試作品集   作:ひきがやもとまち

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『乙女ゲー世界は』二次創作の2話目です。女オリ主の方。
なんか主人公との相性が良かったのか、書いてたら勢いで書き進めましたので投稿しておきますね。
次は連載作を優先する予定でいます。


この乙女ゲー世界は、女子でも引きます 2章

 

 碌でもない設定の乙女ゲー世界にモブキャラとして生まれ変わらせられ、極大の不幸を味あわされ、ゲームのシナリオと同じく攻略対象の王子様キャラ共やら主人公やらと同じ魔法学校の生徒として過ごさなけりゃならなくなっちまった俺なのだが。

 

 まっ、貴族様たちは貴族様たちで頑張ってもらえばいいかと割り切って、俺は俺でモブとして頑張る程度でいいから関わる気はないし、気にする必要もないかと気分を切り替えた俺は、さっそくモブキャラとしてモブキャラらしい努力と頑張りを求められるイベントに参加してたのだった。

 

「ふぁぁ・・・・・・眠ぃ・・・そしてダリィ・・・・・・入学式ってのは異世界でも退屈なものなんだなぁ・・・」

 

 ・・・・・・ヒマすぎる入学式を欠伸するの我慢して終わるのを待つっていう、頑張りが求められる強制イベントにだ・・・・・・。

 あのヅラ校長、話が長ぇよ・・・そして、つまらねぇ。校長が中身ないダラダラした長いだけの話し好きっていう特徴は、異世界の学校でも現実の地球の学校となんも変わらない世界の壁を越えた全時空の共通概念かなにかなんじゃねーかと思うほどに・・・・・・長かった。そしてヒマだったから眠すぎた・・・それだけである。

 

 そんな流れの末に、眠気覚ましに散歩でもしてから教室行くかと思ってテキトーな場所を歩いてた俺が、「パシン!」という誰かが人の頬を叩いた時みたいな音を聞いたのは、校内にある校舎と校舎の間に挟まれた小さな死角スペースが見える場所の辺りまで来たときのことだった。

 

「な、殴った!? 俺を誰だと思っている!」

 

 どうやら殴られた側らしい男の声が聞こえて、聞き覚えのある声だったから視線を向けると懐かしいっつーか、さっき見て再会したばかりの攻略対象で青髪の美形王子『ユリウス』が、右手で自分の頬を押さえてる姿が目に映った。

 

 見覚えのある光景と聞き覚えのある声の内容――それで思い出す。

 意識してきた場所じゃなかったが―――ここは俺が転生してきた乙女ゲーの主人公が攻略対象の一人であるユリウスと、出会いイベントを起こす場所だったんだという事に。

 

 ・・・・・・ただ、時期的には少し早いような気がしなくもなかったが・・・・・・あの乙女ゲー世界だし、その程度は大した問題じゃないか。

 そして王子がビンタされるイベントが起きてるって事は、王子と向かい合ってる女の方は乙女ゲー主人公のオリヴィアってことに―――

 

「し、知りません! でも誰であろうと――えっと・・・ゆ、許されないです!!」

 

 あれ? なんか違くね? 聞き覚えのあるセリフと微妙に違う気がするんだが・・・。 

 俺の覚えてる主人公のセリフ内容だと、たしか――

 

『知りません! でも誰だろうと“礼儀知らずは”許されないです!』

 

 ――って感じだったと思ったんだが・・・・・・違ってたかな? ちょっと自信ねぇような気も・・・。

 もともと好きでもないのに無理やりやらされてたゲームだから、悪印象として覚えちゃいるんだが、そのぶん一言一句正確に覚えといてやろうという気持ちまでは持ちようがなく、こういう微妙な誤差ぐらいに見えなくもないシーンに遭遇すると判断に困る。

 

 う~ん・・・・・・俺が前世の記憶が戻ってから転生者らしく、知識チートしてやろうと主人公っぽい野心を抱いて、覚えてる限りのゲーム情報を書き残したノートを魔法学校にも持ち込んできてるから、それ見りゃ一発で分かると思うんだけど・・・・・・流石に今この場にまでは持ち込んできていねぇしなぁ・・・。

 

 それに主人公の見た目も、ちょっと違うっつーか縮んでる気がしなくもないし――ひょっとしてアレか?

