『偽りの天使に死を――――。
【火鳥/ファイヤーバード】!!!』
『聖女に嘆きあれ――――。
【氷槌/アイスハンマー】!!!!』
高級宿ググレの前で乱痴気騒ぎでギャラローを集めていたルナとキラー・クイーン聖女たち姉妹は、大通りの左右を封鎖される形で現れたサタニスト達からの襲撃によって先制攻撃を許す羽目になっていた。
「ちぃッ!! フジッ!!」
「姉さんッ!!」
『ああいやっ!? お姉様シュコーッ!!』
左右から挟み撃ちの態勢から放たれた魔法攻撃に対して、キラー・クイーンは腹心の部下に平素は預けてある馬鹿でかすぎて邪魔な大剣を投げ渡させて空中でキャッチし、迎撃のため一閃して自分に迫る脅威は片付ける。
――だが、機先を制されたのは否定しようのない事実であり、ガチンコの接近戦に特化した自分の能力では右と左両方から放たれた攻撃を完全に防ぎきる事は不可能だったのは認めざるを得ない。
自分一人ならば問題なくあしらえるが、サタニスト達は明らかに周囲で見物していた群衆たちまで攻撃範囲の対象に巻き込んだ上で放ってきていた。
・・・あと関係ないけど、ルナの語尾が微妙にウザい。
(チィッ! 防ぎきれねぇか・・・っ!!)
クイーンは敵の攻撃を完全に無効化しながら、同時に心の中で舌打ちする。
もともとサタニストたちは飢えた民衆が暴徒化し、それを組織化する指導者が現れたことで団結した、パルチザンの一種と呼んでいい存在だ。
そしてパルチザン――市民抵抗運動というものは、混沌としたゲリラ戦でこそ効力を発揮しやすく、訓練されて武装した軍隊相手に正面決戦を挑んでしまえば蹂躙されることしか出来ないのは目に見えている。
その事実を、サタニスト達は今までの経験則から熟知しており、正攻法では職業軍人に勝てずとも、群衆を巻き込んだ都市ゲリラ戦となれば自分たちが有利。
聖女を狙って放たれた攻撃に、見物に来ていた民衆たちを巻き込む形で無差別攻撃を放ち、場を混乱させ、その混乱に乗じて殲滅を図る。
ウォーキング自身は他の幹部たちと違って改革の志を失ってはいなかったから、民心からの支持を考慮しても余り好ましい手段ではなかったが、まともに戦って倒せるほど易い相手ではないことも理解してもいたから、やむを得ぬと自分を無理やり納得させていた。
結果的に、無駄な犠牲は避けて効率的に放たせた魔法攻撃は、正確無比に民衆たちを巻き込んで、キラー・クイーンの手が届かぬ位置を着弾ポイントとして複数設定されてしまい、接近戦が超得意な自分だけでなく攻撃魔法中心で防御魔法は長女ほど得意ではないルナの力を持ってしても今更どうにもならぬ距離まで近づかれてしまった後だった。
(――仇だけは取ってやる! 安心して先に逝っとけやッ!!)
と、心の中で彼女なりの詫びの言葉を犠牲になった民衆たちに向けて放ちながら、汚ぇ手段を使ってきやがったサタニスト共への怒りをぶつけてやるためにも大剣片手に突っ込んでってやろうとした、まさにその時。
「えい」
と、場にそぐわぬ可愛らしい女の子の声が聞こえたような、聞こえなかったような気がして、ついでに「ピンッ」と何かを弾いたような音も聞こえたかな? と思った次の瞬間。
ズバァァッン!!!
「な、なにッ!?」
野次馬たちに命中して、大量の血の雨を降らせる寸前にまで近づいていた火球の一つが空中で爆裂四散し。
「えい。えい。え~い」
ピンッ、ピンッ、ピンピンピ~ンッ♪
ズバンッ! ズバンッ!! ズバババァァァーッン!!!
