試作品集   作:ひきがやもとまち

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『魔王様、リトライ!』原作でオリジナル展開バージョンを考えてみました。
なんか原作だと聖光国ではなく北方諸国などの戦乱ばっかの国々がメインとなってきてたため、私のタイプ的には合ってるかなと思い一先ずは考えてみた次第。
先の話とかは考えてませんので、とりあえずのお試し用という感じで楽しんで頂けたら光栄です。…ただし胸糞展開ですが…。


別魔王様、もう一人の【悪の少女】を救うところからリトライ!

 深夜0時の鐘が鳴る。終わりを告げる鐘の音。

 

「じゃあな、九内。それと、おやすみ――」

 

 リアルの契約と現実のGMの手により、万感の思いと共にGAME世界に終了を告げるボタンが押されてベルが鳴る。

 

「じゃあね、九内伯斗。そして、《INFINITY GAME》。今までありがとう&お疲れ様。・・・できれば勝ってから終わってもらいたかったよ・・・」

 

 一つの世界が終わりを告げる0時のベルが鳴り響く時、もう一つの鐘の音はロスタイムを残したまま【魔王】と共に丸ごと消し去るボタンが押される。

 

 もう一人の【魔王】が哀惜の想いを胸に目を閉じた時、一つの光が二人を包み、次に二人が目を開いた時に映っていたのは、全く異なる二つの大森林“たち”

 

 神が見放し、天使が絶望した異世界と。

 神を見限り、悪魔に失望した“もう一つのGAME”が紛れ込む。

 

 0時のベルが鳴り響き、二つの世界が終わりを迎え、もう一つの物語が始まる音が鳴り響く―――

 

 

 

 目を開けると、そこは大森林の出口だった。

 ――森の先には開けた空間が広がっており、無数の檻に人間が押し込まれ、棺形をしたような魔物としか思えない生き物があちこちに鎮座して、中央には血でできているであろう真っ赤な血の池地獄まで誂えられている、素敵で不気味で反吐が湧く、反吐しか吐く気になれないクソッタレな光景が展開されていた森の出口付近・・・・・・。

 

「――ハッ。大馬鹿による弱い者虐めの展示場。小物っぷりが半端ないことで・・・」

 

 常人であれば絶叫を上げるか、気を失うか恐怖で身動きができなくなってしまう光景を、寝起き直後に見せつけられた彼女の反応は、だがその中のどれ一つとっても対局にしかないものばかり。

 

 自己満足、欺瞞、憐憫、的外れな嘲笑。

 ありとあらゆる下らない負の感情だけしか、この空間には見いだすことができず。

 それ以外の感情を感じてやる価値すら感じさせるものは一つもない。

 

 彼女の心は一気に冷め切り、“金と紫”の瞳は細く鋭く眇められ、“金色の長い髪”は風がなくとも死の気配を周囲へ発散し、“黒づくめの甲冑”は喪服のような不吉さを纏わせ始め、“腰に帯びた二本の剣”は血を与えられる悦びに打ち震えるようにカタカタと音を鳴らせ始める。

 

 もしこれが、自然豊かで人の心を穏やかにしてくれる、優しい光の降りしきる大森林の光景であったなら、彼女は普通の人間らしい心理状態になっていたのだろう。

 突然こんな場所に放り出された普通の現代日本人らしく慌てふためき、色々と試行錯誤しながら自分の元いた場所へ変える方法を試すなりなんなり、すべき事が多々思いついていたはずだった。それが普通だ。

 普通の人間のやるべきことで、普通の人間がやらなきゃいけないマトモな心と感情が落ち着きを取り戻すために踏まなければいけない手順というもの。――そのはずだった。

 

 だが、幸か不幸か彼女は元々“こういう光景”が大嫌いな人間だった。

 そして今の彼女の身体は“こういう行為”を許すことなく断罪した人間のものになっていた。

 

 彼女が“こういう光景”と“こういう行為”をしていいと許した場所は一つだけで、許した相手も一人だけだ。

 彼がやっている会場内の出来事だったなら拍手喝采を送る光景だろうとも、それ以外の奴らがやっている行為だった場合には処刑以外に対処を知らない。する必要を認めない。・・・そういう体と心の持ち主に今の彼女はなっている。

 相乗効果で景色以上に真っ赤な色に染め尽くされていく中。

 

