試作品集   作:ひきがやもとまち

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『魔王様、リトライ!』のケンカ馬鹿エルフ主人公バージョンの最新話です。
せめて他の連載作を更新してから出すつもりだったのですが、体調不良で書けない日が続いております。
申し訳ないですが、今回はコレでお茶を濁させて頂きました。

今話は、『今作版の“桐野悠ポジション”』にいるキャラの登場回になってます。
人を選ぶため、それも更新を躊躇ってた理由です


他称魔王様、自称凡人さん。リスタート第19章

 ――そこは聖光国の地下に広がる巨大な空間だった。

 石畳が敷かれ、最奥に置かれた玉座のような椅子に座った黒尽くめの男が、黒尽くめの男たちを前に整列させて見下ろしている。悪の秘密結社の本部っぽい場所だった。

 

 それは聖光国のっとりを目指して暗躍する、悪の秘密結社サタニストの秘密基地だった。

 いや正確には違うんだけど、悪の秘密結社じゃなくて革命軍なんだけど、見た感じの光景は悪の黒魔術結社にしか見えないのも事実な訳で。

 

 ――人は今の自分に見えているものだけで判断したがる。

 今の現状が、結果だけが全ての人にとっての全てである。

 

 という訳で、この場所は悪の秘密結社サタニストの秘密基地だ。面倒くさいから、それでいこう。どーせ実行する作戦内容はショッカーと大差ねぇ連中だし。

 

 その秘密基地内にある、総統の前に幹部たちだけが集められた室内で、先日の聖女姉妹襲撃についての話し合いが行われていた――はずだった。

 

「ウォーキング、奈落まで持ち出して、あのザマか?」

「指揮は達者なようだが、相変わらず臆病癖は抜けんと見える」

 

 だが、この手の組織と状況下で建設的な前後策が話し合われることは多くなく、サタニストもまた例外ではないようで、交わされている会話内容は失敗の責任者であるウォーキングを罵倒するだけのものが多かった。

 

「・・・・・・あの龍人は尋常ではない力を持っていた。それだけだ」

 

 一方で、非難の集中砲火を浴びているウォーキング自身は、そう捨てセリフのように言い放っただけで、あとは無言を貫いていた。

 誰があの場にいても敗退していた結果は変わらなかった。そういう確信があったからである。

 

 結果が同じならば、失敗者が用いた方針の有効性を議論することに意味はなく、作戦失敗による悪影響は全体の問題と捉え、今後の作戦で同じ轍を踏まぬよう検証するのが今のような話し合いの在るべき姿だが、現実はなかなか理想通りに正しく行かないのが常でもある。

 

 もともと史実ガン無視して、今の自分たちが貧乏だから金持ちたちが悪い、金持ちたちが崇めてる天使が一番悪いに決まってると完全否定した、誰が悪い、誰かのせいでな単純ストーリー好きな人たちの集団なんです。サタニストって。

 どっかの可能性世界で、自称残党軍な実質無関係テロ集団みたいなものです。陰謀論とか大好きそうですよね。

 

 幹部たちが会話と言うより、ウォーキング突き上げてハブり虐めを愉しんでるだけの不毛な会話もどきをしている中。一人の男が片手を挙げた。

 

 ――それだけで室内は、一瞬にして静まりかえる。

 

「その男より、私は“魔王”が現れたという噂の方が気になるのですよ」

 

 最奥の玉座に座す人物。サタニストを導く偉大な指導者《ユートピア》

 過激ではあっても、所詮は飢えた貧乏人の寄せ集めでしかなかった自分たちを組織化し、聖光国でさえ無視できぬほどの反政府組織へと作り替えた彼の口から重々しく告げられた内容に、反論を返せる者は誰もいない。

 

 かつて智天使と戦って敗れた魔王の復活は、サタニストたちにとっての宿願であり、一度は何でも願いを叶えてくれるという《願いの祠》に復活の儀式を行わせる部隊を派遣したことすらあったが、その後連絡は途絶え魔王が復活している兆しも見えない。失敗したとみるのが妥当だろう。

 

 それと前後して神都では「魔王を名乗る存在」の人相書きが出回るようになってはいたものの、アレはどう見ても噂に聞く亜人の一種「エルフ」の娘でしかなく、人間ですらない【亜人如き】の下等種族が魔王などと笑い話にもなりはすまい。

 

 たとえ貧しい貧乏人だろうと、人間至上主義で亜人蔑視の思想が蔓延している聖光国で生まれ育った人間たちである彼らにとって、それが当たり前の価値観というものであった。

 エルフを含めた亜人は、自分たちより格下の存在でしかないのである。

 あるいは貧乏人だからこそ、亜人への差別や偏見は強かったかもしれない。自分より下の存在がいるという認識は、彼らにとってプライドの支えとなる。

 

 たとえ、どれほど卑しい行為だろうと、追い詰められた人間たちにとってプライドというのは非常に大きな意味と価値を持たざるを得ない感情なのだから・・・・・・。

 先のウォーキング弄りも、その延長線上にある行為でしかなかったのが、彼らサタニストの実情だった。

 

「悪魔王が蘇ったが――異なる異世界からきた新たな魔王に殺された、という話もありましたね」

『ユートピア様! それは・・・っ』

 

 続いてユートピアが放った言葉に、全員が苦虫を噛む思いをさせられ、堪らず一人が前に出て抗弁しようとする。

 

 ・・・そう。それが彼らにとって新たな問題として浮上してきた厄介事だったのである。

 自分たちが降臨を願って止まなかった魔王に悪魔王が殺されてしまった、というなら荒唐無稽な話ではあっても実害はなく、悪魔王復活の成功すら噂の域を出ないのもあり、聞いていて気分の良い噂話ではない程度で済ませる事が可能だったのだが・・・・・・。

 

 よりにもよって、自分たちが悪魔王復活のための儀式を行わさせるため派遣した者たちが連絡を途絶えたのと同じ頃に、願いの祠の近くにある村に【ダイロクテン魔王】と名乗る未知の魔王が現れて支配下に収めてしまい、その部下によって統治された勢力は徐々に拡大して聖光国に影響を及ぼし始めているという噂は、彼ら幹部たちの耳にも届いていたのである。

 

 こちらは既に実害が出てきていた。

 どーせ人気取りに過ぎないだろうが、『水も仕事も望む者たち全てに与えられ、代償は魔王に絶対の忠誠を誓うだけ』・・・・・・などという甘言に惑わされ、同士たちの一部が離脱してダイロクテン魔王軍の一員へと鞍替えしてしまっている。

 聖光国の民や兵士からも離脱者が出ているらしいが、敵を買収して寝返らせる第三勢力なら歓迎しても、自分たちの手駒まで引き抜かれるとあっては他人事として嗤っていられない。

 既に討伐隊を差し向けたが、村の支配を任せられたダイロクテン魔王の側近に阻まれ、未だ目的を達成できた者は一人もいない。

 これ以上の勢力拡大は聖光国のみならず、サタニストにとっても無視できない脅威となるのは避けられまい。

 

「いずれにせよ、奈落には更なる生贄と力が必要です。

 そのためにも神都を滅ぼし、宝玉と共に奈落へ放り込みましょう」

 

 ユートピアが厳かに、自分たちにとっての最終的な解決策を実行することを宣言した。

 それは更なる混乱と流血をもたらすため、長年の準備が完了した神都滅亡計画を開始せよという指示でもある。

 作戦実行を命じた声に全員が頷く。

 

 ――彼らは皆、この国の病魔は癒やせぬところまで来ていると考えていた。

 ならば全てを灰にして、一から立て直すしかないではないか・・・・・・と。

 

 そう考えて覚悟を決め、破壊活動に従事してきたのが彼らである。今さら新たな魔王の元で真面目に働き糧を得るなどという普通の生活に戻れるはずもない。そういう思いがある。

