試作品集   作:ひきがやもとまち

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他称魔王様、自称凡人さん。リスタート第14章(リメイク版)

 聖女姉妹の末っ子ルナ・エレガントが(半強制的に)仲間に加わり、交易の街ヤホーにある高級宿屋ググレに宿泊して、美少女二人と(ヒンヌーだけど)一つ屋根の下で一晩過ごして夜が明けた翌日の朝のこと。

 

 見た目は美幼女エルフ、中身はオタクな馬鹿エルフの姿は美少女たち二人に挟まれた「川」の字の真ん中にある一番短い棒になってる場所にはなく、とある店舗にまで出向いてきていた。

 

「ほほぅ? 都市国家の先にある、海の向こうの品ですか・・・・・・」

「ええ、由緒正しい伝統ある品です。私たちの国では風流を介せることが尊ばれ、皆そろって《ワビサビ》という文化が重んじられているのです」

 

 手持ちの金が少なくなったので補充しようと、骨董商にアイテム売りに来てたのである。

 今のところ軍資金と旅費に不足はないし、ルナから奪った金も結局返さなかったので、しばらくは大丈夫だろうと思ってはいる。

 とはいえRPGにおいて、金というのはいつ何時ポケットマネーの即金支払いで大金求められるか分からないものであり、そういう時に限ってレアで高性能な現時点では入手できない高ランクアイテムが売りに出されてたりするものなのである。多く保持していて困るということは多分あるまい。

 

「そして今日は祖国より、最も価値の高い品をお持ちしました」

 

 そう言って、見た目だけは神秘的な美しさを誇る美幼女エルフが取り出して、店のカウンターに置いた工芸品。

 

 

 

【18/1 ガ○ガ○魔王くんフィギュア(☆全身78カ所可動)】

 

 

 

 ・・・・・・なんで自分は、こんなもの売りに持って来ちゃったんだろうか? 他にも売れそうな品は、まだあったはずなんだけれども・・・・・・バカすぎる魔王繋がりの呪いだったらイヤすぎる・・・。

 ともあれ、持ち出してしまった以上は押し切るしかない! 後には退けなくなってしまった背水の陣の心構えで商談に望もうと決意を固めた、まさにその時!!

 

「お、おおォッ!? この人形は・・・・・・なんという凄まじい完成度ッ!

 しかも腕も足も肘さえも動かすことができるのに、使われている素材は絹のような柔らかいものではなく、硬質な金属を組み合わせて造られたもの・・・これぞ、まさに工芸技術の極みと呼ぶべき至高の逸品!!」

 

 ・・・・・・と、相手の方が勝手に過大評価してくれたので必要なかったみたいですね。肩すかしだけど、良かった良かった。

 

 元々この骨董商『ナンデン・マンネン』は、この街で長く美術品を扱ってきた大手の美術商で、骨董商の常識として独自のツテを多く持っており、昨晩レストランで聖女ルナ(と思しき人物)と相席することになった謎の美少女たち二人組のことも当然聞き及んでいる。

 

 そんな相手から、見たことも聞いたこともない素材で造られた、作り込まれた甲冑姿でありながらも動きを妨げない高い技術力を誇り、独特なデザインの甲冑を纏った異国の剣豪をリアルに再現しようとした作り手たちの腕前までもを見せつけられては、未知の連続に珍しい物好きの好事家たちを多く常連に持つマンネンとしては絶賛するしかない。

 

 また、聖女ルナの知り合いならば、信頼性の担保もある。価値が一定しない美術品などの取引では信用がないのとあるのとでは大違いであることを考えれば大きすぎるメリットとも言えただろう。

 

 ・・・・・・まぁ、『骨董商だから日本の鎧っぽい置物を置きたがった』とかの理由である可能性も0ではないのかもしれないが・・・・・・高く売れそうなのでツッコまないでおくのが吉だろう。都合のいい誤解なら、解かない方が得なのだ。だからツッコまない。それが馬鹿エルフの生きる道。

 

 

 

 

「いや~、思いもかけないほど高値で売れて良かったですよー♪

 もっとも《ゴッターニ・サーガ》と通貨が全然違うから、本当に高いのか易いのか全くよく分かりませんけれども~☆」

 

