試作品集   作:ひきがやもとまち

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先日の活動報告で要望のあった【デート・ア・ライブ】の作者版です。
昨日から書き進めて、今さっき完成したので投稿しておきますね。

他の要望があった作品も、書いてる途中か、原作を確認中です。…出来るかどうかまでは微妙なんですけどね…。


デート・アンチ・デ・ライブ

 

 空間の地震と称される、広域震動現象。

 発生原因不明、発生時期不定期、被害規模不確定の爆発、震動、消失、その他諸々の総称であり、まるで大怪獣が気まぐれに街を破壊していくかのような理不尽極まりない現象。

 この現象が初めて確認されたのは、およそ30年前。

 ユーラシア大陸中央部を襲った巨大空間震は、一億五千万人という人類史上類を見ない未曾有の被害を引き起こし、その後も約半年間、規模は小さいものの世界各地で似たような現象が発生することになる。

 

 ――が、しかし。

 それはまぁ、それとして置いといて。

 

 

 

「・・・・・・え? あ、あれ? ここは一体・・・・・・?」

 

 目を覚ますと、そこはクレーターのド真ん中だった。

 辺りには一面、破壊された跡の建物と、避難してった人たちが置き忘れたと思しき忘れ物が転がっている。

 その中には、頭の中がピンク一色になれそうな本も落ちていて、ちょっとだけ手を伸ばしたい衝動に駆られたが、グッと我慢して状況判断を優先して空を見上げた。

 

 地上の惨状とは裏腹に、大海原のように広がる青く平和な大空。

 地を這いずり回って、破壊と殺戮を繰り返すだけの生物たちの営みを大昔から見守り続け、その愚かさを哀れみながら優しく包み込み照らし続け――それ以外はな~んもしてくれることもない、無関係な赤の他人みたいな存在。

 

 まぁ、雲一つない青い空ってのは、思ったより間抜けで白けた印象を受けるもんだと、昔誰かに聞いたことあるような気がするしな。

 そんなことを思いながら、なんとなくボンヤリと空を見上げ続け――ぶっちゃけ周囲のガレキの山から目を逸らせる唯一の方向が空だけだった部分もあるけど――そんな空を見ている向こう側から・・・・・・突如として急速に向かってくる存在があった。

 

「・・・ん? なんか飛んできて・・・あれってまさか・・・・・・人、なのか?」

 

 空の向こう側から、小さな点のような存在が自分のいる方角に向かって近づいてくるのが見えたのだ。

 それは小さな点から始まって急速に巨大さを増していき、ほんの数十秒も経たない間に人型サイズの物体が鎧のような装甲服をまとっている姿へと成長を遂げて視界に映った。

 その事実は、相手が凄まじい速度でコチラに向かって飛翔してきていることを示しており、自分はその高速飛翔物体を超遠距離にいる時点から目視することができていたことをも同時に示すものでもあったのだが―――後者の方を自覚することは彼女には出来なかった。

 

 “今はまだ”

 

 そして飛んできた人間たち、10名ばかりの10代半ばから20代後半までと思しき、見目麗しい容姿をして、ちょっとエロいボディスーツを纏った美女の皆様方は――ミサイルポッドとかバズーカとかミサイルランチャーとか、なんか色々とぶっ放して警告もなしにいきなり撃ちまくってきやがったのだった!!

 

 

「って、ええぇぇぇッ!? ちょ、待っウワァァァァァァッ!?」

 

 ドドドドドッ!!!

 ズガンズガンズガンズガァァァァァァッン!!!!!

 

 

 もの凄い物量の弾薬が遠慮容赦なく思い切り撃ち込まれまくって、必死に走って回避した彼女を追って自動追尾機能で追跡してきて、また爆発!!

 

 当たらないけれども! 外れて背後か周囲にある建物の残骸に命中して爆発四散するだけだけども!! っていうか当たって堪るか! 死ぬわッ!?

 

 そんなことを思っているのかいないのか、自分でも全く分からないまま考えることすら出来ないまま必死に必死に逃げまくる彼女。

 普通に考えれば、走ってミサイル攻撃から逃げ切れるはずはないのだが・・・・・・それすら考えつく余裕もない! 死の危険を感じさせられた“普通の人間として”ただただ逃げまくって走り回る! それだけである!!

