イデア9942 彼は如何にして命を語るか 作:M002
ソッチのほうが書くのに集中できるってのと、疲労があんまりないので。
というわけでイデア9942たちの視点です。
どうぞ。
※頭働かなくて致命的な誤字してたのを修正
一体どこまで続くのか。
回廊操作をされてるとしか思えないほど、長く続く通路。
機械生命体の集合意識は、イデア9942が言葉とともに相手へと訴えかけた
そのうちパラドックス自体を考えないようにする、という案もでるはずだ。アレは人間の思考を参考にしている。なら無駄を突き詰める人間らしい一面を新たに与えることになるが…イデア9942にとってその程度は想像の範囲内だ。
「目下の目標はここからの脱出だが」
イデア9942は電脳戦でこそ最高クラスだが、こうした現実における問題解決能力において、現状役立てることはもう何もない。四肢をもぎ取られ、5キロ程度の廃材を持ち上げる力しか無い2本の補助アームが残った鉄塊。それが今のイデア9942の姿だからだ。
7Eも彼の言葉を受け、見回しているがどうにもならないと首を振る。
先程からずっと続いている無機質すぎる真っ白な空間。そしてまっすぐな一本道。地上で歩くしか無い彼らには、そこをまっすぐと進む以外に道はもう無いのだ。それが出口に繋がっているのか、全くわからないまま。
「難しいわね。ちょっとこの辺り、11Sが接続できそうなポートが無いわ。時折出始めた機械生命体たちも、ここにつながってる様子はないし」
「……そう、ですねー」
「ちょっと、11S?」
イデア9942を背負っていた11Sが、少し億劫な様子で言葉を発している。7Eが異常に気づいてみれば、彼の瞼は閉じられようとしている。
「イデア9942、11Sが」
「あァ、ちョッと診る」
「すいませんー……」
11Sに自分を下ろさせ、イデア9942はサブアームを義体の人工皮膚の間に当てる。そのままハッキングを介して彼の状態を見てみると、単純なことだった。11Sの動力源であるブラックボックス。それに供給される燃料自体が減少していたのだ。
「燃料不足だ。次に機械生命体が出たら、そいつらから拝借しよう」
「できるの?」
「あァ、この身が機械生命体でよかッたな。意識的にそういう機構でアンドロイド用に燃料を作れるよう改造しておこう。なァに、しばらくはただの足手まといだ。君たちはよく喋る燃料タンクを背負ッていると思ッてもらえばいい」
「……なんていうか、貴方と話してるとウィットが強すぎて調子狂うわね。そんな状態になって、何とも思わないの?」
「さて、な。生憎と痛覚神経は切ッてある。それ以前に君たちヨルハが、たかが機械生命体に感情移入しても良いのか。ただの敵性個体を切れなくなるぞ」
「アンタはどんだけ特別か、思い知らされてるからなんともないわ」
7Eの言葉に、クッとノイズ混じりの苦笑を返すイデア9942。
ズレた帽子を直した彼は、彼女らと語らいながらも、やはりヨルハは不安定で何も知れない無垢な子供のようだと感じていた。
ときに、11Sの問題だが、いくらアンドロイドと言っても、ブラックボックスが最高効率の動力炉だとしても、添加する燃料がなければ生きられない。この世に永久機関などなく、あの機械生命体の集合意識、「N2」ですらネットワークが崩壊すれば存在を維持できなくなる。
それ以前に、ヨルハ機体らはどこか「人間くさい」設計をされている。ほくろや少年・女性のはっきりとした区別、そして髪の毛が伸びたり、疑似血液の他にも体液がいくつか。脳回路には人間らしいものを与えられながら、これまた人間らしく「節制」を規律とした部隊意識。
「子供なんぞいなかッたが、まさか機械になッてまで子育ての機会に恵まれるとはなァ」
「どうしたの?」
