試作品集   作:ひきがやもとまち

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*書き忘れてましたが、『キャラチェンジ・システム』を次に使う時は別キャラに変えようと思ってます。新撰組の合体ネタは捨てたくなかったので。

単に同じ回の話ばかりだと飽きるから飛ばして先に進めただけであり、クイーンが「どっちも素敵!でも私には心に決めた人が…」とか言い出す乙女ゲー主人公っぽいビッチにするのも面白いかなと。

……イヤだった方は申し訳ないです、改めます…。


他称魔王様、自称凡人さん。リスタート第18章

 交易の町ヤホーで、国のトップ近い存在に対して暗殺テロまがいの事件が起きた当日の夜のこと。

 私たち正義と平和とケンカをこよなく愛するネタエルフPCのナベ次郎とアクさんのパーティーは、神都を目指す旅を再開しておりました。

 

 そして何故だか、国のトップ姉妹の次女である聖女ルナさんも一緒です。仲間になりたそうな顔して見つめてきましたのでパーティーに入るのを許してあげたからです。

 しかも何と! 彼女が乗ってきた馬車もセットでお得だったのですよ!!

 

 い~ですよね~・・・馬車って♪

 馬車さえあればモンスターさえ仲間に出来て、砂漠を横断することだって可能になる。

 お荷物聖女様がセットでついてくると分かっていても入手せずにはいられない、まさに夢の乗り物です・・・・・・(ポヤヤ)

 

 ―――決して、一刻も早く黒歴史が復活したマウンテンサイクルタウンから遠ざかりたくて、夜中でも移動できる安全な乗り物を欲したからではありません。ええ、本当に。

 マジでマジで、エルフ族ウソ吐かない。

 

「あ、そう言えばですけどルナさん。護衛の騎士さんたちはどうされたのです?」

「ん~? アイツらなら要らないから帰したわ」

 

 そう言って、つい先程ようやっと落書きが消えてガスマスクを取ることが出来たルナさんが、素顔のままで私の質問に答えを返してくれました。

 その返答内容と、今までの経緯を鑑みて私は彼女の言葉に大いに納得して、素直に一つ頷いて了承の意を返したのです。

 

「なるほど。遂に見限られて、置いてかれちゃったんですね。これ以上は付き合い切れんと」

「な・ん・で! そうなんのよアンタは!? 要らないから帰したって言ったでしょうが! 聞いてなかったの!? バカなの!? 死ぬの!!

 い、“一緒にいるところを見られて仲間に噂されると恥ずかしいですので”・・・・・・なんて言われてなんかいないんだからね!?」

「・・・・・・言われたんですかい。そして言ってたんですかい、ときめき騎士団の皆さん方は・・・」

 

 男の方から、その言葉を言われてしまった美少女お嬢様っていうのも斬新な設定が付け足されましたね・・・まぁガスマスクだから仕方がないのか、ガスマスクだと流石になぁ~・・・。

 

「でも、危なくありませんので? 何かあったときに私じゃ責任とれませんよ?」

「はぁ? アンタがいるじゃない」

「え? 私?」

 

 彼女の言葉に思わずキョトンとする私。

 いやまぁ、性格的に問題あろうと貧乳だろうと、美少女キャラで一応はお姫様を守りながら旅するのはRPG好きとして嫌な展開と言うほどではないんですけれども。

 

 ・・・・・・単純に、職業モンクですのでね? 私って・・・・・・。

 一応は前衛職ではありますけど・・・・・・タンク役としてはどうなんだろう・・・? なんかレイドで初っぱなに吹っ飛ばされて、紙装甲扱いされてた記憶があるんですけれども。

 

「うるさいわね、文句言わないの! ホントは私の側にいられて嬉しいくせに! この変態!!」

「・・・え? 変態と思ってる相手の側に居続けるのに、護衛だけ帰しちゃったんですか?