 

 ――だが、何事にも例外はいる。

 

「・・・・・・ッ!!」

「なっ!? 速――ッ」

 

 10人の怖くて美人なお姉さんたちの中に、飛び抜けて動きのいい一人だけが混じっており、走って逃れようとしていた自分の目前にワープでもしてきたかのような動作で降り立ち、右手に持った超銃身のライフルの銃口を向けてくる。

 

 それは彼女が、相手の中で最年少と思しき10代半ばの怜悧な美貌をもった銀髪の少女の動きを、他の9人と比較して優れていると判断し、プロとして集団戦法の訓練を受けてきた美女軍団たちの連携行動を理解できるだけの知恵と知識を持ち合わせていたからこそ可能となっていたことではあったが――そんなことは今の彼女は知らない。興味もないし、持てない。

 

 今はただ・・・・・・目の前でピカッと光り輝きまくって、発射寸前になってるっぽいビームライフルみたいな代物に殺されないことが最優先事項だからな!

 悲鳴上げながらコクピットごと蒸発されて死ぬとか嫌すぎるわ!? 今は革新した新人類の少年たちが平和唱えながら人殺しまくってる宇宙戦争の時代じゃねぇ! 確認できねぇから知らんけど多分!!

 

「ちょっ! やめ!? ――うひゃあッ!?」

「・・・ッ!? 今のを、避けられ・・・・・・ならっ!!」

 

 ギリギリのところで射線から外れて、熱線光線による攻撃から身を逸らして回避して、近くにいるだけでも余熱だけで火傷じゃ済まない温度で普通の人なら焼死してた攻撃だったと気づくことなく無様に転げ回って逃げまくろうとする彼女の動きを、どう解釈したかはいざ知らず。

 

 とにかく相手の中で一番動きのいい銀髪の少女は、いったん空へと飛び上がると腰の後ろへ手を回し、まるで手品のように光の刃を抜き放つと―――今度はビームサーベルで超高熱の刃による蒸発斬りしてきやがったぁぁぁぁぁッ!?

 

「ちょっ!? だから無理無理、今度のは無理だって! 危ないって言うか死ぬって本当に!

 っつーかボクって、なんでこんな目に遭ってんですかねぇ!? ホントの本当にさぁ!!」

「・・・・・・死ねッ! “精霊”!!」

「ひっ!?」

 

 自分を斬り殺すため振り下ろされてきた、アニメでしか見たことがないビームの刃を前にして――実際にはアニメなど一度も見たことがないはずの彼女は、死の恐怖から咄嗟に能力を発動させ、そして――

 

「・・・・・・っ!? 消えた・・・?」

 

 突然、その姿を刃の前から消し去った。

 

 

 

『――折紙、状況は? アンタが追い詰めてたはずの精霊は、どうしたの?』

「・・・・・・逃げられた・・・・・・と思われます。よく分かりません。

 刃が届くと思った直前、レーダーからも私の視界からも完全に相手の姿が消え去ってしまって、その後に攻撃してくる気配もありませんから隠れたわけではないと思うけれど・・・」

『そう。それじゃあ取りあえず上には“撃退した”って報告しといて問題はないわけか。

 ――それにしても変な精霊だったわね。

 反撃してこないだけなら《ハーミット》とかの例が、まったく無いわけじゃないけれど、ひたすら悲鳴を上げ続けて逃げまくるだけなんて・・・・・・一体なにするつもりだったのかしら、アイツ? コッチの攻撃が効いてるって風にも見えなかったけど・・・』

「・・・・・・完全に躱されていたし、武具や能力で防がせることさえ出来なかった。最後の消失だけが相手の晒した全てと言っていい」

『そうなのよねぇ・・・・・・それに相手の姿。コレ上になんて報告すりゃいいのかしら? たとえ発見しても精霊だと判別しづらい事この上ない容姿をした、面倒な精霊が現れたものね・・・』

 

 そう言ってくる彼女たち《AST》、対精霊部隊アンチ・スピリット・チームの隊長である日下部遼子一尉は、部下の一人である鳶一折紙が事実上単身で敵と戦ってくれている間に上空から可能な限り集めさせた敵情報の中の一つである、敵の姿の記録映像を思い出し、それを上層部に報告する時の苦労を思って溜息を吐いた。

 

 

 ――紺に近い黒色の上着に、リボン型のネクタイを結んで、チェックカラーのスカートを翻した姿で、悲鳴を上げながら逃げまくっていた黒髪の少女。

 

「・・・・・・まるっきり、学生たちが着る“ブレザーの制服”そのものじゃないの? コレって・・・・・・。

 どこの高校かまでは分からないけど、この姿で初めて確認された精霊として登録しちゃって大丈夫かしら? 本当に・・・・・・」

 

