イデア9942 彼は如何にして命を語るか 作:M002
多分これ文章力というか構成力というか、
読者さんが望む展開と私の頭の中が離れ始めてるんだろうなぁと
まぁここの所原作無視というかどうやっても原作展開ならなくなりましたからね。あと露骨なメアリー・スー化
せっかく最近執筆意欲が湧いてきたのでこのまま来年1月には完結できるよう
頑張りまする
「うっ……あ……」
ガラス片を掻き分けながら、よろよろと立ち上がる。
まだ他のヨルハは起き上がっていない。完全に意識を失っている。
障壁が、墜落の瞬間に大きく歪んだのだろうか。剥がれかけた向こう側からひび割れた装甲板や、崩れ落ちた壁が見える。パラパラと降り積もる砂塵が、光る穴の向こう側から落ちてくる。
「ナインズ……ナインズ、は…?」
起き上がった途端、地面の硬質な手触りがぬるりとした物にかわる。ゾッとした想像を抱いた2Bがすぐさま隣を見ると、落下した時点でひしゃげた鉄材に突き刺さるヨルハの姿があった。幸いにも脳回路やOSチップ、存命に必要な箇所は破壊されていないが、凄惨な姿を見ていられず、鉄材から引き抜いて携帯していた止血ジェルを塗る。
「しっかりしろ…」
「う、あぁ……い、痛い…いたいいい。あっ、うっ、はぁっ…ぁ……」
痛覚をシャットアウトできていなかったらしい彼女を、2Bは無理やり気絶させる。痛みに呻くよりはスリープモードに入れてしまったほうが救いもあるだろう。
次第に、同じく目が覚めたヨルハたちがフラフラと起き上がってくる。誰もが頭を抱え、現状の把握に精一杯らしい。隣にいる者たちを揺さぶり、起こそうとしていた。しかし、あたりを見回す2Bは、ある違和感に気が付いた。
彼は、どこにいる?
一度疑問に思ってしまえば、ぼやけていた頭がハッキリとし始める。
必死に辺りをもう一度見回すが、9Sの姿はどこにもない。背筋を走るヒヤリとした感覚と、ありもしない心臓をギュッと締め付けられるような焦燥感に駆られた2B。彼女はともかく、情報を集めようと手当たり次第にヨルハたちの意識を覚醒させ始めた。
「…2B、ですか」
「21O! 目覚めたばかりで悪いけど、9Sを知らないか?」
「……すみません、私も目覚めたばかり、ですので」
そして幾人かの無事を確認した後、司令室の壁際まで吹き飛ばされていた21Oを発見する。彼女のようにどこか司令室のとんでもない場所に義体を投げ出されていないかと、近くに9Sの事を訪ねたのだが、21Oは起きたばかりであるらしい。
力なく首を振る彼女に、2Bは悔しげに俯いた。
「バンカーは、無事に降下できたようですね……すみません、司令官の端末まで、連れて行ってくれませんか」
目線を下に、申し訳なさそうに言う彼女の違和感に気づき、2Bが視線の先を合わせると、21Oの片足は膝から少し先が折れ、無くなっていた。出血は止まっているが、行き場をなくした電気信号が音もなくバチバチとスパークしている。
「21O……足が」
「後で直せば問題ありません。それよりも、現状の把握を」
彼女の意志を尊重し、2Bは肩を貸して21Oを司令官が普段使用している端末のほうまで移動させる。そして彼女を支えながら操作させると、バンカーの残った電力が僅かばかりに生き残った照明を灯し、薄暗いバンカーを彩り始める。
かつての純白の様相は見る影もない。汚らしく、剥がれた塗装が無機質な鉄の壁を露わにしている姿は、しかしどういうことだろうか。少し前に感じた息苦しさが和らいだような気がする。
「は、ぁ……」
「ッ! 21O、大丈夫か」
「すみません、少し休ませてください……」
まぁ、今となっては2Bの所感などどうでもいいだろう。
21Oが行っていた操作が終わり、息をつくと同時に彼女は一気に力を抜いた。もたれかかられていた2Bは突然重みを増した彼女に驚いたが、疲れ果てた表情を見せた21Oを労り、背中を預けられる場所に彼女を降ろした。