 俺が転生者として主人公が手に入れるはずだった『あのアイテム』を先に手にしちまったせいで本来の歴史が微妙に変わっちまってた系のヤツだろうか?

 

 ・・・だとしたら面倒くせぇから、さっさとズラかっとくとするかと、そう思っていた俺の背後から。

 

 

「ほう・・・主人公のセリフが違うな。見た目も変わっている。アレは間違いなく別人だろう」

「うわっ!? ビックリした!」

 

 

 いきなり背後からヌッと出てきて、真面目くさった顔で解説してくる眼鏡女子!

 今生における俺の妹で、俺と同じ原作には存在しないモブ妹キャラ的存在『レイン』!

 

「いつもいつも驚かすような登場の仕方してんじゃねぇよ! 妖怪かお前は!?

 ・・・・・・で、お前から見ても今のセリフは原作主人公と違うって思うのか? って言うか、別人だって事まで分かるものなのかよ・・・? 今見たばっかなんだろ?」

「ハッハッハ、おかしなことを言う兄君くんだ。安心したまえ。私の記憶に間違いはない。

 なにしろ私は、中の人目当てでゲーム一本購入を確定するタイプの乙女ゲーマーだからな。キャストが発表された瞬間には初回限定版を即予約確定さ。

 特典ドラマCDが同伴されていたときのためと、次回作のためのお布施としてッ!!」

 

 怖ぇ!? 声オタ、マジで怖ぇな本当に!!

 自分好みの声優が出るってだけで内容も知らずに予約買いとか、どんだけだよ!? 逆に安心できねぇぞソレ!

 怖ぇよ! むしろお前が怖くなったよ! どんだけ声優好きなんだコイツは!?

 ・・・・・・しかも一本目が出る前の時点から、次回作へのお布施って・・・・・・。

 

「それにまぁ、ぶっちゃけ主人公の中の人だけは私の中で一押しな声優さんだったのでな。

 女性ながらも期待していたんだが・・・・・・その結果として、『そうじゃないだろう感!』と、『そのカプは違うだろう感!!』による二つの負の感情に激しく心揺さぶられて、血の涙堪えながら夜空を見上げたりしたから、流石に主人公の声と見た目は忘れない。

 アレは違う。アレは別人、アレハニセモノ」

「・・・・・・なんか安心できるようで出来ないようで、すっげぇ信憑性あるようで全くないみてぇな微妙すぎる証拠と証人だなオイ・・・」

 

 かなーりビミョーすぎる妹からの原作知識補填だった訳ではあるが・・・・・・まぁ嘘か誠か、もう少し見てから見定めてもおかしくねぇかな、どうせ関係ねぇ他人事だしとも思って、王子たちに視線を戻し。

 

「本当に俺を知らないのか!?」

「ごめんなさい、お――王族のこととか詳しくなくて・・・・・・」

「お前は他の女とは違うな・・・」

 

 ・・・ふむ。やっぱりゲームイベントをなぞってるように見えるやり取り。

 でも、この時のセリフってたしか俺の記憶では――

 

「ちなみにだが、今のセリフは『ごめんなさい、王都のことは詳しくなくて・・・』が正解だぞ? 兄君くんよ」

「だから何故お前の方が詳しく知っている!? あと、無駄に声マネ上手いなお前! 生まれてから16年一緒に過ごして初めて知ったわ!」

 

 目の前のイヤすぎる乙女ゲー世界のイベントと微妙に違ってる展開も気になるけど、それ以上に俺の妹って事になってるヤツの今明かされた特殊能力が気になりすぎるんだが!

 俺の妹が声オタこじらせ過ぎて変な特技もってるヤツであって欲しくねぇ!!

 

 

 それに・・・・・・あの女の方も。

 どっかで見たような気がするんだが・・・・・・?