 強いて言えば、ズームアップして顔を写したサイズでなら判別可能な、死んだ魚のように腐った目つきが特徴と言えば特徴だが、それを補ってあまりある美貌が結果的にイメージの悪さを相殺してしまって、可愛らしい女の子という以外に普通の人間たちには見分けが付かない。

 

 そんな女の子相手にミサイルの雨を撃たせまくる命令を下す自分に、思わず少しだけだが罪悪感を感じてしまったほど、見た目的には普通に可愛い女の子。・・・が、悲鳴上げまくって逃げまくってる姿。

 

 

 

 後に政府公認の精霊対策チームから、《ブレザー》のコードネームを正式に決定されてしまったことを聞かされた遼子に頭を抱えさせる事になる、未知の精霊と《この世界との初接触》は、こうして幕を閉じ―――その後2ヶ月がなにごとも無く平和に時だけが過ぎていった。

 

 

 

 

 そして今日。

 

 

「二年――四組か」

 

 廊下に張り出されたクラス表を適当に確認してから俺、『五河士道』は、これから一年間お世話になる教室へと入っていく。

 

 俺が通う都立雷禅高校は、三〇年前に多発するようになった空間震によって更地になった土地で、さまざまな最新技術のテスト都市として再開発されるようになった一帯に建てられた比較的新しい学校だ。

 数年前に創設されたばかりだから、内外装にも損傷はほとんど見られない。もちろん旧被災地に新設された高校らしく地下シェルターも完備されている。

 

 その設備面での条件の良さ故か、入試倍率は決して低くはなく、「家が近いから」ってだけの理由で受験先に決めた当時の俺は少なからず苦労する羽目になったものだったが、その苦労も実って二年生に進級した今日まで大過なく無事に過ごす事ができたわけである。

 

「あー・・・・・・そういや、『ギャルゲー主人公っぽい理由だな』って、からかわれた事あったんだったよな。俺の入学先志望動機って・・・」

 

 小さくうなりながら席について、今までを過ごすことの出来た二年間の苦労話を思い出していく過程で、イヤな事まで思い出しちまって一瞬ゲンナリさせられる。

 まったく失礼な言いようだったと、今思い出しても不快にされるほどの暴言だった。ったく、アイツは・・・・・・人の事をゲームキャラか何かみたいに・・・・・・。

 

 そんな風に友人の一人との会話内容を――いや、友人って程ではなく、さりとて赤の他人ってほど遠くもなければ嫌いでもなく、それなりに親しみを感じているし遊ぶ事なんかもあるから・・・・・・知人? そう知人だ。

 すごく仲がいい知人だけど、友達って程でもない2年生の時に初めて仲良くなった級友との会話を思い出して色々と思うところがあった事まで記憶の底から掘り出していく途中で、

 

「――おはよう、五河。新学期早々、元気そうで何よりだ」

「ん? ・・・・・・お、おう・・・殿町・・・」

 

 後方から不意に、静かだけど抑揚はある聞き覚えのある声を掛けられてしまった。・・・しかも何故か、右手を右手で握りしめられながら・・・。

 

 その手の動きにだけ変な意味が込められてないだろうなと不振に思いながら、もしあった時には全力で縁を切って断絶しようと心に決めながら振り返った先に、体格のいい男子生徒が立っていた。

 

 ワックスで逆立てられてはいるが、天には届きそうもない髪と無駄に筋肉質な身体を誇示するようなポーズで、立ったまま俺を見下ろしてくるコイツは一応ながら俺の友人、殿町宏人だ。

 さっきクラス表を確認した時に、コイツともまた同じクラスだったことは知ってたんだけど・・・・・・見間違いだったら良かったなーと思わなくもなかった悪友でもある男である。

 いやホント、なんで俺コイツと友人づきあい続けてんのかなーって、たまに思っちまう時がある奴なんだ。嫌いじゃないんだけど、たまに本当に。決して嫌いなわけではないのだが・・・・・・。

 

「しかし、奇遇だな五河。また、お前と同じクラスになれるとは・・・・・・この殿町宏人、運命を感じるよ☆」

「そ、そうか・・・」

 

 気持ち悪いセリフを、気持ち悪いポーズで告げてくる悪友に、俺は曖昧な答えを返しながら、普段通りのくだらない駄弁りへと無理やり話を逸らさせようとして、

 

