試作品集   作:ひきがやもとまち

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交易の街ヤホー動乱編(仮称)が、中途半端にしか出来てなかったのが気になり続けてたため、思い切って1から書き直してみた分のが完成しましたので投稿し直しておきます。

全3話分の書き直しでしたので、読まれる方は2話前まで戻ってからお読みすることをお勧めいたします。

とりあえず今風に、『リメイク版』と名付けて差別化しておきますので、コッチの方が良かった場合にはコッチだけ残して最初のは消そうと思ってます。
逆だった場合は、その時に考えますね。


他称魔王様、自称凡人さん。リスタート第16章(リメイク版)

 ―――人間、溺れた時には藁をも掴むという。それは肉体がエルフとなった後も変わることはない。掴んだところで藁は藁、すぐに引き千切れて流されてしまう。

 いや・・・藁を掴んで流されるだけなら、まだいい。当初の予定通り行動するだけでしかない反抗に、予定調和以上の意味など微塵もない。

 

 藁だと思って掴んだ存在が、藁だという保証はどこにある? 縋るものを欲した自分が生み出した願望が、それを藁だと信じたがっただけではないという可能性は?

 

 それでも人は、その危険性を承知の上で掴まなければならいと思い込んでしまう時がある。

 切っ掛けは、ほんの些細なことだとしても、それが未来の大きな流れを決定づけてしまうこともある。

 バタフライ効果という言葉を知っているか? ――知らないなら調べるのだ! それぐらいの慎重さが求められているのだということを理解しろ!!

 

 ・・・・・・残念ながら、俺は慎重ではなかった。

 全ては偶然の結果だ。

 だがその偶然は、あらかじめ決められていた世界の意思でもあったのだから・・・・・・。

 

 

 

「――そうか、これがシュタインズ・ゲートの選択か・・・。

 “エル・プサイ・コングルゥ”」

 

 

『『・・・・・・・・・・・・?????』』

 

 

 大通りを満たしていた膨大な量の光が収まった後、あまりの眩しさに度肝を抜かれて光の正体がなんであるかを注視していたサタニスト聖堂騎士団双方の視界に現れた白い服を纏ったその男は。

 誰にとっても意味不明な言葉と、なにかの呪文みたいな聞いたことのない一文を詠唱し終えると、手にしていた板状のマジックアイテムと思しき奇妙な物体をポケットに納めて空を見上げ、空の向こうにあるものでも見つめるような視線を遙か遠く何処かへ向けて放ち続けていた。

 

 ・・・もう、この時点でコイツが何背負ってるキャラをイメージして作られた存在なのか、分かる一目瞭然すぎるだろうけど、一応詳しい見た目と内訳を説明しておくと。

 

 全身を白い服――即ち《白衣》で包んだ長身の男で、無精髭を生やした荒々しい風貌と、ボサボサの頭髪が「悪」っぽい印象をアピールするポイントになっており。

 白衣の各所には『DEAD OR ALIVE』とか『BLACK/MATRIX』とか。

 知ってる人には分かるけど、知らん異世界人には絶対わからんだろうコイツの趣味趣向が丸出しになりまくった英文がゴシック体で記されていて余計に訳分からんヤツになっちまっていた。

 

 

(やめろォォォォォォォォォォォッ!!!???)

 

 

 そして早速、軽い気持ちで選んでしまった選択を後悔しまくっている白い人の中の人となった馬鹿エルフ。

 

(なんでアンタが出てきてんですか!? なんで復活して来てんですか!?

 消したはずです!削除したはずです!!デリートしてアカウントごと無かったことにしたはずなのにィィィィィィィッ!!!!???

 どうして今さら蘇ってきますかなぁー!? 未来永劫消し去りたかった黒歴史はマウンテンサイクルの御山に帰れ――――ッ!!!

 お願いですから帰ってください!マジお願い! 私が死ぬ! 死んでしまってるうゥゥゥゥッ!?)

