試作品集   作:ひきがやもとまち

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早起きしたので明け方頃から書いていたら途中で大幅書き直しになってしまって電池残量と体力的にレストランのところまで書けなかった次第。
次こそはルナ乱入のシーンまで書きたいと思っているんですけどね……予定外すぎる事態って本当に厄介でしたわ…。


他称魔王様、自称凡人さん。リスタート第11章

 他称魔王で自称凡人の、ノリで魔王を自称することもある脳筋エルフが『悪』の字を(カタカナだと)持つ幼子を連れて夜の高級レストランへと向かい、地獄から蘇った復讐鬼が魔王を倒して大切なものを取り戻すため(間違ってはいない)彼女たちの後を追って町へと入っていった丁度その頃。

 

 

 ・・・・・・ヤホーの町へと向かう謎の軍団が、“三つ”あった。

 

 

『ヒャッハー!!』

『ヒーハーッ!!』

 

 その中でも一番の規模と武装を誇る勢力は、一つの巨大な建造物を中心において108騎の騎馬兵たちで円陣を組みながら街へと向かって街道を爆走していた。

 それは10頭もの馬に牽かれて巨大な車輪がいくつもついた巨大な移動式玉座であり、その周囲を囲んで奇声を叫びげながら付き従うモヒカン頭やスキンヘッドをした騎馬兵達の武装集団であった。

 

 知らない者が見れば山賊にしか見えないだろうし、核戦争後の救世主伝説を知っている者なら『愛などいらぬ!』と叫ぶ覇王の軍勢と勘違いされても可笑しくはない姿格好をした彼らは、だが悪党などでは全くない。

 むしろその真逆に、聖なる存在の長によって率いられた聖堂騎士団。その最精鋭が彼らだったからである。

 

「姉御、もう少しでヤホーの街へ着きます!」

 

 玉座を囲んで街道を行く騎馬の一騎が隊列を離れて、自分たち全員のヘッド・・・もとい、指揮官に対して報告をもたらす。

 

 【マウント・フジ】という名を持つ大きな岩としか思えない大男であり、モヒカンの髪型と上半身裸で下半身にだけズボンと獣皮を履いた姿は山賊にしか見えないが、主に話しかける喋り方からは敬愛しか見いだすことはできず、悪党故の礼儀知らずな権威嫌いの空気は一切感じさせるものはない。

 元は近隣を荒らし回っていた山賊だった男だが、今の主に何度も叩きのめされ改心した後、立派に聖堂騎士団で聖女様の参謀を務めるまでに大成した漢である。

 

「このままの速度で進めば、おそらく明日の昼頃には到着できるかと!」

「よし。あのクソガキを見つけ次第、首に縄を付けて連れ帰るぞ」

 

 フジからの報告を巨大な椅子の上で聞いて、一人の少女がワインを傾けながら指示を返事として下知をくだす。

 

 長いストレートの金髪に、戦闘で鍛えられた身体は細く引き締まった美しい少女だ。

 修道服に入った大きなスリットから覗く艶めかしい足を玉座の上で高々と組み、瞳の色は髪と同じ金色で眼光鋭く、修道服の帽子に当たる部分は後ろへ跳ね飛ばして被ることはほとんどない。

 見た目は、規律の厳しい神学校に嫌気が差してグレて、不良グループにでも入った少女にしか見えない彼女だが、その身にまとう天使からの祝福は常人とは比較にならない。

 

 不良(っぽい)少女の名は、【キラー・クイーン】

 

 聖光国を統べる三聖女姉妹の次女であり、ルナとは血を別けていないが姉と妹の関係にある17歳で、1歳だけ年上の女の子。

 

「あの“クソ”が・・・・・・手間かけさせやがって」

「魔王を討伐しようなど、雄々しいことじゃありませんか。さすがは姉御の妹君であると、周りも感心しておりますよ」

「このダボが。あのクソは目立ちたいだけなんだよ。だいたい魔王なんざいるか、阿呆が」

 

 ただし、妹と同じく姉妹そろって口は悪い。

 いや、彼女の場合は口ではなく“ガラが悪い”と表現した方が正しいのかも知れない。

 ナイフのように尖った態度で、誰にでも食ってかかりそうな目つきで睨み付けながらでしか他人と話すことが出来ず、ギザギザハートをマドンナたちの子守歌で癒やされたがっているような、そんな印象が見た感じからして受けなくもない。

 

