しばらくは別の書きますね。
あと、公式サイトを見たら『ベルゾゲート』じゃなくて『デルゾゲート』だったみたいですね。失礼しました。機会を見つけて修正させて頂きます。
「2組の担任を務めます、エミリア・ルードウェルです。まずは班別けをおこないます。リーダーを決める人は立候補をしてください」
暴虐の魔王が復活した記念すべき年の魔王学園初日におこなわれた授業は、思ってたより普通の始まり方で幕を開ける。
豊満な胸とポニーテールにした紫色の長い髪と血のように赤い瞳が特徴的な美人教師が教壇に立って自己紹介をしてから、学校行事で班別けが必要になった際のリーダーを立候補の自主志願で募集する。・・・至って普通である。人間社会で言うところのミンシュテキとさえ言っていいほどに。
(・・・そう言えば人間だった頃に読んだ物語の中で、『魔王が天界の神々に戦を仕掛けるかどうかを決めるため魔王城に魔界中すべての魔族を呼び集めて多数決で開戦決定した話』があったような、無かったような・・・)
属性的には『悪』に属する生物のクセして、妙なところで悪魔や魔族が個人の権利を重視したがるのは昔から続く伝統なのかも知れない。
そんな、どうでもいい妄想をどうでもいい戯言として頭の中に浮かべながら黒髪の少女は黙って自分の担任教師になったらしい美女の話を聞き流していく。
「――ただし、この魔法を使えることが条件になります」
そう言って、右手を横に掲げて魔法陣を展開させた。
見覚えのある魔法陣の文様だったため、多少の興味を引かれて黒髪の少女も他の生徒たちと同じく担任教師の話に耳と意識を傾けさせる。
「集団の戦闘能力を底上げする、軍勢魔法【ガイズ】です。
【ガイズ】を発動すると班員にはキングやガーディアンなど7つのクラスが与えられます。術者はキングとなり、絶えず配下に魔力を与え続けるため単独では弱くなります。
一週間後の班別対抗試験では【ガイズ】を使った戦闘を皆さんに実践していただきます」
「――ハッ・・・」
教師からの説明を聞き終わり、黒髪の少女は小さな声ながらも鼻を鳴らしてしまっていた。
音を小さくしたのは、別に咎められることを恐れてのことではなく、教師個人の責任ではない事柄についてバカにしたためだったからだ。
――仮にも魔王が『周りの配下に守ってもらわなければならなくなるほど』『単独としては弱くなる魔法』・・・・・・なんとも人間くさい次期魔王候補に選ばれるため必須の魔法もあったものである。
別に「皆のための魔王」とか、「皆と共にある魔王」とかの存在を否定する気はないし、リーダーに求められる条件にも様々なタイプがあることぐらいは理解している。
だが基本的に、同じ種族で群れをなす生物たちの中で『個体としての戦闘能力』が群れの全員を圧倒していない者が『王』になれるのは人間だけのはずだ。少なくとも自分の時代ではそうだった。
それが魔界でも天界でも人間界でも当たり前に通用してしまう、『弱肉強食』という世の理。神の正義が正しくとも、正義が裁こうとした悪魔の方が強ければ神が負けて悪が勝つ。
(側近たちに力を与えて、魔王一人だけが弱くなったら反逆されるだけだと思うんですけどねー。今の時代だと違うのかな? これがジェネレーションギャップって奴なのかもしれません)
同じ神を信ずる者同士が神の加護を得て戦ったときには、強い方が勝ち。
悪魔崇拝者同士が異なる目的で悪魔を召喚して互いの宝を奪い合わせたときには、より強い悪魔を召喚していた方が勝って相手の宝と命を手に入れられる。
そんなものだと黒髪の少女は思っている。
