イデア9942 彼は如何にして命を語るか   作:M002

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遅れました
決して3000円以下になってたdlc同梱ブラッドボーンをやっていたわけじゃないです


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「え? 僕のお家ですか?」

「そう。正確には、家がある地下深くに通じるルートを教えて欲しい」

 

 アネモネたちから情報を受け取った2Bたちは、早速あたりを爆走していたエミールにレーザーを浴びせ転倒させると、ショップの素材を買い占めがてら、彼の暮らしているという場所の情報を得ようとしていた。

 エミールは最初、少し悩んでいるようだったが、やがて決心したように2Bたちに視線を合わせ、言葉を紡ぎ出した。

 

「そうですね、2Bさんたちなら大丈夫かも……? えっと、ご案内しますよ」

「助かるよ」

「でも、まだもてなしの準備はできてないので僕の家には入らないでくださいね! さぁって、今日はこれで店じまいだぁ!」

 

 張り切っているエミールに反し、9Sたちは苦笑を零した。なぜ彼らが笑っているのか分からないエミールは、とぼけたようにえぇっと呻く。

 

 それから、彼の案内についていく事数分。エンゲルスの自爆により出現した、廃墟都市の断層の部分で、彼は突然、むき出しになった大きな水道管の中へと飛び込んでいった。慌ててポッドに捕まり、空を滑空してついていった彼らは、その水道管の一部が改造され、エレベーターになっている場所を発見する。

 

「こんな場所があったなんて……」

「衛星じゃ絶対にわかりませんね。そもそも水が流れ続ける配管の中へ行く理由もありませんし」

「えへへ、自慢の秘密基地なんですよ!」

 

 エレベーターのボタンの脇には、エミールが待ってましたと言わんばかりに、車体のエンジンで振動しながら此方を見ている。彼は自慢げに続けた。

 

「さぁ、ここからだとすぐですよ! ただ、少し奥の方まで行くと更に深いとこまで舗装された道無しで降りていくことになりますから、お気をつけて!」

「エミールは、これ以上行かないの?」

 

 セリフの直後、逆を向いて発進しようとしたエミールを2Bが呼び止める。

 少し顔をこちらに覗かせ、彼は答えた。

 

「はい! 2Bさんたちにいっぱい買ってもらったので、別の倉庫に在庫確認へ行ってきます。あと、くれぐれも! 僕のお家には向かわないでくださいね?」

「わ、わかってるって……」

 

 エミールは可愛らしい声でがるるるるーと威嚇するように言うが、こうも念を押されると暴きたくなるのがスキャナーモデルの宿命。表面上はおくびにも出さないが、9Sの中ではそうまでして隠したいというエミールの住処を暴いてやろうという気持ちが強くなっていた。

 対して、2Bはすぐに任務を済ませてしまおうと考えて、すぐにエレベーターの横の方へと向かっていく。ピッ、とボタンを押すと、すぐに下の方から移動してきたエレベーターが扉を開いて迎え入れる準備を終わらせていた。

 

「行くよ、9S」

 

 それからしばらくして、遥か地下へと降りていく通路で何体かの敵性機械生命体の襲撃を受けながらも、難なくそれらをいなして2Bたちは目的の場所を目指してゆっくりと進んでいた。

 

『今回探してもらう素材は、この先の洞窟の壁に埋まっているであろう鉱石です。希少な素材なので中々見つからないんですけど』

 

 今回は通信状況も安定していたのか、6Oからのオペレート、もとい雑談が2Bたちにもたらされていた。だが彼女もオペレータータイプのヨルハ機体。そうした雑談の合間に的確な敵性反応への指示や、ルートの確保などをきちんと行っている。

 そうしていつも以上に快適な道中を過ごしている中で、6Oの話が続いていく。

 

『やっぱり! 近づいてきてから、どんどん反応が多くなってきました。ここだと安定して供給できるみたいですね。延々と取り続けても、400年は困らないかもしれません! ……尤も、その頃には私達もお役御免になってるかもしれないですけど』

「…そうだね。パスカルやキェルケゴール、そしていまはアダムたちも。力を持った機械生命体達は、多くがアンドロイド達といい関係を保とうとしている。だから、この戦争が終わるのも……私達ヨルハの時代で見られるかもしれない」

 