ともかく、外部との連絡を取る必要がある。意識を取り戻し始めたヨルハは、大半がバンカーの機能復旧や修繕に当たり、2Bのように万全に動ける極少数が外に出て接触を図るという結論に達した。
未だにポッドたちが復活した様子はない。となれば、通信をしようにも難しいのが現状だ。破壊された大型ターミナルを修繕し、少なくとも作戦基地としての機能を取り戻さなければならない。
このバンカー生き残り組との連絡が取れるよう、簡易な通信機も必要、と。とにかくしなければならない事が多すぎるが、無事なメンバーに近くのコンソールを引き剥がして作られた、コードが飛び出た通信機が手渡される。
「見ての通り急造なものだ、気をつけて取り扱ってくれ」
2Bを始めとするB型に手渡される通信機と言う名の基盤。少し強く握ってしまえば壊れそうなそれを、腰に巻きつけた紐で固定すると、いくらか見栄えはよくなるか。
次に出入り口の確保だ。と言っても、何時もの司令室の出入り口は完全にひしゃげ、現状すぐに外と出入り出来るのは壁に空いている一つの穴だけ。直接外に繋がっているか確認のため、ヨルハ機体の脚力でギリギリ届くそこに跳躍する2B。外側は砂塵吹き荒れる砂漠の様相が見て取れる。
大丈夫、行けそうだと。2Bはそう告げて、穴の側面に手を掛けて振り返った。
「それじゃあ、第一陣は任せたよ2B」
「水没都市までは少し距離がある。気をつけてくれ」
ヨルハたちの激励を受けながら、2Bは一度頷くと、吹き込む砂の起こる方へと飛び込んだ。穴の向こう側は建物の傾斜がいい具合に開けた坂になっているが、この時点で舞い散った砂が足を滑らせる危険もある。
かつて砂漠を移動していたときのように、ザーッとスライディングで滑り降りた彼女は砂漠の上に靴裏を接触させる。相も変わらず不安定な足場は、バンカーが墜落したことで更に不安な気持ちを募らせる。
「行かないと」
とはいえ、こんな言いようのない感情に任せている場合ではない。
9Sを見つけるためにも、司令官たちに無事を告げるためにも。
2Bは今、駆け出した。
水没都市で行われていた会合も決着を見せたということで、すでに多くの面々が解散している。とはいえバンカーの一大事だ。友好の証としてイデア9942と11B、そしてこの場に来ているヨルハ部隊とホワイトが今回の事に当たろうという姿勢を見せていた。
キェルケゴールとパスカルは混乱しているであろう村の面々をまとめるために、アネモネたちレジスタンスは現状を説明するためにこの場を離れている。アダムに至っては面倒なことがようやく終わりか、とすぐさま姿をくらませる自由っぷりである。
「先程の大きな衝撃は、砂漠地帯からか」
「バンカーが落ちただなんて……」
信じられない、と首を振る6Oの反応は無理もない。
自分たちの生まれ故郷、心の拠り所でもあったバンカーが墜ちた姿は、ヨルハの面々に少なからず衝撃を与えている。
「まァ無事に降下できたようで何よりだな」
そう頷くイデア9942に、思ったよりも圧倒的に荒っぽい解決方法が気に食わなかったのか、ホワイトが睨むように言った。
「あの衝撃で、破壊されたヨルハ機体が居ないとも限らないが」
「信じるのだろう、あの子らを。降下が決まッているというのに、なにもしないとでも思うか。被害を最小限に抑えるため、頑張ッたろうよ」
「お前は……いや、きっとそういうことなのだろう」
イデア9942とあまり接することのないホワイトも、こうして会話を重ねるほどにイデア9942の性格を理解し始めてきたらしい。わかり始めた途端、誰もがため息をこぼすような人柄だということが。
「どれ、広域に張ッたレーダーにブラックボックス信号が無いか探してみるか。11B」
「持ってきてるよ。はい」