 

「偽りの天使に死を。聖女に災い在れ」

 

『『『偽りの天使に死を。聖女に災い在れ』』』

 

 お決まりの文句を述べてから恭しく一礼して部屋を去っていった幹部たちが一人もいなくなった後。

 悪魔信奉者集団サタニストの指導者ユートピアは――いや。

 ユートピアの仮面で本心と正体を覆い隠した存在は、ほんの一瞬だけ本性の悪意と不快さを表に出して声に顕すのを、聞いた者は誰もいない。

 

 

「――グレオールの愚か者め。一体なんの小石につまずいたのやら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・さて。

 ユートピアからは『小石』呼ばわりされて、サタニストたちからは新たな世界からきた魔王として危険視されるようになり、異世界で初めて出会った女の子アクちゃんからは「たとえ世界を敵に回したとしても、ボクはずっとあなたに付いていきますっ! 魔王様っ」とか思われて慕われていたケンカ馬鹿エルフは、何やってたかと言いますと。

 

 

 

「痛ぅ~~・・・・・・イタタタぁ・・・け、ケツが割れてるのに割れるようにい、痛いィ・・・っ」

 

 

 アクとルナの前で這いつくばって四つん這いになり、小尻を突き出した姿勢で痛がっておりましたとさ……。

 エルフの幻想、木端微塵。しかも、その理由はと言いますと。

 

「く、クソゥ・・・まさか馬車の車輪が小石を踏んづけた揺れ程度で、ここまでのダメージを受けるとは・・・・・・っ!!

 さすがは中世ヨーロッパ風異世界の馬車ですねっ。性能の低さで尻を割る攻撃とは恐ろしいことをッ! エルフ幼女姿で痔となったからどうするつもりだったんで、痛たたたァ~~・・・」

 

 石を踏んづけた馬車の揺れで尻をヤラレて、大ダメージを負ったので小休止中だっただけみたいですね。

 さすがは、自分キャラの身体で異世界転移してきた現代日本人ゲーマー。クッション座ったまま長時間プレイに慣れ親しんだ若い肉体にとって、京都観光の人力車さえ上回る中世馬車の揺れには耐えられる頑丈なケツは持ち合わせていなかったようです。

 

 ・・・・・・こんなのに躓いて脳味噌握りつぶされて、Gガンダムゴッコで殺された悪魔王はマジ泣いていい。今となっては、あの世でしか泣けんけれども。

 

「?? 何やってんのかしらアイツ? 女の子があんな格好して、はしたない。やっぱりバカよね」

「お、お茶目な人・・・・・・じゃなくてエルフなんですよ、魔王様は」

「・・・・・・あのポーズでお茶目なの? 何かお尻を使ったいやらしいことを思いついて、自分で実験してるようにしか見えないんだけど・・・」

「お、お尻・・・・・・ですか・・・・・・」

 

 そんなバカに尻向けられて、遠くから馬車の横で見物しているルナに話を振られて、赤面するアクちゃんたち。この異世界技術レベルが当たり前で育ってきた現地世界人二人組。

 たとえステータスで及ばなくても、経験から来る慣れのレベルは、ぬるま湯とクッションで育ってきた現代人オタゲーマーより遙かに頑丈な尻を持つ二人の美少女たちは、この程度の馬車の揺れでは「痛いだけ」でビクともしません。

 聖女ルナなんて、魔王討伐するため片道だけで通ってきた後です。お尻の回復力は伊達じゃない。

 

「く、クソゥ・・・中世ヨーロッパ技術レベルで育ってきた人は強ぇですなオイ・・・。

 こうなったら私だけが見れて、他の誰にも見えないシステムメニュー開きながら尻の痛み回復までの暇潰ししてやります・・・。私だけが知ることが出来る情報知って悦に入ってやりますよ、フフフ・・・・・・」

 

 陰謀論が好きそうな小物臭い自己満足思考を口にしながら暗い笑み浮かべ、尻を動かさなくても可能な暇潰しとして、異世界中で自分だけに見える(らしい)システムメニューを表示させ、四つん這いのままスクロールし始めるケンカ馬鹿エルフのナベ次郎。

 

 胸のデカい美幼女エルフが、お尻を少女たち二人に突き出しながら四つん這いでシステムメニュー開いて見下ろすため、上半身を倒した姿は考えてみるとスゴい格好ってゆーか、エロい格好だったのだけど、中身キモオタ男なせいで気づくことが出来ずに「フフ、ふふ」笑いながらメニュー欄に表示されていたコマンドを一通り見回していたところ―――見覚えのないコマンドを見つけて指が止まる。

 

「・・・・・・って、あれ? なんですコレ? こんなのあった記憶無いんですけど・・・・・・バージョンアップで追加された機能でもあったのかな」

 

 思わずキョトンとした顔を浮かべ直して小首をかしげる、四つん這いのエルフ美幼女。

 もともと配信サービス終了するって聞いて、最後の一日だけ出戻りしてきた同窓会プレイヤーみたいな存在が自分なので、バージョンアップによる機能追加を知らなかった可能性は普通にある。

 

 新規プレイヤーが増えなくなって、既存のユーザー好みの新機能とか新システムとか追加することで課金――もといユーザー数を維持する方に方針転換するのもよくある事だし、別に不思議に思うところは何もない。

 

 まぁ、何はともあれ。

 

「・・・・・・取りあえずは、お二人とも。私はこれから悟りを開いて賢者にジョブチェンジして強くなるため、賢者タイムに入ります。

 念のため、この中で昼寝でもして体を休めて回復しといて下さい。

 あとルナさんは、お尻を使ったイケナイ遊びとか思いついて実験したりしませんよーに。純粋な幼女にイカガワシイものを見せちゃいけません」

「しないわよ!? あんた人に向かってなんてこと言うのよ、この変態!

 エロ! 痴漢! スケベ! あっち行けバカ~~~ッ!!!」

 

 ついさっき自分が人(エルフ)に向かって言ってた言葉を、遠い遠いお空の彼方にブン投げて忘れ去り、自分が言われた事だけ怒って真っ赤な顔して手渡されたアイテム《コテージ》を持ったままズカズカ歩み去ってく、ルナでエレガント。

 

 折りたたみ方式で持ち運び可能になった、フィールド上やセーブポイントで一晩眠って完全回復アイテムの定番、ファイナルファンタジーⅤからの伝統アイテム《コテージ》

 まぁテントでも大丈夫とは思ったんだけど・・・・・・備蓄が少ない。多く残ってた方のコテージを渡しておいたナベ次郎。

 

 後半になって強くなると回復力低い安物の《テント》より、一発で完全回復可能な高級品《コテージ》の方を多く買い集めて使いたくなるのは、どうしてなのか不思議だね。回数使えば同じ効果得られるから得なのに、何となく高性能な高級回復アイテム使いたくなるよね。不思議だね。

 

 あと、ついでとして。

 

「良ければ、あなたもどーぞ。聖女様と一緒がイヤなら、一人用のも出しますよ?」

「え!? あ、いや、と、とんでもない・・・! あっしはここで、馬に餌でもやっときますんで」

 

 折角なので、馬車を運転し続けてくれてた御者さんにも声をかけおいた。

 割とマメとか、日本人気質とかの理由もあるけど、もともとサブキャラ好きな性格の持ち主なのである。

 選ばれし7人の勇者たちより、傭兵の《ロレンス》と《スコット》の方で世界を救いたがったタイプのプレイヤー。それがネタアバターの中の人の日本人学生オタゲーマー。

 

「そですか? では折角ですし、これでも一本どーぞです。仕事中に吸う一服はサイコーですからね☆」

 

 イタズラっ子のような笑みを浮かべながら、ポケットから取り出したタバコの箱を相手に差し出し、一本すすめる中身学生のはずのナベ次郎。

 授業サボって校舎の裏で一本吸いたがってるタイプに見えますけど、実際には憧れてただけで実行した事はないタイプの小物です。つくづく小石ですらねぇ。

 

