試作品集   作:ひきがやもとまち

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久しぶりのアーク2更新です。久しぶりすぎて色々と忘れちゃってましたので今回はリハビリを兼ねてアッサリ書かせていただきました。自話から本気で再始動めざしたいと思っております。


アーク・ザ・ラッド2 外典~青い炎使い~7章

 闇医者のラドは、ワケありの医者である。

 マフィアの支配する町インディゴスに住んでいながら、金のない者だろうと治療してくれる彼の存在には助けられている者も多い反面、それを目障りだと感じる敵も多い。

 当然ながら彼の仕事は医者であっても危険が多く、今までにも何度か危ない橋を渡りかけては渡り通してきた実績がある。一度はマフィア同士の銃撃戦のド真ん中でケガ人を見捨てず治療した経験さえある漢なのだ。

 ちょっとやそっとのピンチでは動転しないクソ度胸が、彼の仕事を支える原動力の一つと言っても良かっただろう。

 

 ――だが、しかし!

 

 

「・・・・・・」(ヒュゴォォォォォォ・・・・・・)

「・・・・・・」(シ――――――ッン・・・・・・)

 

 

 ――さすがの彼も、二人の少女に挟まれた修羅場状態でケガ人を治療した経験はなかった!

 目の前のケガしてる少女の静かな沈黙も怖いが、背後から黙って彼女を見ている綺麗な美少女が放つブリザードのような冷気が怖すぎる!!

 

(ふ、吹雪が! 室内なのにブリザードの気配が俺の頭越しにケガ人の少女へ向けてヒシヒシと!?

 チクショウ! なんだって俺は赤の他人の痴情のもつれのド真ん中で、赤の他人に向けられている女の情念に恐怖しながらケガの治療をしなくちゃならねぇんだ! 早く帰りてぇ!

 酒場に戻ってヤケ酒飲んでなかったことにしてぇんだよぉぉぉぉぉぉぉッ!!!)

 

 闇医者ラド、心からの絶叫。だが、声に出さなかったから二人の少女たちには届かない。届いているもう一人の少女は気付かないフリして助け船を出そうとしてくれないので孤軍奮闘継続中。

 恋愛内戦勃発中なシュウのアパートで、闇医者ラドは絶対零度の威力を持った視線のビーム攻撃に晒されながらケガ人を行い続け、早く帰りたいけど適当に治療してケガを悪化させたりするのは医者としての義務感が許さないから手も抜けず、ひたすら真面目に黙ったまま治療を続けていく。

 

 やがて―――

 

「よし! これでもう安心だ!」

 

 治療が完了し、包帯も巻き終わり、ようやく帰るべき酒場へと帰ることが出来るようになった闇医者ラドは足早に患者の少女リーザのもとを離れて出入り口に向かい、申し訳なさそうな顔で待っていた依頼人の少女エルククゥに最後の報告をして今回の仕事を終わらせた。

 

「ありがとうございます。・・・どうでしたか?」

「どうもこうもねぇよ! なんで俺が、あんな若い娘たちの間で交わされる視線の銃撃戦みたいな中間地点で治療しなきゃならない羽目になってんだ!?」

「・・・・・・えぇ~とぉ・・・・・・」

「・・・まあいい。とりあえずは大丈夫だから俺は帰るぞ。娘の方はゆっくり休ませてれば元気になるだろうし、これ以上ここに居続けたら俺の方が胃を痛めちまいそうだからな」

「本当にお世話かけて申し訳ありませんでした・・・」

 

 クズに容赦はしなくても、相手の方が正しい場合には素直に頭を下げる少女エルククゥは今回の場合も流儀を守る。・・・一方的に自分たちの方が悪い今回みたいな場合は尚更に・・・。

 

「・・・ところでモノは相談なんですけども、治療費を倍にしてかまいませんので、今少しこの場に残っていただき緩衝材になっていただくという依頼を受け入れていただくことは可能でしょうかね・・・?」

「断る! 断固として断る! 俺は帰る! 酒場に帰って酒を飲むんだ―――ッ!!!」

「・・・・・・ですよね~・・・」

 

