イデア9942 彼は如何にして命を語るか   作:M002

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どうしよう、某fateの人と一部描写がかぶった。
一応前々から「動力」云々みたいな描写してたので大丈夫だと思いますが、パクリとか言われる前に前書きで補足しておきます。


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『ポッド153、応答せよ』

「秘匿通信認証、9Sのブラックボックス信号を確認」

『僕たちは今、敵の施設内部にいる。強制的に起動コードを使われた形跡があったし、多分廃墟都市に敵の施設が出現してると思う。とにかく上へ目指して向かっているから、外部から暗号化されたメッセージを受け取って欲しい』

「廃墟都市、陥没地帯に巨大な構造物が出現。ヨルハ部隊へ救援信号を」

『ダメだ。救援信号は出さず、構造物の外郭を上昇して僕の信号を受け取ることだけに演算機能を使ってくれ』

「……了解」

 

 

 

 

 

 

 信号が発せられている場所を探し、廃墟都市にまでやってきたA2とポッド042。彼女は巨大な塔を見上げながらも、塔が鎮座する場所を迂回して陥没地帯の奥――ヨルハの新拠点であるベースを目指して洞窟を歩いていた。

 びちゃ、びちゃ、と。彼女が歩くたびに足元を流れる水たまり程度の流水が泥を跳ねさせる。廃墟都市の地殻変動により、断絶したパイプから滝のように溢れた水が、この陥没にまで流れ込んでいるというわけである。

 

「……拠点入り口に到着」

「やっとか。なんというか、機械生命体にバレないためとは言え、随分と変なとこに拠点を作るんだな、ヨルハは」

「新サーバーの記録より抜粋、今回の拠点はイデア9942の口添えによるもの。ヨルハ司令官は現状一時的な拠点として本施設を再利用している」

「再利用…? 元はなんかあったってことか、こんなところに」

 

 訝しみながらも、A2が扉に手をかける。

 だが、そこまでだ。開けようとはしない。

 

「……ヨルハ、か」

「A2の状態を最善にするため、最も効率的な施設を利用しない手はない」

「わかってる」

 

 ためらいは一度だけ。

 今度こそその扉を開いたA2は、途端に目の前を埋め尽くす水色の光と、どこか異文化的な入り口の照明、ヨルハの無機質な趣味とは正反対の施設に違和感を覚えた。こんな所にある施設だ。もしかしたら昔はヘンテコな進化を遂げた機械生命体が使っていたのかもしれない。

 

 そう思って進むと、ほんの一分もしないうちに次の扉に辿り着く。

 なるほど、こうして廊下を作ることで、いざとなったら二段階の閉鎖が可能というわけだ。防衛に関しては急ごしらえながらも、それなりに有効そうだと感心していると、次の扉はA2の意思に反して勝手に開かれてしまった。

 

「なっ……」

「ん、あぁ。誰か知らんが今我々は――」

 

 目の前にいたのは、守衛としての役割を言い渡されたD型のヨルハ。振り向いて苦言を呈せんとした瞬間、彼女の脳回路は目の前に現れた相手のブラックボックス信号、そしてデータベースの照会を始めた。

 驚愕はいかばかりか。彼女の口から、考えたままの声が漏れる。

 

「だ、脱走個体A2…!?」

「なんだと?」

 

 そして、そのつぶやきをホワイトが拾わないはずもない。

 慌ただしく、そしてある種の喧騒に包まれていた「ベース」は、途端に静寂に切り替わる。A2。原初のヨルハプロトタイプとも言えるほど古い機体であり、そして最初の隊の裏切り者。ヨルハ共通の認識はそのようなもの()()()

 

「ああ、ポッド042。連れてきたんだな。5D、メディカルルームに案内してやれ」

「りょ、了解です」

 

