試作品集   作:ひきがやもとまち

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謝罪:混乱気味な心理状態にあるため色々書いてる最中です。影響少なくて済む連載作以外を書くよう意識してる状態にありますのでご了承ください。


キチガイたちも異世界で余裕に生き抜けてるようですが何か?2章

「――なるほど。つまり貴方方は空を横切っていった飛行物体を見つけて、大きな音が響いてきたため様子を見に来た。そしたら私たちがいた、と。・・・大体そんなところですか?」

「まっ、大体はそんなところかねぇ」

 

 夜斗神の話を超大雑把にまとめた感想を聞かされて、話を聞かせてやった本人である相手の女性は快活に笑って、楽しそうに笑顔を見せる。

 豪快な笑いと共に豊かなサイズのバストが上下にバウンドし、頭の上と臀部の少し上から“生えている”二本と一本のフサフサした毛皮の塊が軽く揺れる様を見せつけるつもりもなく見せつけながら。

 

 周囲を軽く見回してみると、相手の女性と同じような“自分たちとは異なる部位”を持つ身体的特徴を共有している男女たちが取り囲まれていて、一部からは不審げな視線で見られてはいるものの、大半の者はそれほどヒマではないようで洗濯なり薪割りなどの日常作業に従事している姿が見いだせる。

 

 空は蒼く、そして高い。空気は澄んでいて、まるでアルプスに来たようだと日本人らしくアルプスに行ったこともない身で言いたくなるほど大自然に囲まれた平和で長閑な田舎の農村。

 テレビもなく、電灯もなく、車の排気ガスも満員電車によるストレスもない。理想的としか言い様がないほど自然を満喫できる昔ながらの牧歌的風景。

 それらを見ていて夜斗神は、つくづく思う。

 

 

「いや~、本当に―――――地球じゃ有り得ないですよねぇ、ここは。間違いなく」

 

 

 夜斗神は改めてそう断言し、現地人の代表者である村長さんの奥さんから聞かされた話を頭の中で整理しながら自分たちの身に起きた現実離れした現象である・・・・・・おそらくは異世界トリップとか言う高校でクラスメイトたちが話題にしていたサブカルチャーの定番分野に巻き込まれたらしい状況を理解しようと彼なりに努力してみていた。

 

 まず大前提として、この異世界は地球ではないらしい。地球ではないから異世界と呼ぶのかもしれない。・・・どちらでも良い話ではあるが。

 

 次に、この異世界には彼ら地球人と同じような姿形を持つ人間種族のことを『ヒューマ』と呼び、目の前で話を教えてくれた女性(ウィノアさんと言うらしい)のように獣のような耳と尻尾を持つ人間に酷似した外見を持つ種族を『ビューマ』と呼び分けている。

 余談だが、ヒューマ同士で肌の色や髪の色の違いで別種族のように差別対応しているかどうかまでは田舎村なので分からないとのことだった。その内に調べてみたい問題なようなないような微妙でナイーブな課題だったが今はコレもどうでも良い話題だろう。

 

 そして、自分たちが乗ってきた飛行機が墜落した現場まで様子を見に来た人たちが住んでいる村の名前は『エルム村』といって、フレアガルド帝国という国の一地方に属している山奥の村だそうで、財政的に豊かではないらしい。

 

 また、この世界は所謂ファンタジー世界と呼ばれる時空に属するものであるらしく魔法が存在して、ヒュームの中には極希に魔法使いが現れており。

 大昔に別の世界からやってきて邪悪な竜を倒して世界を救った7人の勇者の伝説などというお伽噺もあるとのこと。

 ・・・が、どちらも自分たちとは関係なさそうな話であるため、これもまたどうでもいいだろう。

 この世界人でなければ使えない魔法も、大昔に異世界の人間が『やってきた方法』も、知ったところで今の自分たちに役立つものがあるとは到底思えないので是非もなし。

 

「まぁ、何はともあれ、心配して村総出で見にきて下さったエノク村の皆様方のご厚意に感謝を。ありがとうございました」

「あ、いえお気になさないで下さい。助け合いは山の民の習わしですからね、もし倒れている人がいたら放っておくわけにはいきません」

 

 最初に自分が脅かしてしまった耳の長い、だが他の者たちと違って獣の耳も尻尾も生えていない金髪の少女に最初の比例に対する詫びも兼ねて頭を下げて、メリルというらしい少女の方からもお辞儀をもらう。

 