人の世だろうと、魔族の世だろうと、神々の世だろうと、理による支配の原則は誰にも変えることはできはしないのだろうと。
もし弱肉強食の論理が間違っているとされ、腕力以外の方法で揉め事を解決することが由とされる時代があるとすれば、それは時代を生きる全住人たちの半数以上が力尽くでの解決方法を否定して、力尽く以外での平和的解決策を選ぶ側が『数の力』で圧倒的優位に立つことができた時代だけだろうと考えている。
結局『力の論理が支配する世界』であることに変わりはないが、無駄死にする数が減る分だけ暴力が支配する世界よりかは遙かにマシであることは間違いあるまい。
・・・そんな時代があるなら見てみたいものだと思ってはいるけど、果たして今の時代はどうなのかと聞かれたら『力尽くの闇討ちで公式試合の敗北記録をなかったことにしようとした皇族』に襲われたばかりの翌日旧魔王さまは自信が持てなくなってしまう。そんな朝の魔王学園。
「それでは立候補者は挙手を」
「・・・・・・(スッ)」
エミリア先生から説明を受けた直後、自信満々な態度で即座に手を上げて応えたのは一人だけだった。
先ほどミーシャの背後を通り過ぎ、その顔を見上げて彼女が驚いていた魔族少女だ。
金髪ツインテールで・・・お胸のサイズが些か可哀想にならなくもない女の子である・・・。
自分も元々、大きい方ではなかったし、お色気方面には興味を持ってる時間的余裕も性的趣向もなかったから問題視するほどのことではないと承知してはいるのだが・・・・・・それでも自分の方がまだマシな大きさではあるため、何も思わないでいられるほど黒髪の少女的には無関心でいられない問題だった。・・・主に『まだ若いのに可哀想・・・』的な思いを理由として。
「・・・・・・(スッ・・・)」
「・・・・・・・・・(スッ・・・・・・)」
金髪ツインテひ・・・コホン。金髪の豪奢な髪を持つ魔族少女が手を上げた後、しばらくして一人の男子生徒が彼女に習い、その後に最初の男子生徒よりかは自信なさげな遅い仕草で手を上げた男子生徒が続いて――打ち止めだった。他には誰一人、続いてくれない・・・。
普通、最初の一人目になることは恐れても、後に続くだけなら心理的負担はかなり軽くなって候補者続出してもおかしくないと思っていた黒髪少女としては肩すかしを食らわされた気分にしかなりようがない。
一応ここって次期魔王になる者を育成するための魔王学園で、入学希望してくる生徒は次期魔王になる夢を抱いているはずなのだけれども。
勝てる勝負だけ戦って成ることできる、安全確実な就職先の魔王ってなんじゃい。
だからこそ彼女としては、ちょっとした刺激として『劇薬』を投入してみたい気分にもなる―――。
「は~い、先生。私も立候補させてもらいまーす」
棒読み口調で宣言するとともに片手を高く上げて挙手をして、周囲の生徒たちを驚かせてやる。
『おおぉ・・・』と響めきが広がっていくが・・・声音を聞いているだけで見なくても分かる。あれは異例の異端に対して驚いているのではなく、『珍しく身の程知らずなバカがいたよ』という形での驚き方で上げるときの声だ。
珍獣を見つけたと言ってもいいが、どちらかと言うと「珍獣」ではなく『珍種』と呼ぶのが正しかろう。
珍しくはあっても、社会的に価値が認められてないから希少価値がなく、ただただ珍しいから虐めて遊んでやろうという程度の感情に過ぎない。
向ける側にとっても、向けられる側にとっても取るに足らない、ガキ臭い負の感情の一種でしかない代物・・・・・・。
「・・・アノスさん、でしたか? 残念ですが白服、つまり混血の生徒にはリーダーになる資格がありません」
