試作品集   作:ひきがやもとまち

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『私、能力は平均値でって言ったよね!』の二次創作です。アニメ版1話目を見たときに思いついて少しずつ書いてきてたのが今日になってから出来ましたので投稿してみました。

なお、作者の試作品集の一作らしい「主人公が原作主人公と似て非なる別人設定」になってる内容ですので原作尊重派の方々は読む前には熟考をば(苦笑)


私、能力値にバッドステータス付与はお許しを!って言ったのに・・・。

 ・・・ガタゴトと、長閑な田舎道を一台の荷馬車がビルズ王国へと向かっておりました。

 

「わー! やっと着いたんですね! ビルズ王国の王都に♪」

 

 窓を開き、私は顔を出して遠くに遠望する町を見つめて歓声を上げます。

 しばらくして王都の町中へと到着してから馬車を降り、引っ越し代で寂しくなった懐具合に見合う安宿を見つけると中へと入って呼び鈴を鳴らし、空き部屋が残っていることを確認して心の中でガッツポーズを取る!

 

「はい、お部屋なら空いてますよ。もしかしてお姉さん、ハンター養成学校の新入生さんだったりします?」

「マールと言います。実はこの国のハンター養成学校に入学することになったんですけど、予定より早く到着してしまって入学式までの仮住まいが必要になりまして・・・入学式までの短い間ですけど、お世話になりますね」

「看板娘のレニーです。頑張ってくださいね、お姉さん! 有名なハンターにひいきにしてくれたら、内の宿もガッポガポですから~♪」

「ああ、そういう派手なのはいいです。ノーサンキューです」

 

 見知らぬ土地にやってきたばかりの余所者として、自分から看板娘を自称できる自信家で逞しい幼女と初っぱなから知り合えた私は、ついつい口も態度も軽くなって砕けた態度で相手が抱きかけた夢を儚い希望に変えてしまうような返しを苦笑しながら言ってしまうほど安心し切っておりました。

 彼女なら、この程度のことで今後の関係に影響しないと信じられたからでもあり、下手に夢を抱かせてしまって後々ガッカリさせるよりかはマシだと考えた故でもありました。

 

 人生やり直し場所を求めた私が、この国を新天地と定めて引っ越してきたのは“そういう目的”とは正反対な道を目指すため。今度こそ、普通の幸せを掴むため!

 私にとって、本当の第二の人生の始まりはここからなのですから!

 

 ――そう。

 

 

「私が目指すのはただ一つ!

 今度こそ、【犯罪者扱いされることなく、国外逃亡する羽目にもならない、シャバで平穏無事な一般人として普通に生きて死ねて臭いご飯を食べさせられる豚箱に閉じ込められずに済むこと】それだけの平凡な幸せで充分ですから!

 だからハンターとしての名声なんていりません! むしろ有名になってマスゴミから過去の経歴とか調べられると困り過ぎますし! だから平凡な幸せが一番です!!」

 

 

 ・・・・・・こうして私は、人生やり直すために引っ越してきた新天地に着いた早々、十代前半の年下少女相手に土下座して通報するのを待ってもらって口止め料も払わされ、なんとか当面の雨風しのげる寝床と温かい食事がある最低限度の生活を手に入れることができたのでした。

 ――なんで私の第二の人生、こうなるの・・・・・・。

 

 

 

 遅ればせながら、ここだけの内緒の暴露お話です。

 実は私が名乗ったマールというのは仮の名で、その正体はブランデル王国の貴族令嬢【マールディア・フォン・アルカトラズ】・・・でもなく。

 現代日本のオタク女子中学生【栗里海原(クリサト・ミハラ)なのです!

 所謂、「ご都合主義乙~」とかアンチして現実主義者ぶるのが流行ってる異世界転生者ってヤツですね♪

 

 私は人より、ちょっとだけ早熟だったせいか周囲から突き上げ食らってて・・・要するに捻くれボッチだったというわけです。

 ああ、両親と妹との仲は悪くありませんでしたよ? 家族仲は良好です。

 反抗せずにテストで良い成績さえ取っとけば特になんも言ってこない両親なんてテキトーにご機嫌取っとくだけで良かったですし、シスコンでも美少女でもないリアル妹なんて姉にとってはどーでもいい存在でしたからね。現実の家族関係なんて、そんなもんです。ヘッ。

 

 そして、そんなある日のこと。

 

 キキィーッ!!!

