試作品集   作:ひきがやもとまち

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他の連作作も続きを書いていたのですけど、コレが一番先に出来てしまいましたので迷った末に投稿しました。
…できれば順番的に『試作品集』を更新した後は別作を更新して、また次に…ってパターンがやりたいんですけどね…なかなか理想通りにいかないらしいフィクション世界の世の中です。


他称魔王様、自称凡人さん。リスタート第14章

 聖女ルナが、仲間になりたそうにこっちを見ていたのでパーティーに加えてあげた翌日の朝。脳筋エルフのナジ次郎はヤホーの町にある骨董商へ続く道を歩いていた。

 今後の軍資金稼ぎのために、適当なアイテムを売り終わってアクたちの元へ帰る途中だったのである。

 

 現在の所、アクを虐待していた村人たちから脅し取った養育費と、魔王討伐に来て全滅した聖女様パーティーからドロップした金(所持金半分ではなく全額だったけれども)で、しばらくの間は食うに困らない程度の貯蓄は得られている。

 だがしかし、金というのはいつ何時大金が必要になるか分からないものであり、本来その町では売ってないはずの上級装備がバザールで数本だけ出品されてたりすることはMMOだと日常茶飯事。いざという時のために、ある程度まとまった金額を用意しておくのもネトゲーマーの勤めではある。

 

 転売目的で大量購入したアクの服を売る手もあるにはあったが、流石に買った場所と同じ町の店で売るというのも気が引ける。

 ならどうするか?・・・と考えたら、クラフト系の作成スキルを上げてるわけでもないネタアバターのケンカ馬鹿エルフには例によって例のごとくアイテムボックスにある要らなそーなアイテムを在庫処分する馬鹿の一つ覚えしか思いつかなったので実行した。その帰り道。

 

「いや~、しかし思いも掛けないほど高値で売れてよかったよかったです♪ 《ゴッターニ・サーガ》と価値がさほど変わってなかったみたいで助かりましたね~。多謝っ!」

 

 アイテムを売って手に入れた現地通貨の大金貨をもてあそびながら、上機嫌に独りごちるナベ次郎。

 彼女としては、MMOのバザーにおける常識として値段交渉をしてみたい願望があるにはあったのだが、なんと言っても異世界と地球では勝手が同じかどうかわからず、そもそも貨幣の価値すらわからないし知らない。

 本命の魔術師アバターならともかく、交渉などという細かい作業をネタで作った別アカウントの特攻エルフに出来るのか?という疑問もあったので、素直にもとから値段だけは高いアイテムを持って行って、オマケに低い作成スキルでも作れる回復アイテムもセットで付けておいたので、誠意が伝わり高く買ってくれたのだろうと勝手に解釈してしまっていたのである。

 

 ちなみに今回、コイツが売り払ったアイテム名は【金の女神像】

 ドラゴンと関係なくなって久しいクエストⅣと版権で揉めそうな気がする見た目と名前をしているところが気に入って大枚はたいて買ってしまったはいいものの、元ネタ通りなんの使い道もなく、高価なだけの女神像になってたので骨董商なら丁度いいかと売ってしまうことにしたのだった。・・・正直、キャパシティ重いし。

 

 ――余談だが、この女神像は骨董商ナンデン・マンネンを通じて好事家の大富豪がすぐ購入し、その出来映えが見事すぎる余り、天使を信仰するこの異世界では「この女性の像は女神を模ったものなのか? それとも天使様のいずれかをモチーフにしたものなのか?」という議論が勃発する未来を生み出してしまうことになるのだが・・・・・・。

 

 今はまだ、この馬鹿エルフは未来のことなど考えていないし、想像すらしていない。

 

「よしっ! 予想外の大金も入ったことですし、今日は新しい仲間が増えたことを祝してなにか美味しいものでも食べに行きましょーかね~」

 

 と、そんなことを気楽にのほほんとした表情で考えながら高級宿ググレへの道を帰っていると。

 

 突然、その声はヤホーの町中へと響き渡った。

 