 無理を承知で切実なお願いだったのだけど、当然の如く却下され闇医者ラドは払われた治療費の額を確認することもなく鷲掴みにして足早に帰って行った。・・・たぶん今払った分は全額酒場で少女たちの視線で受けた精神的ダメージを癒やすのに費やされるのだろう。

 プラマイ0だが、ラドの商売ではよくあることだ。気にするまでもない。“金額的には”の話だけれども・・・。

 

 

 ――バタン。

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 ・・・アパートの扉が閉まる音が響いて部屋に部外者がいなくなると、途端に室内は気まずい沈黙に満たされてしまった・・・。

 

 こういう時、普段は口の周りが良いエルククゥは意外なほど役に立たない。

 基本的に敵を言い負かしたり、コチラの要求を無理やり受け入れさせたりといった弁舌は得意な女の子なのだけど、感情的になってる同性の鎮め方なんて全くわからないし知らないし。知らない自分だけは知っているから、余計なにも言えなくなって役立たずに止まるしかなくなっちゃってるし。

 

 ・・・なまじ理屈が得意になりすぎてしまい、真逆の感情に疎くなってしまった報いを今受けさせられてしまっていた・・・。

 頭で考えて納得したり、させたりすることは出来るのだけども、感情の面で納得させることは出来る自信がまったく持てない。沸いても来ない。理屈屋の限界、ここに極まれり!

 

(・・・・・・以上。第三部、完・・・!)

 

 ――と、最近子供たちの間で流行りはじめた大衆文学のノリで現実逃避していたところ。

 

「さて、と・・・」

 

 ブリザードを背負った、笑顔がカワイイ綺麗な美少女である自分の幼馴染み『ミリル』から微笑みを向けられて、エルククゥは座っていたソファのクッションから「スッ・・・」と立ち上がり。

 

「エルククゥ」

「はい」

「言い訳してちょうだい? 私を置いて他の女の子と逃げていたことへの言い訳を。

 ・・・私はあなたを待っていたのに・・・来てくれるって信じて待ってたのに・・・それなのに・・・・・・」

「ちょっ!? いきなりそのテンションから始まるのはやめてくれませんかね本当に!? 私だってさすがに焦りますよマジで! 本気で焦るときだってあるんですからね本当に!

 お願いですから正気に戻ってくださいミリルさん!!」

「正気に戻れ? フフフッ、いいえ違うわ、エルククゥ。私は正気じゃなくて本気なのよ。

 だって私は、あなたが大好きなんですもの!! 私を見捨てて他の女の子と逃げていたあなたに復讐するために!!」

「だ!か!ら! 正気に戻れって言ってんでしょうがさっきから――――ッ!?」

 

 

 ギャースカ! ギャースカ! 醜い上に噛み合ってない言い争いを痴情のもつれで展開し合う幼なじみ少女の二人組。

 

 デートをすっぽかされた彼女から言い訳を要求される彼氏的役割までは甘んじて受け入れる覚悟をしていたエルククゥだったけど、さすがに初っ端から病んでる状態の幼馴染みに脅迫されるとは思ってもみなかったので慌てずにはいられない。

 

 

(てゆーか! 両手に能力で造った氷まとわせちゃってますし! さっきから超低温の雷光がピカピカ光り輝いちゃってますし!

 あんなモノまともに食らわされたら流石に死にますよ今の私程度じゃ確実に!?

 しかもミリルさんの感情が爆発したときにだけ使える【ダイヤモンド・ダスト】がいきなりスタンバってるように見えてるのは気のせいですか!?

 死ぬ! 死にます! 嘘でも詭弁でも何でもいいから使って、今の彼女に感情を抑えてもらえなかったら私の人生本当にここで完結しちゃいそうな勢いになってるかもしれませんよこの状況!?)

 

 一難去って、また一難。

 ・・・と言うよりも、空港ジャック事件に始まって楽勝ばかりだったエルククゥの冒険ではじめて感じた、命の危機をもたらす最強の敵【幼なじみ少女ミリル】!!

 

 なんか色々と間違ってる気がするが、相手の精神状態的に合理性とか言ってる余裕は少しもない! まずは相手の怒りと憎しみを適当な方向へ誤魔化して発散させて落ち着かせるのが何よりも大事である!