 要するに、現代基準でいうところの【時代錯誤なヤンキー少女】であり、70年代とかの世代にはピッタシ当てはまりそうな歌が多い雰囲気を持つ女の子。

 もし異世界チキュウの人間が見たら古くさいと思うかも知れないが、逆にこの現地世界では最先端過ぎるファッションに誰もついて来れていないだけもしれない異形の存在。

 

 だって、中世ヨーロッパ風のファンタジー異世界だし。1970年代は中世から見れば遙か遠い未来の出来事だし。知るはずないじゃん、そんな中世基準でのSFファッションセンスなんて。ジュール・ベルヌの登場する19世紀をまずは待ちたい異世界の時代背景。

 

「ですが! 悪魔王グレオールが殺されたという話もあります!」

「フンッ! 脳筋め。・・・・・・姉貴の奴、よくも俺に情報を閉ざしやがったな・・・」

 

 大男の参謀の言葉に、クイーンは顔を歪めながら悪態だけを返し。・・・その後に続く言葉は部下に聞こえぬよう小声でつぶやき捨てるよう彼女なりに最大限の配慮を“姉のためにも”行ってやった。

 

 実のところ、彼女たち聖女三姉妹が復活した悪魔王を相手にするためバラバラに動いて討伐に向かってしまったことには理由がある。

 その原因は誰あろう、聖女三姉妹のトップである【エンジェル・ホワイト】が妹たちへの配慮した結果として空回りしてしまったことが原因となって起きてしまったものである。

 彼女が悪魔王グレオール復活という一大事を、暴走癖のある次女に届かぬよう裏から手を回して細工をし、腹芸に弱いクイーンが気づくのが遅れたまでは良かったが、その細工に気を取られる隙に次女より弱い末っ子聖女が勝手に城を抜け出して一人で魔王討伐に向かってしまっていたのだから本末転倒も良いところであっただろう。

 

 三聖女の長女で聖光国のトップでもあるエンジェル・ホワイトには、そういう所があった。

 『全員を満足させよう』として『全員に不満を抱かせる結果』を齎してしまうという悪癖である。

 それはクイーン率いる、山賊のような神殿騎士団たちの行動にも表れている部分であっただろう。

 彼女たちは、悪を見れば『見敵必殺』を旨として、相手が悪党であるなら権力者であろうと、どんな悪党だろうと容赦することなく、彼らが通った後には草木一本残らない。

 

 分かりやすい正義であり、暴力―――そして、純然たる正しい正義の執行である。

 何故ならクイーン達が殺した悪党達は『殺していい悪党』しか殺してきたことがないからだ。

 

 分かりやすいところだと、フジである。

 彼も元は山賊であり、手の付けられない悪党だったが、クイーンに何度もぶちのめされてから改心して聖堂騎士団になっている。

 

『悪なのに殺されていない、今では正義の側に回っている元山賊の男』

 

 ・・・この一点を持って、聖女キラー・クイーン達の行動方針は分かろうというものだろう。

 彼女たちは『殺されて当然の罪を犯した悪人たち』しか殺していない。

 と言うか、殺されるほどの罪を犯してもいない軽犯罪の罪人まで殺しまくっていたら、聖女姉妹のトップとして流石にエンジェル・ホワイトだって止めざるを得なくなってるだろう普通に考えて。

 本来だったら死刑になってるだけの犯罪を犯しておきながら、政府の都合で刑の執行できないから放置しているだけの大罪人たちを、最高権力者の一員が殺して回って法律的になんの問題があるだろう? あると言うなら法廷でも何でも訴え出て聖女姉妹の長女に公平な裁きをお願いすれば良いだけのこと。

 

 要するに彼女たちは、聖光国のトップが政治的事情でできてないことを代行して妹がやっているだけであり、その権限は法律的にも保証されているということ。

 そりゃ正義だろう、普通に考えて。国のトップが国内で放置されてる重犯罪者殺して回ってるだけなんだから。これを、おかしいと思う方がおかしい。

 

「フジ、おめぇは信じてんのかよ――魔王とやらを」

 

 ボソリとした声で聞いてきたクイーンの言葉に、マウント・フジは驚いたように目を開く。

 彼女は普段、人を呼ぶ時にはたいてい「クソ」やら「ダボ」等の悪態だけで呼び、名前で呼ぶことなど滅多にない。

 それだけ真面目な問い掛けであるのだろうと察して、フジは顔に似合わず生真面目そうな口調で報答する。

 

「私に意見などありません。姉御が信じるものが、私の信じるものです」

「ダボが、頭にまで筋肉が詰まってんのか? この蛆野郎が」

 

