試作品集   作:ひきがやもとまち

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【魔王学院の不適合者Ⅱ】放送開始おめでとう記念!
……まぁ単に、作者が見たら書きたくなったから書いただけなんですけれども…。

前から書いてたのを、第2期1話目を見て書く気力が再熱して仕上げただけの作品ですので、原作とは色々矛盾するのでしょうが、そういうモンとして楽しんでもらえたら助かります。


魔王学院の魔族社会不適合者 第14章

 サーシャ・ネクロンの生涯は、ウソばかり吐いてきた16年間だけの人生だった。

 自分は一人の魔族として生まれてきたというウソ。自分に妹はいないというウソ。運命だから仕方がないというウソ。

 そして・・・・・・『妹なんて大嫌いだ』という大ウソ。ウソばっかりの人生だった。

 

 だから最期まで、ウソによって目的を叶える嘘吐きな女として人生を終えるつもりだった。

 それこそがウソばかり吐いて周囲を欺き続けてきた自分には相応しい消え方だと・・・・・・本気でそう信じて、そう思って、受け入れることでようやく“もう一つの目的”は果たせそうにない無力な自分の運命を受け入れることが出来ていたのである。

 

 

 ―――だが、彼女は最悪なまでに運が悪かったらしい。

 

 

「な、なにを言って・・・・・・っ」

 

 最期に騙す相手の片割れである黒髪の少女から掛けられた、思わぬ言葉と悪すぎる言い分にサーシャは狼狽え、悪女らしい露悪的な作り笑いを維持しようとし、バランスの悪いなんとも言いがたい表情になってしまって思わず一歩、後ろに後ずさってしまい・・・・・・

 

 

 ――トンッ、と。

 

 胸にナイフを突き立てられて、血を流したまま台にもたれ掛かったまま動かないミーシャの足先に靴がぶつかった瞬間。

 

「ふ、ふふ・・・ウフフフ、フハハハハハハッ!! なにを言ってるの貴方~?」

 

 それを自覚したサーシャは表情を一変させ、思い切り露悪的な男を惑わす性悪女そのものの作り笑顔を形作ると、痛烈な罵倒という悪意によって『本心のウソ』を隠すための常套手段に訴え出ようとする。

 

「い~い? ソレはねェ~え? 私に利用されるためだけに生まれてきたの。使うだけ使ってボロ雑巾のように捨てられる、哀れで惨めな魔法人形だわ。

 ねぇ? まだ生きてるのォ~? 最期だから言っておいてあげるわ。私ねぇ、何度騙されたって、そうやって信じてくる貴女のイイ子ぶりっ子なところが虫唾が走るぐらいに大嫌――ッ!!」

「その割には随分と慈悲深く、テキトーな殺し方を選ばれたのですねぇ。

 ナイフで、ただ心臓を刺すだけでトドメも刺さずに、それだけの大口を叩けるなんて・・・・・・アハハッ!

 哀れで惨めな子悪党を演じるのも大変ですね♪ 悪い子ぶってる反抗期なお子様ゴッコご苦労様です☆」

 

 ―――ぶっ殺すわよコイツ!? マジで超ムカつくわねアンタはぁッ!!!

 

 ・・・・・・と、思わず本音の悪意全開で罵りまくりたい衝動に駆られながらも、ギリギリで自制して自分の計画の方を優先できた彼女の妹愛は、確かに大した演技への情熱だったのは疑いない。

 

 だが残念なことに、世の中というものは情熱が結果に結びつくことは希なように出来ているのが常である。

 彼女にとって、計画が狂ってしまった要因は、ただただ運が悪かったからと言うしかない。

 もし2000年以上前。相手の少女が生涯の友と出会わず、ただの殺したいほど憎らしいクズ共を殺し尽くすために力を売り込み、私兵として働くフリをして周囲を騙し、クズであることを自らの行動で示したクズを殺すのに利用し続けてきた大ウソつきの人間の少女魔術師でしかないまま死んでいたならば。

 この場にいるはずだった友人は真相を知った上でも、彼女の思いを汲んでやる方に行動を選んでいたはずである。

 それが出来る優しい男性だったからこそ、黒髪の少女も相手に合わせることが出来たのだから。

 

