試作品集   作:ひきがやもとまち

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迷走中です…。なので更新できやすかった作品だけでも深夜に書き終えましたので、一先ずは更新。また試行錯誤に戻って連載作の続き書けるよう頑張りまする。


他称魔王様、自称凡人さん。リスタート第12章

 高級宿屋ググレに連結した高級レストランでは今日も、礼服やドレス姿に身を包んだ紳士淑女たちが食事に舌鼓を打ちながら噂話に興じ合っていた。

 

 もともと交易の街にある高級宿屋に隣接したレストランというのは、そういう場所だ。

 本来なら大商会の会頭といえども、名を覚えてもらえる機会を得られにくい貴き身分にある者や外国政府の要人たちなどとも、他国の交易都市に数件だけある高級レストランではコネとパイプを手に入れられるチャンスがある。

 そういう経緯を持ったレストランに、新たな客として二人の少女たちがウェイターに案内されて入店してきた。

 

 ほう・・・と、誰ともなしに客たちは一斉に感嘆の吐息を静かに吐く。

 

「まぁ、なんて綺麗なプラチナとブロンドの輝きなのでしょう・・・」

 

 貴婦人の内の誰かが呟いた瞬間、それを聞いた他の客たちは言葉に出すことなく、心の中だけで一斉に首肯した。

 まさに、その通りだと客たちの誰もがそう思える程、二人の少女たちの色と美貌は互いを引き立たせ合う完璧なコントラストを描いた美しすぎるものだったからである。

 

 金色の少女は、短い髪にティアラを載せて純白のドレスに身を包んだ、目を奪うような可憐なお姫様。

 銀色の少女は、フードで隠しているのが惜しいほど繊細極まる長い髪を持ち、少年用の礼服を身に纏って金色の少女の手を引きながら優しくエスコートしている姿は、少女たちが憧れる絵物語の王子様そのもの。

 

 丁度、街の有力者たちの間では『突如として現れ最高級宿に宿泊して、大金貨を軽く支払っていく令嬢たち』の噂で持ちきりとなっていたことから、店内の話題は彼女たち一色に独占されることになるのは自然な成り行きだったのである。

 

『あの少女たちは、姉妹なのかしら?』

『そんな間柄ではないと思いますわよ? もっと深いところで繋がり合った精神的な姉妹のように感じられますもの・・・』

 

『なんでも、どこかの大地主のご令嬢と、その側近のご息女らしいな・・・』

『あの銀髪の少女など、金髪の少女が着せる服のために惜しげもなく大金貨を支払ったと聞いたぞ? よほど溺愛している間柄だということなのだろう・・・』

 

 嫌らしくない程度に二人の麗しい少女たちの姿に目をやりながら目の保養とし、美食に美色という二つの美を楽しみながら貴人たちのディナーは笑顔の内に進められていく。

 夜の帳が降りつつあるレストランの店内で客たちは、幻想的な美しさを持つ少女たちの姿に酔いしれながらの晩餐を心ゆくまで楽しんでいた・・・・・・。

 

 

 ―――だが、しかし。しかしである。

 現実とは常に過酷なものだ。人の夢と書いて『儚い』と読むものなのだ。

 彼の偉大なる作家、江戸川乱歩も【現世は夢、夜の夢こそ誠】という名言を残している程に。

 幻想的な美しさを持つ少女たちが、中身まで幻想的な綺麗さを内包しているとは限らない。

 

 特にこの二人組、金髪少女のアクちゃんと、銀髪少女のケンカ馬鹿エルフのナベ次郎の内心を表面無視して中身だけ具体的に描写した場合には、こうなります↓

 

 

 

(――美少女です! 美少女と高級レストランでディナーする私なのですよ!!

 美少女を夜の高級レストランに誘ってエスコートする、ラブコメ主人公の王道展開キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!―!!!)

 

 

 ・・・・・・割と本気で夢の全くない、見た目とは裏腹すぎる俗っぽい思考しかしていなかった・・・・・・。もしくは単なる大きなお友達の平均的なキモオタゲーマー思考でも可。

 

(この際、相手の実年齢は関係ありません! 18歳未満プレイ禁止のHなゲームに見た目小学生としか思えないヒロインが陵辱されまくってる展開なんて今時珍しくないですからね!