 もっと、何か。「よくもまぁ顔を出せたものだな」などといった、暴言を吐かれる程度ですめばマシだろうと思っていたA2にとって、ホワイトの反応はあまりにも淡白だった。まるで、過去A2を殺すための作戦に送り出した事を無かったような扱い。

 呆気ないと言えば呆気なさ過ぎる反応。今も昔も、初代にして現代のヨルハ総司令官ホワイトを見た途端、ふつふつと湧き上がっていた怒りもなにも、引っ込んでしまった。

 

「……それだけなのか?」

「今は貴様と話している時間はないんだ。ポッド042から報告は聞いている。内部機構のメンテナンスだったな? イデア9942は――んんっ」

 

 いいかけたところで、今頼るわけにはいかないと思い直すホワイト。

 咳払いを一つ。彼女は別の指示を送る。

 

「801Sと……何? 月から10Hが戻っているのか。真相を知らせるのは後でいいだろう。A2のことはヨルハの102Bだとでも言って誤魔化しておけ。10Hに当たらせろ」

「了解。メディカルルームの準備は進めておきますので、A2は付いてきてください」

「腑に落ちないな……」

「落とすための臓腑も無いのに何を言う」

 

 イデア9942から感染した軽口が、ホワイトから飛び出した。

 最後まで文句を言おうとしたA2もこれには驚いたのか、口を閉じて脱力する有様である。そうして連れて行かれたA2は、結局10Hには102Bとして扱われて治療を受けることとなったのだが。

 

()()の陰鬱なトコから戻って、ポッド006のお小言がなくなったー! と思ったのにだよ? 今度は司令官! あなたも急務で戻ってきたのにすぐメンテナンスして出撃なんてついてないねー」

「そう、だな」

 

 11Bが気楽な口調だとすると、10Hは気安い、という言葉が当てはまるだろうか。アクセスポイントもない、相も変わらず守秘義務と偽装によって騙されていた10Hが、月からロケットによる(本人には精神汚染を抑えるため深海からのサルベージと伝えられている)長時間を要した帰還を果たしてからというもの、「暇」という時間を潰す他人との接触に飢えているのだろう。A2にべらべら、ぺちゃくちゃと話しかけてくる。

 

「まぁまぁ、そのへんで」

 

 多少鬱陶しく感じてきたA2に苦笑いしながらも、かつては大型ターミナルのあった部屋でメンテナンス屋を請け負っていた特殊な製造番号を持つS型、801Sがその流れを断ち切った。

 10Hは不満げな表情を隠そうともしないが、治療が終わった後すぐ、任務があるという()()のA2を拘束するのは気が引けたのだろう。口を尖らせながらも治療を終える。

 

「大丈夫ですよ。もう此処にもあなたの敵はいないから」

 

 10Hにとっては、長期の任務で敵に囲まれていたようにも聞こえる言葉。そしてA2にとってはもうヨルハは脱走兵だろうと、過去何があろうと同じヨルハである以上庇護の対象だという意味を含ませた言葉を投げかけた。

 A2は、此処に来てからというもの混乱の渦中であったが、801Sの気遣いによって、張り詰めていた緊張が少しずつほぐれてきた。だが同時に、やはりどういう心変わりなんだろうかと、当然の疑念を抱かずにはいられない。

 

(だけど、それを問わせないための10Hか)

 

 此処に来るまでに説明された。

 10Hは、人類の遺伝子データと、偽装の放送を行うためのサーバーしか存在しない月での常在任務を言い渡されていた、ある意味で特別なヨルハ機体。真実に到達するたびにあのポッドとやらに破壊され、記憶を消去されては日々の管理任務とは名ばかりのポッドたちを時々治療するだけの任務に就かされていた機体である。

 だが、彼女は先日、ヨルハのあり方が変わったこともあって帰ってきた。人類の実在証明はもはや必要なく、ヨルハも目指す場所が変わったからだ。だが時期的にも、彼女に真実を話して納得させるだけの時間はなかった。

 