と、次々に無関係の野次馬たちを吹っ飛ばすため放たれた魔法攻撃の火球や氷槌を粉々に打ち砕き、碌な成果も上げられぬまま空しく雲散霧消させられてしまった。
迎撃した際に爆発の衝撃で一部の民衆が吹っ飛ばされてはいたものの、その大半は植木とか雑木林とかゴミ捨て場に頭から突っ込んでくだけで大した怪我をした者はいない。サタニスト達の目論見は、この時点で計画変更を余儀なくされてしまったと言っていい。
・・・・・・とはいえ、何事も犠牲は皆無という訳にいかないのが情け容赦なき戦闘というもの。
『きゃーっ!? 貴方なんてもの見せるのよ! 下品だわ!不潔だわ!絶好よ!!』
『ち、違う! この勝負パンツは不可抗力で!? 誰か俺の代わりにズボンを上げてくれー!』
『キャーッ☆ なんて可愛らしいゾウさんなのかしら♡ イタズラしちゃいたいわ♪』
『や、やめて下さい!? ボクは今、相手の顔が見えないんですから責任が取れ――ぎゃぁぁっ!?』
・・・・・・なんか社会的生命とか、心の癒えない傷とか負ってる人たちは結構な数で発生してるように見えたが余談である。サタニスト達にとっては、どうでもいい余談である。
主に哀と笑いを振りまく魔王様がギャグキャラなのが原因なので、恨みはソッチにぶつけて下さい。彼らテロリストは今件でだけはムザ~イ。
「ば、バカな! 迎撃されただと!? 我々の計画を読んでいたというのか!? 一体どこに伏兵が・・・っ」
自分の計画を先読みされていたとしか思えないタイミングの良さに、ウォーキングは慌てふためきながらも状況確認をしようと冷静さを取り戻して意識を走らせ、突入命令を攻撃直後に出す予定を一旦停止させる。
どこに狙撃じみた迎撃をやってのけた姿無き伏兵が潜んでいるか分からない状況で、無策に突撃するのは無謀すぎる。
この場合、彼の判断は必ずしも間違いではなかったが――勝敗とは相対的なものである。
たとえ味方が無謀でも、敵が自分たちより弱い状況にあるならばコールド・ゲームで勝ってしまう時も偶にはあるだろう。
「・・・・・・なんだか、よく分かんねぇが」
そう、たとえば天性のケンカ馬鹿で敵を見れば見敵必殺で、テロリストは武力でブっ叩く!ぐらいしか対応方法を知らない分かりやすすぎる正義を信条とする聖女姉妹の次女三男かは、混乱する敵を前にして慎重な安全策を優先するタイプでは全くない。
「ご機嫌になったじゃねぇかサタニスト共ォッ!! 紅に染まる気分を味あわせてやるぜぇぇぇっ!!
野郎共ッ!! 全員突撃! サタニスト共を皆殺しにしちまいやがれぇぇぇぇッ!!!」
『お、おおおおおォォォォォォォォッ!!!』
『ああ!? ちょっと待って姉様! 私もやるわよシュコォォォォっ!!』
大将自ら率先して、敵か味方か分からん正体不明の狙撃手が潜んでる戦場へと突撃を敢行して、「王様や天使様より姐御様の命令こそ絶対です!」を地で行く聖堂モヒカン騎士団たちが即座に後に続いて突入してきて、一番最後に経験値少ないけど負けず嫌いで功名心は人一倍強すぎるルナが後方支援として参戦する。
結果論的な面が強すぎる配置だったけど、それでも理想的に近い紡錘陣形を取って突撃してくる聖堂騎士団&聖女姉妹の勇猛果敢な攻撃に対して、正面決戦では軍隊には絶対勝てない武装した暴徒たちの集団サタニスト達は、今度は逆に機先を制されて完全に浮き足立たされる羽目になる。
『うぉぉッ!! サタニスト共は消毒だぁぁぁぁ!!!』
『姐御に血を捧げろぉぉっ! 姐御に喜んで頂けることを光栄に思って死にやがれ!!』
『お、俺、この戦いが終わったら姐御に罵倒してもらうんだぁぁ・・・その為の生け贄になりやがれ!!』
『バカは死んじゃえ! 《金槍 /ゴールドスプラッシュ》シュコ~~~ッ!!!』
「ひ、ひぃぃぃぃッ!? ま、まさに悪魔の所業! コイツらは人間ではなぁぁッい!?」
『無差別攻撃するテロリストにだけは言われたくねぇぇぇぇッッ!?』
・・・・・・うんまぁ、どっちもどっちな状況になってしまったが・・・・・・戦いなんて大体そんなもんだよね。