 

 ハイッ、来ました! 異世界転生名物【左右の確認もせずに横断歩道を渡ろうとする馬鹿ガキが暴走トラックに轢き殺されそうになってるのを救ってやるため自分の命捨てるかガキ見捨てるか?】割に合わないお約束の選択肢が学校向かう途中の私の前でいきなり発生してしまったのです!

 それを見た私は、何かを考えている余裕もなく、躊躇いもなく、思わず反射的に体が反応してしまって・・・・・・

 

 

 

 キキィィィィィィッ!!!!

 ――――ドカンッ!!!

 

 

 

『・・・で、平然と子供を見殺しにして、巻き込まれることを恐れて現場からさっさと逃げ出そうとしていたことへの弁明を聞かせてもらいましょうか?』

「い、いや、あのえーとそのぉ・・・・・・」

 

 ・・・ってな事があって、所謂『白一色の空間に椅子だけがある世界』に呼び出し食らって、神様と名乗る美青年から正座させられながらお説教とゲンコツを頂戴させて頂きまして・・・。

 

『まったく・・・本来だったら死ぬ予定のなかった君を手違いから死なせてしまったことに気づき、慌てて賠償としてのチート転生許可を取り付けることに成功して地球までやってきたら、変わってしまっていた運命を自分のエゴと保身で変えてしまうとは! 

 どうするんですかコレ本当に・・・もう君は本当に死んだことになってしまってたんですよ・・・? 今からでは助かっても元に戻すことができません。死んでなくても異世界に転生してもらう他に打つ手がなくなっている状況なのです・・・』

 

 という事情があった末に今に至ります・・・。

 なんでも神様曰く、予定外で死なせてしまった人間の事後処理とか、本来の予定を狂わせないための穴埋め作業とか整合性の取り方とか、色々やるべき作業が山積しているようで後からの修正は効きづらいのだとか。

 神様だからと言って、チンカラホイと呪法を唱えただけで何でもかんでも不可能を可能にできてしまうような、ご都合主義パワーまでは使うことができないみたいですね。

 チート転生も百億人以上の死のスケジュール表管理で生じた想定外のミスと考えれば納得いくレベルの賠償額。世の中やっぱり都合良いことだけでは出来てくれてないみたいです。

 

 とは言え、本来だったら私のために神様が取ってきてくれたチート転生権は、『馬鹿ガキ救ったせいで予定外で死なせてしまった被害者用』子供を見捨てて生き延びてしまった結果、神様の書き直した生と死のスケジュール表で整合性を取るために死んだことに変えられてしまって、そのくせ子供見捨てた倫理的にはどーかと言われそうな面もある。

 

 結果として、与えてもらったチートにデスペナルティ付け足された状態で生まれ変わらせられてしまった今の私こそが、安宿で幼女に土下座した貴族令嬢マールディア・・・。

 あんなにバッドステータス常時付与だけはお許しを!ってお願いしたのに・・・神様とドクロベー様に慈悲の心による許しなんてものは存在しないのだと思い知らされた栗里海原、享年14歳。現代日本人として過ごした最期の日の悲しい犯罪歴話はこうして終わりを告げます・・・。

 

 

 

 ―――まっ、それはそれとして!

 

「お金払って引っ越してきた先の新天地に着いたのですから、まずは観光です! 建物の配置や位置関係の掌握も含めて逃げ道確保は逃亡者生活の基本!!」

 

 辛く苦しい過去を振り切るように片手を振ってレニーちゃんに「行ってきます!」と出発を告げ(行き先と目的と帰宅予定時間を記載させられてから)初めて来た外国の町中へとGO! イタリアっぽい観光名所の各地を見て回ってきました! 昔の映画を彷彿とさせられる光景ですよね!