 適当に手に入れた金の詰まった袋を片手でポンポン弄びながら、ルンルン気分で宿屋までの家路を急ぐエルフ格闘家のナベ次郎。

 見た目的には見ているだけで心癒やされる美少女が、心底から嬉しそうな笑顔で踊るような足取りとリズミカルな歩調で歩む様は、妖精たちが森の広場でパーティーをしているかのような幻想的な雰囲気さえ感じさせるものがあり、耳目を引きつけてはいたのだが言ってる内容はろくでもないのは何時ものことである。

 

「んー、しかし本当に“この国”には雨があんまり降らないんですなぁ~」

 

 スキップするような足取りで帰路についている途中で、ふと空を見上げてナベ次郎は小さく呟く。

 昨日の夜、寝る前にルナから聞いた話によれば聖光国の風土は、あまり雨が降らない土地柄らしい。それが原因で農業やら干ばつやらと様々な苦労と問題が起きているらしいのだ。

 

 ナベ次郎個人としては、雨は嫌いではなかった。むしろ好きな方と言っていい。

 ・・・・・・降りしきる雨の中、傘も差さずに橋の上を歩くクールな主人公・・・・・・カッコYUEEE!!的な理由で憧れてたからだ。それだけが理由の全てである。

 

 あと確かルナが、《THE天使》とか《血天使》とか《死天使》とか厨二っぽいワードを幾つか言ってた気がしたけど、眠かったからよく覚えていない。

 色々と天使が多い国である。メタトロンとかいないだろうか? サキエルでもいい。ゼルエルは強すぎて勝てそうもないので、お帰り願いたいエヴァ好きの心情。

 

「さ~てと、予定外のボーナスも入りましたしアクさん誘って食事に行って、ルナさんに悔しがらせながら、“恵んで欲しければ三回回ってワンと鳴け”とか言って、からかって遊びにでもいきますかねー・・・・・・って、およ?

 なんか宿の前に団体さんが来て、騒がしくなってるような気が・・・・・・」

 

 

 小首をかしげながら、到着した宿泊先の宿屋の前に隊伍を組んで整列している、礼儀正しく統率が取れた日本の高校生の修学旅行よりかは問題起こす人少なそうな集団たちを遠巻きに見つけ出した次の瞬間。

 

 ナベ次郎の鼓膜に、“その宣言”は響き渡る。

 

 

 

 

『ルナ、出てこいっ! 三聖女が次女キラー・クイーンが来てやったぞッ!!!』

 

 

 隣町の学校からスケバンっぽいお姉さんが、お札参りのノリと勢いで乗り込んできたのである!

 

 

『ついでに魔王ってのも、いるなら出てこいや―――ッッ!!!!!』

 

 

 オマケに、妹分がやられた落とし前を付けさせるため、手下のヤンキー軍団っぽいモヒカン頭をいっぱい連れた団体さんで参上である!

 これには流石のナベ次郎も唖然として黙り込まざるを得なくなる程だ。

 

 いったい何時の時代から来た、熱血硬派な方々なのだろうか? なんとなく『マッハパンチ』とか『竜尾乱風脚』とか使いたくなるので、お帰り下さい。不良軍団は霊峰学園へ帰れ~。もしくは花園学園か熱血高校へ。

  

 

『ね、姉様・・・・・・なんでこの街に!?』

 

 そしてナベ次郎が黙り込まされてる間に、いつの間にか起きて外出してたらしいルナが、間違いなく騒ぎを大きくしそうな存在として大通りへと姿を現し、驚いた声音で再会した血の繋がらない姉へと声をかける。

 

 

 

『――シュコー! シュコーッ!!』

 

 

 

 ・・・・・・ガスマスク付けたままの姿で。

 まだ消えてない落書きを隠すための格好をして・・・・・・。

 

 聖女姉妹の次女が到着すること知らなかったせいで、書いてから三日後ぐらいに消えてりゃ問題ないだろうと計算していた、万能でも全知全能でも予言者でもないケンカ馬鹿エルフのやらかし事案が、まだ被害拡大しそうな気配をビンビンに響かせまくりながら登場してきたルナの参戦を前に、当のナベ次郎本人はといえば。

 

 

「・・・・・・コソコソ、コソコソ、逃げ出すぞっ、と・・・」

 