 ・・・・・・まさかとは思いますけど私、今誘われちゃってたりします・・・・・・?」

「す・る・わ・け・ないでしょー!? このエロバカ変態エッチ痴漢!!」

 あ、あなたがただ、私のお尻の感触を忘れられなくなっただけでしょう!? このお尻フェチの変態が! 変態!! 変態!! ヘンターイ!!!!」

「凄まじい勢いでの、お尻自慢ですね・・・・・・ここまで自分のお尻について熱く語りたがった女性は初めてのような気がします・・・しかも言い方がちょっとエロかったですし。――痴女?」

「ち・が・う!! って言ってんでしょーが!? 脳味噌ついてんの! 頭おかしいんじゃないかしら!? バカバカバカ~~~~~ッ!!!!」

 

 ボカスカボカスカと、真っ赤な顔してピンク色に頬っぺたを染めて膨らませながら、魔術師系特有の非力な猫パンチを、レベルカンスト幼女エルフ相手に叩き込み続ける聖女様。

 

 ふぅ~、今日も平和ですねぇ-。いやー、癒やされるなぁ~。ストレス発散用として最適な聖女様だ~(サイテー発言と自覚してるから心の中だけ)

 

 そんなこんなで、私がパーティーリーダーとして果たすべき役割として、新たに入ったばかりの新入りとの絆を深め合っていたところ、

 

「――あは、アハハハッ! 賑やかで楽しいですね! 僕ずっと、こんな旅がしてみたかったんです♪」

 

 と、輝かんばかりの笑顔と共にアクさんが横から笑いながら言ってきた言葉によって毒気を抜かれ、ちょっとだけ呆気にとられた心地にさせられながら・・・。

 それでもまぁ・・・・・・一応は念のため聞いておくとしますかね。後で真相が分かったら面倒になりそうな案件かも知れませんし・・・・・・。

 

 

「尻プッシュしまくりたがる痴女さんと一緒の旅を・・・・・・ですか・・・?」

「ち~が~う!! って言ってんでしょうが――――ッ!?」

 

 

 幼女の情操教育的に、過剰な性的表現は規制されるようになった時代の、現代日本で生まれ育った者としてはヒジョーに重要な問題は、聖女様の叫びによってウヤムヤのまま先送りされることとなったのでありました・・・・・・。

 

 まぁ、下着はダメで水着はありの緩いルールですが。Tバック水着と普通のパンツだったら意味ない気もする規制でもありましたが。

 それでも私は現代日本の学生だった者を中の人として持つエルフとして、日本の性倫理と放送倫理を信じてます! 異世界にいてからだって信じ続けますともよ!

 モザイク無しは、DVDかブルーレイを買って見ればいい!! それがスケベの生きる道!!

 

 こうしてワイワイキャーキャーやりながら、女子三人組パーティー(中身一人男ですが)に増えた私たち一行は、夜道を馬車の中で姦しく騒ぎながら神都へと急ぐのでありましたとさ~♪

 

 テテレッテレ~♪ 【尻自慢のルナ・エレガント】が仲間になった!!

 

 

 

 ・・・・・・なんか、色モノばっかのパーティーになってきましたよね。私が言う資格ないのは分かってんですが・・・・・・。

 石原軍団を異世界で再興するため、芸人パーティー結成したチート転移者として名を残すのだけはゴメン被りたいッスね。いやマジでマジで本当に。

 

 

 

 

 

 そして、その頃。

 この世界とは異なる異世界チキュウからきた魔王が、石原軍団を再興するため異世界転移してきた容疑がかけられることを本気で懸念し始めていたのと同じ頃。

 

 神都へと続く道の近くにある町の酒場で、一人の冒険者が夜のオヤツを口にしていた。

 

 

「ペロッ♪ チュクリ・・・ちゅぱちゅぱ、ア~ンゥ♡ ぷっちゅう☆」

 

 と、わざとらしく音を立てて舐める食べ方をしながら、一本の棒付きアイスを麗しき魔術師が食べておりました。

 抜けるような白い肌、眠そうな瞳。可憐すぎる容貌。

 黒いマントに三角帽子を被った、この世界では一般的な魔法使いの服装――もしくは異世界チキュウの一部の人たちにとっては一般的な魔女っ娘キャラのコスチュ-ムを身にまとった、聖光国ではアイドルに近い人気を誇る著名な冒険者パーティーの片割れ。

 

 

 ―――だが、男だ。

 