 あの映画のタイトルは・・・何でしたっけ? 【ハンニバル】でしたっけかね? まぁいいや何だって。どうせ二度と見れないですし間違っててもカンケーなし。次行こう。

 

 

「さて、観光も済ませましたし。次は食事のために市場へGO! やっぱり旅の楽しみと言えば地元産の名物料理ですからね~・・・グヘヘ♪」

 

 思わず下卑た笑いを浮かべそうになってしまう程度には、花より団子な純粋年頃で死んでしまった前世の私。保身は好きでも色気より食い気なのは変わらないの♪ だって少女じゃなくて女の子って呼ばれる子供なんだもん☆ ウッフン♡

 

「・・・って、あれ? よく見たらなんか昼間なのに子供の数が少ないよーな・・・?」

 

 浮かれすぎて周囲をよく見ていなかった私でしたが、少し落ち着いて周りを見回し、遅まきながら気づいた事実として家の外で遊んでいる子供の姿をほとんど見かけていません。

 いえ、それどころかレニーちゃん以外の子供をブランデル王国に入ってから見かけた記憶が一切思い出せないレベルです。

 代わりに多く見かけるのは、眉をひそめながら困り顔で語り合っている、オジサン達やオバサン達、たまにお婆さんまで混じって何やらヒソヒソと互いの心配事を話し合っている様子が見て取れます。

 

 こ、これはまさか・・・もしかしなくてもひょっとして・・・っ!?

 

「どうりで落ち着いた町だと思っていましたが・・・こんなファンタジー世界でも、“最近の子供は外で遊ばないからダメになるばかり”と愚痴り合う老害たち大量発生の波が押し寄せてきてたりとかしちゃってたりして・・・って、わきゃ!?」

「――おっと、危ない」

 

 恐怖のあまり考え込んでしまっていたせいで油断した私は、道の出っ張りに足先を引っかけて躓いて転びそうになり、前方に立っていた優しい人に助けられるという王道的ヒロイン展開を実践してしまう醜態を晒してしまったのでした!

 クワーツ!? 恥ずかしい! なんだこりゃワタシ!? 少女向けラノベのヒロインか、乙女ゲーの主人公ですかよ!? 私のキャラに合ってない行動とか言動しちゃった時って超恥ずかし~!! 恥ずか死ぬー!?

 

「大丈夫かい?」

「・・・ふぇぇ・・・」

 

 しかも助けてくれた相手が超美形のイケメン騎士パターンと来たもんです・・・。

 短いけどサラサラの金髪、爽やかな笑み、軽装の鎧、腰に一本の剣、キラキラした背景。

 もはや昭和における少女漫画の世界です。・・・そして昭和のお約束ヒロインポジション・・・。ホント殺してください・・・でなければ私が自分で死にます。恥ずか死ぬる・・・。

 

「ご、ごごごごめんなさい! つい出来心で、わざとじゃなかったんです! 私は何もやっていません! 正当防衛です!!」

「えっとぉ・・・ごめん。何言ってるのかよくわからないけど、ひとまずは落ち着いて?」

「は、はいぃっ! スーハー、スーハー、ヒッヒッフ~・・・有り難うございました。

 ・・・えっとぉ・・・?」

 

 ネタキャラっぽいラマーズ深呼吸方法で本来の自分を取り戻してから相手と改めて相対し、落ち着いた心と視線で助けてくれた恩人の・・・・・・美少年騎士さん? それとも少女騎士さん? どっちかよく判んない中性的な騎士さん。

 

「・・・お兄・・・、お姉・・・・・・おネ兄様?」

「うん、気を遣おうとして訳わかってるからね? あんまり落ち着けてないみたいだから気をつけようね?」

 

 そう言ってイケメン騎士様は、優しい視線と瞳で私を見つめて(可哀想なものを見る目とは解釈したくありません)

 

「あまりボーッとして迷子になると、おうちに帰れなくなっちゃうよ?」

 

 片目をつむってウィンクしながら微笑みを浮かべ、子供に注意するみたいな口調で言ってくれる優しい優しい騎士様ステキ☆ ・・・そして微笑まれた方の私は王道ヒロイン度が増したという訳か・・・地味に凹む・・・。

 周囲に合わせないから突き上げ食らった捻くれ女子中学生の気持ちは複雑なのです・・・。

 

「・・・あの~・・・私そこまでは子供じゃないですので、迷子までは大丈夫だと思うっス・・・」

「ハハハ、うん。良い子だね。じゃあ、私はこれで」

 

