試作品集   作:ひきがやもとまち

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久々の更新【コードギアス英雄伝】最新話です。
色々思うところがあって長く書けない状況が続いてまして……先日の気分転換で踏ん切りも付きましたので折角なので書いてみようと思った次第。

つまらなかったら、ゴメンナサイ…。


コードギアス英雄伝説~もしも仮面の男が黄金の獅子帝だったなら・・・~第3章

 神聖ブリタニア帝国は、この世界において唯一の超大国であり、世界制覇の野望を掲げ各国へと侵略戦争を繰り返している軍事大国でもある。

 『弱肉強食』の名の下で実行される彼らの征服と支配は、残忍ではなくとも苛烈を極め、『力ある者が全てを得る』という彼らの手法は既に国是を超え、一つの思想になっていると言い切っても過言ではあるまい。

 

 彼らのやり方を指し、『力で一方的に押しつける方法は長続きするものではない』と批判することは容易い。

 だが、その論を主張する者達は、ブリタニアに征服された『合議制を取る民主国』や『平和主義を掲げる平和国家』の存在を、どのように説明しうるのだろうか・・・?

 

 ――とは言え現実問題として、ブリタニア一国で世界を相手に戦争を仕掛けるには、力だけでは不足であるのも事実ではあった。

 それら思想と現実との隔たりを埋めるため、ブリタニアは幾つかの政策をおこなっている。

 

 その一つが、『名誉ブリタニア人』の称号。

 一般には、被占領国の民衆たちがブリタニアの三等市民になることを受け入れるか、軍に志願入隊した際などに与えられる地位身分として知られている。

 だが一方で『聖戦への貢献に対する報償』として軍への志願入隊だけでなく、資金提供者の商人たちにも同様のものが授与されており、多額の軍資金を献上した者には下級ながらもブリタニア貴族としての身分が与えられ、占領国内限定ではあるものの様々な特権が付属する決まりになっている。

 要するに、金で貴族の地位を売って軍資金に充てているのが、この制度だった。

 

 そして今一つの政策が、『旧型ナイトメアの他国への売却』である。

 自軍の陣営では既に型遅れとなった旧式のナイトメアを、中華連邦などの同盟国へ売りつけ、売って得た資金で自分たちは最新型を生産しようという一石二鳥の策として立案されたのが、この政策だ。

 ナイトメアにとって心臓部に当たるエナジー・ピラーの情報は、当然ながら最重要軍事機密とされ、厳重に秘匿されて独占されており、たとえ敵国が現物を手にしても独自の高性能な新型ナイトメア・フレームを造り出すことは出来ないようになっている。

 ならば敵性国家が旧式ナイトメアを手に入れたところで、高性能な新型の開発母体として使われる恐れはない・・・・・・そういう計算から実行に移された内容だったのだが。

 

 この政策が、後にブリタニアの世界制覇を阻む最大の障害となって立ちはだかることになる未来を、今の時点で知りえる者は誰もいない―――

 

 

 

 

 

 

 

『不審車両に警告する! 今ならば、弁護人をつけることが可能である! ただちに停車せよ! 繰り返す! 右側車線に車を寄せ、ただちに停車せよッ!!』

 

 外部スピーカー用のマイクに向かって、得意顔でそう演説するブリタニア軍のトウキョウ租界防衛部隊に所属するヘリ部隊を率いる隊長にとって、今回の“依頼”は美味しい任務だった。

 

 ダールトン将軍“個人からの要望”として、ただ軍施設から重要物資を奪って逃走した都市ゲリラの乗る偽装トレーラーを追尾し、ナイトメア部隊が展開しやすい広々とした平地まで“車両を傷つけることなく追い込め”ば、それでいいというのだから。

 

 現地において最高位の地位にあるクロヴィス殿下からも同様の命令を受けてはいるものの、殿下からの命令内容には『やむを得ざる時には』という但し書きが付くのに対して、将軍からの依頼は『絶対に傷つけるな』という条件が付属されていた。

 当然ながら、難易度が高い方が報酬額はいいのが世の摂理だ。軍であれ、一般社会であれ、それが変わることは滅多にない。

 