 いつも通りの罵声で返されながらも、フジは嬉しそうに笑うだけで不快さを一切見せることはない。それは周囲にいる他の騎士たちも同様である。羨ましそうにフジを見るだけで中には激しく嫉妬する者までいる始末。

 

 クイーンからの罵声は、彼らにとって何よりのご褒美なのだった。

 そしてだからこそ―――この手の相談事では、まるで役に立ってくれることはない。

 

(ッたく・・・何のつもりだよ、姉貴の奴。

 俺がグレオール負けると思ってたってことかよ、クソッタレが・・・っ)

 

 心の中で今回の細工を施した相手を思い浮かべて舌打ちしながら・・・・・・それでも同時に『相手の判断はおそらく正しかったのだろう』と思ってしまう、自分の戦闘センスの良さに、こういう時だけは舌打ちしたい思いに駆られる三聖女の次女キラー・クイーン。

 

 事実として、自分がグレオールと戦ったとしても勝つことは出来なかったであろう。

 どれだけ弱っていようとも、あの怪物相手にダメージを与えられる存在など世界中を探し回っても絶望的なまでに少ない。三聖女が束になってかからなければ勝算すら掴みようのない真性の化け物なのだ。

 

(そんな化け物を一人で倒しちまった、悪魔王とは別の魔王だと・・・? ハッ、いるわけねぇだろ。そんな怪物以上の化け物)

 

 復活した悪魔王を、物理的な手段で討伐に赴かなければいけない立場にあるからこそ、彼女はグレオールと自分との戦力比を冷静に見極め客観的に判断できる目を持っていた。

 それ故にこそ、逆に彼女は『悪魔王を倒した悪魔王以上の化け物』という存在に他の人々より疑いの目を向けていた。と言うかハッキリ言って眉唾だと思っている。

 

 まして、『喚び出された別の魔王が悪魔王グレオールを倒した』などという人間にとってのみ都合が良すぎる話など言わずもがなだ。

 仮に魔王が呼び出されたら悪魔王と一緒になって仲良く世界を滅ぼすに決まっている。当たり前のことではないか―――それが彼女の考え方だった。

 

 ・・・キラー・クイーンは見た目や言動から悪い印象はあっても、やはり聖女であり属性は『聖』の側に強く属している。

 教会のジジイ共や、姉からのお説教は聞き流していても、天使に纏わる伝承を前提から引っ繰り返すような柔軟性は持っておらず『魔族は悪、人間の敵、魔王は魔族側の王に決まっている』という固定概念から自由になれるまでには至っていない。

 

 その頭の固さが、現在の聖光国の政治を上手くいかなくさせていたのだが・・・・・・そんなことは政治が苦手分野で、戦闘オンリーなどっかのエルフ幼女みたいな彼女に分かる訳もない。

 

 ただ彼女は自分の得意分野で最大限力を発揮する。それだけに集中すればそれで良いのだと割り切った。

 

「よし! 夜明け前に街の近くで一端休息を取った後、改めてヤホーの街へと向かう。

 戦闘があるかも知れないからな、腹拵えだ! 敵を前にして腹が減って力が出せねぇなんて無様を晒しやがった奴は承知しねぇぞ! 覚悟しとけよ野郎共!!」

『ヒャッハー! この戦いで姉御に血を捧げて俺たちは姉御に罵倒してもらうんだーッ☆』

「よく言った野郎共! 褒美の前払いだ・・・今日死んだから明日戦って死んでも問題ねぇよな変態クソ野郎共ーっ!?」

『ひ・で・ぶゥゥ~~~ッ♡♡♡』

 

 

 ドカッ! バキッ! ボゴッ!!

 

 

 ヤンキーで正義の騎士団でHENTAIでもある男達が叫声を上げながら、ときに拳や蹴りを食らって吹っ飛ばされて戻ってくる者を交えながら。

 聖女キラー・クイーン率いる三大勢力の一つは、ヤホーの街へと向かって直走ってゆく。

 

 

 ・・・・・・そんな彼女率いる彼らの集団を見下ろす『第二の勢力』が、小高い崖の上に隠れ潜んで様子を伺っていたことに最後まで気づくことがないままに・・・・・・。

 

 

 

「―――見つけたぞ。ヤホーの街へ向かっている聖堂騎士団を発見した。速さから見て、明日の昼までには街に着くであろう・・・・・・」

「情報通りだな。至急ヤホーの街支部におられるウォーキング様に連絡するため早馬を走らせるとしよう・・・・・・」

 

 世の闇の中にあってさえ、なお黒々とした闇色のフード付きマントを身にまとい、全身だけでなく顔まで影に隠れて見えないようにしながら小声で報告しあっている謎の集団。

 

