトーなアイテムを探し始める私、ネタアバターのナベ次郎。

 魔石って色んなゲームに登場して、人々の生活潤すのに使われているポピュラー設定のファンタジーアイテムですからねぇ~。当然《ゴッターニ・サーガ》にだって魔石の一つや二つはあって当然。

 

 まぁ、正確には世界観の違いもありますので、この世界の《水の魔石》とは多少違ってはいるのですが・・・・・・とりあえず水出りゃいいみたいですしね。それぐらいだったら問題ないはずです。

 え~と、たしか昔買った魔石がアイテムボックスの中に放置したままだったような――違う物に入れ替えてたような・・・・・・ゴソゴソゴソ。

 

 

 

 

 そんな感じで、ゲーム事情を知らない周囲の人たちから見れば、怪しげな行動している私と、少し離れて変な人を見る目になり始めてる第一第二村人のキョンさんとモモさんの視線が痛い中、アイテムを探している最中。

 ・・・・・・私は背後から近づきつつある厄介事の存在に、このとき気づくことが出来なくなっていたことだけは痛恨事として、ラビの村の消せない記憶として長く黒歴史であり続ける羽目になるのでありましたとさ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――さてこの頃。

 実は聖女ルナ・エレガントの領地帰還によって最も困ったことになっていたのは、教会から派遣されていた領主代行ではなく、教会自身だったことを多くの者は知らなかったりする。

 

「なんだって!? ルナ様が村に帰ってこられているのか!? そんな予定は神都からは届いていなかったはずだが――」

「は、はい・・・。どうやら独断で神都を離れられ、その帰りに立ち寄られただけのようでして・・・・・・『私の領地に帰ってくるのに連絡なんてする必要ない!』と仰られまして・・・」

 

 ――ええい! こんな時だけ都合よく領主の権限振りかざしおって、あのフーテン家出娘めが!!

 ・・・・・・とまで思ったかどうかまでは定かでないものの、ひとまず彼は慌てて身支度を調えると領主代行として領主を出迎えるため家を飛び出し、形式的には上司のもとへと歩を急ぐ。

 

 ルナに領主として何もせぬまま今まで通り、問題を放置して外へ遊びに行き続けてもらうための理屈を考え続けながら・・・・・・。

 

 

 ラビの村に領主代行として教会から派遣されてきていた中年男性の彼は、必ずしも劣悪な人間性の持ち主ではなかったし、個人的感情はともかくとして信仰対象である天使が愛でた種族であるバニー族を蔑視の目で見るような人物でもなかったが、バニーたちから村の窮状を訴えられたときに助けてやるため何かしようともしなかった。

 

 当たり前だ。

 何もせず、何もさせないという任務こそ、彼が領主代行として教会から与えられていた使命なのだから。

 

 

 ――現在、聖光国の政治は微妙なアンバランスの上に成り立っていた。

 聖女を担ぐ聖堂教会、最前線で国防を担う軍部、国内最大勢力の貴族連合たち。

 この3者が3竦みの状態で、国内改革の主導権を奪い合うため静かに熾烈なマスゲームを続けていたのが、近年の聖光国上層部の実情だったからである。

 

 これは近年になって台頭してきた、『ドナ・ドナ』という大貴族が貴族たちをまとめ上げ財力と政治力にものを言わせて政治介入を強めだしたことに反発して、歴戦の武人『マーシャル・アーツ』率いる武断派と呼ばれる武官貴族たちが腐敗した中央政治を嫌って北部地方の城塞を拠点に軍閥化してしまったことに端を発している問題だった。

 

 その状況の中で、聖堂教会は後手後手に回らざるを得なくなってしまっていた。

 もともとは貴族も軍部も、教会の下部組織として運営されてきた者たちが力を強めて離反しつつある状況なのだから、宗教国家の上層部が力を激減しないはずもなかったのである。

 

 教会側としては、この状況下でドナ・ドナたち貴族連合と本格的に敵対するのは何としても避けたかった。

 彼らは現在、自分たちの領地内で産出される魔石の値段を徐々に引き上げることで、実質的に聖光国の経済を完全に牛耳ろうと目論んでいた。

 その煽りがラビの村まで及んでいたのである。

 

(今ここで、智天使様が愛でられた種族とはいえ、亜人たちの生活を守るために教会がドナたちと事を構えるのは余りにも拙い。

 ここは無難に、知らぬ存ぜぬで押し通し、今まで通り一切全く問題なしとルナ様を言いくるめて納得して頂くことが最善の策・・・!)