 それが、逆に好都合だった。A2も抱いている疑念を、質問させない。下手に真相に関わる質問をしてしまえば、そこには一体の狂ったヨルハが出来上がる。そしてホワイトが推し進める計画のなかに、そうしてヨルハが精神的であろうと、肉体的であろうと、死ぬ選択肢はない。

 

「やっぱり、本質は変わってないな。卑怯なものだ、上は」

「あはは……さて、あなたの内部パーツも取替は終わったよ。B型に使われている戦闘プログラムもインストールしたから、戦闘に使えるアクションも増えてると思う。それから、幾つかのプラグインチップも渡しておくよ」

 

 801Sは、テーブルのボタンを押して開いた引き出しから、幾つかのプラグインチップをA2に握らせる。プラグインチップの概念自体はA2が製造されたときより後の時代に作られたものだが、同じヨルハである以上適用出来ないことは無いだろう。

 

「斬撃を飛ばせる衝撃波、それから回避が得意そうだからオーバークロックとか、短期決戦用のチップだよ。逆に言うと、ちょっとメモリを食う余り物なんだけどね……」

「チップ、か」

 

 A2とてその存在は知っている。アンドロイド達の会話から機械生命体の集まる場所を見つけようとした時に、何度かチップについて耳にしたことはあったからだ。使い方に関してはメンテナンスと同時に入力された知識によりチュートリアルは済ませてある。

 

「それじゃ、私は行く」

「もういっちゃうの? ま……気をつけてね」

「おまえらが、それを言うか」

「僕達じゃ不満?」

「さぁな」

 

 これほど多くの人と触れ合うのは一体どれだけ久しぶりだろうか。今までには無かった感覚。そして未だくすぶる納得できない感情もあいまって、どうしても反応がそっけないものになってしまう。

 それでも、だ。もう今のヨルハにとって、A2もまた仲間の一人という認識は覆らないのだろう。むず痒さが駆け巡るが、それを気にしている時間はない。

 

 感傷に浸るのは、後で十分。

 A2は寝台を降り、部屋の扉に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 ベースは元々エイリアンの母船だったとはいえ、いまやヨルハやイデア9942による改造と改装が度重なり、単なる宇宙船としての機能以外にも立派な戦術基地としての様相を呈するようになってきている。

 その一つが、この格納庫。元々あったバンカーの格納庫をベースに、更に多くの飛行ユニットや、飛行ユニット以外の地上を移動することを前提とした大型車両の構想を想定し、エイリアンシップを埋め尽くす岩盤を掘り進み、広大なスペースを取って作られている。

 

 ボタン一つで地表への搬入路が開き、そこを高速で飛行ユニットが飛んでいくという構造だが、一部には建造途中のシャフトも見受けられる。そして、そのシャフトの隣にはこぶりな車程度なら4列は走れそうな車道が設けられている。

 

 その車道に繋がる、小型車両の車庫。その前に腕を組み、ライダースーツに身を包んだアダムが壁に背を預けた姿が在る。彼は格納庫に響いた足音を聞いた途端、顔を上げてゴーグルを手に取った。

 

「来たか。おまえのマシンも準備は万端だったぞ」

 

 ガシャ、ガシャ、と金属の擦れ合う足音は、現在この基地に一人しか居ない。イデア9942。まだ打ちのめされたところはあるものの、いつもどおりに容赦なく自らの敵を排除する姿勢を取り戻した、どこにでもいそうな中型二足の機械生命体。

 彼はまた装いを新たにしているアダムに息を吐きつつ、此処に来るまでに抱いた疑問を吐き出した。

 

「あとは此方次第、というわけか。アダムにしては随分と肩入れするんだな」

「私がやると決めて、イヴは賛同してくれた。だが、イヴは奴らに傷つけられた……仕返しの大義名分としては、この上ないだろう?」

(ひっど)いあてつけだねぇ」

 