 

 コントロール不能になったことで、本来の自分は今の自分を中から見せられ続ける系のシステムだったのか、自分の心の中で血涙流して床のたうち回って苦しんでも、肉体の行動とセリフには何の影響も与えさせてもらえない、主導権奪ったキャラの人格次第では拷問にも等しい状況へと追いやられてしまった馬鹿エルフ。

 

 厨二全盛期時代に作り出し、卒業と同時に全部無かったことにして生まれ変わったキャラとアカウントで再プレイし直すまでやった忌まわしい過去の記録が復活してしまった今となっては・・・・・・過ちから学んだエルフは無力でしかない・・・・・・。

 

「き、貴様は何だ! いったい何者なんだッ!?」

「フッ・・・・・・」

 

 ようやく我を取り戻したサタニストたちの部隊長ウォーキングから放たれた、尤もすぎる疑問の叫び声を耳にしてもニヒルな笑みを浮かべるだけで―――より正確には「ニヒルな笑みに見えるような笑い」を浮かべるだけで、聞かれた質問に対する答えを直接的には答えない、厨二らしい王道厨二を貫いてくる厨二MADモドキ男。

 

 

「宇宙には始まりがあるが、終わりはない。――無限。

 星にもまた始まりがあるが、自らの力を持って滅びゆく。――有限。

 英知を持つ者こそ、最も愚かであることは歴史からも読み取れる。

 これは抗えぬ者たちに対する、世界からの最後通告と言えよう・・・・・・」

 

 

 ・・・それを答えとして語るのが「カッコいい」と思い込んでいる、痛さ故の発言によって・・・。

 所謂、《パンドラズ・アクター》とでも思えば宜しい。

 異世界の人には分からないだろうし、現代日本人でも分からない人は多いかもしれないが、分かる人には必ず分かる。

 自分の黒歴史が実態を得て生き生きと動き出す恐ろしさは・・・・・・当の本人にしか分かる日は永遠に来ないことであろう。

 ――来ない方が絶対いい代物なんだから本当に・・・・・・。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・?????』

 

 そして当然のように、聞かされてる側には何言ってんのか全く意味が分からない。

 当たり前だ。

 言ってる本人自身でさえ何言ってんのかサッパリ分からないまま、ただ「カッコいいから」ってだけで言ってる言葉の意味が分かってしまったら、ソイツは詐欺師の才能があるか精神病院に行った方がいい。もしくは脳外科に。

 

 

(死ぬわ――――ッ!? 過去の過ちによって私が死ぬわ! 私だけが死ぬわ!! 主な死因は恥死―――ッ!!!

 って言うか死なせて下さい!死なせて下さい!お願いしまっす!? エルフボディにアンデッドの精神強制安定機能ないの! 誰か! 私を殺して下さぁぁぁぁぁッい!!??)

 

 

 結果として、自分の内側にある心の中の内的世界の中心で、愛というか哀を叫んで叫びまくって血の涙を流しまくっている、コントロール不能になった自分の黒歴史の具現化状態に藻掻き苦しんでる馬鹿エルフ幼女。

 少なくとも、この戦いが終わった時には、勝っても負けてもバカが血反吐に沈んで無様を晒すのは確実になりそうだったが、自業自得なので大した問題はないだろう。

 

 戦いの終わりというものは、いつも空しい。彼女はそれを身を以て現実に生きる我々に教えてくれていると考えれば、差したる同情の念も涌きすまい。もしくはザマーミロとしか思われない。それが厨二の生きる道。

 

「え、えぇい! き、貴様も聖女の一派であろう! 者ども、殺れッ!!!」

『お、応ッ!! ウォォォォォッ!!!』

 

 そして結局、訳分からんことしか言わないヤツは、もう敵なんだと言うことに決めつけて倒す以外に対処しようがないと判断したウォーキングの号令によって、ようやく自分たちの方針が決まった黒尽くめのサタニスト軍団が白い一人の男に向かって大挙して襲いかかってきて、そして――――

 

 

「よせ。わざわざ無駄死にすることはない」

『な、なんだと!?』

「お前たちの力では、俺を倒すことは絶対にできない。できない理由があるからだ。

 命は大事にするものさ―――」

『う・・・、ぐ・・・・・・、むむぅ・・・・・・っ』

 

