出すか否か、かなり迷ったんですけど他に使い道がな~んも思い浮かばなかったため、取りあえず出すことにしてみました……不快だったら言ってくださいませ。すぐ削除しますから。
…ホントなんで私は、こんなモン書いたかな…? ときどき自分が分かりません…。
「ここは・・・不思議な場所に来たものですね。これはこうと決まってるものが何一つ無い」
森で奇妙なウサギを見かけて、興味なかったはずが妙に引き寄せられるような引力を感じさせられ、催眠術にでもかかったように付いて来てしまった場所へと降り立ち。セレニアは途方に暮れていた。
途方に暮れてても、表面上は普段と変わらず見えてしまうから助けてもらえない、損なタイプの迷子になる女の子ではありましたが。
「さて、どうしたものか・・・って、ん? あれはチョッキを着て時計を持ってる変なウサギさん・・・」
「大変大変! このままではパーティーに遅れてしまう! 遅刻しそうだ! こっちはどうもサヨナラって言う暇もない!!」
「ふむ? 何をそんなに慌てているのかは存じませんが・・・もしパーティーに遅れそうだからという場合には、会場はそこにある立派なお宅ではないのですよね?」
「ダメダメダメ!もう間に合わな―――って、え? お宅? どこにそんな物が・・・って、ええぇッ!?」
迷子の女の子セレニアに言われて最初は無視したウサギさんが、ふと疑問に思って周囲を見回してみると、なんと驚いたことにウサギさんの隣には立派な一軒家のお家が建っているではありませんか! 一体どうして? さっきまで、こんな物はなかったはずなのに・・・
「どうです? 良いお宅でしょう」
「わっ!? アンタ誰!?」
「私は、こちらの家の持ち主である老人と親しい知人で、今日は泊まらせてもらっていた者です。私のことは近所の人たちも、よく知っていますので怪しまなくて大丈夫ですよ」
そう言って朗らかに笑う、真面目で善良そうなスーツ姿の中年男性。
見ると周囲には何件かの家が、いつの間にか建っていて、まったく怪しい所のない男の態度が、むしろ怪しく思えてくるぐらいに周囲から浮いてしまうほど“一人だけ普通すぎる”人物でした。
「――と、こうしちゃいられない! しっちゃかめっちゃか遅れてしまった! 遅刻遅刻ーっ!!」
「――ッ!? そ、それは・・・っ。その音は……!?」
奇妙な事態に困惑していたウサギさんでしたが、自分がパーティーに遅れそうだったことを思い出し、チョッキの中から“懐中時計”を取り出して文字盤の針を見て慌てだした次の瞬間。
―――男の態度が、一変し初める。
「こ、この音は・・・懐中時計を木綿の布に包んだときのような、低く、鈍い、この音は……っ」
「え? ちょっと? なに言ってんのアンタ大丈夫?」
―――チックタック、チックタック、チックタック―――
一定のリズムを刻みながら聞こえてくる、大きくなることも小さくなることもない、同じ音の大きさしか響かせることの出来ないはずの、懐中時計の針が時を告げるために刻む音。
「・・・どんどん、大きくなってくる・・・っ。このままでは隣の家まで聞こえてしまいそうな程に・・・っ! 頭がズキズキして耳鳴りのような感じまでしてくるほどに……!!」
「え? いや、普通にさっきから同じリズムで動いてるでしょコレ? 壊れてませんよね? ちょっとアンタ、人の話聞いてます?」
「にも関わらず、この人たちには聞こえていないと言っている・・・、私が喚き、怒鳴っても聞こえてしまうほど大きい音なのに! ドンドンドンドン大きく! 大きくなっていく音なのに! それでもこの人たちは、なぜ楽しそうに笑っているんだ!?」
「いや、笑ってないからね!? 慌ててるからね!? 懐中時計が壊れてたらパーティーの時間が分からなくなるから驚き慌てて怒鳴ってるからね!? さきから私はず~~っとね!!」
「しらばっくれるのは、やめてくれェェェェェッ!!!」
男はついに、もう我慢できないとばかりに怒鳴りました。
驚愕と恐怖に引きつった表情で怒り狂い、感情の赴くままにウサギさんと迷子の少女に聞こえるように、近所の人たち全てに轟き渡るような大声で怒鳴り散らしました。
「殺ったのは私だ! 聞こえているこの音は、私が殺したジジイのおぞましい心臓の音だァァァ!! 私がジジイを殺して死体をバラバラに切り刻んで、この家の床下に埋めて隠したんだッ!!!!」
「なに言ってんのアンタ!? ちょっと! 気は確かなの!? 正気なの!?」
「どうして私の頭がおかしいだなんて言うんですか!? 感覚が鋭くなって、天国の音も地上の音も全部聞こえてました! 地獄の音さえも!! なのに私の頭がおかしいはずがないでしょう!?」
「言ってる内容が完全に頭がおかしい証拠でしょう!?」
「―――ハッ!? あ、あなたの・・・・・・その目は! その青い眼は―――!?」
自分の正気を分かってもらおうと、ウサギさんの顔に自分の顔を間近まで近づけて見つめ合って怒鳴り合った瞬間。
―――男の目はハッキリと、ウサギさんの目を見ました。見つめてしまいました。
そこに見てしまったのです。
“あの眼を”
老人のことが嫌いではなく、むしろ好きだったにも関わらず、どうしようもない殺意を感じて耐えられなくなってしまった……
“あの眼を”
「まるでハゲワシのような、青くて薄い膜がかかったような眼・・・・・・っ。
見られると、いつもゾッとしていた、あの眼だ・・・・・・!!!
私が老人の息の根を止めて、永遠におさらばしたいと思うようになってしまった・・・・・・あ、あの眼が、私のことを見るために見開いて・・・!? うわぁぁぁぁぁッ!! もう殺るしかないぃぃぃぃッ!!! ワァァァァァァァァッ!!!!」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!???」
昼日中の森の中で見つめ合い、互いに互いを恐怖し合った一人の男と一匹のウサギさんは駆け出しました!
ウサギさんに怯える、男。
男に怯える、ウサギさん。
男は恐怖心からウサギさんの首を絞めて殺してしまおうとウサギさんを追いかけ始め、ウサギさんは自分を殺そうとする男への恐怖心から一目散に森の奥へ奥へと走って逃げ出していきます。
「ふむ・・・思うに彼は『告げ口心臓』の主人公である「私さん」ではないかと推測されます」
「誰よアンタ!? そしてそれは何!? 何の話!?」
「19世紀イギリスの作家エドガー・アラン・ポーの作品で、推理小説家として有名な人なんですけど、実際にはホラーや冒険小説など色々書いている人で、その作品の一つがあんな感じのことを言い出す主人公だったような・・・そんな記憶があるような無いような。英語で書かれた小説を現代日本人が翻訳した代物でしたので、果たして原文通りなのか否か判断しようがなく・・・・・・」
「どーでもいいから助けなさいよアンタ!? っていうかコッチが全力疾走してるのに、なんで平然と説明しながら付いてこれてんのアンタ!?」
「さぁ・・・・・・?」
知らない知らない、誰も知らない。迷子の女の子自身だって想像すらしたことがない。
不思議な世界にウサギさんが迷い込ませてしまった迷子の迷子の女の子によって、不思議で奇妙で不気味な物語までも、不思議の国の色々な場所に迷い込んできてしまったことを・・・・・・今はまだ、誰一人として知りはしない・・・・・・。