 どこか遠くを見つめながら、2Bはらしくなく、饒舌に6Oに言葉を返した。ここ最近はよくあることだが、こうして2Bがしっかりと6Oに返事をするというのは、6Oにとって嬉しいことでもある。

 だから、いつもの元気そうな声に、喜色を交えて言葉を返し、そうしてまた雑談が増えていくのである。同時に、オペレート後の司令官からのおしかりも増えるが。

 

『はい! 鉱石が採掘できれば、悪い機械生命体たちを懲らしめるため、また一歩を進むことが可能、です! ……あ、2Bさん、そのあたりが一番強い反応があります。少し壁を削ってもらっても良いですか?』

「わかった。9Sはそっちからお願い」

「了解でっす!」

 

 2Bは指でコンコン、とノックするように壁を叩くと、何かを確かめるように何度か壁を擦る。一度頷いた彼女は、背中に仕舞い込んでいた大剣「白の約定」を両手で握った。

 

「オオォォォォアッ!」

 

 気合一閃。

 ゴツゴツとしていた壁に大剣が当たり、切れるというよりも、崩れるという形で結果が伴った。パラパラと崩れ落ちた岸壁の向こうには、不思議な色に発光する幾つかの鉱石の姿が見て取れる。

 その隣では9Sも槍を思いっきり壁に突き刺し、引き抜くと同時にその場所をまるごとえぐり取っていた。穴が空いた場所を覗き込むようにしていた9Sは、おもむろに左手を穴の中に突っ込み、何かを握りながら引き抜いた。

 

「オペレーターさん、鑑定してもらっていいですか」

『ただちに……はい、これが目的の鉱石です! 純度も申し分ありません、それを規定量採集した後、バンカーに射出してください』

「りょーかい。2Bは、どのくらい持てそうですか?」

「そのために、ポッドの格納領域を空けておいたから。採掘したものはこっちにお願い」

 

 ピッケルを使うのが鉱石採集の常かもしれないが、アンドロイドは格が違った。ポッドの演算予想と、プログラミング通りに動く腕は、ただの武器でも立派な採掘道具に変身させる。

 着実に規定量を採掘した彼女らは、ポッドの格納領域に鉱石の原石が吸収されていくのを見届け、任務の完了報告をバンカーに送った。あとは資材コンテナに詰め込み、いつもどおりロケットで打ち上げるだけだ。

 

「結構あっけなく終わりましたね」

「不測の事態は無いのが一番いい」

「それもそうですけど……ところで2B、物は相談なんですが」

 

 9Sが自然な流れ(?)を装い、2Bに自分の願望を伝えようとしたのだが、その口は開くことすら出来なかった。

 

「エミールの家なら行かないよ。すぐにバンカーに戻るから」

 

 2Bにとって、9Sの考えなどお見通しだ。長いことずっと、ずっと一緒に居る仲。そしてエミールにあんなことを言われてしまえば、9Sが家の探索をしようと言い始めるのは分かっていた。

 だが、エミール本人が嫌だと言っているのに、それを実行するような性根は2Bが持ち合わせているはずもない。ある意味、どこまでも素直で純真な2Bの言葉に、9Sが逆らえるはずもなく、

 

「うっ……は、はい……」

「また今度、きちんと招待されたときに行こう」

 

 すれ違いざま、肩をポンと叩き、2Bはもと来た道を戻り始めた。

 9Sはしばらく叩かれた場所を確かめるように擦っていたが、それもそうですね、と知的好奇心を押さえ込み、笑みをこぼす。機械生命体に対して有利に立てるという大局を見据えたバンカーへの帰還を優先事項に切り替えたらしい。

 

『レジスタンスキャンプからの資材打ち上げは2日後ですね。お二人がバンカーに戻られたら、また自由行動だそうですよ!』

「……また?」

『はい、なんだか最近、ヨルハの地上実行部隊の大半に自由行動というか、機械生命体の施設への出撃命令が減ってきているのですよ。司令官は一体何を考えているんでしょうか……私、気になります!』

「実行部隊の、休暇が増えている?」

 

 話を傍で聞いていた9Sが、その言葉に疑問を抱く。

 普段ヨルハというのは、その圧倒的な運動性能や攻撃力などを見据え、単身または分隊程度で作戦に当たり、忙しなく各地を駆け巡っているという立ち位置である。最新型の戦闘用アンドロイドとしての有用性は言うまでもない。