 重要なのは少女の頭文字に『美』が付くこと! 美少女であること! それが重要です! それだけが重要なのです! 男の子も女の子でも見た目が全てじゃないけど、ほぼ全て!

 それが『心が綺麗なら見た目は重要じゃない』とか言いながら美少女とハーレムしまくるラブコメ主人公たちには分かりたくないから分からんのですよ! 美少女たちからモテるために!!)

 

 しかも、色々と汚い上にサイテーな考え方を平然としてるし。綺麗なもの汚す気満々だし。本気で外見的な美しさなんて全然当てにならねー要素でしたな。コイツの場合は心の底からホントーに。

 

「・・・本当に、夢みたいです・・・」

「え? なんか言いましたアクさん? モグモグ」

 

 そんな中でポツリと、中身まで汚れなき純粋な美少女キャラであるアクちゃんが小さな声で呟いて、行儀良くない現代日本の男子高校生らしい中身の入ったナベ次郎が口の中に物入れながら問い返し。

 

「ありがとうございます・・・。ボクなんかのために、ここまでして下さって・・・」

「ああ、そのことですか。あまり気にしないで下さい、大した事したつもりはありませんから」

「・・・気に、しますよ・・・」

 

 食事の方に集中していたナベ次郎は、どうでも良さそうにテキトーな口調で答えを返したが、アクちゃんにとっては流すことの出来ない重要な部分だったらしく珍しく食い下がってきて強い視線で見つめ返してこられたために、流石のナベ次郎も姿勢を正してシリアス思考になれるよう居住まいを正す。

 

「どうして、こんなに良くしてくれるんですか・・・? あのまま朽ちていくことしか出来なかったはずのボクなんかにおいしい食事と綺麗なお洋服・・・まるでお姫様みたいな扱いを・・・」

「ふむ・・・」

 

 言われて少しだけど、真面目に考えてみることにしたナベ次郎。

 確かに今言われたとおり、自分は何故かアクに対してだけ救済を与えまくってきている気がする。

 勿論ナベ次郎個人の主観で見た場合には、あまり碌な事はして来れていない道程だったのも事実だ。

 

 襲ってきた化け物の頭蓋骨を握り潰して脳髄ぶちまけながら殺して、気に入らなかったとはいえアクの住んでた村の家屋を吹き飛ばして脅迫して金品差し出させて魔王を演じて、代金代わりにカッパロボット置いてきて在庫処理した。

 

 改めて考えたら酷いことばかりである。魔王どころか、ただのヤクザか犯罪者だ。チンピラとさえ言い切られても反論できる自信がないほどに。

 

 ・・・だが一方で、それが自分の主観でしかない事も『敵キャラ好きなナベ次郎の中の人』にはよく分かっていた。

 『自分が自覚している悪意と、相手が感じている悪意は無関係。人は聞きたいように聞いて、信じたい事だけ信じるもの』ストレガのキリストもどきさんもそう言ってたし。

 

 アクの視点から見れば、この世界基準では国滅びるレベルの強さ持った悪魔王に食われかかってた所を魔王倒して助けられ、下水処理係を押しつけられてた生まれ故郷の幼児虐待から強制介入して助け出してくれたようなもの。

 そして今も、貧乏農村で生きてる限りは一生食べられなかったであろう高級料理を奢りで食べさせてもらっている。・・・・・・彼女の主観では『良くしてもらいすぎている・・・』と過剰に恩を感じてしまっても不思議ではないほど恩恵ばかりを得ている立場ではあるのだ。

 

 しかし・・・・・・。

 

(とは言え、こういうのって基本的には全部が全部“成り行き”が原因で起こるものなんですよなぁ・・・・・・)

 

 心の中で声には出さず、そう呻く事しか出来ないナベ次郎。

 ラブコメでもバトル物でもなんだっていいのだが、ヒロインがピンチに陥ってるところを助け出して壮大な物語の幕が上がる始まりの現場に主人公が居合わせた理由って、多くの場合が『成り行き』であり、他は特別な血を引いてたとか、その事実知ってたヤツがお膳立てしただけだったとか。そういう黒幕の筋書き通りに踊らされてただけなのが一般的な立ち位置。

 

