試作品集   作:ひきがやもとまち

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出来たはいいけど納得いかなかったため出さないでいたのですけど、他の作品も含めて更新できそうなメドが立ったため、切っ掛けとして投稿しておくことにしました。
自分の気持ちを切り替える用みたいなものですけど……他の作品の更新で挽回したく思っております。

*タイトルを書き間違えてましたので直しました。


伝説の勇者を否定する伝説 2章

 彼の母親は優しい人だった。

 好きな人と引き離され、奪われて捨てられて、寿命を削りながら彼を守り続けるだけの人生を送った人。

 それでも彼女は微笑み続け、最後の時まで微笑み続け、目の前に迫る死がどんなに怖くても、愛する息子の前では優しい微笑みを彼に向け続けてくれて、自分のことを『優しい子だ』と言ってくれた、本当に心優しい傷だらけのお母さん。

 

 普段、彼が彼女のことを思い出すことはない。“忘れていないこと”を知られてしまえば命が危うくなる立場に彼は在り続けてきたからだ。

 母の亡骸の前で誓った約束を果たすまで、殺される訳にはいかなくなった彼は、普段は母のことを覚えていることを知られないため忘れ続ける義務を自らに課していた。

 

 にも関わらず、普段は思い出すことのない母親との思い出を今このとき思い出してしまったのは、きっと彼があまりにも母親と“全く違いすぎているからだ”と、なんとなく彼はそう思っていた。

 

 

「え、あ、シオン・・・・・・じゃない、アスタールさん!? えっと、あのその、な、なんで私の名前を!?」

「シオンでいいよ。僕は一応、この学校のめぼしい生徒の名前はほとんど全部覚えてるんでね。

 “キファ・ノールズ”。全ての学科で常に平均以上の成績を収め、おまけに明るく容姿端麗で人気が高い」

「え? いやあの・・・・・・容姿端麗ってそんな・・・ど、どうしよラグナ? 容姿端麗だって。あは、あははは」

「褒めす―――はぁ・・・。かったり・・・」

「だからそこまで言ったら、最後の『ぎ』まで言えっつってんでしょうが! このスットコドッコイ!!」

 

 褒められまくって赤くなり、まんざらでもない表情で笑いかけ、余計な言葉足らずな相方に鉄拳制裁くらわせた方だけが手を痛めて涙目になり、殴られた方は気怠げな表情と死んだ魚の眼をしたまま平然と起き上がり座り直す。

 

 そんな光景を見せつけられて、シオンは改めて自分が抱いた感想を確かなものとする。

 やっぱりコイツは、“自分の母親と全く違い過ぎている”

 

「で、提案なんだけどキファ。君は僕の下にくる気はないか?」

「へ? 下って?」

「うん。もうすぐ学院ではチーム単位で戦闘を行えるように訓練するための班分けがあるんだけど、もし僕の下にくるなら、裏に手を回して僕と同じ班に入れてあげることができる。僕と同じ班にくれば、いろいろと便利だよ?」

「で、でも、アスター・・・・・・いや、えっと、シオンは優秀な人ばっかり集めてるんでしょ? 私なんか・・・」

「そんなことはない。君は十分有能だよ。絶対後悔させないさ」

 

 言って、にこやかに笑ってみせる。笑顔を不必要なほど輝かせて好青年そのものに見える物言いをするよう意識している自分が少し嫌になるが、嘘は言っていない。

 実際キファは有能な人材であり、配下にするにしろ友になってもらうにせよ、近くに置いておきたい一人として目を付けていたのは確かなのだ。

 

 ・・・とは言え、本命を確保するためにも必要な条件という部分も否定できないのが彼の立場でもあった訳だが・・・。

 

「だけど・・・・・・」

 

 キファが、それでもためらう様子でチラチラと見る方に胡座をかいて座ったままでいる、目つきと顔色と機嫌と態度が悪すぎる少年。

 ラグナ・ミュート。彼こそがシオンにとって絶対に仲間にしておきたい本命であり――その一方で、敵から確実にそぎ取っておきたい厄介過ぎる敵勢力の一員でもある人物だった。

 