「で、ではその・・・・・・一本だけ・・・」

 

 引き攣った笑顔を浮かべながら、御者はタバコを受け取って逡巡するものの、相手が自分も一本咥えて火をつけてプハ~とやるのを見せつけられると、少しだけ安全性上がった代物を咥えてスパ~とやり、

 

「――お。これは・・・・・・なかなかの上物ですな」

「でしょう? 良ければ、もう一本どうぞ。今回は無料ってことにしときますから」

「そ、そうですか? じゃ、じゃあ遠慮なく・・・」

 

 恐る恐るではあったが、御者の安い給金では決して味わえないであろう高品質な嗜好品の誘惑に抗しきることは出来ず、引き攣った作り笑顔に媚びた色を追加しながら御者はネタエルフにおねだりして、もう一本スパ~。・・・至福の時間を味わう道を選びました。

 

 ・・・・・・正直、彼から見た魔王と呼ばれる少女は意味不明な存在だった。

 

 たった一人で聖女様と騎士団を退けた挙げ句、金まで要求して身ぐるみを剥ぎ。

 更には、天使様の加護篤き聖女様に恥辱の限りを味あわせて、あられもない悲鳴を上げさせた恐るべき巨大な拷問器具を呼び出して陵辱し。

 サンドウルフの大群ですら歯牙にもかけず、「弱い奴らを倒すのは愉しい」と愉悦の笑い声を上げて蹂躙する、冷酷非情で血も涙もない犯罪者のボスのような貫禄を示しながら。

 今はこうして、無垢な優しい笑顔を浮かべながら目下の者を労ってくれる。

 

 オマケに見た目は、森の妖精も斯くやと言って憚りないほどの可憐で美しい美幼女なのだ。

 これで全くワケガワカラナクない方が珍しい。

 まぁ大半が、その場のノリと勢いでロールするキャラ変えまくって安定しない厨二エルフ自身が悪いんだけれども。

 取りあえず今の時点では、御者は相手の魔王への警戒心を少しだけ解いてリラックスしながら一服を楽しむ事にしておいた。

 

「いえいえ、お気になさらず。私はただ、あなたの心の隙間を埋めて差し上げたいだけ。

 ・・・・・・この世は、老いも若きも、男も女も、心の寂しい人ばかり。

 そんな人間の皆様の心の隙間をお埋めいたします。お金は一銭もいただきません。

 人々が満足されたら、それが何よりの報酬でございますからねェ。フォ~ッホッホッホ」

 

 と、どっかの隠された人の本音を暴き出し、破滅へ導くセールスマン風の笑い声を上げながら御者の側から離れていき、極上のタバコの味に夢中になり始めた相手の視界からは見えない位置まで来たところで―――改めて自分の直面した問題について悩み始めるナベ次郎。

 

 

 

 

「さて・・・・・・それで結局、このシステムどうしましょうかね・・・?

 見てしまって、知ってしまうと押したくなるのがゲーマーの人情というものであり、だから見ちゃダメだって分かっているのに見てしまうのもまたゲーマーの性でもある訳で・・・。

 お、押したい・・・。けどヤバい。

 押したらヤバいと分かっているのに押したくなる、日本人ゲーマーとしての性が、今だけはとてもとても憎くたらしくて堪らない~~ッッ!!!」

 

 そして、やっぱり誰もの予測通り、当初の問題で悩みまくり始める馬鹿エルフ。

 問題先送りして別の事やってみたけれど、最初の問題が解決した訳じゃないから終わってみたら再び気になり出すパターンですね。コイツの方がよっぽど笑うセールスに引っかかりやすいタイプの心の弱い人間です。

 

 どーせこのパターンだと最後には押す一択なんだろうけれど、それでも本気で逡巡だけはする当たりは善意が残っている証拠なのか、それともお約束を愛する故なのか。・・・・・・後者の方が可能性高そうな気がするなぁ・・・。

 

「ま、まぁとりあえずコマンドの詳しい説明とか見てから考えればいいですよね。説明書を見る前から色々言いたがるのはアンチなネットユーザーだけ、本当のゲーマーはそうじゃない。色々語るのは調べてから、調べてから・・・」

 

 再び決断だけ先送りにして、自ら深みにはまっていく道選び続けるナベ次郎。

 多くの日本人ユーザーは、この手の思考で無料MMORPGのために毎年何万円もお伏せする羽目になっちゃう典型がコイツです。

 

 んで、肝心の新しく追加されてたコマンド(仮定)の名前はというと。

 

 

《別魔王召喚コマンド》

 

 

 ・・・・・・ゼッテー新機能として追加されたバージョンアップの結果じゃない、この異世界転移と関係してる確率100%なのが丸分かりな名前をしておりましたとさ・・・・・・。

 

「なんですかい・・・・・・この地雷臭さ満載で、意味不明な上に無意味すぎてて、むしろ有害そうなシステム名は・・・・・・。

 魔王なんか他にも呼び出してどうすんでしょう・・・? こんなの欲しがる人は、アホしかおらんでしょうに・・・・・・」

 

 ジト目の冷めた表情で見下ろしながら、四つん這いでケツ突き出しエルフは、機能を名称だけで酷評する。サタニストの人たちでさえ、ちょっとだけ泣いていい。

 また、システム名の下には、申し訳程度の説明も書かれていて。

 

 

《今まで集められたポイントに応じて、新たな仲間を別世界の魔王設定で召喚できます。

 最近の異世界では、魔王は複数いるのが基本です》

 

 

 との事だった。

 まぁ間違ってはいないし、その通りなのかもしれんけれども。・・・・・・魔王という存在も安くなったもんである。竜王さまが懐かしい。

 その内に初期の魔王が復活して大勢出てきて、「安売りされてる」とか言われる日が来るのかもしれない。世界最強の安売りロボット・ヴァルシオンとか。

 

 

 

「まぁつまりは、この世界版の《階層守護者》システムってことですかね。

 オバロのユグドラシルと違って、ゴッターニ・サーガは中堅MMOでしたからなぁ~。デミウルゴスとか配置できたら容量足りなくなること請け合いですし。

 もっとも、協力プレイ前提のMMOで、プレイヤーより強い仲間NPC出しちゃったら本末転倒も甚だしいだけですけどなぁ~」

 

 色々と台無しになる発言を、ゲームじゃないから異世界だから平然とかまして平然としてるネタアバター・ナベ次郎。

 実際問題、ナザリックの守護者たちもゲーム時代のままではギルドホールの警備兵モンスター扱いだから外には出られないし、異世界転移してゲームが現実になった設定だからこその存在とは言え、良い設定だったとナベ次郎的には高く評価してもいる。

 

 ・・・・・・まぁ、最近では課金で雇える傭兵NPCが、初期クエストで苦戦していたボスを瞬殺してくれて唖然とさせられるモンスターを狩るハンターMMOもあったりしたので絶対ないとまでは言い切れん世の中になっては来ていたけれども。

 

 少なくとも、《ゴッターニ・サーガ》には無かった。そして今も無いはずだ。中堅だったから。

 そんなオッサレ~な新システムが実装できるメーカーだったら、もう少し知名度高くなってても良さそうなものだったけど、中堅MMOのゴッターニ・サーガ以外で聞き覚えのあるタイトルが一つも無い。

 一番売れたゲームでも中堅。それが日本ゲームメーカーの大部分にとっての実情である。

 

「と、とりあえず今のポイントで召喚可能なクラスも見てから決めるか考えましょう・・・。

 今召喚できるのは、《癒魔王》と《盗魔王》と《戦魔王》の三クラス・・・・・・名前から見て、それぞれのクラス特性は、《僧侶》《盗賊》《戦士》の基本ジョブ三つの魔王バージョンってところですかね。

 目下のところ私には魔法に対して無防備な訳ですし、対策考えるなら《癒魔王》なんですけど・・・・・・ケヤル君みたいなのが呼び出されても困るしなぁー・・・・・・どうしましょう?