 静かな口調で堂々と、戦う前から勝利宣言をしてくる白衣の男。

 武器も持たず、鎧もまとわず、痩せぎすで筋肉などまるで無いように見える、強者とは到底思えない風貌を持つ、ただの青年。

 

 にも関わらず、その言葉には絶対の確信があり、その態度からは虚勢の類いは一切感じさせるものがなく、傲慢なまでの自信が自然体で発揮されている・・・・・・そんな透明感あふれる強者感が“感じられやすいような言動”に惑わされ、ポケットから取り出したタバコに火をつけて、敵の前で一服し始める青年を前にして不用意に動くことができなくされてしまっていた・・・・・・。

 

 

 

 そして、そんな『格好良く見えることと、見せること』を意識しまくった厨二妄想の具現を目の当たりにして、心トキメキされまくってる人も中にはおりました。

 

 

(か、かかかかかかかか、カッケェEEEEEEEE~~~~ッ☆☆☆)

 

 言うまでもなく、チョイ悪スケバン聖女のキラー・クイーンちゃんですな。

 悪そうで強そうで、余裕綽々の態度の美形とか好きそうですもんね彼女って。

 

(誰だよありゃあ!? あのバッキバキの白装束は何だ!? ヤバすぎだろ!

 しかも「生きるか死ぬか」って、どんだけ覚悟示しながら生きてんだよ!?

 ヤべぇよ! ヤバすぎるよアンタって漢はさぁぁぁぁぁぁ―――ッ♪♪♪)

 

 ・・・う~~ん・・・偶然の一致による、この相性の悪さ・・・いや、良さ。

 しかも彼女が引き寄せられまくったポイントはそこだけではなく、白衣のMADアバターは世界征服をもくろむ大学生マッドサイエンティストをモデルに造っているとは言え、コイツ自身は世界の未来を救ったマッドサイエンティスト本人ではない。

 

 後に馬鹿エルフを生み出すバカが、もっとバカだった頃に生み出していた妄想の産物存在である。

 当然のように、見た目には白衣のマッドサイエンティスト以外の「格好いい要素」が多く盛り込まれまくっており、

 

「――うっ!? ぐ・・・ッ、この痛みは印が反応している・・・? ぐ、ぐわぁぁぁぁッ!!」

 

 突然、右腕を左手で掴んだと思ったら苦しみだし、周囲を唖然とさせるような絶叫を上げた後、息も絶え絶えになんとかナニカを押さえきった“ように見える表情”で白衣に隠れていた己の右腕を自然な流れで曝け出させて、そこに巻かれていた包帯も取り外して、右手首あたりに刻まれていた【黒竜の刺青】を周囲の者たち全員に見られたがるように見せつけるポーズを取りながら。

 

「ハァ・・・、はぁ・・・、――チッ。久方ぶりに“ヤツ”の気配に反応して抑えが効かなくなってしまったか・・・・・・。仕方が無い、もう少しの間だけ待っているがいい。相棒。

 もうすぐお前の大好物である人の血を、好きなだけ飲ませてやることになりそうだぜ・・・・・・」

 

(ヤベェェェェェェッ!? かっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ♡♡♡♡)

 

 クイーン、心の中で絶叫。

 と言うのも、この世界には体に直接魔法を彫り込む手段というのが本当に存在しており、それは文字通り命を削りながら戦うような方法で、真っ当な神経と肉体で耐えられるような代物では全くなかったという異世界事情があったからだ。

 

 白衣の下に包帯巻いて、右手に黒竜書いて、眼帯もして、オマケに美形。

 典型的すぎるほどの、中学生の厨二がよくやりそうな『全部使いたい、どれも外したくない』という厨二妄想のゴッタ煮化現象起きた産物として、今この世界に長き眠りを経て復活を果たした白衣の男は見た目設定を造形されているキャラだった。

 

 

 ・・・・・・要するに、またしても偶然による一致が相性良すぎてしまった結果として、字面通りの意味と解釈されてしまったのが理由であった・・・。

 変なところで厨二に優しい異世界ですね、この世界って。

 

『く、クソッ! この死に損ないがッ!! くたばれェェェェェェェッ!!!!』

 

 一方で別解釈として、痛みに苦しんでた姿と、包帯巻いて眼帯してる格好を重傷負って治療中の怪我人と見て襲いかかる踏ん切りをつけたサタニストの皆様方。

 常識的判断としては非常に正しく、普通は彼らの方の判断が絶対に称えられて然るべき選択だったんだろうけれども。

 

 残念ながら、この異世界は常識人よりも厨二に優しい世界観をしているようでもあり――

 

 

「愚かな・・・・・・そんなに死にたいというなら、望みを叶えてやろう。――ハァァァ!!