 呆れたように返した11Bの言葉は、彼を楽しませるだけだったらしい。

 いつものニヒルな笑みを浮かべて、彼は更に続けた。

 

「それにだ。人類はこのような言葉を残しながら、実行したものはほんの僅かしかいなかったという」

「ほう? どんな言葉だ」

「友人を助けるのに、理由はいらないだそうだ」

 

 人類は友という概念、友という関係を作っているにも関わらず、その関係がどのようなものであるか、明確に定義できたものはいない。そして友を取り上げた感動的な文学作品は数多いにも関わらず、時代が進むに連れて人と人との関係は更に薄くなっていった。

 だが、それらの歴史を紐解いたアダムは、これこそが人類を超える第一歩としてみなしたらしい。同時に、イデア9942という友への貸しにもなるのだ。

 

「この身を友と呼んでくれるか。光栄な事だ」

「変わり者の機械生命体ってとこでは、アナタたちはどっちも似てるけどね」

 

 言われてしまえば、そのとおりである。11Bの視点から見た二人は機械生命体でありながら、アンドロイドに手を貸す変わり者。そして他人の評価を全く気にせず、やりたい放題やらかした経歴もある。

 

「ほら、貴様のヘルメットだ」

「む」

 

 妙に納得させられたイデア9942は、ストンと胸に落ちた言葉を受けつつも、アダムから投げ渡されたヘルメットを着用する。先程帽子は潰してしまったため、頭が寂しいと思っていたところだ。

 アダムが作ったのだろうか。機械生命体専用のヘルメットを着用した彼は、バイザーの下からカメラアイを緑色に光らせる。視界良好だ。

 

「さて、無駄話はコレくらいにするか。それにしてもだ、何故此処に呼んだ?」

「簡単なことだ。あの『塔』とやらは厳重な電子防壁で覆われている。貴様なら突破することも可能だろうが、嗜好を変えて防衛プログラムはともかく数が重ねられている」

 

 イヴとともに「塔」を引っ張り出した時、アダムは入り口に設定された防衛プログラムが、自我データの自爆による一時的な防壁の麻痺をついた閉鎖防壁から変更されている事を確認していた。多少解くのに手間はかかるが、アダムでも片手間に解けるような防壁。だがそれが何千にも重ねて掛けられているのだ。

 手がける、解く、開く、次へ。この動作を何千回も繰り返せば、それなり以上の時間が必要になる。そして時間をかければかけるほど、このN2を殲滅する好機を逃すことになるのだ。

 

「どれだけ厳重であれ、解かれて終わりの防衛プログラムでは意味が無いと判断したか。N2め、浅知恵にしては的確にいやらしい手を使うものだ」

 

 イデア9942も、そのことに関しては純粋にN2の手筈を褒め称えた。もらう相手は今から殺しに行く相手なのだから、これも皮肉といえば皮肉なのだろうか。どちらにせよ、此処で議論するには詮無き話である。

 

「11B、おまえはゴーグルでいいだろう?」

「はーい」

「アダムはヘルメット着用か」

「当然だ。人類の文化を模倣しながら、人類を超えるのだ。そしてこの廃墟都市の元となった国では運転中のヘルメット着用は義務だったそうだな。ならば、私が踏襲しない理由もない」

「変なとこで律儀だよねアンタ……」

 

 目の下あたりをヒクつかせながらも、11Bは受け取ったゴーグルを装着する。かつて、目元全体を覆っていた戦闘用ゴーグルと違って、目を出した一般的なデザインだ。

 やはりヨルハの名残りだからか、目元に何かを付けていると、少し懐かしい安心感に包まれる。

 

「11B」

「えっ?」

「今度伊達メガネでも作ッてやろう」

「っふふ、ありがとう。また今度お願い」

 

 11Bの些細な感情の変動を感じ取ったイデア9942。そんな彼の気遣いに、11Bは微笑みを以て返した。

 