 

「―――ルナ、出てこいッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高級宿ググレの前で今、聖堂騎士団の精鋭たちが隊列を組んで整列している。

 ヤホーの町へと進軍を続けて夜明け前に付近まで到着していた聖女キラー・クィーンは、部下たちに腹ごしらえと休息を取らせた後、即座に部隊を動かして無関係な市民たちを安全圏まで遠ざけてから、妹たちが宿泊しているらしい宿の前で隊列を組ませ危急の事態に備えさせた。

 万が一の事態にも対処できる万全の体制。彼女なりに全力出した完璧な布陣!・・・だったのだが。

 如何せん、率いる者たちの風体が悪すぎる・・・。

 

「三聖女が次女、キラー・クィーンが来てやったぞ!

 ルナ、出てこいッ!」

 

 モヒカン頭とかスキンヘッドの男たちが、上半身裸にチェーン巻いて槍や棍棒もって隊列組んで平和な町中にある高級宿屋の前で整列して、移動式玉座の上でふんぞり返りながら足組んでる凶眼の美少女が叫んだ発言がコレだ。

 正直、ギャングかマフィアか暴走族の不良たちが徒党を組んで落とし前付けに来ただけとしか見えようがない。

 

 この異世界の人たちからすれば、正義の味方としての彼らしか知らないだろうから「聖女様だ!聖女様だ!」と暢気に騒いではいられるものの、現代日本の中学校の前で同じ事やられて同じ事言われた時に、言われたとおり出てくる物好きは果たしているのか否か・・・。

 ごく普通の対応として、

 

「埋められるか、沈められるかぐらいは選ばせたらァ!

 手間ぁかけさせると余計痛い目見ることになるぞゴラァッ!!」

 

 とかの未来が待ってる展開にしかなる気がしない気がする。スゴくする。

 

「ついでに――魔王ってのも、いるなら出てこいや!!

 それとも魔王ってのはヘタレか? そんなに俺が怖ぇのかよ、アァン!?」

 

 聖女様からの聖女らしくない啖呵に呼応して、周囲を固める護衛のモヒカンたちも棍棒や槍を振り回して叫び出す。

 どう見たって聖女様ご一行には見えないが、コレも彼女なりの配慮ではあるのだ一応はだが。

 

 宿屋の中にいられたままでは従業員たちを人質に取られる可能性があるし、どーせ戦うのなら大人数で広いスペースを戦場にした方がよいに決まっている。わざわざ屋内戦闘で無駄な被害を出しに行く必要性はない。

 正直な自分の気持ちを伝えて脅迫と挑発を一緒にやっちまった方が彼女としては楽でいい。そういう風な発想に基づいてのものだったのか否かは定かではないものの、少なくとも効果としてそれらのものが期待できるのは間違いではない。

 

「ね、姉様!? 何で、この町に・・・!?」

 

 そして、大通りの中から事態を余計にややこしくさせることしか出来なさそうなピンク髪の少女が飛び出してきて移動式玉座の前に立ち、町の人たちという名の見物人客らがざわめきを一層大きくさせられる。

 

「このクソが・・・俺に黙って火遊びとは偉くなったもんだなぁ?」

 

 それら有象無象の下世話な反応など意に介すことなく、聖女三姉妹の次女は血の繋がらない妹である三女に対してだけ声と質問を同時に投げかけ、見下したような凶眼で睨み付ける。

 

「ち、違うの! わ、私は魔王が現れたって聞いて、それで――」

「ド阿呆がッ!!」

「ヒィッ!?」

 

 視線だけで熊をも殺せそうなレベルで目つきの悪すぎる姉のガン付けに晒され、骨の髄まで恐怖心で青ざめさせられた聖女ルナは、己の恐怖心が命ずるがままに自己正当化のため弁明を始めようとして一喝だけで黙り込まされてしまうしかない。

 

「テメェ1人でなにが出来んだよ! いるはずもねぇ魔王討伐なんかしてねぇで、クソはクソらしく家で寝てろ!!」

 