 そんなときに、視界の外側から声が聞こえてきた。

 もしくは、怒鳴り声と悲鳴と言い換えてもいい二人分の話声が。

 

「――ったく! 相変わらず使えねぇなぁ、てめぇは! 俺が葉巻を咥えたら2秒以内に火を付けろと教えただろうが! もう忘れっちまったのか、このスカスカの頭はよぉ!」

「ぐっ・・・ぅ・・・! も、申し訳ありません、ヘンゼルさ、ま・・・・・・ぐへはっ!?」

 

 汚いものでも見下すような声だけでも醜いと判る男の罵声と、おそらく腹部を踏みつけられたのだろう吐瀉物を吐き出す音を語尾に付け加えさせられていた幼い少女の苦痛に満ちたうめき声。

 

「ゲッハッハッ! それでいいんだよ、てめぇのようなゴミは一生そうやって嬲られながら無様に泣き叫んでりゃいいんだ! ゴミクズの立場を思い出しやがれ! ・・・って、あぁん?」

 

 対処について決定をくだし、歩いて行こうとしていたときに相手の方から近づいてきてくれる気配がしたため、黙って大人しく待っていてやったところへ天幕の一つから加害者らしき男が出てきて彼女を見つけ。

 不審げに、そして不快げに苛立たしげに八の字に生やした髭を、不機嫌そうに「ヒクッ」とヒクつかせる芸を示す。

 

「・・・あ・・・ぐ、へ・・・・・・あぁ・・・?」

 

 主に、もしくは“飼い主”には身体が辛く苦しいときでも必ず付いてくるよう躾けられてでもいるのか、天幕から男を追って少女も出てきて、腹を押さえながら彼女を見上げ、痛みに顔を歪めながらも一瞬だけ驚きの方が勝ったかのように表情が変わる。

 

 貴婦人のようなドレスに身を包んでいる綺麗な身なりをした少女で、幼さに似合わぬ美貌は一国の姫君と言われても遜色ないほど華やかで、かつ嫋やかなもの。

 

 だが今はそれが歪められている。屈辱と絶望で本来の気質を歪められ、自分以外のナニカにならなければ生きていけない環境下におかれたことで順応させられて生き抜いてきた強さとしたたかさ―――そして憎しみと恐怖と他の何より罪悪感が色濃くこびり付かされすぎている。

 

「なんだオイ? なんで人間が牢を勝手に出てきちまってやがるんだ? 管理役の小鬼はなにしてやがった! 役立たずの無駄飯食らいどもが!!」

 

 髭を生やした小男の不細工が何やら叫んでいるセリフを聞く限りでは、少女が背負わされた陰の一端は、このゲスに植え付けられてしまったものらしい。

 ・・・尤も、コイツだけではないのだろう。この手の小物は誰かの庇護のもとでしか他者に対して絶対的な強者の態度を取ることはできないものだ。

 群れたがるのだ。弱い者たちは強い者の元に集い、その強者の権威を笠に着て自分の強さであるかのように知らしめながら、『強者に守ってもらえている特権』を誇示したがる。

 

「おいっ! テメェ! 聞こえねぇのかテメェに言ってやってんだよバカ! お前一帯どこの牢から勝手に抜け出してきやがった!? さっさと答えろ! このウスノロ! 虫ケラにはそんな知能もねぇのか!? あぁん!?」

「うるさい。腕を二本切り落とされたくなければ黙れザコ男」

「・・・・・・あぁん・・・?」

 

 今まで黙り込んだまま自分の言葉を聞き流していた生意気な人間から、初めて聞かされた言葉の内容に思わずヘンゼルは耳を疑い目を見張る。

 次いで、“人間ごとき”が“この自分”に対して何を言ってきたのか確認するかの如く、ゆっくりと噛んで含むように、人間程度の知能でも聞き間違えることができないような言い方を“使ってやって”罰を与える前に問いただしておいてやろうとする。

 

 ――否、問いただしてやろうと“していた”が正しい表現かもしれない。

 

「・・・おい、テメェ。俺の聞き違いだとは思うんだが、今お前なんつった? この俺に向かってまさか黙れとかどうとか生意気な口を叩―――」

 

 彼自身の自主的な判断と行動によって、問いただすために放たれた詰問の言葉は最後まで言い切ろうとはせず、途中で別の言い方に変えることによって悪意的表現を和らげてくれたからである。