 そして余計に微笑ましい生き物を見下ろす瞳で爽やかな笑みとともに背を向けられてしまう私。

 ・・・なんだか転生した後から精神年齢下がってる自分を自覚してるんですけど、これは所謂『生まれ変わった体に引っ張られる現象』なのでしょうか? それとも教えられてないけど付け足されてた別のバッドステータス? 恥ずかしすぎるのでマジ勘弁して欲しいっス・・・。

 

「あと――“私”は、お姉さんだからね?」

 

 それと騎士様自身が気にしていた部分だったらしいので、彼もとい彼女の名誉のためにも訂正すべきところは声に出して訂正しておこうと思います。

 

 

「じゃあ、お兄姉様で」

「オニッ!?」

 

 

 何故だか驚かれてしまった上に、全力であだ名を拒否られてしまいました。

 ・・・いいニックネームだと思ったんだけどなぁー・・・。

 

「しかし、それはそれとしても子供とは失礼しちゃうなぁ~。こう見えて転生者である以上、実年齢は―――」

 

 ・・・そう言えば、あんま変わんなかった前世記憶を思い出して地味に更に凹んでいた私は、ついつい先ほどと同じ前方不注意のまま歩き続けてしまい、『そこのチッコイの』と不意打ちで横から呼び止められて振り返ると。

 

「今すぐ引き返しなさい。お子様がスラムにのこのこ足を踏み入れようものなら、骨までしゃぶられるわよ」

「・・・ふぇ?」

 

 赤髪ロングヘアーで、黒のゴシックドレスっぽい服着て、魔法のステッキっぽい杖持った可愛らしい女の子が立っていたことに驚愕してしまい、思わずポツリと正直な賞賛を口に出してしまって

 

「か、カワイイお子様魔法使いが、なんでこんな所に!?」

「あ、ああアンタの方がチッコイでしょーが!?」

 

 怒られました。褒めたのに怒られました。誤解なく互いの思いを分かり合うためにはチート転生能力じゃなくて、ニュータイプへの転生が必要だったみたいです。・・・でも人殺し以外に役立ってるとこ見たことない連中なんですけどね・・・。

 

 ・・・って言うか、え? スラム?

 

「とにかく! そっちには近づくなって言ってんの!!」

「お。・・・う、うわ~・・・本物だぁ・・・」

 

 相手に言われてから、杖で指し示された方へと目を向ければ、そこに広がっているのは絵に描いたような暗黒街!

 暗くてジメッとしていて髭モジャのオッサンとか切り裂きジャックとかが屯してそうで・・・・・・なんて言うか、こう・・・・・・一瞬だけ意識が遠のきかけてきて――

 

 

「・・・まるで人も町もゴミのようだ・・・」

「は?」

「・・・・・・ハッ!?」

 

 やばい!? なんかフィクションっぽい人たちと連続イベント発生したせいで意識もってかれて油断しすぎてたわ!! 呪いが!! バッドステータス発動を抑える分の意識まわすの忘れてた-!?

 

「あ、いや、そのえーっとぉ・・・すいません! ちょっと考え事しちゃってて間違えて入るところだっただけなんです! 入るつもりとかは無かったんです! 本当です信じてください! 

 あと、腐った町を空気ごと焼き払って王道楽土を建設しようなんてつもりは、本当に一切全くこれっぽっちもないです本当に!!」

「・・・いや、見知らぬお子様がスラム入るのを見て見ぬフリするとか目覚めが悪かったから注意しただけで、本当に入る気があるとまでは疑ってなかったんだけど・・・・・・そこまで否定されると逆に怪しいような気が・・・・・・」

「はうぁッ!?」

 

 しまった! 逆効果だ!? こういう時ってどうすれば言い逃れできるものなんだろう!? 教えてヒーロー!!