 

 そう確信しながら、聖堂教会こそが聖光国の中核として国を改革して、古き良き正しき信仰に基づく原点へと立ち返るべきであると固く信じる復古的な伝統絶対主義者な彼は、聖女の後ろ姿を見つけて歩み寄りながら複数の言葉で説得するための弁舌を幾パターンも用意しながら声かけまで至っていたのだが。

 

 

「これはルナ様。ようこそ、おいで下さいました。そちらのお方々はお友達でいらっしゃいま・・・・・・って、あぇっ!?

 そ、そそそそ、その少女は人相書きにあったマオ―――」

 

 

 

「その名前で呼ぶんじゃねぇですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 ドゴォォォォォォォォォッン!!!!と。

 久々に炸裂する、魔王エルフの恥ずかしい過去を意図せずカミングアウト指摘してきた相手に、ついカッとなって跳び蹴り放つチート転移者によるチート飛び膝蹴りが発動してしまった!!

 

 哀れ、領主代行として派遣されてきてた中年のオッサンは、しゃべる石像さんに続いて二番目の『ついカッとなって殺ってしまった殺人事件』による被害者第二号に成り果ててしまったのか!? 死体さえ吹っ飛ばされたりしてないだろうか!?

 

 

「うぎゃひはぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」

 

「ああッ!? しまった! しまいましたァッ!? ちょ、そこの名も知らぬ男の人! 大丈夫ですかぁぁぁっ!?

 傷は浅いですしっかりして下さい! 寝るなッ! 寝たら死にますからね――ッ!?」

 

 

 どっこい、なんとかギリギリ運良く回避できて、跳び蹴りで飛んできた下の方で半べそかきながら見上げる姿勢で生き延びることに成功してたみたいですね!

 

 位置的に、そして技の体制的に、ケンカ馬鹿エルフのパンチラが、ほぼ確実に見えちゃってただろう場所で腰抜かして座り込んでたとはいえ、幼女のパンツに興味はなし!

 聖職者が興味あったら大問題だし、それどころじゃねぇし死ぬ寸前だったし、ついカッとなってで殺されかけてたしィッ!!

 

 本気でパンツどころじゃなく、マジで泣き出す5秒前ぐらいの恐怖を味あわされまくったファーストンプレッションを強制体験させられた後。

 

「いやあの、これはその、えーと、え~~とぉ・・・・・・」

 

 と、しどろもどろになりながら後ろめたそうな口調と表情と態度で、どーにか相手に誤解だったことを分かってもらおうと説明する言葉を考え、思考を巡らす馬鹿エルフ。

 

 殺す気はなかったんだと、事故だったんだと、そんなつもりはなかったのに背後から突然声をかけられ仕方なく、ついカッとなって致死量超えるオーバーKILLキックを必殺技スキルで使用しちゃって、普通の人が当たってたら身体コナゴナになってただけなんだよ本当だ世信じてって、この言い訳ダメじゃね!?

 ――と、いつもの様にいつもの如くテンパりまくって混乱しまくりながら対応考え。

 

 黒歴史と逆境に弱すぎる魔王エルフが考え出した、この場における唯一の冴えた問題解決方法はと言えば。

 

 

「え~~~~・・・・・・ゴホンゴホンゴホホホン!! ――失礼。誤報です。

 私は名乗るほどの者ではなく、何の変哲もない普通の旅人のエ・・・えっと、え~っと・・・・・・エ、エっちゃんとアっちゃんとフィーさんと申します。以後お見知りおきを」

「ええぇぇぇッ!? 魔王様、誤魔化されるんですか今のアレを!?」

「いや、今の誤魔化したの!? 誤魔化してたのアレって!? 私にはそうは見えなかったんだけど・・・・・・っていうか誤報って何!? なんの誤報!?」

「は~い♪ 私が魅力値MAX女僧侶のフィーさんで~す♡ 年齢17歳、バスト・ウェスト・ヒップは魅力値MAX乙女の、ひ・み・つ♡」

「アンタさり気にノリ良すぎない!? あとちょっとだけウザいんだけど本当に!?」

 

 混乱混乱、大混乱。

 ナベ次郎による強引に話進めて誤魔化すコミュニケーション術について行けなかった仲間たちによって混乱はさらに拡大して、余計なこと言った魔王に質問と説明を求める声が殺到して当然の状況になってしまったのだけれども―――知らね。

 

 基本的に、『魔力』と『INT』が低すぎて、『すばやさ』と『STR』ばっかりバカ高い。

 典型的すぎる前のめりパーティー編成で、力づくのゴリ押し一択しか攻撃パターン持ててねぇタイプの汎用型が尊ばれる現代社会の潮流に合わないことこの上ないアホには、この解決方法しか採れません。これで解決できるかどうかは知らんけれども。