 ただでさえエロゲみたいなこと言い出しやすい聖女様がいるパーティーですのに、18禁エロ復讐する男キャラが加わっちゃったら幼女の情操教育に悪そうなので強制送還させたくて仕方なくなりそうな予感しかしないですしなぁー」

 

 召喚可能なクラス名を見て、さっきまで以上に本気で悩み出すケンカ馬鹿。

 最近何故だか、攻撃系の回復魔法が使われてる作品が多くなってきてる気がする、エルフになった日本人オタクとしては僧侶系に対して思うところがあり、今一こういう時に呼び出す対象として選びづらい心境になってる昨今ではあり。

 

 反面、回復魔法なしでの旅路は結構キツいもんでもあるのは理解してるので、それが得られるのは有難く・・・・・・悩みどころとなってしまっていた。

 

 そして最終的に彼女が決断する理由となったのは―――この異世界で出会った女の子、アクだったのは何か意味があるのか偶然だったのか。

 

「・・・・・・そう言えば、アクさんの引きずるように歩いてる足の怪我って、私のモンクスキルだと治せそうになかったんでしたよね・・・。

 丁度ポイントもありますし、僧侶ならダメそうな時に前衛職のモンクなら瞬殺可能ですし。とりあえずお試しってことで、ここは一つ。―――ポチッとな」

 

 結果的に押してしまったナベ次郎。

 そして、パァァァァ――――っと。

 ナベ次郎の言葉と共に、白と黒の巨大な光が前方に現れ、それらが重なった時に一人の女性の形となって顕現した。

 

 

 現れたのは、金髪青目の美しいとしか言いようのない美人さんである。

 ショートボブの髪型に、股布の部分が露出したチェインメイルを身に纏い、両手には杖のようにハルバートを持った姿の、僧侶と言うより新刊戦士のような容姿。

 胸には、どこかの宗教の聖印っぽいのを下げているけど、ケンカ馬鹿のエルフ幼女に解るはずもなし。

 

 ナベ次郎の前に現れた美女は、美麗と言っていい瞳で相手を見つめ、響きの良い音楽的な声音でナベ次郎に向かって口を開いて、そして・・・・・・

 

 

 

「問おう。あなたが私のマスターかしら?」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・微妙にツッコミどころがある、召喚された場合のお約束セリフを放ってきやがったのだったとさ。

 

 イヤおかしいだろ、クラス的に。

 そこは騎魔王か剣魔王あたりが呼び出された場合に言うべき返しであって、僧侶系の魔王が言っちゃダメだろう。

 

「いやまぁ、確かに呼び出したのは私ではあるのですが・・・・・・マスターではないと思いますよ? 多分ですが・・・」

「え、そうなの?

 ここって召喚術士たちが呼び出した7つの召喚獣同士を探し出し、戦って戦って最後まで勝ち残った一人だけがキングの称号手に入れて、何でも一つ願い事を叶えてくれるっていう、武道会場の舞台じゃなかったの?」

「違います。あと、混ざりすぎです。そういうの求めてるなら、ネオ・ホンコンにでも探しに行ってきて下さい、地上を離れて宇宙に上がった香港にでも」

「え~。マジかぇ~」

 

 絶世の美貌で、巻き舌で驚き現す癒魔王の美人プリースト。

 もうこの時点でナベ次郎には、このキャラクターの元ネタについて大凡の見当は付いていたけれど・・・・・・それでも一応聞いてあげるのがロケット団流世の情け。

 

「ところで・・・・・・あなたのお名前は、ホワッチュア・ネーム?」

 

 発音が怪しすぎる変な英語もどきで質問したナベ次郎に向かい、思わずドキッとしてしまうほど魅力的で慈愛に満ちた、“聖女様のような”優しい微笑を表情いっぱいに溢れさせながら、美しい女性プリーストは一礼しながら名乗りを上げる。

 

 

 

「は~い☆ フィラーン・ザ・癒やしの魔王。クラスはダーク・ハイビショ~ップ♪

 レベルは99で、年齢は18歳で~す♡

 回復魔法は大体全部使えるけど、それより重要なお勧めポイントなのが魅力値ステータスMAX!! ああ、憧れの魅力値MAX!!

 最高値の美しさ! テンプテーション!! これから私のことは、お嬢様と呼んでいーんですよマスター♪

 むしろ呼んで、お嬢様と!!」

 

「う、うわぁ・・・・・・」

 

 

 

 思わず、ケンカ好きの馬鹿エルフでさえ引いてしまうほどのテンション&ノリと勢い。

 しかも、やっぱりコイツだったか・・・・・・と。

 今では知らない人が多そうなキャラだけど、相当に濃い上にマニアックなのが来ちゃったなぁーとも思いつつ。

 それでもまぁ、僧侶としても戦士としても頼りになるし、大した問題も起こしそうにないから、アクさんの足も治せそうで良かったなぁと。

 

 

 ―――この時には、その程度にしか思っていなかった人の召喚に成功しちゃった訳なんだけれども・・・・・・しかし。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ねぇ、ちょっと。この女だれ!? 誰なのよ!?

 な、なななんか私的にスゴく脅威を感じるんだけど! 色々と奪われないため今すぐ抹殺した方がいい気が物凄くして仕方のない女なんだけどっ!!

 殺しちゃっていいかしら!? 殺しちゃっていいわよね!? よし殺すーっ!!!」

 

 

 

 

 被った―――っ!? 同じ聖女系のお嬢様キャラで被っちゃったーッ!!

 そのつもりなかったけど、既存キャラの上位互換を呼んじゃったーッ!?

 

 助けて、ゴローッ!! 深夜の居酒屋でしょっちゅう被るの慣れてる井頭五郎さーん!?

 

 

 

 

注:この後、紆余曲折バカ騒ぎしまくった後に無事、アクちゃんの足は完治することができました。

 

 

つづく

 

 

 

 

 

オマケ:新キャラ設定紹介

【癒魔王フィラーン】

 

ナベ次郎が異世界でリアルガチャして呼んでしまった、本来の自分とは全く関係のない赤の他人存在にして、課金の傭兵助っ人NPC存在。支払いは異世界ポイントで。

元ネタは『蟻帝伝説クリスタニア』のRPGリプレイ版に登場した、知識の神ラーダに仕える女司祭『フィランヌ』

 

最高数値の魅力値を叩き出した事で知られているが、その割には戦士よりも前衛をこなしたり、盾役も担当したり、正規リーダーを差し置いて実質リーダーになってしまったりと、幅広く活躍しすぎだったことで知られてる方が有名かもしれん。

 

 

原作における、『側近召喚』で呼び出された『桐野悠』の今作版バージョンとしてご出馬願って流用しました。

大帝国ともGAMEとも関係なく、単なる中堅MMOの古参プレイヤーってだけのナベ次郎には当然のこととして側近設定のNPCなんてものはなく、代わりとして仲間を呼ぶなら『○○魔王』とかの色んな魔王連合組んだ方が今風っぽいかと思った次第。【ボクと魔王】にも影響されたけれども。

 

悠をそのまま使う手もあったのですが、整合性が取りづらかったのと、単純に側近全員を知らない上に設定も詳しくないため上手く使える自信がなかった。その結果として今作版にあわせた近いキャラとして登場させている。

 

悠が、見た目通りの出来る女で、ヤバめの天才で組織運営もこなす才女だったのに対して。

フィラーンの方は、見た目と違って出来ない女で、回復魔法は天才的だが、組織運営どころか客商売に向いてなくて冒険者になった残念美人タイプ。

 