 

 ・・・・・・両腕を失った肩の付け根から吹き出す血の噴水と、痛みと苦しみにのたうち回る絶叫という、『強者に虐げられた弱者の悲鳴』に変貌することを自らの判断で選び、実行したのが彼だったから・・・・・・。

 

「うるさい黙れ、悲鳴も上げるな。次になにか一言でも声を出した時には両足を切り離す。何か言いたい時には足を失う覚悟をしてから声を出せ。命令だ」

 

 冷たい声音で、自らの血で形作った血の池の中を泳ぎ回っていたヘンゼルとかいうらしい小男を一瞥すらしようともせず、腹を押さえたまま蹲っていた少女の元へと歩み寄り、「大丈夫か?」と声を掛ける。

 

「は、はい・・・。あ、ありがとうございます・・・・・・」

 

 そう答えを返しながら少女は上目遣いに相手を見上げ、その顔を見た途端に恥ずかしそうに俯いて、はにかんだように頬を染める。

 思わず頬を緩めてしまうほど、“計算され尽くされた”あざとい可愛さと哀れみのアピールには自分の方が薄汚い中身を恥じ入りそうになってしまう程のもの。

 

 だからこそ少々――気にはなる。

 そっと、耳元に顔を近づけ唇を寄せ、

 

「・・・・・・なにか頼みたいことがあるなら正直に頼んでくるといい。子供に計算は必要ない」

「・・・・・・!?」

 

 驚いたように、狡猾さと聡明さの入り交じった大人びた驚愕の『素の表情』を浮かべてしまった少女に一つ笑いかけると背を向けて、【他の処理】に向かおうとする金髪の少女。

 

 そこに再び――待ったの声が掛けられる。

 

「が、ぁ・・・・・・て、てめぇ・・・・・・何をしたか、わかっ・・・ってんのか・・・・・・? じき、あの串刺し公がここにく―――」

「そうか」

 

 それが最後の制止の声だった。

 声に続いたのは、一体いつの間に移動してきたのか瞬間移動としか思えない距離を一瞬にして詰めて血の池地獄に閉じ込められた囚人の傍らに立っていた黒づくめの剣士から振り下ろされた黒剣の刃の風切り音と、轟く悲鳴と迸る鮮血と、二本の“足という名の部位だった物”が宙を舞う「ぽ~ん」という間の抜けた効果音の幻聴のみ。

 

「私はこの場にいる、コイツらの同類を一匹残らず処刑してこなければならない。君は危ないから、この場に残っているといいだろう。子供が見て楽しいと思える行為をやる予定もないことだし」

「は、はい・・・」

「今まで多くの人間たちの拷問を見物してきた場所のようだが・・・・・・はたして加害者自身は、どこまで拷問に耐えられる精神を持っているのやら。

 興味深い実験結果を出してくれると少しは楽しめるのだが、陰鬱な仕事は気が重くなるから嫌なものでもある。とは言え、生かしておいてやるよりはマシだから皆殺すぐらいはしておかねばいけないし・・・・・・やれやれ全く、クズというのは本当に面倒くさい生き物だ。そうは思わないか? 君も」

「は、はい。私もそう思います、騎士様・・・」

 

 少女は思わず、コイツを見つけた瞬間から予定していた名乗りも忘れて、相手の言葉に有無を言わさず、ただ従うことを当然のことのように由とする気持ちになっていた。

 今までであれば力と恐怖で無理矢理押さえ込められ、従わされていた死と恐怖による圧倒的な支配だが、不思議とこの相手の命令と恐怖政治に従わされることは嫌いではなかった。

 

 どこか安心感があった。強者に従い、守られているのだという弱者故の安堵感。

 それは決して勇気と呼べるものではなく、自分の意思で自分の人生を切り開いてゆこうとする者の強き心とも全く違うものではあったが。

 それでも・・・否、だからこそ彼女は言おうとして止まってしまった言葉を言いたくなってしまい、聞いてほしい衝動に駆られて声を上げる。

 

「あ、あの!」

「ん?」

 

 ヘンゼルに蹴り飛ばされたとき汚れの付いていたスカートの端を掴み、恭しく一礼したことで先ほど痛めた腹の苦痛がブリ返してきて歪みそうになった表情を必死に取り繕いながら。