 

 心の中で、そう言い聞かせた後。

 一人の女戦士が相棒である魔法使いの美少女――もとい、美少年魔法使いへと声を掛ける。

 

「こら、ユキカゼ。路銀が少ないときに、まだ無駄遣いして・・・」

「――ん。ミカンも食べふぁい?」

「結構よ。って言うか、食べながら話さないの。行儀悪いわよ」

「ふぁ~い」

 

 声をかけた女戦士は、生半可な男では持ち上げるのも難しそうなサイズの剣を背負った大剣使いだった。

 大きな茶色のマントに包まれた褐色の肌を、ビキニアーマーじみた露出度の高い鎧で武装して、髪は活発そうなショートヘアの赤色をしている。

 鋭い眼光をしているが、十分に美人にカテゴライズしてもらえる容姿を持った、聖光国では知らぬ者のいない著名な冒険者。

 

 それが彼女【大剣使い・ミカン】であった。

 

 

 ―――だが、私は女だ。

 女っぽくても男と二人で旅するというのは・・・・・・どうなんだろう?

 

 

 と思わなくもない事はないのだが、それでも自分の実力に見合った相方で、しかも職業は魔法使いの冒険者となると簡単に出会える存在ではない。

 そういう事情もあってか、この二人は相性が良く、なんやかやと言いながらもミカンはユキカゼとのコンビを辞める気は今のところ考えていなかった。

 

 ・・・・・・まぁ単に、常識人ながらもツッコミ属性のオッパイ戦士と、下ネタ魔法使いの男の娘で、ボケとツッコミの芸人コンビとして相性良かったからだけなのかもしれなかったが・・・・・・それは言わないでおくのが誰にとっても多分得なのだろう、誰にも知られることなき真実の一つである。

 

「はぁ、まったく。バカやってないで本題に入るわよ? ユキカゼ」

「うん。いつでもイケる」

 

 帰ってきた返答の一部に、微妙なニュアンスのものが混じっていたもののミカンは敢えて無視して、張り紙が貼られた店の壁へと相棒を連れて歩み寄る。

 

 この世界では、冒険者用の依頼の斡旋所と酒場が兼業している場合が多く、彼女たちもそれを目当てに町へと立ち寄った口であった。

 旅の途中で路銀が乏しくなり、小遣い稼ぎ感覚で現地の引き受け役が少なそうな高難易度クエストを受注する。彼女たちのような高ランク冒険者がありがたがられる理由の一つであり、各地にある高レベルの冒険者が多くない村々などでは重宝がられる所以にもなっている生活の知恵でもあった。

 

「“その《サンドウルフ》危険につき、腕利きの冒険者求む”――だってさ」

「報酬も悪くないね。やる?」

「そうね。それじゃ早速、押さえちゃいましょ」

 

 壁に貼られている張り紙の中では、最高額の依頼書を見て軽い口調で語り合い、ミカンの承諾によって引き受けることを決定した高ランク冒険者の男女二人組パーティー。

 

 サンドウルフは、単独でもそれなりの強さを持ったモンスターで、群れになると繁殖力と数が爆発的に増加していき、脅威度が急激に高まっていくため、発見したら群れが小さい内に速めに処理しなければいけない存在の代名詞だ。

 

 強さそのものより、討伐までの時間が重要となるため賞金額が高くなりやすく、発見日から然程は過ぎていない時期であることも値段の変化で分かるようになっている、ある意味では高ランクの冒険者たちにとっては判断しやすい敵と言える。

 

 なんかゴキブリみたいな種族特性のモンスターであることだけは気になるが・・・・・・ゴキブリが狼の身体してたら確かに脅威ではある間違いなく。

 ゴキブリウルフと名付けなかっただけ、この世界のネーム基準ではマシな方と判断するしかない。

 

「すいませーん。サンドウルフ退治の依頼、私たちが受けたいんですけどー」

「おう! ちょっと待っててくんな」

「・・・・・・って、あら? コレ新しい手配書? 女の子みたいに見えるけど・・・」

 