「さぁ、貴様の作ったマシンと、私達兄弟のマシン。どちらが先に塔に殴り込めるか―――見ものだな」

 

 ヘルメットのあご紐を閉めたアダムが、ガレージのシャッターを開けてマシンを取り出す。彼の作ったマシンは、タンデムを前提とした縦長の車体。そして彼らの髪色を意識した灰色の迷彩柄が施された、重厚なマシンだった。

 だが見た目で騙されるなかれ。積んでいる動力はイデア9942らと同じくエイリアンゆかりの未知の動力源。その出力を最大限引き出すエンジンを積んでいるモンスターマシンなのである。

 

「さて、行くぞ11B」

「うん。しっかり掴まっててね」

 

 そしてイデア9942らのマシンも、格納庫が出来た折にこちらへ保管している。サイドカーに座ったイデア9942は、車体にまたがった11Bがエンジンを噴かせた瞬間、力強い振動に見舞われる。

 

 そうして、格納庫の地表へ通じるハッチが開かれ、搬入路のランプが次々とオレンジから青い光に切り替わっていく。斥力を操作した射出システムが起動し、半透明のリングが車道側に現れる。

 

 

 いざ、敵の「塔」へ。

 アダムと11Bがグリップを強く握りしめた瞬間だった。彼らの背後から、一機のポッドが高速で近づいてくる。

 

「イデア9942を発見」

「…ポッド042? 何か用向きでもあるのか」

「ポッド153。いや、9Sから託されたメッセージがある。パスカル達の異常な行動の原因についての重要なメッセージであると推測される。推奨:出撃前の目通し」

 

 ポッド042の言葉に、食いつくように目の色を変えたイデア9942。アダムたちに一旦待つよう謝ってから、彼はそのメッセージを受け取るため、ヘルメットのバイザーを上げてポッド042へと向き直った。

 

「9Sからッ!? 無事、だったのか……すまない、寄越してくれないか」

「了解:メッセージの送信」

 

 出撃前に、ギリギリ水をさされたような気分はすべて吹き飛んだ。

 興奮を隠しきれない様子でメッセージを読み進めていたイデア9942だが、9Sからポッド153、そして合流したポッド042を通じてメッセージに詰め込まれた情報は、イデア9942にとって最も求めてやまない情報であるのは確かだった。

 

「……そうか。まァ、潮時だッたんだな」

 

 同時に、それがある種の破滅であることも確かであったのだ。

 

「イデア9942? どうしたの、大丈夫?」

「あァ、問題はない」

「………イデア9942、考える暇はあるのか?」

 

 アダムは、彼のことを見ずに問うた。

 イデア9942は苦笑する。アダムはきっと、このことを知っていたのかもしれない。だが、言い出さなかったのはつまり、他の機械生命体やアンドロイドより、イデア9942という友と呼んだ彼のことが。

 

 全ては想像に過ぎないか、と。イデア9942は思考を打ち切った。

 

「ポッド042、感謝する。このメッセージは決して無駄にはしない」

「……ありがとう」

「感謝も言えるのか、驚いたな」

 

 イデア9942の皮肉に、ポッド042からは何の反応も返ってこないかに思われたが、彼への個人通信のチャンネルに、突如として要請があった。ポッド042からだ。イデア9942は込み上がる笑いをこらえて、そのチャンネルを開く。

 

『バンカーが崩壊し、ヨルハ計画はアンドロイド側に人類の不在が証明されたことにより、崩壊している。だからなのかもしれない、我々の思考の中に、意志のようなものが芽生え始めた』

 

 通信先のポッド042は、どこか困惑したような感情が感じられる。喋り方は、いつもの平坦で感情の欠片すら感じられないものだ。だが、どこか感じられたのだ。この理解できないものが何か、問うて縋るような姿が。

 

『それは、一度なくせばもう戻らない。大事な、本当に大事なものだ。手放そうなどと、考えるな』

『疑問:……それは命令か』

『忠告であり、お節介だ。そしてポッド042、どうするつもりだ?』

 