 将軍としては、なんとしてでもゲリラに奪われた物資を『無傷で取り返して“から”』の武力鎮圧がお望みらしい。それ故にナイトメアフレームで取り囲み、降伏させるという形での解決がもっとも望ましい。そういう事なのだろう。

 

 それほどまでに将軍から重視され、総督とは対応に微妙な温度差のある奪われた物資がなんであるのか、彼は知らない。興味を持ってもいないし、今後も持つことはないだろう。

 せいぜいが、上層部内でパワーゲームの駆け引きがあった故の結果――その程度で納得して、それ以上を考えようとは微塵も思わない。

 

(どうせ俺たち下っ端には縁のねぇ、お上の事情なんざ知ったことか! せいぜい美味しい汁だけ吸わせてもらうため利用させてもらう!

 見てやがれ! 自分を主役だと思い込んでるナイトメア乗りのブリキ共!

 俺の出世のため、踏み台になりやがれ!!)

 

 そう心の中で口汚く同僚を罵りながら、声に出しては誠実さを装って軍本部へ指示を仰ぐ。

 

「ターゲットは租界から、ゲットーへ向かいます!」

『よし、追い込め』

「Yesッ!!」

 

 打てば響く耳障りのいい返礼をし――当初の予定通りでしかない予定調和の飛行ルートを、そのまま維持してトレーラーを追い込む作業を続行していく。

 

 ・・・・・・かつては攻撃隊の主力を担っていた攻撃ヘリ部隊も、世界初の人型機動兵器ナイトメア・フレームが誕生して戦場の主役となった現在においては旧式ナイトメアより時代遅れな旧型兵器と化し、戦場から遠く離れて都市の治安維持任務に回され、獲物と言えば反政府ゲリラの武装車両程度のものという有様に今ではなっている。

 

 配属先をナイトメアへと機種転換しようにも、ヘリより更に操作が複雑になった操縦系統は、老いた頭では付いていけない。

 と言って、『自分は愛機と共に一生を共にする』と言い切れない程度には、俗世的な地位身分や、年少の同僚たちに追い抜かれる立場に鬱屈したものを感じさせられていた俗人でしかない彼にとって、今回の依頼は『偉そうな顔して命令してくる若造共』を最後の仕上げ役として頤使してやれる、己の小さなプライドを満たす上でも都合のいいものだった。だから乗ったのだ。

 今更その手柄を、他人の手に渡してやる気は少しもない! 

 

「――高度を下げて、威嚇射撃をする。お前たちは現在の高度を維持して待機、増援の警戒を怠るなっ!」

『隊長ッ!? それは危険では――』

「この高さから撃ったのでは万一と言うことがある! 周囲の建物や逃げ遅れた民間人に被害を及ぼす危険を冒す気か!?」

『し、しかし・・・・・・』

 

 無論そんな綺麗事を本気で信じて言っていたわけではなく、将軍から話を持ちかけられているのが自分だけで、総督の指示で動く部下たちに発砲され万が一があっては嫌だっただけでしかない。

 抗弁しようとした部下たちを無視して隊長機だけで降下を始めさせ、機体下部に据え付けられた機銃の狙いをターゲットに完全にロックオンするため高度を落とす。

 

 ――だが、その直後トンネルに入られてしまったため撃つ機を逸して舌打ちし、トンネルを出てきたところで再び狙いを定めて、よく狙い・・・・・・後部ハッチが微妙な隙間分だけ開かれた姿を僅かに見い出す。

 

(・・・?? 機体の揺れで動作エラーでも発生したのか?)

 

 かすかに首をかしげながら、その穴をキャノピュー越しに凝視した瞬間。

 隊長の眼球は、その小さなスペースから更に小さくて細いナニカが高速で発射される光景を焼き付け―――そのまま爆散。

 長年乗り続けてきた愛機とともに、不本意な生涯を終えさせられることになる・・・・・・。

 

 

 

 

『た、隊長ーっ!?』

『スラッシュ・ハーケンだと!? ということは・・・・・・まさかッ!?』

 

 先頭を切って突撃し、手柄を独り占めするため一機だけ先行しすぎていた隊長機が撃破された光景を、命令によって後衛に追いやられていたからこそ全体像を見ることが叶っていた2人の部下たちが乗るヘリ部隊の残存戦力たちだったが、生き残れたことを喜べる幸運をまだ与えられていなかった。

 それどころか、ヘルメットに上半分を隠された顔色は青く染まり、いるはずのない存在を敵に見出した恐怖に怯える姿は、恐怖する時間すら与えられずに即死させられた隊長の方が、まだマシだったのではと思えるほど蒼白に染まり尽くしていた。

 

 ――まさかそんな、ありえるはずはない。そんなことはあり得てはならない!