 ミカンが店のカウンターへと歩み寄りながら声をかけ、中でなにか作業をしていた店主が依頼の受注手続きをするため必要書類を取りに奥へと一端入っていった直後に、ミカンはカウンターの上に投げ出されたままになっていた、一枚の真新しい手配者に描かれている人物を見て疑問の声を上げてしまう。

 

 どう見ても、女の子にしか見えない見た目の持ち主として描かれていたからである。

 それでいて掛けられている賞金額は、銅貨とは言え9000000000枚。とうてい女の子一人を追いかけ回すためとは思えない金額だ。異世界チキューのニッポン国だったらイジメじゃ済まん。

 

「ムッ! 私のライバルになり得る強敵の予感がビクンビクンと・・・っ!」

 

 そしてミカンの横から割り込んできて手配書を見たユキカゼが、真剣な顔して変なこと言い出してる声が聞こえてきた。

 

 言われてみれば確かに手配書の人物とユキカゼとは、似ている部分があるにはあった。

 雪のような銀髪と、茫洋とした感情の乏しい表情などは酷似してると言っていいほどに。

 

 だが、耳の先が尖っているし、人間とは思えないほどに長い。オマケに瞳の色は人にはあり得ない紫色ときている。

 噂に聞くハーフエルフの身体的特徴と似ていなくもなかったが・・・・・・いくら何でもハーフエルフの幼女相手に、これほどの賞金を掛ける物好きなど実在するとは思えない。

 

 そして何より気になったのは・・・・・・絵の中の人物の“背後”に描かれている“オーラの色”だった・・・・・・。

 

「この娘、新しい賞金首かなにかなの? あんま悪いこと出来そうには見えないけど・・・・・・何をやったのよ?」

「なんでも、魔王を名乗ってるらしいんだがね。見た目からは想像もつかねぇが・・・・・・もしかしたら呪われた結果なのかも知れねぇと、今ちょっとした話題の奴よ」

「呪い・・・・・・確かに、それならありそうね」

 

 店主の言葉にミカンは大いに納得させられ、その手配書に描かれている“幼女エルフの似顔絵”をしげしげと眺め直すと、その背後に描かれているオーラを含めて総合的な判断として妥当な評価を、その絵の中に描かれている人物へと与えることとなる。

 

 

「私には・・・・・・私のこの眼にはまるで、“昔と今と、これからの世に跋扈する邪気と魔性が人の形に集まった”・・・・・・そんなバケモノに取り憑かれているようにしか映らないもの・・・・・・」

 

 

 痛ましいものでも見ているかのような、哀れみのこもった声でミカンが呟き、悪霊に取り憑かれた悲運のハーフエルフの少女に救いが訪れることを心の中で思わずに入れない気持ちにさせられていた・・・・・・。

 

 

 

 

 

 ―――とんでもない誤解が再び発生して、本人の知らないところで魔王疑惑が再度の復活を遂げちまっていたのである!!

 こうなった原因として、実はルナが先に自分たちだけで帰してしまった騎士たちの存在があったことを、当事者たちの誰もが知らなかったのは皮肉な運命と呼ぶしかない。もしくはバタフライ効果でも可。

 

 なにしろ彼らは神都から出陣するときは騎馬隊として出立し、聖女様が乗る馬車を守りながら魔王討伐へと赴いた名誉ある部隊のはずだった存在だ。

 

 それが神都に帰還した時には、色々と負けて奪われてしまって、聖女様は現地に置いていくよう厳命され、目立つ馬車も聖女と一緒に現地に置き去り。

 トドメとして、彼らをそのような窮状へと追い詰めた魔王は、見た目だけならハーフエルフの可愛らしい女の子なのである。・・・・・・ゼッテー誰も納得してくれねぇ。厳罰処分は免れようがねぇ。不名誉の極みを押しつけられても文句一つ言えやしねぇ。

 

 自分たちだけで帰るよう命令したルナが、そういうこと全く気にしなくていい恵まれた立場と地位と待遇とを、魔法の才能伸ばす努力だけで与えられまくってたことから全く気付かず、配慮もしてもらえなかったせいで追い込まれてしまった彼らとしては、なんとか『仕方なかったんだ』という事を周囲に受け入れさせるため、ナベ次郎の脅威と怖さを色々と尾ひれ羽ひれ付け足しまくって別物の―――具体的には魔王は無理でも『魔王の妹』ぐらいは主張できそうなレベルにまでは見た目の恐ろしさアップをする必要性がどーしても存在してたのである。