 ヒロイン主観では『運命の出会い』的なナニカとして解釈できて惚れてくれたりするわけだけども、最初から最後までの経緯考えると主人公主観ではいまいち誇る気になりづらい要素も多いのが正直なところだ。

 そこら辺、キチンと整合する事が出来てるラブコメやバトル物のハーレム主人公共はスゲぇなあと思いはすれども、自分に出来ない事出来るヤツだからこそのフィクション主人公というもの。

 

 要するに、自分じゃ無理。あんな綺麗にまとめれるコミュ力ねぇし、大事な場面でいきなり格好いいセリフ言って惚れてもらえるほどハイスペックさも生まれ持ってない。

 ラブコメ主人公とは、選ばれし者の子孫たちのみに与えられた特権的地位なのだ。一般庶民が望み求めてはいけない。人は生まれながらに不平等な存在なのだと言う事実を受け入れなさ~い。

 

「これだけの事をしてもらった恩を、どう返せばいいのか僕には分からないんです・・・」

「い、いやまぁ・・・恩って言うほど気にされるような事まではしてないつもりですし、そのあのえ~とぉ・・・」

「魔王様、教えて下さい・・・。どうしたら僕は、この恩を返しきれるんでしょう・・・? 何でも言って下さい! 僕に出来る事でしたらなんでもしますからッ」

「う、ぐ・・・ううぅ・・・・・・」

 

 なんか本当にエロゲヒロインみたいな言葉を言い出されてしまったナベ次郎タジタジ。

 基本的に『Yes.ロリコン。ノータッチ!』を信条とする正しきエロゲーマーとして、幼女は愛でるもので犯すものではないという信念を貫いてきたHENTAI紳士らしいゲーマー魂をも持ち合わせている彼女にとっては大変居心地の悪い状況下に置かれてしまい、いつもの魔王ロールで逃げれる相手ではない事もあってか異世界転移後初めての大ピンチをこんな時にこんな場所で追い詰められて体験させられていたおかしな自体になって困っていたのだが。

 

 

 ―――しかし。しかしである。

 救いの女神は、意外なところから意外な姿で彼女たちの前に降臨する事となる―――。

 

 

 ドカンッ!!!

 

 

 

『見つけたわよ! この魔王!!』

 

 

 

 店の扉を蹴破るような勢いで押し開き、突如として店の中に一人の少女が乱入してきた。

 それはピンク色の長い髪を持ち、フトモモの絶対領域だけを隠す事なく曝け出したエッチな修道服を身に纏い、金と銀の少女の片割れを糾弾し、そして―――

 

 

 

『シュコ――――――ッ!!!』

 

 

 

 と、大きく息を吐き出す音を店内に響かせてくる【変質者】が立っていた。

 聖なる衣を身に纏い、金色の魔力を全身から発散しまくりながら強襲してきて、失われた自分の金との絆をブンドリ返すため地獄からよみがえって復讐鬼となった存在。

 

 【ガスマスクをつけて顔を隠した変質者】だった。

 それ以外に形容しようのない、完全無欠のガスマスクをつけて『シュコー、シュコー』言ってる変態的な姿格好をした変質者だったのである。

 

『なぁに私のお金で食事してるの!? バカなの!? 死ぬの!? シュコー! シュコー!!」

 

 この国にとって最大の忌むべき名を叫んで周囲の客たちを驚かせながら、金と銀の少女たち二人の片割れを人差し指で指さして、糾弾するかの如き口調で弾劾する変質者。

 

 他の客たちも、

 

『魔王ですって!?』

 

 というフレーズには激しく反応したものの。

 

『・・・それって・・・逆なんじゃないかしら・・・?』

 

 と、小首をかしげて疑問符を頭上に浮かべる者の方が多い状況であり、糾弾者自身の説得力0すぎる姿ではいまいち混乱を来す理由には至らず。

 

 なんか変なヤツが勝手に入ってきてしまったけど・・・・・・衛兵呼んだ方がいいだろうか・・・? と常識的な対応をするかしないかを相談し始める程度に留まってしまうしかないのであった・・・。

 

「―――フッ」

 

 しかも、その状況下で魔王エルフが悪ノリしない訳がない性格だったことが事態を悪化させる要因になっていく。

 