「いった方がいーんじゃねぇか? 教官共の評価とか成績とかが気になんだったら俺といるよりゃ絶対に上がるだろうし、そこら辺を治す気のねぇ俺に付き合わせるのもカッタリィし」

 

 なんてことを言ってる途中で、キファがひどく悲しげな表情を浮かべて黙り込んでしまっていたが、しかし。

 

「――まぁ、どっちにしろ俺がどう思うかなんざ気にする必要ねぇ問題なんだろ? だったら俺見て気にする必要性0以下なんじゃねぇの」

「・・・え?」

 

 思いもかけぬ言葉を言われ、驚いたように顔を上げるキファ。

 それはシオンも同様で、続く誘いの言葉をかけようとしていたところに先制され、面白そうな表情で相手を見る。

 

「誘ってきたのはアイツで、俺が誘われたがった覚えはねぇよ。全部ソイツの一存次第、ソイツに聞けソイツに。俺にどーこー言ったって意味なんざ少しもねぇよ」

 

 そんなシオンに向かってラグナは、当たり前のことを当たり前のように、当たり前のことをいちいち言わせられてることで苛立たされた気配を滲ませまくりながら吐き捨てるような口調で言ってのける。

 これにはさしものシオンも苦笑せざるを得ない。

 

「お見通しとは参ったね。いや、僕はもちろん最初っからラグナにも一緒にきてもらうつもりだったんだよ」

「ほんと!?」

「・・・・・・ダリぃ」

 

 シオンから話の続きを聞いた瞬間、キファとラグナの声が重なって、

 

「って、なんでイヤそうな顔してんのよアンタは!? すっごい光栄な話じゃない! シオンについてけば出世間違いなしってもっぱらの評判なのよ――って、聞きなさいよコラーっ!」

 

 続けてキファがラグナの否定的な反応に怒りを露わにして、ラグナは座ってた場所から立ち上がると寮のある方向へ歩き出し、二人に対して背を向ける。

 

「クソ眠ぃし、クソつまらねぇ授業も終わったみてぇだし、部屋戻って寝るわ。昨日寝てねぇから眠ぃんだよ・・・・・・」

「アンタ昨日も一昨日も一昨昨日も寝れたことなんて一度もないでしょってさっき言ったでしょうが! あと返事! シオンさんから下に来ないかって誘われたことへの返事ぐらいしてからいきないよバカー!」

 

 怒鳴り散らしながら後を追いかけてくるキファに、あからさまに嫌な顔で「ウゼ~・・・」と言ってやってから、

 

「・・・あのなぁ、だいたいなんで俺なんかを誘ってきたと思ってんだ? 俺の周囲からの評判知ってんだろ? 普通に考えろ普通に。

 成績だけのデメリット覚悟で誘った相手に、選択の余地なんざ残すと思うかぁ?」

「う・・・そ、それはまぁ、たしかに・・・・・・」

 

 その言葉に、またキファの顔が歪んで足が止まってしまうけれど、今度のは悲しみではなく気まずさだけが満ち満ちたものになっていた。

 

 たしかに普通に考えたら、どう計算したっておかしいのだ。

 ラグナは成績がドベではあるけど、実際には手を抜いてるだけなの丸分かりな学園生活送っているタイプで、やる気が全然ない癖してやる気満々の連中ができないことを平然とやってのけた見下したように「へっ」とせせら笑って去って行く。

 

 ・・・そういう、有り体に言ってイヤな奴だった。

 実力はあるけど、学園中の生徒たちから蛇蝎のように嫌われていて、彼を仲間に誘うというだけで班メンバーたちからの反発と士気の低下は避けようがない。

 よっぽどの物好きか、あるいは落第願望でもある変態でもなければラグナなんかを仲間に欲しがる奴はいないだろう。

 

 そんな奴に向かって『自分の班に来い』と言いに来たのだ。それも生徒たちが大勢残っている実践組み手の授業後に。

 ・・・・・・これで断られたら、皆からの評価落ちるだけでメリット0確実である・・・・・・自分でもそんなギャンブルする気になれないんだから、誘ったからには絶対に入れるぐらいしないと元取れないわよねぇ・・・・・・

 

