イデア9942 彼は如何にして命を語るか   作:M002

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ジャッカスのキャラがつかめない
でもジャッカス好き あの豪快さ好きぃ


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「全く、なんとかならないのかアイツは……」

 

 人類軍、アンドロイドの地上代表とも言える立場のアネモネは、レジスタンスキャンプを置く廃墟都市の騒音被害に日々頭を悩ませていた。何やら、イデア9942ともまた違う、アンドロイドにとって必須になるような素材類を売っているようだが、その速度が早すぎて誰も接触できないことと、大声で話しかけても全く気づかないということで、現在あの「自称お店」の利用者は2Bたちしかいないのが現状だ。

 

 利用できない騒音を撒き散らす店は、そのままアンドロイド達にとって集中を乱されるただの騒音被害になる。毎日毎日下手くそ極まりない歌を聞かされてしまえば、流石のアンドロイドといえどノイローゼ気味になるのは当たり前の流れであった。

 

「誰かアレを止められるか?」

「いや、無理っす。俺らのFCSじゃ照準を合わせる前に逃げられちまいますね」

「右に同じく。ロープ張って待ってもいいかも知れねぇが、その時は俺らがふっとばされちまいそうだな」

「……はぁ」

「元気だしてくださいよリーダー。この前の救出作戦上手く行ったっしょ?」

「それも、そうだがなあ」

 

 少し前、ヨルハとはまた別に、砂漠地帯を更に越えた向こう側へ遠征にいっていた遠征隊が音信不通になり、救援部隊を組んで向かわせる、という事が起こっていた。遠征隊は敵性機械生命体らの罠に掛かり、遠征先の遺跡に閉じ込められていたのだが、救援部隊はそれらの障害を乗り越え、誰ひとりとして欠けること無く救出を成し遂げていたのである。遠征隊たちの練度が高かったことも、この結果に繋がったといえる。

 

 高い練度のアンドロイドとは? 戦闘能力の強化を齎すチップ提供や、短時間での処理能力を高めるためのシステムの調整などが行われた個体を指す。つまり、これらイデア9942の恩恵を受けた彼らの士気も戦闘力も、何かと高まっていたのだ。それこそ、人類の不在をほのめかす噂が流れようとも、戦果に影響しない程度には。

 それどころか、一部のアンドロイドには「人間がいようがいまいが関係ない」と主張を始めるものもいる。そういう者に限って、パスカルたちのような友好的な機械生命体と親しい間柄を築いている事が多く、そうしたアンドロイドらが積極的に動くことで、人類軍の士気向上も図られていた。

 

「良いことも、悪いことも、同時にやってくるか。悪いことがこの程度なら喜ぶべきなんだろうなぁ」

 

 キャンピングチェアに腰掛けながら、苦笑を交えてアネモネは息を吐き出す。そのまま目を閉じれば、過去彼女が経験した苦しくも、始まりを意味する記録映像が瞼の裏に映り込む。

 

「や、お疲れモードかい?」

「ジャッカスか」

「お隣、ちょいと失礼するよ」

 

 目を閉じ、遥か遠くを見つめていたアネモネの隣にジャッカスが座る。コーヒーメーカーに水を注ぎ、豆をセットする。コポコポと音を立てはじめたそれを見つめながら、彼女はおもむろに口を開いた。

 

「戦争に進展はあったか?」

「いや、特には無いな」

「だろうね」

 

 朗らかに笑いながら、珈琲が出来上がるまで爆弾の材料を弄り始めるジャッカス。

 

「おまえまたそれ……死体から剥いできたのか」

「いいだろー? 使えるもんは使っちゃわないと損損♪」

「ヨルハの飛行ユニット回収班が、AIM-11が足りず、レジスタンスの一員が取っていくせいで修繕が遅れると苦情が来ているんだよ。少しは自重してくれないか」

 

 元々ヨルハのものが壊れたとは言え、物資を取るのは早い者勝ちだ。そこにヨルハもレジスタンスも関係はない。保管庫などにある物資を盗み出したわけでもなく、そして被害を出しているのはジャッカスだけなのでヨルハからも強くは言えないのだ。

 

「頼むから」

 

 これから書く報告メールの内容を別の思考で考えながら、疲れたようにアネモネは言うが、ジャッカスは彼女の方を見ようともせず、慣れた手つきで爆弾を作成していく。トドメにはこの一言である。

 

「そう言われてやめるとでも?」

「……だろうな。私は一応言ったからな」

「はいよ」

 

 昔からこんな関係だ。ジャッカスはひどく優秀なのは間違いないのだが、それはアネモネをして手に余ると言わんばかりの暴れ馬。豪快すぎるし、豪胆すぎる。そして何より分析能力もピカイチである。