 とりあえずは無関係を決め込むため、フードを深く被り直して、黒いスーツでもなかったろうかとアイテムボックスを漁りつつ、輪の中心部から外側へと一旦待避。

 流石にこの状況下で、呼ばれたから飛び出しジャジャジャーン!!と参戦できる程のクソ度胸は、この馬鹿エルフでも持てていなかった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・その時より少しだけ刻を遡った、とある場所でのこと。

 街の地上部分で、喜劇的で笑劇的で吉本新喜劇的なパーティーが騒がしく起こされるため準備を進めていた時間帯にて。

 

 騒がしい表側とは裏腹に静かな、だが蒸し暑い程に情熱的な偏った負の熱情に浮かされている人々の一団が、表側には存在していないことになっているヤホーの街の裏側であり地下部分でもある隠し神殿内において密かに決起のための儀式を執り行っていた。

 

 

「・・・今し方、確認に出した者が帰ってきた。聖女たちの次女キラー・クイーンは報告通り、もうじきこの街へと到着する。確実に到着することは疑いない」

 

 神殿内の信者たちが整列する位置に並んでいた全員に対して、たった一人だけ本来はご神体が置かれているはずの場所に背を向けて、大勢の拝聴者たちのみとだけ向き合っている一人の痩せぎすな男が重々しい口調で、しかしどこか情熱的で陰鬱的でもある不可思議な声音を使って部下達に語りかけていた。

 

「我ら悪魔信奉者サタニストは先日、魔王の召喚を試み失敗した」

 

 退路を断つ程の鋭い口調によって断言する口調で彼は部下達に対して宣言した。

 彼の名は『ウォーキング』といって、サタニストの幹部でありながらも、貧乏による僻み根性に端を発した反政府組織でしかないことから血気盛んで、感情的な精神論至上主義じみた発想が強い他の幹部たちと違い、理詰めで計画を立てて計算立てて動ける数少ない頭脳派の一人だった。

 

「だが聖女が動いたならば、その行為は無駄ではなかったと言うことだ」

 

 強い口調で計画の開始を宣言して、部下達の唱和に自信ありげで不吉そうな“作り笑顔”で応じることで、暗殺に参加する者たちの士気高揚をはかる。

 

 

 ・・・・・・実のところ悪魔信奉者集団でもあり反政府勢力でもあるサタニストは、最近に起きた出来事による影響で大きく組織が揺らがされつつある内的問題を抱えていた。

 それは辺境の貧しい一農村で起きた微細な変化から始まって、徐々に周囲へと浸透していき、サタニスト組織を内部から犯されつつあったのである。

 

 格差や意見対立などはあれど智天使を信奉するという一事をもって纏まってきた聖光国で、智天使を貴族や格差を作った元凶であると否定して、天使とは正反対の悪魔を崇めるようになった集団であり、享楽的な山賊や野盗とは異なるサタニスト達にとって初めて誕生した脅威となり得る存在。

 

 それは――天使でも悪魔でもない、「新たなる魔王」を信奉する【魔王信奉者集団の台頭】という厄介すぎる事案によるものだった・・・・・・。

 

 最近になってから急に聞こえるようになった彼らの噂は、信じがたいものばかりでありながらも、サタニストを支える支持者たちにとって魅力的なものばかりだったのも事実ではあったのだ。

 

 曰く、

 

『今の社会で得た地位や財産を差し出し、魔王様に忠誠を誓えば、魔王様が納めるダイロクテン魔国において幸福で豊かな暮らしが約束される』

『ダイロクテン魔王様への祈りを捧げれば、雨の乏しい聖光国内でも無限に水を与えてもらえ、不毛の大地を緑豊かな農地へと作り替えてもらえる』

『魔王様を称える歌を唱えて魔王様のために働けば、あらゆる外敵から魔王様に従う者たちを守ってくれて危害を加えることは決してない、最強の領主様に支配して頂ける』

 

 ・・・・・・というような、あまりにも都合の良い誇大妄想じみた話。

 そんな与太話など、教会が唱える綺麗事で救われなかったサタニスト達は当然、誰一人として信じていない。鼻で笑って現実を知れと罵るだけなのが大半なのが現状ではある。

 

 だが他の幹部たちと異なり、計画立ててことを進める慎重派のウォーキングだけは、念のための確認として部下を派遣し、その妄想話が『事実である』という信じられない報告を把握していた。

 ――再確認のため潜入させた部下が「帰って来たくない」と離反されてしまった負の実績という証拠付きで、である・・・・・・。

 

(――真相を知れば、他の部下たちからも離反する者が出てこよう・・・そうなれば民たち自身による改革の可能性は露と消えるかもしれぬ・・・。

 そうさせぬ為にも、何としても聖女を我らの手で討ち取らねばならぬのだッ!!)