小さく呟いたつもりだったが、彼の発音がしっかりしていたからだろう。人間より遥かに優れた集音性で言葉を幾つか拾われたらしい。イデア9942は誤魔化すようにサブアームで帽子を深くかぶり、首を振ってみせる。
「いいや、ただの独り言だ。それより7E、しばらく休憩と行こう。たッた今機構の構築が終わッたのでな、この身の燃料を幾らか11Sに分け与える」
「燃料を分けるって……貴方はどうするのよ?」
「問題ない。電子回路を動かすだけならバッテリーで事足りる。その代わり」
「……何?」
「いや、簡単なことだ。必ず脱出してほしいだけだな。こんな生の息吹も感じられない場所、この身にはまッぴらゴメンだ」
「そうね、ええ、約束するわ」
11Sをうつ伏せにし、7Eが彼の上着を取っ払う。
イデア9942のサブアームが11Sの人工皮膚を切り裂き、下に見えた複雑な機構の扉を開くと、11Sの内部構造が丸見えになる。その細い一部にイデア9942の断面から管が伸び、鼻を突くような匂いを発する燃料が注ぎ込まれた。
「……心底、便利だなこの体は」
最後の作動分に、ほんのちょっぴり自分の燃料を残して、管をしまう。
とはいえ自分も満タンとは言えない量であるし、変換したせいで更に11Sの取り分は少なくなった。稼働してもせいぜいが4時間だろう。戦闘になれば半分以下に稼働時間は落ちる。
それに、燃料の直接補給は初めてだ。上手いこと稼働するかどうか、多少メンテナンスを行わなければならない。敵地である以上、これ以上は油断出来ないが。
「ひとつ、質問してもいいかしら」
周囲の敵反応を伺っていた7Eだった。彼女は口元を「への字」に曲げながら、理解できないといった風に首を振る。
「なんだ、7E君」
「あなたは、アダムやイヴみたいに人間に近い義体を作らないの? せめてスキャナーモデル並みに動ける身体を持てば、きっと今みたいにならなくても済んだかもしれないのに」
今みたいに、というのはイデア9942の無様な姿を指すのだろう。
両手両足は破損し、代わりに通信増幅器の材料になっている。中型の分厚い装甲板はところどころ剥がれ落ち、内部構造が見えるほどに損傷、断面からは常に火花が散っていて、誰かに背負ってもらわなければ身動きが取れない。
戦闘に秀でた義体に彼の回路が収まれば、それはもう無敵の存在になるだろう。集合意識をも黙らせる優秀に過ぎる情報処理能力は、多数の映像処理・複雑な命令系統・攻撃や動作に対する指示を同時に実現させるのも難しくはない。いや、彼ならば片手間程度にそれらをこなせる。
だが、そんな体を作らず、少なくとも外見は製造されたままの姿。内面の強化も駆動系を少し滑らかに動けるようにした程度。一般的な機械生命体と違う点は、その繊維で出来た帽子とマフラーをしているだけ。
単純に、「効率的ではない」彼の姿に、多くのアンドロイドが持つ疑問。だが、彼を知れば決してしないであろう質問を、7Eは投げかけたのだ。
「…そうだな」
懐かしそうに、彼はカメラアイを瞬かせる。視線は遥か上へ。いや、その虚空すらも貫く次元の向こう側を見据えている。こうして自分たちの生きる世界を、薄い画面一枚隔てて見ていた向こう側。今となっては、絶対に干渉できない頑強に過ぎる壁の向こうを見ている。
「感傷と、それから決別だ」
ほんのすこし思案した挙句、彼はそう答えた。
「君たちヨルハに全ては伝えられない。だが、一つだけ言えることがある」
ヨルハだから答えられない、とはどういうことだろう。
7Eが訝しんでいる間に、彼は感傷に浸ったままに言う。
「生まれ持ッた体を大事にしたいんだ。それに、この姿を好きだと言う騒がしいやつがいる。だから、これでいいんだ。この身が後ろで、あいつが前。それでいいんだ」
今頃何をしているんだろうな、と。探してくれているんだろうな、と。彼女のことを思い出す。イデア9942にとって、もはや居なくてはならない存在になってしまった、11B。最初は単純に、戦力の増強のために引き入れたつもりだった。