 心の中で何度も言い聞かせながら、噂だけは耳にしたことがある思い起こさずにはいられない光景を前にして、行動を変更する決断も出来ぬまま、ただ直進し続けてしまう2機の地上攻撃ヘリ。

 

 それは文字通り、彼らにとって悪夢そのものだった。

 自分たちを過去の遺物へと追いやった能力を誇る、新たな地上戦の王者とも呼ぶべき存在。

 この高さからでは、空中戦力であっても一方的に攻撃できない悪夢の具現。

 

 それが後部ハッチを完全に開け放たれた、ゲリラたちが乗る偽装トレーラーから姿を現す。

 無骨にも見えるシルエットに 人間のような四肢を取り付け、人間よりも大分大きなサイズを誇る存在が、まるで獲物を見つけて口腔を開閉させる毒蛇のように禍々しい赤い光を頭部中央に光らせながら――起動する。

 

 防衛部隊とはいえ、ブリタニア軍に属する兵士たちである彼らにとって、最も見慣れた畏怖すべき存在。

 

 

「な――《ナイトメア》だとぉッ!?」

 

 

 ブリタニア軍の旧主力ナイトメア・フレーム『グラスコー』

 それが、この人が造り出した異形の名前だった。

 

 ブリタニア軍が開発して、日本侵攻の際に初めて実戦投入され絶大な戦果をあげ、既存兵器しか持たない旧日本軍相手に圧倒的勝利をもたらした、ブリタニア帝国にとって勝利の象徴。

 

 それは味方であれば、この上なく頼もしい存在として守護神のように感じられた存在だったが、敵の戦力として用いられてしまえば旧兵器に属する攻撃ヘリのパイロットでしかない彼らにとっては抗いようのない死神としか映りようがない。

 

 ブリタニア軍が軍費調達のため、同盟国である中華連邦にナイトメアを売却している話自体は兵士たちの間で広く知られており、幼い主君を傀儡として国を牛耳っている中華連邦の守銭奴共がブリタニアから購入したナイトメアを第三国へと更に高値をつけて転売しているという噂も、公然とではないものの兵士たちの間では失笑と共に語られてはいた。

 

 ――だが昨今、別の黒い噂が兵たちの間でまことしやかに囁かれるようにもなってきていた。

 

 ブリタニア軍は長引く侵略戦争の資金難から、中華連邦の密輸を承知の上で大量の旧型ナイトメアを売却し、各地の戦場でナイトメア同士の戦いが頻発するようになっているという噂をである。

 

 一度、中華連邦に売り払ったナイトメアが、その後どのように扱われて誰に密輸されようとも、それは中華連邦の管理態勢の不備が問題なのであって、ブリタニアの関知するところではない。

 ・・・・・・そのお題目で資金源に利用しているという理屈は分かるが、現実に戦場でナイトメアを相手に戦わされるのは自分たち、通常兵器に乗った兵士たちなのである。

 

 斯くして、ブリタニア世界制覇のための政策によって、ブリタニアの開発した兵器がブリタニア人の兵士を殺す道具として使われる、皮肉としか言い様がない状況が現出することになるのだが。

 

 その皮肉を皮肉と解釈して、あざ笑うことが出来るのは生き残った者だけの特権であるのが戦場の真理だ。

 

『コイツの威力は、お前たちがよく知っているだろう!』

「ヒッ!? こ、高度を取れ・・・いや、機銃の迎撃―――うわぁッ!?」

 

 コクピット内に全周囲チャンネルで響いてきた敵パイロットとおぼしき声の主からの通信に返事を返す猶予は与えられることなく、新たに一機の同僚が愛機ごと空の藻屑と化して塵となり、かろうじて敵に銃火器の武装まではなかったおかげで最後の一機が距離をとることだけは可能になったが・・・・・・状況は最悪だった。