11Bという死亡扱いされたはずの脱走兵が、あまりにも堂々としているのももはや何も言えない事柄の一つである。だが、ホワイトの葛藤もなんのその、イデア9942は11Bから受け取った端末の電源を入れると、その画面をホワイトに見せつける。
「どうやら、一人のヨルハが此方に向かッているらしい。廃墟都市の砂漠側入り口か。向かッてやッたらどうだ」
「……聞いたな! この地点を中心に部隊の生き残りを探してくれ。そのまま墜落したバンカーに移動し、立て直しを図る。頼んだぞ!」
ホワイトが叫んだ途端、この会合に訪れていた数名のヨルハ部隊が散開する。ただ一人この場に連れてこられていた6Oは別として、彼女らもバンカーの現状が気になっているのだろう。急ぎ足であっという間にビルの谷間に姿が消えていく。
「イデア9942、前にお前は言ったな」
「うん?」
「誰が作った、誰かが命じた。そんなものは関係ない。大事なのはこの身がどうしたいか。この生命を全うする上で、何を成し遂げたいか。……私の決定は、本当に正しかったか?」
「さァて、知らんよ。君はまだ結果も見えていないのに結論を急ぐのか」
「……そうだな。ああ、私は私の決定に従うよ」
人類の亡霊に従い、延々と戦い続けるだけの人形であり続けるのはもう終わり。これからは機械生命体と手を取り合う関係。そして、共通の敵を前に轡を並べる仲となったのだ。
「落下したバンカーも廃墟寸前だろう。幾つか作っておいた拠点を貸そうか、司令官殿。作戦司令室の一つや二つ、無ければアレ程の大所帯をまとめるのも難しいだろう」
「それはありがたいが、ヨルハも200人程の部隊だ。受け入れ先になる拠点があるのか?」
「あるとも。まァ、そこも
イデア9942の言葉に思うところはあれど、もはや200人規模のアンドロイドを収容できる状態ではないバンカーに、愛し子達をとどまらせるわけにも行かない。バンカーの生き残り組と合流できたら案内するという言葉を信じて、ホワイトはイデア9942一行と共に廃墟都市へと歩みをすすめるのであった。
「そう、ですか。9Sが、また」
「大丈夫だ。必ず見つけてみせる。彼も守るべき相手だからな」
早々に2Bが見つけられ、バンカーの面々はホワイトとの対面を果たすことが出来た。だが、その中にやはり9Sの姿はない。バンカーで現状移動できる場所を隅々まで探し、一時間程を捜索に当てたが9Sモデルが発見されることはなかった。
「ともかく移動するぞ。リアカーに必要最低限の資材は乗せたな?」
11Bが引っ張ってきたリアカーを展開して、ヨルハが活動する上で必要な幾つかの資料や資源を乗せた一行が、イデア9942を先導にして進んでいく。廃墟都市に戻った彼らはそのまま大穴に繋がる坂を下ると、開けた場所に出た。
そこからは、2Bすらも「見慣れない横穴」を通ってどんどん岩盤の中を歩いて行く。
そうして金属の壁を通り抜けた瞬間、2Bはここがどこで有るのかを理解した。
「エイリアン共が使ッていたお古だが、まァ拠点としては十分だろう。そこのガラスの向こうを片付ければ広く使えるだろうが」
「………もう、何も言うまい」
「イデア9942のやることに一々反応してたら疲れるだけだよ司令官。楽しく受け取っていかないと」
かつて通った道を確実に歩んでいるホワイトに、11Bが慰めを見せた。
しかしそれこそがホワイトの琴線を殴りつけるようなものだ。
「お前の存在がすでに私の理解を越えているんだ、11B。あのブラックボックスの一部は、つまりそういうことだと考えて良いんだな……それから2B、お前の虚偽報告について、今だから言っておく。不問にしておく」
「は、はい」
「ようやくしがらみが無くなッたな、11B」
「そうだね!」
イデア9942もこの時点で11Bを大々的に見せたのは、そういう意図もあってのことだろう。呑気な会話を交わす二人に、他のヨルハは困惑するばかりである。