 

「本当に入るつもりはなかったんです! ご心配をおかけしました! 私は何もやってませんから大丈夫です! まだ!!」

「・・・“まだ”・・・?」

 

 ――しぃぃぃまったぁぁぁぁぁっ!?((((;゚Д゚)))))))

 

「・・・まぁ、まだ何もしてなくて、する気もないなら法律的にも別にいいんだけど・・・・・・ただ、そのお登りさん丸出しのアホ面はなんとかしなさい。

 挙動不審で怪しまれても知らないわよ」

「あほづっ!? 挙動不し・・・って、笑うなー!?」

 

 相手から言われた言葉がショックすぎてしまって、スラムはいるなって注意してきた本人は入っていくにのもツッコミが入れられずに、横で常時盗み見ているユルカワ覗き魔生物とのいつものやり取りを終えたときには既にお子様魔法使いの姿はなく。

 

 いつまでもスラム街の入り口に突っ立ったままでも意味はないですし、やることもなかったので改めて市場へGO。

 そしてここが市場です! 直販なのか安いです! 色とりどりのフルーツとか野菜とか魚屋さんとか・・・・・・吊り下げられた骨付き巨大肉とかまでもが安い!!

 現代日本だと一本幾らぐらいするのかと頭の中で電卓計算したくなるほどのブツを見ると、どうしても財布のヒモを緩めたくなってしまう日本人のDNAがウズウズと・・・って、

 

「ぶへはァッ!?」

「・・・あら?」

 

 そして再びヨソ見してた結果として正面衝突してしまった柔らかい壁に弾き飛ばされて尻餅着く私。

 柔らかくて弾力があり、プリンのようなまろやかさを感じさせながらも、決して崩れることのない絶対無敵な城壁の防御力をもって私の前に立ち塞がってきた、その壁は――

 

「あ痛たたた・・・・・・」

「大丈夫ですか? どこかお怪我は?」

「は、はい・・・大丈夫で・・・・・ひでぶはぁッ!?」

 

 圧倒的な性能の差を見せつけてくる―――オッパイでした!!!

 な、なんという(女としての)スペックの差! これが性能の違いが決定的差でないと言いながら最後まで勝てなかった少佐殿が味あわされた絶望的すぎる壁なのか!? 

 クッ・・・! 人は所詮、持って生まれた才能の差には勝てないということなのかチクショウめ!!

 

「ど、どうかした? なんだかスゴい悲鳴だったけど、どこか怪我でもしたの!?」

「い、いいいえ何でもなななな・・・ッ!? お、おおおおぱオパおおおオオオ・・・・・・」

「お? お尻なの!? お尻を打ったときに痛めてしまったのね!? ちょっとしつ――」

 

 

「お、おおお、覚えておいでヤッターマン!!!!」

 

 

「何が!? そして誰のことなのソレって!?」

 

 

 あまりにも混乱しすぎてしまって、バッドステータスまでもが中途半端な発動の仕方した私は、負け犬女らしく泣きながら全速力で逃げ去ってしまって・・・・・・お肉買い忘れましたのでレニーちゃんに何か作ってもらうしかなくなっちゃったのでありましたとさ・・・。

 銀貨五枚の宿泊費プラス別料金の食事代までもが地味に痛いです・・・・・・懐具合的に・・・。

 

 

 んで、これはレニーちゃんから、そのときに聞いたお話。

 

「子供たちの失踪事件?」

「ええ、今の王都では私たちぐらいの子供が、ここ数日で何人か行方不明になってるんです・・・。すいません、言い忘れてしまって・・・。

 犯人の一味なんじゃないかと最初は疑っちゃってたものですから、つい・・・」

 

 申し訳なさそうに謝りながら説明してくれるレニーちゃん。やっぱり頼りになる子だよね♪

 そして・・・最後の余計な補足に関しては聞こえなかったフリしておくことに決めた私は悪い子だと自分でも思います・・・。

 謝ってくれて説明もしてくれたってことは疑いも晴れたんだろうし、痛くないお腹を探られ直したくないのは、犯罪者であれ逮捕令状出されてない容疑者であれ変わることなく皆同じもの。

 叩いてホコリの出ない人間なんて、大人にも子供にもいるはずないのが現実の世の中だもんね・・・。

 

「お姉さんも、魔法使い目指してる場合は気をつけてくださいね? 魔法が使える子供って貴重なんですから」

「うん、ありがとうレニーちゃん」

 

 私は笑顔でお礼を言って食事を食べ終わり、夜の挨拶をしてから二階にある自分の部屋へと戻っていったのでした。

 