 

「悪魔よりお救い頂き、感謝致します。私はパルマ王の第一子、パルマ・レアチーズ・ラ・トゥール・ドーウェル・ショートケーキと申します。以後、お見知りおき・・・・・・をぐほっ」

 

 

 本来であれば、実に典雅で気品を感じさせる王女様による、見目麗しい出会いのシーンを演出する予定であったにも関わらず、実際に見せることができたのは苦痛に歪みそうになる表情を無理やりの笑顔を形作らせようとして完璧には上手くいかず、中途半端で歪に強張った笑みを浮かべる精一杯のお姫様。

 元々は舞踏会に着ていったとしても恥ずかしくはないであろう綺麗なドレスも、今は泥で汚れた部分が没落した印象を際立たせ、【綺麗だったものが穢されながら】それでもなお【綺麗さを取り戻そうとする執念】を感じさせる亡国の王女よりも【祖国奪還の女英雄】やらの方が相応しそうに見える、そんな印象を抱かせる少女との最初の出会い。

 

「な、長くて覚えづら・・・ケホッ!? ・・・ですよね? 私のことは良ければケーキとお呼び下さ―――ごほげほグヘハッ!?」

 

 最後の最後までパッとしない「なんだかな~」とでも付け足されそうな性格と出会い方をした少女に、なんとなく縁みたいなものを感じ取り。

 自分もまた、黒甲冑を鳴らしながら振り向くと、相手の少女に見えるよう剣を抜いて誓いを立てて見せてあげる。

 

 

「私の名は黒騎士セシルという。・・・おろらくだがな? 

 今からこの場所を、其奴らの拷問場所と処刑場に一変させた女の名としてのみ覚えておいてもらえたら光栄だ」

 

 

 血生臭い宣言を返して、相手を鼻白ませた後、黒騎士セシルと名乗り上げた彼女は背を向けて他の騒ぎ声が聞こえてくる場所へと向かおうとし。

 

「ああ、そうだった。私としたことが忘れていた」

 

 と、なにかを思い出したかのようにケーキに向かって振り返ると。

 

「それ」

「・・・・・・はい?」

「君にやろう。好きにしてしまって構わんぞ」

 

 言い切られ、ケーキは相手の視線にあるモノを見ようと首を回し。

 血の池地獄にのたうち回り、口を押さえる手を失った身体で涙ぐみながらも、黒騎士の命令を死守することで殺されることなく生きながらえようとしていた【憎らしい小男ヘンゼル】の瞳と目が合った。

 

 ケーキの瞳に自分が映り込んだことに気づいたヘンゼルは無言のまま、全身全霊でかぶりを振って、【支配者に許された権利と自由の中で】自分にできる精一杯の意思表示方法によりケーキに意思を伝えようと視力を振り絞り・・・・・・嘆願する。

 

 

 ――死にたくないんです、助けて下さい・・・お願いだから殺さないで・・・・・・ッ!?

 

 

「心配しなくても、邪魔な助けは入らない。どうせ自分が助かるために必死な連中ばかりだろうからな」

 

 くつくつと嗤いながら去って行く黒騎士の背中を見送って、その背中が見えなくなるまで深々と頭を下げ続けたケーキが残るその場所には、彼女の他に残っているのは一人だけ。

 おびえながらも痛みを堪え悲鳴を上げて処刑されないよう我慢し続けてきたヘンゼルただ一人だけとなり、

 

「へっへ・・・・・・フヘヘ・・・・・・」

 

 この場における自分以外の弱者が、手足を失って抵抗することも逃げることもできなくなった憎くて憎くて仕方が無かったクソ野郎だけの場所となった状況の中で。

 

「ヒャーッハッハッハ! ざまぁみろ、このどぐされ外道の芋虫ヤロウが! アタイはなぁ、ずっとこんな機会を待ってたんだよ! てめぇのご自慢のナイフを、そのドタマに突き刺す日をなぁぁ!!!」

「ヒィィッ!? や、やめろ・・・やめてくれ! 俺はもう動くこともできないんだぞ!? ここまでの身体にされちまったんだから、もういいだろう!? な? な!? 許してくれよぉ!? 俺はもう十分すぎるほど罰を受けたじゃねぇかよぉ!!」

「うるせぇぇぇぇ!! しゃべんじゃねぇぇぇ!! この芋虫ヤロウめがぁぁぁッ!!!」

「グヘぇぇぇッ!?」

 

 相手の近くに落ちていた、ヘンゼルご自慢の悪趣味なナイフを握り混むと、ケーキはまず動けない相手の腹にナイフを突き刺し、先ほどの礼をしてやってから、今まで味あわされてきた分の礼を一つ一つ思い出しながら相手にも同じ思いをさせていってやる!