戦争の勝利はいつも空しいって、どっかの大帝国軍戦艦復活させた人たちが、敵国滅ぼし終わって戻れなくなってから言ってたし。
「ハーッハッハ! サタニスト共! 紅に染まる気分はどうだ! ヒャーッハッハ!」
『オーッホッホ! アンタたちぃ! 私の魔法で死ねるなんて光栄に思いなさい! この悪魔共め! シュ~~~コォォォォォ~~~~~ッ』
端から見れば、どう見たって彼女たちの方が悪魔ではあったけれども。特にルナなんて、ガスマスクのせいで余計に悪魔過ぎてたけれども。
それでもまぁ、自分たちが勝ってる時ってのは、そういうものだろう。
勝利してる間は正義に酔えるし、敵の悪党らしさに酔えるし、楽して敵ぶっ倒せるチート無双の爽快感は現代日本人なら誰もが知ってる事だし。
弱くて悪くてヒドい奴を、一方的にぶっ叩けるのは気持ちがいい、イジメを嫌うだけで無くせないのは人の性。だから仕方がない。勝ってる間は仕方がないのである。
・・・負けた時には逆のこと言うだろうけどね・・・。
それもまた人の性だから仕方がなし。
「う、ウォーキング様! 前衛部隊は壊滅! このままでは保ちません!どうかご指示をッ!?」
「お、おのれ・・・っ、智天使を信奉する教会の悪魔共めらがッ!!!」
一瞬にして好機から危機へと陥り、天国から地獄へと突き落とされそうな立場に逆転してしまったウォーキングたち悪魔信奉者集団サタニストは、立場的に矛盾したこと叫びながら決断を下す。
使うタイミングを計っていた切り札を、「もうそんな事言ってる余裕はなくなった!」と割り切る決断をである。
「こうなっては仕方が無い・・・・・・“闇”の封印を解き放つ!!
総員、解除までの時間を稼ぐのだッ!!!」
―――さて、ここで余談ではあるが。
現代日本で流行っているラノベとか漫画とかドラマの主人公たちの行動パターンとしては、こういった現地人同士での現地事情に基づく揉め事に巻き込まれた日本からの転生者や転移者などは、たとえ介入可能なチート能力を与えられてたとしても「厄介事に巻き込まれるのはゴメンだから」とかの理由で仲間だけ連れて去ろうとして、結果論的に巻き込まれるのが定番展開となって久しい時代に今日ではなっている。
おそらく、それが「普通の日本人らしい行動だ」という一般認識に基づく行動だと思われているからなのだろう。
たしかに学校でイジメを見ても【見ザル言わザル聞かザル】の精神に則り、自分が巻き込まれぬため見て見ぬフリしてスルーするのが学校生活を無難に送る常套手段になってるし、警察は基本的に民間人同士の揉め事には【民事不介入】で関わりたがらないし、政治家の汚職は見なかったことにして出世するのが官僚社会というものである。
その昔、世界に覇を唱えて失敗して首都を瓦礫と化してしまった大帝国名乗ってた小国軍の兵隊さんも言ってましたしね。
『何を見ても聞いても、何も言わないのが生き延びる秘訣だ』
――と。
まぁ、彼の属した祖国と軍隊は生き残れなかった訳なんだけれども。今日の日本では罵倒されまくってる失敗した軍国主義国家の兵士が言ってた言葉に過ぎないんだけれども。
それでも尚、今の自分たちに都合がいい言葉は採用してしまって正しい名言に使っちゃう。それが現代日本人という、地球最凶のキチガイ民族の常識。
住宅地のど真ん中に核燃料処理工場ブッ建てても平気で生活できるのは全地球で日本人だけ! それが日本のオ常識!!
(注:馬鹿エルフの言い訳主観です。
今は異世界人エルフで日本人じゃないから好き勝手思ってます)
ま、要するにコイツの場合はどう行動するかと言いますと。
「――蹴りたい! 投げたい! 殴り・・・たいッ!!
昔から、『火事とケンカは江戸の華』という名言がある通り、日本人にとって他人のケンカ沙汰に介入するのは伝統芸能の一つであり、伝統は守り尊ばなければいけないもの!
ですので是非とも参加させて頂きたいですね! 日本人として! 日本人らしく! 日本の清く正しい伝統を守り抜くためにも絶対に!
他人のケンカほど気楽に楽しめて、滅茶苦茶にぶっ壊してしまくっても心が痛まないものは他に無し! 超楽しみてぇ~ッ♪ 超気持ちよさそーッ!