「すみませんが、どこのどちら様だったでしょう?」

『あ! アンタ皮肉な丁寧口調で嫌味ったらしく逃げようとしてんじゃないわよシュコー! 私のお金返しなさいよシュコー! 元はといえばアンタが悪いんでしょうがシュコー!』

「何のことを仰っているのか、全く心当たりが思いつきませんね。変な言いがかりをつけて食事をたかろうとするのはやめて下さい。人のお金で無銭飲食しようだなんて図々しいにもほどがあります。恥を知りなさい、この俗物」

『こ、この魔王・・・ッ。言うに事欠いて、この私になんて言い草を・・・!! 忘れたとは言わせないわ! そのお金は私のよ! わ・た・し・の!!』

 

 平然と相手の立場が持つべき正しい正論糾弾を、ブーメランにして投げ返してからかうのに利用してくる当たり、この少女も相当に性格が悪く、魔王“らしくない”

 せいぜいが小悪魔かミニデーモン程度の中途半端な悪役ぶりだったが―――中途半端な悪だからこそ有効な措置とセリフというものも、この世の中には実在するものである。

 

「では――そのマスクを取って貴女がどこの誰なのか素性の証明をお願いいたします」

『うぐっ!?』

 

 その正当なる要求の言葉一言だけによって、仮面のガスマスク正義の聖女は視線をさまよわせ、あらぬ方向に顔を背けながら言い返すための別の言葉を必死で探し出すより他なくなってしまう羽目になり。

 

「フッフッフ・・・・・・どうしたのですかねぇ? このお金が“自分のものだ”と主張する側が素顔もさらせず名前も名乗れないというのでは、いくら何でもこのお金が貴女のものである事を証明する事なんて不可能だと思うのですけどな? クックック・・・・・・」

『ぐ・・・ぐぬぬぅぅぅッ!!!!!』

 

 歯がみする音をガスマスクの中から響かせながら、その直後に「シュコー!!」と盛大に酸素を吐き出す音も轟かせながら。

 ガスマスクを被ったまま、取り外したくても取り外す訳にはいかない事情を背負わされた聖女ルナ・エレガント様は、悔しそうに相手の言葉に言い負かされるよりほか道がない。

 

 

 

 彼女がこのような窮地に陥っている事情を理解するためには、時間軸を今日の昼の少し前まで巻き戻さなくてはならない。

 

 騎士団の一隊を率いて魔王エルフを襲撃し、アッサリと敗れ去って脅迫された騎士たちが大人しく素直に魔王の命令に従うことを選んで誰得な男共の脱衣シーンを晒しまくっていた、その直後。

 

 案の定、ルナ・エレガントただ一人だけは頑として魔王の要求を一切聞き入れることを由としなかった。

 

 

「わ、私は智天使さまに認められた聖女なのよ! 魔王の命令なんかには脅されたって絶対従ってやらないわ! どうしても言う事を聞かせたければ私を殺しなさい! さぁ早く!!」

 

 明らかに無理をしながらであったものの、それでも彼女のプライドから来る負けん気の強さは本物であり、たとえ怯えまくって殺されるのがイヤ過ぎようとも魔王の命令を受け入れる事だけは決してない。あり得ない。

 

『そうかね。ならば仕方がない。卿には特別に、他の者たちとは別のものを贈らせてもらうとしよう・・・』

『え。えぇっ!?』

『見栄も負けず嫌いも、そしてプライドも。尻尾の先を惜しんでいたのでは、全てを食らわんとする魔王を相手に生き残ることは難しい。まして厭世と物欲に生きる第六天よりきたりし魔王である私相手には言わずもがな。

 フッ・・・因果応報とはよく言ったものだ・・・』

『え、ちょ、な、何すんのよ!? やめて! やめなさ、ぎゃぁぁぁぁっ!?』

『なぜ叫ぶ? 戦を仕掛けてきたのは君たちだ。理解しがたい。全く以て理解しがたい。

 卿らは私の命を欲し、欲望のままに奪おうとし、そして敗れた。戦には死が付き物だが、君は私の温情により敗残の身で生き延びられようとしている。

 だが、負けて尚もなにも失わずに済ませたいなどと駄々をこねる幼子以下の言い分が通るものだなどという幻想を信じ込まれても困るのでね。世を知らぬ子供に対して大人の務めを果たしておくだけのこと。悪く思わないでくれたまえ』