「ラグナの馬鹿・・・・・・自分でそんなこと言ったら・・・・・・離れ離れになるかもって怯えてた私がバカみたいになるじゃないのよ! もう!」

「他人の口から言や、いいって問題でもないと思うが・・・」

 

 暗い表情から一転して、真っ赤に染まった怒り顔で誤魔化し紛れに怒鳴ってくるキファに対して、逆にドヨ~ンとした暗く重い空気を追加させられたようなラグナが疲れた表情で返して、シオンは思わず吹き出さずにはいられなくなってしまう。 

   

「プッ、あはは! 君たち二人は本当に面白いなぁ。じゃあキファが皆からバカって思われるようになった暁には、願わくば僕も三バカの一員に加えてもらえるかな?」

「ちょ!? シオン! それは流石にちょっとっ!?」

 

 慌てふためき、緊張とは違う意味で声が裏返ってしまったキファの行動を一頻り笑ってから、

 

「あ~、笑った笑った。――でもまぁ、うん。ラグナの言うとおり、実のところ僕は彼を誘うに当たって事前に脅迫材料を見つけ出してきてたのは事実なんだよ。

 たとえば彼が昔いた孤児院のこととか、ラグナが隠してる能力のこととか、その辺りの秘密の部分を仲間にならないなら全部ばらす、って脅せば仲間になってくれるかなと思ってね」

「き、脅迫って・・・・・・脅して仲間集めとかの悪魔じみたことは普通しないものなんじゃ・・・・・・」

「まぁ、そうかもしれないね。でも学院で行われるチーム単位での戦闘訓練は実戦を想定したものだからね。使える人材を手段を選ばず先に確保しておくのも正しい勝ち方のひとつだと僕は思うよ」

 

 キファが言って、シオンは何故だかその言葉に苦笑して、

 

「じゃあま、班分けは明後日だ。それまでに僕たちの班に君たちがこられるようにしておく。これから一緒に頑張ろうな」

 

 にこやかな笑顔で爽やかに言い切って、さっさと去っていってしまったシオン・アスタール。

 それを狐につままれたような心地で見送ったキファが、続けてラグナに尋ねようと声をかけようとし、

 

「って、へ? 結局ラグナもシオンの仲間になったってことでいいのよね? でもさっき言ってたラグナの隠された能力ってなんのこと、――っていなーい!?」

 

 そしてシオンよりも早く、とっくの昔にグラウンドを立ち去って寮の部屋で寝ようとしても寝れない不眠症の苛立たしい気持ちを加速するだけなベッドに横たわってイライラしに行ってた相方の不在にようやく気づいて慌てて後を追いかけて走り去るキファ・ノールズ。

 

 そんな平和な学院生活。平和な日常の1シーン

 キファが夕日に向かって走って行く演習場は、もう日が暮れかけていた・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――かつて、戦乱渦巻いていたローランド帝国は7年前の休戦により、一時の平穏を取り戻していた。

 メノリス大陸南端に位置するローランドは、三つの国に囲まれている。

 一つはネルファ皇国。

 この国とはあまり仲がいいとは言えないが、それでも戦争に発展するほどではない。

 次にルーナ帝国。

 この国とは現在同盟関係にあり、まぁ無視してもいい相手だろうと思われている。

 

 そして問題なのは三つ目の国、エスタブール王国だ。

 この国とはもう、四世代もの長い間、延々と戦争を続けている。争いの発端はもうわからない。

 様々な問題が起きた。領土問題がきっかけだったと言われているが今はもう、やられたらやり返す。子供のケンカと同じように、その繰り返しでしかなくなっている。

 

 だからローランド帝国の国民に、戦争を知らない世代はいなくなってしまっていた。

 そう。この国には常に死が溢れていたのだ。ほんの七年前までは・・・・・・

 

 しかし全く決着がつかない戦争は国を衰えさせるもの。このままではローランドもエスタブール両国共に衰えて、他国の侵略を許し漁夫の利を掠め取られてしまうことを危惧した両国は、七年前に休戦協定を結んだのだ。

 