「――五河士道」

「ん・・・・・・?」

 

 今度は横から、別の声が――女の子の声で呼びかけられる。

 静かで抑揚のない、聞き覚えのない声だった。

 不思議に思って振り向くと――そこには細身の少女が立っていた。

 

 肩に触れるか触れないかぐらいの髪に、人形のように整った無表情な顔が特徴的な女の子だった。

 周囲をキョロキョロと、見回してみたがホームルーム開始より少し前の時間帯もあって、俺たちの周りには俺たちだけしかいない。

 つまりは俺以外の、『イツカシドウさん』が呼ばれたわけではない、という事になるのだろう。おそらくはだが。

 

「・・・・・・俺?」

「そう」

 

 念のため、自分を指さしながら声にも出して確認してみたが、相手の少女はさしたる感慨もなしにアッサリ頷かれてしまう。

 それでも俺には、相手の女の子に見覚えがない。全く記憶の中にある顔から思い出せない。

 

「な、なんで俺の名前を・・・・・・?」

「覚えていないの?」

「う・・・・・・」

「そう」

 

 まっすぐ自分の方を見つめながら問われてしまって、思い出せない自分に罪悪感を感じさせられて言い淀んでいると、相手の方は特に落胆した様子もないまま短く言って、窓際の席へと歩いて行ってしまった。

 そして、そのまま椅子に座ると、机の中から分厚い本を取り出して読み始める。・・・・・・まったくワケガワカラナイ・・・・・・。

 

「な、なぁ殿町。アレ・・・・・・誰だ?」

「なに? お前、ウチの高校が誇る超天才、鳶一折紙を知らないのか?」

「・・・・・・ん。前のクラスに、あんな子いたっけ?」

 

 結局わからなかったので殿町に訊くと、コイツは欧米人のようなリアクションを取って「信じられない」という思いをオーバーアクションで表現してくる。

 

「成績は常に学年主席、体育も完璧。この前の模試に至っちゃ全国トップとかいう頭のおかしい数字だ。おまけに、あの美人ときてやがる。

 去年の『恋人にしたい女子ランキング・ベスト13』では第3位だぜ? 見てなかったのか?」

「見てねぇし、やってたことすら知らねぇよ、そんなランキング。

 っていうかベスト13って、何でそんな中途半端な数字なんだよ?」

「主催者の女子が、13位にランクインしていたからだろう」

「ああ・・・・・・なる、ほど・・・・・・」

 

 俺は引き下がって納得しながら苦笑する。むしろ苦笑するしかない。

 どうしてもランク入りしたかったって事なんだろうなぁ、きっと・・・・・・まぁその発表の仕方だと、一三人中最下位だったのが自分だったと公言してるようなものなんだけど・・・・・・そこまでは気が回らなかったらしい。そういう事なんだろう、多分だが・・・。

 

「ちなみに、俺調べの『恋人にしたい女子ランキング』でも、トップ3から落ちた事のない安定ぶりだぞ。

 そんな構内一の有名人を知らないとはな・・・・・・でも、それならなぜ鳶一はお前のことを知っているんだ?」

「そんなの俺が聞きたいよ」

 

 これには素直に俺の本心を答えて、余計な質問の続きは先んじてバッサリ切り捨てておく。

 実際、俺には本当に彼女のことに覚えがなく、名前にも顔にも聞き覚えや見覚えが一切。

 ・・・・・・ただ何となく、鳶一折紙という名前を聞かされてから彼女の顔を見つめ直した時に、なにか感じるものがあったような気がしたのだけは気になっていた。

 

 杞憂かもしれないし、単なるデジャビゥって奴でしかないのかもしれないけど・・・・・・なんとなく、その静かに本を読み続ける姿が気になって・・・・・・

 

「そして、俺調べの『恋人にしたい男子ランキング』によると、お前は52位だった。

 匿名希望さんから一票だけ入っていたからな。

 下位ランクは一票も入らない奴ばっかりのワーストランキング状態だったから、1票だけでも52位になることが可能になるランキング形式に感謝しろよ?」

「反応しずれぇ順位だなオイ!? っていうか、どんな苦行だよ! やめろよ! 53位以下の男子たちの気持ちも少しは考えてやれや!!」

 

 殿町のバカ発言のせいで全てがウヤムヤになり、ギャーギャーと普段通りのバカ騒ぎを繰り広げている中。

 今度は、今日“4人目”からの声が掛けられる。

 

 