「そうなのですか? それは残念」
エミリア先生から不快そうな仕草の後で予想通りの返事をもらい、自分の方でも予定通りの返事をして予定通りの『オマケ』を付け加えてやり、
「ですが、それが正しい判断でしょうね。
混血に皇族“が”劣っている事実を証明されてしまっては、血統しか取り柄のない皇族の教え子たちに恥をかかせてしまって可哀想ですから。先生として非常に正しい判断と言えます。私は先生の英断を支持して仲裁を受け入れましょう」
「――ッ、静粛に! 皆さんお静かに! 授業中ですよ!!」
黒髪の少女から思わぬ反撃を受けて、一瞬だけ先生がたじろいでしまった隙を突くようにして挑発を受けた黒服の生徒たちが男女の別なく席から立ち上がり、四方八方から発言者めがけてあらん限りの罵声を浴びせまくり始めてしまったことでエミリアは立場上、自制を求めざるを得ない立場に立たされてしまう。
黒服の皆様方曰く。
『思い上がるな雑種めが!』『混血のくせに生意気な!』『少し魔力が強い程度でつけあがるな! 分際を弁えろ!』
・・・等々。実に紋切り型で芸がなく、彼らの知的劣等ぶりを示す罵声ばかりで返事をする気にもなれずに肩をすくめる他やることがない。
と言うか、この程度の安っぽい挑発に乗ってガキみたいな悪口を言ってくるヤツらに、なに言い返していいんだか本気でよく分からなかったし・・・。続けて放つための本命毒舌セリフを2、3個ストックしておいた自分がバカみたいじゃん・・・。
「――アノスさん、それだけ不敬な言葉を口に出したのですから、もし【ガイズ】を使ってみせるのを許可して、できなかった場合には不敬を謝罪して自主退学をしてもらうことになります。・・・それでもよいですね?」
生徒たちを一端落ち着かせた後で、自分の立場も鑑みて落とし所を探し、ちょうど自分と相手が先ほど口にしあった事柄が使えることを思い出してエミリアはそう提案し、相手が頭を下げながら許可してくれたことに感謝してくるのを鷹揚に見下ろしながら内心で会心の笑みを浮かべていた。
――正直なところエミリアの本音としては、アノスの命などどうでもよかったし、皇族の生徒たちの気が済むのなら生け贄に差し出すことに躊躇う気持ちは微塵もない。彼らの戦闘に巻き込まれて他の混血生徒も死んでくれたなら手間が省けて有り難いぐらいに思っている程度の問題でしかない。
だが仮にも、国内最高学府の教師である彼女には生徒たちと違って地位と立場に伴う責任問題というものが存在する。
記念すべき年の授業初日に、自分の担当するクラスの教室内で乱闘事件を発生させたとあっては外聞がよくない。
それにもし、万が一にも混血の盗人共ではなく皇族の生徒たちの誰かが負傷するようなことにでもなれば管理能力の有無を問われざるをえまい。
そんな事態に陥るのは御免被りたい。
相手から申し出てきたことを条件付けで許可して、自ら失敗した後に無礼を謝罪させて自主退学していったという形でなら、自分には何の落ち度もなく責任問題を問われる恐れは消滅させられるだろう。
それに何より、『魔王学院の生徒』という特別な地位を失って、『単なる混血の一匹』に戻った後の彼女相手になら、皇族の生徒たちが何をしたところで何の問題にもならない身分にさせられるのだ。生徒たちにとっても、その方が復讐のし甲斐があるだろう。
そういう思考法でエミリアは黒髪の少女に【ガイズ】を使ってみせることを許可して、自分自身も右手を差し出す。
契約魔法【ゼクト】を唱えて、少女との口約束を絶対遵守の契約に昇華させるためだ。後から言い訳されても退学にはさせられるが、『自主退学』という形にはできなくなってしまうかもしれない。