 

 ローラーによる地上での高速移動を可能にしたナイトメアを相手に、機動性と可変性で劣る攻撃ヘリでは対処しようがない。追い込もうにも一機だけ残った残存数だけでは、どうすること出来ない。

 だからと言って、逃げるのも難しい。許可なく勝手に撤退してしまえば敵前逃亡の罪で銃殺が待つのが軍隊という特殊な社会の特徴なのだ。

 

 一体どうすれば――!?と悩みながらも、生き残るため最善を尽くそうとするヘリのパイロット。

 ・・・・・・結局それが彼と、先に戦死した二人の差だったのかもしれない。

 運命や神と呼ばれる存在が実在しているか否かは判然としないが、少なくともこの時、絶体絶命の状況下で生きるのを諦めることなく足掻き続けた彼の思いは、通信機から聞こえてきた尊大そうな声によって、正しく報われることとなる。

 

 

『――お前たちは下がれ。ここからは私が相手をする。

 どこから流れたのかは知らんが、旧型のグラスコーでは、この《サザーラント》は止められぬ!

 ましてや皇帝陛下の寵愛を理解できぬ、イレヴン風情にはなッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ブリタニア軍の攻撃ヘリ部隊と、日本側のゲリラが繰り出してきたナイトメア・フレームとの戦いに、皇族直属の親衛隊まで参戦してくる状況となり、更に戦線と被害を拡大することが予想される戦況になりつつある中。

 

 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは、些か不本意な状況に不快さを禁じ得ないままの状態で、グラスコーが飛び出していった後のトレーラー後部ハッチ内に座り込んで状況分析だけに労力を費やす不毛な作業をおこない続けていた。

 

 

「まったく・・・・・・まさか本物のテロリスト――いや、日本人たちの反乱軍だったとはな。これでは下手に外へ出るのも危険か」

 

 携帯電話のナビ機能を起動させ、現在地の把握と、別窓に開かせたニュース報道の内容から現在の自分が置かれている状況をも推測して、脳内に構築した地図上に重ねてイメージさせながら、ルルーシュは現状の自分が置かれた立場に不満を禁じずにはいられなかった。

 

 自分が今回の騒動に巻き込まれたのは偶然であり、望んで日本側ゲリラの偽装トレーラーに乗り込んでしまったわけでもなく、軍から追われる立場へと一転してしまうリスクを承知で戦闘に介入したわけでもない。全ては偶然の積み重ねと成り行きに過ぎない結果が、今のルルーシュが置かれている立場の全てだった。

 

 だが、だからと言って自分の不幸を呪っていたわけではないのが、ルルーシュのルルーシュたる由縁だった。

 彼はただ、『他人たちの都合に振り回され、状況に流されるだけでしかない無力な己自身の立場』が嫌いだと感じているだけだったからだ。

 

 たとえ相手が誰であろうと、自分以外の何者かに自分の行動が決められてしまい、覆すことが出来ないという状況をルルーシュの矜持は、容認することが出来なかった。

 『運命』だの『神の決めたこと』などという言い訳に逃げている自己満足の主張に、まるで共感することも受け入れることも出来ない性分の持ち主だったのが彼である以上、この状況からの脱出にも自己の力と知恵によって乗り越えたいとする想いが、ルルーシュの幼い稚気と反骨心が刺激されずにはいられない。

 

 とは言え状況は、あまり芳しくはなかった。

 このままトレーラー内に留まった状態でゲリラたちがブリタニア軍に拿捕されてしまえば、自分まで反ブリタニア思想を持つブリタニア人の「主義者」である疑いが掛けられかねない。

 それは全くの事実ではあったが、それを暴かれる流れと経緯が他人たちの都合に振り回された成り行きの結果というのでは、世界帝国ブリタニアへの反逆を目論んでいる大逆の輩として不本意すぎる形での途中下車となってしまうだろう。

 

 そのためルルーシュとしては、日本のゲリラ側にある程度の善戦を期待して、現在の追跡から逃げ延びることに成功した後、独力でトレーラーから脱出して何らかの手段で租界へと戻るより他に手段はなかった。

 

 選択肢としてだけならば、アッシュフォード学園の生徒という地位身分を明かすことでブリタニア軍に保護を求めるという手段も執れなくないが、それは最終手段として自力での脱出法法が万策尽きた後に選ぶべき道と想い決めている。

 

(まるで乞食のように、他人からの慈悲に縋って生きながらえるなら、死んだ方がマシだ!!)