「・・・・・・相変わらず、朝から元気なヤツらだな。殿町も五河も、たまにはテンション下げたらどーなん?」

 

 

 そのダウナー気味で、やる気もなければ覇気も感じられない少し暗めの声を聞かされながら、俺と殿町は聞き覚えのある声のソイツに向かってそろって振り返って顔を見る。

 

「よ、“転校生”。相変わらず目が腐ったテンション低そうな目をしてるな、美人なのに勿体ない」

「おはよう、己葉。この前は手伝ってくれてサンキューな?」

「・・・・・・ん」

 

 それだけ答えて僅かに微笑むと、死んだ魚みたいに腐ってる瞳だけが暗そうだけど、それ以外には文句のつけようのない見た目をもった美少女の女友達みたいなモンの“知り合い”は、俺たちの近くに割り当てられた自分の席へと無言のまま向かっていく。

 

「しっかし、転校生がウチの学校にきて俺と五河の仲に加わってから、もう3ヶ月近く経つのか・・・・・・月日が経つのは早いものだなぁー。俺も年を取るわけだぜ」

「いや、同い年だろお前は。っつか、まだその渾名で呼び続けるつもりだったのかよ。

 転校してきてから2ヶ月経ったら、もう転校生でもなんでもなくなって、普通の生徒と同じじゃねぇか・・・」

「そこはそれ、コレはコレ。キャラ設定ってもののイメージがあるのさ。

 2年生の終わり頃なんていう中途半端な時期に転校してきた、“謎の転校生”という属性は、一度定着してしまうと時が経ったぐらいじゃ外れなくなるものなのさ」

「ふ~ん、そういうもんなのか?」

「そういうものだ。特に美人は、一度つけられたイメージと渾名は外れにくい。美人だからな」

「二度言うな、二度。結局、美人は他と違うって言いたいだけじゃねぇか」

 

 半眼で、俺は殿町にツッコミを入れて、当の本人である悲喜谷己葉は、肩をすくめて聞き流して席に着く。

 今、殿町が言ったとおり悲喜谷は二年次の終わり頃になってから、ウチの高校に突然転校してきた転校生で、その当時は確かに話題になったのを覚えてる。

 

 ローテンションに見えて、盛り上がる時には盛り上がれるタイプなのか意外とノリが良く、また見た目と性別に反して妙に女子が苦手で距離を置きたがる変な癖をもっていたという事情も重なって、たまたま同じクラスだったってのもあり俺たちと性別を超えたスゴく親しい知人みたいな関係に今ではなっている。

 

 今から2ヶ月ちょっと前の話だ。

 あの時には丁度《時空震》が発生した翌日のことだったから、よく覚えてる。関連付けて騒いでた一部生徒もいたことだし。

 

「なるほどね・・・・・・その理由なら、転校生ってニックネームの継続使用は認めざるを得ないか・・・。

 美人かどうかはともかく、転校生属性の付与条件は満たしてるのは確かだから、やむを得ない」

「って、お前もかい!? 自分の渾名だぞ! いいのか本当にそれで!? ギャルゲーの理屈で同じ銘々理由に使われちまっているのだが!?」

「ギャルゲーとは世界の真理が記されているバイブルだ。それに逆らうことはギャルゲーの神に背くも同じこと。

 現実なんていう下等で愚かなクソゲーには決して許されない大罪だなんだから仕方ないだろう?」

「同類だーっ! やっぱコイツら同類だった! 分かってたけど治ってねぇーっ!!」

 

 あまりと言えばあまりに過ぎる、美少女顔で言うには似つかわしくない変態っぽい発言を大真面目にかましてくる3ヶ月近く経っても転校生という渾名のままの俺の知り合い!

 

 

 ・・・・・・余談だがって言うか、今更言うまでもないだろうけれど。

 コイツは女の子でありながらギャルゲーを愛する、筋金入りのギャルゲーマーで、殿町ともやたらと趣味が合い、俺たちが仲良くなる大きな理由になってる奴だった。

 

 まったく・・・女の子が女の子相手に恋愛ゲームをやって、なにが楽しいのか俺にはサッパリ分からないが・・・・・・まぁ、趣味は個人の自由だからな。殿町ほど暑っ苦しくもないし押しつけても来ないから由としとくべき事なんだろう。

 