 椅子の上にふんぞり返りながら中指を立てて、ルナに向かってファックユーする聖なる存在のナンバー2聖女さま。

 その姿は堂に入っており、傍目には文句の付けようもないほどの不良発言であったが、そのセリフの内容だけ翻訳すると以下の通り。

 

『あなた一人でなにが出来るというの!? もしいたら危険極まりない魔王捜しなんて辞めて一番安全なお城の中に戻って安心して眠ってちょうだい!』

 

 ・・・・・・とかになるにはなる。本当にそう思ってるかどうかまでは知りようもないが、セリフの内容だけ聞くとそうなる。日本語も異世界言語も変わることなく言葉というのは難しい。

 

「ね、姉様! それは誤解よ! 魔王だったら、私の魅力で手なずけちゃったし!」

「あぁん? 起きながら寝言は器用なもんだなァ」

「ちゃんといるもん! アイツ、私のお尻に夢中なんだから!!」

 

 しかも、実力では三聖女の中で最弱の存在だけど、プライドの高さでは三聖女の中で最強レベルっぽい末っ子妹が、言い負かされたら言い返さずにはいられない病でも発病でもしてしまったのか、なんか大衆の面前で年頃の乙女とは到底思えないような単語を連発してしまったのだから、さぁ大変!

 聖なる姉妹たちの会談内容が、性なる内容へと変化していってる気がするのは気のせいだろうか・・・?

 

「あぁ? 尻だぁ? なに言ってんだお前? ・・・・・・まさかとは思うが、魔王にケツの穴掘らせて、くわえ込んで手なずけましたとか言うつもりじゃ―――」

「ないわよッ!? なに言い出してんの姉様! バカなんじゃないの!? 姉様に向かって言っていい言葉じゃないって解っているけど、それでもやっぱりバカなんじゃないの!?バカなんじゃないの!? バカなの死ぬの!?

 って言うか死んで!お願いだから! 私が恥ずかしさで死んじゃうッ!!」

「いや、そうは言うがお前・・・それ以外に、魔王をケツで夢中にさせたから手なずけたなんて寝言を現実にできる方法が思いつかねぇんだが・・・」

「だから言わないでってば!? 今自分の妹が、自分の発言の内容で自爆死しかかっている姿が姉様には見えてないのぉーっ!?」

 

 そして気のせいではなく、ホントに性なる話題へとシフトしてしまっていく聖女姉妹ならぬ性女姉妹の会話内容。

 つくづく異性の目を気にする必要のないヤンキー少女キャラが混じってしまった会話には下ネタ話が入りやすい上に脱線もしやすくて困る困る。

 

 こうして色々と周囲の人たち(主に前屈みになってる男共たち)を巻き込みながら、聖女たち姉妹の下ネタ話がいつ果てるともなく続いていた頃。

 

 ・・・・・・彼女たちの話題の中心となっているはずの魔王様は、どこで何をしていたかというと―――

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ス~~、ハ~~・・・。いやー、今日も平和でタバコが美味しいっすねぇー。うん、美味い。もう一本」

 

 ――と、独り青汁ゴッコをタバコでやりながら暇潰ししつつ、聖女姉妹のコントを他人事のように他人事として通行人の中に混じりながらノンビリと見物していたのだった・・・・・・。

 

 だが、それは仕方のないことでもあっただろう。

 なにしろ彼女にとって聖女姉妹の話は―――【なんの関係もない赤の他人事ばかり】だったので、言うべき言葉がなにも持ち合わせていなかっただけなのだから・・・・・・。

 

 キラー・クィーンからは、「魔王いるなら出てこい」と言われはしたものの。・・・とっくの昔に出てきているので、宿に向かって叫ばれても特に言い返す言葉はなにも思いつきそうになく。

 

 ルナの方は、「彼女のお尻に夢中になった魔王様」のことを話しているらしいので、自分には全くもって何の関係もない他人話である。赤の他人のことをどうこう言われて、別人である自分が文句を言うのはおかしな事。だから聞いてるだけ~を実践しているだけであって矛盾はない。

