【乙女ゲー好きな女子ゲーマーの感想ネタ】が昔から好きだった作者ですので、そっち系の内容。好みは別れそうですので、特に女性ユーザー様は閲覧にご注意を。
注:作者は原作未読の、アニメ版オンリーで書いてます。
突然ではあるが。
男性諸君は、乙女ゲーをプレイする女子たちに、このような感想を抱いたことはないだろうか?
「君らのやるゲームには、顔が良すぎる男子ばかりが出てくるな。
こういうタイプが現実にいたら、モテるのか、モテるしかない二択だけなのか?フン!」
とか、そんな感じの感想を。
だが、そんな男子諸君に対して私は、乙女ゲームを嗜む女子として敢えて言おう。
「乙女ゲームのキャラを気に入るかは、合う合わないで超極端に評価別れる」
・・・・・・と。
実際のところ、乙女ゲームでも狙ってる男キャラに愛想が尽きることは、やはりある。「こいつシャベえ!」と思って怒鳴るときとか、やっぱりあるのだ。
さらには、そういう時に主人公が彼以外なにも見えない娘だとドン引きさせられもする。
予想以上に男キャラが魅力的な場合でさえ、主人公がそういうタイプだと、フラれたときの心の傷は、ぶっ飛ばしたくなるほど激しい慟哭を抱かされるときも珍しくはない。
いや、嫌いではないのだ。むしろ好きなキャラだからこそと言った方が正しい。
好きなキャラだから、さんざっぱら尽くし続けて、どんだけの手間暇乗り越えて愛してると思ってんのよこの野郎!! こんだけ愛した男にフラれたからには、多少の反撃ぐらいは許される!! そう心から確信させられる時があるのが、女子にとっての乙女ゲームという世界である。
おそらくは、そのせいなのだろう。
女主人公が強い娘だと安心して快適に感情移入することができ、乙女ゲームを穢れた負の感情を抱く心配なしに楽しむことが出来る。
――そして、その点においてこのゲームは駄目だと断言できる。
大手メーカー期待の新作がどうとか知らないが、主人公は嫌いなタイプの女で何時間も付き合ってるのが苦痛でしかなく、攻略対象の男共も、なんでこんな女に惚れるのかサッパリ分からんせいで悪感情が増すばかり。
調子こいて思い上がっている貴族キャラを、ゴスゴスに叩きのめして従わせるルートでもあれば少しは(私の)好感度も上げることができたというものを・・・・・・!!
大体なに? このダンジョン攻略は? 戦争シーンは? パワードスーツ? 要らないのよそんなモン乙女ゲーの世界には必要ねぇ! もともと男向けで人気だったメーカーだかなんだか知らないが余計なモン持ち込んで来んな! 爆ぜろ! 消えろ! 砕け散れ! 乙女にそういうのはいらねぇんだよぉぉぉぉッ!!!!
「はぁ・・・・・・。やっぱこれ、ダメだわ。間違いなくクソゲーだわ。買って損した、クソが」
私はついに我慢しきれずコントローラーを投げ出して、プレイも諦め、フルコンプ目前までプレイしてた乙女新作を「やらなかった方が良かった黒歴史ゲーム」に、新たな1ページが加えられたことを歯ぎしりとともに自覚しながら、クサクサした気持ちを発散するため町へ出る。
夜の町は暗く、昼間とは違う景色を私に見せてくれて、少しだけ精神安定の鎮静剤としての効果をもたらし、私は思わず「フッ・・・」と柔らかい笑みを浮かべてしまう・・・。
そして思うのだ。
――やはり初回限定版の特典に釣られて、微妙な期待度の新作を発売直後に買ったのは失敗だったと。
いや、危険性については分かってはいた。今まで似た経験の1度や2度や3度や12回ぐらい味わったことが無いわけではない身の上だ。それなりの経験と、不吉な未来を予感させるパッケージの見分け方というものは心得ている。
だが、しかし! しかしなのだ! もし仮に名作だった場合に、後から初回限定版を買おうとするとものスッゴい金額になってしまって財布に痛い!痛すぎるのである!