 

 ウォーキングは【ダイロクテン魔王国】なる存在の報告を握り潰すと同時に、そう決意を固めて今回の聖女襲撃作戦に臨んでいた。

 

 今はまだ《ダイロクテン魔王教団》なる者たちの正しい情報は、一般の構成員たちに知られてはいないが、いずれ時間が経てば真実を知る者が出てきてしまうのは避けられないだろう。そうなれば組織からの構成員流出は避けられなくなってしまうしかない。

 

 ――サタニスト達は元々、経済格差の激しい聖光国において貴族制の廃止を訴え、一部の貴族たちが富を独占して大勢の民が貧困に喘ぐ今の状況を作り出した張本人である智天使こそが格差を生んだ元凶であるとして否定し、天使の対極に位置する悪魔たちこそ貧民たちにとって真の救世主であると主張し、過激な反政府勢力へと拡大してきた組織。

 

 実際には智天使は悪魔王との戦いによって消滅しており、その後に貴族制や格差を作ったのが智天使本人というのは無理がある言い草だったが、彼らにとって歴史的事実や真偽は問題ではなく、貴族共が金持ちで自分たち貧民に金がないという、今現在の結果だけが全てなのがサタニストという「貧乏人の僻み」で寄せ集った組織なのである。

 

 それは逆に言えば、『自分たちの生活を豊かにしてくれるなら、天使でも悪魔でも新たな魔王様でも別に構わない』―――という組織であることも意味するものでもあったのだ。

 利害損得一つで、アッサリと別の新たな支配者の足下に這い蹲って「万歳!」を心から叫んでしまう者たちの集まりが悪魔信奉者集団サタニストの実態だったのである。

 

(・・・このままでは我らは再び、新たな貴族共の家畜となるしかない・・・そうさせぬ為にも何としても我らの手で革命を成し遂げねば)

 

 ウォーキングは、言葉には出さぬ心の中だけの本心として、そう固く誓っていた。

 今までは余り意識したことがなかったが、サタニストという組織がもつ結束力の弱さと、敵が金持ちで自分たちは貧しい者ばかりという図式あってこその反政府活動に過ぎなかった自分たちの実情を、第三勢力の登場によって彼は苦々しく認めざるを得ない気持ちに今では成っていたのだった。

 

 だが――否、だからこそ。

 

(・・・・・・この場にて聖女を討ち取り、聖光国を打倒して新たな政治を行いうる力を有している事を知らしめれば、必ずや団員たちの心と人々の支持は我らサタニストに傾く! 

 貧民のための新たな政治を行う、新政権の一員となるため魔王信奉に走った者共も舞い戻ってくるに違いないのだ! そうなれば形成は一挙に逆転する!!)

 

 そうウォーキングは襲撃計画の効果を予測し、それを実現するため意気込んでいた。

 その予測は、概ね正しくはあったのだろう。

 人という生き物は、一度は戦場を捨てて平穏無事な普通の生活を手にしようとも、『敵に勝って支配者側の一員になれる可能性』を示されると舞い戻って出戻りたくなる気持ちを抑えるのが難しくなるのが一般的なものだ。

 誰だって勝ち馬に乗って、負ける泥船にはしがみつきたくないものなのである。

 

「――計画通り、この地において聖女を抹殺する。

 計画は完璧だ。我らが偉大なる指導者ユートピア様から、特別に切り札の使用も許可された。万が一にも失敗などあり得ない」

 

 自信に満ちた作り笑いで、ウォーキングは部下達を鼓舞して士気を高揚させ続ける。

 この街で、彼らサタニストが聖女姉妹のどちらかだけでも討ち取って、密かに進めてきた神都への奇襲作戦でも一定以上の成果を上げれば、聖光国は人々からの支持を失ってサタニスト側に勝機ありと見た者たちが増加することは確実なのだ。そうなれば勝利は目前となる。