テッド・バンディー処刑日を千人で祝いまくったアメリカ市民の狂気の如く~♪」
・・・・・・こんな感じのエルフ理論で積極的に武力介入したがるだけでした。超サイテー・・・。
尚、テッド・バンティーとは1950年代に実在したアメリカの大量殺人鬼で、三六人もの若く優秀な女性大学院生を殺しまくったシリアルキラーで、メディアをも巻き込んだ大騒ぎを引き起こしたイカレタ殺人犯の名前である。
彼の処刑予定日には、処刑場に千人の市民たちが集まって「自分たちを恐怖のどん底に突き落として弄んだ殺人鬼」が殺されるのを、まるで誕生日パーティーのように大騒ぎして祝いまくった事で知られている。
悪くてヒドい奴には何してもいいという、地球人類全体の常識はここから始まったという説もあるが・・・・・・まぁ余談だろう。
だって今のここ地球じゃないし異世界だし。元地球人の現エルフは肉体の影響受けてギャグキャラ街道一直線だし。あんまカンケー出来るとは到底思えん。
「あ~~、殴りたい~♪ 殴りた~い♪ 温かホットなバトリング会場が待っている~♪
で~も、行っけない。残念だから狙撃だけ参加~っと。えいえいえ~い♪」
屋根の上に寝転がりながら、本当は参戦したいけど出来ない鬱憤を晴らすために、モンクスキル《指弾》で、敵の魔法攻撃だけを狙い撃ちして迎撃して支援する『弾幕ゲーム』の容量を再現してみてたケンカ馬鹿エルフの他人事ブレイン。
機銃でミサイル撃ち落とすって浪漫だよねと、【エースコンバット】とかやってた記憶を思い出しながら、ダメージ自体は大したことないけど弾の分だけ連射可能な飛び道具スキルを連続使用しながら、実は結構な頻度なハズレていることに気づかれることなく安全な場所から一方的に嫌われ者を叩く日本人的快楽を満喫しつつ。
の~んびりと戦闘の様子を観戦しながら、テキトーな心地でリラ~ックスしていた。
・・・・・・この時点まではの話としてだったけども。
「本当は参戦したいけど、ガスマスクの説明求められたら出来ないですのでねぇ~。
しかも今では【ルナさんのお尻にメロメロ魔王】のレッテル張りまで追加されちゃってる訳ですから、自分の安全確保しながら出来る範囲での参戦で我慢してもらいましょ。
他人たちが苦しんでても「自分に得がないことには手を出さなくていい」と、現代日本の有識者の皆さんとか人道主義の方々も言っておられたことですし、カンケ~ねー。
・・・・・・って言うか、巨乳美少女と一応美少女以外はどうでもいいですし。ヤローは死んで構いません。元男としてコレは譲れん―――って、ん?」
斜に構えた大義名分口にしながら、一番最後のオタクらしい欲望ダダ漏れ発言で免罪符として言ってただけなの暴露しちまいながら、気楽な調子で見物しながら援護射撃していた馬鹿エルフであったが、最後の最後でナニカ妙なものを見つけたらしく、少しだけ真面目な表情になって訝しそうに小声で一言だけ呟く。
「・・・・・・なんです? あの“デッカい宝箱”は・・・・・・?」
「――よもや秘蔵の“闇”を、この様な形で使うことになろうとはな・・・・・・」
一旦路地裏に戻って【切り札】を持ってきたサタニスト達の隊長格ウォーキングは、口元をひくつかせながら歪な笑みを浮かべさせ、最初のボタンかけ間違えに端を発する此度の失態を思い煩い、怒りと恥辱と敗北感に身を震わせていた。
彼としては、最も効果的な場面で使用することで政治的効果をも狙っていた切り札が封じラレし禁断の箱であったのだが、このままでは碌な戦果も得られぬまま空しく全滅させられるのを待つばかりとなった以上、贅沢は言っていられない。
「・・・だが、この失態。聖女二人と引き換えにできるならば許されよう―――故に、行けッ!!」
そう叫んでウォーキングは、両手に抱えるようにして持ち運んできた宝箱の蓋を開け放つ!
それは、この異世界ではパンドラの箱に等しい“絶望”が詰められた、神から与えられし人間たちへの呪いの贈り物―――解き放たれた漆黒の闇は、光の存在すべてを覆い尽くさんばかりの勢いで大通りへと広がっていき、一瞬にして満たしてしまう!!
・・・ただし!
闇が入ってた箱は結構なデカさを持つ重量物だったので、周到に計画練る頭脳はタイプのウォーキングには少し重すぎたりしたのだけれども! 重すぎたせいでバランス取るためガニ股姿勢での開封になっちまったりしたのだけれども!