「・・・・・・ところで、五河。さっき殿町が気になる単語を言ってた気がするんだが・・・・・・トビイチオリガミと知り合いだったん・・・?」

「ん? いや、殿町にも言ったが相手が俺の名前を知ってたってだけで、俺の方は全く覚えてないんだけど・・・・・・お前も鳶一になんかあったのか?」

「いやまぁ・・・・・・ちょっと過去の擦れ違いでイヤな思い出がある人と似てたからさ・・・。

 悪いけど、彼女と話すときにはボクを遠ざけて話しかけることなく、会話するよう心がけてくれると助かる。そうしてさえいれば気づかれる心配ないはずだから・・・」

「・・・・・・?? ああ、まぁ別にいいけど・・・?」

 

 なんかよく分からない事を頼まれながら、「頼んだよ?」と念を押して、フードみたいに制服のブレザーを脱いで頭からかぶって顔を隠してしまう悲喜谷己葉。

 

 ・・・・・・相変わらず変な奴だった。今に始まったことじゃないからいいけどさ。

 

「はい、皆さん。おはよぉございます。これから一年、皆さんの他人を務めます、岡峰珠恵です」

『おおー、タマちゃんだ! やった!』

 

 そうこうしている内に、新学年最初の授業開始を告げるチャイムの音が鳴り響き、二年次にも担任だったタマちゃんこと岡峰先生が今年も担任だったことに安堵と歓声がクラス中に響き渡る中。

 

 

 ――俺は何故かジーッと自分のことを授業中も見つめてくる鳶一折紙からの視線に晒されながら、その視線の射線上にいるらしい悲喜谷がブレザーかぶって顔隠したままの変な姿を見せつけられながら、それ以外はなにごともなく平和な時間が過ぎていき。

 

 

 そして――――その時が訪れる。

 

 

 

 

『ただ今、当区域において空間震の前震が観測されました。空間震の発生が予想されます。

 これは訓練ではありません。近隣住人の皆さんは、速やかに最寄りのシェルターに避難してください。

 繰り返します。これは訓練ではありません。速やかにシェルターに避難してください』

 

 

 

 

 

オマケ『主人公設定(仮決め)』

 

【悲喜谷己葉(ヒキタニ・オレハ)】

 

 言うまでもなく、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」の主人公、比企谷八幡をモデルに使ったオリジナル精霊主人公。

 ただ、あくまでモデルであり本人とは一切全く関係はなく、記憶の一部や感覚的に似たものが混じっているのも『モデルになった素体だから』というだけが理由の、完全無欠に赤の他人。

 

 いろいろ設定は決めておらず未定。所詮は使い捨てネタ用の試作型主人公。続ける場合はちゃんと考えて肉付けするといった所。

 

 俺ガイル系の考え方と解決策を、デート・ア・ライブの世界に持ち込んでくる存在であり、精霊という『種族故の特性』として五河士道に肉体面で惹かれるものを感じさせられてしまっているが、精神面や価値観などでは合わない部分も多いところを持つ、自分から望んでボッチになりたがる、ひねくれエリート精霊の少女。

 

 能力名は『ステルス・ボッチー』で、完全ステルス性能を発揮し、使用されると神でさえも存在を認識することが出来なくなってしまう。

 世界からも存在が認識されなくなるため、世界の内側の存在であるミサイルや爆風といった物理現象でさえも、その効果対象として認識できずにスルーさせることが可能になる、回避スキルとしては最高クラスの絶対回避能力にもなり得る力。

 

 ・・・・・・ただし、それ以外は何も出来ない能力でもある。

 しかも完全発動させてしまうと、世界からも存在が認識されなくなるため、世界の内側にある他の物体や現象に干渉することも不可能になってしまって、完全に別世界の存在になってしまうため、自分だけは安全だが、他人にとっては何の役にも立たない存在と化してしまうデメリットをも背負う羽目に陥ってしまう。

 

 精霊として与えられたコードネームは《ブレザー》

 本人としては、呼ばれるたびに恥ずかしくなる名称だったが、精霊を敵視する者達が精霊につけた名前を、精霊の一存で変えれるわけもないため我慢して受け入れるしかない。

 

 また、オリジナルの素体がボッチ男だからという事情から、なんとなく同性の女子生徒の方が苦手であり、特に『優しい女の子』を嫌う傾向がある。

 一方で、モテない男たちや、男友達が少なそうな主人公の士道なんかとは、オリジナルの人間関係が影響して仲がいい。

 ぶっちゃけ、材木座と同じカテゴリーで感じているわけなのだが・・・・・・。

 

 ハーレムラブコメ系の主人公は、美少女たちにはモテまくるが、同性の友達は超少ない。基本である。


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