彼女自身が混血如きのせいで傷を負わないためには、たとえ成功させてしまったときにリーダーとしての資格を認めてやらねばならないリスクを負ったとしても、必要な措置だった。
「【ゼク――」
スタスタスタ・・・・・・。
だが相手の少女は、前に出した魔法陣を展開した自分の右手を無視してエミリアの横を素通りし、黒板に展開させたままになっていた【ガイズ】の魔法陣のすぐ前まで来てから足を止めると。
「はい、【ガイズ】っと」
「なっ!?」
手のひらを上にかざして、まるで初級魔法を使うときのような気楽さで『魔王学院の班訳でリーダーに立候補する条件に指定された魔法』を使って見せてやる黒髪の少女。
だがエミリアが驚愕したのは、そこではない。
「そ、そんな・・・っ! これはまさか、魔法効果が―――」
「さすがはエミリア先生、一目見ただけで見抜くとは流石です。
見ての通り、これは貴女が未熟な教え子たち用に使って見せてくれた【初心者用ガイズ】の完成版、性能が二倍になった正式な【ガイズ】です」
キッ!と睨み付けられながら、自分が口に出すのを寸でで堪えた『事実の部分』を暴露された挙句、まるで規定された事実のように嘘を付け加えてから皇族贔屓の美人教師に向かって黒髪の少女は笑いかける。
が、今度の笑顔に邪気はない。清々しいほど無邪気で誠意にあふれた“様に見せるため”役者魂にあふれる心ある態度で一礼して見せた程に。
「ですが、さすがに魔王学園の先生ですね。初心者用ぐらいなら混血でも簡単に使える程度の初級魔法ですから、生徒たちに花を持たせるにはピッタリの魔法です。
貴女もなかなかご苦労されているのだなとわかり感動し、不肖ながら私が代わって同期生たちに手本を見せてあげたという次第。
どうか“この程度の簡単な魔法”も使うことのできない“クラスの中に一部いる”皇族の恥さらし共を教導してやるため今後ご利用していただけると名誉の限りで御座います」
そう言った途端に、クラス内に満ちた悪意が高まり、代わって重苦しいほどの沈黙に支配される。
黒髪の少女の手口は巧妙だった。
ここまで状況ができてしまった後に、『彼女は混血だから皇族に劣っている』という理由で立候補を取り下げようとしても、『なら皇族のお前が混血の私以上の魔法を使って見せろ』と言い返されたときに黙り込んで恥をかく以外の選択肢が失われてしまっている。
教師であるエミリアが、「クラスの班訳でリーダーとして立候補するための条件」として【ガイズ】の魔法という分かり易い基準を提示してしまったお陰で楽に形成することができた状況であり、やり口だった。
皮肉なことに、皇族の生徒たちが黒髪の少女を『混血の分際で!』と罵倒できなくされてしまったことには、言いたがっていた本人以外の皇族生徒たちが最大の理由になっている手口でもある。
『混血如きが!』と言って、『じゃあお前もやって見せろ』と言われ返されて実行できずに恥をかくのは『口先だけで実行できなかった本人だけ』であり、他の皇族生徒たちに被害はない。
家の利害関係が絡んでいる名門出身者ばかりの魔王学院にあっては、他の皇族生徒は仲間であると同時にライバルなのだ。
混血相手になら皇族同士で団結できても、皇族一人一人の問題ともなれば話は変わる。ライバルが自ら墓穴を掘るのを歓迎することは魔界皇族の道徳律に反しない。
当然ながら、自分だけが皇族の純潔さを守るため勇気をふるって混血の無礼を弾劾し、恥をかかされて尚、敵を道連れにして潔く散っていき他の皇族仲間を喜ばせてやる自己犠牲精神など彼らの中で持っているのは一握りいるかどうかだ。