 だが、何の因果か今この場にいるのは彼ではない。彼女である。

 男性魔族の名を名乗り、元は人間だった出生は友にしか語らず、生まれながらの魔族として、魔族達全てを統べる魔王を殺して地位を奪い、新たな暴虐の魔王として魔界に君臨していた過去を持つ大ウソ吐き魔王だった少女。

 

 2000年前には勇者の話さえ無視して、自分の要件だけを一方的に伝えてきた負の実績持ちなのが彼女である。

 言っては悪いが・・・・・・勇者さえ与えられなかった配慮をサーシャ程度がしてもらいたいと望んだところで叶えられるはずは最初から無く。

 平和な時代補正を鑑みて、せめて後100年ばかり修行を積んで《ジオ・グレイズ》ぐらいの威力を《グレガ》で簡単に出せるようになってからでなければ論ずるに足らない。

 

 相手に気遣われて、手加減してもらえなければ対等になれないのなら、格下の存在なのだ。

 それが友人とは異なる魔王少女による、判定基準だった。

 少なくとも、それが出来るようになるまでは―――守ってあげたいと思える程度の、か弱い存在にしかなれない。

 

 自分が守ってあげなければ殺されてしまう存在と、自分を倒しに来ようとした勇者とを対等に扱ったのでは、勇者の努力と成し遂げた業績に対して侮辱にあたり、サーシャに対しては無茶振りにも程があるものとなってしまう。

 

 全てのものを平等に愛することができた友人と異なる。

 黒髪の少女にとっての『気に入った相手』とは、そういう存在なのだから・・・・・・。

 

 

 

「は・・・ハッ! 意外と男みたいに単純なヤツだったのね。ちょっと気があるフリをしてあげたぐらいでコロッと騙されて、この私が貴女たちみたいな平民と仲良くしたがってると本気で思ってくれるのだから。

 ぜ~~んぶ、ダンジョン試験で1位になるためのお芝居だったに決まってるじゃな~い♪」

「それは無理でしょう。あり得ませんよ。何より時間軸で考えて整合性がとれてませんから」

 

 アッサリと切り返され、僅かにたじろぐサーシャに構わず黒髪の少女は敢えて“相手の両目から”は、視線を伏せて逸らしてやってから説明を開始する。

 

「第1に。貴女が私の班に加わって、ここまで来れたのは、貴女から私たちに喧嘩を売ってきて“ボロ負け”して、私が“今は弱すぎる貴女”に手を差し伸べて、鍛えてあげると誘った結果によるものです。

 別にあの時点で、見捨ててしまっても特に私的には問題は無かった。戦力としては者の役に立ちませんでしたのでね? 少なくとも“今はまだ”

 そこまで計算した上で、あのボロ負けを喫して、私にお情けで拾ってもらうために最初から勝負を挑んできていたと? 運任せすぎる計画だと思われませんか? 流石にその理屈は無理がありすぎる」

「ぐっ・・・・・・そ、それは私が―――」

「第2に。ダンジョン試験で1位になるため私の班に加わる理由となると、その王錫の元まで案内させるためだったという事になる。

 ですが、その場合には試験が始まる以前から貴女は王錫の存在を知っていて、私が在処を知っていることを知っていたと言うことになる訳ですが・・・・・・どこで聞いたのでしょうね? そんな情報を。

 皇族の貴女たちでさえ正確な在処を知らない、始祖が造った王錫の情報を、平民でしかないはずの私が一体なぜ・・・・・・? 偉大なご先祖様に失礼極まりない不肖の子孫達もいたものです」

 

 相変わらず理路整然と、相手の主張の矛盾点と根拠となり得る部分を指摘し、冷静に論破を繰り返してくる黒髪の相手に、サーシャは焦りを深めざるを得なくなっていかされる。

 

 彼女には相手からの反問に、納得しうるだけの理由説明をしなければならない立場にあった。

 そうしないと自分は、『悪役の姉』になれないからだ。正当な理由がなければ、お人好しすぎる妹は自分の望み通り自分を嫌ってくれないだろう。

 

「ご存じですかサーシャさん? かつての戦争相手だったニンゲンは、恨みで人を刺し殺すときは殺した相手の死体を何度も刺すんですよ。

 何度も。何度も。何度も何度も何度も何度でも刺し続けるんです。刺しまくるんですよ。

 もう死んでいるからとか、無駄な労力がどうとか、そういう理屈はいっさい何の意味もなく、ただ感情を満たすためだけに行うのが恨み晴らし目的での殺しである以上は、ただ自分の積もり積もった悪感情が解消されるまで刺し続けるだけ。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もず~~~~っと、ね?