 

 そして、何より自分は【魔王などではない】断じて違う、絶対違う、そんな過去が実在してたなどと言う事実を自分は決して認めない。全力で私は現実を拒絶する!・・・とか叫んで三角形作り出したくなるぐらいには無関係な黒歴史話でしかないのだ。

 黒歴史とは、無かったことにしておきたいから埋めてしまって掘り起こしてはならない負の記憶をさして呼ぶ。だから自分には関係がないのだ。

 

 ・・・黒歴史なんて知らない・・・興味もない・・・マウンテンサイクルに埋められていた大変なものを掘り出してしまったなら「埋めろ」と答えて絶対に見に行きたくありませんと断言できる怪力バカでケンカ馬鹿のエルフは人間の姿で、知らない赤の他人のフリ。

 

「・・・プハ~~・・・・・・今日もいい天気ですねぇ・・・。明日もきっと、いいお天気なんでしょうねぇ・・・。明後日も明明後日も、きっとずっといーお天気が続いてくんでしょう。世界が乾きで滅びるそのときまで永遠に・・・・・・ね・・・」

 

 なんか段々と現実逃避が変な方向に進み始めてしまいながらも、タバコの吸い殻がポトリと地面に落ち。

 あと一本吸おうか、それとも明日用に取っておいて節約すべきかと、オッサンみたいなことをロリ巨乳エルフの姿でぼんやり考えていた。

 

 まさに、その時。――第二の声がヤホーの町全体に不吉とともに響き渡る。

 

 

『偽りの天使に死を――!《火鳥/ファイヤーバード》』

『聖女に嘆きあれ――!《氷槌/アイスハンマー》』

 

【聖女に災いあれ―――この国は我々、悪魔信仰者集団サタニストが、正す!!

 死ぬがいい!! 権力で肥え太った穢らわしき聖女共よ!!!】

 

 

 

 妹を追って聖女姉妹の次女が到着し、妹を追いかける聖女の後をつけて先ほど到達した先遣隊を加えたサタニストたちが姿を現し、こうして役者は出そろい『戦場』は形作られた。

 

 聖なる存在と、悪を崇拝して善を成そうとする者たちとの戦いが、彼ら双方が探し続ける魔王がいるこの場所において、今始まりのときをゴングを鳴り響かせようとしていたのである!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・ところでだが。

 この町に向かっていた、もう1グループの連中は今どこで何をやっていたのかと言いますと―――

 

 

 

『ああ、魔王様~♪ 魔王様~♪ 

 輝く瞳は、そよぐ髪♪ 山より高く、海より深い♪

 どんなに晴れた、寂しい昼も♪ あなたを思えば怖くない♪

 どんなに明るく、悲しい場所でも♪ あなたがいるから、へっちゃら、ぷー♪』

 

 

 

 ――まだ、歌って踊りながら町へと続く道中を賑やかに楽しそうにノンビリと歩き続けていただけだったりする・・・・・・。

 急ぐわけでもなく、急ぐ理由もなく、自分たちが向かっている町中で今何が起こっているかなど知りようもない気楽すぎる無知な連中がヤホーの町へと到着するまで、まだもう少しだけ時間がかかりそうなんじゃ―――としか言いようがない、踊って歩いてるから歩むが遅い、遅すぎる普通の村人たち。

 

 騎馬隊と、走って馬を追いかけるサタニストたちと、普通の歩行との違いこそが、このように未来を変えて運命を変えて世界さえも揺るがす大事件へと発展していったら・・・・・・イヤすぎる・・・・・・。

 

 って言うか、ホントにコイツ等なにしに来たいんねん。

 

 ガチな疑問を部外者たちによってもたらされながら、性なる聖女姉妹&聖堂騎士団精鋭VSサタニストVSケンカ馬鹿エルフ魔王との戦いが、今から少し後に始まる!

 

 

 

つづく


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