 

 

 

 

 

 そして、それっきり入学式直後に攻略対象キャラたちのイベントを見たことで、特になんの影響も与えぬまま俺たちの魔法学園生活は健全な男子学生らしく、平穏無事にとどこおりなく入学から一週間以上が過ぎていくことになる。

 

 ―――要するに、女子と不健全な関係になれるような出会いも接点も得られないまま、無駄な時間をドブに捨てる日々を送っていた訳である・・・・・・。

 

 

「なぁ、ダニエルぅ・・・レイモンドぉ~・・・・・・俺たちと同じで、裕福じゃない家柄の女子に当てってあったりするかぁー・・・・・・?」

 

 俺は学校の中庭にあるテーブルの一つに座って頬杖突いてグデ~っとなりつつ、学校入学後にできた数少ない友人二人に縋る想いで問いを投げかけてみた。

 そして、返ってきた答えはと言うと。

 

「まったく無い! むしろ有ったら、俺が欲しい!!」

 

 格好のいいポーズで、格好悪すぎるセリフを威勢よく言い放つ小麦色に焼けた色の肌と金髪の男子生徒がダニエルの方で。

 

「なぁ、お前もそうだろう? レイモンド」

「ボクはお茶会に来てくれるなら、誰でもいいかなぁー・・・」

 

 正反対にテンション低めで自信なさげな声で返事を返してる、オカッパ頭で眼鏡の方がレイモンドだ。

 どちらも俺と同じで、下級貴族出身っていう家柄の事情と性格的に合うものを感じて親しくなった連中だ。学園内の男子たちでハブられやすかった者同士で被害者同盟組んだって事情も少しはある。

 

 この乙女ゲー世界に生まれ変わって、数少ない幸運だったと思える出会いがコイツらで、結構イイ奴らだし顔も性格も爽やかスポーツ系と、文系のカワイイ系とで日本だったらモテそうなんだが如何せん。

 この乙女ゲー世界の設定だと、男は女より弱くて、見た目や性格より家柄とか財産とか地位の高さが評価される。

 俺と同じで、実家が下級ながらも貴族であるコイツらは、貴族じゃない裕福な家のヤツより実はハードル高めになりやすいんだよなぁ・・・・・・。

 

 とはいえ・・・

 

「分かる。女子のご機嫌取りとはいえ、お茶会も開けないなんて噂が流れたら、結婚に不利だもんなぁ・・・・・・」

「・・・・・・そうなんだよねぇ・・・。ボクも最近だと女子たちからの視線が痛くって・・・憂鬱だよ」

 

 はぁぁ・・・・・・と、そろって溜息を吐く俺たち男友達三人組。

 言うまでも無いことだが、女子と仲良くなるには周囲からの評判が重要で、周囲から嫌われてる男子の部屋には、「友達に悪い噂されるとイヤだし・・・」とかの理由で招待しても応じてくれなくなる。

 

 ゲームの中でイベント戦闘に勝ったりすると、デートしたわけでもないのにヒロインたち全員の好感度が上がったりする時あるだろ? アレと同じと考えればいい。

 この乙女ゲー世界の貴族社会で言えば、お茶会が丁度それに当たる。

 女の子を招待して、見事にやり遂げられたら周囲からの評判上がって、他の女子たちも誘いやすくなり――失敗すると評判落ちて好感度もダダ下がりする。そんな代物。

 

 ただ俺たちの場合は、このお茶会イベントそのものを発生させることが出来ていない。

 そのせいでイヤな噂が立ち始めてしまって、余計に誘いにくくなってきてることが俺たちの今抱えている問題というわけだ。

 

 一言で言えば、『お茶会も開けないなんて、何か理由があるんじゃないか?』って事。

 くそぅ・・・ただ相手が受けてくれないだけだってのに、勝手な噂作り出して広げやがってゴシップ好きの女子共が・・・!!

 別にそんな奴ら本気で呼んでねぇし! 本命呼べるようになるため評判良くしたいだけだし! 踏み台扱いがどーとか言うヤツいるけど、男を下僕同然に扱ってるヤツらに言われたくねーし!! ちくしょう! やっぱこの乙女ゲー世界はクソゲーだった!!