 そして今では打って変わって、信じられないほどの平和な日々が続いている。

 七年というのは長い。大人と違って立ち直りの早い子供たちは、戦争のことなど既に忘れてしまったと言ってもいいぐらいに、平和ボケし始めた者までいるほどに。

 

 無論、すべての子供たちがそうなるわけではない。

 戦争の記憶と重い事情を変わらず持ち続けている少年少女たちも数多く存在し、それらの認識の違いが平和な日常生活の中で悲喜こもごもの擦れ違いを発生させ続けてもいる。

 

 

 ちなみに平和ボケと忘れられぬ者たちに、どれぐらいのズレが生じてるかと言うと・・・・・・

 

 

 

「ってラグナ! あんた幾ら眠れなくて眠いからって、歩きながら寝なくてもいいでしょうが!?」

「・・・ウルセーよ、寝てねーし寝れてねーよ・・・。昨日も一昨日も一週間以上前からずっと寝れてねーから頭痛ぇんだよ・・・。寝てねぇ人間の耳元で大声出すなよ、マジウルセーからさァ・・・」

「う!? ・・・い、いやそのえっとぉ・・・と、とりあえず作戦中に寝ながら歩いてるように見られちゃダメじゃないの! 模擬戦闘はチーム戦なんだからラグナが怠けてるように見えると班長のシオンにも班のみんなにも迷惑かけるのよ!? それをアンタは本当にわかって・・・」

「――あのぉ。ちょっと私思うのですが、キファの声が少し大きすぎると思いますぅ」

「え? あ!? えっと。あう・・・・・・ご、ごめんなさい・・・」

 

 

 山を使った模擬戦闘訓練で隠密行動している最中に、いつもより声量抑えてた落ちこぼれ相手に、大声で痴話げんかを展開してしまう優等生の女子生徒がいるほどの平和ボケさ加減だった・・・・・・。

 

 

「ふぁ・・・・・・ダリぃ・・・、眠ぃ・・・マジかったりぃ・・・・・・」

 

 そして、やっぱりやる気が全くなく、協調性もなく、顔色の悪さだけは人百倍はありまくってそうなラグナを合わせた六人が、シオンの率いる彼の班メンバーたちだった。

 彼らは皆、なんらかの分野で飛び抜けた成績を持っている者だけで構成されており、小柄で眼鏡で垂れ目のファル、いつも暗い表情をしているトニー、ノリばっかりいいタイルが、今回の模擬戦でシオンが直接率いることになった最精鋭たちだった。

 

「うう~~ほんとごめんなさい」

「まあ大丈夫だよ。作戦通りにいけば、僕らは絶対負けない」

 

 小さくなって謝るキファに、最後尾を歩いてたシオンが苦笑しながらフォローを入れてくれる。

 彼には、そう言えるだけの自信と根拠があったからだ。

 

 ・・・・・・それは模擬戦闘訓練のスタート前のこと。

 戦場となる山に入る直前の人工的に作られた広場で、シオンが自信満々の表情で班メンバー全員に向かって言ってきた一言に端を発する。

 

「よし。じゃあ四時間以内に敵を全滅させるぞ」

『はぁ!?』

「・・・ふぁ~ぁ・・・」

 

 横を向いて欠伸していた一人を除いて班全員が驚いて叫び声を上げてしまったシオンの発言。

 彼が語るところによれば、山にある別のスタート地点から出発する敵チームの把握と、複数あるスタート地点のどれを使ってくるかを事前に調べてあり、あとは彼らが通る計画を立てた道で待ち伏せて襲いかかるだけでいい状況を既に作り上げてある。・・・という趣旨のものだった。

 

「ってちょっと待って!? それって、いわゆるカンニングじゃないの?」

「ああ、そうとも言うね。僕としては戦略と言って欲しいけど。でもこの授業は総合力が試される授業だろ? 戦闘をする前に相手の情報をあらかじめ調査しておくのもズルだと僕は思わないね。

 それどころか戦闘・・・いや、戦争は情報が全てを支配してると言っても過言じゃないんじゃないかな。それなら僕がやってることは正しい」

 