あと、呼ばれて出てきたドバドバトロトロで、ジャジャジャジャーン!ってほど景気よさそうなスッキリした勢いはない「闇」と呼ばれる液体の色は、闇の割にはあんま黒くなく。
どっちかと言うと極彩色のケバケバしい色した、なんか汚いものの上から被せてみせるようなときに使う色みたいな感じがして―――ハッキリ言ってしまうならば。
昔のアニメとかの、モザイクかかったゲロみたいな色してる液体に見えた。
そういう風にしか見えなかったのである。少なくとも屋根の上から、「キモッ!?超キモッ!!」とか可愛い声で叫んでる中身キモオタ少年のケンカ馬鹿エルフには特に。
そして、箱から飛び出したゲロみたいな色した液体そのものは――――
ドババババババババァァァァァァァァァァァッ!!!!
『なっ!? これは・・・うぐっ!?』
『うぉぉぉ・・・・・・ち、力が抜け・・・る・・・だとぉ・・・!?』
「コイツはまさかっ!? 下がれルナ! こいつは“奈落”だ!!―――うゥッ!!?」
『え? なに!? 何なのこれはいった―――アッ♡ しュ~・・・コぉぉぉ~・・・♡』
一瞬にして通り一面に広がって、聖堂騎士たち全員と聖女姉妹二人の足下を浸して、四つん這いに平伏させてしまったのだった・・・・・・って、早ッ!? ゲロ早ッ!? 流石ゲロ!
「今だ! 天使の加護は消えた! 聖女二人を仕留めるのだッ!!」
『お、おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!』
そして、敵が弱まったと見るや一気に勢い取り戻し始めるサタニストの皆様方。
基本的にゲリラとか暴徒っていう人たちは、敵が思ったより強いと弱腰になって、強かった敵が弱くなると勇気百倍暴力レベルでリンチしまくれるバーサーかーになれる人達です☆
「―――って、他人事みたいに心の中で解説してる場合じゃありませんでした!? 急な自体に対応できなくてフリーズする日本人の癖が! 悪癖が!? 日本の平和が異世界オッパイさんとヒンヌーさんを殺しちゃうのに協力しちゃってるぅぅぅぅッ!?」
とか叫んで、盛大に責任転嫁の言い訳述べてから助けにいくため準備始めるバカエルフ。
基本的に最もらしい理由付けしないと動き出しづらい現代日本人をベースにしてるコイツ敵には、時々ジャパニーズ理屈臭い病が発症するときある次第。それが今でした。
「えーい! この際『ルナさんのお尻大好き魔王』のレッテルは受け入れましょう! それでもナニカ! せめてナニカ初対面の人には分かりづらくなるようなアイテムはありませんかね!?
流石にガスマスクの言い訳までは出来る自信ありませんぜ私ゃあよぅ!?」
そういう理由で、焦りながらでも顔を最低限隠してから参戦したい馬鹿エルフ。
因果応報の自業自得とは言え、ガスマスクにいつまで呪われ続けてるんだろうか?
後先考えない馬鹿エルフが、自分のやらかし呪いから解放されようと必死になってた、その瞬間。
彼女は―――自分の目の前に出現していたメッセージウィンドウの存在に、今更になってようやく気づく。
【客楽他亜千炎寺猛度(キャラクター・チェンジモード)を使用しますか? YES/NO
(注:使用中は一時的に操作不能となります)】
「―――・・・・・・????」
漢和辞典でも常備してそうな昔ながらの暴走族が書いたような漢字表記で、ルビまで振ってくれた状態で表示された謎のシステムメッセージ。
コレが何を意味しているのかは全くわからない。どのような効果が出るのかも全くわからない。当然だ。こんなワケワカラン名前のシステムは《ゴッターニ・サーガ》には存在していなかったのだから・・・・・・。
――だが、そんなケンカ馬鹿エルフにも断言できる確かなことが一つだけある。
それは――――
「えぇーい! なんかよく分かりませんけど、こういう場面で、こういう時に表示された選択肢って事は、コレ押せば正体バレずに助けることが可能になるってことですからな!
ならばこの際、他に道はなし仕方なし!! 是非に及ばず、キャラクター・チェーンジ! スイッチ・オン!!」
ヒーロー系主人公によるラノベ理論を大声で叫びながら、馬鹿エルフが《YES》ボタンを押してシステム発動を許可したことで、膨大な量の光が発生して通りのすべてを覆い尽くした。
こうして―――馬鹿エルフの異世界旅は、第二段階へと移行する。
つづく