 

「ふむ。本来なら、私で良ければと相談に乗るべきところなのだろうが・・・・・・大丈夫そうかい? “まだ”私を招いてしまっても・・・・・・」

「いや、まぁ・・・・・・気持ちだけ有り難く受け取っておく。ありがとな、レイン」

「ボクも同じく、かな? 流石に同じ女子ばかりだと別の噂が立ちそうだし・・・ね・・・・・・」

 

 俺たちモテない男子同盟の中では、唯一の紅一点である妹レインからの提案に、ダニエルとレイモンドはそろって困った表情を浮かべながら謝絶を返すしかない。

 

 ・・・まぁ、女子からの評判を落とさないためのサクラ役とはいえ、同じ女子一人だけを何度も部屋に招いてお茶会開いちまったら、そうもなるよなぁー・・・・・・。

 最初の内は俺も、『妹だと女子たちから頭数に入れてもらえねぇ!』とか思って、人の妹でも他人の女子として女子寄せホイホイに使える二人に激しく嫉妬心を抱かされたものだったが・・・・・・今となっては逆に哀れみしかない。

 

 やはり妹は、女の内に入らないんだという事実を二人も思い知ってくれたみたいで共感できたしな。やっぱ妹はダメだよ妹は。

 前世での妹と違って、レインは大分マシな妹だとは思うけど、妹はダメだ。妹だからダメなのだ。そのことを友人たち二人も分かってもらえたことは、俺にとって心からの喜びだった。やはり俺たち三人は親友だ!!

 

「・・・時々だが、リオンは死んでもいいんじゃないかと思っちまうのは、こういう時だよな」

「・・・・・・だね。リオンはもう少し、自分の恵まれた環境を自覚すべきだとボクは思うよ」

「――ん? なんのことだ?」

「ふむ? さぁ―――と、おや。噂をすればと呼べる者達が来たようだぞ」

 

 よく聞こえなかった俺からの質問に、妹は最初こそ小首をかしげて分からないという顔をしていたが、途中で表情が変わってイジワルそうな普段の顔付きになると校庭の一角を人差し指で指し示し、何か見つけたのかと俺たちもソッチの方へ視線を向けようとしたが――する必要がなかった。

 

 何故なら、正解の方が先に答えを持ってきてくれたから・・・・・・

 

 

『キャー☆ ユリウス殿下ーッ!!』

『お茶会を開かれるのですかッ!? 参加したいです!』

『私もーッ♡♡』

 

 

 ・・・・・・俺らと同級生で入学してきた、乙女ゲーの攻略対象王子たちご一行様である。

 たしかにコイツらは、俺たちが噂してた通りの連中と言えば、その通りの連中だった。ある意味ではの話だけれども・・・。

 

「君らが、こんな話をしなければいけなくなっている“噂の原因”という意味では、彼らこそが丁度ソレだろう?」

「確かに・・・・・・今年のボクらは殿下や名門貴族が同級生にいるから、ハードル高くなってるんだよね・・・」

「俺らに冷たい女子たちも、アイツらにはキャー☆キャー☆だもんなぁ・・・」

「まったく・・・比較される身としては、勘弁して欲しいぜ本当に・・・」

 

 校庭の反対側で盛り上がってるモブ女子生徒たちとは対照的に、テンション下がりまくって盛り下がる俺たちモブ男子三人組+1名。

 俺たちと同じ新入生の女子たちとしては、王侯貴族でイケメンの攻略対象たちと同じ学年として入学できたことを運命だとか奇跡だとか信じる理由に使って、無理と承知で相手から見初めてもらえる極小の可能性を偶然でも信じたいところなんだろう。

 で、その為には他の男とくっついた後だと駄目だし、別の誰かと仲いい噂たってる状態だと茶会のパーティーとかに招待されなくなる恐れがあるから、保険として『俺たちみたいなモブとは仲良くなっておかない』と。そういう理屈だ。

 

 王子であるユリウスには婚約者として大貴族アンジェリカがいるけど、一人だけだし。他の攻略対象たちフリーだし。

 五人いれば、その内の一人くらいマグレ当たりで自分のこと引いてくれるんじゃないかとか期待してるのではないだろうか? もしくは正妻は無理でも愛人志望とか、2号さんとか。

 基本的に女が男より強い世界とはいえ、王子ともなれば話は別になる。

 あるいは、攻略対象だけは男だろうと別枠扱いにしてもらえるとかで、そういうのも有りに出来ちまうかもしれない。つくづく、この乙女ゲー世界はメインキャラに優しすぎると俺は思う。今んところ俺の勝手な想像だけれども。