 アイガーッ! アイガーッ!! アパカットォォォォッ!!!」

 

 

 ドガッ! バギィッ!! ズガッシャァァァァァッン!!!

 どっかの細身で素手だけど強い戦士がやってたことで有名だったセリフを叫びながら、拳の先からビームを発射させ、即座にしゃがみ込んで下段からのビームも発射し、両方を掻い潜ってくることになんとか成功した一部の者たちが刃物振りかぶってジャンプ斬り仕掛けてきたところを狙い澄ましてアッパーカットで高く高く自分と一緒に打ち上げながら・・・・・・フィニッシュである。パーフェクト!!

 

 ・・・・・・尚、基本的には正義キャラより悪役好きなのがコイツだったため、波動の力を飛ばす拳とか、天へと昇る龍の拳とかよりも、タイガーさんの方が好きなのでコイツの場合はコッチ系がメイン。

 

 何はともあれ、近づいてこようとする敵を迎撃する定番戦法は見事に決まり、ソニックなブームを出す必要性さえなかったほどアッサリと勝ってしまったサタニストたちの屍を前にして、白衣の厨二男は「フッ・・・」とニヒルに嗤うのみ。

 

「言ったはずだ。お前たちでは俺を倒すことは絶対にできないと。その理由があるからだ―――とな。

 己が勝てぬと言われた理由も分からぬまま、ただ敵へ向かって突撃する蛮勇。無謀。

 その愚かさこそが貴様らを死に至らしめたのだ。他の誰のせいでもなく、お前たちの仲間自身が持つ愚かさによって・・・・・・」

『う・・・、ぐ・・・・・・お、おのれぇぇぇ・・・っ』

 

 冷たい声と瞳で断言されて言い切られ、サタニストたちの初檄に参加しきれず生き残っていた面々は悔しげに歯がみしながら唸ることしかできなくされる。

 

 ―――余談だが、白衣の男がサタニスト立ちに向かって語った『自分を倒すことは絶対にできない理由』とは何なのかと言いますならば↓

 

 

【レベルの差があり過ぎるから】

 

 

 ・・・・・・ってのが理由の全てだったりする次第・・・・・・。

 確かに【ゴッタ―ニ・サーガ】ではエンジェイプレイヤーでしかなかった馬鹿エルフとは言え、一応はレベルカンストまで上がった身体で異世界に飛ばされてきてるわけだし、たかが武装した村人A、B、Cが襲いかかってきたところで、ノーダメージで圧勝できるのは当然の結果に過ぎず、負ける方がどうかしている。

 

 最近では、特別な生まれの主人公に普通のヒロインたちが「いつまでもオンブに抱っこはイヤ。隣に並びたい」とかの願い抱くのが人気になってるらしい部分あるけれども。

 

 どっかの世界でMMO遊んでたら現実に戻れなくなって、ゲームオーバーが現実の死を意味するデスゲームの中、黒い最強剣士主人公さんが

 

 

【たかが数字が増えるだけで、そこまで無茶な差がつくんだ。

 それがレベル制MMOの理不尽さというものなんだ!】

 

 

 と叫んでもいたので、馬鹿エルフの中の人的にはコッチを採用して、この白衣キャラを作ってロールしてました。

 「みんな違って、みんな良い」はMMO好きだから好きだったけども、「みんな一位で、順位はない」は嫌い。

 超強い武器がインフレ起こしてバランス調整されて、ゴミになって泣いた苦い記憶があるから。

 

