ぶっちゃけ煮詰まってしまい、何パターンか書いては消しを繰り返していた話でいたのでデータ量的にもスッキリさせたかった次第。
今残ってるのは2パターン分だけですので、AパターンとBパターンに別けて続けて投稿してあります。ご了承ください。
あと、上記の理由で話数を書き間違えてのを直しましたので、そこもご了承くださるようお願い致します。
――ルナ、出てこいッ!
路地裏にまでクィーンの声が荒々しく響いてくるのを聞いたとき、悪魔信奉者サタニストたちの聖女襲撃部隊を率いる隊長ウォーキングは勝利を確信して、ほくそ笑みを浮かべた。
「我ら悪魔信奉者サタニストは、魔王の召喚を試み失敗した。だが聖女が動いたならば、その行為は無駄ではなかったと言うことだ」
彼は不気味な声で続けながら、聖堂騎士団を見物するために集まっていた群衆の中に平服姿で紛れ込ませた後、路地裏で再集結させてから揃いの黒ローブをまとって敵味方の識別がしやすくなった部下たちを前に、そう宣言する。
切り札もある。彼らの偉大な指導者ユートピアから使用許可が下りた『アレ』さえあれば、勝利は疑いない。
・・・だが“想定外の計算違い”で戦力が不足していることも、懸念事項として確かに存在してはいた。
何しろ、『聖女を一人でも仕留めることが出来れば』と考えていたところに『2人もそろうという僥倖に巡り会えた』のが現在の状況なのである。
聖女の暗殺を想定してたのが初期の計画なのだ。単純計算で、聖女一人分の暗殺用戦力が足りてない。
僥倖に巡り会えるとは、そういうことだ。運が良かっただけであって、計画的に進めた結果では全くない。
「――計画通り、この地において聖女を抹殺する」
だからこそ、ウォーキングをして殊更に宣言してみせる必要があった。
『計画通りだ』と。決して行き当たりばったりの計画変更じゃねぇーんだと断言することで部下たちの統制をはかる必要があったのだ。
『『『聖女に災いあれ』』』
「聖女に災いあれ・・・」
部下たちが唱和するのに自分も応じて“ニヤリ”と笑って見せながら、内心で棚から牡丹餅の状況に乗ってしまっただけの作戦開始を前に、綿密に計画を立てて事を進めるタイプの指揮官ウォーキングは、自分の心に浮かびかけた不安を押しとどめるよう努力する。
僥倖とは、その名の如く幸運な状況のことなのだ。ここで2人も聖女を始末できれば次の作戦の成功率は飛躍的に高まる。これほどの好機を前に何もせず帰ることなど出来ない。
ダイジョーブだ上手くいく。後は“アレ”の使用タイミングさえ間違えなければ必ずや成功する。勝利は疑いない――。
そう思い、そう思いたがっているだけの自分の本心からは目を逸らすよう努力して、ウォーキング率いるサタニスト暗殺部隊による『聖女暗殺計画プラス急遽修正バージョン』は実行に移される。
異世界チキュウにおいて、人それを【美味そうなニンジンを見て飛びつく】もしくは【火事場泥棒】と表現されていることを、現地世界人である彼は知らないままに・・・・・・。
『偽りの天使に死を――!《火鳥/ファイヤーバード》』
『聖女に嘆きあれ――!《氷槌/アイスハンマー》』
サタニストたちが前衛に配置した魔道師部隊による魔法攻撃から、サタニストVS聖女姉妹&聖堂騎士団のバトルは切って落とされた。
魔法による先制攻撃の大半は、この場の聖光国側トップである聖女キラー・クィーンに向けられたもので、これはアッサリと切り払われて無効化されてしまったものの、残る半数近くは見物客の群衆たちを巻き込む方へと向けられたものまでは対処不可能だった。
元々サタニストたちは聖光国の経済格差から生じた貧乏人たちが、過激思想に染まって武装しただけのパルチザンに近い集団であり、訓練を積んだプロの軍人たち相手に真っ向勝負を挑んで適う存在では端からない。
市民抵抗運動の基本は都市ゲリラ戦法であり、市民を巻き込んでの混戦状態こそが彼らの力を最も発揮しやすく、サタニストたちの常套手段として定着している攻撃手法でもある。
尤も、サタニスト幹部には珍しく貴族への復讐心ではない、改革の志を失わずに戦っているウォーキングとしては無関係な市民を巻き込むのは業腹だったが、襲撃部隊の隊長として同士たちに止めろと言うわけにもいかず、せめて自分と直属の精鋭だけでも聖女たちだけに攻撃を集中させながらの攻撃指示であったが・・・・・・やはり気になるものは気になるのである。
チラリと、身勝手な自己満足と承知のうえで、群衆の中にいた一人の子供を――幼くして病に倒れた自分の子供を想起させる小さな“フードを目深にかぶった女の子”を――炎の火球と氷の氷槌とが同時に押し寄せていく姿をハッキリと網膜に焼き付けられながら吹き飛ばそうとしてしまった、その瞬間。
「えい」
可愛らしい女の子のような声とともに、ピシッと何か小さな物体が指で弾かれるような音が聞こえたかな?と思った次の瞬間には。
ドカン!