そういう理由で今回のアレも買ってしまって、諦めきれずに今まで続けてきた訳ではあるが・・・・・・
「何事も諦めが肝心、ということだろうな――次の新作に期待するため、お布施したと思って割り切るとしようか・・・・・・ふふ、私もまだまだ青い」
自らの過ちに気づいて自嘲しつつ、私は飲んでいた缶コーヒーをゴミ箱に向かって放り投げ、カンッ!と縁に当たって見事に入って、幸先の良いミラクルシュートを成功できれた自分の運の良さを絶賛しつつ、家に向かって道路を歩いていた―――丁度その時。
「・・・うおぁぁ・・・お、終わったぁ・・・・・・イベント回収率百パーセントの逆ハーレムEND・・・コン、ビニ・・・・・・あ」
「――え?」
突然、空から落ちてきた男の子が、目の下に分厚いクマができた恐怖と理不尽に歪む顔をドアップで迫らせながら落下してきて、私の頭に刻の涙が光る音を確かに耳にして―――
私の意識は永遠に―――この地球上から闇の中へと落ちていって浮かび上がることは二度となかった。
それから十年。
「うわぁ・・・ゲームの学園そのままだな」
俺は眼前にそびえる懐かしくも忌まわしい建物を見上げながら、思わずそう呟くことしかできない心境になっていた。
広大な大陸の中央に位置する近代的かつ自然と調和した美しい都市。それがオルファート王国の王都だ。人口は百万を超え、貴族中心の社会が築かれている。
そして、その町にある学園が俺が今日から三年間を過ごす羽目になっちまった、イヤな思い出しかない呪わしい場所。
貴族の作法だとか冒険者の心得とか魔法なんかも学びながら、今の自分にふさわしい結婚相手探しもしなけりゃならない。
しかも、やっぱり『女に都合良すぎる頭おかしい乙女ゲー世界』の舞台らしい特徴として、女たちがやたら強くて、性格最悪なの多すぎて、オマケに愛人まで連れ放題・・・!!
10年経っても相変わらず、この世界イラつく!!
クソッ! 折角それなりの地位しか与えられないサイズの浮島を見つけて、無人島だったから買い取ったってのに! それが還って評価されて準男爵だったはずが男爵に格上げされ、こんな学園で、あのゾラぐらいの身分の女を相応しい結婚相手として探し出さなきゃいけなくなるなんてぇ・・・・・・っ
「・・・か、帰りてぇ・・・・・・グスン」
「まぁまぁ、兄君くん。来てしまったものは仕方がないのだし、今更いいじゃないか。元から来たがっていたこと自体は、兄君くんの希望通りでもあったわけだし」
「ぐ・・・、それはそうなんだけどさ・・・」
「ククク」
嫌みっぽく、と言うより悪役みたいな、わざとらしい笑い方で笑い声を響かせながら、俺の背後から女子用の制服をまとって姿を現してきた少女の姿を、俺は少し苦手さを感じさせられながら横目で見下ろす。
俺より少し背が低い身長の、俺とよく似た悪そうな目つきに眼鏡をかけて、インテリそうに見えなくもない秀才っぽく演出している女の子だった。
髪は左右に少しだけ毛先を垂らした一応はツインテールの髪型で、イタズラっぽい不敵な表情がデフォルトになっている。
――ただし見た目だけで、中身は脳筋バカな頭脳戦とか俺の方が圧倒的に上なヤツでしかないんだけれども。
「まるで他人事みたいに・・・・・・お前だって男より楽ってだけで、結婚相手にテキトーな男を探し出せなきゃ肩身狭くなるって姉ちゃんから言われてたじゃねぇかよ、山田」
「フフフ、そこは心配無用。私と結婚する男など、間違いなく碌なヤツではないことだけは確定しているからな。気にするだけ無駄というものだ。
――なにしろ、ツインテールの貧乳メガネっ娘と結婚できる男だぞ? そんな趣味趣向を持つ人物が男として碌なものであるわけなかろう?」
「そういうジャンル分けすんじゃねぇ。お前自身のことじゃねぇか、見た目の自覚あるなら少しは直す努力をしろ、この愚昧め」
「ふふ、善処させてもらおう。――それとだが、私の名前は『レイン』だよ。
他人と間違えないでいただきたいな、リオン兄君・く・ん♪」
「く・・・っ、こいつムカつく!!」
スタッカート付きの言い方されて、そのわざとらしさに拳を握って震わせる俺!