「それに、結局は皆さん無傷で杞憂だった訳ですし、私たちは別に何も・・・」

「結果的に無駄になったとしても、気持ちを理由に行動できることは素晴らしいことです。私はその気持ちに対して皆を代表し、お礼を申し上げてるだけですからね、謙遜はこの際不要ですよメリルさん」

「・・・優しいんですね、ヤトガミさんって」

「いえいえ、そんなことはありません」

 

 心なしか頬を染めながら言ってきた相手に、謙遜ではなく割と本気でそのように返さざるを得なくなってしまう少年官僚の夜斗神衛。

 何故ならば―――

 

「彼らの自主性に期待してお礼を言うのを信じて待っていたら、たぶん一生言わなそうな人たちばかりしかいない様でしたからね・・・代表して言っとかざるを得ないでしょう。あの人たちの場合は確実に・・・」

「あは、あは・・・あははは、は・・・・・・」

 

 真顔で背後に広がる村の中央の景色を指さし言った言葉に、相手の耳長金髪少女は返答に困ったように苦笑いを浮かべて、豪快そうに見えるウィノアさんまで敢えて視線を逸らす始末。

 

 それ程までに・・・・・・異世界に到着したばかりの【世界で二番目の高校生たち】はフリーダムだった。フリーダムすぎたと言うべきかもしれかったけれども。

 

 

「丁か、半か! さぁ張った張った! 勝てた奴にはオレの付けてる金のカフスボタンをやろう。この世界のレートは知らねぇが金が無価値な世界はねェはずだ。掛け金がない奴は初回限り全負けしても裸踊りだけで勘弁してやっても構わねぇ!! 大サービスだ! もってけ泥棒!!」

『丁!』

『半!!』

『ああクソッ! 負けた! だがパンツを失うまではオレは諦めんぞ! 何度でも挑んで勝ぁつ!』

 

「・・・フゥ~~・・・。スパ~~~~~・・・・・・」

「・・・・・・・・・ふむ」

「あ、あうあう・・・こ、ここ、この人たち・・・近くにいて黙ってるだけでもこここ、怖いぃぃ・・・・・・(ガクガクブルブル)」

 

「はい、鳩が出ました。今度は指が消えました。次にあなたが引いたカードを当てますので一枚どーぞ」

『よ、よーし・・・じゃあコレ!』

『わぁ!? スゴイ! 本当に当たった!』

「凄いでしょう? ハンドパワーです」

 

 

 ・・・・・・全体の半数程度とはいえ、なぜ異世界に飛ばされてきたばかりで最初からここまで平然と順応できているのだろうかコイツらは・・・?

 普通だったらもう少しこう、自分が今まで信じてきた常識がどうとか、現実的に考えて有り得ないとか色々と受け入れるまでに時間が掛かりそうな現象の様に思えるのだが――

 

「――なんてね。自分でも取り繕っているだけだと自覚できてしまう、自分に対するウソというのは虚しいだけですか・・・」

「・・・?? ヤトガミさん?」

 

 自嘲混じりに漏らした呟きを耳にしてメリルが疑問の声をかけてくるのを敢えて無視して、夜斗神は近くに立つ大きな木へと寄りかかる。

 彼とて判りきっていることではあるのだ。自分たちは全員、誰一人として今回の現象に驚いてはいても、それほど大した超常現象だとは思っておらず、絶対に有り得ない様な非現実的な現象に巻き込まれてしまったと深刻に受け止めている者は一人もいないということに。

 異世界転移なんて現実には有り得ない・・・・・・そんな風に思うことが『出来ない理由』を自分たち全員が抱え込みながら生きてきたのだという現実に、彼は皆の自己紹介を聞かされたときから既に気づいてしまっている。

 

 何故なら自分たちは『世界で二番目の超人高校生たち』なのだから。

 決して、『世界最高の超人高校生』にはなれなかった、光を守るため影役に徹し続けただけの『二番目でしかない秀才高校生たち』の集まりでしかなかったのだから・・・。

 

 自分たちの前には、常に先がいた。決して届くことのない高見に立つ星として超人高校生たちは絶対的な地位に君臨し続けていた。

 余人から見ればいざ知らず、彼らに近い才能を持つと言わしめた彼らだからこそ判る部分がある。解りたくなくても解ってしまえる、絶対的に超えられない差という断崖絶壁が彼らと自分たちの間には常に横たわり続けてきた。

 