 それでも、超大型機械生命体(グリューン)の超大規模大出力EMP攻撃を浴びればいくら最新鋭といえどもアンドロイドの宿命として機能停止に陥ってしまうが、そうして撃墜されたとしてもバンカーにバックアップデータが残っていれば、最後にアップロードされた状態から復活が可能だ。

 

 ある意味、壊れても動き続ける立派な人形といってもいいだろう。そうして有用な働く人形に、休み続ける暇など無いのは誰もが分かっている事実。だが最近はそうした常識が崩れつつあるというのだ。

 

『あとあと、ここだけの話なんですが……私達オペレーターモデルにも休養と地上への降下許可が出そうなんです』

「オペレーターモデルが!?」

『しーっ! 声が大きいですってば!』

 

 ウィンドウの中で、慌てて周りを見わたす6O。

 直後に安堵したように胸を抑えて、息を吐く。

 

『はぁ……なんだか、ヨルハがヨルハとして機能しなくなってきてるんですよね。それどころか、他のアンドロイド達みたいにある程度自由というか何ていうか……あぁもう、こんなこと初めてだからなんて言ったら良いのか……』

 

 思案している6Oの姿というのは、それなりに珍しいものだ。普段は明るく振舞い、いざという時は真剣にオペレートし、上からの指示を着実にこなしていく有能なオペレーター。それが2Bの見てきた6Oという姿。

 そんな彼女が、自分たちに降り掛かってきた問題で頭を捻って悩んでいる。そんな姿に何を思ったのか、2Bは軽くなった心と共に、口からついて出た言葉を止められなかった。

 

「…6O」

『どうしました? 2Bさん』

「もし地上に降りることになったら……景色のきれいなところを案内する」

『とっ……』

「6O?」

 

 さすがに失言だったか、と2Bは不安そうに聞き返す。

 しばらく目を見開いて固まっていた6Oだったが、そのうちにワナワナと震え始めて。

 

『や、約束ですよッ! 絶対に約束ですからね!!』

「し、6O? どうし――」

『あぁーんもう! 2Bさんの貴重なデレが私に炸裂するなんて思ってもみませんでした!! 今の言葉、しっかりとバンカーのデータベースに保管させていただきましたからね!! 私と! 二人っきりで! デートしましょう! 2Bさん!』

 

 まくし立てるように喋る6Oは、誰がどう見ても興奮していた。

 そのうちに周りのオペレーターから白い目で見られたのだろうか、画面の向こうの彼女は「うっ」と周りに頭を下げながら席につき、通信を閉じる。

 

「……どうしたんだろう、6O」

「ほんと2Bは無自覚というか……まぁそこが魅力的なんだけど」

 

 一方的にまくしたてられ、通信を切られて困惑する2B。そんな彼女に9Sは、呆れたように笑みを浮かべた。

 

「とりあえず、レジスタンスキャンプに戻りましょう」

「ナインズ、今のは、どういうことか分かってるの?」

「ええ。でも教えてあげません。2Bがそんなだから、僕も少し妬いてるんですから」

 

 人差し指でゴーグルをずらしながら、ちろりと舌を見せた9Sはそのまま振り返って走り出してしまった。

 

「妬いてるって……ナインズ、待って」

 

 理由が知りたい2Bも、彼の後を追ってもと来た道を引き返していく。

 いつかに比べると、ぎこちなさの取れた二人のやり取り。どこまでも感情を隠さないそれを、「彼」が見たらなんというだろうか。これから少し未来に、その答えは待っている。

 

 でもそのお話は、また今度。

 

 

 

 

 

「……アンドロイドの会合?」

「あぁ。君も招待されているんだ、イデア9942」

 

 いつもの資材搬入とチップの提供。

 アネモネからそんな話を振られたイデア9942は、11Bを伴ってリアカーを転がしていた手を止めた。

 

「あ、いいよ。イデア9942、あとはやっておくから」

「すまんな。……それで、詳しく聞かせてくれないか」

「機械生命体代表というか……よければパスカルも呼んで欲しいんだが」

 

 アネモネはそう言ってから、会合について説明を始めた。

 