 

 結果として、彼ら自身の必死さが功を奏したのか、吟遊詩人の才能ある奴でも混じってたのか、主を守り切れずに自分たちだけ本国へと帰還してきた護衛部隊は軽い処分だけで許してもらい、責任はあげて【力ある者が全てを支配し、聖女も魔王も所詮は同じもの】という教会と天使の教えを真っ向から完全否定して、悪魔王との戦いで消滅した座天使の亡骸に灰でも投げつけてくるような冒涜の極みを働いた魔王にあるに決まっている!!

 

 ・・・・・・という主張が、場の大半を制することになった訳であるが。

 

 魔王本人にとっては、自分が知らないところで【魔王を名乗ってた黒歴史】が勝手に捏造され、噂と共に広まってく発生原因がまた一つ新たに増えちまっただけという結果を招いちまっていたのである・・・・・・。

 

 一体この状況、どういう落着場所へ辿り着くのか、もはや天使でさえも予測不可能になってきているきらいがあるが・・・・・・それはともあれ、今の時点でのナベ次郎たちには知る由もない幕間劇だったのも事実ではあった。

 

 

 

 

 ――――んで、その翌日の朝。

 

「しっかし、なんですよね。ルナさんの格好は目立ちすぎますよね~」

 

 ボンヤリと馬車の座席に座って、正面に位置している聖女姉妹の次女である尻聖女のルナ・エレガントさんを見るとはなしに見ていたら、ふと感じた感想を口に出して言葉にしてしまっていたことに私自身が気付いたのは、自分が言った言葉に返事が返ってきた後のことでした。

 

「え? そ、そうかしら?」

「ええ。何というかこう・・・・・・“私、脱いだらスゴいわよ! 特にお尻がね☆”と、見た目だけで自慢しているような印象を、その服装からは受けま――」

「受ける訳ないでしょ!? 与えられる訳ないでしょ!! そんな具体的で恥ずかし過ぎる印象を見る人に抱かせる聖女の服なんてあるかーッ!!」

「もしくは、“私は安くないわよ? スパンキング一回で銅貨3枚”とかの意味合いを分かる人には分かるルビ振った暗号レベルの服装として・・・・・・」

「な・い・わ・よ!! 聖女の服装が奴隷売買と似たような意味持ってたら大問題じゃないの!? あと、安くないって安いし! たった銅貨3枚ってどういうことよ!?

 私のお尻を叩きたいなら、一回で大金貨100枚ぐらいの価値がある、天使様から愛されたお尻なんだからね!?」

「では、この洗剤もおつけしましょう」

「何が!? 何の話なの!? そして今アンタは、どこからソレを出したの――ってコレ、シャボン!? うわーっ! スゴい質がいいシャボンだわ! 見て見てアク! この素晴らしいシャボンは私がもらったものなのよ~♪」

「良かったですねぇ、ルナ姉様。魔王様がくださった宝物に間違いはありません!!」

 

 なんか、しょうもない話から脱線して、余計しょーもない話になってきてしまったところで私は、若い人たちだけで中の会話は任せて一服するため外へと出ました。

 

 本来なら、ルナさんが聖女であること隠すために、なんか別の服でも取り出して偽装するのが妥当な場面なんだろうとは分かっているのですけど、生憎とモンクの私にはプリースト用の装備は持ち合わせがなかったりする。

 冒険者たるもの、自分の職業だと使わない装備品でも、仲間とか初心者レクチャー用のために何個かはストックしておくのがMMOプレイヤーの常識ではありますけど、そういうのは基本的に普段は倉庫の中にしまって持ち歩くことはほとんどないもの。

 

 ですので、今の私にはルナさんが聖女であることを分からなくする術が存在しておりません。ソレを思いつけるかと思って外に出て一服してみた、そういう側面もあるにはあった次第っす。

 

「うーん、やはり鍛冶スキルを使うためのポイント稼ぎでもした方がいいのでしょうかね?