 如何にも『世界滅亡のため魔王復活を企んでいる悪の黒魔術結社』といった風情の男達で、魔王に壊させた後の世界で自分たちの都合のいい新秩序を打ち立てようと目論んでいる過激な選民主義者達の下っ端戦闘員たちのように見えてしまわざるを得ない連中でもあったけど、実際に世界を滅亡させるために魔王復活を企んでいる悪の秘密結社の構成員なので必ずしも間違った解釈ではない。

 

 ただ強いて違いを挙げるなら、彼らが壊したがっている世界は『現在の世界“だけ”』が対象であり、選民思想ではなく『被害者意識の集団』であったため・・・・・・まぁ、あんまり変わりは無いから別にいいか。

 

「たしかに我ら悪魔信奉者【サタニスト】は、先の魔王召喚に失敗した・・・・・・」

「だが聖女が動いたとなれば、その行為は無駄ではなかったということだ・・・・・・」

 

 黒いフード付きローブに身を包み、如何にも悪の黒魔術結社っぽい見た目をして、悪の黒魔術結社っぽい声の出し方と喋り方をしている彼らの属する組織名は、いま本人たちが言っていたとおり【悪魔信奉者集団・サタニスト】

 

 格差や意見対立こそあれ、実在した智天使を信奉しているという一事を以て、何とか誤魔化しながらも纏まってこれてきた聖光国の中で近年生まれた【天使と正反対の存在を崇める者たち】の集団である。

 

 彼らは享楽的であるが故に我が強く、団結するのに向いていない山賊や野盗の類いとは異なり、一つの思想を核として人が集まり、一人のカリスマ的指導者を得たことから急速に組織を拡大させ大勢力になるに至った反国家主義者たちの集団である。

 

 彼の核となっている思想は当初の時点だと大人しいもので、『裕福な者はその富を貧しき者へ少しは分配せよ』という思想と呼べるほどのものではない、平凡な格差社会に対する労働者の叫び程度のものだった。

 だが、この種の主張は時間経過と共に過激化していき、やがては力尽くでの政権転覆と既得権益層の打倒に向かい、テロ活動や反乱、軍事クーデターにまで発展するのは地球史においては常識でしかなく、当然のように聖光国でも同じようになっている。

 

 現在の聖光国では、『法律』という名の社会的正義は実行されていないのが実情であることが、この一因になっているものだった。

 罪を犯しても、金と権力で合法にさせてしまっている大貴族達。盗賊団が出没して村々が被害に遭っても戦力的事情や、領地の接する貴族達への政治的配慮から対処が遅れて無法地帯になりつつある地域が無数に存在しているのが聖光国における現状なのだ。

 

 守るべき法律を決めた権力者自らが、法律違反を犯しても力があれば裁かれないで済むという『範』を、実績と行動と結果によって下の者たちに示しているのだから、目下として目上の者たちの姿勢に習うようになるのは当然のことだろう。

 結果、サタニストのような集団が誕生してしまうことにもなる。

 

 ・・・・・・皮肉なことに、聖光国のトップである三聖女の長女エンジェル・ホワイト自身も、この惨状を形成するのに貢献してしまっている。

 彼女は国内での仲間割れは無意味であるとして腐敗した貴族達にも協力させることで何とか現状維持に努めているが、結局の所それは延命療法に過ぎず、死期を延ばすために副作用の強い劇物を常用しているに等しい状態にある。

 

 だいたい経営難に陥った組織が人員削減もせず、部署のいくつかは切り捨てる決定も下せないようでは甘すぎる。

 それは優しさではなく、ただ自分が切り捨てる勇気が出せないだけであり、ハッキリ言って上層部の保身に類する行為でしかない。

 百年前なら彼女のやり方で通用したかも知れなかったのだが・・・・・・生まれてくる時代を間違えてしまった彼女は哀れな聖女と呼ばれるべき存在なのかも知れなかった。

 

 ・・・って言うか、キラー・クイーンに魔王の情報を知られないようにしてたのも、どういう目的のためにやってたのだろうか? まさか一生知られないまま終われたとは思えんのだが・・・・・・。

 

 

「多少の狂いはあったが・・・許容範囲内で収まった。ユートピア様の計画通り、この地において聖女を抹殺しよう・・・・・・。

 “聖女に災いあれ”」

 

『『『『聖女に災いあれ』』』』

 

 

 ――こうして夜の闇より深く濃く、ドス黒い闇を纏ったような男たちが夜の中で動き出す。

 聖光国に災いをもたらすために、聖光国の光の根源である聖女二人を、この世から抹殺して世の中を正しく在るべき姿へ変えてやるために―――ッ!!!