 

 生きてこそ得ることの出来る明日を掴むため、この命! あなたの理性にベットしますよミリルさん! 

 だから本気でお願いしますね!? 早く正気に戻ってきてくださいね!?

 でないと私ホントーにあなたに殺されちゃいそうになっちゃってますからね!? 冗談でも何でもなしに!!

 

 

 アパートの一室限定で吹き荒れる、季節外れの猛吹雪に襲われながら悲壮な決意を固めて構えを取るエルククゥ!

 

 

「え、え~とぉ・・・・・・あれ? も、もしかしなくてもこの状況、私の身元とかどうでもよくなっちゃってない・・・?」

 

 いきなりのミリル暴走によって、当事者から無関係な部外者にいきなり島流しされてしまったモンスターと心を通わす能力を持った不思議な少女リーザは唖然呆然とせざるをえなかったけど。

 実際問題、モンスターと仲良くなれる能力なんか今どうでも良くて、そんなものより怒れる女の子と仲直りできる能力がほしくて仕方のない今のエルククゥの置かれた情勢下では彼女にかまっている余裕はない!

 全力で! 命がけで! 目の前に迫る命の危機と戦いながら!向き合いながら! 生きて迎えられる明日を信じて迫り来る死の運命を乗り切る以外に道はないのだから!!

 

 

 

 ――精霊と魔物と人とが争い合う世界の片隅で、突如勃発した重要人物の命がかかった痴情のもつれ問題。

 その中で、特に今の時点では二人の関係と結びつきもなく詳しくも知らないリーザだけは蚊帳の外に置かれたまま、ポカーンと世界の未来がかかった少女の危機を見つめる以外に今はまだ何もできることはない・・・・・・。

 

 

「アオゥ・・・・・・」

 

 そんな主を哀れんでいるのか、慰めているのか、もしくは共感してるのか。

 飼いモンスターのパンデットが一声鳴いて、前足を「ポン」とリーザの膝の上にのせられていた手の甲に置く。

 

 仲間はずれ同士、顎の下撫でてあげたり、頭をモフモフしたりしながら自分じゃどうすることもできない目の前の修羅場から目をそらし、リーザはリーザで自分が今できること・・・テイムしたモンスターとの絆を深め合う作業に没頭していく。

 

 

 世界の命運がかかった痴情のもつれが行われている今日であったが、見ているだけなら世界は今日も平和なままな様でもあるのだった・・・・・・・・・。

 

 

 

「ウフフ・・・エルククゥ、あなたは甘いわ。あなたは私を置いて二人だけで逃げていたのよ? あなたを待っていた私を見捨てたのに復讐されないと思い込むなんて甘すぎるわエルククゥ! だから大人しく私に復讐されなさい!

 私にはあなたを殺すことはできないけれど、復讐するだけなら普通にできることだから!!」

「なんですか!? その複雑すぎる愛憎模様と、曖昧すぎる罪悪感の有り様は!? お願いですから、もう少しちゃんとした基準を作ってください!

 理屈屋の私にはこの状態のミリルさん説得するの無理そうです――――ッ!?」

 

 

つづく(笑)

 

 

注:久しぶりなので忘れている方向けのオリジナル設定の説明をば。

 今作ミリルは原作での薄幸さが影響しており、施設で飲まされていた薬が体に合わず一時期禁断症状を起こしてリハビリ生活を送らされた過去があり、そのとき以来精神面が不安定になってしまっているというオリ設定がなされています。

 普段は原作通りのミリルなのですが、感情が高ぶったりすると敵として出てきた洗脳ミリル状態に陥ってしまうという厄介な性質を持った女の子が、今作のヒロインでもあるミリルちゃんです。

 ・・・敵にしてヒロイン・・・エルククゥの言う通り、たしかに複雑な愛憎模様ですよね・・・。

 

 彼女の冥福と今作での幸せな結末を願って今回は終わりとさせていただきます。




*今回の一件でミリルに事情があることがリーザに伝わり、ミリルには落ち着かせるため次回は家でお留守番。リーザにハンターとしての仕事教えるために原作展開。
 その過程で自分たちの事情を彼女に軽く説明してあげる…そういう流れを作るための話が今話の内容であります。

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