 でも元々、大して高くない熟練度しか育ててないスキルだしなぁ~・・・・・・どうしましょうかねー、まったく」

 

 と声に出して慨嘆しながらプハーとかやっていたところ、

 

「だ、旦那! あ、あ、あれをっ!!」

 

 切羽詰まった声音で、馬に餌やっていた馬車の御者さんから声を掛けられ、「ん?」と顔を彼が見ている方へと向け直すと―――遠くに砂塵が渦巻いている光景がウッスラと見えてきているようでもありました。

 

「あれは・・・・・・まさかっ!?」

 

 私は目を見開き、その光景を見つめ直し。

 二人組の女の子たちが、狼の群れに追いかけられながら全力でこちらへ向かって駆けてきていることを確認すると、「ニィッ!」と笑って心から楽しい気持ちになったときだけ浮かべる笑顔を作り直したのでありました!

 

 ソレを横で見ていた人が浮かべた、表情と視線に気付くことなく、私は狼の大群を前にして心から楽しそうに嗤っちまってたのでありましたとさー・・・・・・。

 

「ヒィッ!? ひぃっ! ヒィー!? そこの人、逃げてーっ!!!」

「・・・・・・そこの見た目だけで中身ない幼女、後は任せた。骨は拾わない。悲しむ男たちの人気は私の物・・・っ」

 

 群れではなく、大群と呼ぶしかないほどの数を引き連れて、何百頭いるか分からないほどの狼たちに追われながらコチラへ走って逃げてくる二人の美少女たち。

 

 敵から逃げ出したはいいものの、多くの敵がソレを追っかけ、周りの無関係なプレイヤーたちまで巻き込んでしまうMMOなどで偶に見られる特殊な現象・・・!

 悪気があろうとなかろうと、最近ではコレやると確実に荒らし扱いされてしまう・・・・・・そう! これが! これこそが!!

 

 

(トレイン状態、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!)

 

 

 私は心からの歓喜をもって、心からの歓声を心の中で叫ばずにはいられなくなってしまっていたのです!!

 “久しぶりに見る”その光景に! “久しぶりに参加できる”その現象に!! 私の脊髄が悲しく躍り出し、鼓膜は歓喜に打ち震える・・・・・・それをこの地で感じることができる喜び!

 なんと充実した―――私の戦場!!!

 

 

 ・・・・・・いや~、トレインって初心者の頃はけっこう体験する現象なんですけど、強くなってくると雑魚が何匹束になって掛かってきても楽勝で全滅できるようになっちゃって、むしろ敵モンスターの方が高レベル冒険者見つけた時には逃げ出す方へ変わっちゃったりすることあるのがMMOって特殊ジャンルの特徴なもんでしてね~。

 

 と言って、高レベルプレイヤーが初心者たちの狩り場とかに必要もないのに帰ってきてPOP数を横取りして減らしまくっちゃったりするのはネチケット違反に当たるため、強くなってくると話題に上らなくなってくる。それがトレインと呼ばれるMMO世界の特殊な現象。

 

 いや~、懐かしいなぁ~♪ 懐かしいなぁ~♪ ああいうの見ると一緒になって「トレインー!」って叫びながら走り出す側に回ってみたくなるなぁ~♪♪

 でもまっ、追いかけられてるのは美少女さんたちですし。男だったら、やってもいいんですけど女の子の場合は助ける側ですよね。うん、中の人が男の子として仕方がない。

 

 フゥー、気持ちを落ち着けるため深呼吸を一つして・・・・・・

 

 

 

「賢明だ。ところで、お嬢さん方。一つ確認していいかな?

 私が盾になって、君たちが逃げる時間を稼ぐのはいいが――――

 別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

 

 

 格好良くニヒルに、魔王キャラじゃないですけど敵にはなるから一応いいかと妥協しつつ、逃げてきて馬車の後ろに隠れた二人に向かって、そう言って。

 

「へ!? あ、アンタ何言って・・・・・・ああもう! できるもんだったら構わないわよやっちゃっても! 何でもいいから何とかしてーッ!!」

「そうか。ならば、期待に応えるとしよう」

 

 背中を向けたまま返事を返し、軽い態度で請け負って見せた後。続く言葉は例の呪文詠唱――と考えるのは、まだまだ厨二のド素人。

 

 厨二は好きなものを組み合わせるのが大好きな生き物なのですよ! そして、その好きなものとは・・・・・・シチュエーションに左右されるもの!