そんな連中に、この状況下になって『自分たち皇族よりも劣っている』などと口に出して言質を取られる勇者などいるわけもない。そこまで読んだ上で黒髪少女が仕掛けてきた初歩的謀略の、それが内訳であった。
「・・・・・・・・・いいでしょう。特別に立候補を許可します」
長い長い沈黙の後、エミリアは不承不承ながらも相手の要求を受け入れた。
やむを得ず、と言うより却下したところで賛成してくれる味方が現れてくれそうになかったから、というだけであったが。
「ありがとうございます、エミリア先生」
黒髪の少女は、にこやかな作り笑顔で礼を言って頭を下げてから、自分の席へと戻って歩き始める。
周囲から奇異の視線と、苦々しげな憎悪を込めた視線が無数に送られてきていたものの、特に実害はなさそうだったため無視して普通に歩きつづける。
安全策をとり、負ける危険を冒さずして魔王になりたがる怠惰なブタども相手には、相応しいやり口だったと内心で満足の笑みを浮かべながら・・・・・・。
――実力も覚悟もないまま遺産を受け継いだだけの者たちは、相応の試練を受けるべきなのだ。耐えられなければ滅びるだけのこと。
遺産に相応しい実力がなかったのだと証明して滅びれるのだから、見下していた相手に攻め滅ぼされて下僕としてこき使われる身分に成り下がるよりかはプライド的に本望だろうよ・・・・・・そういう風に考えるのが黒髪の少女魔王の在り方だったから―――
「静粛に! 静粛に!!」
そんな少女が作り出してしまった教室内のイヤな空気を払拭するため、エミリア先生は両手を叩いて音を鳴らしながら生徒たちの意識と視線を自分に向け直させてから、気を取り直して形式的に決まった手順通りに事を進める本来の教師の在り方を取り戻そうと努力した。
「班別けを始めますよ! リーダーに立候補した生徒は自己紹介をしてください!!」
そう言われ、真っ先に先生に指示に従って立ち上がりながらも、優雅でゆったりとした皇族らしい貴族風の仕草を崩すことなく一礼したのは、やはり金髪ツインテひんにゅ・・・コホン。
慎ましい胸のサイズを持った、気品あふれる少女だった。
「ネクロン家の血族にして、七魔皇老が一人『アイビス・ネクロン』の直系、【破滅の魔女サーシャ・ネクロン】。どうぞお見知りおきを」
「・・・ネクロン・・・?」
金髪ヒンヌ――もとい、ツインテ少女の名乗りを聞きとがめて黒髪少女がポツリと呟く。
はて、どこかで聞いたような聞き覚えのある名字だった気がするけど、どこの誰から聞いたんだったかなと考え始めた矢先のこと。
「・・・お姉ちゃん」
「んぅ・・・?」
隣の席に座った心優しい現代世界の先輩同級生少女から答えを教えてもらうという、人間界風の学園恋愛小説みたいなシーンを演出した後。
――あ、そう言えばミーシャさんの名字ってネクロンだったんでしたっけ!?
と、今更ながら遅すぎる気づき。
・・・いや、仕方がないのだ。言い訳にしか聞こえないだろうけど、本当に忘れてしまっても仕方がない事情があることなんだよコレは。
だって、名前と違って名字聞かされたのって一度だけだった気がするし! 自分は誇りある家名を持たない混血だし! 皇族生まれじゃねぇですし! あと人間! 元人間ですから!
強さと才能だけを理由に王宮から召し抱えられた戦時国家の特例少女舐めんな!? ・・・誰に向かって心の中で言い訳しているのか全く分からない意味不明な思考をしながらも表面上は冷静さを取り繕って、せっかく答えを教えてくれたミーシャに例で返すため何事もなく話を続ける。
要するに―――黒髪の少女は誤魔化そうとした!!