ナベ次郎と同じで、原作の同ポジションキャラとは真逆のステータスと職業を持たせた内訳に変えており、九内伯斗と同じようにいきたくてもいけずに迷走していく理由の一つになってもらうための設定でもある。

 

また悠が、神を信じぬ科学系のマッドサイエンティストだったのに対して、フィラーンは一応だけど神に仕えるプリーストで、物理でブッ叩く系の解決策をとりたがる等、逆説的な原作リスペクトを加えてみてはいる。

 

要するに、頭で考えるより物理で殴る方が手っ取り早いと考えてる人だった場合はこうなると。比較対象として描いた感じですね。

 

 

彼女と同様に、他の側近たちも今作版に変えて使ってみようとは思っているんだけど・・・・・・自信ないのが微妙なところでもありまするわ・・・。

 

尚、性格やクラスはどうあろうと、魔王は魔王なので混沌属性。

元ネタの時点で帝国の支配と戦う主人公の割に、犯罪行為が多すぎるパーティーだったからなー・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、いっか。説明書ない上にGMに連絡しても多分返事こない状況下で新機能を試す勇気は、私みたいなヘタレにゃありませんしな。とりあえず安全優先で無視しとくとしましょう。

 ・・・・・・とは言え、とりあえずシステムコマンドの名前だけでも見とくとして―――」

 

 そして、ついつい怖いもの見たさ&新しいアイテム手に入れたら何でも試してみたくなるネタアバターの肉体影響も加わって、チラッチラッと名前だけでも見てしまった未知のシステムコマンド。その名称とは―――

 

 

《別魔王召喚コマンド》

 

 

 ・・・・・・ゼッテー新機能として追加されたバージョンアップの結果じゃない、この異世界転移と関係してる確率100%なのが丸分かりな名前をしておりましたとさ・・・・・・。

 

「なんですかい・・・・・・この地雷臭さ満載で、意味不明な上に無意味すぎてて、むしろ有害そうなシステム名は・・・・・・。

 魔王なんか他にも呼び出してどうすんでしょう・・・? こんなの欲しがる人は、アホしかおらんでしょうに・・・・・・」

 

 ジト目の冷めた表情で見下ろしながら、四つん這いでケツ突き出しエルフは、機能を名称だけで酷評する。サタニストの人たちでさえ、ちょっとだけ泣いていい。

 また、システム名の下には、申し訳程度の説明も書かれていて。

 

 

《今まで集められたポイントに応じて、新たな仲間を別世界の魔王設定で召喚できます。

 最近の異世界では、魔王は複数いるのが基本です》

 

 

 との事だった。

 まぁ間違ってはいないし、その通りなのかもしれんけれども。・・・・・・魔王という存在も安くなったもんである。竜王さまが懐かしい。

 その内に初期の魔王が復活して大勢出てきて、「安売りされてる」とか言われる日が来るのかもしれない。世界最強ロボット・ヴァルシオンとか。

 

「ふ~ん。まぁつまりは、この世界版の《階層守護者》システムってことですかね。

 オバロのユグドラシルと違って、ゴッターニ・サーガは中堅MMOでしたからなぁ~。デミウルゴスとか配置できたら容量足りなくなる事請け合いですし。

 もっとも、協力プレイが前提のMMOで、プレイヤーより強い仲間に出来るNPCなんて出しちゃったら本末転倒も甚だしいだけですけどなぁ~」

 

 色々と台無しになる発言を、ゲームじゃないから異世界だから平然とかまして平然としてるネタアバター・ナベ次郎。

 実際問題、ナザリックの守護者たちもゲーム時代のままではギルドホールの警備兵モンスター扱いだから外には出られないし、異世界転移してゲームが現実になった設定だからこその存在とは言え、良い設定だったとナベ次郎的には高く評価してもいる。

 

 ・・・・・・まぁ、最近では課金で雇える傭兵NPCが、初期クエストで苦戦していたボスを瞬殺してくれて唖然とさせられるモンスターを狩るハンターMMOもあったりしたので絶対ないとまでは言い切れん世の中になっては来ていたけれども。

 

 少なくとも、《ゴッターニ・サーガ》には無かった。そして今も無いはずだ。中堅だったから。

 そんなオッサレ~な新システムが実装できるメーカーだったら、もう少し知名度高くなってても良さそうなものだったけど、中堅MMOのゴッターニ・サーガ以外で聞き覚えのあるタイトルが一つも無い。

 一番売れたゲームでも中堅。それが日本ゲームメーカーの大部分にとっての実情である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・ところ変われば品変わり、人によって価値基準は千差万別。同じ一つの出来事でも人の価値観の数だけ与えられる評価は変化する。

 誰かにとっての大切な存在は、別の誰かにとっては小石でしかなく、誰かにとっての小石には世界に勝る価値を見出す者もいる。

 それが人の世――いや、人だけでなく魔族も亜人も変わることが出来ない知性ある者と称する存在たちが持つ絶対的な共通点。

 

 ――だが、その違いが持つ現実を受け入れられぬという者も時にはいる。

 そんな心狭き一部の矮小なる者共のの一人が、コイツである↓

 

 

 

「いやいやいや!? そんなもん敵に回さんでいーですから!!

 ダイロクテン魔王軍なんて知りませんから!!

 あと、魔王呼ばわりしないで下さい!! 人の心のマウンテンサイクル掘り起こさないで! 黒歴史を復活させないで!! 黒歴史で死ぬ!! 黒歴史に殺されちゃう!!

 黒歴史で床のたうち回って恥ずか死んじゃうから、辞めて下さ―――ッい!!??」

 

 

 

 

 ―――と、本人がそう思われてることを“知ることが出来たなら”涙流しながら叫んでただろう間違いなく。血の涙を流しながら絶対に。

 

 もし“知ることが出来たなら”の話だったけども。

 “知ることが出来たなら”の話だけれども。超大事なことなので二度言いました。

 

 だが実際には、人も魔族も亜人も自分の見たもの聞いたものからしか物事を推察して動くことが出来ないのが現実の壁というもの。

 それぞれが一部の矮小なる者共の一員として、自分の知ってる範囲を基準に考えて行動してたのが、魔王絡みで動いてる人たち全員が現在進行形でやってる現象。

 

 そんな中で、ほぼ全ての出来事の発端になってる割には、発端から進展した事態は無関係で、自分が他人にどう思われてるか全く知らない喧嘩バカの脳筋エルフ自身はなに思って生きて生きてかと言うと。

 

 

 

「痛ぅ~~・・・・・・イタタタぁ・・・・・・ば、馬車が悪路で揺れすぎて・・・・・・し、尻が痛い・・・。

 ぐぅぅ・・・・・・っ、さすがは中世ヨーロッパ風技術レベル異世界の馬車・・・・・・。

 ケツが割れてるのに割れるとは、この事かぁぁぁッッ!! って、痛痛痛ぁぁぁ~・・・」

 

 

 

 ・・・・・・悪路を進む馬車に揺られすぎて尻を痛め、四つん這いでケツ突き出しながら、痛む尻を回復するため休憩しておりましたとさ・・・・・・。

 いやまぁ、たしかに馬車の座席は自動車よりも揺れるけどさ。現代技術で造った馬車でも長時間乗ってると痛いけどさ。中世ヨーロッパ技術で整備されてない街道進んだら揺れまくって痛すぎるだろうけどさ。

 

 ―――それでも、美少女アバターの体になって異世界チート転移してきた奴が、尻の痛みに負けるってどーなんだろう・・・?

 異種族エルフの肉体アバターって、『痔』になったりするんだろうか? 仮になれても成りたくねぇし、実験して成功したくもねぇから無くていいんだけれども。

 

 もう少しコイツは、どうにかならんだろうか?