『く、くそォ・・・貴様はいったい何者なのだ!? 名を・・・名を名乗れぇぇぇぇッ!!!』

「フッ―――“正義の味方”とでもしておこうか」

『なんだと!? ふざけるなァッ!!!』

「か弱き婦女子に、数人がかりで襲いかかるチンピラどもからレディーを守って戦っているのが俺で、チンピラが貴様たちだ。

 世間では今の俺のような存在の事を、『正義の味方』と呼んでいる・・・・・・そういう事さ」

『き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!』

 

(OUッ!! BANNKU!! BAN☆DEN♪BONNッッ!!!♥♥♥)

 

 そして段々と、言語中枢が危なくなってきた強さを尊ぶ聖女様の次女キラー・クイーン。

 

(レディー!? かか、かよわいレディーって・・・・・・っ! 俺の事かよわい婦女子でレディーってェッ!♥! ああ!でもでも! こんな扱いも悪くな~いッ☆♪♥♥)

 

 強すぎて、男たちから一度も女扱いしてもらった事ない王道ヤンキー少女設定持ちな聖女様が、人生初の女扱いが『かよわいレディー』だったせいでテンション上がり具合が凄まじいレベルになってしまったのも・・・・・・やはり相性が原因なんだろう、相性が。

 現代日本で同じ事やったら、絶対ドン引かれるかキモいとしか言われないだろう言葉でも、中世ヨーロッパ風なファンタジー世界の時代だったら古くさいお約束セリフになるまで後数世紀――。

 

「さて―――次は誰が死ぬ?」

(かっけェェェェェッ!! 超強くて渋くて格好良すぎるゥゥゥゥッ♡♡)

 

「オイ見たかよルナ! あの格好良すぎる上に超強いお方の活躍を―――」

『・・・キュぅぅぅ~~・・・・・・、フシュゥ~~~~~・・・・・・』

「――チッ! 使えない糞が! そして呻き声までブサイクがッ!!」

 

(・・・・・・ブク、ブク・・・・・・ぴく、ぴく・・・・・・)

 

 尚、褒められてる側の中のエルフも凄い状態になっちまいつつあります。具体的には、数世紀後には化石として土の下から発掘されそうなレベルです。

 心肺の音がピーッと鳴り続けて止まらなくなるまで、後数分・・・・・・。

 

 

『く、クソッ! 退け! 者ども退け! 一端退いて体勢を立て直すのだ!!』

 

 アッサリと味方やられたサタニストが、遠くの方でコントやり始めた聖女姉妹を殺すのを一端諦め、数が残っている内に復讐戦を図るため一時退却しようと背中を見せて逃げ始めた戦場。

 

 しかし・・・・・・

 

 

「逃げ出す道を選んだか・・・・・・。だが、遅かった。その道を選ぶには遅すぎたのだ・・・」

 

 そう言いながら白衣の青年は、さっき左手で押さえつける演技をしてた右手を、顔の近くまでゆっくり持ち上げて行きながら―――ユラッと。

 陽炎のようなモノを、徐々に徐々に拳の内側から発散していきながら何らかの形を取るよう蠢き出させ。

 

「いい指揮の腕だった。殺すには惜しいくらいだ。

 だが・・・俺と当たったのが運の尽きだったな」

『な、なに!? なんだと! なんだ、あの黒い色をした不気味な炎は!?』

 

 逃げ始めたサタニストたちの中で数人が、不吉そうな男の声に振り返って目にする事になった、今まで彼らが見た事のない色をした炎―――強いて言えば、神都襲撃の切り札として遣う予定になっている“生け贄”を用いて呼び出される存在の人体実験中に見せつけられた【人の町に居てはいけない世界の存在】が使う事のできていた外法の技ぐらいなもの。

 

 アレと同じモノを呼び出したというのか? 

 “同じ人間でしかないはず”の、この男が!?