 

「――殿下。お茶会のことで、お話があります。ご一緒してよろしいですか?」

 

 俺が僻み根性も少しだけとは言え入っていなくもない、王子たちを取り囲んでキャーキャー騒いでいる俺たちには冷たい乙女ゲー世界の女子たちの心理分析をおこなっていたところで、そのムードを一瞬にして静まらせて大人しくさせちまう声の主が登場してきた。

 

 ゲーム中での悪役令嬢だった、アンジェリカだ。

 俺も攻略中に何度邪魔されたか分からない相手であり、ユリウスの婚約者でもある巨乳の公爵令嬢さまだ。

 まぁ、アルフォード公爵家さまのお嬢様にキツい声で割り込まれたら、そりゃ大抵の女子は静かになるわな。普通に考えて。

 

 そんな場の空気を壊す、怖い声の婚約者の登場に王子様の方は「ふぅ・・・」と溜息ひとつ吐き。

 

「・・・・・・アンジェリカ。威圧するな、ここは学園だぞ」

 

 

「――あ。威圧した」

『『確かに』』

 

 

 レインの小声でのツッコミに、ダニエルとレイモンドが賛同する。小声でだけども。

 ただまぁ俺も正直、今のは妹に賛成だわ。明らかに王子の方が威圧っつーより命令してたし。普通に命令口調だったし。

 

「心得ています。――ただ、殿下の周りが少々うるさかったもので」

『ひぃッ!?』

 

 

「なんかピリピリしてるな・・・」

 

「そりゃあ、ピリピリぐらいはするだろうな。

 “婚約者の前で、別の女を大量に侍らせまくってニヤニヤしている男の姿”、なんてものを見せつけられてピリピリすらしないなら、完全に関係冷め切ってるとしか思えない」

 

『『た、確かにッ!!』』

「見るな、目立つな、関わるな、アホが移るぞ。って言うか、移りかけてるぞ既に」

 

 

 白い目つきで俺は、王子と妹の双方を含めた話として男友達二人に忠告してやったのだが・・・・・・王子はともかく妹の方は、ちょっと手遅れかもしれなかった。我が妹ながら前世のとは違った意味で恐ろしい妹である。

 

 しかし・・・・・・う~む、レインが今言ってた内容には一理ないことはないのか。

 ゲームやってる最中は攻略を邪魔されるのがウザすぎて、そこまで考えたことなかったけど確かにアンジェリカの嫉妬ぶりとユリウスへの差し出口には、それなりに理解できるだけの理由があったようだ。

 

 自分と婚約している色男が、目の届かないところで他の女侍らせまくってヘラヘラ笑ってたら、まぁ普通は苛立つわな。ぶっ飛ばされても文句は言えねぇレベルで。

 

 しかも。

 

「あ、あの・・・・・・お呼びでしょうか? 殿下・・・」

「ああ、マリエ! 探していたぞ」

「――ッ」

「俺も近々、茶会を開く。そこにお前も呼びたいんだ」

「お待ちください殿下! その女は場違いですッ!!」

「俺は一生徒として、ここにいる。いくら婚約者でも、そこまで干渉される謂われはない」

「し、失礼しました・・・」

 

 と、ゲームの強制イベントと同じ流れを再現してくる始末だ。

 本当なら主人公が王子に守られるはずのイベントなんだけど、俺が今いるこの乙女ゲー世界では『マリエ』という名の俺が知らない――だが見覚えがある気がする女子生徒に変更されちまっているけど、それ以外では原作と同じイベント展開の流れ。

 

 つまり要するに、だ。

 

「一見するとマトモな言い分に聞こえるセリフなのだが・・・・・・婚約者持ちの王子が言うと、“学生身分の間は浮気し放題のハーレムOK無問題”と聞こえてしまうな・・・」

『『――確かにッ! おのれ許さん王子! モテない男の敵に死の鉄槌をッッ!!』』

「だから、見るな関わるなと言ってるだろうに・・・・・・あとレインも変な裏事情を教えんじゃねぇ。そこは大人の事情で流すべきところだろうが」

「てへ☆」

 