 即ち、この戦場においては・・・・・・コレです!!

 

 

 

「ハッハッハッハッ――良いもんだなぁ、強者が座る玉座ってのはぁ。

 クソどもを見下ろすには良い場所だぁ。テメェらのようなルーキーなんざ、この砂漠には腐るほどいるぜぇ・・・」

 

 

 

 ――砂漠の王国を乗っ取ろうとしてた海賊件犯罪結社の黒幕ワニさんこそが、この地形にはピッタリなのですよ!!

 と言う訳で、モンク・スキル《挑発》を発動! ヘイト集めまくって、敵の攻撃は全部私に集中! 狼さんたちの突撃は私一人に犠牲無視して突っ込め突っ込めで、倒すまでは先へと進む道はなし!!

 

 ―――ガウッ! ガウッ!! アウォ――ッン!!!!

 

 狼軍団の先頭集団と第2陣、第3陣を形成していた数十匹がまとめて私に向かって正面から突っ込んできたり、斜め上に跳躍してから飛びかかってきたり、横から噛み付こうと曲線軌道を描いて接近しようと試みてきますけど・・・・・・無駄なんですよォッ!!

 

 

「スマートじゃねぇなぁ、命は大切にしろよ。いや、もう手遅れか? ハッハッハッハ」

 

 

 モンク・スキル《カウンターの構え》

 言うまでもなく、格闘系ジョブにとって定番中の定番である物理攻撃には全部反撃して自分はダメージを受けないカウンター技。

 それを全方位に向かって全部の物理攻撃に適用されるようになるスキル。ただし別技やスキルを使用したら効果終了! 同じスキルを使い続けることでしか同じ効果を持続させられないモンクの上位スキル! その1つでっス!

 

 

 ズババババババッ!!!

 

 ―――ギャォォォォォォッン!?

 

 

「間抜けってのは、まさにコイツらのことだよなぁ? 放っておいても死ぬなら俺が手を下す必要すらねぇ」

 

 

 モンク・スキル《風水拳》

 使用された場所へと自らの気を流し込むことで自然の法則を味方に付け、その地形に応じた手段で敵を攻撃するモンクの中位スキル。

 またの名を、【FFⅢとⅤの風水師】!!

 

 

 ビュォォォォォォォッ!!!

 ――――ワァァァァオォォォォォォッン!?

 

 

 砂漠なので、砂嵐だァァァァッ!! サーブルス・フェザードだァァァァッ!!

 風水だから、運良くコレがでて良かった~~~♪♪

 

 

「おい、テメェら。随分と人気者だったようだが・・・・・・見逃してやるから尻尾巻いて、とっとと逃げな。

 どのみちお前らじゃあ、俺は倒せねぇ。群れも救えねぇ。何もできねぇさ。ハッハッハッハッハ!!!」

 

 

 モンク・スキル《哄笑》

 ぶっちゃけ、ただ単に楽勝した敵に向かって笑い飛ばすだけなんですけど、テンションゲージ上がってボーナス補正が入りやすくなり、得られるポイント数が上がる!・・・・・・時が偶にあるスキルです!!

 なんとなく気持ちいいから使ってみたいスキルに、申し訳程度の実用性も付けてみたって感じですな! でもこういうときには演出にピッタリ☆ ロールプレイにもぴったし♪

 私は好きです、このスキル! 交渉が好きです。でも哄笑はもっと好きです☆

 

 

 ―――・・・・・・キャン、キャン・・・・・・くぅ~~ん・・・・・・

 

 

 小さな鳴き声だけを残して、挑発の効果範囲外にいたらしい群れの外周部分に参加していた生き残りの数匹だけが、文字通り負け犬となって荒野の彼方へと去って行く後ろ姿を勝者の視点で気持ちよく見送り、タバコに火を付けスパ~っと一服。・・・ふぅー、仕事の後の一服は格別の味のような錯覚がしますぜぃ・・・・・・。