 

「俺の邪気を餌に、魔界から呼び出した黒い炎だ。

 ナニカを影すら残さず燃やし尽くさない限り、決して収まりがつくものではない・・・っ!」

 

 ゴオッ!と。

 黒い竜で、炎で、厨二って言ったら外すことができない超格好いい存在を、この馬鹿エルフ生み出す中の人の当時が放置しておけるはずが無し。

 

 心の中に潜む自分の本心が、泡吹いて倒れながらピクピク痙攣して、そろそろ静かになりそうになってることをも気にすることなく。

 黒い炎をまとわせ始めた、黒い竜の刻まれた包帯取り外して、白衣の裾めくって見えるようにした右手を掲げながら、

 

「ただ、殺せば良いだけのルールで呼び出したのでな。今はまだ俺自身でコントロールし切れん。

 悪いな、手加減できそうもない。できれば殺さずに済ませたかったが・・・・・・」

 

 だったら、逃げる敵相手にオーバーキル過ぎる必殺スキル使うなよ、というツッコミが通常だったら入るのが妥当なところだけれども。

 逃げる敵に殺されかかってた側にとっては、別にツッコんで留めてやる必要性は些かもなく、逃げる側の敵たちにとってはツッコんでる余裕がない。全速力で逃げ出さなければ確実に死ぬ、殺される!という恐怖に突き動かされながら、全力で必死に、ただ町の出口へ向かってひた走るのみ!・・・・・・もう手遅れだったけれども。

 

 

「右腕だけで十分だ。見えるか? 貴様らが使っていた火遊びとは一味違う、魔力を秘めた本当の炎の術が!

 喜べ! 貴様らが、この異世界における邪王炎殺拳の犠牲者第一号だ!! 邪気眼の力を舐めるなよ!

 食らえ! 【邪王炎殺炎殺黒竜波】ァァァァァァァァッ!!!!」

 

 

 叫び声とともに突き出された右手から発する、凄まじい熱量を持った黒い炎のドラゴン・オーラ!!

 《ゴッターニ・サーガ》における数少ないモンクの遠距離攻撃技の中でも最大級の威力と使用SP(スキルポイント)を消費する必殺技!

 

 その名も、最上級モンクスキル《デッドリー・ウェイブ》!!

 

 ・・・・・・言ってた技名と全然違うじゃねぇかというツッコミは言ってはいけない。

 なんとなく見た目が似てる技使うときには、「コレがソレだ」という事にして同じ技名叫びながら使いたくなるのが、格好いい元ネタありの有名必殺技というものなのである。

 

 たとえば、《バーン・ナ〇クル》とか。《ギガディン〇トラッシュ》とか。《牙突〇式》とか。そういうのである。

 

 知ってる人にとっては痛いっつーより、労りの目で見られて他人行儀に気を使われ出す行為であったものの、知ってる人が誰もいないチキュウ外異世界だとやりたい放題である。

 異世界とは別名を、版権無法地帯とも言う。・・・・・・かもしれない。多分だが。

 

 

 

 まぁ、それはさておき威力と性能に関しては最上級の名に恥じない、射程範囲広すぎてホーミング機能まで完備している、超高威力の黒いドラゴンを象った炎の塊は、いったん町の上空へと舞い上がった後、再び急降下してきて逃げる途中だったサタニストたちのど真ん中に無事着陸して―――

 

 

 ドッガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッン!!!!!!

 

『うっぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁヒィィィィィィィィィっっ!?!?!?』

 

 

 ・・・・・・見事に地面をえぐって、でっかいクレーターを町の大通りにデデンと空けて、いったい修復までに幾らかかって何日必要なのか見当もつかない規模の被害を出しながらではあったものの。

 

 とりあえず、サタニストたちの脅威は跡形もなく、影も残さず消え去って、交易の街ヤホーには再び平和が戻ってきたのであった。

 

 

「フッ・・・・・・弱い者が、俺の前に立つんじゃねぇ!!」

(格好いいぃぃぃぃぃッ☆☆☆!!!)

 

 クイーンは思わず声を出しそうになり、周囲に騎士たちいるの今更のように思い出して、なんとか口元を押さえる事で我慢しきってはみたものの。

 

「そこの綺麗なご婦人。怪我はありませんかな?」

「ひゃ、ひゃいぃぃぃっ!?」

「――ぶッふォゥッ!? って、ヒィィッ!?!?」

 

 たまたま目が覚めてしまったらしい腹心のフジだけが、思わず発してしまった変な声の返事を聞いてしまったせいで―――口封じのため後でコロスと、目で宣言されて怯えさせまくりながら、それでも厨二の目には映らないから問題はない。