 てへ、じゃねぇよ。誤魔化しても可愛くねぇよ。お前の本性知ってる立場だと、あざとさすら感じられなくて普通にキショイわ。

 とは言え、まぁこの言い分もレインの言ってることが正しくはあるわな。

 これまたゲームしてる最中は考えなかったけど、ユリウスの言い分は出張先とか接待先でキャバ嬢たちとよろしくやってる浮気夫の主張を言い方変えただけと言えば、その通りな代物だろう。

 俺は他人事でしかない他人だから気にしなかったけど、当事者で婚約者でもあるアンジェリカの立場になって考えてみたら、かなり王子側にだけ都合がいい立場を利用した職権乱用の部分がある気がしてきた。

 ・・・・・・なんか俺までムシャクシャしてきちまったな。妹が余計なこと言い出したばっかりにクソ、やっぱり妹というのは妹だから存在なのだと痛感させられずにはいられない。

 

 そして――、

 

 

「すまなかったな、マリエ」

「いえ・・・でも、本当に私が参加してもよろしいのですか・・・?」

「殿下が、ここまで熱心に女性を誘うなんて初めてですよ」

「よ、よせジルク! と、とにかく参加して欲しいんだ・・・マリエ」

「殿下・・・ッ!! はいッ♡♡」

 

 

『『あ、行っちゃった・・・・・・』』

「婚約者の眼前で、別の女に熱烈アプローチしてる主君の浮気を暴露するか・・・・・・ドロドロ展開とか、後ろからブスッと展開でも期待してるんだろうか? あのナルシー」

『『ヤレ! ヤっちまえ! 男の敵に死の制裁を! ハイルKILL!!』』

「だから関わるなっちゅーに!!!」

 

 

 最後までコッチの馬鹿騒ぎに気づくことなく、アッチはアッチでなんか微妙に修羅場りながら仲良くフェードインしていく王子様どもと知らない女子たち。

 そして、取り巻きとともに一人残され唇を噛んでるっぽい王子の婚約者のはずなアンジェリカさん。

 

 ・・・・・・なーんかアッチは、ゲームの時より雰囲気悪くなってそうな感じが、ちょっと気になるようになってきてるんだけど・・・・・・俺としては、もう一つ。別の気になることができたんで、聞いておくことにする。

 

 

「って言うか、レイン。お前ってそーいう部分、気になるヤツだったんだな。

 乙女ゲーマーって言ってたから、てっきりそーいうのは『そういうモンだ』と割り切って気にしない奴だとばっかり思ってたんだけど・・・・・・」

「フッ・・・・・・乙女ゲーマーにも色々と事情があるものなのさ、兄君くん。

 たとえば私はRPGもやるが、パーティに加入はしても正式な仲間にはならないサブキャラなんかのスキルやら装備やらは、加入した直後から一切育てず成長させるためビタ一文使ってやったことが一度もないのだよ・・・・・・」

「?? そりゃまた何で? そーいうのって大抵強いのが多いように思うんだが・・・」

「私の物にならないのなら、どーなろうが知ったことではないからだ。煮るなり焼くなり惨殺するなり、好きにしろと」

「ヒデェッ!? そして怖ぇッ!!!」

 

 女の独占欲、怖い! 怖すぎる!! やっぱ妹ダメだよ! 特にこの妹はダメだよ!! 前世での妹もヒドかったけど、今生の妹も別の意味でヤバすぎる!!

 まったく! この世界にマトモな女子はいないのか!? やっぱ乙女ゲー世界は禄でもなさ過ぎるにも程があるわ――――ッッ!!!!!