 本当に同じアンドロイドなのかと疑うほどに人類へ敬意を持っていない事と、規律を無視した自由意志の持ち主。

 

 もし、彼女ほど自由であれたのなら、内心でアネモネがそう考えた瞬間だった。

 

「重苦しくなっちゃったカンジ?」

「……まぁ、な」

 

 己の中を見透かされたような言葉に、アネモネはなんとか返事をするしか無かった。

 

「はっはー、鬼の司令官に華のアネモネ。ヨルハと二分する程の立場になったもんなぁ。自分はゴメンだね、そんな立場」

「そうは言いつつも、かなり貢献してくれているじゃないか。きみはどういう考えで協力してるんだ?」

「何って、そりゃ同じアンドロイドだ。仲間を守ってクソみたいな機械生命体どもをぶっ潰す。それが当たり前だろう?」

 

 どこまでも優秀なくせに、ジャッカスには裏がない。そうしてざっくりと当たり前のように出された結論を聞くのは何度目だろうか。そして、それを分かっていてジャッカスもアネモネに何度も言っているのだ。

 

「仲間、か。そうだなあ」

 

 仲間という言葉を思い出して、再び外回りの任務に向かっている双子のアンドロイドを思い出す。デボルとポポル。彼女らへの当たりも、大分緩和された。それもこれもイデア9942のせいであるのだが、不和を抱えているよりはよっぽどマシだ。

 

「あの双子のことでも考えてんのかい?」

 

 そうして普段二人が座っているシートを見ていたのが気になったのか、ジャッカスが話しかけてくる。

 

「まぁな。私達に植え付けられた認識を弄ってくれたおかげで、彼女らはここだけかもしれないが……安心できる場所を作ることが出来た。それに、痛々しい姿を見ることもないしな。心を痛めた日々とも、ようやくおさらばできた。笑顔を見たのは、初めてだったよ」

「……いい話でまとめようとしてるけどねえ、アイツのこと、キライだわ」

「イデア9942か?」

「そう、そいつ」

 

 ケッ、と吐き捨てるようにジャッカスは珈琲の入ったカップを叩きつけた。

 

「何かと施しをしてるように思えるけど、アレは違うね。アイツは自分の考えてる世界しか認めず、ありとあらゆる手段を用いてでも実現させようとする自己中心的なやつだ。勝手に人の認識を弄って、勝手にズケズケと懐に入り込んで、気に食わないね! それでいて腹の中を見せようともしない」

「少し、言い過ぎじゃないか? どちらにせよ機械生命体なんだから、我々とは考え方も違ってくるだろうさ」

「あんたのその言葉が、弄くられたものじゃないって証明できたら信じてもいいんだけどね」

 

 ジャッカスからしてみれば、胡散臭い姿でしか無かったのだろう。

 主観としては全員が笑顔になれる行いをする、夢のような存在と言えるのかもしれない。だが、客観的に見ればどうだろうか。勝手に「当たり前」を改変し、我が物顔で自分たちに絡んでくる。その上、戻ってみれば突然自分以外が全く別の考え方をしているグループが出来上がっているのだ。感じるのは、うす気味の悪さと恐怖だろう。

 

「……そうだな」

 

 だがアネモネは口ではそう言いつつも、ジャッカスもちゃっかりイデア9942の恩恵を受け取っている事を知っていた。本当にレアなチップは彼女が持っていく事と、アンドロイドたちに施されたシステムの弄り方を学習し、己のものにしている事を。

 結局のところ、どっちもどっちなのである。新参者の機械生命体であるイデア9942よりも、遥か昔から居るジャッカスに対する不満を垂れ流す声の方が大きいというのもあるが。

 

 生暖かい目で彼女を見ていたアネモネは、ふいにジャッカスが作業の手を止めた瞬間を目にした。ふぅ、と小さく息を吐いたジャッカスが立ち上がる。

 

「ほら、お客さんだ」

「客? ……ああ、彼女たちか」

 

 言われて視点を移すと、見知った顔が入り口の膜をどかして入ってきた。ここ最近で交友が始まったヨルハ部隊の2Bと9Sだ。アネモネに用があるらしく、入口近くの兵士から話が出来るよう時間を開けて欲しいという連絡が入っている。

 

「こっちは持ち場に戻るよ。また何かあったらいっとくれ」

 

 ジャッカスはひらひらと手を振ると、キャンプの奥の方にある倉庫へと足を向けた。おそらく、先程作った爆弾を起爆させ、また詰まってしまった倉庫をキレイにする腹づもりだろう。空っぽのコンテナやジャンクなどで溢れているとは言え、尻拭いをするのはいつもアネモネたちレジスタンスキャンプ所属組の仕事である。