 

「ぐべあッ!? ぐべぇッ!? ガヘッ!? フベェッ!? や、やめ・・・本当にやめ・・・じ、じんじゃう・・・・・・俺、死んじゃう゛う゛う゛う゛う゛ッ!?」

「ヒャーッハッハ! 死ぬんだったら死ねよクソが! 殺してやるつってんだろうがよ! 聞こえねぇのかこの糞ボケが! テメェの知能はその程度か! 脳にまでクソ詰め込んでんじゃねぇのか!? おぉ!? だったら今バラバラにしてやっから安心しなよぉぉ・・・・・・もっとも、一番最後にだけどなァァァッ!?」

「ヒギィィィやぁぁぁッ!?」

 

 グサッ! グサッ! ザクザクザクザク!!! ブスブスブス!! ズババババ!!!

 

「や、やべで・・・、ほんどにやべでくだ、じゃいケーキじゃ、ま・・・・・・」

「あぁん? 死にたくねぇのか? 殺されたくねぇのか? だったら助けてやろうって気になれるぐらいの命乞いをして見せろよヘンゼル様よぅ!!

 忘れたのか? 今のお前の命は、私に与えてもらっているんだぜ・・・?」

 

 相手の言葉にヘンゼルの瞳に生殖が輝く。

 あの血も涙もない冷血感な黒騎士は、確かにケーキに向かって自分を『やる』と言っていた。

 人間の分際で不遜極まりない態度は、いつか絶対に幾万倍にもして思い知らせてやるとしても、取りあえず今は生き延びることが先決だ。

 この腹黒いだけしか取り柄のないケーキさえ、おべっか使って騙して生き延びられさえすれば自分の最終的な勝利は揺るがない。

 何故なら自分には、あの恐ろしくも強すぎる絶対的な死の存在『串刺し公』が黒幕として庇護してくれている存在なのだから・・・・・・!

 

「―――なんてなぁ」

「・・・・・・は? 今なんて――」

 

 一瞬ケーキが何か言ってきていたのを聞き逃してしまい、確認のために問い返したヘンゼルの視界に、ケーキはどアップで映り込んでビックリさせてやると。

 

「ウ・ソ☆ 誰がお前を生き延びさせてやるような情けなんて掛けてやるもんかよ! お前はここで死ぬんだ! 絶対になァァァァァ!!! ヒャーッハハハハハッ!!!」

 

 自分に馬乗りになったまま、狂ったように高笑いを続けるケーキの姿を呆然として見上げ続けながら、徐々に自分がからかわれていただけだったことに遅まきながら気づいてきたヘンゼルの顔が怒気と興奮と憎しみによって真っ赤に膨れ上がって憎しみの炎を目に宿し。

 

「て、テメエェ・・・・・・人間ごときの分際でェェェェ―――ッ!!!!」

 

 人間ごときが、ケーキごときが、この自分を、魔族を侮辱してからかって玩具にした・・・。許せない許せない許せない、絶対に許すことなんかできる訳がない!

 もうこうなったら知ったことか! 自分の死が確定したというなら、最後に好きなだけ罵倒しまくってから死んでやる! 殺されてやる! 殺される前に自分の言葉であらん限りの罵声をぶつけて、お高くとまったプライドだけは高い夢見がちなお姫様のメンツと沽券を気にする心をズタズタに引き裂いてやってから、そして!! ―――殺されて死んでやる! 怒り狂ったケーキの刃をトドメの一撃として浴びながらなァッ!!!