 見た目は幻想的な美しさ持った森の種族エルフ族が、ケツ突き出しながら四つん這いポーズで痔の痛みに耐えているって、ブロークンファンタズムってレベルじゃねぇぞオイ。ディードリットに謝れ。

 

 あと、こんなのにつまづいて脳味噌握りつぶされ、Gガンダムごっこで殺された悪魔王は本気で泣いていい。

 小石どころか、小物でさえ褒めすぎな、強いだけで上に立ってる系のボスキャラみたいな異世界転移者がここにいた。 

 

「?? 何やってんのかしらアイツ? 女の子があんな格好して、はしたない。やっぱりバカよね」

「お、お茶目な人・・・・・・じゃなくてエルフなんですよ、魔王様は」

「・・・・・・あのポーズでお茶目なの? 何かお尻を使ったいやらしいことを思いついて、自分で実験してるようにしか見えないんだけど・・・」

「お、お尻・・・・・・ですか・・・・・・」

 

 そんなバカに尻向けられて、遠くから馬車の横で見物しているルナに話を振られて、赤面するアクちゃんたち、この異世界技術レベルが当たり前で育ってきた現地世界人二人組。

 たとえステータスで及ばなくても、経験から来る慣れのレベルは、ぬるま湯とクッションで育ってきた現代人オタゲーマーより遙かに頑丈な尻を持つ二人の美少女たちは、この程度の馬車の揺れでは「痛いだけ」でビクともしません。

 

 聖女ルナなんて、魔王討伐するため片道だけで通ってきた後です。お尻の回復度は伊達じゃない。

 

「く、クソゥ・・・中世ヨーロッパ技術レベルで育ってきた人は強ぇですなオイ・・・。

 こうなったら私だけが見れて、他の誰にも見えないシステムメニュー開きながら尻の痛み回復までの暇潰ししてやります・・・。私だけが知ることが出来る情報知って悦に入ってやりますよ、フフフ・・・・・・」

 

 陰謀論が好きそうな小物臭い自己満足思考を口にしながら暗い笑み浮かべ、尻を動かさずとも出来る暇潰しとして、異世界中で自分だけに見える(らしい)システムメニューを表示させ、四つん這いのままスクロールし始めるケンカ馬鹿エルフのナベ次郎。

 

 胸のデカい美幼女エルフが、お尻を少女たち二人に突き出しながら、四つん這いでシステムメニュー開いて見下ろすため上半身を倒した姿は、考えてみるとスゴい格好ってゆーか、エロい格好だったのだけど、中身キモオタ男なせいで気づくことが出来ずに「フフ、ふふ」笑いながらメニュー欄に表示されていたコマンドを一通り見回していたところ―――見覚えのないコマンドを見つけて指が止まる。

 

「・・・・・・って、あれ? なんですコレ? こんなのあった記憶無いんですけど・・・・・・バージョンアップで追加された機能でもあったのかな」

 

 思わずキョトンとした顔を浮かべ直して小首をかしげる、四つん這いのエルフ美幼女。

 もともと配信サービス終了するって聞いて、最後の一日だけ出戻りしてきた同窓会プレイヤーみたいな存在が自分なので、バージョンアップによる機能追加を知らなかった可能性は普通にある。

 新規プレイヤーが増えなくなって、既存のユーザー好みの新機能とか新システムとか追加することで課金――もとい、ユーザー数を維持する方に方針転換するのもよくあることだし、別に不思議に思うところは何もない。どんな機能かだけ確かめりゃ済む話でもあることだし。

 

「ま、いっか。説明書ない上にGMに連絡しても多分返事こない状況下で新機能を試す勇気は、私みたいなヘタレにゃありませんしな。とりあえず安全優先で無視しとくとしましょう。

 ・・・・・・とは言え、とりあえずシステムコマンドの名前だけでも見とくとして―――」

 

 そして、ついつい怖いもの見たさ&新しいアイテム手に入れたら何でも試してみたくなるネタアバターの肉体影響も加わって、チラッチラッと名前だけでも見てしまった未知のシステムコマンド。その名称とは―――

 

 

《別魔王召喚コマンド》

 

 

 ・・・・・・ゼッテー新機能として追加されたバージョンアップの結果じゃない、この異世界転移と関係してる確率100%なのが丸分かりな名前をしておりましたとさ・・・・・・。

 

「なんですかい・・・・・・この地雷臭さ満載で、意味不明な上に無意味すぎてて、むしろ有害そうなシステム名は・・・・・・。

 魔王なんか他にも呼び出してどうすんでしょう・・・? こんなの欲しがる人は、アホしかおらんでしょうに・・・・・・」

 

 ジト目の冷めた表情で見下ろしながら、四つん這いでケツ突き出しエルフは、機能を名称だけで酷評する。サタニストの人たちでさえ、ちょっとだけ泣いていい。

 また、システム名の下には、申し訳程度の説明も書かれていて。

 

 

《今まで集められたポイントに応じて、新たな仲間を別世界の魔王設定で召喚できます。

 最近の異世界では、魔王は複数いるのが基本です》

 

 

 との事だった。

 まぁ間違ってはいないし、その通りなのかもしれんけれども。・・・・・・魔王という存在も安くなったもんである。竜王さまが懐かしい。

 その内に初期の魔王が復活して大勢出てきて、「安売りされてる」とか言われる日が来るのかもしれない。世界最強ロボット・ヴァルシオンとか。

 

「ふ~ん。まぁつまりは、この世界版の《階層守護者》システムってことですかね。

 オバロのユグドラシルと違って、ゴッターニ・サーガは中堅MMOでしたからなぁ~。デミウルゴスとか配置できたら容量足りなくなる事請け合いですし。

 もっとも、協力プレイが前提のMMOで、プレイヤーより強い仲間に出来るNPCなんて出しちゃったら本末転倒も甚だしいだけですけどなぁ~」

 

 色々と台無しになる発言を、ゲームじゃないから異世界だから平然とかまして平然としてるネタアバター・ナベ次郎。

 実際問題、ナザリックの守護者たちもゲーム時代のままではギルドホールの警備兵モンスター扱いだから外には出られないし、異世界転移してゲームが現実になった設定だからこその存在とは言え、良い設定だったとナベ次郎的には高く評価してもいる。

 

 ・・・・・・まぁ、最近では課金で雇える傭兵NPCが、初期クエストで苦戦していたボスを瞬殺してくれて唖然とさせられるモンスターを狩るハンターMMOもあったりしたので絶対ないとまでは言い切れん世の中になっては来ていたけれども。

 

 少なくとも、《ゴッターニ・サーガ》には無かった。そして今も無いはずだ。中堅だったから。

 そんなオッサレ~な新システムが実装できるメーカーだったら、もう少し知名度高くなってても良さそうなものだったけど、中堅MMOのゴッターニ・サーガ以外で聞き覚えのあるタイトルが一つも無い。

 一番売れたゲームでも中堅。それが日本ゲームメーカーの大部分にとっての実情である。

 

 

 まぁ、何はともあれ。

 

 

「・・・・・・取りあえずは、お二人とも。私はちょっと気になる事を思い出しましたので調べに行ってきます。念のため、この中で昼寝でもして体を休めて回復しといて下さい。

 あとルナさんは、お尻を使ったイケナイ遊びとか思いついて実験したりしませんよーに。純粋な幼女にイカガワシイものを見せちゃいけません」

「しないわよ!? あんた人に向かってなんてこと言うのよ、この変態!