 

 そう思っている間にも、2Bたちは一歩ずつ此方に近づいてきていた。後々訪れるであろう振動と増える仕事を考えないようにしながらも、アネモネは笑顔を形作った。

 

「久しぶりだな。今日はどうしたんだ?」

「この廃墟都市について、少し聞きたいことがあって」

 

 2Bの質問には一瞬悩みつつも、周辺の地形データや報告をまとめた物を取り出していく。その後、2Bらがレジスタンスキャンプで諸用を済ませている間、アネモネは先程の不安を塗りつぶすように彼女らと話を始めた。

 

「――という事で、ここの地下空間に通じる経路を探しています。何か心当たりはありませんか?」

「うぅん…」

 

 そうして2Bたちが探している物について説明されるが、アネモネの表情は硬い。あのエイリアンシップの存在でさえ、この前初めて知ったところだ。そして地下空間についても、コンクリートの下は土で埋まっているものと考えていたため、2Bたちに大した情報をやることは出来ない。

 

 2Bらにも、随分と世話になった。聞けば、レジスタンスキャンプのメンバーが持ちかけた依頼をこなしてくれているようだし、ここは一つなんとかしてみたい、という気持ちもある。

 

 そうして脳回路を唸らせていると、一つ気になる言葉を口にしていたレジスタンスメンバーの言葉を録音したファイルに行き当たる。又聞きした程度のものだが、自動消去の日付が来る直前だったこともあり、急いでそれを拾い上げ、回路の中で再生する。

 

「……この声は…アイツか。おい、ちょっと来てくれ!」

「ん? どうしたリーダー」

 

 そうして呼んだ彼に2Bたちの経緯を説明すると、一つ頷いたレジスタンスのアンドロイドはつらつらと話し始めた。

 

「ああっと、俺も入り口を知ってるわけじゃねえってのは、まず理解してくれ」

「わかった。続きを」

「そうだな、街を走り回ってる不気味なアイツのこと知ってるか? こう、赤い車に気味の悪い顔を貼り付けた煩いヤツだが」

 

 散々ないいようだが、ここまでの特徴を持つ人物を2Bと9Sは知っていた。そしてその特徴は、この世界でただ一人、彼にしか当てはまらないだろうな、とも。そうして内心呆れた様子を隠しながら、2Bが口を開く。

 

「エミールのことか。何度かショップを使ったこともある」

「そんな名前なのかアイツ? まぁいいや、とにかくソイツの店を俺も使ったことがあるんだが、去り際にこんなことを言ってたんだよ。“ここから僕のお家、かなり深い所にあるからいつも補充が大変なんですよ”ってな」

「…深い所…エミールが暮らしている“家”が、地下にあるってこと?」

「そうか、ありがとうございます! 早速僕達で訪ねてみますね!」

「おう、最近は機械生命体共も変な動きをするやつが多い。気をつけろよ」

 

 男性アンドロイドが手を振った瞬間、軽く一礼をしたヨルハの二人はそのまま風のようにキャンプから居なくなってしまった。

 

「なんつうか、ヨルハのに持ってたイメージ、あの二人のせいで大分変わっちまうなあ」

「そうだな。それだけ、彼女らが特殊なんだろう……別の場所では、ただの殺戮機械のようだ、と恐怖を感じるものも居たらしい。今は、大分そのイメージも薄れてきたみたいだが」

 

 アネモネの言う「噂」がなくなってきた理由は、時間の経過だろう。

 ヨルハは製造されて間もない部隊だ。当初の人格データが搭載されていたとしても、そこから本当に個性を定着するまでには、機械的なぎこちなさがどうしても残る。まして、戦闘ともなれば命がけだ。表情も感情も見えなくなるのは仕方のないことだろう。

 

「……戦闘、専用のアンドロイドか」

「アネモネさん?」

「いや、何でもない。それより持ち場に戻れ。まだ弾薬の整理してないんだろう?」

「うぃーっす」

 

 その巨漢に違わぬパワーで弾薬の入った箱を持ち上げ、倉庫側に消えていく男性アンドロイド。その姿を見送ったアネモネは、次回開催予定の「グラビティボール」の訓練を考えようとモニターに顔を向けた。

 その瞬間だ。

 

「…メールか」

 

 彼女のもとに、一通のメールが届く。

 差出人は、彼女の古くよりの友人、現ヨルハ部隊総司令官であるホワイトからであった。

 





何故かアネモネさんをメインにした視点だった。
そして時間あけすぎて大分忘れてきてる感

すみませぬ すみませぬ
全ては休みが少ない上に残業つけてくれない会社ってやつのせいなんだ

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