 あるいは今回の事態に見舞われたのが彼らであったなら、多少は驚きに包まれていたのかもしれない。『こんな事は自分たちの常識的にはありえない』と。

 だが自分たちは違う。自分たちは彼らにはなれない。彼らと違う自分たちに同じ常識は共有できない。出来なかった。

 

 自分たちにとって、『現実には絶対ありえない超常現象』とは、彼ら『超人高校生たち』のことであり『世界最高の高見に立つことが出来た者たち』のことであった。

 自分たちでは決して手の届くことのない、真実の高見に至っていた彼らの存在こそが、この異世界にも増して自分たちにとっての驚異に値する世界の不思議、その極み。

 

 彼らの奇跡的としか思えない才能と比べたら、たかが異世界、たかが獣耳尻尾、たかが飛行機事故で奇跡的生還。

 ・・・どれこれも大したこととは思えない。それ程までに絶対的に差のある相手たちだったからこそ、自分たちは競い合うより支える道を選んでいたのだから、今更この程度のことで動揺する不覚悟さなどとっくの昔になくしてしまって思い出すことも出来やしない。

 その程度のものではあった。

 

 

「こうなると、受け入れたくなくても受け入れるしかないのでしょうねー・・・。

 どうやら私たちは、異なる異世界そのものよりも、自分たちの世界にいた超人たちの方を遙かに異世界じみていると定義しながら接してきていたらしいようです・・・・・・」

 

 

 

 

 その夜、「異世界から来たばかりで行くところがないなら」と貸してもらえた大きな間取りの空き家に集まった地球から転移してきた一同は、大部屋だがこの人数だと流石に手狭に感じられなくもない中で顔を付き合わせながら夜斗神の話に耳を傾けていた。

 議題のテーマは、『今回のトラブル対策会議』である。

 

 

「さて・・・・・・というわけで皆さん。これから私たちの身に起きた摩訶不思議現象に対処する方法論について意見を言い合いたいと思うのですけども、しかし。

 初対面同士だと言いたいことあっても言いづらいだけだと思われますので、まずは私から全体の方針の台紙みたいなものを提出させて頂きたいと思われます。その大雑把な計画表に皆さんそれぞれからの修正案を出して頂けるとありがたいですね~」

『・・・・・・』

 

 雑な口調ではあったが、基本的には反対派一人もいなかったらしく大人しく聞く姿勢を示すことで黙認。

 相手たちの意図を正しく了解した夜斗神はそのまま続ける。

 

「ありがとうございました。――今の私たちがすべき事は三つ。

 一つは、“この世界の情報収集”」

「フレアガルド帝国がどういう国なのか? どういう方法論で国と民を支配しているのか?」

 

 鮫田が愉快そうな笑いを口元に湛えながら、裏社会のルールに通じる者として楽しそうな口調で先を続ける。

 

「話が通じる連中か、鼻薬の方が聞く腐った連中かでコッチの対応も変えにゃならんからな。相手が自分たちの敷いた法を遵守してくれるとも限らんし、飲まして食わして抱かせるって戦法も、近代化が進んでない後進国に不法入国しちまった場合には平和的に受け入れさせるための有効な手だからな」

「そのとーりです」

 

 ウンウンと夜斗神は頷きを返して、日本のテレビでこんなこと流したら顰蹙買って支持率ガタ落ちだろうなーと思いながら先を促す。

 

「この地の支配者たちのことを知っておくことは今の私たちにとって最優先事項と言っていいでしょうからね。民衆たちにどれだけ受け入れられても支配者側にとって有害であると判断されてしまったら滅ぼされるか、戦争するかです。

 支配者側の歓心を買って私たちの存在を受け入れさせること、まずはそこからです。それが出来ないままでは最悪この村にまで被害が及んでしまいかねません。現状では唯一の味方である現地人の皆さんを敵に回すことだけは避けたい事態ですのでねぇ~」

 

 と、極めて保身的で不正や賄賂を容認するかの様な理屈を平然とのたまう現代日本の官僚・夜斗神衛。

 こんな彼だが、一応は“あの”御子神政権の重鎮だった人物であり、不正や賄賂を肯定している訳ではない。

 

 ただ原則で言うなら、今の自分たちは存在そのものが違法である可能性が極めて高い「この世界に存在しないはずの存在」であり、まず自分たちの公的な地位や身分を支配者側から認めてもらえないことには合法云々を議論する場にも立たせてもらえないだろう。