「皇族と血がつながっている・・・? もしかして、お父さんかお母さんが違うのですか?」
「・・・両親は同じ」
「なら、なんで別色の制服を? どちらともが純血なら、普通に貴女もアチラ側でよかったのでは?」
そう言って、相手の来ている自分のものと同じ白服の制服姿をシゲシゲと見つめる黒髪の少女。
「・・・・・・家の人が決めた・・・」
「ふ~ん・・・?」
最後だけ、普段よりも長めに間を開けてから返事をしてきて、横顔をチラリと見たら俯いていた銀髪の無表情少女に、何かしら家の事情があることを察して、それ以上聞く気にはなれなくなる黒髪の少女。
金髪と銀髪、紫色の瞳と水色の瞳、大人しそうな無表情少女とプライド高そうな激情家っぽい表情の少女。
そして・・・・・・結構な巨乳と貧乳。
「・・・血が繋がってる姉妹で、あっちがお姉ちゃんの割には・・・・・・大きいですよね・・・」
「・・・・・・あまりそういう目で見ないでほしい。恥ずかしい・・・」
小さな声で言いながら、心持ち頬を赤く染めつつ両手で自分の胸を押し抱くようにして見えなくする銀髪少女妹のミーシャ・ネクロン。
同性なんだし別にいーじゃねぇかとも思うのだが、年頃乙女にとっては乙女心的な理由で見られたくない理由でもあるのかも知れない。
あと自分の時代の同い年少女たちは今少し、性に対して奔放だった気がするのだが。
まぁ、人口増やすために国が生ませまくってた時代でもあったし、兵士が殺されたときの補充用にいっぱい生んどいてくれるのは王様的には有り難かっただろうし。
死んだ端から補充が求められる戦乱時代の感覚を、平和な現代に持ち込んでも意味ないかも知れないなー、とか思っていたところに。
「アノスさん、貴女の番ですよ?」
エミリア先生から、先生らしい叱責が生徒の一人に対して飛んでくる。
ミーシャと話してる間に他二人の男子生徒も自己紹介を終えていたらしく、自分の席に着席したままコチラの方をキツい視線で見つめてきている。
授業中にクラスメイトが自己紹介してるのを聞き流して、隣席の女子生徒と私語してた上に、会話内容が胸のサイズだった少女としては不平不満を抱く理由もなく、むしろ抱いたら逆恨みだろとしか言い様のない状況だったため素直に立ち上がり・・・ふと思い出す。
“そう言えば教室に入ってきたときに言うべきか迷って言わなかったブラック・ジョークがあったなぁ・・・”
――と。
なんで今このタイミングで思い出しやがったのか!?と聞かれたら、自分の脳にでも聞いてくれとしか答えようがない、たまたま思い出しただけのジョークなんだけど、状況的には間違ってないし不適切な内容と思えない。・・・少なくとも本人自身にはそう思える程度の内容でしかない代物だった。
ちゃんと自己紹介も兼ねてるし、皆からの視線が集まって注目されてることにも変わりはない。
何より今朝は、『入学初日から嫌われる必要もないか』と思ったからこそ言わなかっただけであって、今となっては十分すぎるほど嫌われている。今更配慮して言葉を選んだところで手遅れ過ぎる。後の祭りさえ終わってしまった後だろう。
今からなにを言ったところで、今以上に嫌われることはないだろうし、嫌われる恐れのあるブラックジョークは好かれるように心境が変化してから言うより嫌われているうちに言っておいたストックから無くしてた方が今後の友好関係構築にも役立つはずだ。・・・そう考えた。
―――こうして、黒髪の少女魔王はまた一つ、魔王学園の歴史に残る伝説を築く。・・・築いてしまう・・・。
本人にとっては今朝と大して代わらない状況下での、大したことない一言を。
聞かされている大勢の他人たちに取ってみれば、今朝と今とで言われた気持ちが百八十度変化していた後になっちまってた一言を、堂々と大声で単なるブラックジョークとして―――宣言する!! してしまったのだった!!!!
「初めまして皆さん、私の名前は暴虐の魔王アノス・ヴォルディゴード。
今日この日、今この時より、このクラスは私が支配してあげましょう。
それがイヤだとか抜かす愚民どもは皆殺しにしてあげます!
殺されても構わない無能で愚かな勇者だけがかかってきなさい!
特別に相手をしてあげましょう・・・・・・この薄汚いゴキブリ共ッッ!!!」
・・・・・・余談だが、このブラックジョークを言い終わった後、ミーシャに対して面白かったかどうかを尋ねたところ。
「無理」
「何故に?」
なぜだか、面白かったかどうかの評価とは全然関係の無い答えが返ってきたので困惑させられてしまった。
圧倒的な力を持つ暴虐の魔王少女は、ジョークの才能とユーモアセンスが致命的すぎるほど欠落していた事実を知るのは今少しほど未来の話であったと後の歴史は語っていたりいなかったり。
続く