『ぎゃ―――ッ!? やめてやめてやめて!! そ、そこは私の私の私のカ・・・・・・ぎゃあああああああああッッ!!!???』

 

 

 と、そういう展開があった後。

 

 

『なッ!? なによ、この落書きは――――――――ッ!?』

 

 

 聖なる存在のトップ姉妹の末っ子としてワガママ一杯に育ってこられた途中からの人生を全て穢されるような屈辱を味合わされるかの如く、鏡と一緒にネタアイテムのガスマスクも添えて置いてきてやった事から自分の悲惨な現状を自覚させられている今のルナに、現時点での自分の素顔を見せる事など死んでも出来ないし、こんな姿にされてしまった自分が“あのルナ・エレガントだ”なんて死んでも他人たちから思われたくはない。

 たとえ肉体的には死ななくても、心が死ぬ。傷つけられたプライドで確実に死んでしまうだろう。主な死因は恥死。

 

(く、悔しいッ! ――でも、今の私の顔を誰かに見られる事だけは絶対に出来ないわ! 何とかしてコイツから落書きを消す手段を手に入れるまでは絶対に私が私である事を他の者たちに知られる訳にはいかないんだからねぇッ!?)

 

 マスクの下で犬歯を剥き出しにして犬のように唸りまくっている聖女様。

 その顔には、【お尻ぷりんプリンセス】とか【お尻は許して魔王様♡】とか。尻ネタばかりの落書きが四つほど太字で記されていて、しかも“時間が経っても消えてくれない”というオマケ付きのイタズラがされてたりしたのである。

 

 これはナベ次郎が説明し忘れていただけだったのだが、落書きは彼女たちが王都に逃げ帰って、恥ずかしさから誰にも見つからずにコソコソと侵入するしかなくなるよう羞恥心で脅迫ネタに使う事を目的としたものだったため、落書きするのに使った道具も【ゴッターニ・サーガ】で一般的だったアイテムが使われており、【魔法の血文字ペン】というのがその名前だった。

 

 不吉そうな名前ではあるが、要はダイイングメッセージを死ぬ前に書き残しておけるというような代物であり、主に『復活させて下さい』とかの言葉を自分の死体の横に殺されてから書いておけるようにしてあっただけの・・・・・・まぁ、序盤で復活魔法使える僧侶が超稀少だった頃の名残アイテムみたいなものである。

 

 このため、書いてすぐに消える事はなく、一定時間は絶対に残り続けてくれるけど、一定時間が経つと跡形もなく完全に消え去ってしまって二度と復活する事はない。・・・そういうアイテムである。

 

 そのことを知らなかった異世界人の聖女ルナは、消えない落書きに慌てふためいて魔王を探し出して消させるためにも隠れ潜んでいた馬車から飛び出して元来た道を舞い戻り。

 そのことを伝え忘れていたナベ次郎は、今になっても思い出せてないから気楽に笑い飛ばしていると。そういう事情。・・・やっぱいつも通りコイツが主な原因じゃねぇかい・・・。

 

 

「やれやれ・・・いきなり乱入してきて自分は名乗ろうともせずに人を魔王呼ばわりした挙げ句、オマケに金寄こせとは・・・・・・品がないにもほどがある恐喝の仕方ですねぇ。エレガントさが足りてませんよ。

 事はすべてエレガントに運ぶべきです。エレガントに・・・ね。お分かりですか? マイフェアレ~ディ~♪」

『ぐ、ぐぬぬぬぅぅぅぅッ!!!! これ見よがしにコイツコイツコイツ、本当にムカつく嫌なヤツ―――ッ!!! コシュ~~~~~~ッッ!!!』

「あ、あの・・・魔王様そのぐらいでお手柔らかに・・・。ほ、他の人たちが見てますから・・・・・・聖女様の方を・・・(ボソッと)」

 

 