 ・・・・・・内心では冷や汗まみれの本音を知られないため全力疾走したい心を抑え続けて、心臓バックバク鳴らしまくりながら部屋へと逃げ込んでホッと一息。

 

 

「あ、危なかったー・・・。子供の誘拐事件どころじゃない魔法使えること知られなくて良かったよ本当に・・・。そう思うよね? ナノちゃん」

『――まっ、確かに。マール様は未だかつて前例のない罰則魔法の使い手ですからね。知られてしまったら碌な人生は送れないでしょう、間違いなく』

「ぎゃー!? 言わないでー!? 自分で分かっていても他人から言われると辛すぎる真実を指摘しないで賛成だけ返事返して欲しかっただけなのにーッ!?」 

 

 ベッドの上で黒歴史の傷みと辛さに藻掻き苦しみ続けさせられて、この世界に来てから知り合った何処にでも行けて何処からでも現れるナノマシン生命体の通称『ナノちゃん』からもからかわれ、逃げ道を全て閉ざされてしまった私は布団かぶって夢の世界へ全力逃避!

 現実逃避こそが私に残された最後の楽園! 希望に満たされたフロンティア!!

 絶望の現在を捨て去り、今こそ旅立とう! 夢と逃避の世界ドリームランドへ!!

 とゆーわけで、ではお休みなさい! グ~~・・・・・・ZZZZZ

 

 

 

 

 

 んで、短い期間が過ぎて入学式前日の夕方!

 

 

「――よし! 王都の掌握完了! 取り調べも事情聴取も一切されなかったから前科もなし!

 これで心置きなく入学できるし、いざという時には心置きなく高飛びも出来るぞ~♪」

 

 スッカリ逃げ癖がついてしまった自分のダメさ加減を自覚しないまま、意気揚々とレニーちゃんが待ってるはずの宿屋に帰ってきたところ。

 

 

『止めるな! 俺はレニーを探しに行く!』

『かき入れ時だってのに料理人がいなくなってどうするの!?』

『レニーが心配じゃないのか!?』

 

 

 ・・・と、レニーちゃんのご両親でパパママンズが「止めるな俺は先に行くイベント」をコックさん姿で熱演しておられるシーンに出会してしまいました。

 おそらく、前に話してくれてた失踪事件に関する話題なんだろうなーということぐらいは私にも推測できたんですけど・・・・・・そんな風に思ってた私が言えた言葉はただ一つ。

 

 

 

「・・・・・・・・・チャ~~~ンス・・・・・・」

 

 

 

 悪い笑顔を浮かべて、世界を救う組織のエリートパイロットみたいなことを言いながら部屋に戻って準備を整え、さっそく街へと繰り出しました!

 まだ誘拐されたと決まったわけじゃないけど・・・・・・それでも、これは!!

 

 

「チャンスよ! 贖罪するチャンス!

 今回の誘拐事件を解決して、助けられた大勢の子供たちから感謝されて、前世で犯した罪をチャラにできるほど沢山の徳を積めば、神様だって私に掛けたバッドステータスの呪いを解いてあげようって気になれるはず!

 犯した罪を悔やんで、罪悪感で苦しみまくって、色んな悪人やっつけまくる『過ちに気づいて正しくなった正義の味方系ヒーロー』にさえなれれば、法律的裁きから逃げまくったところで同情心とかで悪者にはされなくて済む! それこそ正義の味方の定義だから!!」

 

 

『・・・・・・その考え方捨てない限り、一生かかっても罰ステータスを解除してあげる気になってもらえないと思うんですが・・・・・・』

 

 

 なんか横でナノちゃんが都合の悪いこと言ってる気がするけど、聞こえないフリして人助けに出動よ! 人助けすることが自分を救うことにつながるのなら、喜んで無償奉仕の人助けをする!

 物理的な報酬はいらないし求めない! 自分の罪をチャラにできればそれでいい! その前提で犯らせてます! それが贖罪系ヒーローキャラの生まれる経緯と理由!