 

 彼が予測してシミュレートした、その計画自体に誤りはない。

 “予想外の邪魔者”さえ現れなければ、ほぼ確実に到達することができたであろう極めて現実性の高い、見事な革命戦争勝利の戦略と言っていい程に。

 

 ・・・・・・ただ、この計画は革命戦争に勝利した後、自分たちが新政権として行った経済政策で、今より良い生活を与えられることができなかった時点で、魔王信奉者集団とやらへ自動的にシェアと主導権が移動しちまうことを意味しちまってもいたのだけれども・・・・・・。

 

 まず勝つために全力尽くさなければいけないウォーキングさんに、そこまでの経済政策のアイデアとかはなく、基本的に指導者ユートピア様指揮の下で貧乏人に優しい政治をしてもらおうとしか思っていない。

 

 そこら辺が、貧しさに耐えかねて支配者層に反旗翻した貧乏人の僻みで過激派集団の限界だったんだけれども。

 そこまでは考えられない政治素人のウォーキングさんとしては、お得意の頭脳戦で聖女討ち取ることに全知全能を傾ける! それしかないし、それしか出来ない!!

 

 

「では、これより聖女抹殺のための聖戦へと出陣する。

 偽りの天使に死を。聖女に災いあれ」

 

『『『偽りの天使に死を。聖女に災いあれ』』』

 

 

 今まで存在しなかったライバル勢力の登場によって、余計に士気とやる気を上げまくって結束高めなくちゃいけなくなったサタニスト達はヤホーの街に大量の血の雨を降らせるため秘密の地下教会から飛び出し、こうして意気揚々と出撃していってしまった。

 

 魔王エルフが置いていった予想外の代物が予想外の被害を引き起こし、色々と混じりまくって元ネタの敵たちとゴッチャになった教えとなって周囲に広まりつつある状況が発生してしまい、巡り巡って事の元凶バカ魔王エルフに迷惑かけるため巻き込んでやろうと、因果応報の刃を振り下ろすため接近して来つつあったのである!

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・そして、時を戻して現代へと時間軸が戻ってきて。

 そんな事になってたとは露とも知るはずのない、脳筋バカエルフと愉快な仲間たちの聖女姉妹様たちは一体どうしてたかと言いますと。

 

 

「その声はルナか・・・このクソがっ。

 俺に黙って火遊びとは偉くなったもん――って、なんて格好してんだオイぃぃぃッ!?」

 

 

 妹の声が聞こえたので、不愉快そうに一喝してビビらせて、城まで無理やり連れ帰ってやろうと思って振り返ったら、予想外すぎるトンデモナイ顔だったから驚いて悲鳴上げてしまったヤンキー聖女のキラー・クイーン様になっておりましたとさ。

 

 ・・・ガスマスクだからなぁ・・・。見た目けっこう怖いんだよねアレって・・・。

 下手しなくても、知らない人から見れば【邪神の面】より恐ろしい、【邪教崇拝者の面】とかになっちまいそうなレベルで。ランク的には下だけど見た目のインパクトでは上って、よくある話ですよね本当に。

 

『ち、違ッ!? コレは違うのよ姉様! シュコーッ!シュコーッ!!

 私は魔王がいるって聞いて、それで・・・・・・そう!

 これは私の美しさに嫉妬した魔王がかけた呪いの結果なのよ! シュコ、シュコー!!

 だから私が悪いんじゃないのよシュコぉぉぉぉぉッ!!』

「の、呪い? 魔王のか? そんなバカな話が・・・・・・いや、確かに禍々しい見た目をしちゃいるけど・・・・・・」

『そうなのよシュコー! でも心配しないで姉様シュコーッ!! 明日か明後日には解けるからって、魔王自身が言ってたから大丈夫なのよシュコーッ!!!』

「・・・それ呪う意味あったのか? 無駄じゃね? 文句の付けようもないほど完全に・・・」

 

 妹聖女からの説明に、白けた表情で白い目付きで冷静にツッコこんでしまう、あんまりキャラじゃない行動をとってしまう羽目になる姉聖女のキラー・クイーン。

 怒るつもりで怒鳴ろうとしたら、予想外の事態に驚いてしまって叫べなくなった時とかって、妙に冷静になってしまってテンション戻しづらくなって反応に困るんだよね。

 