 自分の発言を遮って言ってきた言葉にも、臆面もなく正しいと言い切られてしまって返す言葉がなくなってしまうキファ。

 縋るような瞳で助けを求めて、横に立ちそっぽを向いていたラグナに「あ、あんたはどう思うのよ?」と尋ねたところ。

 

 

「別に。テメェらの使うルート情報油断して盗まれてるアホ共がマヌケ過ぎるだけだろ」

 

 

 と、臆面もなく正しさも必要とせず、相手の無能さを罵倒だけするシオン以上に碌でもない悪魔的発言でメッチャ非難買いまくっただけであった・・・・・・。

 

 

 結果的に当たり前のことではあったが、あっさりと決着がついてしまった。タイムは二時間と五十二分。

 シオンたちの班は敵を全滅するまでのタイムで、この授業最速タイムをたたき出す。

 

 犠牲者は一人だけ。

 敵チームの背後を取って奇襲を仕掛けようとした瞬間に、キファが余計なツッコミをしてきたラグナの後頭部に鉄拳制裁してしまったせいで、足場の悪い山の中で隠れてる最中だったことから足を滑らせ、敵の目前に姿をさらす羽目になってしまったとき、足先が木の枝に引っかかって擦りむいたことだけが、彼らの記録の汚点と言えば汚点であった。

 

 尤も。――普段から上から目線でグダグダ言ってきて見下してくる、いけ好かねぇし気にくわねぇ目付きの悪い同級生が、よってたかってリンチして半殺しにしても合・法☆にできる最高の虐めシチュエーションを与えられたことで我を忘れ。

 

 

『ブッ殺してやれやゴラァァァッ!!

 キファちゃんをテメェ一人で独占してんじゃねぇぞこのピー!(自主規制)でピー!!(自主規制)のピー!!!(自主規制)野郎めがぁぁぁッ!!!』

 

 

 と、血走った目をして“大声で雄叫び上げながら”むさ苦しい筋肉自慢の大男たちが数人がかりで押しつぶさんばかりの勢いで突っ込んできて。

 寝不足で苛立ちまくってたところに、大自然の野生動物共の鳴き声ウゼー、山の自然の臭い匂いが超ウゼー、筋肉の汗が臭ぇ、筋肉が気持ち悪ぃ、顔が気持ち悪ぃ、存在そのものが気色悪ぃ。

 

 

「・・・・・・・・・ウザ~イ・・・・・・」

 

 

 

 心底からイヤそうな声出すと同時に放たれた魔法によって、全員一度に壊滅させられ、シオンたちが奇襲する必要性すらなくなってしまっていたわけだったが・・・・・・。

 この件に対して、シオンは採点役の教官に対して、こう報告している。

 

「僕が立てた作戦だけで出来たことではありません。班メンバー全員が僕の作戦を信じて従ってくれたからこそです。

 僕一人の力では到底、不可能だったと自分の未熟さを恥じるばかりです・・・」

 

 と、全部自分の作戦だったということにして、手柄を班全員のものにしてしまったのだった。

 

「い、いいのかしら? これで本当に・・・・・・」

「いいんじゃねぇーの? 俺より弱っちい教官なんかに褒められても嬉しかねぇし、記録なんてモンをもらって有り難がる連中同士で仲良く分け合ってた方が、記録の方も喜ぶだろうよ。多分だがな。

 少なくとも俺はいらねーから、もらっても捨てるだけだぞ? 食えもしねぇし、売れもしねぇ褒め言葉や数字なんざ、もらったところでウゼーだけだ」

「アンタいい加減にしないと、その内あたしからも刺されるからね・・・? 絶対に・・・絶対に・・・・・・」

 

 

 

 その日、模擬戦闘訓練史上、最速記録を叩き出した伝説の班として学院のヒーローとなった彼らたちは、それを祝おうとシオンの仲間数十人も加わって飲み会が催され、大いに食って飲んで暴れたわけだが。

 

 どういう訳だか、キファだけは・・・・・・祝い酒と言うよりヤケ酒というか、人間関係で上手くいかないストレスを発散するため飲みまくる、仕事と生活に疲れた若い女のような飲みっぷりであったと参加者メンバーの幾人かの口から語られることになる・・・・・・。

 

 

 

 

 

つづく


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