と、少女の目前にまで迫りつつあった火球が、空中で爆発四散して。
ドカンドカンドカン!! ドガガガガンッ!!!
続けて群衆たちに襲いかかろうとしていた他の攻撃魔法も、ぜんぶ空中で爆発して消滅し、民衆たちは爆発の余波で吹き飛ばされはしたものの・・・・・・誰一人として死人は出ていなかった。
『な、なにィィィィィッ!?』
サタニストたちは一斉に驚愕の悲鳴を上げて、聖堂騎士団もまた驚きのあまり一瞬、我を忘れて茫然自失となる。
果たして誰が気づくだろう。この奇跡的現象を、たかが『小指で石を弾いて飛ばす』というモンクスキル【指弾】によって、“フードを目深にかぶった女の子”がたった一人で成し遂げてしまった、ツインビー的弾幕シューティングの応用でしかなかったという、アホらしくも恐ろしい事実を。一体この世界の誰が気づけるというのだろう!? ・・・気付いても何の役にも立たない真実ではあったけれども・・・。
「――フジッ!」
「へい! 姉御ォッ!!」
そして同じケンカ好きとしての特性故か、キラー・クィーンは本能的に民衆を守った謎の狙撃手を『敵ではない』と判断し、明確な敵であるサタニスト殲滅のためだけに戦力の全てを集中させるよう短い単語で腹心の部下に下知を出し、彼女に絶対的で盲目的な忠誠を誓っている聖堂騎士団のモヒカンたちも彼女からの命令に即座に従い突撃を開始する。
その瞬間、一瞬の間だけ先手をとった側と取られた側の立場が入れ替わる。・・・それだけで十分だった。
「ご機嫌じゃねぇかァ! サタニストどもぉ! 楽に死ねると思うなよヒャッハーッ!!」
「ひ、怯むな! やってしまえッ!」
『ヒーハーッ!!! 姉御に続けぇ!! サタニストどもに生きる資格はねぇ!!』
「く、ぐぅ・・・ッ!?」
戦いは機先を制した側が有利となり、不良同士のケンカは気合いで敵を圧した方が優位に立ちやすい。
心理的にも戦術的にも有利にたった聖堂騎士団と聖女の戦いに、一歩遅れて妹聖女も参戦してきて戦局は一挙に聖女側へとパワーバランスを傾けられていく。
が、しかし。
『ヒャッハーッ! サタニストのクズ共! 姉御に血を一滴残らず捧げろやーッ!!』
『サタニスト共に今日を生きる資格はねぇ! 地獄に落ちやがれ悪党共ぉッ!!』
『俺、この戦いが終わったら姉御に罵倒してもらうんだ・・・! 罵倒求める俺のために死ねぇいッ!』
・・・・・・何というか、絵面が悪い。核戦争後の覇王軍の兵士たちが正義側に回ったようなものなので、なんか色々と善悪混ざっていて言ってる台詞も字面も悪くなってるし。
おまけに率いる聖女の方も、聖なる存在の長の割には体裁というものを全く気にしていないらしく。
「あっはっは! サタニストども! 紅に染まる気分はどうだぁ!?」
「あんたたち、私の魔法で死ねることを光栄に思いなさいよ! この悪魔ども! バカと悪魔は死んじゃえ! オーッホッホッホ!!!」
普通に、悪の女幹部と、戦闘狂の悪の女幹部にしか見えようもないポーズ取りながら、なんか悪役っぽいセリフを吐いて一方的な殺戮を楽しみながら勝ち誇っている。
この国における『聖なる存在』の定義が、つくづく疑問を抱かざるを得ない。
『あっはっはァァ! サタニストどもォッ!! youはShockッ!!!』
うん。もうええわい。
――さて、ここで少し余談となるが。
地球から異世界に飛ばされてきたり生まれ変わったりしてきた転生者とか転移者と呼ばれる者たちは、基本的に飛ばされた先の現地人同士の争いごとに巻き込まれるのを嫌う性質の場合が多いのが一般的な存在である。
厄介事に巻き込まれることを嫌がったり、「何も知らない余所者の自分が口を出すべきではない」とか「恵まれた現代日本での常識を異世界人に押しつけるのは傲慢だ」とか、日本人らしい謙虚さを美徳とする精神で現地人同士の事情を尊重して事なかれ主義に走るのを由としたがるのが、こういう場合のお約束。
その結果として「子供に助け求められて見捨てられない」とか「関係ないからって見捨てるのは間違っている」とか、色々と理屈つけて介入することを決意するのが、この手の事件に巻き込まれた転生者もしくは転移者として正しい在り方というものなんだけれども。
・・・これがケンカ好きで突撃するのが大好きで、特攻こそが我が人生と断言する、自分の欲望に正直すぎて死んでは生き返りまくってきたネタエルフの場合は、こうなります。
「――蹴りたい! 投げたい! 殴り・・・たいッ!!