この世界に生まれ変わった、元日本人の社会人だった男、『リオンフォー・バルトファルト』は、同じ家で生まれ育った“ことになっている双子の妹”であり、同じく10年前のあの日に記憶を取り戻し合った、同じ事情を理解し合える唯一の存在でもある『レインシー・バルトフェルト』と、いつも通り仲の悪い兄妹ゲンカに見えるなにかをやらかした後、馬鹿らしくなってそっぽを向く。
そう、俺と彼女はいわゆる『転生者』というヤツ同士だったのだ。
しかも前世で最後にプレイしていたゲームも同じ、あのクソな乙女ゲーだったという事まで同じな、いわば被害者同盟とでも呼ぶべき間柄。
互いに憎しみを抱く相手を共有する者同士として、俺とレインは性別を超えて手を結び合い、協力し合って碌でもない今生における母親からの命令を蹴りつけるため冒険をおこなって、手に入れた力と金を山分けして今日に至っている。
乙女ゲーなんてものを愛好してるって点だけは好きになれないヤツではあるが、それ以外の面では割と話も好みも合って相性が良く、この世界では兄妹として生まれ育ったっていうのも嘘じゃないから親近感も湧き、こうして同じ日に同じ学校の門を潜るまで一緒にやってきている訳なのだが。
とはいえ、前世で赤の他人同士だった記憶がある分だけ、どうにも『妹』って認識で見ることができず、本当の妹が“アレ”だったこともあり、妹という存在と目の前で笑っている少女との印象が頭の中で一致しないまま今日まで来てしまっていた。
「もっとも、私の個人的な趣味趣向にもとづく行動よって、兄君くんや姉君くんたちに迷惑をかけるのは心苦しい限りでもある。できる限り周囲から浮かない程度には他人に合わせ、上手くやっていくよう心がけると約束し――んん?」
芝居がかった言い回しで、わざとらしく俺に一礼しようとしてきた妹だったが、途中で何かに気づいて動きを停止させ、なんか変なポーズになった状態のまま視線を別の方向に固定させたまま動かなくなってしまう。
なんかあったか見つけたのか? そう思い、声をかけようかと迷い始めた俺の耳に、遠くから声が聞こえてきて、妹になってる転生者の女が、何に驚いて見つめていたのか俺の方でもハッキリ理解させられることになる。
『キャー☆ 王子様たちよ~♡』
『あ、あれはレッドグレイブ家のアンジェリナ様よ! 素敵ねぇ~・・・♡』
校門を潜って団体さんでゾロゾロ入ってくる、美形とイケメンとナルシストっぽい美男子の群れ共に、華やかな見た目と雰囲気をまとわせて取り巻きを連れた胸のデカい見た目美少女の2トップ集団。
この世界、あのクソゲーじみた乙女ゲーの攻略対象たちと、その攻略を邪魔してた悪役令嬢様のご登場という訳である。
ふんっ! 相変わらず10年経ってもイラつくなコイツらの姿は! いやむしろ、存在そのものがイラつく原因と言っても良いほどに!!
「ふっふっふ・・・兄君くんとしては心穏やかにはなれないパーティー登場のようだな。
本心では罵りたくとも、下手なことを口にすると法の裁きがあるかもしれないし、たとえ無くても『僻んでるだけだろ』と陰口叩かれ、プライド的になんかムカつくから言えない。・・・・・・と言うところかな?」
「うるさいぞ、自称妹。お前だって、あの王子様軍団の実物を前にしたら、今まで言ってた批判を投げ出してでも玉の輿狙いでお近づきになりたい気持ちが本心なんじゃねーの~?」
「はっはっは、イヤだな兄君くん。相変わらず冗談が上手い」
カラカラと笑って俺からの皮肉を軽くスルーして。
妹は楽しそうな声のままで、楽しそうな表情を浮かべながら。
「現実に彼らのような者たちがいた場合には、通報するか総攻撃かの二択しかない。
だから、その心配はないのさ。ハッハッハ」
「なんでぇっ!?」
思わず驚いて聞き返す俺! 好きじゃなかったのかよ!?
乙女ゲーやる人たちって、ああいうのを求めて乙女ゲーやってたんじゃなかったの!?
「うむ。非常に好きだし、好みのタイプのキャラでもある。
だが現実になった場合には、絶対に色んな意味でいけないと思うタイプの男たちだとも確信している。
ゲームのキャラとして好きなことは、現実に実在したら嫌いではないことを意味するものではない」
したり顔で語ってくる、乙女ゲーマー初心者の俺と違ってベテラン女子だった前世を持つ、俺の妹。
なんかもう、今までも色々聞かされ続けてきて、色々ぶっ壊されてた実感あるけど・・・・・・やっぱ改めて思いしらされるわ。
乙女ゲーの美形キャラが好きな女ゲーマーたちの印象って、男側のヒロイックな幻想入ってること思ったより多かったんだなーって・・・・・・。
現実に妹として、乙女ゲー女子のリアルを詳しく教えてくれるせいで、俺の中にある女の子のイメージは、今までよりもっとボロボロです・・・。
やっぱり乙女ゲー世界はモブ(♂)に厳しい世界なんだと、俺は思う・・・・・・。