それがどうだ。結局自分は人間の感性を捨てられなかった。彼女は家族にも近い、愛しく大事な相手になり、11Bもまた、自分を案じてくれる最高の相棒になった。そしてこの体だからこそ、この関係が始まり、この関係が続いている。
11Bだけじゃない。パスカルや、アネモネ。そしていまはヨルハの2Bたち。いずれも機械生命体として普遍的ながらも、自分であることを主張するようになったこの姿だからこそ。
姿に頓着するなんて、考えられなかった昔と違う。今はもう、この姿でないとだめだ。この少しばかり不便で、誰をも優しく抱きかかえられる大きさで、固く冷たいこの体じゃないと、だめなんだと。
隠し事には帽子で目を隠し、気合を入れるならマフラーを締め直し、そんな癖が染み付いたこの姿。中型二脚の量産型機械生命体。人間にも似て、最も遠いこの姿が。
「感情、豊かですねー……ほんと、羨ましいよ」
「起きたか。異常は無いかな」
「いえいえ、純度の高い燃料ですし、むしろ半端な安物を入れてた以前よりもマシです。今度司令官に燃料問題を進言しないとですねー」
ブツクサと文句を垂れながらも、11Sが起き上がる。
本当は彼に聞きたいことがあった。感傷の部分には分かるところがあるが、決別とは何からを意味しているのだとか、後に語った彼女とは一体誰のことなのかとか。だが、11Sはそれを聞かない。
今も自分たちを救ってくれているイデア9942。そんな彼に失礼な真似はできない、と。それに、いつか話してくれるだろう、そんな予感もある。だから11Sは、話をしているときに「スリープモードになっていた」体を装って、深くは聞かなかった。
7Eも同じだ。むしろ11Sよりも、今の答えだけで納得している。彼女はスキャナーモデルほど深く考えず、バトラーモデルほど確固たる意思を持たない。ただ、小さな理由ひとつで納得し、即座に行動できる。だから、彼の答えの一つだけで、いいのだ。
「それに、今起きてちょうど良かったかもしれないわ。ほら、お客さんよ」
「え?」
「ほう……」
7Eが言うと、見づらいが、世界の端から真っ白な道がもう一本、彼らの隣に伸び始めた。それの正体は「白いキューブ」がいくつも重なって、道のようになっていく姿。いくらか間を置いて、カタカタというキューブの擦れ合う音とは別に、カツカツとヒールの硬質な音が響いてくる。
その音の発信源には、黒色の粒が2つ。
段々と大きくなってくる世界の異物のような二つの影は、徐々に彼らの視界ではっきりとした像を結んでいく。
「やっと見つけましたよ! 大丈夫ですか11S、7E……って!?」
「イデア9942!? どうしてそんな」
「やはり君たちだったか。2B、9S。そして――」
もう電力だけで動いているイデア9942の声は、いつもよりも電子音らしく響いたものだった。そして何より面白いのが、今の状況だ。2Bらはイデア9942の状態に驚き、対して7Eらも二人の方を見て瞠目し、口を開いていた。
11Sと7Eが驚いた、その正体とは。
「君とははじめましてだな、イヴ君」
「ん、ハジメマシテ。……これでいいんだっけ、兄ちゃん居ないからわかんねーや」
キューブを己の手足のように弄ぶ、イヴの姿がそこにあった。
イヴがいつ合流したのか
ちなみに描写しないのでここで説明。
2Bと9Sのイチャコラ発見
↓
とりあえず機会あるまでキューブの足場に座って待つ
足ブラブラさせながら
↓
話長い なんかすごい会話してる
↓
え、あいつら…口と口って本の…
↓
話し、終わったか?
って感じでぶっきらぼうに話しかけてきた感じです。
2Bと9Sはめっちゃ恥ずかしそうにゴーグル付け直してイヴに向き合います。
頬は真っ赤でした