 

 挙げ句、こんな展開になってしまった最原因の、負けた聖女にガスマスク被せた罰ゲーム魔王様はといえば。

 

「あれぇ? おかしいなぁ・・・・・・ここら辺にいると思ったんだけど、どーこ行っちゃったのかなぁ。ねぇ、出てきて下さいよぉ、ねえってばぁ~」

 

 と全力で『自分は赤の他人で関係ありませんアピール』するために、誰か探して歩いてるだけのフリして輪の中心から遠ざかり、ガスマスクに関する説明責任はルナ一人に丸投げして自分は逃げる気満々になって逃走準備に勤しんでいたレベルだったりする。ヒドすぎる。

 

「ま、まぁそれはいい。いや、よくはねぇけど一先ずはいい。それよりもだ。

 ―――この、ドアホがァァァァッ!!!」

『ひぃッ!? シュコォォォォォッ!?』

 

 そして一喝。あらためて初志貫徹。

 当初予定していた怒鳴り声が不発に終わっちまったから再会するときって、最初のを誤魔化すためにも当社比30パーセントぐらい強めで怒鳴る。コミュニケーション術の基本です。

 

「テメェ一人で何が出来るってんだよ! いるはずもねぇ魔王討伐なんかしてねぇで、クソはクソらしく家で寝てろォッ!!」

『ね、姉様! それは誤解よシュコーっ、シュコーッ! 魔王だったら私の魅力で手懐けちゃったんだからシュコ~シュコ~!』

「はぁ? 起きながら寝言とは器用なもんだなぁ。そんなブサイクな面付けた奴に魅力感じる魔王なんざいるはずねぇってのに」

『ちゃ、ちゃんといるもん! アイツ私のお尻に夢中なんだからァッ! シュコシュコシュコぉぉぉぉッ!!』

「ああ? 尻だぁ?」

『そうよシュコー! だいたい魔王がいないんだったら、この私が今付けてるお面はどう説明できるって言うのよ!? シュコーシュコーッ!!』

「・・・・・・いやまぁ、確かにその通りはあるんだが・・・・・・」

 

 そして今度は妹聖女が姉聖女を論破するという展開に。

 なんだかよく分かんない事態になってきた、丁度その時の事だった。

 

「大体だな、お前って奴は――――んっ!?」

 

 聖女姉妹とは言え、血の繋がらない妹相手にどう言い返してやろうかと、無い知恵使って頭を悩ませていたところで、なんとなくのイヤな予感を察知してキラー・クイーンは“そちらの方”へと視線と意識を向けさせた。

 

 

『偽りの天使に死を――――。

 【火鳥/ファイヤーバード】!!!』

 

 高級宿屋ググレの前に広がる大通り、その右側の出入り口付近に現れて揃いのローブ姿で封鎖してしまっていた者たちの頭上に、複数の赤くて熱い光球を出現させながら通りの片方を反包囲してしまい。

 

『聖女に嘆きあれ――――。

 【氷槌/アイスハンマー】!!!!』

 

 そして、大通りに残されたもう片方の道を封鎖するように現れた男たちの頭上にも、青くて冷たい氷の鈍器が複数姿を現れたことで完全包囲が完成した事になってしまった。

 

 

 

『偽りの天使に死を。聖女に嘆きを。

 我ら貧民の怒りと憎しみを、その身で味わうがいい!! 恵まれた特権階級の小娘がァァァァッ!!!』

 

 

 こうして始まる、ヤホーの街を盛大に巻き込んだ戦いの幕が上がる。

 果たして勝つのは、天使の勢力か、天使を捨てて悪魔に仕える道を選んだ者たちか否か。

 

 

 あるいはケンカ馬鹿な魔王様によるものなのかもしれない。

 それは戦ってみなければ分からない。

 

 

 いや、分かるけれども。

 レベル差が違いすぎると、絶対勝てなくなるのがRPGってもんなんだけれども。

 そういった現実的格差は置いといて、差がありすぎる相手と対等な関係になりたいと願ったから気持ちの問題で可能になる展開が多いのが最近の流行なので、とりあえず言ってみた。

 

 只それだけの問題であった。・・・本気でショボ(ボソっと)

 

 

 

つづく


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