 たかがナイフで心臓を一突きしただけで殺して終わらせてあげて、死ぬまでの間は苦しませ続ける事もしないで晴らせる軽い恨みなんて、“その程度の想い”に過ぎません。そうでしょう?」

「・・・ぐ・・・う・・・っ」

「大方、今の時代に人気のある復讐物の小説やらで、裏切るときには“こういう態度をするものなんだ”とか、恨み続けた相手を罵るときは“こういう事を言うものなんだ”とか。

 平和ボケした現実味のない、演出過剰な三流フィクションでも参考にしてマネしたのでしょう? 残念でした☆

 現実の恨み晴らしや裏切りは、その程度のお遊びではやらないものなんですよね~。

 もっと私たちを利用して上に上がってから排除して、全部を自分で独り占めぐらいが普通の裏切り。最初の班別行動から、いきなり裏切りなんて無い無い、あり得ませんよ。全くの無駄、無意味、バカらしいにも程がある」

「・・・チィッ!!」

 

 挑発に挑発で返され、言い返せる術を持たない追い詰められた立場に追い込まれたサーシャは、言葉でこれ以上続けることは逆効果にしかなれないと判断すると、最小限度の不信感しか抱かせていない今の時点での撤退を決意する。

 

「《ゼクト》を破棄するわ! これで貴女ではなく、私が王錫を持ち帰っても所有権は私に委譲される!!」

 

 王錫の先で床をガツンと強く叩きながら魔法陣を展開し、契約魔法であるゼクトの光り輝く魔法陣を赤く染め、自分の魔眼で壊したときのようにヒビ割れて粉々に砕け散らす。

 そして振り返り、ミーシャの胸に刺さったままのナイフに向かって次なる魔法を投射。

 

「《レント》!!」

 

 条件付きで発動する魔法であり、この場合は術者であるサーシャの身に手を出すことでナイフが自動的にミーシャの心臓を穿つという流れを実行するようインプットさせた。

 これで黒髪の少女といえど、自分より先に妹の方を優先するに違いない――っ

 

「この子がどうなってもいいのかしら? その子、放っておいたら死ぬわ。

 いくら貴女でも、仮に魔法障壁を壊してミーシャの傷を治せたところで十秒以上はかかるはずよ。それだけあれば私は、余裕で逃げ切れるっ」

 

 相手から手が出せなくなったと確信して空中浮遊魔法を発動させるサーシャ・ネクロン。

 案の定、相手は自分の脇を素通りさせてサーシャを通し、傷ついたミーシャの元まで歩いて近づいていく音が背中から聞こえてきて、そして―――

 

 

「やれやれ。本当は恥を掻かせないようにしてあげるつもりだったんですけどねぇ。

 ―――貴女の眼は正直すぎますよ、サーシャさん。

 貴女の感情的になると光を放つ魔眼は、あまりにも今の演技と相性が悪すぎる」

「なっ!? あ、しま・・・っ!!」

 

 思わず声に出してしまいながら、両目に手をやってしまうサーシャ・ネクロン。

 自分にとっては当たり前の存在で、使うときだけ意識すれば良いだけだった魔眼をコントロールし切れていないという欠点を、彼女は今の今まで完全に失念してしまっていた。

 

 ――しまった! 迂闊だった! せめて眼を隠すための偽装だけでもしていれば・・・っ!!