 

 

 

 

 ・・・・・・まっ、それはそれとして王子たちの恋愛事情は俺にはカンケ―ねーので置いとくとしてだ。俺は俺でやることあるので、ソッチ優先。

 先日に出会った、俺にとって運命の師匠の教えを実践して極めるために・・・・・・俺は今、王子たちの事情などという邪念に満ちた雑事に心惑わされている余裕など少しもなかったのだから――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・いやはや。ダニエル君もレイモンド君もなかなか面白い逸材で、毎日が飽きなくていいな。この乙女ゲー世界は」

 

 私は兄君くんがいない廊下を一人歩きながら、兄君くんが聞いたら不愉快になるだろうから言えないセリフを、思う存分自己満足で独り言として呟き捨てていた。

 

 もっとも、実際のところ兄君くんは条件的には結構イイ線いってる方だと、女子視点で私は思っているタイプではあるのだがな。

 若くして出世した男爵だし、お金持ちだし、そこそこの領地持ちの領主だし、金持ちだし。

 にも関わらず、ミョーに女子たちから距離を置かれやすくなっているのには幾つか理由がある。

 一つには、ぶっちゃけ男爵という中途半端な地位を与えられた事にある。

 

 王国政府や王家としては、将来有望そうな下級貴族の息子に貴族社会で栄達しやすい箔付けをしてやったつもりでいるのだろうし、男爵の息子に父親以上に高い地位を与えるわけにもいかないという事情もあったのだろうが・・・・・・。

 

 だが、この乙女ゲー世界の貴族社会における認識として、男爵という地位は貴族としては最下位に位置している底辺の爵位だ。準爵は文字通り「準ずる身分」のため爵位持ちの貴族とはカウントされていない。

 一方で、『ルクシオン』を主人公より先に入手したときにセットで手に入れた財宝は相当な額であり、購入した浮島も値段のわりに資源豊富で開発をはじめたばかりでもある。

 

 ・・・・・・フツーに、金で貴族の地位を買った、いけ好かない成金とか思われてるんだろうなー。

 しかも義理の母が、あのゾラだし。関連付けられて見られれても然程不思議な立ち位置でもなし。

 

 あるいは他の理由として、攻略対象の王子たちの影響は、やはり大きいのだろう。

 なにしろ乙女ゲーの王子様キャラたちだ。周囲の女子たちからキャーキャー持て囃されてチヤホヤされてないと、『学園の王子さま設定』が成立できん。

 見た目も家柄もよく、普通に考えれば恋人できない方がおかしいレベルの美少女たちが、彼氏も作らず王子たちの取り巻きをやってるからこそ、王子様キャラというのはスゲー格好いいが成立するものなのである。

 

 周りが彼氏持ちの女子ばかりに囲まれている、独り身の王子様キャラなど、単なる残念イケメンでしかあるまい?

 その条件をリアルで実現されてしまうと、今の兄君くんやダニエル君たちのように犠牲者を生み出してしまう羽目になる。

 

「まったく・・・・・・難儀な話だな、本当に・・・・・・って、おや?」

 

 歩きながらの独り言を締めくくった直後の事。

 向かっていた先の廊下の角を曲がった先から、何やら揉め事らしき複数の声が聞こえてきたので、私は廊下の角まで走り寄り、角に到着すると立ち止まってコンタクトを取り出すと、鏡面部分だけ角から出して向こう側の風景を写しだして見物――もとい、様子を見る。

 

 

『――ハァ~? なんなのアンタぁ~?』

『身の程を知りなさい! バァ~カッ!!』

『あッ!?』

 

 ビリリリィィィッ!!!

 

『アハハハッ!! 永遠にゴミ掃除でもしてなさいッ! アッハハハッ!!!』

 

 

 ・・・・・・ふむ。見たところ、古き良き学園物の時代から続いてきた伝統にしてテンプレ化しているイジメの典型パターンを、この世界でもやっているみたいだな。

 虐められているのは・・・・・・まさか主人公か? この乙女ゲー世界本来の主人公で、特待生入学を果たした平民出身少女の『オリヴィア』か。

 それに、おお。彼女たちには気づかれていないようだが、その向こう側には兄君くんと多分ルクシオンもいるようだ。

 

 ふ~む、確かにゲームだと大した問題に発展することは多くないが、主人公オリヴィアの立場は女性基準で見ると決して良いものじゃあない。なまじ見た目と成績では、大抵のモブ女子たちに勝ててしまっているから尚更に。

 

 まっ、彼女の方はたぶん兄君くんが何かしらフォローしてくれることだろう。

 この世界に生まれ変わった経緯もあって、兄君くんは原作キャラたちやシナリオと関わり合うのをアレルギーじみて拒否したがるきらいがあるが、さりとて現状のヒロインのような女子を見たときに見捨てて茶を飲めるほど薄情にもなれない人物なのが、今生での我が兄となった少年というもの。