 厨二とは、自分に酔っているだけの者の事。相手が聞いてなかろうと関係はない。それでこそ厨二神ザ~マス故に。

 

「それは何より。もしまたチンピラどもの仕返しに来た際にはお呼びください。三十秒で駆けつけてご覧に入れましょう。

 ――ところでレディ、一つだけ確認しておきたい事があるのですが、宜しいかな?」

「は、はひっ。なんなりとどうじょ・・・・・・」

「ありがとう。もしあなたが、また誰かに襲われ、俺が助けにはせ参じたとき。

 ――その連中、俺が倒してしまって構わないのでしょう? たとえ神や魔王であろうとも」

(JesusGOD!! 俺は死んだッ☆★)

 

 神より先に自分を殺してクイーンは、一人の女の子として生まれ変わったつもりで相手の男に問いを投げかける・・・。

 

「ぁ、あにょ・・・いえあの、よ、良ければあなた様のお名前をお聞かせ下さい・・・・・・」

「ぶォッふォーッ!? って、ブひぃぃぃぃッ!?!?」

 

 そして邪魔しないよう死んだフリしてたせいで、場所が移動できなかったフジが本日二度目の「聞いてはいけない声と話」を聞いてしまって、本日二度目の死刑執行が確定してしまい、心の中で故郷の母ちゃんたちに別れを告げさせている傍らで、厨二はどこまでも厨二らしく。

 

 ――――勝利した後が一番格好つけてキメたがる、厨二の性を遺憾なく発揮しまくりながら、心の中の馬鹿エルフに止めを刺すためマウンテンサイクルに永久封印していたはずの忌まわしい名前を、再びこの時代へと呼び起こさせる禁断の呪文を口にする。

 

 

「俺の名はゼロ―――凶王院ゼロ。

 世界を壊し、世界を創造する男です」

 

 

(私は死んだ! って言うか死にたい! 誰か私を助けて自殺させて下さぁぁぁぁい!?)

 

 

 葬り去って、なかった事にしたはずの存在が墓の下から蘇ってきて、異世界で認知されてしまった瞬間だった。

 魔王レッテルの方は、なんとか誤魔化せるかもしれないけど、今回のコレは果たしてモンクの力で何とか揉み消すことはできるのだろうか?

 

 馬鹿エルフに未来を絶望させながら、凶王院ゼロと名乗った男は「それでは」と声をかけてから立ち上がり、クイーンたちに背を向けて、

 

「申し訳ないが、怪我人の方はお任せする。俺がこれ以上ここに居ては、彼らに今以上の迷惑がかかってしまう・・・奴らが来るより先に街から離れなければ・・・・・・。

 奴らが――“機関”が俺を追って、この世界まで来ている事は間違いないのだから・・・!」

「え? あ、あの機関って言うのは一体・・・? 私はこれでも、この国の聖女ですので出来ることならお手伝いを――」

「むっ!? いかん! 奴らがもう来たか! この場を戦場にするわけにはいかない!

 さらばだお嬢さん! 縁と命があったらまた会おう!!」

 

 

 そして、ダダダダダダダダダダ―――ッ!!!と、もの凄い早さと勢いで走り去ってく、誰かと戦いながら世界を守ってるらしいっぽい、白服の厨二男。

 

 もはや現代日本の厨二病患者たちでさえ、絶滅してしまったであろう「機関」を愛する運命の石ファンは、色々なもの混ぜ合わせまくって名作キャラをいいとこ取りしたパクりキャラとしてこの世界でデビューを果たし、この日の戦い結果とともに広く世界中に知られていくようになる伝説の始まりを刻み込んで去って行った。

 

 嵐と言うより、ギャグ台風みたいな男がもたらした衝撃は非常に大きく、最後に放った 【黒い炎の竜】と共に様々な人々の口を伝わりながら多くの伝説や異説へと発展していく、その第一歩目を今ここで記したのだ。記してしまったのである。

 

 

 

 

 そして、この件に関わってしまった者たちは・・・・・・

 

 

「ば、化け物め・・・っ、奈落を回収できただけでも救いであったが・・・・・・まさか【龍人】が出てこようとは!