 

「あなたが教会から派遣されてきてる方ですね? わたくし、この村の管理権を譲渡していただけるとルナさんから契約してもらっている者でして」

「じょ、譲渡・・・? 契約って・・・る、ルナ様が・・・です、か・・・・・・?」

「ええ。うちの店でお金を借りまして。ざっと――え~っと、大金貨50枚ほどを保釈金として」

「だ、大金貨50枚!? そ、そそそんな大金を!?」

「ええ。最初は5枚ぽっちだったんですが、利子が膨らみましてねぇ・・・。

 本来なら今すぐ全額耳をそろえて支払っていただきたいんですが、この村を見る限り無理そうでしたのでね。仕方ないので差し押さえさせて頂くことになったんですわ。

 ですのでお兄さん方も早々に出て行ってくれると、コッチも面倒がなくて助かるんですがねぇ?(にやり)」

 

 そして段々とノってきて調子にも乗ってきた、やり過ぎるパターン。

 人は学ばない生き物だが、人がエルフになった生き物はもっと短時間で同じこと学ばない。

 

「し、しかしそんなこといきなり言われても、上の者に相談しませんと・・・・・・」

「ほう? 上ですかい、そりゃあイイ。こちとら貸した金さえ返してくれれば誰でもいいもんでしてねぇ。

 アンタの上ってのが村の代わりに大金貨50枚を立て替えてくれるってんでしたら、私らとしちゃあ大助かりですわ。

 さっそく立て替えの契約書を用意しますんで、そちらさんもサインと身分証明と担保をお願いしますよ兄ちゃん」

「えぇ!? い、いえあの、そんなこと私は一言も・・・・・・こ、この村はルナ様のものですので、ルナ様がお借りしたお金の返済は、ルナ様の財産から支払われるのが筋ではないかと私などは思う次第でして・・・・・・」

 

 ケンカ馬鹿エルフ、完全にヤクザ屋さんになるの段。

 こいつ意外と古い時代劇とか好きで、『木枯らし紋次郎』とかカッコいいとか思ってるタイプの厨二病だった時代もある、黒歴史多きバカエルフ。

 

 ただしマネする対象が格好良くても、マネする本人が小物だとなんかイメージ変わります。ぶっちゃけ小物の借金取り立て業者にしか見えん。

 如何にもなジャパニーズ・ヤクザが異世界にいた。

 

「へぇ~? そうですかい。ですがコッチもガキの使いで来てるわけじゃあねぇもんでしてねぇ。口約束だけして、後でやっぱ無しってのは勘弁願いてぇわけなんですわ。

 ――アンタの思ってることを、言葉じゃなく形で示してもらえませんかねぇ?

 もしアンタが三下の下っ端でなんも決める権限持ってねぇっつーんでしたら、それ持ってるヤツの居場所を教えて下さいや。

 そうすりゃあ指詰めして、上のヤツに送る指をどれにするかぐらい選ばせてやりますぜ、アンちゃん・・・・・・(バキボキゴキ)」

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃッ!? まま、待って下さい待って下さい! わわ、私の権限でも書類の誤魔化しぐらいはできます!

 この村を元々の領主であるルナ様が直接治めるため戻ってこられたので、私はお役御免になっただけだと上には報告しておきますので、どうかご勘弁をーっ!? 腕押さえないで! 指前に出させないで!? 切れる! 折れる!!

 私には妻と子供が待ってる家の借金が30年分残ってるんで御座いますぅぅぅぅぅッ!?」

 

 という流れによって、合法的に有耶無耶にさせることが出来そうだったので、馬鹿エルフは心の中だけで満足していた。

 幻想だけども。実際には全く解決できてないんだけれども。むしろ自分の悪名がさらに増しまくっただけなのは確実すぎるんだけれども。

 

 それでもケンカ馬鹿エルフは気づかない。バカだから気づけない。

 バカは風邪を引かない生き物ではなく、風邪を知らないから引いたことに気づかないので、バカは風邪引いたことにならない生き物なのが真性のバカである。

 

「ほ~ほ~、そうですかい。そりゃあ良かった。

 ――だったら早よ書類かいてコッチ渡さんかいクソボケぇぇぇぇッ!? 舐めとんのかアァン!?