 

 

「下らねぇことで死んだもんだ。つくづく弱ぇってのは、罪なもんさ」

 

 

 せせら笑いを浮かべながら存分に悪役魔王気分を満たし終えてから、数だけ多い雑魚モンスターの群れを一方的に虐殺するチート無想プレイを十二分に楽しみ抜いて馬車へと戻ってきた私。

 

 ・・・・・・っと、そう言えばテンション上がって忘れるところでしたね。

 あのお二人さんにも、伝えるべきところは伝えておかなければなりますまい。

 

「あ、あの――」

「失礼。譲られたとは言え、君たちの獲物を全て奪ってしまったようだ。次からは手加減することを覚えるとしよう。では」

 

 それだけ言い残して颯爽と馬車の扉を開けて入っていく私。

 ・・・・・・ふっ、決まった。決まりました!! 今日こそは最初から最後まで完璧です! まさにパーフェクツ!!

 

 いや~、たまには良いもんですねぇ。いっさい己の厨二を隠す必要もなく振るいまくれるってのはストレス発散にもなって気持ちの良いもんです♪

 

 

 何しろ今回の私は―――《正義の味方》でしたからな!!

 

 

 敵の大群に追いかけ回されてる美少女たちを助け出し、正義の味方志望のキャラで始まって、クロコダイルだって国取り計画はじめる前まで国民たちから正義の守護神扱いされてましたし! 海賊に襲われた町の住人たちを救って感謝感激、国王様より王様なりな展開すらもあったぐらいだし!!

 

 

「お二人とも大丈夫でしたか? 特にルナさんは、お尻の方はご無事でしたか?」

「魔王様、スゴいです! なんだか胸がドキドキしてきました・・・っ」

「なんで私だけ、お尻の心配されなきゃいけないのよ!? ――で、でも中々ガンバってたじゃない。あの調子で私を守るのよ」

「ルナさんのお尻を、狼さんに襲われないようにですか?」

「だ・か・ら! なんで私だけいつもお尻なのよー! バカー!!!」

 

 和気藹々としながら、馬車の旅を再開する私たち三人。

 今回ばかりは何も後ろめたいことは一つもなく、気分良くスッキリと良いことした感に全身を包まれながら、心地よいテンションのまま神都へ続く道中を進んでいく私たちでありました。

 

 フフフ・・・・・・このまま行けば、魔王以外の二つ名で呼ばれるようになる日も、そう遠くはないようですね・・・・・・楽しみです♪

 

 

 

 

 

 

 

 ――――と、そんな風に特攻バカの肉体になって、思考が影響受けやすくなってきたバカが皮算用して去って行ったばかりの場所で。

 残された二人が、こんな会話をしていたことを、魔王エルフはまだ知らない。あるいは・・・永久に知ることはできないのかも知れない。

 

 

 

 

「なんて傲慢な上から目線と悪逆さ・・・・・・ハッ!? まさか、フードで顔を隠してはいたけど、アレが噂の魔王が持つ真の姿だったという事なの・・・?」

「あの娘・・・・・・ダンディー・・・♡ でも私は女の子、あの子も女の子。女としての道を貫くべきか、男として女の子を貫くべきなのか・・・・・・それが、お尻が熱くなる問題だ」

「アレは危険な存在よ? ユキカゼ。下手したら世界征服さえ目論みかねないほどの邪悪さと腹黒さを感じさせられる相手だったわ」

「確かに危険。私の貞操まで征服されちゃいそう・・・・・・でも、貫くのは私がいい・・・♡」

「神都に行って、アイツの正体と危機を知らせなきゃ!!」

「神都に行って、付けたままで女の子の身体でいられる魔法を見つけなきゃ・・・♡」

 

 

 

 

 ――噂は噂を呼び、別の噂話と結びつき、勝手にドンドン広がっていってしまう人類最良にして最悪の親友であり悪友。

 

 この性悪な友人との友好関係構築は・・・・・・残念なことに馬鹿エルフには、まだまだ先の話になりそうである。

 

 

 

つづく


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