 なんでも、ヨルハの司令官ホワイトから送られてきたメールが発端であるらしい。内容としては、機械生命体とアンドロイドの融和について、平和的な主張を持つ機械生命体らの代表と、アンドロイドの代表格を交えて話を進め、幾つかの取り決めを作りたいらしい。

 

「互いに争い、疲弊する中で人類の名残が次々に破壊されていく。そして元の形を残したデータも劣化を避けられない。修復チームも、人類会議からの決定が音沙汰なくなってから不安に駆られているが、そもそもの指令がない限りどこも手出しが出来ない状態なんだ」

「……人類の名残、か」

「あぁ。我々アンドロイドの一部はもはやソレに縋る必要も無いかもしれないが、大部分はそうじゃないんだ。我々には、寄す処が必要だ。だがその寄す処を修復したくても出来ない状態が続いて長い……もう、人類会議を待たず、我々だけである程度決定してしまっても良いのではないか、と。それがホワイトの奴の提案だ」

 

 許されるはずもないんだろうがな、と苦笑するアネモネ。まだ事実を知らされていないのだろうが、それでも薄々気づきつつあるのだろう。そして今回のホワイトの提案で、核心に近づきつつある。

 それでもアネモネは、知らないふりをしていた。それだけのことだ。

 

「……分かッた。集落としての代表パスカルと、教団としての代表キェルケゴール。そして自由を求めた人類の似姿、アダムたちにも声をかけてみるか」

「アダム、か。奴らは大丈夫なのか?」

 

 アネモネの疑問は当然のものだ。

 誕生してから短期間にも関わらず、アンドロイド側への被害はかなり大きなものだ。一時的とは言え、ネットワークを統括していた個体ということもあって反感の声も大きいだろう。

 だが、彼らはそんな言葉など気にしないだろう。何よりイデア9942は、こう考えていた。

 

「アイツラはもう、何も害をなそうとは思わんだろうさ。変わッてしまったといえばそれまでだが……少しは信じてやッてほしい。出会いはともかく、今はもう、アイツラは友のようなものだからな」

「友、か。そこまで言うなら、君の言葉を信じるとするよ」

「すまんな」

 

 言いたいことはこれだけだ、とアネモネは告げる。

 どうやら要件は本当にソレだけらしい。

 

「会合の場所については決まッたのか?」

「いいや、まずは君たちの了解が取れてからだったからな。すぐにアイツに返信のメールを送るよ。きっと返事も直ぐなはずだ」

「そうか。彼女も司令官という立場だ、忙しいだろう。しばらくはまた、ゆッくりと過ごさせてもらうとしよう」

「ここの所、君も忙しかったからな……よければ、何があったか聞かせてもらえないか?」

「この身が体験した程度のことでよければ」

 

 すっかり打ち解けた様子で、アネモネの対面にイデア9942が座った。

 そうして楽しそうに話し始める彼らの様子を、11Bがじぃ、と見つめている。

 

「よ、11Bちゃん。いいのか?」

「うん。イデア9942の浮気性は今に始まったことじゃないからね」

 

 平然とした様子だが、心の底では何かが煮えたぎっているらしい。

 それに、ついこの前手にした情報…ブラックボックスの真実が、彼女にとって余裕を与えるだけの優位性を確保できているらしい。例え他の女性型アンドロイドにイデア9942の時間が取られていても、ココロの中ではフフンと笑っているようだ。

 

「ははは…う、浮気性かぁ……随分だな」

「いいの。それよりおじさん、チップはそれだけでいいの?」

「あー。まぁちょっとした威力偵察だ、特化しすぎると欲が出ちまって、任務外のこともしちまうかもしれねぇからな」

 

 そう言って、男性アンドロイドは腰に差した大型のサーベルを手に取り、箱の上に置いていた銃を背中側に収納した。

 

「ま、部隊の奴らも同じだろうさ。ここの所戦わなくても良くなってきた。ようやくこのクソッタレな戦争が終わりそうなんだ。着実に、そして生きていかねぇとな」

「……戦争、か。終わると良いね」

「おう、実はよ、アンタのところのイデア9942っていう機械生命体。アイツにも結構期待してんだぜ。レジスタンスキャンプはアイツのお陰で大分落ち着いた。それこそ、俺達の中にも新しい生きがいを見つける奴が出てくる程度にはな」