 

 今日日ゲームとか以外だと、あんま言わなくなった「お人好しすぎる」等の評価を言われそうな性格の持ち主が彼なので、アッチの方は任せておいても大丈夫だろう多分。多分だが。

 

 とりあえず私は女子として女子らしく、女子だからこその対応をすべきではないかと、私は思うわけだ。そして、やるべきと思ったことは何時やるか? 今である。

 

 

『ハンッ! あいつ生意気よ生意気よ! 平民のくせに、ちょっと顔と成績がいいからってブラッド様からお茶会の招待状もらうなんて、キ~~~~~ッ!!!

 今よりもっと身の程を思い知らせてやるんだから! 見ていらっ――』

 

「うっわ――――!! 遅刻遅刻ぅぅぅ~~~ッ!! 急がないとデートに遅れちゃったらシャレにならないわよねぇぇぇぇぇぇッって、ちょっと!?

 そこの人たち退いて退いて危な――――ッい!!!」

『――しゃい、って、イ!? ちょっ、待っ、コッチ来なって、キャァァァァッ!?』

 

 

 ドゴォォォォォォォォォッン!!!

 と、由緒正しき伝統のある、昭和ヒロイン的デートボディータックルで、角から飛び出してきた直後を装って、気にくわない女子たちに軽くお仕置き。

 

『キヤァァァァァァァッ!? お、落ちる! 落ちるわよ!? 落ちちゃうってば、キャアレェ~~~~~ッ!?』

 

 

 ボッチャ――――ン!!!

 

 

『うおっ!? なんだ! どうしたんだ!? 何があった!?』

『大変だ先輩! 空から女の子たちが沢山落ちてきて、池の中に真っ逆さまに!!』

『ほんとに一体なんだそりゃ!?』

 

 

 ――という結果に結びつく程度の威力と角度とを計算に入れて、吹っ飛んでいく方向も調整した私による『偶然の事故によって起きてしまった悲惨な結果』には、私も遺憾の意を禁じざるを得ないものがあるな。心労痛み入るに余りあるものがなくもない。

 

 まぁ、兄君くんと一緒に冒険者として既にそこそこランクに達している私のタックル攻撃を、ろくな実戦経験もない貴族のボンボン令嬢が受け身も取らずに直撃してしまったのでは、こーもなろうよ。

 

 おっと、最終仕上げを忘れていたな。これは不幸な事故なのだからキチンと最後まで演じ切る――もとい、遺憾の意を露わさなければ無用の誤解を招きかねない恐れが無きにも非ず。

 

『ブハッ!? げほっ! ごほっ! ゴーッホン!!うぇほん!?』

 

「ごっめ~ん☆ 待ち合わせに遅れそうで走ってたら止まれなくなっちゃっただけなのォ~♪

 悪気はなかったのよ? 本当よ? お願い信じて私が悪かったわゴメンナサ~イ♡♡ テヘペロ☆」

 

 

 ――と、メイド喫茶でバイトして夏コミ3日目の資金源を確保していた頃の経験を生かして、故意ではなかったが少女たちを飛び出させてしまった窓へと歩み寄り、池に落としてしまった咽せている彼女たち“の周囲に集まっているギャラリーたち”に向かって誠心誠意心を込めて、トマトケチャップで「大好き♡キュン」とか書くときのような心地でもって謝罪して。

 私は当初の予定通り、待ち合わせ場所へと急いで駆けていくのであった。

 

 

 ふむ。これでよし。誰が見ても、私が故意ではなく偶然によって少女たちを吹っ飛ばして突き落としただけだということを多くの人たちに理解してもらえた事だろう。

 

 大抵の人間は男も女も、ずぶ濡れになってゲホゲホ言ってる見た目があんまり良くない女の子よりも、見た目(だけ)は無駄に良い私の言い分を受け入れてしまった方が得だと考えるのは、人間としても乙女としても欲望的にも間違っていないし正しいと私は思う(断言)

 

 

 

つづく 


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