 

「テメェの国―――――」

 

 

 ブスリ。

 

 

「遅ぇだろ。その答えに至るのがよぉ―――」

 

 

 強者に媚びることでしか生き残れなかった弱者同士、相手の思考は手に取るように判る。

 それはケーキの思考が相手にとって見え透いた『腹黒いだけのガキ』でしかなかったのと同じように、ヘンゼルの思考もまたケーキにとって『小知恵が回る小物』に過ぎなかったのと同じように。

 

 今まで二人に差を作っていたのは、両者が身を置いている立場だけ。

 所属する勢力と主の強さだけが、ヘンゼルとケーキとの間に絶対的な差を設け続けて、ケーキが勝つことができたのは勝率一割未満に抑えていた理由の全て。

 

 その事実に、強い者の権威を着て威張り散らせなかったケーキは気づいていたが、権威によって後ろ盾を得ていたおかげで弱者を嬲り続けてきたヘンゼルには理解できていなかった。

 自分一人では何もできない小物に過ぎないのだという現実を、彼は受け入れることができていなかったのだ。だから最後の最後にケーキと自分の一騎打ちで一方的に弄ばれて打ちのめされてしまう結果となったのだ。ただそれだけのことでしかない。

 

 

「串刺し公が来なけりゃなんもできねぇザコだって言うんなら・・・・・・来るまで黙っとけよ。

 変なプライドで言い負かされる嫌いやがって、能なしのアホタレが」

 

 

 最後に侮蔑の言葉と唾を吐きかけ、ケーキはその場を離れて天幕へと向かい、金目のものを奪いに行く。

 自分を救ってくれた黒騎士様と旅に出るために。超強い黒騎士サマを利用して、失ってしまった祖国をなんとしてでも取り戻してもらうために、何をしてでもやる覚悟で旅立ちの決意を固めていく。

 

 

 黒騎士が去り、ケーキも去って行った場所に残っているのは、血で作られた真っ赤な池と。

 そこに浮かんだままピクリとも動かなくなった後の・・・・・・口からナイフを生やした奇妙な魔族の死体、ただ一つだけが悲鳴と怒号と断末魔と、そして各所から聞こえてくる命乞いの叫び声を聞き続ける証人として残り続け。

 

 やがて、その声も聞こえなくなり、同族の死体の山だけが残された光景を串刺し公は目にすることとなる。

 

 彼がそのとき何を思ったか? ―――そんなものは加害者側が気にしてやる義理はどこにもないので、どうでもいい。

 

つづく

 

 

【今作オリジナル設定の解説】

 

『黒騎士セシル』

 今作の主人公で、別作『別魔王様、別スタート地点からリスタート!』の主人公そのままの人物を流用したもの。運営していたネットゲームが【BLACK NIGHT】なのも変わっていない。

 ただし今作バージョンだと、九内白斗も聖光国に来ているため、彼女の方は北方諸国や魔族領、獣人国などで自分流を貫いて生きる道を選びオリジナル展開を想定されている。

 それ以外の部分では大部分が元のままで、原作とは異なるオリジナル展開に伴いディテールをいじって調整する程度の変化しかない・・・・・・多分だけれども。(まだまだ考え中)

 ある意味では判官贔屓な性格と価値観の持ち主で、

 『ケンカ売るなら強い方が殺し合い甲斐がある』『弱い者イジメを楽しむよりも、弱い者イジメをして楽しむ奴らを虐めてた方が面白い』『殺すときには殺される覚悟は当然しておくべきもの』

 ・・・・・・等々、妙に漢らしいが社会不適合者な価値観や考え方を多く持っている【我道を征く主人公】

 正義や正しさを尊んではいるものの、全てが全て【自己流解釈に基づく正しさと正義】でしかなく、他人からの賛成や理解は一切いらないタイプの美少女黒騎士。

 好みが超別れやすくて、合わない人にはムカつくだけなタイプの主人公です。

 

 

 

『ケーキ』

 原作4巻から登場していた亡国のお姫様で、今作におけるヒロイン。

 もう一人の【悪(アク)の美幼女】

 父親が敵軍師のバラまいた噂を信じてしまい英雄を遠ざけたことから国が征服され、そのドサクサの中で魔族領に囚われて生き地獄を味あわされ続けてきた薄幸の美少女。

 元々は蝶よ花よと愛でられながら生まれ育った深窓の姫君だったそうだが、魔族領では悪人にならなければ生きてはいけず、悪に染まろうとするものの悪になりきることもできずに微妙な立ち位置で生を繋いできた。

 今作では原作とは異なる魔王様に助けられてしまったが、それが誰にとっての救いであるかは現時点だと定かではない。


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