 

 銃のメンテナンスを行いながら、男は快活に笑った。

 生きていたいのだと、笑っている。戦いが終わった後は、しばらくはそうして見つけた生きがい…彼の趣味に没頭してみたいものだと。

 

 11Bは、言われるがまま、そして自分の思うがままに過ごしてきた過去を思い出す。その中で、彼のように本当の未来を見据えたことはあっただろうか。……今に満足し、ソレでいいと。自分の居場所で過ごすことばかりを考えていた、と。思い至る。

 

「なぁ」

「…?」

「ひでぇ顔だぜ。ま、次に会う時はそんなシケた面も直しときな」

「一丁前に口説いてんじゃねえよ」

 

 その男の言葉に、ハッとしたように顔を上げる11B。だが何かを言い返す前に、彼の仲間からの野次が飛んできて言いたい言葉も引っ込んでしまう。

 

「バッキャロー、この子はアイツにお熱なのは知ってるっつうの。茶化すなよ兄弟」

「ま、そういうわけだな。俺達なんか名前も知らないし覚えちゃ居ないだろうが、まぁこういう奴らも居るって、アイツに教えておいてくれよ。もう、戦いなんか懲り懲りだからな」

 

 頼んだぞ、と。11Bの背中が軽く叩かれる。

 彼はきっと、気楽な気持ちで彼女の背中を叩いていったのだろう。

 

 だが、前へ、と。

 背中を押すような激励だったのだろう。彼らアンドロイドという、被造物の命は、それでも確かに、11Bという糸の切れた人形へ熱を残していった。

 

「どうした?」

「…ううん、何でもない」

 

 そこへ、イデア9942が帰ってくる。

 雑談を交わしながらも、会談について話がまとまったらしく、これからの予定を組み立てながら材料を採取するため明日は早いと11Bに伝えてきた。11Bは頷き、イデア9942に今回の売上を伝える。

 

 そうして、彼らはレジスタンスキャンプを後にした。

 

 

 

 

 

「ねぇ、イデア9942。ワタシも、未来に生きても良いのかな」

「……今更何を言ッてるんだ。ついにそこまでポンコツになッたか?」

「そういうのじゃなくてさ――」

 

 帰り道で、11Bは今回出会ったアンドロイドたちの言葉と、その熱に影響を受けたのだろうか。イデア9942にいつもはしないような、不安を交えた質問を浴びせてしまう。

 

 しかしそれも、いつものように茶化されたかと憤慨して見上げた時だった。

 また、彼女の頭に無骨で無機質だが、大きく優しい手が添えられる。乱暴に撫で回していった手は、最後に彼女の頭をコツンと小突いていく。

 

「失わせないんだろう。せいぜい、守ッて見せてくれ。それだけの力はすでに持ッているはずだからな」

「…ふふ、そうだね」

「だが良いぞ。そうして何度も悩んでくれ。それこそが生きるということだ」

「生きる、か。ねぇイデア9942。ワタシはちゃんと生きてるのかな?」

「勿論だとも。誰がなんと言おうと、君は生きている。間違いなく」

 

 イデア9942は、楽しそうに笑って言う。

 

「変化を容易く受け入れるだけが、楽しい生き方ではないかもしれない。時には守り続けるのだ。自分が抱いた、大切な思いを曲げないために。そのために悩み続ける。思考を続ける……素晴らしいじャないか」

 

 人間と違い、葦にはなれないかもしれない。

 それでも彼らは人を模して生きるのだ。強い体と、弱い心を以て。

 

「それにしてもだ、あと何度励ませば君は一人で歩けるんだ」

「一人でなんて歩かないから、あと何度でも」

 

 11Bの返しに戸惑いを隠せず、帽子の位置を直すイデア9942。

 ブツブツとつぶやくような声で、つい呟いてしまう。

 

「口が減らないところばかり似てしまッたか……全く」

 

 喋っていると時間が過ぎるのも早く、工房の入り口にたどり着くころには相応の時間が過ぎ去っていた。そうして一日が終わり、彼らには新しい明日が待ち受けている。

 

 誰にでも等しく訪れる、新しい明日が。

 






なんだか長くなってしまった上に、またそれっぽいことだけ書いてる内容に。
最近イチャイチャ(笑)しか書いてないな……

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