 エロ! 痴漢! スケベ! あっち行けバカ~~~ッ!!!」

 

 ついさっき自分が人(エルフ)に向かって言ってた言葉を、遠い遠いお空の彼方にブン投げて忘れ去り、自分が言われた事だけ怒って真っ赤な顔して手渡されたアイテム《コテージ》を持ったままズカズカ歩み去ってく、ルナでエレガント。

 

 折りたたみ方式で持ち運び可能になった、フィールド上やセーブポイントで一晩眠って完全回復アイテムの定番、ファイナルファンタジーⅤからの伝統アイテム《コテージ》

 まぁテントでも大丈夫とは思ったんだけど・・・・・・備蓄が少ない。多く残ってた方のコテージを渡しておいたナベ次郎。

 

 後半になって強くなると回復力低い安物の《テント》より、一発で完全回復可能な高級品《コテージ》の方を多く買い集めて使いたくなるのは、どうしてなのか不思議だね。回数使えば同じ効果得られるから得なのに、何となく高性能な高級回復アイテム使いたくなるよね。不思議だね。

 

 あと、ついでとして。

 

「良ければ、あなたもどーぞ。聖女様と一緒がイヤなら、一人用のも出しますよ?」

「え!? あ、いや、と、とんでもない・・・! あっしはここで、馬に餌でもやっときますんで」

 

 折角なので、馬車を運転し続けてくれてた御者さんにも声をかけおいた。

 割とマメとか、日本人気質とかの理由もあるけど、もともとサブキャラ好きな性格の持ち主なのである。

 選ばれし7人の勇者たちより、傭兵の《ロレンス》と《スコット》の方で世界を救いたがったタイプのプレイヤー。それがネタアバターの中の人の日本人学生オタゲーマー。

 

「そですか? では折角ですし、これでも一本どーぞです。仕事中に吸う一服はサイコーですからね☆」

 

 イタズラっ子のような笑みを浮かべながら、ポケットから取り出したタバコの箱を相手に差し出し、一本すすめる中身学生のはずのナベ次郎。

 授業サボって校舎の裏で一本吸いたがってるタイプに見えますけど、実際には憧れてただけで実行した事はないタイプの小物です。つくづく小石ですらねぇ。

 

「で、ではその・・・・・・一本だけ・・・」

 

 引き攣った笑顔を浮かべながら、御者はタバコを受け取って逡巡するものの、相手が自分も一本咥えて火をつけてプハ~とやるのを見せつけられると、少しだけ安全性上がった代物を咥えてスパ~とやり、

 

「――お。これは・・・・・・なかなかの上物ですな」

「でしょう? 良ければ、もう一本どうぞ。今回は無料ってことにしときますから」

「そ、そうですか? じゃ、じゃあ遠慮なく・・・」

 

 恐る恐るではあったが、御者の安い給金では決して味わえないであろう高品質な嗜好品の誘惑に抗しきることは出来ず、引き攣った作り笑顔に媚びた色を追加しながら御者はネタエルフにおねだりして、もう一本スパ~。・・・至福の時間を味わう道を選びました。

 

 ・・・・・・正直、彼から見た魔王と呼ばれる少女は意味不明な存在だった。

 

 たった一人で聖女様と騎士団を退けた挙げ句、金まで要求して身ぐるみを剥ぎ。

 更には、天使様の加護篤き聖女様に恥辱の限りを味あわせて、あられもない悲鳴を上げさせた恐るべき巨大な拷問器具を呼び出して陵辱し。

 サンドウルフの大群ですら歯牙にもかけず、「弱い奴らを倒すのは愉しい」と愉悦の笑い声を上げて蹂躙する、冷酷非情で血も涙もない犯罪者のボスのような貫禄を示しながら。

 今はこうして、無垢な優しい笑顔を浮かべながら目下の者を労ってくれる。

 

 オマケに見た目は、森の妖精も斯くやと言って憚りないほどの可憐で美しい美幼女なのだ。

 これで全くワケガワカラナクならない方が珍しい。

 まぁ大半が、その場のノリと勢いでロールするキャラ変えまくって安定しない厨二エルフ自身が悪いんだけれども。

 取りあえず今の時点では、御者は相手の魔王への警戒心を少しだけ解いてリラックスしながら一服を楽しむ事にしておいた。

 

「いえいえ、お気になさらず。私はただ、あなたの心の隙間を埋めて差し上げたいだけ。

 ・・・・・・この世は、老いも若きも、男も女も、心の寂しい人ばかり。

 そんな人間の皆様の心の隙間をお埋めいたします。お金は一銭もいただきません。

 人々が満足されたら、それが何よりの報酬でございますからねェ。フォ~ッホッホッホ」

 

 

 と、どっかの隠された人の本音を暴き出し、破滅へ導くセールスマン風の笑い声を上げながら御者の側から離れていき、極上のタバコの味に夢中になり始めた相手の視界からは見えない位置まで来たところで―――改めて自分の直面した問題について悩み始めるナベ次郎。

 

 

 

「さて・・・・・・それで結局、このシステムどうしましょうかね・・・?

 見てしまって、知ってしまうと押したくなるのがゲーマーの人情というものであり、だから見ちゃダメだって分かっているのに見てしまうのもまたゲーマーの性でもある訳で・・・。

 お、押したい・・・。けどヤバい。

 押したらヤバいと分かっているのに押したくなる、日本人ゲーマーとしての性が、今だけはとてもとても憎くたらしくて堪らない~~ッッ!!!」

 

 そして、やっぱり誰もの予測通り、当初の問題で悩みまくり始める馬鹿エルフ。

 問題先送りして別の事やってみたけれど、最初の問題が解決した訳じゃないから終わってみたら再び気になり出すパターンですね。コイツの方がよっぽど笑うセールスに引っかかりやすいタイプの心の弱い人間です。

 

 どーせこのパターンだと最後には押す一択なんだろうけれど、それでも本気で逡巡だけはする当たりは善意が残っている証拠なのか、それともお約束を愛する故なのか。・・・・・・後者の方が可能性高そうな気がするなぁ・・・。

 

「ぐ、ぐぅぅ・・・と、とりあえず今のポイントで召喚可能なクラスを見てから決めましょう・・・。

 今召喚できるのは、《癒魔王》と《盗魔王》と《戦魔王》の三クラス・・・・・・名前から見て、それぞれのクラス特性は、《僧侶》《盗賊》《戦士》の基本ジョブ三つの魔王バージョンってところですかね。

 目下のところ私には魔法に対して無防備な訳ですし、対策考えるなら《癒魔王》なんですけど・・・・・・ケヤル君みたいなのが呼び出されても困るしなぁー・・・・・・どうしましょう? コレ本当に・・・」

 

 召喚可能なクラス名を見て、さっきまで以上に本気で悩み出すケンカ馬鹿。

 最近何故だか、攻撃系の回復魔法が使われてる作品が多くなってきてる気がする、エルフになった日本人オタクとしては僧侶系に対して思うところがあり、今一こういう時に呼び出す対象として選びづらい心境になってる昨今ではあり。

 ただでさえエロゲヒロインみたいなこと言い出しやすい聖女様がいるパーティーで、18金エロ復讐する男キャラ加わっちゃったら幼女の情操教育に悪そうなので強制送還させたくて仕方なくなりそうな予感しかしない。

 

 反面、回復魔法なしでの旅路は結構キツいもんでもあるのは理解してるので、それが得られるのは有難く・・・・・・悩みどころとなってしまっていた。

 

 そして最終的に彼女が決断する理由となったのは―――この異世界で出会った女の子、アクだったのは何か意味があるのか偶然だったのか。

 

「・・・・・・そう言えば、アクさんの引きずるように歩いてる足の怪我って、私のモンクスキルだと治せそうになかったんでしたよね・・・。

 丁度ポイントもありますし、僧侶ならダメそうな時に前衛職のモンクなら瞬殺可能ですし。とりあえずお試しってことで、ここは一つ。―――ポチッとな」

 

 結果的に押してしまったナベ次郎。

 そして即座にハッとなり、言うべき言葉を思い出して慌てて叫びを付け足させる。

 

「い、いかん! 忘れてましたっ! ――うぉぉぉッ!! レアアイテム来なくていいです! 物欲センサー引っかかんないでお願い! ビックリするほどカルデアース!!」

 

 と、ガチャ回すときのジンクスとか迷信をとりあえず色々やっとく、運試しのガチャ好きネトゲーマー・ナベ次郎の中の人。

 世間では、親ガチャだの家ガチャだの色々言われてるみたいだけど、ネトゲの中のリアルガチャは課金のために存在する、メーカーさんへのお布施箱!!