 2人いるなど聞いていなかったが、獣人国は隠していたという事か・・・・・・だとすると、この国の騒ぎに介入するため、ヤツの他にも仲間の“獣人”が紛れ込んでいる可能性すらあり得る。警戒を強めねば!!」

 

 

 

 

 そして、戦闘の舞台となって被害を受けた街の復興現場の片隅では。

 

 

 

「あ~、アンタら。見ての通り街は今、復興工事中なんだ。悪いんだが、一般の観光客とかだったら西口の方へ回ってくれんか?」

「それは構いませんが・・・・・・どうかされたのですか? 何やら凄まじい破壊が起きたような光景ですが・・・」

「あ~・・・まぁ、その、なんだ。そのうち聖光国からの公式発表ってことで言ってくるだろうから、そのとき聞いてくれ。俺の口からは言いがたい」

「分かりました。難しいお立場を、お察しいたします。

 ――ところで僭越ですが、我々にも復興作業のお手伝いをさせていただいても構いませんでしょうか?

 実は私共は、苦しむ人々を救うため、正しき教えを説いて回る巡礼と不況の旅に出たばかりの者たち。家を壊され、嘆き悲しんでいる人たちを放ってはおけません。どうか僅かでもお手伝いさせて頂ければと・・・・・・」

「本当かい? そりゃ助かるよ。なにしろ人手が足りなくて、今すぐ猫の手でも借りたいぐらいで―――」

 

「承知しました。――と言うわけです!

 苦しむ人々を救い出し、お手伝いしてあげるため人助けのため緊急出動しなさい!

 我らが偉大なる第六天魔王様の使い、“コッコ君”っ!!!!」

 

 

 

【クルコッコ――――――――ッ!!!!】

 

 

 

「って、なんだこの馬鹿でっかい化け物鳥はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!???」

『ぎゃぁぁぁぁぁっ!? 運んでく途中の木材取られた!? 先に運ばれちまった!!』

『きゃぁぁぁぁぁッ!? お婆ちゃんが倒れて怪我してるのをお医者さんまで飛んで連れて行かれちゃったわ!?』

『うわぁぁぁぁぁッ!? 屋根に上っての難しい修理を空飛んでアッサリと簡単に!?

 ・・・・・・って、普通に良い事尽くめじゃね?』

 

 

「フッフッフ・・・・・・これぞ我らが偉大なる人々の願いを叶えて救世し、あまねく全ての願望を叶えてくれる夢と希望の第六天魔王様のお力!

 その力の一部だけを別け与えられた我が村唯一の雄鶏コッコ君でさえ、これほどのパワーを与えてもらえるのです!

 さぁ、皆さん祈りましょう! この世の今と過去、そして未来までもを光で照らし出す、真なる第六天魔王様の御名と威光を天に代わって感謝申し上げるのです!

 さぁ、ハイッ!!!」

 

 

【ああ、魔王様~♪ 魔王様~♪ 

 輝く瞳は、そよぐ髪♪ 山より高く、海より深い♪

 どんなに晴れた、寂しい昼も♪ あなたを思えば怖くない♪

 どんなに明るく、悲しい場所でも♪ あなたがいるから、へっちゃら、ぷー♪】

 

 

『お、おう・・・なんかよく分からねぇが、その歌を一緒に歌えば救われるんだな? なら歌うぜ! 力一杯腹一杯に声出して歌いまくるぜ!! 家で待ってる母ちゃんのために!!

 ―――ああ、魔王様~♪ 魔王様~♪ 

 輝く瞳は、そよぐ髪♪ 山より高く、海より深い♪

 どんなに晴れた、寂しい昼も♪ あなたを思えば怖くない♪

 どんなに明るく、悲しい場所でも♪ あなたがいるから、へっちゃら、ぷー♪』

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・見なかった事にして、聴かなかった歌としておこう。

 智天使様でも光でもない魔王が人助けなど、あってはならないあるはずのない出来事なのだから・・・・・・。

 あ~、寝不足できっと幻聴でも聴いて幻覚でも見たんだ、きっとそうだ。やっぱ歳は取りたくないもんだねぇ~、うんうん。(ズズゥゥ~)」

 

 

 

つづく


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