 

 激しく後悔するサーシャだったが、今更全てが手遅れ過ぎる。

 不意打ちで放たれた相手からの指摘に対して、思わず眼に手をやってしまった以上は言い逃れも既に不可能。

 こうなったら、せめてミーシャに聞こえる範囲だけででも取り繕ってから撤退しないと計画が破綻する。

 そう考えて、キッと相手を睨み付けながら振り返ったサーシャの瞳は、だが思わぬ物が視界に収まったことから再び動揺し、大きく見開かれた状態で少女の銀髪に目を奪われる。

 

「み、ミーシャ!? 《レント》は発動してないからって、なんで!?」

「私は自慢の友人と違って、治癒系の魔法はヘタでしてねぇ」

 

 既に傷口が塞がって、胸元についた赤い血の跡だけが先程まで死にかけていたはずの証として残っているだけの妹が立ち上がって自分を見てきている姿を目にして驚愕するサーシャに向かい、黒髪の少女は妙にノホホンとした口調でまったく関係ないように思える話題を語りだし、

 

「彼だったなら、蘇生魔法を十秒以内に唱えられれば確実に相手を復活させることが出来たでしょうし、私も使う自体はできるのですがね?

 ・・・ただ残念なことに成功確率が低くて、十回に一回は確実に失敗してしまう程度のもの。この状況下で使うにはリスクが大きすぎるでしょう?

 だから自然と彼とは異なり、“まず死なせないこと”を念頭に動くのが自然体となってしまってましてねぇ~。

 ――要するに、治癒そのものはミーシャさんが怪我してるのを見た瞬間には、とっくに掛け終わっていたという訳で」

「・・・・・・っ!! さてはアンタッ、わざと!」

「ええ。わざと“無意味な無駄話”を続けることで、目眩ましに利用させていただきました。流石に気付かれると、あの位置関係のままでは面倒かも知れませんでしたのでね」

 

 そう言って種明かしをしながら露悪的に笑ってみせる黒髪の少女に、サーシャは心底からの激しい怒りと、自分自身の迂闊さに対する呪いで我が身を滅ぼしたくなって来るほどだった。

 

 少しでも考えれば、分かるはずだったのだ。

 この性格の悪い癖に、友人思いなところのあるクラスメイトが、倒れているミーシャを前にしてダラダラとした解説や無駄話に付き合うことを優先するなど、なにか裏があって行っている行動に決まっているのだから。コイツの性格の悪さは今までで十分すぎるほど思い知らされてきたのだから。

 

 にも関わらず、自分がミーシャに憎まれる為の演技に集中する余り、その点を失念してしまっていた。

 ミーシャを騙すことのみに気を取られ、自分が騙されている可能性にまで思い至ることが出来なくなっていた。

 

(しまった・・・・・・これでは・・・・・・このままでは――っ!!)

 

 残り時間が少ないから焦ってしまった。救うことばかり考えて集中力を欠いてい。

 ・・・・・・そんな事情は、言い訳にもなりはしないし、なれもしない。

 どんな事情があろうと無かろうと、失敗は失敗。

 挽回しようがない致命的ミスを犯した後で、正当な理由があったからとリスクを無かったことに出来るなら、成功のために必死になる努力は必要ない。

 

 自分は一番大事なところで、“やらかして”しまったのだ。

 それを認めよう。もはやリスク少なく、自分の命だけをかけて彼女を救う手段はどこにも存在していない。今からでは代案を用意する時間的余裕すらも残っていない。

 

 もし当初に用意していた手段で彼女を―――“妹を死なせずに済む道”があるのだとしたら、それは・・・・・・。

 

 

「――やはり、こうするしか無かったという訳ね。本当はやりたくなかったけど・・・・・・。

 恨むなら、友達思いな友人の友情を恨むことね!! 魔法人形ミーシャ!!!」

「!! サーシャ・・・・・・っ」

「~~ッ!? しまっ!!」

 

 

 こうしてサーシャは、《破滅の魔眼》を全力で使用しながら最大級の攻撃魔法を“ミーシャに向けて”撃ち放つ。

 この展開を予期していなかった黒髪の魔王少女は不意を突かれ、蘇生魔法がヘタな自分の行動基準故に“まず死なせないこと”を優先した行動を反射的に選んでしまい、ミーシャを守るための反魔法を最速で展開することを最優先して、サーシャの方は完全にマークを外してしまい逃亡を許してしまう失態を晒す羽目になる。

 

 

「チィッ! しまった・・・・・・私が、ここまで初歩的なミスを犯すなんて・・・」

 