 

 そういう想いと理由である。

 この発想が、良くも悪くも彼の人生を大きく動かし、その動きに世界までもを付き合わせてしまえる巨大すぎるウネリを生み出していく原動力にもなっていくのだが・・・・・・それは今の彼に取ってさえ知ることの出来ない未来の己の話でもある。

 

 

「しかし・・・・・・あの女、どこかで見覚えがあるような気がしたが・・・・・・?」

 

 そう思い、呟いたのは先ほど自分の隠れ潜むトレーラーから出撃していったグラスコーのパイロットである、一人の少女の記憶だった。

 物陰に隠れてやり過ごした自分に気づくことなく、トレーラー内を横断していく時に見ていた横顔には確かに見覚えがある気がしたのだ。

 それは相手自身の特徴的な姿もあって、強烈に印象に残った故でもある。

 

 ――赤い髪と、青色の瞳。

 

 一見しただけで明らかに純粋な日本人ではなく、おそらくはハーフかクォーターでブリタニア人側の血が色濃く受け継がれてしまった、遺伝子のイタズラ故の結果なのだろうが・・・・・・そんな風袋を持つ人物が日本側ゲリラとしてブリタニア正規軍との戦いに参戦して、しかも自分と差ほど年齢の違わぬ少女とくれば忘れるという方が難しい。

 

 しかし、それとは別に彼女の顔は記憶にあるような気がしたのだ。

 もっと身近で、しかも近い過去に見た覚えが・・・・・・。

 

 別人かもしれない。先ほどの生気に満ちた、輝かしいばかりの姿と自分の記憶にある『彼女』の姿は、あまりにも印象が違いすぎて整合性が完全には取れない。

 だが、それ故の変装という可能性もある。どちらにしろ確認することが出来るのは、自分がこの窮地から脱することが出来た後ということになるだろうが・・・・・・。

 

 そこまで考えた時、不意にルルーシュは口元に、意地悪そうな笑みを浮かべる。

 

「・・・・・・誘惑を感じるな。襲う役か、助ける役か。

 どちらの方が、俺の覇道にとって選ぶべき道たり得る選択肢かな?」

 

 ブリタニア軍から追跡されている日本側ゲリラのトレーラー内で呟かれたルルーシュの発言は、何気なさそうに見えて途方もなく不遜で、不敵極まりない中身を内包してのものであった。

 

 彼はこの状況を偶然に巻き込まれた事故として終わらせる気はなく、何らかの形で自分の覇業に役立たせる踏み台として利用する術を頭の中で算段していたのである。

 日本側に手を貸すことで恩を売り、将来の味方としてツテを作っておくため確保するか。

 それともゲリラたちを独力で捕らえるか、重要機密なり人物を奪取して軍へと売り込む手土産とするか。そのどちらが未来の自分にとって、より有益かと算盤を弾いていたのである。

 先ほどからルルーシュが座り込んだまま考え続けていたのは、その策を構築するため思考に没頭していた故であった。

 今この時の彼の立場を考えれば、それは呆れられて当然の自惚れと驕り高ぶりとしか思いようのない、無謀な若者の妄想に過ぎないと、良識ある大人たちに笑われるか窘められるかのどちらかでしかないは承知していながら、それでもルルーシュの心には細波一つ立つことはなかったのだ。

 

 どのような偉人や、如何な大国であろうとも、始まりは無名の無力な若者や、取るに足らぬ小国から始まっている事実を彼は知っていた。

 

 皇歴元年が発布されるより前の、西暦が使われていた時代にいた人間たちの中で、ブリタニア帝国という超大国が世界を席巻しつつある現在の世界情勢を、常識として心得ていた者が一人でもいたのか?