 相も変わらず、どこでもいつでも騒がしくしてしまう天性のお祭り気質エルフ幼女のバカ騒ぎによって場は混沌の渦へと落とされていく。

 結果として、騒ぎで店の評判が落ちるのを恐れた店員の一人が衛兵の詰め所へ行こうとするのをアクが見つけて必死に止めて、流石の聖女とエルフも矛を収めて食事に誘うという形で場を納め、事情も聞いた上でアイテム使って落書き消してあげて、宿代すら持たずに戻ってきたそうだから結局はググレの客室で一緒に止めてやる運びとなってしまい、【魔王と聖女が一つ屋根の下で一晩過ごす】という聖光国でやって大丈夫なのか心配になる事態に発展してしまう事にもなるのだが。

 

 

「では特別に、この部屋を一人で使わせてあげましょう。どうぞ自由に使って下さい。私とアクさんは大部屋でそろって雑魚寝しますので、あなただけ特別待遇です」

「当然よね! だって私は聖女なんだから特別扱いされるのが当たり前・・・・・・って、これトイレじゃないの!? 花も恥じらう乙女になんて場所で寝させるつもりなのよ! 偉い聖女様をこんな目に遭わせて絶対タダじゃ済まないんだからねぇッ!?」

「なに不自由ない、いい部屋じゃないですか。トイレにも水にも困らない、まさに金のない貧乏人には夢のような特別待遇です。

 イヤでしたなら、別にベランダで野宿させても私的には一向に構わないのですが・・・・・・どっちがお好みで?」

「うぐっ!? も、もともと私のお金で泊まってる部屋なんでしょう!? だったら私が泊まれるのは当然の権利じゃないの! アンタはただ私のお金を奪っていった盗賊に過ぎないんだからぁッ!!」

「はい、その通りです。それが何か問題でも?

 悪しき存在である魔王が、聖女を倒して大切にしているものを奪い取るのは、この国でも当たり前の事として語り継がれているのではなかったのですかね?

 てっきり、そういう存在だからこそ問答無用で倒してもいいのが魔王だーって理屈で襲いかかってきたものだとばかり思っていたのですが? 違いましたん?」

「うぐぅッ!? で、でもでもでも~~~~~ッ!!!!」

「・・・・・・一本取られちゃいましたね・・・また聖女様が」

 

 

 そんな状況になっても尚、コイツが絡んだ事件の内訳はこの程度のものにしかなれない、それが所詮はネタアバター魔王の限界点。

 

 第六天から来たりと自称して、赴くところ何処にでも震える哀と笑いをばらまきまくる邪悪なはずの魔王と、聖なる天使の加護を得ているはずの聖女様が過ごす初めての夜は、まだ始まったばかりであった・・・・・・ッ。

 

 

 

始まったばかりと言いながら、まだもう少しだけ続く! のじゃっ!!

 

 

 

 

オマケ【今作オリジナル面白アイテム解説】

 

『ガスマスク』

 「ゴッターニ・サーガ」に登場していた頭装備。実は単なる兜の一種でしかなかったりする。

 ペルソナとでもコラボしてたのか、最近だとガスマスク兜って結構多いよね♪

 他のゲームと同じく、序盤で手に入るから性能は低いけどグラフィックが面白いから取って置いたナベ次郎。

 でもゲームが現実になって、ゲームオーバーが現実の死に直結する(かもしれない)ですゲームになった(かもしれない)異世界に転移してきた後で弱い装備は邪魔なだけだから在庫処理して押しつけてしまった。

 ルナは黒歴史として捨ててしまうつもりだが、実は彼女がもともと被ってた修道服の帽子よりも兜としての性能は高かったりする。

 ただし、聖なる加護とか魔法防御プラス的な付加価値はない(当たり前だ!!)

 

 

【魔法の血文字ペン】

 「ゴッターニ・サーガ」でβテスト時から使われていた由緒正しい伝説的なアイテム。

 伝説的存在になってるだけあって、今では実用性0以下になってしまっている『あの頃は楽しかったアイテム』の1つ。

 配信開始の時点ではシステム面で色々と不備があったため用意されていたアイテムだったが、幾度かのアップデートの中で改善されて役立たずとなってしまった後には、遊び半分で使われるだけになってしまったパーティーグッズアイテムでもある。

 特に何の意味もなく、毒にも薬にもならないゴミアイテムだったけど、ゲームが現実になった後には使い道があるのかも知れない。

 ただし回数制限があって、一定数を超えた後にはインク補充アイテムが必要。

 果たして、この異世界にそれがあるかどうかは今のところ誰にも分かりようもない・・・・・・。


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