 だからタダで引くときには、物欲センサー引っかからないか怖いのです。狙ってるのを察知されたら終わる迷信が伝統的に流行っているネトゲ世界のガチャ課金。

 

 そして―――

 

 

 パァァァァ――――っと。

 ナベ次郎の言葉と共に、白と黒の巨大な光が前方に現れ、それらが重なった時に一人の女性の形となって顕現した。

 

 

 現れたのは、金髪青目の美しいとしか言いようのない美人さん。

 ショートボブの髪型に、股布の部分が露出したチェインメイルを身に纏い、両手には杖のようにハルバートを持った姿の、僧侶と言うより神官戦士のような容姿。

 胸には、どこかの宗教の聖印っぽいのを下げているけど、ケンカ馬鹿のエルフ幼女に解るはずもなし。

 

 ナベ次郎の前に現れた美女は、美麗と言っていい瞳で相手を見つめ、響きの良い音楽的な声音でナベ次郎に向かって口を開いて、そして・・・・・・

 

 

 

「問おう。あなたが私のマスターかしら?」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・微妙にツッコミどころがある、召喚された場合のお約束セリフを放ってきやがったのだったとさ。

 

 イヤおかしいだろ、クラス的に。そこは騎魔王か剣魔王あたりが呼び出された場合に言うべき返しであって、僧侶系の魔王が言っちゃダメだろう。

 

「いやまぁ、確かに呼び出したのは私ではあるのですが・・・・・・マスターではないと思いますよ? 多分ですが・・・」

「え、そうなの?

 ここって召喚術士たちが呼び出した7つの召喚獣同士を探し出し、戦って戦って最後まで勝ち残った一人だけがキングの称号手に入れて、何でも一つ願い事を叶えてくれるって言う、武道会場の舞台じゃなかったの?」

「違います。あと、混ざりすぎです。そういうの求めてるなら、ネオ・ホンコンにでも探しに行ってきて下さい、地上を離れて宇宙に上がった香港にでも」

「え~。マジかぇ~」

 

 絶世の美貌で、巻き舌で驚き現す癒魔王の美人プリースト。

 もうこの時点でナベ次郎には、このキャラクターの元ネタについて大凡の見当は付いていたけれど・・・・・・それでも一応聞いてあげるのがロケット団流世の情け。

 

「ところで・・・・・・あなたのお名前は、ホワッチュア・ネーム?」

 

 発音が怪しすぎる変な英語もどきで質問したナベ次郎に向かい、思わずドキッとしてしまうほど魅力的で慈愛に満ちた、“聖女様のような”優しい微笑を表情いっぱいに溢れさせながら、美しい女性プリーストは一礼しながら名乗りを上げる。

 

 

 

「は~い☆ フィラーン・ザ・癒やしの魔王。クラスはダーク・ハイプリ~スト。

 暗黒神に仕える美しき聖女兼高司祭で、レベルは99。年齢は18歳で~す♡

 回復魔法は大体全部使えるけど、それより重要なお勧めポイントなのが魅力値ステータスMAX!!

 ああ、憧れの魅力値MAX!! 最高値の美しさ! テンプテーション!!

 これから私のことは、お嬢様と呼んでいーんですよマスター♪ むしろ呼んで、お嬢様と!!」

 

「う、うわぁ・・・・・・」

 

 

 

 思わず、ケンカ好きの馬鹿エルフでさえ引いてしまうほどのテンション&ノリと勢い。

 しかも、やっぱりコイツだったか・・・・・・と。

 今では知らない人が多そうなキャラだけど、相当に濃い上にマニアックなのが来ちゃったなぁーとも思いつつ。

 それでもまぁ、僧侶としても戦士としても頼りになるし、大した問題も起こしそうにないから、アクさんの足も治せそうで良かったなぁと。

 

 

 ―――この時には、その程度にしか思っていなかった人の召喚に成功しちゃった訳なんだけれども・・・・・・しかし。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ねぇ、ちょっと。この女だれ!? 誰なのよ!?

 な、なななんか私的にスゴく脅威を感じるんだけど! 色々と奪われないため今すぐ抹殺した方がいい気が物凄くして仕方のない女なんだけどっ!!

 殺しちゃっていいかしら!? 殺しちゃっていいわよね!? よし殺すーっ!!!」

 

 

 

 

 被った―――っ!? 同じ聖女系のお嬢様キャラで被っちゃったーッ!!

 そのつもりなかったけど、既存キャラの上位互換を呼んじゃったーッ!?

 

 助けて、ゴローッ!! 深夜の居酒屋でしょっちゅう被るの慣れてる井頭五郎さーん!?

 

 

 

 

注:この後、紆余曲折バカ騒ぎしまくった後に無事、アクちゃんの足は完治することができました。

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

オマケ:新キャラ設定紹介

【癒魔王フィラーン】

 

ナベ次郎が異世界でリアルガチャして呼んでしまった、本来の自分とは全く関係のない赤の他人存在にして、課金の傭兵助っ人NPC存在。支払いは異世界ポイントで。

元ネタは『蟻帝伝説クリスタニア』のRPGリプレイ版に登場した、知識の神ラーダに仕える女司祭『フィランヌ』

 

最高数値の魅力値を叩き出した事で知られているが、その割には戦士よりも前衛をこなしたり、盾役も担当したり、正規リーダーを差し置いて実質リーダーになってしまったりと、幅広く活躍しすぎだったことで知られてる方が有名かもしれん。

 

 

原作における、『側近召喚』で呼び出された『桐野悠』の今作版バージョンとしてご出馬願って流用しました。

大帝国ともGAMEとも関係なく、単なる中堅MMOの古参プレイヤーってだけのナベ次郎には当然のこととして側近設定のNPCなんてものはなく、代わりとして仲間を呼ぶなら『○○魔王』とかの色んな魔王連合組んだ方が今風っぽいかと思った次第。【ボクと魔王】にも影響されたけれども。

 

悠をそのまま使う手もあったのですが、整合性が取りづらかったのと、単純に側近全員を知らない上に設定も詳しくないため上手く使える自信がなかった。その結果として今作版にあわせた近いキャラとして登場させている。

 

悠が、見た目通りの出来る女で、ヤバめの天才で組織運営もこなす才女だったのに対して。

フィラーンの方は、見た目と違って出来ない女で、回復魔法は天才的だが、組織運営どころか客商売に向いてなくて冒険者になった残念美人タイプ。

 

ナベ次郎と同じで、原作の同ポジションキャラとは真逆のステータスと職業を持たせた内訳に変えており、九内伯斗と同じようにいきたくてもいけずに迷走していく理由の一つになってもらうための設定でもある。

 

また悠が、神を信じぬ科学系のマッドサイエンティストだったのに対して、フィラーンは一応だけど神に仕えるプリーストで、物理でブッ叩く系の解決策をとりたがる等、逆説的な原作リスペクトを加えてみてはいる。

 

要するに、頭で考えるより物理で殴る方が手っ取り早いと考えてる人だった場合はこうなると。比較対象として描いた感じですね。

 

 

彼女と同様に、他の側近たちも今作版に変えて使ってみようとは思っているんだけど・・・・・・自信ないのが微妙なところでもありまするわ・・・。

 

いわゆる、『回復職なのに攻撃もできるキャラ』が元ネタのため攻撃も可能なプリーストではあるけど、あくまで装備品によって可能になってただけのため今作番でも同様になっている。

 

尚、性格やクラスはどうあろうと、魔王は魔王なので混沌属性。

元ネタの時点で帝国の支配と戦う主人公の割に、犯罪行為が多すぎるパーティーだったからなー・・・。


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