 また、この世界は民主制が敷かれた後の現代日本ではなく、帝国制が敷かれている専制国家である。民主主義の理屈は通らないと考えた方がいいだろう。

 何故なら民主主義は『独裁者を生み出さないこと』を目的として古代ローマ時代に作り出されている制度だからで、専制政治の正当性を構造的に完全否定してしまっているところが最大の特徴なのだから、最初からそれをやってしまうと帝国との戦争しか対応する道が閉ざされてしまうことになる。最終的にそうなるしかなかったとしても最初からは想定したい道ではない。

 

(・・・・・・御子神総理だったら、絶対に用いない方法論なんでしょうけどねー・・・)

 

 心の中でそう思い、そう考えて、異世界に来るまで忠勤に励み続けていた主と自分自身との間に広がる差と違いを自覚して多少は忸怩たるものを感じないでもない。

 父親との一件がある彼の総理にとって、汚職や不正は決して手を染めることの出来ない逆説的な聖域であり、たとえ国や場所が変わって賄賂が合法の土地に赴こうとも決してやれなそうな人物だった。

 総理としてはあれでいいと思う。国のトップが汚職やら賄賂やらを肯定的に見ている様では腐敗を加速させる範を示してしまうだけのこと。

 

 綺麗好きで不正と無縁な潔癖症、それぐらいでトップは丁度いい。バランス調整は部下の仕事であり、汚れ役も部下が担うべき職務である。トップが綺麗であり続けるためにも政治の汚い部分は部下が担う。当然のことだ。

 

 良き政治とは、政治家個人が筋を通すことではなく、『筋が筋として通せるのが当たり前の社会を築くこと』である。

 自分一人のちっぽけな正義や正しさ、筋通しに拘って全体に対する貢献を疎かにすることこそ政治家として敵性に欠けていると断言せざるを得ない欠点である。

 だが、いつの時代も民衆が政治のトップに求めるのは清廉潔白なる理想の政治家像であり、聖人君子こそが王であるべきだと信じる人々が絶えたことは人類の歴史上に一度たりともない。

 ならばトップは綺麗でいなければいけない。民衆の期待に応えられる人物でなければならないし、それが出来る人物でなければ夜斗神もトップにするため貢献したいとは思えなかっただろう。

 

 当然のことではあったが・・・・・・今この場においては自分以外に政治面が得意そうな者がおらず、組織論が出来そうなのは裏社会を牛耳ってた犯罪組織のボス鮫田だけ。・・・流石にこの状況では合わないと解っていても遣るしかあるまい。本当に何の呪いなのやら全く・・・。

 

「次に二つ目、当面はコレが一番大事で優先すべき事柄ですけど“このエルム村の財政を立て直すこと”です。

 今日半日だけ軽く見て回っただけでも、決して良くはない状況に置かれている様に見受けられましたからね。恩返しも兼ねて実績作りもしておかないと、流石に穀潰しの居候状態が続くと追い出される」

「・・・・・・賛成いたそう。武士は食わねどとも言うが、腹が減ってはなんとやらとも言うことだし、恩返しというなら胃袋が満たせる形あるもので返して思いを伝えるべきであろう。忠義だけを求めて俸禄で返さなくなった武家諸法度を其れがしは好かぬ」

 

 二条青葉が秀麗な表情を僅かに歪めて賛意を示した。何か思うところがありそうな気配を漂わせてはいたが、其れはこの権に関してではなく個人的な理由によるものだったのか声には出さず、自分の心の中だけに留め置くつもりらしい。

 本人が言いたくないことで、自分もまた聞きたい訳でもない問題なら後回しで良かろうと、夜斗神は頷き。

 

 そして―――最後まで残していた三つ目の『自分たちがすべき事』について語り始めながら、それと同時に一応確認だけはしておいた方が良いだろうと考えて先に質問だけはしておくことにする・・・・・・。

 

 

「え~と、それで三番目のヤツ、『元の世界に変える方法を探すこと』なんですが・・・・・・念のために一応先に聞いておきますね?

 ここにいる皆さん、自分たちが元いた世界である地球の日本に―――帰りたいと思っていますか・・・・・・?」

 

 

 その異世界転移させられてきた者なら誰もが考え、誰もが選ぶ、当たり前すぎるその質問を聞かされて「六人の世界で二番目の超人高校生たち」もまた当たり前の様にその質問に、

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 

 誰一人として明確な答えを返せるほど、地球と日本がそこまで大好きな人間など、光の影を担って汚いところばかりを見続けてきた彼らの中に存在していられるはずがなかったのもまた、汚れ役の影たちとしては当たり前の『沈黙という名の答え』だったのかもしれない・・・。

 

 

 


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