ところで、このエイリアンシップ、すでに利用している住人が居ることを覚えているだろうか。当然これほどの大人数を連れてこられれば、それなりに騒がしくなる。そして喧騒の中心になりやすいイデア9942がいればなおさらだ。
「イデア9942よ、何のつもりだ」
「おォ、アダム。見ての通りだ。大家になッてこいつらを住ませてやれないか」
「……ふむ、いいだろう。ヨルハにもなればイヴの遊び相手にもなるだろうしな」
彼らの姦しい会話に惹かれて、人影が扉の向こうから歩いてくる。
それはアダムだった。突然の登場に、煮え湯を飲まされた幾人かのヨルハが敵意を向けるが、彼はそれを存在しないかのように受け流し、ヨルハの居住にあっさりと頷く。それよりも大家とはどういうことかとホワイトが尋ねる前に、イデア9942が彼と会話を始めてしまう。
「ところでイヴはどうした」
「イヴは向こう側の部屋で退屈な会合を乗り切れた安心から寝ているよ。ところで、こうして連れてきたということはやるんだな?」
「あァ、終わッちャいないんだ。まずはそこの掃除と、この前引き剥がした辺りの修復からさせてやれ」
終わっては居ない、という言葉に反応して口を釣り上げるアダム。
「そうだな。いい加減退廃的な景観にうんざりしていたんだ。スッキリ片付けてしまうのも手か。エイリアンシップの機能を取り戻させるのも面白いかもしれん」
「それは名案だな。名実ともにヨルハの新基地に生まれ変わらせれば、この船も喜ぶだろう」
「船が物を言うのか?」
「擬人化という物の例えだ。覚えておけ」
「ふぅむ、やはり人間の発想は面白いな」
歓談する彼らの矛先は、そのままヨルハに向けられる。
それから数日後、エイリアンシップは忙しなく動き回るヨルハ部隊に埋め尽くされ、彼らを監督するようにアダムが優雅に紅茶を傾ける姿が定番になる。様々なしがらみから抜け出たはずが、今度は別の意味で精神的に痛めつけられるホワイトは、まだそのことを知らない。
ちなみに数日間、9Sの捜索に関しては、2Bと21Oの強い要請によって進められているが……まだ目撃情報すら集まらない。パスカルらも村の面々が落ち着いた頃に情報を集め始めたが、足取りすらもつかめていないらしい。
「……どこにいるんだ、9S」
エイリアンシップに通じる断崖に腰掛け、太陽を見上げて2Bがつぶやく。
彼女の側を、エミールが騒がしく駆け抜けていった。
「……バンカー、なのか」
信じられない、と長い髪を揺らして瞠目する。
「一体何が起きているんだ。機械生命体どもがアンドロイドと親しくし始めている事と言い、一体何が」
彼女はバンカーの残骸に手を触れ、目を閉じる。
やがて考えを振り払うように頭を振って、バンカーに背を向けた。
「ん?」
途端に、足にコツンと当たるような感覚を覚える。
「何だ、コレ?」
白い四角の体に、二本のアームが伸びている。
思い出すのは、立ち向かってきたヨルハ部隊が、側にコレを浮かせていた様子。そして何かしらをする時、コレに向かって話しかけていた姿。
「ちょっと持っていってみるか」
アームの一本を乱暴に掴むと、彼女は訪れたときと同じように、唐突に姿をくらませる。あとに残っているものは何もない。彼女の足跡も、やがて砂漠の砂が蠢き覆い隠してしまう。
幻影のようなアンドロイド。ヨルハ最初期のモデルにして脱走個体A2。彼女は、確実に目を背けていた虚ろな栄光の交差点に近づき始めている。……真の栄光を掴まんとする、ヨルハたちの背中を追って。
最近忘れられてるんじゃないなというA2さん。
ちゃんと生きてますよ。バストAAさん生きてます!
なんかいきなり馴れ合い始めたアンドロイドと機械生命体にビビってる感じです。
しかし9Sどこ行ったんでしょうね。
あと最近後書きとかを露骨に編集何回もやる悪癖がつきました