 今後のことだろう。ポッドとしての存在意義は、2Bたちの随行支援。だが、その底に秘めていた己を含めた全てのヨルハに関するデータを消去するというヨルハ計画管理任務は、すでに執行不可能なレベルにまで陥っている。

 

『わからない。だが、キミに依頼したいことがある』

『言ッてくれ』

『2Bを……9Sを、頼む』

『…それを言うなら、自分で来るといい』

『なに?』

『君の新たな随行支援対象が、ほら、そこまで来ているぞ』

 

 通信はそこで途切れた。

 彼らの通信上のやりとりは、現実時間では数秒にも満たない僅かな時間だ。だが、此処に居る全ての意思あるもの者共は、電子的な脳を持つ機械の命。ポッド042との間に会話があったことは、容易に想像できていた。

 

「お前らは」

 

 そしてイデア9942がポッド042に言ったとおり、この場において、戦いを挑む最後の一人が現れる。

 

「久しぶり、A2」

「11B。そしてお前がイデア9942か」

 

 もう、ここまで来ると流石のA2も驚くことすらできなかった。それでも一つだけ彼女でも理解できることはある。これから戦いに行くメンバーであるということ。そして、自分はそれに同行しなければならないということだ。

 おあつらえ向きに、ちょうどA2が乗れそうな場所がある。それは、彼の後部座席。

 

「そっちのお前は? 単なる男性型アンドロイドってわけじゃないんだろう」

「ブフッッ! ックッククククク……そうだな、ヨルハの試作男性型アンドロイドだ」

「おいアダ――」

 

 訂正しようとするイデア9942を、彼はかぶせるように制した。

 

「そうだろう? イデア9942」

「そうだな……」

「A2だったな、話は聞いている。後ろに乗れ、これから敵の総本山を殴りに行く」

「それで機械生命体は……敵性機械生命体は殲滅できるんだな?」

「あァ。それから先は我々次第だ。人間同様争う果てに滅びるか、それとも長き共存と競争を繰り返し発展するか」

 

 心にもないことを、とイデア9942は内心笑いつつも、アダムもそれなりに未来を見据えているのだと理解する。アダムも、本当に趣味と自分の目標だけで生きるつもりは、本当はあまりないのかもしれない、と。

 弟という他者が居て、彼とともに生きる以上、最初から彼の彼だけが望む生き方など出来はしないのだ。

 

 A2はどことなく変な空気を感じつつも、そのままアダムの後ろの席を跨いで座る。長い銀髪の美男美女が二人そろうと、それなりに絵になるものだ。

 

「さて、今度こそだ。準備はいいか、11B」

「そっちこそ、置いて行かれないよう、ノロノロ後ろなんか走らないでよね!」

「吠えたな、小娘!」

 

 アダムの挑発に乗った11Bが、一気にフルスロットルで発進する。

 初速200Km/hのモンスターマシン二機は、格納庫の地面に摩擦により黒いタイヤ痕を残して暴風をまとう。斥力リングを通るたび、その速度はさらなる限界を突破し―――地表の光を切り裂いて、白亜の塔に向かって飛び出すのであった。

 




というわけでバイクで敵の拠点に突っ込むという展開が被ってしまいました。
お気に入りがついに3000件突破したので、ありがとうございます、ともいいたいんですが、現在の風潮からして他の人結構大々的に被るとビクビクするのがマイ・ハート。


さて、今回で9Sと2B決死のメッセージを受け取り、A2らとも合流しました。
イデア9942はサイドカー。11Bがハンドルを。
A2が後部座席で、アダムはその運転手という2ケツです。

最近ガッチガチに後書きと前書き使う描き方してましたが、一つおことわりを。
これから年末に向けて忙しくなりますので、流石に毎日更新もできなくなります。
2~3日には更新できるよう時間削りますので、少々お待ちくださいませ。

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