 巻き起こされた土煙の中で、自分の甘さを罵る黒髪の少女。

 ――だが彼女はそれが、奇妙で歪で皮肉な相関関係によって成立したミスであったことに気付いていない。

 

 もし“彼”がいてくれたなら間違いを指摘してくれたかも知れなかったが、彼女一人だけでは気づくことが出来ない部分。

 

 それは、このミスが『自分よりミーシャを守ることを優先してくれる』と信じた相手からの信頼と、『自分がミーシャを守ることを優先することを信じられると“信じられなかった”』自分自身への不信とが重なり合って相乗効果をもたらした故の結果だったと言うことに、今の彼女は一人だと考え至ることがどうしても出来なかった。

 

 そうでもなければ、地力の圧倒的すぎる差によってサーシャの放った捨て身の切り札は不発に終わり、『自分が逃げ延びるため妹を囮に利用する姉』という役割を演じる演技は未然に失敗していたのは確実だったろう。

 

 この“彼”には解ることができ、“彼女”には解ることが出来なくなった心の問題が、この先で“彼”が辿るはずだった人生を“彼女”が奪ってしまったが故に歩むことになった道の先で何を齎すのか齎すのか・・・・・・今の時点で知れる者など誰もいない。

 

 それこそ、神でさえ『魔王の運命』までは知る由もない“対等な敵同士”が持ち合う矛盾なのだから―――。

 

 

 

「待って・・・許してあげて・・・・・・」

「・・・・・・許すのは別に構わんのですけどね」

 

 背後から、傷が治って立ち上がったミーシャに先刻の攻撃に対する恨みを微塵を感じさせない声音で語りかけられ、毒気を抜かれた体で肩の力を抜きながら、逃げたサーシャの追撃をすぐに行う姿勢を解除する黒髪の少女。

 

 元より、裁く気など微塵もなく、込み入った事情の内訳についてサーシャ自身の口から語らせた方が“傷口は浅く済む”と踏んで行っていただけに過ぎない行為だったが・・・・・・殊こうなってしまった以上は今更な話でもあっただろう。

 

 彼女自身も、全ての事情を把握しているという訳でもない。

 大凡は推測と予測が付いてはいるが、これ以上の計算違いを出さぬ為にも、そろそろ答え合わせをしておいた方が良い頃合いかと思い決め、気持ちを切り替え“銀髪のネクロン”が抱える事情と過去に向き合う準備を整える。

 

「その代わりと言ってはなんですがね、ミーシャさん。交換条件といきましょう。

 ――そろそろ聞かせてもらえませんか? あなたの事を。そして、サーシャさんの事を」

「・・・・・・知りたい・・・の?」

「“言いたくない”、そう思っているのは分かってたから聞かずに来ました。ですが、これ以上は無理です。

 何しろ―――――」

 

 そこまで言ってから、おしゃべりが好きな魔王にしては珍しく短く、そして普段より少しだけ小さな声音で一言だけで、

 

 

「・・・・・・私は貴女の“友達”ですので・・・・・・」

 

 

 そう、理由を告げられてミーシャは驚いたように瞳を見開く。

 やがて怖ず怖ずと、だが覚悟を決めた語調で「分かっ・・・た」と呟くと、彼女たち姉妹が背負い続けてきた言えない秘密と家の事情について、初めて自分たち以外の者に語り明かすときが訪れる。

 

 

「・・・言いたくなかった。でも、アノスの言う通り、アノスは友達。

 それに、イジワルだけど優しい。

 優しくしてくれる友達に、自分だけ隠したままなのは、ダメ」

 

 

 たどたどしい口調で、心優しい少女として生まれ育った“ミーシャ・ネクロン”として語った後。

 ―――表情に決意を込めて、硬質な“ネクロン家の秘術”としての顔になり。

 

 ミーシャ・ネクロンは―――“ミーシャ・ネクロンとして生み出されていた存在”は、隠し続けてきた自分たちの秘密を今、明かす。

 

 

 

「……サーシャが私に言っていた、“魔法人形”という言葉。あの呼び方は正しくない。

 十五歳の誕生日、午前0時に私は消える。

 ミーシャ・ネクロンは元々この世界には存在しないはずの存在なのだから……」

 

 

 

つづく


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