 

 

「・・・・・・では、我らも急いでヤホーの街を目指すとしよう・・・・・・。恨み骨髄の聖女一行を抹殺する作戦に参加させて頂くためなら夜通しで走り続けることなど労でも何でも無い・・・・・・ゼー、ゼー・・・」

「フフフ・・・・・・然り然り。我らが蓄えし積年の恨みをぶつけるまで、我らは死せず。この様なところで立ち止まってなどいられ―――ゴホッ! ゴホッ!? ちょ、ちょっとタンマ・・・は、走りすぎてい、息がもうダメ・・・・・・」

「クックック・・・・・・情けないぞ同士たちよ! 立ち上がるのだ! そして走れ! ヤホーの街で聖女たちが俺たちに裁かれるのを待っているのだ!! 寝るな! 寝たら死ぬぞー!!」

「そ、それは何か違・・・・・・グフッ・・・」

 

『しょ、小隊長ぉぉぉぉぉぉぉぉッ!?』

 

 

 ・・・・・・とは言え、大急ぎでヤホーの街目指して駆けだしていくのは大変だったらしく、電話も無線機もない中世時代らしい光景がその後に続いてしまったのはご愛敬と呼んでいいのか何なのか・・・・・・取りあえずまぁ、ご愁傷様です。

 

 

 そして、悪の黒魔術結社の戦闘員らしく、セリフの最後は必ず共通の合言葉で締め括ってから走り出し、脱落者続出させながらも何人かは無事にヤホーの街までたどり着いて、戦える力を残してた奴だけ聖女抹殺作戦に参加することが出来ていた翌日の出来事は一端置いておくとして。

 

 

 ・・・・・・最後に残った三勢力の中で最も少なく規模も小さい、武装さえも無きに等しい謎の軍団もまたヤホーの街へと向かって接近しつつあったのだった。

 

 さて、この集団は一体何者なのであろうか?

 それは今までの二つ同様に、彼らの会話を聞いてみれば分かるであろう。

 お約束展開とはそういうものである。

 

 

『ああ、魔王様~♪ 魔王様~♪ 

 輝く瞳は、そよぐ髪♪ 山より高く、海より深い♪

 どんなに晴れた、寂しい昼も♪ あなたを思えば怖くない♪

 どんなに明るく、悲しい場所でも♪ あなたがいるから、へっちゃら、ぷー♪』

 

 

 

 ・・・・・・もう、この時点でコイツらの正体について言う必要ある人はいるのだろうか・・・?

 って言うか、まだコイツら出番あったんだなぁ~と思える程度が関の山な気がしている・・・・・・

 

 

『おお、魔王様~♪ 魔王様~♪♪

 星の光に、想いをかけて~♪ 熱い銀河を、胸に抱けば~♪♪

 夢はいつしか、この手に届く~♪ それは血の夢、永遠の夢~♪♪』

 

 

 なんか、歌がパワーアップしてるし・・・・・・腐敗した国家を粛正するため隕石落として星ごと滅ぼすこと望まれてたりするのだろうか? ホーリーない世界観だと確実に滅ぶぞ、国じゃなくて星そのものが。

 サタニスト共より、よっぽど性質悪いことを彼らとは別の魔王に祈願しているとしか思えん・・・・・・。

 

 

『魔王~s believinng! ours pray.pray♪

 魔王~ブレイング!! 我らの光になって~♪♪』

 

 

 ――もう、ええわい!!

 どっかの厨二エルフの悲しい哀に満ちた悲鳴が聞こえてきたような錯覚に満たされる中。

 ヤホーの街へ続く道の夜は静けさと孤独を取り戻し、ヒッソリと更けていく。

 全ては明日の朝、聖女姉妹の二人が再会する場において帰結する物語。今はまだ前哨戦ですらない、前準備の幕間劇だけが終わって決戦の明日へと続くこととなる。

 

 

 

 ・・・・・・ところで、あの村の連中は一体なにしに来たのだろう・・・・・・?

 それは明日の決戦が始まってみないと分からない。

 

 歌ってたセリフだけだと、本気で何やりに来たのか全くサッパリ分かるはずもない連中なのだから・・・・・・。

 

 皆がお約束という不文律守ってる中で、一部だけ無視されちゃうと確かに困るんだなーと思わせられなくもない連中であることだけは確かでしたけどさ~。

 

 

つづく


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