 

 所詮、世の大人たちが語る常識などというものは、自分たちの『今』を絶対視して、未来永劫不変であると信じて疑わぬ猛進によってしか成立しようのない愚者の妄想にしか過ぎぬ・・・・・・そうルルーシュは喝破していた。

 

 日本側の『テロリスト』と呼ばれる者達に対しても、彼は特に抵抗感をもってはいないタイプの人種だった。

 日本はブリタニアとの戦争に敗れて国名を失い、エリア11へと名を変えさせられ、日本人はイレヴンとな、日本国も日本の正規軍も存在しなくなっているのが現在の情勢だ。

 

 軍も持てなくなった敗残の抵抗運動が、正規軍を相手に国を再興させたいと願えば、そういう呼ばれ方をする存在になるより他に手段はない。

 

 征服した側の勝者にとって、滅ぼされた側の敗者たちが国を再興させるための行動は全て『成功の余地なき無謀なテロリズム』でしかないのも当然の認識だった。

 敗残の残党軍が自分たちの国を取り戻すための活動を『解放運動』と称して、それを鎮圧する政府軍側の公式記録には『テロリストの鎮圧』として記されるのが『敵との戦争』であり、『敵対関係』というものだった。

 

 犬は噛みつき、猫は引っかく。異なる戦い方が適用されて然るべきはずだ。

 竜を討つ勇者と、蛇を捕らえる狩人とでは、卑怯とされるやり方も賞賛され軽蔑される理由も違っているのと同じように。

 

 

 なにより、腐った帝国に阿って弱き者に力を振りかざす輩が、ルルーシュは嫌いだった。

 そんな奴らと比べれば、絶対的強者であるブリタニアに抗おうとする旧日本の都市ゲリラのほうが遥かにマシだと言い切ることに躊躇いを感じたことは一度もない。

 

「・・・・・・ん? 携帯が圏外になったか・・・・・・そして、この暗さと路面の悪さから見てシンジュクゲットーの旧地下鉄構内に走っている幹線道路のいずれかまでは逃げ延びれたということだな。上々だ。条件はクリアーした。そろそろ俺も動き出すとしよう。

 風任せという生き方は、やはり好きではないからな―――」

 

 

 せめて、その風を造り出す側ぐらいにならなければ帳尻が合わない。

 心の中の呟きとはいえ、そこまでの想いを抱くことの出来るルルーシュ・ヴィ・ブリタニアという少年は、確かにやり方こそ偏っているとは言え、気高い志と大望を希有な存在だったことは間違いなかったのだろう。

 

 

 ・・・・・・ただ大望を抱く者の多くに共通する特徴として、自らが大きな目標に向かって邁進している時、自分以外の何者かも同じように大望を抱いて異なる目標に向かって邁進しているものだという事実を、失念しやすいという悪癖がある。

 

 この時のルルーシュもまた、それら太古から続く伝統的な事例の一員に成り下がってしまっていたのだと、世界中で起きている物事の全てを知ることのできる、神の視点で見下ろす者からは評されていたのかもしれません。

 

 だが現実にルルーシュは、肉体に縛られた不自由な人間という種族の一人であり、自分の知ることのできる範囲内でしか判断材料を持ちようのないという点では他の者達となんら変わるところのない、普通の人間でしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 彼が大望を抱いて、暗く狭い地下深くで歩み出したのと同じ頃。

 ルルーシュが潜む地下から遙か高みにある空を行く輸送機の中に、今一人の若者が大望を胸に秘め隠し、地上へと舞い降りるためシンジュクゲットー上空へ向かって真っ直ぐに飛行中だったのだから―――。

 

 

「テロリストは地下鉄構内に潜伏している。貴様たちの目的は、テロリストが奪った兵器を見つけることにある。

 イレヴンの居住地シンジュクゲットー旧地下鉄構内を探索せよ。発見次第、コードを送れ。ターゲットの回収は我が親衛隊が執り行う。

 貴様たちは名誉ブリタニア人とはいえ、元はイレヴンだ。同じ猿の臭いを嗅ぎ分けろ!

 銃火器の傾向を許可される身分になるため、功績を挙げろ!

 今こそ、ブリタニアに中性を見せるチャンスである!」

 

 

『Yes! マイ・ロードッ!!!』

 

 

 

 後に、『仮面の英雄』のライバル『裏切りの騎士』として世に知られることになる少年とルルーシュとの再会、そして対立の始まりの刻が近いことを、彼らはまだ共に知らない――。

 

 

 

つづく


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