 スジもん舐めたらどーなるか、ドートン川に浮かべて考えさせられてぇかァァァァァッ!! アァァァァッン!!??」

「ひぎぃぃぃぃぃぃッ!? 書きます!書きます!今すぐ書きます!! 何枚でも書きますから殺しゃないでェェェェェッッ!?」

 

 叫びながら男は、大慌てで家の中に戻っていって書けるだけの書類を書きまくってルナに、責任ごと全て押しつけると、泣きながら馬に乗ってラビの村を飛び出していってしまった。

 

 いや、あるいは飛び出してったのは国かもしれんけれども・・・・・・まぁ、とりあえずルナの村で何かやっても周囲には問題なく映るよう、書類の上だけでは合法的な準備は整ったというわけである。

 

「ふぅ・・・なんとか悪徳領主から、かよわき村の美少女たちを助けることに成功しました♪

 いや~、人が嫌がること――もとい、悪いことすると――もとい。

 良いことすると心が楽しくなって、気持ちいいですよね~☆」

「アンタって・・・・・・こーいう時には魔王じゃなくて、ただの悪党にしか見えないわよね本当に・・・」

「で、でもですよルナ姉様。私は久しぶりに魔王様って感じのお姿が見れて嬉しかったです。

 私を救ってくれたときにも、魔王様はあんな感じで私を村から連れ出してくれましたから・・・・・・♡♡」

「アレを!? アレでコイツに連れ出されてたのアクって!? 今みたいな感じで普通の村人たち相手にしながら!?」

「いえ? もっと私の時にはスゴかったですよ?」

「アレよりも!? 今のより酷いやり方でアクのこと故郷の村から連れ出しちゃってたのコイツって!?」

「ゴホンゴホン!! ゴホホホホ~ン!!!! さ、さぁ行きますよ皆さん。

 まだ先は長いのです! こんなところでグズグズしている暇はありません! 私たちの旅は、これからだー!です!!

 あとコレ! バニーさんたちに魔石! ではお呼びじゃないようでしたので、バイバイキ~ン!!!」

 

 

 

 ビュ―――ッン!!と。風を切る様にして、嵐の様にやってきた、嵐よりもウルサい魔王は、大慌てで先に走っていった馬上の領主代行の後を追う様にして、神都への道を急ぐため戻っていく。

 

 

 ポツーンと取り残されてしまったキョンとモモとしては、良い面の皮と言って差し支えなかったかもしれないポジションだったのだが。

 彼女たちには彼女たちで、厄介事が一つだけ残されたまま―――手元にあったままではあったのだった。

 

 

 

「ね、ねぇ――モモちゃん? あの臭いが人間にしては変だった人が「魔石」って言って置いてったコレって・・・・・・魔石、なんだよね・・・?」

「・・・・・・たぶん。この感じは『水の魔石』で間違いないし・・・・・・でも、なんかこう・・・違うような合ってるような・・・・・・?」

「そうなんだよねぇ・・・・・・それに私たちってオリジナルの魔石って見たことないんだけど・・・・・・掘り出した直後の魔石って、なんていうかこう・・・・・・」

 

 

 

『『こんなに―――大きかったっけ・・・・・・?』』

 

 

 

 二人が左右から両手を広げて持ち上げるほどの大きさを持つ、水色の結晶体。

 その名も、《水のクリスタル》を渡されてしまっていたことを知らず、魔石とクリスタルの違いを作品数ごとの違いぐらいでしか考えてなかった馬鹿エルフによって―――ラビの村もまた知らず知らずのうちに大きな変貌を遂げさせられる一部となってしまう近い未来を。

 

 今はまだ、誰も知らない。原因である魔王自身さえ知らないし、多分気づくの一番遅くなりそう。

 自覚なく意図しない親切が招く予想外の結果って、そんなもの。

 

 

 

つづく

 

 

 

 

オマケ【今回の設定】

 

《水のクリスタル》

 

 ファイナルファンタジーシリーズの中で、一般生活に用いられてた場合のものを《ゴッターニ・サーガ》はネタとして、魔石アイテムの代わりに採用していた。

 

 拳で握れるサイズで使い捨てアイテムな、この世界の《魔石》とは明らかに違いすぎる代物だったけど、《氷漬けになった幻獣の魔石》を渡す訳にもいかなったのでコレになった。

 

 Ⅻの魔法石があれば良かったのだが、残念ながら《ゴッターニ・サーガ》はⅫの魔法石まではパチモン商品アイテム化しておらず、あるのは《人工破魔石》のため更に悪い。ラスボス生んでどーすると。

 

 尚、一応は念のために配慮として【Ⅴ】の物ではなく【Ⅲ】の方を渡している。

 砕けた時に水が濁って魚が死んで、海が停止するのを避けるために念のため。


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