ケンカ祭りというパーティーを見たら参戦するのが人の道! 他人同士の揉め事を見て混ざりに行かざるは勇無きなり!
昔から、『火事とケンカは江戸の華』という名言がある通り、日本人にとって他人のケンカ沙汰に介入するのは昔から続いてきた伝統芸能の一つであり、伝統は守り尊ばなければいけないものですので是非とも参加させて頂きたいですね! 日本人として! 日本人らしく! 日本の清く正しい伝統を守り抜くためにも絶対に!
他人のケンカほど気楽に楽しめて滅茶苦茶にぶっ壊してしまくっても、心が痛まないものは他に無し! 超楽しみてぇ~ッ♪ 超気持ちよさそーッ! myはzyappuッ」
・・・・・・こんな感じのエルフ理論になる。超サイテー・・・。
こんな奴が、それでもケンカを前にして参戦せずに自制できていたのは、あくまで聖女ルナが片方の陣営にいるからであり、『ルナのお尻にメロメロ魔王』という不名誉極まりないレッテルを新たな黒歴史称号に追加されたくなかったから。それだけ。
たった、それだけの理由で参戦を自粛していただけで、深い意味とか目的とか計画とか平和主義とかは一切合切関係しているものでは全くなかった。
むしろ、援護射撃してやるだけでも感謝してほしいと思っているほど厚かましい奴なのである。民間人は巻き込まれただけだし、聖堂モヒカン騎士団は魔王(つまり自分)を討伐するために来た援軍っぽいし。
自主志願して戦場に来た人たちには、自分の身は自分で守ってもらって死んでも殺されても自分の選んだ結果と思ってもらうといたしましょう、と割り切ってまでいる始末。
ネットは基本的に自己責任。自分の身はパスワード設定とかウィルス対策ソフトとか買って自分で守りましょう。基本です。
「あ~・・・殴り込みたいなぁ~。楽しそうだな~。
こういう人がゴミのような状況見てると、本多忠勝とか投入してBASARAせたくなりますよね~。もしくは呂布とか投入して無双したくなるんですよね~」
などと如何にも現代日本のオタゲーマーが言いそうな、現実にできないからこそ気楽に言えるセリフを気楽に吐いて、テキトーに指弾で石飛ばして民間人の方に魔法撃とうとした奴だけ狙い撃つぜしながらボ~~ンヤリと自分が参加できない退屈な祭りを見物し続けて。
「・・・・・・いや、待てよ。仮面で顔隠して『今の私は魔王ではない・・・』とかの参戦だったら今からでも有りか・・・? グラサンでも可能だったぐらいだし、仮面の時点ではバレてなかったみたいだし・・・」
おいバカ止めろ、バレる。って言うよりもバレてたぞ、その正体隠した赤い人も。
あと、これ以上自分で黒歴史増やしてどーすんだ? 結構恥ずかしいぞ、あの仮面――と、どこからともなく大宇宙の大いなる意志的な声が聞こえてきて止めてくれたわけでもなかったのだけれども。
とりあえず、馬鹿エルフの自粛によって最悪の事態は避けられてる間に、事態は次の展開へと強制的に移行させられることになってしまう――。
「・・・あれ? あの人たしかさっき私の方見てた悪そうじゃなさそうだったオッサンさんですかね? なんか箱持って出てきましたけど一体どう言うつもり――」
―――カッ!!・・・っと。
足下高く響かせながらウォーキングは、切り札である“例のアレ”を持ってきて再登場!
正直ここまで早く使うことになるとは思わなかったが、このままでは一方的に虐殺されて全滅させられかねん。
民間人たちが逃げ出し終えたとは言いが・・・・・・やむを得ぬ。
「秘蔵の“闇”だが・・・聖女二人と引き換えならば許されよう―――」
言い訳のように、そう呟くとウォーキングは箱の蓋を開けて中身を吐き出し、箱の中に封じられていた大いなる災厄の一部を世に解放する。
・・・・・・ちなみに彼が、ガニ股での再登場シーンと相成ってしまったのは、重量物運んできた頭脳派の中年オッサン的にやむを得ないポージングだったのであって本意ではない。
彼なりに努力した結果なので、どうか変な意味に誤解しないで頂きたい!!
――そして箱の中から奇妙な音を立てながら、吐き出されるように飛び出してくる気色の悪い色の混じった黒い液体。
何というかこう・・・・・・モザイクかかったゲロっぽい色した液体が、じわりじわりと大通りに猛スピードで広がっていき、聖堂騎士団の男たちを足先まで浸からせた途端に苦悶の表情を浮かべて次々と膝をついて蹲らせていってしまう!
*:Aパターンの方は最後まで書き終える前に【ダメだ】と思って書き直し始めたので、「つづく」まで行けていませんでした。だからここで切れてます。