 

 

 

 ・・・という感じで、人気がなくなった夜の町に出かけて市場を見て回ったけど誰もいなくて、探索魔法はナノマシンで魔法使ってて魔力じゃないから科学法則作用するらしい世界だと私の頭がパーになるレベルの容量必要とする捜査範囲だったから却下して。

 

 残る候補は、アソコだけか・・・・・・。

 

 

「へっへっへ、コイツは上玉だぜェ~」

「応よ! このガキを連れていけばボスからボーナスがたんまりだぜェ~」

 

『ヒェ~ッヘッヘッヘッヘ!!!!』

 

 

 

 ・・・・・・一瞬で釣れましたよ、スラム街のチョロいチンピラさん、略してチョロピラさんたちが二人も瞬殺で・・・・・・。

 ナノちゃんから『流石にチョロすぎませんか?』というツッコミにも反論する余地が見いだせなくて黙り込むしかない私・・・。

 

 その沈黙を自分たちに都合良く解釈したのか、私の体にチンピラの片割れが手を触れようとした、まさにその瞬間のこと。

 

「待て! その子に触れるな!!」

「お、お兄姉様!? 来てくれたのですね!!」

「オニって呼ぶのも辞めようって言ったよね!? って言うか昼間の君じゃん!?」

 

 女の子のピンチに颯爽と登場して、悪人面のチンピラたち相手に大立ち回りしてくれそうな格好いいイケメン騎士様再登場! もうこの際男とか女とかどうでも言い問題です! 格好いいとカワイイは正義!! これ全ての世界共通の常識♪

 

「テメェ! なにモンだぁッ!?」

「悪党に名乗る名前はない!!」

 

「はうァッ!?」

 

 思わず、状況をわきまえずに変な悲鳴を上げてしまった私・・・。

 し、しまった・・・興奮のあまり意識してた封印が・・・っ。ば、ばばバッドステータスが、呪い・・・が・・・っ!?

 

 前世で一度言ってみたかった“あのアニメの台詞”を言ってしまってもいい状況に陥ってしまったことにより、私に掛けられていた呪いは大幅に力を強め始めているのを自覚させられ、心は冷え切りバッドステータスによって汚染され尽くして黒く染まってヤバい状態になってきて・・・・・・私の意識と心が急速に眠りへと誘われていくのを感じさせられます・・・。

 

 ああ・・・これはヤバい・・・ヤバいです・・・。私が逃亡者にならざるを得なかった、あのイメージ悪すぎなバッドステータスの完全発動だけは我慢しない・・・・・・と・・・グ~~ZZZZ

 

「チッ! 誰なんだよコイツ一体・・・っ」

「構うこたぁねぇ! 殺っちま―――」

 

 

 

「――――これから死ぬヤツに名乗っても、意味がねぇなぁ・・・」

 

 

 

『あァン!?』

 

 

 悪党どもの背後から冷たい声が掛けられて、美形の女騎士が驚いたように見つめる前方で。

 

【生前にやらかした行為に相応しい言動を強制的に取されることで表面的な取り繕いを無意味にさせられてしまう刑】に処せられてしまったバッドステータスを常時付与されている少女の可憐な表情が不気味な笑みへと姿を変える。

 

 己の本性に相応しい者の言葉と言動でしか語ることを許されず、愛の言葉は憎しみを買いやすくなり、慰めの言葉は罵倒と解釈されやすくなってしまった嘘つき少女の落とされた生まれ変わりという名の地獄の体現。

 

 

「うふふ・・・フフフ・・・いるいる、命知らずの虫どもが・・・♪ ひい、ふう――二匹だけか。思ったよりは少ない数だが、まぁいいだろう・・・・・・くふふふ・・・フハハハハッ!!!」

 

 腰に帯びていた子供用サイズの剣を抜き放ちながら、狂気に満ちた嬉しそうな笑みを浮かべながら『殺さずに倒す』を前提にはしているけど、誰もそう思ってはくれないこと間違いなしなキャラクターを強制的にマネしてしまいまくりながら・・・っ!!

 

 

「な、なんなんだコイツ・・・っ!? 一体なんなんだ!?」

「ヤベぇよ・・・っ、なんかよく判んねぇけどとにかくヤベぇ!? い、一旦ボスに報告を・・・ッ!?」

 

 

「逃がさんよォッ! 【二階堂居竦み魔法・心の一方】発動!!」

 

『アガッ!? な、なんだ・・・? 体が・・・体が動かねぇ・・・!?』

 

「ウフフフ・・・♪ 逃げたらダメだなぁ・・・一度剣を抜いたら、どちらかが死ぬまで斬り合う。そうじゃないと愉しくないだろう・・・? ウフフフフ・・・ッ♡♡♡」

 

『ヒッ!? ひぃぃぃぃぃぃぃッ!!!???』

 

 

 単なる、自分よりもレベルが大分低い敵だけの動きを止めて逃亡阻止したいだけに使う魔法でさえも、禍々しい名前と呪文を持つ呪われた技へと変貌させられてしまっている今の彼女に碌な人間関係なんて作れやしない。まして誤解するななんて絶対に無理。

 

 その結果。

 必然的にこうなることしかできません・・・・・・

 

 

「待てッ!」

『あ、アンタはッ!?』

「悪党とはいえ無闇に人の命を奪っていいはずはない! まして愉悦のために人を殺すなんてどうかしている! 目を覚ますんだ! 世のため人のため、そして他の誰より君自身のためにも!!」

 

 

 正義の味方に加勢したけど、悪党よりも悪そうな言動とイメージのせいで悪者よりも悪く言われることしか出来なくなってしまう。

 それこそが彼女、『栗里海原』に掛けられてしまったバッドステータス『常時アンチ状態付与』が完全発動したときの効果。

 

 この後、怯えきった悪党共から尋問するまでもなく自主的に情報の全てを自白してくれたお陰で『演技だった』という言い訳が通じてくれることになるのだけれども。

 

 

 ・・・・・・果たして相手が、単純明快で考えるの苦手な女剣士のメイビスでなかったら、マールの冒険は無事に始まることが出来ていたのだろうか? ・・・それは誰にも分からない・・・。

 

 

 

「そして自分の犯してきた罪を償え――――ッ!!!」

 

 

 

 ・・・・・・やっぱ無理そうだしダメそうだった気がする。

 そんな感じで、能力値に常時バッドステータスが掛かってるチート転生者の女の子マールの冒険は、このようにして最初の出会いと事件の始まりの夜を迎えたのでありましたとさ。

 

 めだくなし、めでたくあってほし。

 

 

おわり。

 

 

 

オマケ【オリジナル主人公紹介】

 

「マールディア・フォン・アルカトラズ」

 今作の主人公で、原作におけるマイルの位置にいる女の子。

 栗原海里よりも年齢が幼く、精神的にも反抗期な世代だったためか、マイルよりも大分ひねくれて斜に構えた性格と価値観をしている。

 

 呪いのせいか色々と反転しており、「緑色の髪」「紫色の瞳」という怪しげな見た目をした女の子になってしまっており、人によっては不気味にしか思われない。

 

 特定のシチュエーションに近い状況になると、アニメや漫画の【悪役や冷徹なキャラの台詞】を喋りまくってしまうようになり、全ての発言が【悪そうなキャラの言い方やヤバそうな台詞】に置き換えられてしか発言することが出来なくなってしまい、言いたい気持ちを抑えることすら出来なくなってしまう。

 

 見た目は美少女だが、【しゃべり方やセリフ】のせいで人殺しか犯罪者にしか見られづらくなってしまっており、本当に人を殺すことはないけど、そう思ってもらえることはほとんどない。

 前世で犯した罪に対する罰則スキルのため、薄幸なのか何なのかは正直ビミョ~ではあるものの、本当に罪を犯せるほど肝の太さを持っては居ないタイプの子悪党なため、『言ってることだけ怖くてデカい中ボスぐらいの性格』をしている反面、能力的には平均値とかの要望を言ってないため(罰がなければソレで良かった)原作のマイルよりも大分高い。

 

 ・・・とは言え、全力を発揮するためにはステータスも全開にしなければいけないし、使用可能になるスキルも碌な名前と原典を持ってるものが存在しておらず、バッドステータスも抑えが効かなくなってしまうなど【社会的デメリット】が大きすぎる欠点を持つ。

 

 

 罪犯した主人公への懲罰ストーリーのため、法律(主に刑法)の単語が多く登場するのが特徴の作品で、主人公のセリフや地の文には犯罪者臭い言い回しが多く使われることになっていくのを想定している作品でっす。

 


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